「また知らない車が停まっています。管理組合で何とかしてください」
住民からこうした連絡を受けると、理事長や理事は早く結果を出さなければならないと感じます。本来の契約者が帰宅したのに自分の区画を使えず、別の駐車場所を探している状況なら、苦情が強くなるのも当然でしょう。
とはいえ、マンションの無断駐車で最初に必要なのは、強い警告でもレッカー移動でもありません。相手がルールを守っていないからといって、管理組合が何をしてもよいわけではないためです。必要なのは強硬さではなく、事実を確認しながら一段ずつ進める順序でしょう。
まず車両と現場を記録し、管理会社と情報を確認して、外部車両なのか居住者なのか来客なのかを整理します。そのうえで必要な警告を行い、改善しなければ理事会として次の対応へ進みます。警察、マンション管理士、弁護士などの力を借りるのは、問題の内容に応じてその先で判断します。
この記事では、今まさに無断駐車が起きて困っている理事長や理事が、最初の一手を間違えずに動けるよう基本対応から整理します。その後、警察相談、長期放置車両の所有者確認、管理規約の見直し、再発防止まで詳しく確認していきます。
マンション無断駐車でまずやる6ステップ
無断駐車を発見すると、「誰の車なのか」「すぐ移動させられないのか」という考えが先に浮かびがちです。住民から対応を急かされれば、理事会として何か目に見える行動を取りたい気持ちも強くなります。
しかし、最初から最も強い措置へ進む必要はありません。事実を固めながら一段ずつ対応した方が、管理組合として判断の根拠を残しやすく、後から住民や相手方へ説明するときにも迷いが少なくなります。
| 対応段階 | 主な担当 | 実施内容 | 判断するときのポイント |
|---|---|---|---|
| Step 1 発見 | 発見者 管理員 理事 | 車両と現場の状態を確認する | 緊急性を確認し車両には安易に触れない |
| Step 2 写真と記録 | 管理員 理事 | 車両 ナンバー 駐車位置 日時を記録する | 後から同じ事案を確認できる形にする |
| Step 3 管理会社確認 | 管理会社 理事会 | 登録車両や駐車場利用情報と照合する | 外部車両 居住者 来客の可能性を整理する |
| Step 4 警告 | 管理員 理事会 | 掲示や警告票で自主的な移動を求める | 車体を傷つけず根拠のない請求を書かない |
| Step 5 理事会対応 | 理事会 理事長 | 常習性と規約違反の内容を整理する | 個人判断ではなく管理組合として方針を決める |
| Step 6 外部相談 | 理事会 | 警察 マンション管理士 弁護士などへ相談する | 問題の種類に応じて相談先を選ぶ |
基本は「発見→写真・記録→管理会社確認→警告→理事会対応→必要に応じ専門家相談」です。
この順序を決めておくだけでも、無断駐車が発生するたびに担当者が一から考える状態を減らせます。「なぜすぐ撤去しないのですか」と住民から問われたときにも、何を確認済みで、現在どの段階にいるのかを説明しやすくなるでしょう。
まず車両と日時と場所を記録する
無断駐車を発見した際、最初に残すべきものは客観的な記録です。
「先月もこの車を見た」「いつも夜になると停まっている」といった住民の話は重要ですが、それだけでは常習性を正確に判断できません。理事が交代すれば、以前の役員が何を確認し、どのような注意をしたのか分からなくなることもあります。
そこで、車両全体が分かる写真と、ナンバープレートを判別できる写真を残します。区画番号、駐車禁止表示、周囲の建物や設備などが分かる構図も撮影しておけば、その車がマンションのどこへ停まっていたのかを後から確認しやすくなります。
無断駐車の記録で残したい内容
写真とともに、発見日時、確認場所、ナンバープレート、車種、車体色などを管理上必要な範囲で記録します。
長時間動いていない場合には、最初の発見時刻だけではなく、その後も同じ場所にあったことが分かるよう複数回の確認時刻を残します。これによって、数十分程度の誤駐車だったのか、何時間も区画を占有していたのか、さらに長期間の放置に近い状態なのかを区別しやすくなります。
同時に、無断駐車によって実際に何が起きたのかも書き留めます。「迷惑だった」という表現だけではなく、「契約者が午後7時から午後10時まで自分の区画を利用できなかった」「車路が狭くなり車両のすれ違いが難しくなった」と記録すれば、管理上の支障を具体的に示せます。
