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共働き夫婦の必要保障額の計算方法 夫死亡時と妻死亡時を分けて試算

共働きなら、夫婦のどちらかに万一のことがあっても、世帯収入がすべて途絶えるわけではありません。それでも住宅ローンの返済や子どもの進学を思い浮かべると、「一人の収入だけで今の暮らしをどこまで守れるのだろう」と不安になることはあるでしょう。

そんなとき、最初から保険商品を探す必要はありません。先に確認したいのは、夫が死亡した場合と妻が死亡した場合に、これから必要となる支出を配偶者の収入や公的保障、預貯金などでどこまで補えて、最終的にいくら不足するのかです。

必要保障額を計算すると、輪郭のなかった心配が数字へ変わります。ただし、本当に役立つのは「必要保障額は○万円」と結果だけを知ったときではありません。なぜその数字になったのか、何歳までの生活を計算したのか、公的保障をどの期間まで入れたのか、預貯金を何のために残したのかまで分かることで、初めて自分たちの家計へ置き換えられます。

この記事では、子どものいる共働き家庭を想定し、必要保障額を8つの手順で整理します。その後、夫死亡時と妻死亡時の計算例を確認し、現在加入している生命保険との比べ方まで見ていきます。

ここで示すモデルケースには、計算方法を理解するための説明用の仮定値も含まれます。最終金額を「この家族なら必ずこの金額になる」と受け取るのではなく、何を足し、何を差し引き、どの前提によって結果が動くのかを理解するための計算例として使ってください。

目的は特定の保険商品を選ぶことではありません。万一のあとにも守りたい暮らしを考え、その暮らしを支えるために家計で不足する金額を、自分で試算できる状態を目指します。

TABLE OF CONTENTS
目次

必要保障額とは万一後の家計で不足する金額

必要保障額とは、家族の誰かが亡くなったあとに必要となる支出から、その後も得られる収入や活用できる資産を差し引いた不足額の目安です。

生命保険文化センターでも、家族構成や収入、資産状況、子どもの年齢などを踏まえながら、将来の支出見込額と収入見込額を積み上げて不足分を求める考え方が示されています。

たとえば、万一後に必要となる支出が8,000万円でも、残された配偶者の将来収入や遺族年金、勤務先の保障、活用できる資産などで7,000万円を補える見込みなら、不足額は1,000万円です。同じ8,000万円の支出でも、補える金額が5,000万円なら不足額は3,000万円になります。

だからこそ、「子どもが2人なら死亡保障は3,000万円」と平均的な数字だけで決めることはできません。

さらに、数字を出す前には「何を守りたいのか」も考えておきたいところです。

現在の家に住み続けたいのか、子どもの大学進学まで選択肢を残したいのか、それとも万一の場合には住み替えや生活水準の見直しを受け入れられるのか。家庭によって答えは違うでしょう。

「もし自分一人になったら」と考えるのは気の重い作業です。それでも不安を少し掘り下げると、単純に収入が減ることだけを怖がっているわけではないと気づく場合があります。今の家を手放したくない、子どもの進路を狭めたくない、仕事と育児を一人で続けられるのか分からない。そうした気持ちは、そのまま必要保障額の計算条件にもつながっています。

必要保障額は、不安を必要以上に膨らませるための数字ではありません。万一後にも残したい暮らしを金額へ置き換えるための試算です。

必要保障額の基本計算式

必要保障額は、次の式で整理します。

必要保障額 = 支出見込額 − 収入・資産見込額

ここでいう収入・資産見込額は、次のような項目の合計です。

収入・資産見込額 = 配偶者収入 + 公的保障 + 活用する資産 + 勤務先保障

計算結果がマイナスになる場合は、必要保障額を0円として考えます。

支出見込額には、死亡後の生活費、子どもの教育費、住宅費、葬儀などの一時的な費用を含めます。一方、収入・資産見込額には、残された配偶者の将来手取り収入、遺族年金、死亡退職金、万一後の不足補填へ実際に使う預貯金や金融資産などを入れます。

式そのものは複雑ではありません。計算を難しくするのは、何をどの期間まで入れ、どこですでに差し引いたのかを管理することです。

たとえば配偶者の給与を65歳到達前まで計算したのであれば、同じ給与を65歳以降にも重ねません。また、65歳以降の遺族厚生年金を含んだ総額を使いながら、別項目で老齢年金と遺族厚生年金をもう一度足すと、同じ年金収入を二度数える可能性があります。

預貯金についても同様です。教育費から教育用資金をすでに差し引いたなら、その資金を後でもう一度「使える資産」として差し引いてはいけません。

そのため必要保障額では、金額だけでなく、いつからいつまでの収入や支出なのか、どの項目で資産を充当したのかまで残しておきます。

必要保障額は未来の確定額ではありません。現在分かっている情報と一定の仮定を使い、「この条件なら家計はどうなるのか」を確認するシミュレーションです。

この記事の説明用モデルでは計算方法を追いやすくするため、物価上昇や賃金上昇、年金額の改定、資産の運用収益、将来金額の現在価値への割引は織り込まず、設定した金額を単純に積み上げます。

実際には、30年後の月15万円と現在の月15万円では購買力が同じとは限りません。給与や公的年金も将来ずっと現在と同じ金額で続くとは限らないでしょう。

それでも、この段階から物価や運用利回りまで細かく入れると、何が不足額を動かしているのかが見えにくくなることがあります。まずは単純なモデルで家計の構造をつかみ、実際の長期家計計画へ使う場合には、物価、賃金、年金改定、運用収益、現在価値などの前提もそろえて確認します。

ここから、必要保障額を出すまでの8つの手順を順番に確認します。

STEP1 現在の家族構成と家計を整理する

死亡後の生活を考える前に、現在の家計を整理します。

「毎月の生活費はいくらですか」と聞かれて、住宅ローンや教育費まで含めた金額しか分からない家庭もあるでしょう。給与についても、毎月の振込額は分かっていても、賞与込みの年間手取りになると曖昧なことがあります。

ここで入力する数字の意味をそろえておかないと、後の計算で同じ収入や支出を二度数える可能性があります。

家計記入シート

確認項目 世帯全体
年齢
職業
年間手取り収入(賞与込み)
毎月の生活費(住宅費・教育費を除く)
毎月の住宅費
年間教育費
預貯金
投資資産
住宅ローン残高
現在の死亡保障額

