管理会社への不満や管理委託費への疑問が生じたとき、すぐに管理会社変更へ進む必要はありません。本稿では、契約や業務の状態を確かめながら原因を整理し、改善、契約更新、管理会社変更、移行までを管理組合が判断するための流れを解説します。
管理会社見直しの判断軸
管理会社に日常の管理を任せているのに、なぜか安心できないことがあります。管理委託費の値上げを求められたとき、以前より清掃状態が気になるようになったとき、担当者から説明を受けても疑問が残ったとき、その一つひとつは最初こそ小さな問題に見えるでしょう。
ところが同じような出来事が続くと、「この管理会社へ任せたままで本当に大丈夫なのだろうか」という不安へ変わっていきます。専門会社なのだから任せておけばよいと思いたい一方、自分たちが暮らし、資産を持つマンションなのだから内容を確かめたいという気持ちも残ります。
こうした迷いが生じるのは、管理会社との問題を単純な良し悪しだけでは判断できないからです。
管理会社が契約した業務を十分に行っていない場合もあります。一方で、管理会社は契約どおり仕事をしているものの、契約内容そのものが現在のマンションに合わなくなっている可能性もあります。さらに、管理組合が期待している管理水準と、実際に委託しているサービスとの間に差が生まれているケースも考えられるでしょう。
そのため、理事会で意見が分かれることも珍しくありません。
「これだけ問題が続くなら管理会社を変えるべきだ」と考える人がいる一方、「長く付き合ってきた会社なのだから、まず改善を求めるべきではないか」と考える人もいます。
どちらかがマンションを大切にしていないわけではありません。不満を重く見る人もいれば、管理会社変更によって起こる混乱や費用増加を心配する人もいるからです。
問題になるのは、それぞれが異なる事実を前提にして議論することです。
管理会社への違和感が生じたら、その感情を無理に消そうとせず、「なぜそう感じたのか」を確認できる事実へ置き換えていきます。
担当者への不満なら、どの依頼について何日回答がなかったのか。清掃への不満なら、どの場所がどのような状態になっていたのか。管理委託費への疑問なら、何の費用がどれだけ変わったのかまで確認します。
そのうえで、問題を契約、仕様、履行、品質、費用へ分けます。
契約した仕事が行われていないなら履行改善を求めます。契約内容そのものが不足しているなら仕様を見直します。仕事は行われていても品質が低いのであれば、教育や確認体制を改善してもらう必要があるでしょう。
管理委託費が問題なら、金額だけを切り離して考えず、その費用によって提供されている業務まで確認します。
そして、改善できる可能性を確認してから管理会社変更を判断します。原因が管理仕様そのものにある場合、管理会社だけを変更しても同じ問題が再発する可能性があるからです。
もう一つ忘れてはいけないのが、何かを変えた後の確認です。
改善要求を出したこと、委託費について合意したこと、管理仕様を変更したこと、管理会社を変更したこと自体を成果にしてはいけません。
実際の管理状態がどう変わったのかを見る必要があります。
つまり管理会社見直しでは、感情を事実へ置き換え、原因を分け、改善可能性を確認し、実施後の変化を見るという流れが判断の軸になります。
管理会社を見直すことと、管理会社を変更することは同じではありません。
まず現在の管理を知ること。
そこが出発点です。
管理会社見直しの全体フロー
管理会社見直しでは、以下で説明する30項目すべてを最初から最後まで実施する必要はありません。
基本となる流れは、現在の契約と管理状態を確認し、問題の原因を判定したうえで改善を求め、その結果を見ることです。
改善して問題が解消すれば、その段階で見直しを終えることもできます。
一方、改善要求だけでは解決しない場合には、管理委託契約の更新条件や管理仕様を再検討します。それでも解決が難しいと判断した場合には、管理会社変更の必要性を検討し、候補会社の募集、見積比較、ヒアリング、総会、契約、引継ぎへ進みます。
全体を整理すると、現状確認から原因判定へ進み、改善、更新判断、変更判断、選定、移行、効果確認へつなげる流れです。
たとえば清掃への不満だけなら、清掃に関する契約内容を確認し、現場を評価して改善を求めるところで解決する可能性があります。
一方、複数の業務で履行上の問題が続き、改善要求を重ねても十分な対応が得られないのであれば、管理会社変更の検討まで進むことになるでしょう。
自主管理、管理業者管理者方式、小規模マンション、管理費と修繕積立金などについては、この基本フローへ追加して確認する論点として考えます。
現在の契約と費用を確認する
1 管理委託契約書レビュー
管理会社への違和感が生じたとき、最初に確認したいのが現在有効な管理委託契約書です。
