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ライフプランは価値観から作る 「幸福な未来の自分」と数字を往復して考える方法

「老後までに2,000万円は必要らしい」「毎月5万円くらい積み立てた方がいい」と聞くと、その数字を無視するのは少し怖く感じます。将来困りたくないからこそ、多く準備できるならその方が安心に思えますし、周囲がNISAやiDeCoを始めていれば、自分だけ何もしていないことに焦りを感じる人もいるでしょう。

それでも、「なぜ2,000万円なのか」「5万円を積み立てた先で、どのような生活を送りたいのか」と聞かれると、答えに詰まることがあります。

数字が間違っているからではありません。

本来は自分の生活を支えるために使う数字が、いつの間にか人生の目的へ入れ替わっているからです。

目的地を決めないまま「もっと備えた方が安心」と考えれば、必要額には終わりがありません。2,000万円より3,000万円、3,000万円より5,000万円の方が金銭的な余裕は大きくなるため、数字だけを見れば、多い方がよいという結論になりやすいでしょう。

しかし、その5,000万円を作るために長時間働き続け、健康や家族との時間、その年代にしかできなかった経験まで長く後回しにしていたなら、金融資産の形成としては成功していても、人生全体を同じように評価できるとは限りません。

一方で、「好きなように生きればいい」と数字を無視することも現実的ではないでしょう。住宅ローン、教育費、日々の生活費、将来の収入、社会保障などを確認しなければ、思い描いた生活が経済的に続くのかは分かりません。

大切なのは、数字を否定することではなく、数字を人生の目的から、人生を支えるための手段へ戻すことです。

自分がどのような状態なら「この暮らし方なら納得して続けたい」と感じるのかを具体化し、その生活を支えるために必要なお金を計算します。反対に、数字を確認して難しいと分かれば、望んだ生活をすぐ諦めるのではなく、実現時期、働き方、住まい、支出の優先順位などを調整し、再び生活の側から考えます。

価値観と数字は、片方を完成させてからもう片方へ進むものではありません。

両者を何度も往復させることで、自分に合ったライフプランが少しずつ形になります。

そこで役立つのが、単に「自分の価値観は何だろう」と考えるだけではなく、幸福を感じながら暮らしている未来の自分を、一人の人物として具体的に作ってみることです。

ここでいう幸福とは、毎日楽しく、不安も不満も何一つない状態を意味しません。

仕事で嫌な日もあれば、予定どおりにいかないこともあるでしょう。それでも全体として、「この暮らし方なら自分は納得できる」「これなら続けていきたい」と感じられる生活状態を、この記事では幸福と考えます。

そして、未来の自分を「正解を知っている人物」として扱うわけでもありません。

未来がどうなるかは誰にも分かりませんし、現在想像した未来の自分が、本当に10年後の自分と同じ価値観を持っている保証もありません。

未来の自分は、答えではなく一つの仮説です。

現在の生活を当たり前だと思い込んでいないか、目の前の不安を大きく見すぎていないか、自分が本当に守りたいものは何なのかを考えるために、現在とは異なる視点を一つ置いてみるのです。

この人物がどのくらい働き、誰と時間を過ごし、何にお金を使い、何については以前ほど気にしていないのかを具体的にすると、「家族」「自由」「安心」といった抽象的な価値観が実際の生活へ変わっていきます。

最後は、その生活をお金の面から検証します。

ライフプランとは、世間で示された必要額へ自分の人生を合わせる作業ではありません。自分が納得できる生活を具体化し、その生活が現実に続く条件を数字によって確かめるためのものなのです。

TABLE OF CONTENTS
目次

一般的な必要額を人生の目標にしない

ファイナンシャル・プランニングという言葉から、収入や支出、金融資産を入力してキャッシュフロー表を作り、将来のお金が足りるか確認する作業を思い浮かべる人は少なくありません。

もちろん、そうした計算は重要です。

しかし、その数字には本来、「何を実現するために必要なのか」という目的があります。

日本FP協会は、ファイナンシャル・プランニングについて、人生の夢や目標をかなえるために総合的な資金計画を立て、経済的な側面から実現へ導く方法と説明しています。またFPについても、相談者のライフスタイルや価値観、経済環境などを踏まえながら、家族状況、収入・支出、資産、負債などを分析し、夢や目標の実現を支える専門家と位置づけています。

CFP®実務の6ステップでも、ライフプラン上の目標を確認すると同時に、収入や資産などの定量情報だけではなく、価値観、考え方、期待、金融に関する経験などの定性的な情報を収集し、その後に現在のファイナンス状態、必要な金融資産、制約、リスクなどを分析する流れが示されています。

ここから分かるのは、「まず価値観を完全に決めて、その後に初めて数字を見る」という一本道ではありません。

ある人が「数年後には週4日勤務へ変えたい」と思ったとしても、住宅ローンや子どもの教育費を確認すると、すぐに実現するのは難しい場合があります。

そのとき、「現実的ではないから諦める」で終える必要はありません。

子どもの進学後ならどうなのか、住宅費を少し軽くすれば可能なのか、今後5年間で一定の金融資産を作れば実現できるのかと考えれば、最初は漠然としていた希望が少しずつ現実的な条件へ変わっていきます。