年間手取り収入は、賞与を含めた年間合計額として統一します。年間手取りへ賞与を含めた場合は、賞与を別に足しません。

また、毎月の生活費は、後で住宅費と教育費を別項目として計算するため、住宅費と教育費を除いた金額を入力します。

たとえば毎月の総支出が40万円で、その中に住宅ローン10万円と教育費3万円が含まれているなら、生活費として使うのは27万円です。

一見すると細かな区別ですが、結果には大きく影響します。年間手取り収入600万円に賞与100万円がすでに含まれているのに、毎年さらに100万円を足せば、20年間では2,000万円も将来収入を多く見積もることになります。

住宅費でも同じです。住宅ローンを含んだ生活費を使いながら住宅費を別途加えれば、今度は支出を二重計上します。

必要保障額では、難しい計算式よりも最初に数字の意味をそろえることが重要です。

子どもについては、現在の年齢や学年だけでなく、進路についての考えも残しておきます。「高校までは公立」「大学では自宅外通学も考える」といった程度でも、十分な計算条件になります。

すべてを一度に埋められなくても構いません。空欄が残れば、「ここはまだ確認していなかった」と分かります。

STEP2 死亡後の生活費を計算する

次に、夫または妻が死亡したあとに必要となる生活費を見積もります。

現在の生活費をそのまま将来まで掛けると、一人分の食費や被服費、本人の小遣いなどが減ることを反映できません。とはいえ、一人減ったから生活費も人数分だけきれいに減るわけではないでしょう。

電気代や通信費は半分になりませんし、残された配偶者の負担が増えれば、学童や家事代行、送迎などの新しい支出が生じる可能性があります。

生命保険文化センターの現行の計算例では、末子独立までの生活費を現在額の70%、末子独立後を50%として試算しています。また、同例では末子独立後35年間を計上し、その35年は妻53歳時点の平均余命を基に設定しています。これはあくまで計算例の条件であり、すべての家庭に共通する基準ではありません。

たとえば、住宅費と教育費を除いた現在の生活費が月30万円で、末子独立まで14年間とします。70%を使う場合は、

30万円 × 0.7 × 12カ月 × 14年 = 3,528万円

となります。

迷いやすいのは、末子が独立したあとの生活費を何年間計上するかです。

末子独立後の生活費を何歳まで見込むか

末子独立後について、「一律30年間」といった決まりはありません。残された配偶者について何歳まで生活費を見込むのかを決め、その期間を計算に使います。

この記事のモデルでは計算を追いやすくするため、末子独立後を30年間と仮定します。

妻33歳、末子8歳で、末子が22歳で独立するとすれば、そのとき妻は47歳です。そこから30年間なら、妻47歳から77歳到達までの生活費を見込むことになります。

独立後の生活費を現在の50%となる月15万円とすれば、

15万円 × 12カ月 × 30年 = 5,400万円

です。

この30年間は標準値ではありません。仮に計算期間を5年間延ばせば、月15万円の場合は900万円増えます。

「生活費を何割にするか」だけに目が向きがちですが、実際には何歳まで計算したかによっても結果は大きく変わります。必要保障額を保存するときには、終了年齢も一緒に残しておきましょう。

STEP3 子どもの教育費を見積もる

子どもがいる家庭では、教育費が必要保障額を大きく動かします。

ただし、「大学まで一人1,000万円」といった全期間の金額をそのまま使えば、すでに支払い終えた教育費まで再び計上する可能性があります。必要なのは、現在から先にかかる教育費です。

文部科学省の「子供の学習費調査」でいう学習費総額には学校外活動費も含まれるため、その数字を使ったうえで塾や習い事の平均費用をさらに加えると、二重計上になる可能性があります。

大学についても平均額は出発点にすぎません。文部科学省が公表した令和7年度の私立大学学部では、授業料の平均が968,069円、入学料が240,365円、実験実習料などを含む初年度学生納付金等の平均は1,507,647円です。

志望校が具体的になったら、その大学が公表する実際の学費へ置き換えるほうが精度は上がります。

教育費は残額と発生時期を分ける

長男が10歳、次男が8歳なら、それぞれについて現在から先の中学校、高校、大学などの費用を計算します。すでに支払い終えた幼児期や小学校低学年の費用は入れません。

さらに詳しく確認したい場合は、教育費が発生する時期も年表へ置きます。

今後2,000万円必要だとしても、明日に2,000万円が必要になるわけではありません。大学入学など、家計負担が大きくなる年があります。

そこまで整理すると、「長男の大学進学から数年間は住宅ローンと教育費が重なる」といった家計の山が見えてきます。

教育費そのものより、「その時期に自分一人の収入で払えるのだろうか」ということが不安の中心になっている場合もあります。発生時期まで見れば、その不安を総額とは別に確認できます。

STEP4 住宅費と住宅ローンを確認する

住宅ローンのある家庭では、残高を見るだけでは十分ではありません。

誰が債務者なのか、誰が団体信用生命保険の対象なのか、その人が亡くなったときにどの債務が弁済される契約なのかを確認します。

住宅金融支援機構の機構団信では、加入者が死亡し、所定の条件を満たした場合、残りの住宅ローンが全額弁済される仕組みがあります。

なお、住宅金融支援機構の機構団信と、民間金融機関などのペアローンでは契約の仕組みが同じとは限りません。

一般的なペアローンでは、一方が亡くなってその人自身のローンが団信で弁済されても、もう一方の借入れが残る場合があります。一方、どちらかに万一のことがあれば両方の残債を保障するタイプの団信もあります。

そのため、「団信あり」だけで判断せず、夫死亡時と妻死亡時のそれぞれについて、どの債務まで保障される契約なのかを確認します。

住宅を購入したときには理解していたつもりでも、数年たつと団信の細かな内容までは思い出せないことがあります。必要保障額を考えるときに必要なのは商品名を覚えていることではなく、「夫が亡くなったら何円残り、妻が亡くなったら何円残るのか」を確認できることです。

残った住宅ローンをどう扱うか

団信で弁済されず住宅ローンが残る場合も、残高を自動的に必要保障額へ入れるとは限りません。

万一後に死亡保険金や預貯金などで残債を一括返済したいなら、住宅ローン残高を一時的な支出として必要保障額へ加えます。

一方、残された配偶者がその後も毎月返済を続ける予定なら、残高全額を一度に計上するのではなく、今後の返済額を住居費として計算します。

どちらが正しいという問題ではありません。万一のあとにも今の家に住み続けたいとして、そのときローンまでなくしておきたいのか、それとも残された収入の範囲で返済を続けられると考えるのか。ここにも、その家庭が何を安心と感じるのかが表れます。

この記事の妻死亡時モデルでは、妻死亡時に残る住宅ローン2,000万円を一括返済する前提で支出へ計上します。そのため、この2,000万円とは別に将来の月々の住宅ローン返済を加えることはしません。

