マンション管理士

マンション大規模修繕の発注方式はどう選ぶ? 設計監理方式・責任施工方式・CM方式を管理組合目線で比較

大規模修繕を任されたものの、設計監理方式と責任施工方式の違いが分からず、CM方式まで出てくると判断に迷う。そんな理事長や理事、修繕委員に向けて、方式の優劣ではなく「自分たちの管理組合に合うか」を見極めるための判断軸を整理します。

TABLE OF CONTENTS
目次

大規模修繕では施工会社を選ぶ前に発注方式を決める

「そろそろ大規模修繕の準備を始めましょう」と管理会社から言われると、理事会では施工会社の話から始まりやすいものです。どこから見積もりを取るのか、管理会社の紹介先でよいのか、もっと安い会社があるのではないかと、話題は自然に会社選びへ向かうでしょう。

それは無理もありません。実際に足場を組み、外壁を補修し、防水工事を行うのは施工会社だからです。しかし、大規模修繕では施工会社を決めるより先に「誰が工事内容を決め、誰が金額を確かめ、誰が施工を確認するのか」を整理する必要があります。

この役割分担を決める仕組みが発注方式です。

初めて理事を務めていると、「そこまで管理組合が考えるのか」と戸惑うかもしれません。仕事が終わったあとの夜の理事会で専門用語が飛び交い、「数千万円という大金を扱うのに、自分たち素人の判断で本当に大丈夫なのだろうか」とプレッシャーに胸が締め付けられることもあるでしょう。それでも、施工会社の名前や見積総額だけを比べても、それが適切な内容なのかを見極める十分な判断材料にはなりません。

国土交通省は、マンションの大規模修繕では管理組合が発注者になる一方、発注や工事監理に関するノウハウを必ずしも持っていないことを課題として整理しています。また、工事発注では事業者選定の透明性を確保し、利益相反にも注意する必要があると示しています。

たとえば、まだ発注方式が決まっていない段階で三つの施工会社から見積もりを取ったとします。一社は屋上防水を全面改修として計上し、別の会社は部分補修を提案し、さらに別の会社では保証年数が異なっていれば、金額だけを横に並べても正確には比べられません。

そこで一度、自分たちの理事会を振り返ります。

建物の劣化状況を判断できる人はいるでしょうか。施工会社から追加工事を提案されたとき、その必要性を別の立場から確かめられるでしょうか。また、数十ページに及ぶ見積書や仕様書を読み込む時間を確保できるでしょうか。

答えに迷ったとしても問題ではありません。

むしろ「自分たちだけでは判断しにくい部分がある」と分かることが、発注方式を考える出発点になります。最初に必要なのは優秀な施工会社を探すことではなく、自分たちに足りない機能を見つけることではないでしょうか。

マンション大規模修繕の主な発注方式

マンション大規模修繕で比較される代表的な発注方式には、設計監理方式、責任施工方式、CM方式があります。

住宅金融支援機構の「大規模修繕の手引き」でも、この三つが主な発注方式として整理されています。同資料では、それぞれに異なるメリットとデメリットがあるため、管理組合で議論して決めることが示されています。

  • 設計監理方式:設計や工事監理を担う専門家(設計コンサルタント)と、工事を行う施工会社を分けます。
  • 責任施工方式:施工会社や管理会社などへ、調査診断から設計、施工までをまとめて依頼します。
  • CM方式:CMRと呼ばれる専門家が発注者(管理組合)の側に立ち、設計、発注、施工、品質、工程、コストなどを横断的に支援します。

ここで注意したいのは、方式の名前だけでは実際の体制まで分からないことです。同じ設計監理方式でも、施工会社選定まで支援する契約と、設計と工事監理だけを行う契約では管理組合の仕事量が変わります。

責任施工方式についても同様でしょう。

施工会社へ広い範囲を任せながら、重要な見積変更だけ外部専門家へ確認してもらう運用も考えられます。つまり、発注方式は三つの箱から一つを選んで終わるものではなく、その箱の中で誰が何を担当するかまで決めて初めて意味を持つのです。

主な発注方式3つの体制比較 主な発注方式3つの体制比較 設計監理方式 管理組合(発注者) 設計コンサルタント 施工会社 設計・監理と施工を 分離して依頼 責任施工方式 管理組合(発注者) 施工会社/管理会社 調査・設計・施工を 同一会社へ一括依頼 CM方式 管理組合(発注者) CMR(マネジャー) 設計・施工者等 CMRが発注者側で 全体を横断支援
発注方式は三つの箱から一つを選んで終わるものではなく、その箱の中で誰が何を担当するかまで決めて初めて意味を持つのです。