長期放置が疑われる車では、タイヤや車体の状態が継続性を考える補助材料になる可能性もあります。ただし、車内を細かく調べたり、窓やドアへ触れたりする必要はありません。記録する目的は相手を監視することではなく、管理組合が感情ではなく確認できた事実に基づいて判断することです。
無断駐車で最初に避けたい対応
無断駐車への不満が強くなると、住民や理事から強い対応を求める声が出ることがあります。「タイヤロックをかければよい」「レッカー車を呼べば早い」「高額な罰金を掲示すれば二度と停めない」といった意見が出ても不思議ではありません。
困っている契約者を目の前にすれば、すぐに何とかしたいと思うのも自然です。しかし、相手がルール違反をしていることと、管理組合が自由に実力行使できることは同じではありません。
勝手なレッカー移動は慎重に判断する
日本の判例では、自ら実力を用いて権利状態を回復する自力救済について、原則として法の禁止するところとし、緊急やむを得ない特別な事情がある場合に限って例外的に許されるという厳しい考え方が示されています。
したがって、一般的な無断駐車について「こちらの敷地なのだから、管理組合で自由に動かしてよい」と考えるのは危険です。
レッカー移動中に車体や駆動部分へ損傷が生じれば、その損害を巡って別の争いになる可能性があります。さらに、移動した車をどこへ置くのか、保管中に事故や盗難が起きた場合はどうするのかという問題も残るでしょう。
もっとも、「無断駐車車両はどのような事情でも絶対に動かせない」と別の方向へ単純化するのも適切ではありません。強制的な移動まで検討しなければ解決が難しい状態に進んだなら、管理組合だけで実行するのではなく、具体的事情を整理して弁護士へ相談する段階と考える方が安全です。
車両への警告票は設置方法にも注意する
無断駐車であることを知らせ、自主的な移動を求めるために警告票を使う場面はあります。
注意したいのは、警告そのものより設置方法です。強い粘着テープや糊でフロントガラスや車体へ直接貼り付け、粘着剤が残ったり塗装に損傷が生じたりすれば、無断駐車とは別の問題へ発展する可能性があります。
まずは掲示板、駐車場所周辺の表示、カラーコーンなど、車体に直接触れない方法を検討します。車両自体へ通知する必要がある場合にも、ワイパーへ無理なく挟むなど、損傷を生じにくい方法を選ぶとよいでしょう。
相手がルールを守っていない場面ほど、「こちらも強く対応したい」という心理が働きます。だからこそ、管理組合側は感情と実務を切り分け、後から自分たちの対応を説明できる方法を選ぶ必要があります。
根拠のない罰金表記を避ける
「無断駐車は罰金5万円」と表示すれば、抑止力がありそうに見えます。
しかし、管理組合が一方的に掲示した金額が、その表示だけで刑事上の罰金になるわけではありません。損害賠償や違約金として金銭を請求できるかについても、相手との契約関係、自マンションの規約、実際に発生した損害などによって判断が異なる可能性があります。
近隣駐車場の料金が損害額を検討する材料になる場面は考えられますが、「近隣相場なら必ず全額請求できる」と断定するのも避けた方がよいでしょう。
警告文では、確認できた事実と相手に求める行動を中心にします。「この区画は契約者専用です」「速やかに車両を移動してください」「改善されない場合には、状況に応じて警察や専門家への相談および法的対応を検討します」といった形で、実際に取り得る対応の範囲で伝えることが重要です。
外部車両と居住者と来客で対応を分ける
無断駐車をすべて同じ問題として扱うと、原因を見誤ることがあります。
外部から入り込んだ車と、居住者が空いていると思って利用している車では、同じ警告をしても意味が違います。来客用駐車場であれば、車の運転者だけではなく、その来客を招いた居住者へ説明する方が再発防止につながる場合もあるでしょう。
| 車両の区分 | 起こりやすい状況 | 最初の対応 | 改善しない場合 |
|---|---|---|---|
| 外部車両 | 外部利用者 長期放置 不審車両 | 記録 管理会社確認 警告 | 警察相談 所有者確認 専門家相談 |
| 居住者 | 契約外区画 二台目車両 空き区画利用 | 規約確認 個別注意 | 理事会対応 是正勧告 専門家相談 |
| 来客 | 長時間利用 連続利用 申請漏れ | 招いた住民へ利用ルールを説明 | 個別是正 使用細則見直し |