住宅ローンがなくなっても住宅維持費は残る

住宅ローン残高が0円になっても、住居費そのものがなくなるわけではありません。

持ち家であれば固定資産税が残り、マンションなら管理費や修繕積立金も必要でしょう。戸建てでも外壁や屋根、給湯設備などの修繕費が将来発生します。

そのため、この記事のモデルでは住宅ローンと住宅維持費を別項目として扱います。

夫死亡時にも妻死亡時にも同じ住宅へ住み続けるのであれば、共通する住宅維持費は両方のケースへ計上します。死亡した人によって変えるのは団信によるローンの扱いであり、同じ家を維持する費用まで消えるわけではありません。

ここから、必要保障額を出すまでの8つの手順を順番に確認します。 STEP2 死亡後の生活費を計算する STEP3 子どもの教育費を見積もる STEP4 住宅費と住宅ローンを確認する
ここから、必要保障額を出すまでの8つの手順を順番に確認します。

STEP5 その他の必要資金を整理する

生活費、教育費、住宅費まで確認すると、主要な支出はかなり見えてきます。それでも、万一直後には通常の家計にはない費用が発生する可能性があります。

葬儀や納骨などの一時費用、住み替える場合の引っ越し費用、残された配偶者が仕事を続けるための家事育児支援費などです。

子どもの結婚時に一定額を援助したいという家庭なら、その予定額を含めることもできます。ただし、世間の平均額だからという理由だけですべてを加える必要はありません。

必要保障額は平均的な家庭を再現するための数字ではなく、自分たちが守りたい生活を続けるために必要な支出を積み上げるものだからです。

支出と調整項目の確認表

項目 確認する内容
葬儀等の一時費用葬儀や納骨など実際に支出する予定額
家事育児支援費学童や家事代行などを利用する可能性
引っ越し費住み替える可能性
教育費塾代などを二重計上していないか
自宅外進学費家賃や仕送りの予定
住宅維持費税金や管理費や修繕費
車関連費維持費や買い替え予定
親への支援介護や仕送りを続ける可能性
本人分の支出減STEP2の生活費割合へ反映済みか確認
手元予備資金支出へ加えるか資産から除外するか一方で扱う

この表は、すべての項目を追加で足すための一覧ではありません。

たとえばSTEP2ですでに死亡後の生活費を現在額の70%や50%とし、本人分の食費や小遣いの減少を織り込んでいるなら、STEP5でもう一度「本人分の支出減」を差し引きません。

手元に残したい予備資金も同じです。

「万一後に500万円を残しておきたい」と考えた場合、その500万円を支出見込額へ予備資金として加える方法もあれば、現在の預貯金のうち500万円を必要保障額の補填へ使わない方法もあります。どちらか一方で扱い、同じ500万円を二度確保しないようにします。

安全側に見積もりたいと思うほど、「念のためこれも」と金額を重ねたくなるものです。しかし、慎重に計算することと、同じお金を二度数えることは別です。どこですでに反映した金額なのかを確認するほうが、結果を信頼しやすくなります。

STEP6 配偶者の将来収入を差し引く

支出を積み上げると、1億円を超える数字になることがあります。数字だけを見ると、「こんな金額は準備できない」と感じるかもしれません。

しかし、共働き家庭では、残された配偶者がその後も働いて得る収入があります。

ここで重要なのは総額だけではなく、給与収入を何歳まで計上するかです。

たとえば妻33歳が65歳到達前まで働くなら、その期間の給与収入を計算します。65歳以降の公的年金を別に計上するなら、同じ給与を65歳以降にも重ねないようにします。

65歳以降も働く予定なら、その給与を計算へ入れて構いません。その場合は、65歳以降の給与と公的年金の両方を同じ期間の収入として整理します。

配偶者収入は一つのケースで決めない

夫が亡くなったあと、小さな子どもを一人で育てるために妻が時短勤務へ変わる可能性があります。反対に現在は育児のため時短勤務でも、子どもの成長後にはフルタイムへ戻る家庭もあるでしょう。

そこで、一つの収入だけを正解と考えず、基本ケースと慎重ケースを作ります。

たとえば基本ケースの将来手取り収入が8,400万円で、数年間の時短勤務を含めると7,200万円になるとすれば、差は1,200万円です。ほかの条件が同じなら、必要保障額も約1,200万円動きます。

「必要保障額はいくらか」と考えているつもりでも、その裏側では「一人になったあとも、今と同じように働けるだろうか」という問いを考えていることになります。

だからこそ、結果の金額だけでは意味が足りません。その数字の後ろにある働き方の前提まで残しておきます。

STEP7 遺族年金などの公的保障を確認する

死亡後の生活費をすべて生命保険だけで準備する必要があるとは限りません。一定の受給要件を満たす場合には、遺族基礎年金や遺族厚生年金があります。

この記事の制度説明は2026年度の制度と金額を基準にしています。将来必要保障額を再計算するときには、その時点で適用される制度へ置き換えます。

2026年度の遺族基礎年金は、昭和31年4月2日以後生まれの子のある配偶者の場合、年額847,300円に子の加算額を加える仕組みです。1人目と2人目の子については各243,800円が加算されるため、対象となる子が1人なら年額1,091,100円、2人なら年額1,334,900円になります。

対象となる子には、原則として18歳になった年度の3月31日までなどの要件があります。そのため、現在の年金額を子どもが22歳になるまで同じように掛け続けることはできません。

遺族年金は期間ごとに分けて考える

必要保障額へ遺族年金を入れるときは、最初から「総額1,500万円」と置くのではなく、どの期間にどの給付があるのかを整理します。

期間 確認する公的保障
子2人が対象となる期間子2人として遺族基礎年金を計算
子1人が対象となる期間子1人として遺族基礎年金を計算
遺族基礎年金終了後から65歳前遺族厚生年金や加算の受給要件を確認
65歳以降自身の老齢年金と遺族厚生年金の調整を確認

公的保障は金額だけを見ると複雑に感じますが、期間を区切ると整理しやすくなります。「年金制度が難しいから全部分からない」で止まるのではなく、まず子どもが対象となる期間を確認し、その後を分けていきます。

遺族厚生年金は受給者の要件も確認する

遺族厚生年金は、亡くなった人の加入記録だけでなく、誰が受給者となるのかも確認します。

たとえば妻が死亡した時点で夫が55歳未満の場合、2026年時点の現行制度では夫自身に遺族厚生年金の受給権は発生しません。要件を満たす子どもがいれば、その子どもが遺族厚生年金の受給者となる場合があります。一方、夫は「子のある配偶者」として要件を満たせば遺族基礎年金の対象になります。