自分たちの管理組合に合う方式を選ぶ「5つの判断軸」

「どの方式が一番いいのか」という問いの前に、自分たちの管理組合が何を重視しているのかを整理することが大切です。方式ごとの詳細を見る前に、まずは判断の基準となる「5つの軸」を共有しておきましょう。

  1. 費用:コンサルタントやCMRへの独立した報酬を支払うか、工事費用に含めるか。
  2. 透明性:事業者選定や追加工事の査定について、客観的な記録や比較ができる状態をつくれるか。
  3. 管理組合の手間:夜間の理事会や資料の読み込みなど、理事や修繕委員が割ける時間と体力があるか。
  4. 専門性:建物の劣化判断や見積書の精査、施工品質の確認を自前で行えるか、外部に頼るか。
  5. チェック体制:施工会社とは別の客観的な立場から工事を監視する機能をどう組み込むか。

この5つの軸の中で、自分たちが「専門性と透明性を最優先したい」のか、「理事会の負担軽減を最優先にしつつ最小限のチェックを残したい」のかによって、選ぶべき発注方式の答えは変わってきます。

この軸を心に置きながら、それぞれの方式の特徴を見ていきましょう。

発注方式と施工会社の選定方法は分けて考える

大規模修繕の話し合いでは「発注方式」と「業者の選び方」が混ざることがあります。

たとえば「複数社から見積もりを取るので設計監理方式にしましょう」という話が出るかもしれません。しかし、複数社から見積もりを取ることは選定方法(競争見積り)の話であり、設計監理方式そのものを意味するわけではありません。

発注方式は、設計、施工、工事監理などを誰が担うかという体制の問題です。一方、見積合わせや公募、プロポーザルなどは、候補となる会社をどのような手続きと基準で選ぶかという問題になります。

国土交通省の実態調査でも、管理組合からの発注方法と、設計コンサルタントなどの発注先を選ぶ方法は別の項目として整理されています。

この二つを分けて考えると、理事会の議論はずっと整理しやすくなります。

たとえば責任施工方式を採用しながら、複数の施工会社へ同じ条件を示して提案を求める方法も考えられるでしょう。反対に設計監理方式を選んでも、施工会社候補が事実上限られていれば、競争性が十分に働かないという可能性があります。

「何方式にするか」と「どう会社を選ぶか」は別々に決める。

この区別を最初に共有しておくと、方式の名称だけに引っ張られず、管理組合が必要とする体制を組み立てやすくなります。

体制(発注方式)と手続き(選定方法)の分離 体制(発注方式)と手続き(選定方法)の分離 発注方式【体制】 誰がどの役割を担うか • 設計監理方式 • 責任施工方式 • CM方式 選定方法【手続き】 候補会社をどう決めるか • 競争見積り / 公募 • プロポーザル • 特命随意契約 体制(誰がやるか)と手続き(どう選ぶか)を別々に整理すると議論が明確になる
「何方式にするか」と「どう会社を選ぶか」は別々に決める。

設計監理方式とは

設計監理方式の基本的な仕組み

設計監理方式では、設計コンサルタントなどが調査診断、修繕設計、施工会社選定支援、工事監理などを担い、実際の施工は別の施工会社が担当します。

国土交通省の令和3年度実態調査では、設計監理方式について、建築士を有する建築設計事務所、建設会社、管理会社などへ調査診断や改修設計などを委託し、工事段階では工事監理を委託する方式と整理されています。

理事会からすると、施工会社とは別に専門的な相談相手を持てる点が大きな特徴です。

たとえば工事中、外壁の下地補修数量が想定より増えたと報告されたとしましょう。追加金額が大きくなれば、「本当にこれだけ必要なのだろうか」と不安になるのは自然です。

設計監理方式であれば、施工会社とは別の設計監理者が補修数量や施工内容を確認する体制をつくれます。

専門知識が少ない管理組合にとって、この役割分担は判断を助ける仕組みになると考えられています。

設計監理方式で比較条件をそろえる意味

設計監理方式では、あらかじめ修繕内容や仕様を整理したうえで施工会社から見積もりを取得しやすくなります。

同じ防水工事でも材料や施工範囲が違えば金額は変わるため、仕様をそろえて比較することには意味があります。住宅金融支援機構も、設計監理方式では必要な工事を客観的に見極めやすく、設計者の立場から施工会社の仕事をチェックできる点をメリットとして挙げています。