外部車両によるマンション無断駐車
管理会社が把握している登録車両や来客利用情報と照合しても該当者が分からない場合には、外部車両である可能性があります。
近隣施設の利用者が一時的に入り込んでいることもあれば、単純に駐車場所を間違えただけかもしれません。その段階で、直ちに悪質な侵入者だと決めつける必要はないでしょう。
まず自主的な移動を促し、それでも動かなければ記録を継続します。何日も放置されている、盗難車ではないかと疑われる、不審な事情があるといった場合には警察へ相談することも考えます。
愛知県警察は、道路交通法上の道路に当たらない典型的な私有地である月極駐車場への無断駐車について、駐車違反としての取締りはできないとしたうえで、警察署への届出を案内し、犯罪による被害品などではないか調査すると説明しています。
居住者によるマンション無断駐車
居住者による無断駐車では、「少しの時間なら問題ない」「いつも空いている場所だから使ってよい」と本人が考えていることがあります。
本人に強い悪意がない場合ほど、「なぜ自分だけ注意されるのか」と反発することもあるでしょう。しかし、正式に区画を契約し、駐車料金を負担している住民から見れば、無断利用が放置される状態は受け入れにくいものです。
ここで重要なのは、「理事長が気に入らないから注意した」という構図にしないことです。
自マンションの管理規約と駐車場使用細則を確認し、どの利用条件に反しているのかを示したうえで、管理組合として改善を求めます。一度の誤駐車なのか、注意後も繰り返しているのかによっても、その後の対応は変わります。
来客によるマンション無断駐車
来客用駐車場で特定の車が何度も長時間利用している場合には、車両への警告だけでは改善しないことがあります。
招いている住民自身が「来客用だから空いていれば自由に使える」と考えている可能性があるためです。
予約制、利用時間、許可証表示などのルールがあるなら、来客本人だけではなく招いた居住者にも説明します。無断駐車の原因がルールの認識不足であれば、警告を強くするより、なぜその場所を自由に使えないのかを理解してもらう方が再発防止につながるでしょう。
管理会社には何を依頼できるのか
無断駐車が発生するたびに理事長自身が現場へ出て、写真を撮り、車両を確認し、住民へ連絡するのは大きな負担です。本業や家庭の予定がある中で役員を務めていれば、「管理会社に任せられないのか」と思うのは自然でしょう。
ただし、管理会社がどこまで対応するかは、自マンションが現在締結している管理委託契約によって決まります。
最新の管理委託契約を確認する
国土交通省は2025年12月12日にマンション標準管理委託契約書を改正しています。改正後の資料は、2026年4月1日の制度施行に関連する内容も含めて公表されています。
そのため、「以前の標準管理委託契約書ではこうなっていた」という知識だけで、現在の管理会社の業務範囲を判断しない方がよいでしょう。
現場確認、登録車両との照合、来客利用情報の確認、掲示、理事会への報告などをどこまで依頼できるかは、実際に締結している現行の管理委託契約で確認します。
また、国土交通省の標準管理委託契約書はモデルです。標準契約に記載されている内容が、自マンションの管理会社との契約へそのまますべて組み込まれているわけではありません。
実務作業と意思決定を分ける
管理委託契約の内容によっては、現場確認や情報整理を管理会社へ依頼し、その報告を受けて理事会が対応方針を決める方法が現実的です。
一方で、管理会社だから当然に他人の車を強制撤去できるわけではありません。法的請求や訴訟上の代理についても、通常の管理業務とは分けて考える必要があります。
事実確認と日常的な実務は管理会社、管理組合としての意思決定は理事会、個別の法律判断は必要に応じて専門家というように整理しておけば、管理会社へ丸投げする状態も、理事会だけで抱え込む状態も避けやすくなります。
マンション敷地内の無断駐車を警察へ相談できるケース
「私有地だから警察は絶対に動かない」という説明は正確ではありません。一方で、「警察へ電話すれば必ず車を動かしてくれる」と考えるのも適切ではないでしょう。
ここでは、警察へ相談できるかという問題と、道路交通法上の駐車違反として取り締まれるかという問題を分けて考える必要があります。
道路交通法上の道路に当たらない私有地では取締りが異なる