なお、遺族厚生年金は2028年4月から制度の見直しが予定されています。

2028年4月以降、18歳年度末までの子がいない60歳未満の男性は、原則5年間の有期給付の対象となります。一方、18歳年度末までの子を養育している間の給付内容は現行制度と同じとされ、子が対象年齢を迎えた後は、さらに5年間の有期給付や一定の場合の継続給付の対象となる仕組みです。

そのため、「2028年から60歳未満の夫なら死亡直後から一律5年間だけ受け取る」と考えるのは適切ではありません。子どもの有無や年齢によって取扱いが変わるため、2028年4月以降の妻死亡ケースを試算するときには、死亡時点で適用される制度を確認します。

「どちらも会社員だから、公的保障も同じくらいだろう」と考えたくなりますが、亡くなった人の加入記録だけでは決まりません。残された配偶者の年齢や子どもの有無、その時点の制度によって、誰がどの期間受け取れるのかまで変わります。

夫死亡時には、中高齢寡婦加算も確認します。

一定の要件を満たす妻には、40歳から65歳になるまでの間、遺族厚生年金へ中高齢寡婦加算が付く場合があります。2026年度の加算額は年635,500円です。

子どもが小さい間は遺族基礎年金を受け取れていたとしても、子どもの成長によってその給付が終了したあと、妻自身の生活が突然軽くなるわけではありません。教育費が残る家庭もありますし、長く育児を優先してきたために働き方をすぐ変えられない場合もあるでしょう。

そのため、「子どもの年金が終われば公的保障も全部なくなる」と単純に考えず、その後に受け取れる可能性のある給付も確認します。

中高齢寡婦加算については、2025年の制度改正により将来の廃止に向けて段階的に見直され、2028年4月から施行予定です。厚生労働省は、新たに受給を始める人から長期間かけて加算額を縮小していく仕組みを示しています。

施行日前からすでに受給している妻は見直しの影響を受けません。施行後は、新たに加算を受け始める年度が後になるほど加算額が2053年度まで段階的に縮小しますが、一度受け取り始めた後に毎年さらに減っていく仕組みではありません。

そのため、将来の夫死亡ケースを計算するときには、現在の635,500円をそのまま将来まで使うのではなく、実際に中高齢寡婦加算を受け始める時点の制度と金額を確認します。

制度改正の話が出てくると、「結局、自分では計算できないのでは」と感じるかもしれません。しかし、今の時点で何十年先の制度まで予測する必要はありません。現在の制度で一度試算し、再計算するときに制度部分だけを更新できるよう、前提を残しておくことが重要です。

65歳以降の公的年金は支出期間とそろえる

65歳以降の公的年金を収入見込額へ入れる場合は、自身の老齢年金と遺族厚生年金の調整を反映した受取見込額を使います。

65歳以上で自身の老齢厚生年金と遺族厚生年金の受給権がある場合には調整が行われるため、それぞれの年金額を単純に丸ごと足す計算にはしません。

また、配偶者の給与を手取り額で計算しているなら、公的年金についても年金の種類ごとの税金や社会保険料の扱いを踏まえ、家計へ実際に使える金額にそろえると比較しやすくなります。

老齢年金は課税対象となる場合がありますが、国民年金法や厚生年金保険法などに基づく公的な遺族年金は原則として所得税が課されません。

計算期間も支出側とそろえます。妻の生活費を77歳到達まで計算しているのであれば、65歳以降の公的年金も65歳から77歳到達までを対象にします。

支出を77歳到達時点で止めながら、それより後の年金収入だけを差し引けば、必要保障額を小さく見積もることになるためです。

STEP8 預貯金と勤務先保障を差し引く

最後に、家庭がすでに持っている資産や勤務先から受け取れるお金を確認します。

預貯金が1,000万円あれば、すべてを必要保障額から差し引きたくなるかもしれません。しかし、その中には死亡後の生活防衛資金や住宅修繕資金、老後資金として残したいお金もあるでしょう。

そこで、現在の資産残高と必要保障額の補填へ使う金額を分けます。

活用できる資産の記入シート

資産 現在額 必要保障額へ充当する額
普通預金500万円200万円
定期預金300万円300万円
投資資産400万円200万円
合計1,200万円700万円

この例では金融資産1,200万円のうち、死亡後の不足補填へ使うのは700万円です。残る500万円は、万一後も使わず手元に維持する生活防衛資金などとして確保します。

ここで、教育費と教育用資産の扱いを明確にしておきましょう。

たとえば今後の教育費が2,000万円あり、教育用として確保している預貯金が700万円あるとします。

教育費2,000万円をそのまま支出見込額へ計上する場合は、教育用預貯金700万円をSTEP8で活用する資産として差し引けます。

一方、STEP3で、

教育費2,000万円 − 教育用預貯金700万円 = 1,300万円

として、すでに資産を充当した残額1,300万円だけを支出見込額へ入れたのであれば、STEP8でもう一度同じ700万円を差し引いてはいけません。

重要なのは、そのお金を「教育用」と呼んでいるかどうかではなく、計算式のどこで一度差し引いたかです。

この記事のモデルでは、教育費2,000万円を支出側へ全額計上し、活用する預貯金700万円を収入・資産側で一度だけ差し引く方法に統一します。

生活防衛資金についても同じ考え方です。

この記事のモデルで手元に残す500万円は、万一後に実際に支出する金額ではありません。必要保障額の補填には使わず、その後も手元に維持する資産です。

一方、後ほどモデル表に出てくる300万円は、葬儀等の一時費用として実際に支出すると仮定した金額です。

つまり、このモデルでは300万円と500万円の役割を次のように分けています。

金額 扱い
葬儀等の一時費用300万円万一直後などに実際に使う支出
生活防衛資金500万円万一後も使わず手元へ残す資産

この二つは別の目的を持つため、同時に存在しても二重計上にはなりません。

ただし、自分の家庭で「葬儀費用も含めて500万円を手元に残したい」と考えているのであれば、300万円と500万円を別々に積み上げると重なる可能性があります。自分が残したい金額に何を含めているのかを確認してください。

勤務先については、死亡退職金や弔慰金などがあるかも確認します。「会社員なら何か出るだろう」と推測せず、勤務先の規程などから確認できる金額を使います。

ここまで整理すれば、全期間を単純に積み上げた必要保障額を計算する材料はそろいます。

ただし、この記事で最初に求めるのは、全期間の支出と収入・資産を合計した不足額です。年度途中の資金繰りまで保証する計算ではありません。

たとえば最初の5年間に500万円不足し、その後の給与などで500万円余る家計なら、全期間の総額では不足0円になる可能性があります。しかし、数年後にもらう給与を今日の大学入学金へ使うことはできません。