長く同じ管理会社へ委託しているマンションでは、契約更新が毎年の定例作業になっていることがあります。「昨年も同じ契約だったから今回も大丈夫だろう」と考えているうちに、誰も内容を詳しく確認しなくなることもあるでしょう。
しかし、建物の状態も居住者の構成も少しずつ変わります。人件費や物価、管理業界を取り巻く環境も変化するため、以前は問題のなかった契約が現在のマンションにも適切とは限りません。
管理委託契約書では、管理会社へ委託している業務、契約期間、更新、中途解約、報告、再委託、管理委託費、緊急対応などを確認します。
重要なのは、条文をただ読むことではありません。
「この条項によって管理会社は具体的に何をすることになっているのか」と、実際の仕事へ置き換えて考えます。
国土交通省が公表しているマンション標準管理委託契約書は、契約内容を検討するうえで重要な参考資料です。ただし、それ自体が自分たちのマンションで成立している契約ではありません。
実際の権利義務を確認するときは、現在締結している管理委託契約書、覚書、変更契約などを確認します。
最初から契約書全体を読み解こうとすると負担が大きくなります。
まず、現在もっとも困っている業務を一つ選び、その仕事について契約上どこまで管理会社へ依頼しているのかを確認してみます。
その小さな確認によって、「管理会社が約束した仕事をしていないのか」「そもそも契約していない仕事まで期待していたのか」という違いが見えてくるでしょう。
2 管理委託仕様と業務内容の確認
管理会社の仕事内容が、必ず「管理委託仕様書」という名称の独立した書類にまとめられているとは限りません。
マンションによっては、管理委託契約書の別表、業務仕様書、清掃仕様、設備管理一覧など、複数の資料に具体的な仕事内容が記載されています。
そこで、契約書に加えて業務内容を具体化している資料を確認します。
たとえば管理組合では「共用廊下は十分に清掃してもらえる」と考えていても、実際の仕様を見ると清掃回数や対象範囲が限定されている場合があります。
この状態では、管理組合は「掃除をしてくれない」と感じる一方、管理会社は「契約どおり実施している」と考えます。双方が異なる基準を見ているため、話がかみ合いません。
管理員業務なら勤務時間、受付、巡回、点検立会いなどを確認します。清掃なら対象場所と頻度を見て、設備管理なら点検対象と実施回数を整理します。
「そこまでやってくれると思っていた」という気持ちが生まれたときほど、業務内容を具体化している資料まで戻ることが大切です。
期待と契約の差がわかれば、履行改善を求める問題なのか、仕様そのものを変更する問題なのかを分けられます。
3 管理委託費内訳分析
管理委託費を見て「高い」と感じても、総額だけでは本当に割高なのかわかりません。
そこで管理員業務費、清掃業務費、設備管理業務費、事務管理業務費などへ分け、それぞれ何の対価として支払っているのかを確認します。
さらに、管理会社自身が行っている仕事と、専門会社へ再委託している仕事も分けて考えます。
ここで気をつけたいのが、ほかのマンションとの単純な金額比較です。
戸数が同程度でも、管理員の勤務時間、エレベーターの台数、清掃範囲、共用施設などが違えば必要な費用は変わります。
特に小規模マンションでは、設備点検など戸数が少なくても一定額必要になる業務を少ない戸数で負担するため、一戸あたりの金額が高く見える可能性があります。
したがって、「平均より高いから問題だ」とすぐ結論づけることはできません。
まず現在の委託費を分け、その金額によって何が提供されているのかを確認します。
費用分析では最安値を探すことより、必要な管理品質と支払額の関係を把握することが重要です。
実際の管理業務を評価する
4 管理会社業務履行状況評価
契約書に仕事が書かれていても、実際にその仕事が行われているとは限りません。
そこで管理員日誌、清掃記録、設備点検報告書、月次報告書などを確認し、現場の状態と比較します。
ここでは、契約した業務そのものが行われていない状態、業務は行われているものの品質が十分ではない状態、契約どおり履行されているものの仕様自体が現在のマンションに合っていない状態を分けて考えます。
この違いを理解することが、管理会社評価では重要になります。
履行していないのであれば改善を求めます。品質の問題なら、教育や作業確認方法を変えてもらう必要があるでしょう。
仕様不足なら、契約条件そのものを見直します。
同じ「管理が悪い」という不満でも、原因によって次の行動は異なります。
5 管理員業務評価
管理員は、居住者がもっとも身近に感じる管理会社の存在です。
受付で質問したときの対応や日常の巡回に違和感が続けば、「管理会社全体の質まで落ちたのではないか」と感じることがあります。