愛知県警察は、月極駐車場への無断駐車について、私有地への無断駐車を駐車違反として取り締まることはできないと案内しています。
ただし、この説明を「私有地ならすべて道路交通法の対象外」と広げるのは適切ではありません。
警察庁は、道路交通法上の道路には公道だけではなく「一般交通の用に供するその他の場所」も含まれ、不特定の人や車が自由に通行できる私道、空き地、広場なども該当し得ると説明しています。
つまり、私有地かどうかだけではなく、その場所が実際にどのように使われているかを見る必要があります。
外部から自由に出入りできる場所と、ゲート内で居住者など利用者が限定されている場所では、道路交通法上の評価が異なる可能性があります。そのため、「マンション敷地内だから取締りできない」と管理組合だけで断定せず、道路性が問題になる場合には管轄警察署へ確認するとよいでしょう。
取締りができなくても警察相談が無意味とは限らない
道路交通法上の道路に当たらない私有地で、通常の駐車違反として取り締まれない場合でも、警察への相談が無意味になるわけではありません。
たとえば愛知県警察は、月極駐車場への無断駐車について警察署への届出を案内し、犯罪による被害品などではないか調査すると説明しています。
したがって、長期間動かない車両や、盗難車など犯罪との関係が疑われる車両については、警察へ状況を相談することが考えられます。
もっとも、警察が必ず所有者へ電話したり、必ずレッカー移動したりするとは限りません。事件性、緊急性、道路性、具体的な現場状況によって対応は異なります。
相談するときには「無断駐車なので撤去してください」と結論だけを伝えるより、いつから停まっているのか、どのような支障が出ているのか、犯罪性を疑う事情があるのかまで整理して説明する方が、状況を共有しやすいでしょう。
外部車両が長期間放置された場合の所有者確認
数時間の無断駐車ではなく、何日も車両が動かず、警告しても所有者が現れない状態になると、問題の性質が変わります。
「このまま誰も取りに来なかったらどうすればよいのか」と不安になる理事もいるでしょう。普通自動車については、状況によって登録事項等証明書を利用した所有者確認を検討する場面があります。
通常の登録事項等証明書請求では、自動車登録番号と車台番号下7桁の記載が必要です。
ただし、私有地における放置車両については例外的な取扱いがあります。関東運輸局の「自動車登録業務等実施要領」では、車両が放置されている場所、見取り図、放置期間、放置車両の写真を明確にできる場合には、車台番号を記載せず、自動車登録番号のみで請求できるとされています。
管理組合名義でそのまま請求できるわけではない
ここには実務上の重要な注意点があります。
同じ実施要領では、登録事項等証明書の請求者について「請求者個人の氏名及び住所」の記載が必要とされ、「法人による請求はできない」と明記されています。
したがって、「管理組合で扱っている問題だから、そのまま管理組合名義で証明書を請求すればよい」と考えるのは正確ではありません。管理組合法人についても、法人名義で当然に請求できる制度ではない点へ注意が必要です。
管理組合として所有者確認を進める必要がある場合でも、実際の請求制度では個人の氏名と住所が必要になります。誰が請求者になるのか、どのような請求理由を記載するのか、必要資料をどう整えるのかは、管轄する運輸支局へ事前に確認するとよいでしょう。
制度を利用できることと、管理組合そのものが請求主体になれることは別です。この違いを理解しておけば、窓口へ行ってから「法人名義では受け付けられない」と分かるような手戻りを減らせます。
放置車両の資料を時系列で整理する
所有者確認を検討する段階では、車両がどこへ置かれているのか、いつ最初に確認したのか、その後どの程度動かなかったのかをまとめます。
見取り図と写真に加え、警告した場合にはその日付や内容も記録しておくと、放置状況を説明しやすくなるでしょう。
なお、この取扱いは私有地における放置車両を前提としています。数時間の無断駐車を見つけただけで、同じ方法を使って当然に所有者情報を取得できるわけではありません。
居住者が無断駐車を繰り返す場合の理事会対応
相手が同じマンションの居住者なら、誰の車か分からないという問題は小さくなります。その代わり、心理的な難しさが出てきます。
毎日エレベーターで顔を合わせる人へ正式な警告を出すことに抵抗を感じる理事もいるでしょう。「関係が悪くなったら困る」と思い、注意を先延ばしにしたくなることもあります。