教育費が集中する時期や、時短勤務による収入減少と住宅費が重なる家庭では、総額を計算したあとに年ごとの収入と支出も並べ、途中で手元資金が不足しないかを別に確認します。

この二段階に分けると、「生涯全体では足りるのか」と「必要な時期に現金があるのか」を混同せずに確認できます。

夫死亡時の必要保障額を計算する

ここからは架空の共働き家庭を使って、8STEPで整理した項目を一つの計算へまとめます。

夫35歳、妻33歳、長男10歳、次男8歳とします。

末子は22歳で独立すると仮定するため、その時点で妻は47歳です。末子独立後については、妻47歳から77歳到達までの30年間を計算します。

夫死亡時には団信の条件を満たし、住宅ローン残高が弁済されるとします。ただし妻と子どもは現在の持ち家に住み続けるため、固定資産税や修繕などの住宅維持費は残します。

夫死亡時の支出見込額

支出項目 金額 対象期間と計算条件
末子独立までの生活費3,528万円月21万円×12カ月×14年
末子独立後の生活費5,400万円妻47歳から77歳到達までの30年間
今後の教育費2,000万円子ども2人の残り教育費を全額計上
住宅ローン残高0万円夫死亡時に団信で弁済される前提
将来の住宅維持費500万円現在の住宅を維持する説明用モデル値
葬儀等の一時費用300万円葬儀や納骨など実際に支出する説明用モデル値
支出見込額合計1億1,728万円

この300万円は実際に使う一時費用であり、後ほど資産から除外する生活防衛資金500万円とは別の金額です。

続いて、妻側の収入や資産を確認します。

夫死亡時の収入資産見込額

収入や資産 金額 対象期間と計算条件
妻の将来手取り収入7,500万円妻33歳から65歳到達前までの給与をまとめた説明用モデル値
遺族年金等1,500万円65歳到達前までの公的遺族給付を表す説明用仮定値
65歳以降の公的年金等1,000万円妻65歳から77歳到達までの説明用モデル値
活用する預貯金700万円教育費を含む家計不足へ一度だけ充当
夫の死亡退職金等300万円勤務先制度の説明用モデル値
収入資産見込額合計1億1,000万円

現在の金融資産を1,200万円とする場合、このモデルでは700万円を家計不足へ活用し、500万円は生活防衛資金として手元に残します。教育費2,000万円は支出側へ全額計上しているため、700万円をここで一度差し引くことに問題はありません。

ここでは、給与と公的な遺族給付は同じ期間に受け取る場合があるため、それぞれ別の収入として計上しています。一方、65歳以降については、自身の老齢年金と遺族厚生年金の調整を反映した金額へ切り替え、同じ年金収入を二重に数えないようにしています。

ただし、遺族年金等1,500万円は、この家族について実際の制度額を精密に再現した数値ではありません。

実際には、子どもの年齢に応じた遺族基礎年金、夫の厚生年金加入記録から見込まれる遺族厚生年金、条件を満たす場合には中高齢寡婦加算まで確認します。

今回の1,500万円は、その一連の計算を行う収入項目を示すための説明用仮定値です。

このモデルでは、

1億1,728万円 − 1億1,000万円 = 728万円

となり、全期間を単純合計した夫死亡時の必要保障額は728万円です。

妻の時短勤務などによって将来手取り収入が1,000万円減ると仮定すれば、ほかの条件が同じ場合の不足額は1,728万円へ増えます。

ここで見るべきなのは728万円という数字そのものより、配偶者収入や公的保障の前提を変えると不足額も動くことです。また、この728万円は全期間の総額なので、教育費が大きくなる時期に手元資金が足りるかどうかは年度別の収支で別に確認します。

妻死亡時の必要保障額を計算する

続いて同じ家庭で、妻が死亡した場合を考えます。

夫の年収が妻より高ければ、「妻が亡くなっても夫が働けば、経済的には何とかなるのでは」と感じるかもしれません。

ところが、死亡後に変わるのは給与だけではありません。

妻が担っていた家事や子どもの送迎を外部サービスで補えば支出が増えます。夫が育児のため働く時間を減らせば、将来収入も小さくなるでしょう。

さらに、このモデルでは妻死亡時には住宅ローンが団信で弁済されず、2,000万円残るものとします。残された夫が毎月返済を続けるのではなく、万一時に残債2,000万円を一括返済する方針として支出へ計上します。

そのため、住宅ローン2,000万円に加えて将来の月々のローン返済額を重ねることはしません。

夫と子どもはその後も現在の住宅へ住むため、住宅維持費500万円は夫死亡時と同じように残します。

妻死亡時の支出見込額

支出項目 金額 対象期間と計算条件
末子独立までの生活費3,528万円月21万円×12カ月×14年
末子独立後の生活費5,400万円夫49歳から79歳到達までの30年間
今後の教育費2,000万円子ども2人の残り教育費を全額計上
住宅ローン残高2,000万円妻死亡時に残るローンを一括返済する前提
将来の住宅維持費500万円現在の住宅を維持する説明用モデル値
家事育児支援費600万円学童や家事支援などの説明用モデル値
葬儀等の一時費用300万円葬儀や納骨など実際に支出する説明用モデル値
支出見込額合計1億4,328万円

こちらの300万円についても、万一後に実際に使う一時費用です。手元に残す生活防衛資金500万円とは別に扱います。

次に、夫側の収入や資産です。

妻死亡時の収入資産見込額

収入や資産 金額 対象期間と計算条件
夫の将来手取り収入9,500万円夫35歳から65歳到達前までの給与をまとめた説明用モデル値
遺族年金等1,200万円65歳到達前までの公的遺族給付を表す説明用の仮定値
65歳以降の公的年金等1,200万円夫65歳から79歳到達までの説明用モデル値
活用する預貯金700万円教育費を含む家計不足へ一度だけ充当
妻の死亡退職金等200万円勤務先制度の説明用モデル値
収入資産見込額合計1億2,800万円

ここでも、教育費2,000万円は支出側へ全額計上しているため、教育用を含めて活用すると決めた預貯金700万円は、収入・資産側で一度だけ差し引きます。

遺族年金等1,200万円については、制度上の実額を再現した数字ではありません。

このモデルの夫は妻死亡時35歳なので、2026年時点の制度では夫自身に遺族厚生年金の受給権は発生しません。一方、要件を満たす子どもがいれば、その子どもが遺族厚生年金の受給者となる場合があり、夫自身も「子のある配偶者」として要件を満たせば遺族基礎年金の対象になります。