一方で、設計コンサルタントへの報酬は必要です。

建物診断、設計、施工会社選定支援、工事監理まで依頼すれば、その分だけ委託業務も増えます。そのため「コンサルタント費用が発生するから高い」と感じる理事もいるでしょう。

ただ、専門家への報酬と工事全体の費用は分けて考える必要があります。

コンサルタント費用だけを削減しても、工事条件や見積内容を十分に比較できなければ、最終的な総支出が抑えられるとは限りません。反対に専門家を入れたからといって、必ず工事費が下がるわけでもないでしょう。

見るべきなのは、支払う費用に対してどのような確認機能を得られるかです。

設計監理方式でも中立性は自動的に生まれない

設計と施工を分ければ、それだけで安心できるように感じるかもしれません。

しかし、国土交通省は以前から、管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントが存在する可能性について注意を促しています。令和5年4月3日の通知でも、設計・監理方式において設計コンサルタントが中立的立場を保ち、施工会社選定が公正に行われるよう留意することや、事業者選定の透明性確保、利益相反への注意が改めて示されました。

つまり「施工会社とは別の会社だから中立」とは限りません。

候補となる施工会社との関係、会社を集める方法、評価基準を決めた時期、提出された見積書の比較方法など、実際の運用を見る必要があります。

設計監理方式そのものを疑う必要はないでしょう。

それでも、方式の看板だけを信じるのではなく、その仕組みが本当に機能しているかを管理組合が確認する姿勢は必要です。

責任施工方式とは

責任施工方式の基本的な仕組み

責任施工方式では、必要な設計・施工体制を有する施工会社や管理会社などへ調査診断、修繕設計、資金計画、施工などを一体的に依頼します。

国土交通省の実態調査でも、建築士を有する施工会社などを選び、調査診断から改修設計、工事実施までを請け負わせる方式として整理されています。

この方式の特徴は、窓口をまとめやすいことです。

設計会社と施工会社を別々に選び、それぞれと契約や打ち合わせを行う場合に比べれば、管理組合側の連絡や調整を減らせるという可能性があります。

仕事を終えて夜の理事会へ参加し、専門資料を読み、そのうえ複数事業者との日程を調整するのは簡単ではありません。「できるだけ実務を軽くしたい」と感じるのは、責任を放棄しているからではなく、限られた時間で管理組合を運営しているからでしょう。

責任施工方式は、その現実に合う場合があります。

責任施工方式で残しておきたい確認の仕組み

住宅金融支援機構は、責任施工方式では初期段階から施工性を考慮した検討ができる一方、施工会社自身が監理を行うため、監理の透明性に欠ける場合があると示しています。

ここから「責任施工方式は危険」と判断するのは適切ではありません。

大切なのは、施工会社へ役割が集まることで弱くなりやすい確認機能をどう補うかです。

たとえば見積書の内訳を細かく提出してもらい、複数社から同じ条件で提案を受けることもできます。追加工事だけ第三者へ査定を依頼したり、竣工時の検査へ外部専門家を加えたりする方法も考えられるでしょう。

窓口を一つにまとめることと、すべての判断を一社へ預けることは違います。

この線引きを契約前に決めておけば、責任施工方式の利便性を活かしながら管理組合側の確認機能を残せます。

CM方式とは

CM方式で発注者側の専門性を補う

CM方式のCMはコンストラクションマネジメントを意味します。

国土交通省の実態調査では、CMRが技術的な中立性を保ちながら発注者側に立ち、設計、発注、施工の各段階で設計検討、品質管理、コスト管理などの全部または一部を行う方式とされています。

設計監理方式と似ているように感じるでしょう。

違いを単純化すると、設計監理方式では設計と工事監理の専門性を外部に求める色合いが強いのに対し、CM方式ではプロジェクト全体の進め方まで含めて発注者側を支援します。

たとえば設計内容だけでなく、どのような発注方法にするのか、どこまで工事を分けるのか、コストをどう管理するのかといった部分も支援対象になり得ます。

管理組合が「業者から説明を受ける側」だけではなく「発注者として判断する側」でいられるよう、専門性を補う仕組みと考えると分かりやすいでしょう。

CM方式で確認したい業務範囲

住宅金融支援機構は、CM方式について、管理組合に代わって設計者と施工会社を第三者としてチェックできることや、工事費構成の透明化が期待できることをメリットとして示しています。一方でCMRへの費用が必要になり、プロジェクトの成否が担当者の能力に左右される面も挙げられています。