しかし、そのまま放置すると、今度はルールを守っている住民から「なぜあの人だけ許されているのですか」と問われます。
だからこそ、個人対個人の問題にしないことが重要です。
記録と規約を理事会で共有する
最初は、駐車場の利用条件や該当する規約を説明し、改善を求めます。
それでも同じ車両による無断駐車が続く場合には、発生日、駐車場所、警告内容、本人から説明があった場合にはその内容を時系列で整理します。
その記録を理事会で共有し、理事長一人の感情ではなく管理組合として対応方針を決めます。
法的な停止請求などまで検討する場合には、現行の区分所有法と自マンションの管理規約を確認し、具体的な事案を専門家へ相談する必要があります。
改正区分所有法は2026年4月1日に施行済みであり、e-Gov法令検索でも現在施行されている改正後の法律を確認できます。
来客用駐車場の占有は仕組みも見直す
来客用駐車場へいつも同じ車が停まっていると、「あの住民だけ無料の二台目駐車場として使っているのではないか」という不満が生まれます。
この問題では、利用者を注意するだけでは解決しない場合があります。なぜなら、運用そのものが曖昧である可能性もあるからです。
予約方法がなく誰が利用しているのか管理側で分からなかったり、利用時間の上限が定められていなかったりすれば、「空いている間は何日でも使える」と解釈する人が現れることがあります。
来客用駐車場の運用を具体化する
必要に応じて、利用申請、利用開始時刻と終了時刻、許可証の表示、連続利用の上限などを使用細則で具体化します。
ただし、他のマンションで「24時間まで」と決めているからといって、その数字をそのまま採用する必要はありません。
来客用区画の数、実際の利用頻度、周辺駐車場の状況などを踏まえ、住民が守りやすく、管理側も確認できる内容にすることが重要です。利用実態によっては予約システムや有料化を検討する方法もあります。
再発防止として管理規約と使用細則を見直す
目の前の車が移動すれば、その日の苦情はいったん収まります。
しかし、数か月後に同じ問題が起こり、再び理事会が最初から対応を考えているなら、個々の違反車両だけではなく管理の仕組みにも目を向けた方がよいでしょう。
「以前の理事長はこうした」「今回は違う」と担当者ごとに判断が変われば、ルールより人に依存した管理になってしまいます。
現在の区分所有法を前提に規約を確認する
改正区分所有法は2026年4月1日に施行されています。国土交通省は法改正などを踏まえ、2025年10月17日にマンション標準管理規約を改正しました。
国土交通省は、改正法に伴って規約改正などに関する総会の成立要件や決議要件が変更されることや、改正法に抵触する既存規約の規定について施行後に効力を失う部分があることも案内しています。
したがって、現在管理規約を変更するときに、以前の決議要件や古い解説だけを前提に進めるのは避けるべきでしょう。「これまでこの方法で総会を開いてきたから大丈夫」と思っていても、2026年4月1日以降の手続と一致するとは限りません。
一方で、古い管理規約がすべて無効になるという意味でもありません。現在の法令と抵触する部分を確認し、自マンション独自の規定については、なぜその内容が置かれているのか、現在も維持する合理的な理由があるのかを考える必要があります。
標準管理規約はひな形として使う
国土交通省はマンション標準管理規約を、各マンションが管理規約を作成または改正するときのひな形として示しています。
そのため、「標準管理規約と違うから、自マンションの規約は間違っている」と単純に判断する必要はありません。
平置き駐車場なのか機械式駐車場なのか、来客用区画があるのか、賃借人の利用をどのように扱っているのかによって、必要な規定は変わります。
無断駐車をきっかけに規約や使用細則を見直すのであれば、罰則の追加だけに目を向けるより、「誰が利用できるのか」「発見時に誰が記録するのか」「どの段階で管理会社から理事会へ報告するのか」「再発時に誰が判断するのか」を明確にする方が、日常の管理では役立つでしょう。
損害賠償と違約金は慎重に設計する
無断駐車を繰り返す人がいると、「高額な違約金を設定すれば止まるのではないか」と考えることがあります。
抑止力を設けたいという気持ちは理解できますが、金額を大きく書けばそのまま法的に有効になるわけではありません。