反対に、本人は「あと10年は今の働き方を続けなければ」と思い込んでいたものの、家計を試算すると、数年早く仕事量を減らしても大きな問題がないと分かることもあるでしょう。

数字を確認することで、新しい選択肢が見つかる場合もあるのです。

つまり、問題なのは数字を早く見ることではありません。

自分が送りたい生活との関係を確かめないまま、一般的な必要額を人生の目標へ格上げしてしまうことです。

「老後には3,000万円必要と言われているから3,000万円を目指す」のと、「こういう生活をこの年齢まで続けたいので、計算すると3,000万円程度必要になる」のとでは、同じ3,000万円でも意味が違います。

老後には3,000万円必要と言われているから 3,000万円を目指す こういう生活をこの年齢まで続けたいので、 計算すると3,000万円程度必要になる 同じ3,000万円でも意味が違います。
「老後には3,000万円必要と言われているから3,000万円を目指す」のと、「こういう生活をこの年齢まで続けたいので、計算すると3,000万円程度必要になる」のとでは、同じ3,000万円でも意味が違います。

後者には理由があります。

そのため、状況が変わったときにも、「3,000万円を絶対に守らなければならない」と考えるのではなく、何を守るための金額だったのかへ戻り、条件を組み直すことができます。

価値観は名詞のままでは資金計画にならない

価値観が重要なら、「あなたが大切にしているものは何ですか」と聞けばよいように思えます。

ところが、それだけでは具体的なライフプランへつながらない場合があります。

「家族を大切にしたい」「自由に暮らしたい」「安心できる生活が欲しい」という言葉には、それぞれ本人の思いがあります。しかし、同じ言葉を使っていても、その内側にある生活は人によって大きく違います。

たとえば、二人の人がどちらも「家族を大切にしたい」と考えていたとします。

ある人にとっては、平日の夕方には仕事を終え、できるだけ家族と食卓を囲み、休日も一緒に過ごせることが家族を大切にするという意味でした。

この人は、高い収入を嫌っているわけではありません。

家族の生活を守るために収入は必要ですし、将来への備えもしたいと考えています。それでも、年収を100万円増やすために帰宅時間が毎晩遅くなり、休日にも仕事へ対応する状態になれば、「家族のために働いているはずなのに、家族との時間がなくなっている」という違和感が残るでしょう。

一方、別の人にとって家族を大切にすることは、子どもが希望する教育や進路を、お金を理由に諦めさせないことでした。

この人なら、働く時間を減らすことより、働ける時期には一定の収入を確保し、教育費を準備する方に納得感を持つ可能性があります。

家族との時間を軽視しているのではありません。

自分が考える「家族のためにしたいこと」が違うのです。

「自由」という言葉でも同じでしょう。

ある人は、生活費を小さくし、週3日程度働いて、予定を自分で決められる時間が多い生活を自由だと感じます。

別の人は週5日働くことには抵抗がなく、その代わり年に何度か旅行へ行き、興味を持った経験を金額だけで諦めなくてよい経済的余裕を自由だと考えるかもしれません。

価値観は、「家族」「自由」「安心」という名詞のままではまだ粗いのです。

ライフプランへ使える状態にするには、「その価値観が満たされているとき、自分は実際にどのような毎日を送っているのか」というところまで具体化する必要があります。

そこで初めて、抽象的だった価値観が、働く時間、住む場所、人間関係、必要な収入、お金を使いたい対象へつながっていきます。

幸福を感じている未来の自分を一人作る

価値観を生活へ落とし込むために、幸福を感じながら暮らしている未来の自分を一人作ってみます。

ただし、その人物を「成功した自分」にする必要はありません。

「55歳で年収1,000万円」「60歳で金融資産5,000万円」といった条件から始めると、結局また数字が主人公になります。

知りたいのは、その人がいくら持っているかではなく、なぜその人が今の生活に納得しているのかです。

現在45歳なら、55歳になった自分の、何も特別な予定がない一日を想像してみます。

旅行中でもなければ、大きな仕事を成功させた日でもありません。

普通の火曜日です。

朝目覚めたとき、どのような気持ちでしょうか。

慌ただしく身支度をして仕事へ向かっているかもしれませんが、それでも「今日も嫌だ」と思っているのか、「忙しいけれど、この仕事は好きだ」と感じているのかでは意味が違います。

あるいは、勤務日数を減らしたことで少しゆっくり朝食を取り、午前中だけ仕事をしているかもしれません。

仕事の量だけでなく、仕事との関係も考えます。

責任ある仕事を任され、難しい課題へ取り組むことに充実を感じているのか、それとも仕事は生活を支える大切な一部ではあるものの、夕方には頭を切り替えられる距離感が心地よいのでしょうか。

夕食は誰と取っていますか。

休日には誰と会い、何を楽しみにしているでしょう。便利な都市部に住んでいるのか、少し郊外へ移っているのか、自宅にお金をかけているのか、住まいにはあまりこだわらず旅行や趣味へ支出しているのかも想像します。