2028年4月以降に妻が死亡した場合には、STEP7で確認した見直し後の制度へ置き換えます。子どものいる家庭について「夫は5年間だけ受給する」と単純に設定するのではなく、死亡時点の子どもの年齢と制度を確認します。

今回の1,200万円は、その作業を行うべき収入項目を示すための説明用仮定値です。

このモデルでは、

1億4,328万円 − 1億2,800万円 = 1,528万円

となり、妻死亡時の必要保障額は1,528万円です。

夫死亡時の計算例より800万円大きくなっていますが、この800万円を制度上確定した夫婦差と考えることはできません。両ケースの遺族年金に説明用の仮定値を使っているためです。

それでも、この比較から確認できることがあります。

妻死亡時には住宅ローンを一括返済する条件を置き、さらに家事育児支援費も加えています。一方、夫死亡時には団信によって住宅ローンが弁済される前提です。

したがって、妻の年収が夫より低いという理由だけで、妻死亡時の必要保障額も必ず小さくなるとは限りません。重要なのは800万円という差そのものではなく、夫婦それぞれの死亡後に発生する支出と受け取れる公的保障が異なるため、別々に計算する必要があるという点です。

必要保障額は複数のシナリオで確認する

必要保障額を計算すると、「では妻は1,528万円が必要なのか」と数字だけを覚えたくなるかもしれません。

しかし、今回のモデルには説明用の仮定値が含まれています。また、自分の家庭でも配偶者の働き方や教育方針は将来変化する可能性があります。

そこで、一つの金額を正解として固定するのではなく、条件を変えたときにどの程度動くのかを確認します。

説明用シナリオ比較

シナリオ 夫死亡時 妻死亡時
基本ケース728万円1,528万円
配偶者収入を1,000万円少なくしたケース1,728万円2,528万円
教育費を600万円増やしたケース1,328万円2,128万円

これらも制度上の実額を示す表ではなく、条件を変えたときに必要保障額がどのように動くかを見るための説明用シナリオです。

配偶者の将来収入を1,000万円少なく置けば、ほかの条件が同じなら不足額も1,000万円増えます。教育費を600万円増やせば、必要保障額も600万円増えるでしょう。

このように見ると、「どの数字が正しいか」よりも、「わが家では何が結果を大きく動かすのか」を考えやすくなります。

最初は「全部が心配」と感じていても、「うちは妻死亡時の住宅ローンと夫の働き方を確認したい」「教育費が集中する時期には手元資金が足りるかも見ておこう」と具体化できれば、不安との向き合い方も変わります。

計算後に確認すること

8STEPで必要保障額を試算したら、次はその結果を現在の家計へ戻します。

ここから行うのは、必要保障額そのものを出す計算ではなく、現在持っている保障との位置関係を確認する作業です。

現在加入している保険を整理する

先に保険証券を見ると、「保険料が高いから減らしたい」「保障額が少なく見えるから増やしたい」と、契約そのものから考え始めやすくなります。

必要保障額を先に試算しておけば、現在の保険は家計の不足見込みと比べるための情報として整理できます。

保険種類 契約者 被保険者 受取人 保障目的 保障期間 現在の死亡保障額 年間保険料 払込期間 主契約/特約
契約A
契約B
契約C

保障目的も残しておきます。同じ死亡保障1,000万円でも、子どもが独立するまでの生活費を目的とした保障と、葬儀などの一時資金を目的とした保障では役割が異なるからです。

複数契約がある場合は、夫死亡時に支払われる死亡保障と妻死亡時に支払われる死亡保障をそれぞれ合計します。

現在の保障と保険料の集計

確認項目 金額または計算結果
夫死亡時の現在死亡保障総額1,500万円
妻死亡時の現在死亡保障総額700万円
年間保険料合計____円
世帯年間手取り収入____円
保険料の手取り収入比率____%

保険料の手取り収入比率は、

年間保険料合計 ÷ 世帯年間手取り収入 × 100

で計算できます。

ただし、この割合が何%だから高すぎる、低すぎると一律に判断するものではありません。ここでの目的は契約の評価ではなく、現在の家計でどのくらいの保険料を負担し、どれくらいの死亡保障を持っているのかを事実として把握することです。

必要保障額と現在の死亡保障額を比べる

説明用モデルの必要保障額と現在の死亡保障額を並べると、次のようになります。

対象 説明用モデルの必要保障額 現在の死亡保障額 単純差額
夫死亡時728万円1,500万円+772万円
妻死亡時1,528万円700万円−828万円

夫死亡時の単純差額は+772万円、妻死亡時は−828万円です。

ここで、この差額をそのまま契約変更額にしないことが重要です。

今回の必要保障額には遺族年金などの説明用仮定値が含まれています。自分の家計で判断するときには、公的保障を自分の条件へ置き換えたうえで比較する必要があります。

さらに、この差額は全期間の総額比較です。

基本ケースで必要保障額が現在の死亡保障額より小さくても、教育費が集中する時期に手元資金が不足する可能性はあります。

夫死亡時に+772万円だから、その分の保障を減らすべきだとは判断しません。妻死亡時に−828万円だから、同額の生命保険へ加入するという意味でもありません。

住宅ローンを本当に一括返済するのか、配偶者の将来収入をどう見るのか、実際に受け取れる遺族年金はいくらなのか、必要な時期に手元資金があるのかを確認してから、不足額を更新します。

差額そのものより、「なぜ差が生まれたのか」へ戻れることに意味があります。

必要保障額と保険商品の判断を分ける

必要保障額が1,500万円ほど出ると、「では1,500万円の死亡保険へ入ればいい」と考えたくなるかもしれません。

しかし、必要保障額は家計上の不足見込みです。その不足を何で補うかは、次に考える問題になります。

預貯金を多めに使う家庭もあれば、配偶者の働き方によって補う家庭もあります。万一時には住宅ローンを一括返済せず、その後も返済を続けるという選択も考えられるでしょう。

反対に、教育費や生活防衛資金として現金を残したい家庭では、不足への備えを別に考える必要があります。

必要保障額が0円になった場合も、ただちに現在の保険を解約するという結論にはなりません。

必要保障額の試算では、死亡後に家計で不足する可能性がある金額と、その金額を生んでいる前提を整理します。そのあとで既契約を維持するか変更するかを考える場合には、保障期間や保険料、健康状態、契約条件など別の要素も確認します。