相手が駐車場契約を結んでいる人なのか、管理規約の適用を受ける区分所有者なのか、マンションと契約関係のない外部者なのかによって法律関係は異なります。
そのため、駐車場使用細則へ違約金や損害賠償に関する規定を置く場合には、誰を対象にするのか、どのような条件で発生するのか、金額に合理性があるのかを確認します。
「無断駐車なら一律○万円」と定めるだけではなく、契約関係や実際に生じる損害との関係を含めて専門家と検討する方が安全でしょう。
無断駐車を減らす物理的な予防策
無断駐車が起きるたびに警告を繰り返していると、理事会も管理会社も消耗します。
そこで、発生後の対応だけではなく、そもそも停めにくい環境を作る視点も必要です。
駐車禁止表示が分かりにくいのであれば、看板や路面表示の位置を見直します。外部車両の進入が多い場合には、チェーンやゲートなどの設備を検討できます。
来客用駐車場なら、許可証をダッシュボードへ表示する仕組みにすることで、正規利用車と無断利用車を見分けやすくなるでしょう。
防犯カメラを利用する場合には、無断駐車の確認に役立つ一方、撮影範囲、保存期間、閲覧権限なども整理しておく必要があります。
物理的な対策は、利用者を締め付けるためだけに行うものではありません。「ここは誰が使える場所なのか」「どこへ停めてはいけないのか」を初めて来た人にも分かる状態へすることも、大切な再発防止です。
管理組合だけで解決しない場合の相談先
無断駐車が長引くと、役員の精神的な負担も大きくなります。
理事会を開くたびに同じ車の話が出て、住民からも「まだ解決しないのですか」と言われ続ければ、「自分たちは専門家でもないのに、どこまで対応しなければならないのだろう」と疲れてしまうでしょう。
管理組合だけですべてを解決する必要はありません。通常の管理業務を超え始めたら、外部へつなぐことも管理組合として必要な判断です。
マンション管理士へ相談する
マンション管理士は、専門的知識をもって管理組合の運営その他マンション管理について相談に応じ、助言や指導などの援助を行う専門家として位置付けられています。
無断駐車だけでなく、駐車場使用細則の見直し、理事会の対応手順、管理会社との役割分担を整理するときにも相談できます。
「裁判をするほどではないが、現在の運用が適切なのか自信がない」という段階でも利用しやすい相談先でしょう。
マンション管理センターへ相談する
公益財団法人マンション管理センターでは、管理規約や管理組合運営に関する相談を受け付けています。
制度や一般的な管理運営の考え方を整理したい場合には有力な相談先です。
一方、個別の車両移動が適法か、具体的な損害賠償請求が可能かといった法的判断については、弁護士など別の専門家へ相談する必要があります。
弁護士へ相談する
所有者への正式な請求、内容証明郵便、損害賠償、訴訟、車両の強制移動などを具体的に検討する段階では、弁護士への相談が適しています。
「もう管理組合で動かすしかないのではないか」と感じ始めたときほど、実行前に法的な限界を確認した方がよいでしょう。
費用をかけることに抵抗を感じる理事会もあります。しかし、無理な実力行使をした結果、新しい紛争を抱えるより、重要な判断だけ先に専門家へ確認した方が、結果的に時間と負担を抑えられる可能性があります。
理事会用マンション無断駐車対応チェックリスト
無断駐車が起きるたびに対応方法が変わらないよう、最低限確認する事項を理事会と管理会社で共有しておくと実務が安定します。
| 段階 | 確認項目 | 実務で確認する内容 | 確認 |
|---|---|---|---|
| 初動 | 現場写真 | 車両全体 ナンバー 駐車位置を確認できるか | □ |
| 初動 | 日時記録 | 発見日時と継続時間を残したか | □ |
| 初動 | 支障確認 | 契約者利用 通行 管理業務への影響を残したか | □ |
| 確認 | 車両照合 | 登録車両や来客情報を管理会社へ確認したか | □ |
| 確認 | ケース分類 | 外部車両 居住者 来客を可能な範囲で整理したか | □ |
| 規約 | 根拠確認 | 現行の管理規約と駐車場使用細則を確認したか | □ |
| 警告 | 警告方法 | 車体を傷つけにくい方法を選んだか | □ |
| 警告 | 文面確認 | 根拠のない罰金や撤去の断定を避けたか | □ |
| 再発 | 履歴確認 | 過去の同一車両や警告履歴と照合したか | □ |