さらに、お金との距離も考えます。

未来の自分は毎日のように金融資産を確認し、「まだ足りない」と考えているでしょうか。

それとも、必要な備えができたことで、「ここには使って大丈夫」と思えるようになり、お金が以前ほど頭の中を占領しなくなっているでしょうか。

ここまで考えると、未来の自分は「理想」という曖昧な存在から、一人の人物へ近づいてきます。

もちろん、その人物像が将来の本当の自分を正確に予測しているとは限りません。

それでも、その人物を一度作ることで、「今の生活を当然だと思いすぎていないか」「自分が本当に欲しいものは、今追いかけているものと同じなのか」を問い直す材料になります。

未来の自分は答えではなく、現在の前提を揺さぶるための仮説なのです。

幸福な自分プロフィールを作る

未来の自分を曖昧な理想像で終わらせないためには、「幸福な自分プロフィール」を作ると整理しやすくなります。

ここでも、「自由を大切にする」「家族を大切にする」と書くだけでは足りません。

その価値観が生活のどこに表れているかまで考えます。

幸福な自分プロフィール その価値観が生活のどこに表れているか
平日の働く時間と生活リズム では、週何日働くかだけでなく、朝から夜までの流れを描きます。通勤、仕事を終える時間、睡眠、食事、家事、自分の時間まで考え、「この生活なら長く続けても苦しくない」と感じる姿を探します。
休日にしていること では、豪華な予定だけを考える必要はありません。家族で出かける、本を読む、運動する、料理をする、旅に出るなど、自分が時間をどこへ使っていると満足できるのかを考えます。
誰とよく過ごしているか では、人数ではなく関係の質を見ます。家族との食事、数人の友人との交流、仕事仲間との会話など、未来の生活に自然に残っている人間関係には、自分が大切にしたいつながり方が表れます。
お金をかけているもの では、住まい、健康、食事、旅行、教育、趣味、学びなどの中から、「ここへ使ったお金には満足が残る」と思えるものを探します。金額の大きさより、その支出が生活へ何をもたらしているのかを見ることが重要です。
以前ほど気にしていないもの では、肩書、他人より高い年収、広い家、高級な持ち物など、未来の自分が比較や見栄から距離を置いている対象を探します。ただし、未来像に登場しなかったという理由だけで不要と決めるのではなく、「今後も本当に維持したいものなのか」と問い直す材料にします。
絶対に失いたくないもの では、条件が悪くなっても守りたいものを考えます。健康、家族との時間、自分で仕事を選べること、一人で落ち着ける時間などが浮かぶなら、そこは家計でも優先して守る候補になるでしょう。
収入が下がっても維持したいもの まで考えると、価値観はさらに見えやすくなります。収入が減ったときにも残したい習慣や支出には、自分の生活満足度へ強く結びついているものが含まれている可能性があります。

特に大切なのは、「何が欲しいか」と同じくらい、「何は本当に必要なのかを問い直せるか」です。

人は欲しいものだけを追加していけば、必要な年収も資産も際限なく大きくなります。

一方、未来の生活を想像したときにほとんど重要性を感じなかったものがあれば、それを現在と同じ水準で持ち続ける必要があるのか、一度確認してみる価値があります。

ある人は未来の生活を書いてみて、「広い家が欲しいと思っていたけれど、本当に欲しかったのは静かに落ち着ける空間だった」と気づくかもしれません。

ただし、それは「未来像に広い家が出てこなかったから不要」という意味ではありません。

現在の自分が広い家を求めている理由をもう一度考え、「本当に自分の満足につながるのか、それとも周囲との比較に引っ張られているだけなのか」を確かめるきっかけになるということです。