つまり、CM方式という名称だけで十分ではありません。

何をCMRへ任せるのか、コスト情報をどこまで開示するのか、施工会社との契約関係をどう構成するのかによって実際の運用は変わります。

原価を開示するオープンブック型の仕組みが使われる場合もありますが、CM方式であれば必ず同じ方法になるわけではありません。

CM方式を検討するときほど「この会社は何をしてくれるのか」を契約書レベルで確かめる必要があるでしょう。

発注方式ごとのメリットとデメリット比較

三つの方式を調べ始めると、理事会では「一番安全なのはどれでしょう」と聞きたくなります。

しかし、ここまで見てきたように、発注方式にはそれぞれ得意な部分と補うべき部分があります。

設計監理方式では、設計と施工を分けることによって施工会社とは別の確認機能をつくりやすくなります。その一方で、設計コンサルタントの選定が適切でなければ、期待した中立性が十分に働かないという可能性があります。

責任施工方式では窓口を集約しやすく、施工性を考えながら計画を進めやすいでしょう。ただし、工事を提案する側と施工する側の役割が重なるため、見積金額や施工品質をどのように確認するかを別途考える必要があります。

CM方式では発注者側の専門性を高め、技術、コスト、工程を横断的に管理しやすくなります。とはいえ、CMRの力量や契約内容によって得られる支援が変わるという可能性があります。

この違いから分かるのは、方式が成果を保証するのではないということです。

どの発注方式を選ぶか以上に、その方式の弱い部分を理解したうえで、必要な確認機能を組み込めるかが重要ではないでしょうか。

費用と透明性と管理組合の手間と専門性で比較

発注方式5項目比較表

次の表は、冒頭で提示した判断軸をもとに、管理組合が三つの方式を検討するときの基本的な判断材料を整理したものです。実際の評価は、契約内容や事業者の能力、管理組合側の体制によって変わります。

比較項目 設計監理方式 責任施工方式 CM方式
費用 診断や設計や工事監理などの専門家費用が必要になる 独立した設計監理費を分けずに提示される場合がある CMRへのマネジメント費用が必要になる
透明性 設計と施工を分けることで第三者的な確認体制をつくりやすい 同じ事業者側へ役割が集まりやすいため確認方法の設計が重要になる 発注者側からコストや工程を確認しやすい体制をつくれる
管理組合の手間 専門家の支援を受けられる一方で専門家と施工会社の選定が必要になる 窓口を集約しやすく調整負担を減らせる場合がある 支援範囲は広いが管理組合が意思決定する場面が増える場合がある
専門性 設計や工事監理の専門性を補いやすい 施工会社の設計力と施工力を一体的に利用しやすい 技術やコストや工程を横断した専門支援を受けられる
チェック体制 施工会社とは別の立場から工事を確認しやすい 必要に応じて第三者確認を追加することを検討する CMRが発注者側から設計や施工を確認する体制をつくれる

この表で無理に優劣の順位を付ける必要はありません。

管理組合がまず決めたいのは、五項目のうち何を特に重視するかです。

「専門性と透明性を優先したい」という管理組合もあれば、「理事会の負担を抑えながら最低限の第三者確認は残したい」という組合もあるでしょう。

優先順位が変われば、適した組み合わせも変わります。

大規模修繕の費用は安さより比較できる状態をつくる

修繕積立金を預かる理事としては、少しでも工事費を抑えたいと考えるでしょう。

国土交通省の令和3年度実態調査(2021年実施)では、大規模修繕工事の戸当たり工事金額は100万円超125万円以下の区分が最も多い(27.0%)という結果でした。なお、この調査における「工事金額」は、直接工事費に所定の諸経費を加えた金額であり、共通仮設費および消費税相当額を含まない定義である点に注意が必要です。また、これはあくまで令和3年度調査時点の集計事例(200社・818件)であり、その後の資材価格高騰や人件費上昇などを反映した現在の価格相場を示すものではありません。

建物規模、劣化状態、工事内容、資材価格、施工時期によって費用は変わります。

そのため、相場らしき数字より高いから直ちに不適切とはいえませんし、安ければ安心というわけでもないでしょう。

大切なのは、金額が比較できる状態になっているかです。

見積書Aでは足場費用が独立しているのに、見積書Bでは諸経費へ含まれていると、総額だけを見ても違いの理由が分かりません。同じ名称の工事項目でも、施工面積や材料のグレードが違えば金額差が出ます。