| 理事会 | 方針決定 | 理事個人ではなく理事会で対応を共有したか | □ |
| 外部相談 | 警察確認 | 道路性や犯罪性について相談が必要か確認したか | □ |
| 外部相談 | 所有者確認 | 長期放置車両なら登録事項等証明書の制度を確認したか | □ |
| 外部相談 | 請求者確認 | 法人名義で登録事項等証明書を請求しようとしていないか | □ |
| 再発防止 | 運用改善 | 使用細則や管理会社との連携に改善点がないか確認したか | □ |
このチェックリストは、すべての無断駐車を重大事件として扱うためのものではありません。
一度の誤駐車なら、案内や警告だけで終わることもあります。それでも、同じ車が再び現れたときに過去の経緯が残っていれば、「前にも見た気がする」という曖昧な話ではなく、確認できた事実をもとに次の対応を決められます。
無断駐車対応を小さく実践する
ここまで読むと、「これだけの仕組みを理事会で整えるのは大変だ」と感じるかもしれません。
最初から完璧な対応マニュアルを作る必要はありません。
まず次に無断駐車が起きたとき、写真、日時、場所、車両情報、発生した支障を同じ様式で残します。その記録へ、管理会社へ確認した内容と警告した日を追加していきます。
さらに次の理事会で、「再発したら誰へ連絡するのか」「どの段階で理事会の議題にするのか」を決めます。
この程度の小さな変更でも、担当者だけが事情を知っている状態は減っていきます。役員が交代しても経緯が残っていれば、次の理事会が過去を調べ直すところから始めずに済むでしょう。
対応後に無断駐車が減ったか確認する
警告を出した時点で「対応済み」としてしまうと、本当に問題が改善したのか分かりません。
一定期間が経過したら、警告前と比べて同じ場所で無断駐車が発生する頻度に変化があったかを記録から確認します。同じ車両が再び確認されている場合には、以前と比べて駐車時間や発生間隔がどう変わったのかまで見ると、警告が実際に機能したのか判断しやすくなるでしょう。
同時に、管理会社への連絡から現場確認までが予定した流れで進んだかを振り返ります。さらに、同じ場所や同じ車について住民から苦情が続いているかも確認すれば、表面的には件数が減っていても問題が残っていることに気付きやすくなります。
改善しているなら、現在の運用を継続します。反対に変化が乏しい場合は、すぐに警告を強くするのではなく、なぜ効果がなかったのかを考えます。
駐車禁止表示が分かりにくかったのかもしれませんし、来客用駐車場の申請方法が実態に合っていない可能性もあります。特定の居住者が意図的に違反を続けているのであれば、全体掲示ではなく個別の是正へ進む段階かもしれません。
改善しなかったという結果も、次の判断に必要な情報です。対応の効果を確認することは失敗を探すためではなく、続けるべき方法と変えるべき仕組みを見極めるために行います。
マンション無断駐車対応のよくある質問
- マンション敷地内の無断駐車でも警察に相談できますか?
-
相談できます。
ただし、警察へ相談できることと、駐車違反として取り締まれることは別です。
道路交通法上の道路に当たらない月極駐車場などでは、通常の駐車違反として取り締まれない場合があります。一方、私有地であっても、不特定の人や車が自由に通行する場所などは道路交通法上の道路に該当する可能性があります。
したがって、「マンション敷地内だから警察は関係ない」と一律に判断せず、道路性や事件性を含めて管轄警察署へ確認するとよいでしょう。
- 無断駐車の車に張り紙をしても大丈夫ですか?
-
警告する必要がある場面はありますが、車体を傷つけない方法を選ぶことが重要です。
強い粘着テープや糊によって塗装やガラスへ損傷を生じさせれば、無断駐車とは別の紛争になる可能性があります。まず周辺掲示などを検討し、車両へ通知する場合にも損傷を生じにくい方法を選びます。
- 管理会社に無断駐車車両を撤去してもらえますか?
-
管理会社だから当然に車両を強制撤去できるわけではありません。
管理会社の業務範囲は、自マンションが現在締結している管理委託契約によって決まります。
国土交通省は2025年12月12日にマンション標準管理委託契約書を改正しているため、現在の役割分担を確認するときには、最新版の標準契約書だけでなく、自マンションの現行契約も確認してください。
- 管理組合でレッカー移動できますか?