保険商品から家計を考えるのではなく、家計を整理してから保険商品を見るという順番を保つことが大切です。

必要保障額を再計算する

必要保障額は、一度出したら終わる数字ではありません。

子どもが成長すれば残りの教育費は減り、住宅ローン残高も返済によって小さくなります。預貯金が増えれば、自分たちの資産で補える金額も変わるでしょう。

一方で、子どもが増えたり、転職や時短勤務によって将来収入が変わったりすることもあります。公的制度も固定ではありません。

遺族厚生年金については2025年に成立した改正法に基づく見直しが2028年4月から施行予定です。将来の再計算では、その時点で適用される制度へ置き換えます。

家計の変化 主に見直す内容
子どもが生まれた生活費と教育費
子どもが進学した残り教育費と年度別資金繰り
住宅を購入した住宅ローンと団信と維持費
転職した将来手取り収入と勤務先保障
働き方を変えた配偶者の将来収入
預貯金が増減した活用できる自己資産
子どもが独立した生活費と教育費
公的制度が変わった遺族年金などの公的保障

何年ごとに必ず計算するという決まりはありません。

大きな変化が起きたときに見直し、それ以外でも数年に一度確認しておけば、現在の家計に近い数字へ更新できます。

以前は大きな不足が出ていた家庭でも、子どもの成長や住宅ローン返済、貯蓄の増加によって不足額が小さくなっているかもしれません。数字の変化を見ると、家計が積み重ねてきた時間も見えてきます。

必要保障額の前提条件シート

再計算しやすくするため、結果だけでなく前提条件を保存します。

項目 設定内容
試算日20XX年XX月XX日
制度の基準時点試算日時点の制度を使用
年間手取り収入賞与込みで統一
毎月の生活費住宅費と教育費を除外
物価や賃金の扱い説明用モデルでは現在額を単純積み上げ
年金額の改定説明用モデルでは織り込まない
資産運用収益説明用モデルでは織り込まない
現在価値への割引説明用モデルでは行わない
末子独立年齢22歳
独立前生活費現在額の70%
独立後生活費現在額の50%
夫死亡時の生活費期間妻47歳から77歳到達まで
妻死亡時の生活費期間夫49歳から79歳到達まで
夫死亡時の給与対象期間妻33歳から65歳到達前まで
妻死亡時の給与対象期間夫35歳から65歳到達前まで
教育方針高校まで公立 大学私立を想定
教育用資産支出側か資産側の一方で一度だけ差し引く
夫死亡時の団信残債弁済あり
妻死亡時の団信残債弁済なし
妻死亡時のローン方針残高2,000万円を一括返済
住宅維持費両ケースとも500万円
葬儀等の一時費用300万円 実際に使う支出
活用する預貯金700万円
手元へ残す生活防衛資金500万円 必要保障額の補填には使わない
遺族年金受給者と受給期間を分けて実額へ置換
中高齢寡婦加算受給開始時点の制度と金額を確認
65歳以降の公的年金老齢年金と遺族厚生年金の調整を反映
公的年金の税金年金の種類ごとの取扱いを確認
年度別資金繰り教育費などが集中する年を別途確認
次回確認時期進学や住宅や働き方や制度の変化時

数年後に必要保障額が変わったとき、この表があれば理由を追えます。

金額だけを保存するのではなく、どのように考えてその数字へたどり着いたのかを残すという感覚に近いでしょう。

必要保障額の計算を小さく始める

ここまで読むと、「やっぱり調べることが多い」と感じるかもしれません。

全部を一日で終える必要はありません。まずは賞与込みの年間手取り収入を確認し、住宅費と教育費を除いた毎月の生活費を出します。そのあとで預貯金と住宅ローン残高を調べれば、家計の輪郭はかなり見えてきます。

別の日に保険証券や団信の契約内容を確認し、遺族年金については子どもの年齢や受給者を確認しながら期間ごとに埋めていけばよいでしょう。

総額の必要保障額まで計算できたら、教育費が大きくなる数年間だけでも年ごとの収入と支出を並べてみます。すべての年を精密に予測しなくても、「大学進学時に手元資金が足りるか」という見方を加えるだけで、総額計算では見えなかった部分が分かります。

最初から完璧な計算表を作ろうとすると、資料を集めるだけで疲れてしまいます。それよりも、「住宅ローンまでは分かった」「預貯金のうち何円を残すか決めた」「次は遺族年金を確認しよう」と一項目ずつ進めるほうが現実的です。

全部を一日で終える必要はありません。 賞与込みの年間手取り収入 住宅費と教育費を除いた毎月の生活費 預貯金と住宅ローン残高
全部を一日で終える必要はありません。

最初は「もし一人になったら何が起きるのか分からない」という不安でも、確認するものが減るにつれて、その形は変わります。

未来を完全に予測することはできません。それでも、今の時点で確認できる支出や収入はあります。必要保障額の計算は、その数字を使って家族の将来を少し見えやすくする作業です。

共働き家庭の必要保障額でよくある質問

預貯金は全額差し引いてよいですか

必ずしも全額を差し引く必要はありません。

死亡直後にも手元資金は必要ですし、住宅修繕費や老後資金など、別の目的で残したいお金もあるでしょう。

預貯金1,000万円のうち300万円を生活防衛資金として残すなら、必要保障額の補填へ使うのは700万円と考えます。

ただし、同じ300万円を支出側でも緊急予備資金として加えている場合は二重計上になるため、支出として確保するのか、資産として残すのかを決めて計算します。

教育用の預貯金はどう計算しますか

教育費と教育用資産は、一度だけ相殺します。

教育費2,000万円をそのまま支出へ計上するなら、教育用預貯金700万円をSTEP8で活用する資産として差し引けます。

一方、教育費を計算する段階ですでに700万円を充当し、残り1,300万円だけを支出へ入れたのであれば、STEP8で同じ700万円をもう一度差し引きません。

「教育用のお金だから数えない」ということではなく、計算のどこで差し引いたのかを確認します。

妻死亡時も計算する必要がありますか

共働きなら妻死亡時も別に計算する意味があります。

妻の収入がなくなるだけでなく、夫の働き方が変わったり、家事育児を外部サービスで補う費用が増えたりする可能性があるためです。

住宅ローンの団信条件も夫死亡時と妻死亡時で異なる場合があります。公的保障についても、夫死亡時と妻死亡時で受給者の条件は同じではありません。

そのため、妻の年収が夫より低いからといって、妻死亡時の必要保障額も必ず小さいとは言えません。

遺族年金は必要保障額から差し引けますか

受給要件を満たし、受け取れると見込める金額なら収入見込額として計算できます。

給与を受け取っている期間でも遺族年金の受給要件を満たしていれば、それぞれを別の収入として計上します。

ただし、子どもの年齢や受給者の要件によって金額や受給期間が変わるため、同じ年額を将来まで掛け続ける計算にはしません。

また、2028年4月から遺族厚生年金の一部が見直される予定なので、将来の試算では再計算時点の制度を確認します。

中高齢寡婦加算とは何ですか

一定の要件を満たす妻の遺族厚生年金へ加算される制度です。

2026年度の加算額は年635,500円で、子どもの年齢要件によって遺族基礎年金が終了したあとなどに対象となる場合があります。

2028年4月以降は段階的な見直しが予定されています。そのため、将来の必要保障額を試算する場合には、現在の年635,500円をそのまま使うのではなく、実際に中高齢寡婦加算を受け始める時点の制度と金額を確認します。