反対に、自宅で過ごす時間が幸福の中心だと分かり、「やはり住まいにはしっかりお金を使いたい」と確認できる人もいるでしょう。

未来の自分を作る目的は、支出を減らすことではありません。

自分の場合、どこへお金を使うと満足が残り、どこでは思ったほど満足が増えないのかを考える材料を増やすことです。

今の常識を未来の自分に持ち込まない

未来について考えているつもりでも、人は現在の条件をそのまま未来へ持ち込みやすいものです。

現在の会社で働いているから10年後も同じ会社を前提にし、今の家に住んでいるから、これからもそこに住み続けると考えます。

現在の年収が800万円なら、700万円になった未来を反射的に「悪くなった状態」と感じることもあるでしょう。

こう感じる背景には、現在の生活には具体的な手触りがある一方、別の生活には不確実性があるという違いがあります。

今の会社なら給与も人間関係も分かりますが、転職した先は分かりません。現在の住宅なら毎月の支出も把握できますが、別の場所へ移った生活は経験していないでしょう。

そのため、多少不満がある現状でも、「分からない未来へ動くより安全」と感じることがあります。

そこで未来の自分を考える段階では、現在の条件をすべて変更できない前提として扱わないようにします。

ある人は、現在の会社そのものが嫌いなわけではありませんでした。

待遇にも大きな不満はなく、「会社を辞めたいのですか」と聞かれても、そこまでは考えていないと答えます。

それでも55歳の自分を具体的に描くと、その人は同じ専門分野で働きながら、管理職ではなく、自分で仕事量を調整できる立場にいました。

そこで初めて、「会社を辞めたいのではなく、仕事を自分でコントロールできない状態が苦しかったのかもしれない」と気づきます。

この違いが分かれば、選択肢も変わります。

会社を辞めることだけを考える必要はなく、社内で役割を変える、転職する、副業を育てる、専門性を高めて仕事を選びやすくするといった方法も検討できます。

もちろん、その生活が経済的に成立するかは別途確認しなければなりません。

しかし、「収入が下がるかもしれない」という理由だけで最初から発想を閉じてしまえば、本当は何を変えたかったのかまで分からなくなります。

まず望みを仮置きし、数字を確認する。

難しければ時期や方法を調整し、再び望む生活へ戻ります。

この往復によって、漠然とした理想は少しずつ現実的な選択肢へ変わっていくのです。

価値観は大切なもの同士がぶつかったときに見える

未来の自分がどのように暮らしているか分かったら、その人物が迷ったときに何を基準として選ぶのかまで考えます。

人生では、お金、時間、仕事、家族、健康、経験、安心をすべて同時に最大化することはできません。

収入を増やすために仕事へ多くの時間を使えば、自由時間は減るかもしれません。広い家を選べば住環境は良くなりますが、住宅費が増え、転職や旅行へ使える余力が小さくなる可能性があります。

価値観の輪郭がはっきりするのは、「何を大切にしていますか」と質問されたときより、むしろ大切なもの同士がぶつかったときに、何を守りたいと感じるかを考えたときです。

ある人の幸福な未来が、健康と自由時間を特に重視する人物だったとします。

現在の年収が700万円で、管理職になれば850万円程度へ増える一方、残業や休日対応もかなり増えるなら、この人は150万円という金額だけを見て判断するでしょうか。

「年間150万円と引き換えに、どのくらいの時間や体力を使うことになるのか」と考え、その交換を自分が受け入れたいかを見るでしょう。

一方、仕事そのものへ強い充実を感じる人なら答えは変わります。

新しい事業を任され、自分の能力を試せることに満足を感じるなら、一定期間忙しくなることを受け入れる方が本人の価値観に沿っている可能性があります。

時間を優先する人と、仕事を優先する人のどちらが正しいという話ではありません。

本人が何に満足を感じ、何を守りたいのかが違えば、本人にとって納得できる選択も変わります。

この判断基準まで見えてくると、家計の見直しにも意味が生まれます。

自分にとって重要ではない支出を削ることは、単なる我慢ではありません。

限られたお金を、大切ではないものから、より大切にしたいものへ移す行為になります。

幸福な未来の自分から現在を見る

未来の人物を具体化したら、今度は視線の向きを反対にしてみます。

現在の自分が未来を見るのではなく、未来の自分になったつもりで現在を眺めます。

現在の自分には、現在だからこそ強く感じる感情があります。

仕事で嫌なことがあった直後なら「もう辞めたい」と思いやすくなりますし、金融市場が大きく下がれば「投資をやめた方がよいのではないか」と不安になるでしょう。

友人が次々と住宅を購入すれば、自分も買わなければ取り残されるような感覚を持つこともあります。

その気持ちは間違いではありません。

ただし、目の前の問題は距離が近いぶん、大きく見えます。

そこで5年後や10年後に、自分なりの満足を感じながら暮らしている人物になったつもりで、現在を振り返ります。

今は「会社を辞めるか、我慢して残るか」という二択で苦しんでいても、未来の自分という視点を置くことで、「そもそも二択で考える必要があるのだろうか」という別の問いが生まれるかもしれません。

「あのとき辞める必要まではなかったけれど、もっと早く仕事量について相談してもよかったのではないか」という見方も出てくるでしょう。

反対に、毎月かなりの金額を貯めながら「まだ足りない」と感じている人なら、未来から考えることで、「この貯蓄は何を実現するためだったのだろう」と問い直せます。

準備を続けるべきだという結論になるかもしれませんし、すでに必要な備えに近づいていて、「今しかできない経験へ少し使ってもよいのではないか」という仮説が生まれる可能性もあります。

ここで重要なのは、未来の自分が正しい答えを返すことではありません。

現在とは違う判断があり得る余地を作り、思考が一つの前提へ固定されるのを防ぐことに意味があります。

未来から現在へ手紙を書くという研究

未来の自分という視点を取る考え方には、関連する心理学研究があります。

千島雄太氏らが2021年に公表した研究では、738人の参加者が、1年後の自分へ手紙を書く条件、1年後の自分の立場から現在へ手紙を書く条件、現在の生活について記述する条件へランダムに割り当てられました。

その結果、未来への手紙と未来からの手紙の条件では、現在についてのみ書いた条件と比べてネガティブ感情の低下が確認されました。研究では、手紙を書くことによって「現在の状態はずっとは続かない」という認識が高まる時間的距離化が、その変化に関係していたと報告されています。

ただし、この研究から「未来の自分になれば、正しいライフプランが分かる」と結論づけることはできません。

研究が直接調べたのは、特定の状況における手紙課題と感情状態の変化です。住宅を購入するべきか、仕事を辞めるべきか、いくら資産を形成すべきかといった意思決定の正確性まで検証した研究ではありません。

また、2025年には千島雄太氏と西村静香氏による「未来の自己への手紙がもたらす自己連続性」が、日本教育心理学会第67回総会で発表されています。未来の自己への手紙と自己連続性の変化を扱った研究ですが、この記事で紹介する一連のライフプラン作成方法が、そのまま検証されているわけではありません。