「最も安い会社を選ぶ」より先に「同じ条件で金額を比べられるようにする」。

この順番を守るほうが、結果として納得できる契約へ近づくと考えられています。

大規模修繕の透明性は判断の経緯を残すことから始まる

透明性という言葉は、理事会では少し抽象的に聞こえるかもしれません。

実務では、半年後や数年後に別の理事から選定経緯を尋ねられたとき、資料を見れば「どの条件を比較し、何を理由に決定したのか」が分かる状態と考えると具体的です。

候補会社が選ばれた経緯と工事項目を必要と判断した根拠、さらに契約金額を妥当と評価した過程が一つの記録としてつながっていれば、区分所有者への説明もしやすくなるでしょう。

反対に、専門家へ一任した結果として「詳しい理由は担当会社しか分からない」という状態になれば、方式が何であっても十分な透明性を確保したとは言にくくなります。

国土交通省が示すマンション管理の基本方針でも、工事発注では事業者選定に係る意思決定の透明性確保と利益相反への注意が必要とされています。

透明性とは、疑うための仕組みではありません。

後から振り返っても、自分たちの判断を説明できるようにしておく仕組みではないでしょうか。

発注方式より実際の運用を確認する

「設計監理方式だから安心」「責任施工方式だから不透明」と方式名だけで評価すると、大切な部分を見落とします。

設計監理方式でも、施工会社候補がどのように集められたのか分からず、評価方法も記録されていなければ、管理組合には疑問が残るでしょう。一方、責任施工方式でも複数社へ同じ条件を提示し、第三者による見積精査や完了検査を組み込めば、確認機能を強められるという可能性があります。

そこで理事会では、感覚的な不信感と確認できた事実を分けます。

たとえば「コンサルタントと施工会社がつながっている気がする」と考えたとき、その印象だけで癒着や不正を断定するべきではありません。施工会社候補の集め方、各社に配布した仕様書や数量表、評価基準を決めた時期、質疑回答、選定議事録などを確認し、事実として分かっていることと分からないことを整理します。

これは地味な作業です。

しかし、誰を信用するかという感情的な議論から、何を確認すれば判断できるかという実務的な議論へ変わります。

理事会の空気が「怪しい」「大丈夫だろう」という応酬から、「この資料を確認しましょう」へ変われば、それだけでも大きな前進でしょう。

透明性を高める運用確認プロセス 印象ではなく客観的データを確認する流れ 主観・イメージでの評価 「方式名だけで安全と決めつける」 客観的事実の点検 候補会社集め・仕様書・選定議事録 確認すべき具体的な記録データ ① 候補会社の公募・選定経緯 ② 配布された仕様書と数量表 ③ 評点基準と決定理由 理由の記録を残すこと自体が選定の透明性を担保する
誰を信用するかという感情的な議論から、何を確認すれば判断できるかという実務的な議論へ変わります。

マンション規模だけで発注方式を決めない

「小規模マンションなら責任施工方式でよい」「大規模なら設計監理方式にすべき」といった説明を聞くことがあります。

国土交通省の令和3年度調査では、確かに戸数が少ないほど責任施工方式の割合が高くなる傾向が確認されています。集計対象818件全体では設計監理方式が80.1%、責任施工方式が12.6%であり、20戸以下の調査対象では設計監理方式48.0%、責任施工方式44.0%でした。

ただし、これは調査対象となった案件の採用傾向です。

現在の全国すべてのマンションについて同じ割合だと解釈するべきではありませんし、小規模なら責任施工方式を選ぶべきだという基準でもありません。

小さなマンションでも雨漏りが繰り返され、原因を特定しにくい場合があります。反対に戸数の多いマンションでも、修繕委員会の中に建築や積算へ詳しい人が継続的に参加していれば、管理組合自身が担える範囲は広がるでしょう。