遺族年金にも税金がかかりますか

公的な遺族基礎年金や遺族厚生年金は、原則として所得税が課されません。一方、老齢年金は公的年金等として課税対象になる場合があります。

必要保障額で給与を手取り額として計算しているなら、65歳以降の公的年金についても、年金の種類ごとの税金や社会保険料の扱いを確認し、家計へ実際に使える金額へそろえておくと比較しやすくなります。

団信があれば住宅ローン残高は0円でよいですか

死亡した人が団信の保障対象であり、死亡時に残債全額が弁済される契約であることを確認できれば、その範囲では住宅ローンを0円として計算できます。

ただし、契約によって条件は異なります。ペアローンでは一方の借入れだけが弁済される場合もあれば、どちらかの死亡で両方の残債を保障するタイプもあります。

さらに住宅ローンがなくなっても、固定資産税や管理費、修繕費などは残るため、ローン残高と住宅維持費を分けて考えます。

団信で弁済されない住宅ローンは全額入れますか

必ずしも残高全額を一時支出へ入れるわけではありません。

万一後に残債を一括返済するなら、住宅ローン残高を必要資金へ計上する方法があります。その後も毎月返済を続けるなら、残高全額ではなく今後の返済予定額を住宅費として計算する方法があります。

どちらの場合も、一括返済額と将来の返済額を同時に入れないよう注意します。

複数の生命保険はどう合計しますか

夫死亡時なら、夫が死亡した場合に支払われる各契約の死亡保障額を合計します。妻死亡時は妻について同じように確認します。

医療保険の入院給付金など、死亡とは異なる支払条件を持つ給付は死亡保障へ加えません。

収入保障保険など時間経過によって保障総額が変わる契約では、現在死亡した場合に受け取れる金額を確認します。

必要保障額が0円なら生命保険は不要ですか

計算上の必要保障額が0円になることはあります。しかし、その数字だけで現在の保険が不要だとは判断できません。

配偶者の収入を高く見積もりすぎていないか、生活費を計算する期間が短くないか、教育費や住宅維持費を漏らしていないか、預貯金を使いすぎる前提になっていないかを確認します。

さらに、全期間の総額が0円でも、大学進学などの時期に手元資金が不足する可能性があります。総額の試算が終わったら、支出が集中する年だけでも年度別の資金繰りを確認しておくと、結果の意味を判断しやすくなります。

何年ごとに再計算しますか

一律の年数に決まりはありません。

出産、住宅購入、転職、進学、子どもの独立、退職など、家計条件が大きく変わったときに再計算します。

住宅ローン残高や預貯金だけでなく、公的制度も時間とともに変わります。過去の試算をそのまま使うのではなく、再計算する時点の条件へ置き換えることが大切です。

まとめ

共働き夫婦の必要保障額は、夫婦をまとめて一つの金額にするのではなく、夫死亡時と妻死亡時を別の生活として計算します。

死亡後の生活費や教育費、住宅費などを整理し、残された配偶者の将来収入、公的保障、勤務先保障、活用できる預貯金などを差し引けば、不足額が見えてきます。

ただし、計算式が合っているだけでは十分ではありません。

年間手取り収入には何を含めたのか、給与をいつまで計上したのか、生活費を何歳到達まで見込んだのか、遺族年金にはどの期間の給付を入れたのかまで確認する必要があります。

さらに、同じお金を二度数えないことも重要です。

教育費2,000万円を支出へ全額入れたなら、教育用預貯金700万円を資産側で一度差し引けます。一方、教育費からすでに700万円を差し引いて1,300万円だけを支出へ入れたなら、同じ700万円を資産側でもう一度差し引きません。

今回のモデルでは、葬儀等の一時費用300万円と生活防衛資金500万円も明確に分けています。300万円は実際に使う支出であり、500万円は必要保障額の補填には使わず手元に残す資産です。

こうした区別は細かな会計処理のように見えますが、必要保障額を信頼できる数字にするためには欠かせません。

また、今回の計算で求めているのは全期間を単純合計した不足額です。

全期間では収入と支出が釣り合っていても、大学進学や時短勤務などが重なる数年間に現金が足りなくなることがあります。総額の必要保障額を出したあと、支出が大きくなる年について年度別の収支も確認すれば、「生涯では足りるか」と「必要なときにお金があるか」を分けて考えられます。

今回の説明用モデルでは、夫死亡時728万円、妻死亡時1,528万円となりました。

しかし、この数字そのものを将来の正解とは考えません。遺族年金には説明用の仮定値が含まれ、物価上昇や賃金上昇、年金改定、資産運用収益なども織り込んでいないからです。

見るべきなのは、どの前提を変えると不足額がどの程度動くのかです。

最初は「もし何かあったら全部足りないかもしれない」という輪郭のない不安でも、一つずつ条件を確認していけば、「住宅ローンをどうするか」「教育用の貯金をどこで使うか」「妻死亡時の公的保障はどうなるか」「大学進学時に手元資金が足りるか」と具体的な課題へ変わっていきます。

必要保障額は、保険商品を選ぶためだけの数字ではありません。万一のあとに家族がどんな暮らしを残したいのかを考え、その暮らしを支えるためのお金を見える形にする数字です。

参考資料

生命保険文化センター「万一の際に必要な保障額の算出方法と具体例」

日本年金機構「遺族基礎年金 受給要件・対象者・年金額」

日本年金機構「遺族厚生年金 受給要件・対象者・年金額」

厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」

国税庁「遺族の方に支給される公的年金等」

文部科学省「私立大学等の令和7年度入学者に係る学生納付金等調査結果」

住宅金融支援機構「債務弁済の手続」

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