したがって、ここで扱っている「幸福な未来の自分を作り、その視点から現在を眺め、最後に資金計画へ翻訳する」という方法を、心理学によって確立されたFP手法として扱うのは適切ではないでしょう。

より正確には、未来の視点を取ることに関する研究を参考にしながら、現在の前提や感情から少し距離を取り、価値観を具体化するための思考補助として応用する方法と考えます。

実際に行うなら、未来の自分から現在へ短い手紙を書いてみてもよいでしょう。

ただし、自分が今欲しい答えを未来の自分に言わせる必要はありません。

先ほど作った人物が何を大切にする人なのかを前提に、「この人なら現在の自分へどんな問いを返すだろう」と考えます。

安心を重視する人物なら、「今すぐ辞めるかどうかより、辞めても焦らず暮らせる準備を作ることが先ではないか」と考えるかもしれません。

自由時間を大切にする人物なら、「収入が少し下がることばかり怖がって、今の働き方を唯一の選択肢にしていないだろうか」と問い返す可能性があります。

未来の自分は、答えを教える存在ではありません。

今の自分では思いつかなかった問いを作るための、もう一つの視点なのです。

幸福な未来を一つに決めなくてもいい

未来の生活を考えていると、「自分は仕事を頑張りたいのか、それとも仕事を減らして自由になりたいのか分からない」と迷うことがあります。

無理に一つへ決める必要はありません。

異なる未来を複数作ることで、かえって自分の価値観が見えることがあります。

ある人は、仕事を続けて専門性を高め、大きな仕事へ挑戦している未来に魅力を感じていました。

その一方で、週4日程度の勤務に変え、家族や趣味へ使える時間を増やした未来にも強く惹かれています。

そこで、どちらかを「本当の自分」と決めるのではなく、二人をそれぞれ具体化します。

仕事を重視した未来の自分は、忙しさと引き換えに何を得ているのでしょう。

専門家として成長する感覚、仕事をやり遂げる達成感、仲間とのつながり、十分な収入などがあるかもしれません。

一方、時間を重視した未来の自分は、収入や昇進の機会をある程度手放しながら、平日の余白、家族との食事、趣味へ向けられる体力などを得ています。

ここで見るべきなのは、二人の違いだけではありません。

共通して残っているものを探します。

仕事重視の未来でも時間重視の未来でも、「自分で仕事を選べること」だけは守られていたとします。

共通して残っているものを探します。 仕事を続けて専門性を高め、 大きな仕事へ挑戦している未来 週4日程度の勤務に変え、 家族や趣味へ使える時間を増やした未来 自分で仕事を選べること
仕事重視の未来でも時間重視の未来でも、「自分で仕事を選べること」だけは守られていたとします。

それなら、「本当に欲しいものは高収入でも週休3日でもなく、仕事に対する裁量なのではないか」という仮説が生まれます。

仮説ができれば、現実の選択肢も変わります。

完全に仕事を辞めるための巨額な資産を作る以外にも、専門性を高めて会社への依存度を下げたり、一定期間収入が減っても生活できる資産を確保したりする方法を検討できます。

複数の未来を考える目的は、一つの正解を選ぶことではありません。

条件が変わっても何度も現れる「これだけは大切にしたい」という共通項を見つけ、それが本当に自分の価値観なのかを現在の生活でも確かめていくことです。

予定どおりにいかなかった未来から最低条件を探す

理想的な未来だけを考えていると、ライフプランが「計画どおりに進めば成立するもの」になりやすくなります。

しかし、人生では予定外のことが起こります。

思っていたほど収入が増えないこともありますし、働き続けるつもりだったのに、健康や家族の事情で仕事量を減らすこともあるでしょう。

そこで、理想より少し条件が悪くなった未来の自分も考えてみます。

ただし、何もかも失って不幸になった人物を作る必要はありません。

探したいのは、予定は外れたけれど、それでも「この暮らしなら何とかやっていける」と感じている自分です。

ある人は、予定より年収が200万円低くなったものの、住居費が小さく、好きな仕事と家族との時間を維持できているため、「想像していた人生とは違うけれど、悪くない」と感じているかもしれません。

別の人は、予定より早く会社を辞めることになったものの、生活防衛資金があったため、焦って次の仕事を決めずに済むかもしれません。

この未来を考える意味は、不安を膨らませることではありません。

自分が生活への納得感を保つための最低条件を考えることです。

どの程度の住居費なら収入が減っても維持できるのか、毎月いくらあれば健康的な生活を送れるのか、どの人間関係や習慣だけは残したいのか。さらに、どの程度の手元資金があれば、収入が途絶えても落ち着いて次の選択を考えられるでしょう。

もちろん、この最低条件も未来を正確に予測したものではありません。

それでも、「何が起きるか分からないから、とにかくできるだけ多く貯める」という漠然とした不安を、「この条件だけは守れるように準備しておきたい」という具体的な課題へ変える材料にはなります。

何が起きても安心という状態は作れなくても、自分なりの防衛ラインを考えることはできます。

お金は人生の選択肢を残すためにも使える

幸福な未来の自分を考えていくと、「もっとお金が欲しい」という願いの奥に、実は別の目的が隠れている場合があります。

ある人が本当に欲しかったのは、多額の資産そのものではなく、「嫌な仕事なら断ることもできる状態」でした。

その人は、必ずしも今すぐ会社を辞めたいわけではありません。

ただ、住宅費や生活費があるために「何が起きてもこの会社を失えない」と感じる状態が苦しく、手元に一年分程度の生活費があれば、「どうしても無理なら離れることもできる」と考えられます。