判断したいのは戸数だけではありません。

建物の複雑さ、過去の修繕履歴、修繕積立金、理事会が使える時間、内部の専門知識、区分所有者への説明の難しさまで含めて考える必要があります。

規模は判断材料の一つであり、答えそのものではないのです。

理事会で使える発注方式判断チェックリスト

方式を決めようとして議論がぐるぐる回るときは、先に管理組合の状態を確認します。

次のチェック項目は、設計監理方式、責任施工方式、CM方式のどれかを機械的に決めるものではありません。自分たちが不足している機能を見つけるために使います。

  • 建物や設備の状態について理事会だけで判断しにくい項目がある
  • 施工会社とは別の立場から工事内容を確認してほしいと考えている
  • 複数社の見積もりを同じ仕様と数量で比較したい
  • 理事会や修繕委員会が大規模修繕に使える時間を確認している
  • 建築や積算や契約に詳しい人が管理組合内にいるか把握している
  • 専門家へ支払う費用を含めて資金計画を確認している
  • 追加工事が発生した場合に誰が必要性と金額を確かめるか決めたい
  • 管理会社やコンサルタントと施工会社候補の関係を確認できる
  • 区分所有者に事業者選定の理由を説明できる資料を残したい
  • 方式の名称だけではなく各事業者の具体的な業務範囲を確認する予定がある

チェックが少なかったとしても、失敗ではありません。

むしろ答えられない項目が見つかれば、次に何を相談すればよいか分かります。「追加工事を誰が査定するか決めていなかった」と気づけば、その一点を専門家へ確認するだけでも前へ進めるでしょう。

大規模修繕では、最初からすべてを理解する必要はありません。

分からないことを見える状態にすることが、管理組合自身で判断するための小さな実践になります。

発注方式を決める前に第三者へ相談する方法

発注方式を考えている段階では、「まだ契約もしていないのに相談してよいのだろうか」と遠慮する人もいるでしょう。

実のところ、特定の会社との契約関係が深くなる前のほうが、複数の選択肢を比較しやすい場合があります。

国土交通省は、大規模修繕工事の発注に関する相談先として住宅リフォーム・紛争処理支援センターやマンション管理センターを案内しています。マンション管理センターでは、管理組合運営だけでなく建物や設備の維持管理についても相談窓口が設けられています。

自治体によっては、マンション管理士や建築士などを派遣する支援制度が用意されている場合もあります。

また、有料の専門家へ相談する場合でも、最初から大規模な委託契約を結ぶ方法だけではありません。発注方式の比較や見積書の確認など、範囲を限定して助言を受ける方法も考えられるでしょう。

第三者へ相談する目的は、自分たちの代わりに答えを決めてもらうことではありません。

自分たちが判断するために、見えていない選択肢や確認事項を教えてもらうことです。

大規模修繕の発注方式を途中で見直す場合

すでに設計コンサルタントを選び、大規模修繕の準備が進んでから「この進め方でよいのだろうか」と不安になることもあります。

そのとき、すぐに契約解除や発注方式の全面変更だけを考える必要はありません。

現在の体制をそのまま継続する方法に加えて、見積照査や施工会社選定だけ第三者の確認を入れる方法、現在の専門家を変更する方法、さらに発注体制そのものを見直す方法など、複数の選択肢があります。

どの方法が可能かは、現在の契約段階や契約書の内容、総会決議、作成済み資料の利用条件などによって変わります。

施工会社の募集前であれば比較的見直しやすくても、工事請負契約を締結した後では費用や手続きが増えるという可能性があります。そのため、不安を感じたからといって最初から全面変更を決めるのではなく、まず何に問題を感じているのかを分けて考えます。

不安の原因が発注方式そのものなのか、コンサルタントへの説明不足なのか、施工会社の選び方なのか、見積金額を確認する仕組みなのかによって必要な対策は違うでしょう。

変更することと、これまでの判断をすべて否定することは同じではありません。

新しく確認できた事実に合わせて判断を更新することも、管理組合の適切な意思決定ではないでしょうか。

発注方式決定後のコンサルタントと診断会社選定

発注方式が決まれば、それで重要な判断が終わるわけではありません。

設計監理方式なら設計コンサルタント、CM方式ならCMR、責任施工方式なら施工会社など、実際に仕組みを動かす相手を選ぶ段階へ進みます。

ここで会社案内と見積総額だけを比較すると、方式を丁寧に検討した意味が薄れてしまうでしょう。

同じ「施工会社選定支援」という業務名でも、公募条件を作るだけなのか、見積書を査定するのか、候補会社への質疑を整理するのか、面談や評価まで支援するのかによって中身は変わります。

工事監理も同じです。

現場を確認する頻度、定例会議への参加、施工写真の確認、追加工事の査定、完成時の検査など、実際に行う業務を確認する必要があります。

安い見積もりを見ると「ここなら予算を抑えられる」と気持ちが動くこともあるでしょう。

それでも、業務内容に対して報酬が極端に低い場合には、どのような人員と時間で業務を行うのかを確認したほうがよいと考えられています。金額の大小だけでなく、報酬と業務量の関係を見ることが重要です。