-
管理組合だけで安易に実行するのは避けた方がよいでしょう。
自力救済は原則として許されないという判例法理があり、レッカー移動では車体損傷や保管を巡る問題も生じる可能性があります。
具体的な強制移動を検討する段階では、敷地状況、契約関係、これまでの対応履歴を整理し、弁護士へ確認する方が安全でしょう。
- 同じ居住者が繰り返し無断駐車するときはどうすればよいですか?
-
発生日、駐車場所、警告内容、本人から説明があった場合にはその内容を時系列で整理します。
そのうえで自マンションの管理規約と駐車場使用細則を確認し、担当理事が個人的に注意を繰り返すのではなく、理事会として対応方針を決めます。
法的な停止請求などまで検討する場合には、2026年4月1日施行後の現行区分所有法を確認し、具体的な事案について弁護士へ相談するとよいでしょう。
- 私有地の放置車両は管理組合名義で所有者を調べられますか?
-
普通自動車の登録事項等証明書では、私有地に放置された車両について、放置場所、見取り図、放置期間、写真を明確にできる場合、自動車登録番号のみで請求できる取扱いがあります。
ただし、関東運輸局の実施要領では請求者個人の氏名と住所が必要であり、法人による請求はできないとされています。
そのため、管理組合法人を含め、管理組合名義で当然に請求できる制度ではありません。実際の請求者や必要資料については、管轄運輸支局へ確認してください。
- 来客用駐車場を住民が占有している場合はどう対応しますか?
-
まず現在の駐車場使用細則を確認します。
利用時間や申請方法が決められている場合には、来客本人だけでなく招いた居住者へもルールを説明します。
それでも同じ問題が続くなら、許可証、予約制、連続利用の上限、有料化などを含め、運用の仕組みそのものを見直すことが考えられます。
まとめ
マンションの無断駐車で管理組合が最初にすべきことは、車を強制的に動かすことではありません。
まず車両、日時、場所、実際に生じた支障を記録し、管理会社と連携しながら外部車両なのか、居住者なのか、来客なのかを整理します。その後、自マンションの管理規約と駐車場使用細則を確認し、警告から理事会対応へ段階的に進めます。
警察についても、「私有地だから関係ない」と一括りにするべきではありません。道路交通法上の道路に当たらない私有地では通常の駐車違反として取り締まれない場合がある一方、私有地でも利用実態によって道路交通法上の道路になる可能性があります。
長期放置された普通自動車の所有者確認では、登録事項等証明書に私有地放置車両向けの取扱いがありますが、法人名義による請求ができない点にも注意が必要です。
また、改正区分所有法は2026年4月1日に施行済みであり、国土交通省のマンション標準管理規約も2025年10月17日に改正されています。管理規約や総会手続を見直すときは、古い制度だけを前提にしないことが重要です。
一台の無断駐車を排除して終わるのではなく、記録を残し、対応後に実際に無断駐車が減ったのかまで確認する。その積み重ねによって、理事長一人の怒りや経験だけに頼らず、役員が替わっても同じ基準で落ち着いて対応できる管理組合へ近づいていくのではないでしょうか。
参考資料
マンション管理規約の現行モデルと2025年10月17日改正後の資料を確認できます。
管理会社との役割分担を検討するときに確認したい2025年12月12日改正後の公式資料です。
国土交通省 マンション標準管理委託契約書の策定・改正について
改正区分所有法の概要と2026年4月1日の施行について確認できます。
現在施行されている建物の区分所有等に関する法律を確認できます。
私有地を含む道路交通法上の道路の考え方を確認できます。
月極駐車場への無断駐車について、駐車違反としての取締りと犯罪関係車両の確認を分けて説明しています。
私有地放置車両における登録事項等証明書の請求条件と、法人による請求ができないことを確認できます。
マンション管理士の業務内容と法律上の位置付けを確認できます。
管理規約や管理組合運営について一般的な相談を行う窓口です。
公益財団法人マンション管理センター 管理規約・管理組合運営の相談
自力救済に関する最高裁昭和40年12月7日判決(昭和38年(オ)第1236号・占有回収等請求事件、民集19巻9号2101頁)の法理を確認できます。