実際に辞めなかったとしても、選択肢があると感じられるだけで、仕事との向き合い方が変わることがあります。

一定の資産があれば、子どもが小さい数年間だけ勤務時間を減らせるかもしれません。

住居費を軽くしておけば、給与の高さだけを理由に仕事を選ばなくてもよくなる可能性があります。学びへお金を使えば、数年後には現在と異なる働き方を選べることもあるでしょう。

つまり、お金には物やサービスを買う力だけではなく、未来の自分へ選択肢を残す力があります。

同じ100万円でも人生での役割は違う

たとえば、自由に使える100万円があったとします。

資産形成だけを見れば、投資へ回して将来の金融資産を増やす方法が考えられます。

しかし、その100万円を何に使うことが本人の生活へ大きな意味を持つかは、価値観によって変わります。

未来の自分を考えた結果、「家族と過ごせるこの時期の経験を大切にしたい」という思いが強く見えてきたなら、100万円の一部を旅行や体験へ使うことを検討する意味があります。

一方、「仕事を辞めたくなったとき、焦らず次の仕事を探せる状態を作りたい」と感じたなら、その100万円を預貯金として残す方が本人の目的に合うでしょう。

さらに、「会社に依存しない働き方をできるようになりたい」という価値観が見えてきたなら、学び直しや専門性への投資が候補になるかもしれません。

どれも100万円です。

それでも、その100万円が将来の金融資産になるのか、現在の経験になるのか、安心になるのか、将来の働く力になるのかによって、本人にとっての意味は変わります。

100万円 本人にとっての意味
投資へ回して将来の金融資産を増やす方法 将来の金融資産
100万円の一部を旅行や体験へ使うこと 現在の経験
その100万円を預貯金として残す 安心
学び直しや専門性への投資 将来の働く力

だから、「この100万円を何へ投資すれば最も得か」と考える前に、「この100万円によって、何を守り、どの選択肢を増やしたいのか」と考える意味があります。

FPは幸福な生活を数字へ翻訳する

幸福を感じている未来の自分、その人物の判断基準、複数の未来に共通するもの、条件が悪くなったときにも守りたい最低条件まで見えてきたら、FPの知識を使って生活を数字へ変えていきます。

ここで初めて数字が登場するという意味ではありません。

途中ですでに収入、資産、住宅ローンなどを確認している人もいるでしょう。

この段階では、それまで考えてきた生活と現実の数字を一つにつなぎ、「本当に継続できるのか」を詳しく検証します。

たとえば、幸福な未来の自分が週4日働いているなら、その働き方で得られる収入を考えます。

現在の会社で勤務日数を変更するのか、転職するのか、独立するのかによって、収入だけでなく税金や社会保険なども変わるでしょう。

住まいも同じです。

郊外の静かな住宅で暮らしたいなら、物件価格や家賃だけではなく、固定資産税、修繕費、交通費などを含めて確認します。

反対に、都市部の住居費が高くても、通勤時間が短くなり、車を所有せずに済むなら、家賃だけを切り取って「高すぎる」と判断できない場合もあります。

旅行を大切にしている人なら、旅行費を「余ったら使うお金」にしなくてもよいでしょう。

本人が納得できる生活を構成する重要な支出であれば、最初から年間予算へ入れる方が現実的です。

教育についても、「一般的にはこのくらい必要」という平均値だけで決めず、本人や家庭が何を望んでいるのかを確認します。

安心を重視する人なら、手元資金も重要です。

何か月分の生活費があれば、急な失業や収入低下があっても「すぐにすべてが崩れるわけではない」と感じられるのかを検討します。

こうして仕事、生活費、住居、教育、旅行、健康、社会保障、金融資産などをつなぐと、未来の生活を成立させるための数字が見えてきます。

計算してみたら、想像していたより多くのお金が必要だと分かることもあるでしょう。

しかし、それは望む未来への不合格通知ではありません。

仕事量を減らす時期を3年後から5年後へ動かせばどうなるのか、住居費を少し調整すれば大切な支出を残せるのか、今から専門性を高めれば将来の労働時間を減らしても収入を維持できないかと考えます。

反対に、「思っていたほど大きな資産は必要ない」と分かる場合もあります。

そのときには、将来の安心をわずかに増やすためだけに、現在の時間や経験をどこまで削り続ける必要があるのかを見直せるでしょう。

FPが数字を使う意味は、本人の希望を削ることではありません。

何を守り、どこを調整すれば、自分が納得できる生活を経済的に続けられるのかを探すことにあります。

なお、ここで紹介している考え方は、すべての家計相談で最初に行うべきものではありません。

直近の生活費が不足している、多額の高金利債務がある、数か月以内に収入が途絶えることが分かっているなど、緊急性の高い問題がある場合には、未来の生活を考えることより先に、現在の資金繰りや返済、利用できる制度などへ対応する必要があります。