実際の選定支援で確認する項目

コンサルタントや診断会社、施工会社を選ぶときは、理事会側で比較項目を先に決めておくと評価がぶれにくくなります。

確認項目 実際に確認したい内容 管理組合が確認する理由
業務範囲 調査診断や設計や施工会社選定や工事監理のうち何を担当するか 契約後の役割の抜けを防ぐため
担当者 実際に担当する人の資格と同規模マンションでの経験 会社実績だけでは現場担当者の能力が分からないため
報酬 金額と予定されている業務量が対応しているか 安さだけで選定しないため
利益相反 施工会社候補との資本関係や継続的な取引関係などを説明できるか 中立性を判断する材料を得るため
候補会社の集め方 公募や紹介などをどのように組み合わせるか 特定の会社だけへ候補が偏らないようにするため
評価基準 価格や施工実績や提案内容をどのように評価するか 選定後に理由を説明できるようにするため
現場監理 現場確認の頻度と報告方法が具体的か 契約上の監理と実際の行動を一致させるため
追加工事 必要性と数量と金額を誰が査定するか 着工後の予算増加を管理するため
住民対応 説明会や問い合わせをどこまで支援するか 理事会の実務負担を事前に把握するため
記録 選定資料や監理報告書や工事記録をどのように残すか 次回修繕でも判断経緯を確認できるようにするため

面談では、回答内容だけでなく説明の仕方も見ます。

質問すると結論だけを返すのか、それとも根拠となる資料や判断過程まで示してくれるのかによって、工事が始まった後のコミュニケーションも想像しやすくなるでしょう。

専門家は、管理組合の代わりに考える人ではありません。

管理組合が判断できるように専門知識を翻訳してくれる人かどうかを確かめることが大切です。

理事会で始める小さな発注方式の比較

ここまで読んでも、「結局うちのマンションはどれなのだろう」と迷うかもしれません。

次の理事会でいきなり方式を決定する必要はないでしょう。

まず、費用、透明性、管理組合の手間、専門性、チェック体制という五項目から、特に重視したいものを二つ選びます。

すると「理事の人数が少ないので手間は減らしたいが、追加工事だけは施工会社以外にも確認してほしい」という意見が出るかもしれません。また、「費用だけでなく住民へ選定理由を説明できることを優先したい」という考えが出る可能性もあります。

この段階では答えが一つでなくても構いません。

むしろ、自分たちの条件が言葉になったことに意味があります。

次に専門家へ相談するときも、「どの方式がおすすめですか」と聞くのではなく、「実務負担を抑えながら第三者確認を残すには、どのような体制がありますか」と尋ねられるようになるでしょう。

質問が変われば、受け取る提案も変わります。

これが、業者から示された方法を受け入れるだけの状態から、管理組合自身が発注体制を選ぶ状態への変化です。

理事会で始める発注方式比較のステップ 理事会で始める小さな比較ステップ 1 重視する判断軸の絞り込み 5つの判断軸から管理組合が特に重視する2項目を選択する 2 希望条件の言語化 「手間を減らしたい」「選定理由を説明したい」等の優先順位を明確化 3 専門家への具体的相談 自組合の条件に合わせた具体策や質問を専門家に投げかける 「業者にお任せ」から「自ら選ぶ」への変化 質問が変われば、受け取る提案も変わります
質問が変われば、受け取る提案も変わります。

大規模修繕の発注方式FAQ

設計監理方式と責任施工方式はどちらが多い?

国土交通省の令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査では、集計対象818件のうち設計監理方式が80.1%、責任施工方式が12.6%でした。CM方式は0.9%となっています。

ただし、この調査は814社へ調査票を配布し、回答を得た200社の工事サンプルのうち、工事完了済みの818件を集計したものです。したがって、現在の日本全国にあるマンションの発注方式が同じ割合だと解釈するべきではありません。

採用件数の多さは参考情報です。

自分たちの管理組合に適しているかどうかは、別の判断軸で確認する必要があります。

小規模マンションでも設計コンサルタントは必要?

戸数が少ないという理由だけで、設計コンサルタントが不要とは判断できません。

たとえば漏水原因が複雑であったり、過去の修繕履歴が十分に残っていなかったり、特殊な改修工法を検討する必要があれば、第三者の専門知識が役立つという可能性があります。

一方、小規模マンションでは工事総額に対する専門家費用の負担感が大きくなる場合もあるでしょう。

その場合、すべての業務を委託するのではなく、劣化診断や見積精査、竣工検査など必要な部分だけ専門家へ依頼する方法も検討できます。

必要か不要かを戸数で決めるのではなく、理事会だけでは判断しにくい部分がどこにあるかを見ることが大切です。

管理会社に大規模修繕をすべて任せてもよい?