未来の価値観を考えることと、目の前の危機に対処することは役割が違います。

まず現在の生活を守らなければならない状況では、その対応を優先したうえで、生活が安定してから長期的なライフプランへ戻ればよいのです。

ライフプランは何度でも書き換えていい

幸福な未来の自分を丁寧に作っても、その人物が一生変わらないとは限りません。

人の価値観は、経験、年齢、健康、家族状況によって変わります。

30代には仕事で成長することに強い充実を感じていた人が、40代になると家族との時間や健康を以前より大切に感じることがあります。

反対に、子育てが一段落した後で、「これからはもう一度仕事へ力を入れたい」と思う人もいるでしょう。

それは、以前の自分が間違っていたという意味ではありません。

置かれている状況が変われば、納得できる生活の形も変わります。

だから、幸福な自分プロフィールも定期的に見直します。

以前は絶対に失いたくないと思っていたものを、今も同じように大切だと感じるでしょうか。

以前は肩書や年収を強く気にしていたのに、今ではそこまで重要ではなくなっているかもしれません。反対に、若い頃には意識していなかった健康や住環境が、現在では生活の中心になっている可能性もあります。

FP実務でも、プランは一度提示して終わるものではなく、顧客の状況、目標、経済・政治・規制上の環境変化などに応じて見直すプロセスが位置づけられています。

ライフプランは未来を固定する契約書ではありません。

その時々の自分と未来の自分をつなぎ直しながら、何度でも航路を修正するための設計図です。

まず幸福な未来の普通の一日を書いてみる

ここまで読んでも、「自分は何から始めればよいのだろう」と感じる人はいるでしょう。

最初から必要資産額を決める必要も、立派な価値観を言語化する必要もありません。

まず、数年後のある平日を一日だけ書いてみます。

朝何時ごろ起き、どのような気持ちで一日を始めているでしょうか。仕事をしているなら何時ごろまで働き、その仕事のどこに満足しているのか。仕事を減らしているなら、空いた時間を何に使っているのでしょう。

夕方から夜には誰と過ごし、休日には何を楽しみにしているでしょうか。

何には自然にお金を使っていて、反対に、以前ほど気にしていないものは何でしょう。

未来を考えること自体が難しければ、無理に想像する必要もありません。

最近の生活の中で「今日は良かった」と感じた一日や、「この時間はずっと残したい」と思った場面から始めます。

反対に、「お金も時間も使ったのに、思ったほど満足しなかった」と感じた経験を思い返してもよいでしょう。

現在の実感から出発し、「これが少し増えた未来ならどうだろう」と考える方法もあります。

未来の一日が見えてきたら、最後に一つ問いを置きます。

「その未来の自分という視点から今の生活を見たら、何をこのまま続けたいと思い、何については一度前提を疑ってみたいだろう」

ここで答えを出す必要はありません。

問いが一つ増えれば十分です。

「今の仕事を続けるしかない」と思っていた人が、「本当に続けたいのは仕事そのものなのか、それとも収入なのか」と考え始めるかもしれません。

「もっと貯めなければ」と思っていた人が、「自分は何を守るために貯めているのか」と問い直すこともあるでしょう。

そこで現在の収入、資産、住宅費、教育費などの数字を確認します。

難しければ、未来を捨てるのではなく、何を変えれば近づけるかを考えます。実現時期をずらすのか、働き方を変えるのか、固定費を調整するのか、今から準備しておく能力や資産があるのかを検討します。

ここで、価値観と数字を往復させます。

まず、数年後のある平日を 一日だけ書いてみます。 未来の一日が見えてきたら、 最後に一つ問いを置きます。 「その未来の自分という視点から今の生活を見たら、 何をこのまま続けたいと思い、 何については一度前提を疑ってみたいだろう」 そこで現在の収入、資産、住宅費、 教育費などの数字を確認します。 難しければ、未来を捨てるのではなく、 何を変えれば近づけるかを考えます。
ここで、価値観と数字を往復させます。

数字は必要です。

しかし、数字が自分の代わりに「どのような人生を送るべきか」まで決めてくれるわけではありません。

ライフプランで必要なのは、数字をなくすことではなく、数字を自分の人生の主人公から道具へ戻すことです。

「老後までにいくら必要ですか」という問いだけでは、自分に必要な答えが見つからないことがあります。

その前後に、「どのような生活なら、自分はこれでいいと思えるのか」という問いを置いてみる。

その生活が少しずつ見えてくれば、「では、その生活を続けるためにはいくら必要なのか」という数字にも、自分なりの意味が生まれます。

ライフプランは、人生を平均値へ近づけるための作業ではありません。

幸福な未来の自分を正解として信じ込む作業でもないでしょう。

自分が納得できそうな生活についていくつかの仮説を作り、現在の数字と照らし合わせ、違えば修正しながら、自分に合った生活とお金の関係を探していく。

それが、価値観からライフプランを考えるということではないでしょうか。

ライフプランと価値観に関するFAQ

ライフプランと価値観にはどんな関係がありますか

価値観は、「どのような状態なら自分は納得して暮らせるのか」を考えるための判断基準です。

ライフプランは、その価値観を働き方、住まい、家族、余暇などの具体的な生活へ落とし込み、その生活を経済的に続けられるか確認するための設計になります。

そのため、年齢や年収、家族構成、資産額が同じでも、仕事から強い充実を得る人と、自由時間を重視する人では、適した働き方や資金計画が同じになるとは限りません。

価値観だけで決めるのでも、数字だけで決めるのでもなく、双方を照らし合わせながら生活を具体化することが重要です。

自分の価値観が分からない場合はどうすればいいですか

「自分の価値観は何ですか」と聞かれても、すぐに答えられなくて当然です。

その場合は、「家族」「自由」「成長」といった言葉を無理に選ぶより、実際の経験から逆算すると考えやすくなります。

最近、「この時間は良かった」と感じた場面や、お金や時間を使ったのに「これは自分にはあまり必要なかった」と感じた出来事を思い返してみます。

未来を想像しにくい場合も、無理に10年後の生活を作る必要はありません。

最近満足した一日を思い出し、「こういう時間がもう少し増えたら、自分はどのような生活をしているだろう」と考えるところから始めてもよいでしょう。

具体的な生活場面を重ねるうちに、何度考えても残る人間関係、時間、活動、支出などが見えてくれば、それが自分にとって重要な価値観である可能性があります。

未来の自分は何年後を考えればいいですか

全員に共通する適切な年数があるわけではありません。

転職や働き方の変更など比較的近い選択を考えるなら3年後や5年後でもよく、仕事、住まい、家族など生活全体を考えるなら10年後を設定してもよいでしょう。

重要なのは年数そのものではなく、その未来の自分の普通の一日を具体的に想像できるかです。

遠すぎて別人のように感じるなら、もう少し近い未来から始め、必要に応じて先へ広げます。

未来の人物は予測ではなく仮説なので、後から何度変更しても構いません。

理想の未来が複数あっても大丈夫ですか

一つに決める必要はありません。

仕事へ力を入れている未来と、仕事量を減らして自由時間を増やした未来の両方に魅力を感じるなら、それぞれを具体的に作ります。

重要なのは、どちらが本当の自分なのかを判定することではなく、二つの未来に共通して残っているものを探すことです。

収入や勤務時間が違っていても、どちらの未来でも「自分で仕事を選べること」が残っているなら、「自分にとって重要なのは仕事への裁量なのではないか」という仮説を立てられます。

その仮説を現在の生活や数字と照らし合わせながら、本当に自分が大切にしたいものなのかを確認していきます。

未来の自分への手紙にはどんな効果がありますか

未来の自分へ手紙を書くことや、未来の自分の立場から現在へ手紙を書くことについては、関連する心理学研究があります。

千島雄太氏らの2021年の研究では、738人の参加者を三つの条件へランダムに割り当てた結果、未来への手紙と未来からの手紙の条件でネガティブ感情の低下が確認され、その変化には時間的距離化が関係していたと報告されています。

ただし、未来への手紙を書けば金融判断が正しくなったり、自分の本当の価値観を必ず発見できたりすると実証されたわけではありません。

ライフプランで利用する場合には、現在の感情や前提から少し距離を取り、別の見方ができないかを考えるための補助として捉えるのが適切でしょう。

FP相談では価値観まで話す必要がありますか

相談したい内容にもよりますが、自分に合ったライフプランを作りたいのであれば、価値観を共有する意味は大きいでしょう。

たとえば「住宅ローンを早く返したい」という希望だけでは、なぜ返したいのかは分かりません。

借金が残っていること自体へ強いストレスを感じる人もいれば、将来仕事量を減らしたいため固定費を軽くしたい人もいます。

理由が違えば、同じ繰上返済を検討する場合でも、どの程度の手元資金を残すか、資産形成とどう配分するかという判断は変わります。

価値観を話すことは、私生活をすべて説明するという意味ではありません。

どのような生活を守りたいのか、何にはお金を使いたいのか、どのような状態だけは避けたいのかを共有することで、数字を本人の生活へ合わせやすくなります。

ライフプランは最初から現実的な範囲だけで考えるべきですか

最終的には現実的な検証が必要ですが、最初から現在の年収、勤務先、住居をすべて変更できない条件として未来を狭める必要はありません。

一度望む生活を仮置きし、現在の収入、資産、負債、家族状況などを確認したうえで実現可能性を検討します。

難しければ、実現時期を変える、固定費を調整する、先に一定の資産を作る、働き方を変えられるよう専門性を高めるなど、別の方法を探せます。

重要なのは、「理想を考えてから数字を見る」という一方向の手順ではなく、望む生活と現在の数字を何度も往復することです。

ただし、生活費の不足や高金利債務など緊急性の高い問題がある場合には、まず現在の資金繰りやリスクへの対応を優先します。

現実を見ることは、望みを諦めるためではありません。

望む生活を、持続できる形へ近づけるために必要なのです。

参考資料

日本FP協会「ファイナンシャル・プランナー(FP)とは」
https://www.jafp.or.jp/aim/fptoha/fp/

日本FP協会「4つのEと6ステップ」
https://www.jafp.or.jp/aim/cfp/cfptoha/4e.shtml

京都大学「未来への手紙がネガティブ感情を軽減させることの効果を検証」
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-03-02-0

J-STAGE 日本教育心理学会第67回総会発表論文集「未来の自己への手紙がもたらす自己連続性」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pamjaep/67/0/67_416/_article/-char/ja

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