管理会社へ相談すること自体に問題があるわけではありません。

日常管理を通じて過去の修繕履歴や設備の不具合を把握しており、管理組合との連絡にも慣れていることは強みになる場合があります。

ただし、管理会社や関連会社が設計や施工を受注する場合には、工事内容を決める役割と受注する立場がどのような関係になっているかを確認する必要があります。

国土交通省は大規模修繕を含む工事発注について、意思決定の透明性と利益相反への注意が必要であるとしています。

「全部任せてよいか」という二択ではなく、どこまで任せ、どの部分だけ管理組合や第三者が確認するのかを決めると考えやすくなるでしょう。

発注方式はいつまでに決めればよい?

施工会社を本格的に募集する前には、発注方式の基本方針を整理しておくことが望ましいでしょう。

発注方式によって、建物診断や修繕設計を誰が行うのか、施工会社へどのような条件を提示するのか、工事中の確認を誰が担当するのかが変わるためです。

ただし、建物の状態を把握しなければ方式を決めにくい場合もあります。

そのときは、特定の施工会社へ工事を任せることまで決めるのではなく、まず現状整理や第三者相談を行い、必要な調査範囲から考える方法があります。

大切なのは、施工会社を事実上決めてから発注方式を後付けする状態を避けることです。

マンション管理士は発注方式選びを支援できる?

マンション管理士は、管理組合運営、合意形成、契約関係の整理、事業者選定の進め方などについて支援できる場合があります。

ただし、マンション管理士ごとに大規模修繕の実務経験や得意分野は異なります。

また、外壁や防水の劣化原因、施工方法、設計仕様など高度な技術判断については、建築士など別の専門家との連携が必要になるという可能性があります。

資格名だけで依頼先を決めるのではなく、今回依頼したい業務を実際に経験しているか確認するとよいでしょう。

建物診断会社は発注方式決定前に選ぶべき?

建物の状態を把握することは、大規模修繕を考えるうえで重要です。

住宅金融支援機構の手引きでも、修繕内容を検討する前に竣工図書や過去の修繕記録を確認し、管理組合自身でも建物状況を確認したうえで、調査診断を行う専門家を選ぶ流れが示されています。

ただし、発注方式を考える前に特定の診断会社へ将来の設計や施工会社選定まで含めて依頼しなければならないわけではありません。

診断を担当する会社が、その後の設計監理や施工会社選定にも関与する予定であれば、業務範囲と利害関係をあらかじめ確認することが望ましいでしょう。

診断会社を早く決めることより、診断結果を誰がどのように次の判断へ使うのかを整理することが重要です。

マンション大規模修繕で確認しておきたい公的情報

大規模修繕について検索すると、施工会社、管理会社、設計事務所、コンサルタントなど、さまざまな立場から情報が発信されています。

実務に役立つ情報も少なくありませんが、それぞれの会社が提供するサービスや得意分野によって説明の重点は変わるでしょう。

そこで発注方式を検討するときは、国土交通省のマンション大規模修繕工事に関する実態調査や発注適正化に関する資料、住宅金融支援機構の大規模修繕の手引きなど、公的情報を基準に置いてから民間事業者の提案を比較すると整理しやすくなります。

公的資料にも、個々のマンションに対する答えまでは書かれていません。

それでも、事業者から説明された内容が一般的な考え方なのか、その会社独自の提案なのかを切り分ける土台になります。

情報が増えたときほど、基準となる資料を一つ持っておくことが重要ではないでしょうか。

マンション大規模修繕の発注方式まとめ

大規模修繕の発注方式に、すべてのマンションへ共通する一つの正解はありません。

設計監理方式には設計と施工を分けやすい特徴があり、責任施工方式には窓口をまとめやすい特徴があります。CM方式では、発注者側の専門性とマネジメント機能を補うことができます。

まず自分たちの管理組合に足りないものを確認し、費用、透明性、手間、専門性、チェック体制を比べてください。

方式の名前ではなく、誰が何を担当し、どのように確認するかまで決められれば、大規模修繕は「任せる工事」から「自分たちで選ぶ工事」へ少しずつ変わっていくでしょう。

参考資料

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