ただし、管理員個人だけを問題にすると、本当の原因を見落とす可能性があります。
勤務時間に対して業務量が多すぎる場合もあれば、管理会社による教育や指示に問題があることも考えられます。
そこで受付、巡回、点検立会い、掲示物、管理日誌などへ分けて確認します。
気になった出来事があれば、日時と内容を残します。
すると「態度が悪い」という印象だけではなく、「この場面ではこのように対応してほしかった」という改善可能な話へ変えられます。
改善要求後には、管理員本人だけではなく、管理会社側の指導やフォローも確認します。
6 清掃業務評価
毎日使うエントランスの状態が以前より悪く感じられ、ゴミ置場なども気になり始めると、「管理費を払っているのに、どうして改善されないのだろう」と感じる人が出てきます。
その状態が続けば、清掃への不満が管理会社全体への不信感へ広がることもあるでしょう。
ただし、原因をすぐ清掃担当者個人の作業不足と決めることはできません。
清掃回数そのものが利用状況に合っていない可能性がありますし、限られた作業時間に対して担当範囲が広すぎる場合もあります。
そこで日常清掃と定期清掃について、対象範囲、頻度、作業時間を確認します。
最初は気になる場所を絞り、一定期間だけ状態を見てみます。
改善要求後に良い状態が維持できれば、作業方法や確認体制に原因があったと考えられます。
一時的に改善してもすぐ元へ戻るなら、清掃仕様そのものを検討する必要があるでしょう。
7 設備管理業務評価
設備管理では、「点検した」という記録だけを見て安心しないことが重要です。
給排水設備やエレベーターなどは、正常に動いているときには意識されません。しかし不具合が起きれば、生活への影響は急に大きくなります。
そこで確認したいのが、点検で指摘された問題のその後です。
過去の報告書を見ると、同じ指摘が毎回記載されている場合があります。
緊急性が低いため計画的に対応していることもありますが、検討が進まず対応が先送りされている可能性もあります。
指摘内容、重要度、対応方針、実施予定時期を整理します。
まず直近一年程度の報告書を並べ、繰り返されている指摘がないか確認してみるとよいでしょう。
設備管理の目的は点検を行うことではなく、点検結果を建物維持へつなげることです。
8 会計出納業務評価
管理費や修繕積立金は、区分所有者全員から預かった共同の資金です。
会計資料を見ると専門的に感じられ、「管理会社へ任せているのだから大丈夫だろう」と考えたくなることもあります。
それでも、実務を任せることと結果を確認しないことは同じではありません。
月次収支、預金残高、支払内容、未収金などについて、前月や予算から大きく変わった部分を確認します。
すべての会計処理を理解する必要はありません。
まず大きな変化がある金額から見ればよいでしょう。
特に外部管理者などへ広い権限を委ねる管理方式では、資金を扱う側と確認する側をどう分けるかも重要になります。
確認することは相手を疑うためではなく、安心して仕事を任せ続けるための仕組みと考えられます。
9 フロント担当者対応評価
管理会社の評価では、会社そのものとフロント担当者を分けて考えることも大切です。
担当者からの回答が遅かったり、説明を聞いても疑問が残ったりすると、「この管理会社は頼りにならない」と感じることがあります。
しかし、担当者本人の経験不足だけが原因とは限りません。
担当物件数や社内の支援体制に問題がある可能性もあります。
回答速度、説明力、議事録、提案力、課題管理などへ分けて確認します。
まず依頼事項と回答期限を記録するだけでも、「返事が遅い」という感覚を実際の日数で確認できます。
改善が見られない場合には、担当者だけでなく上席者を含めた会社としての対応を求めます。
10 管理会社月次報告内容の確認
月次報告書を毎月受け取っていても、形式的に保管するだけでは十分ではありません。
確認するときは、「前月から何が変わったのか」という視点を持ちます。
収支、未収金、設備不具合、清掃、管理員業務、居住者からの相談などを前月と比較します。
さらに重要なのが未解決事項です。
問題が書かれていても、誰がいつまでに対応するのか決まっていなければ翌月も同じ問題が残ります。
重要な課題について担当者と期限を確認し、翌月にはその結果を見るようにします。
月次報告を過去の記録ではなく、次の行動を決める資料として使うことで、管理会社との関係も変わります。
改善できる問題かを確認する
11 管理会社改善要求事項整理
問題の原因が見えてきたら、管理会社へ改善を求めます。
ここで注意したいのは、理事会で出た不満をそのまますべて伝えないことです。
清掃、担当者、設備管理などの不満が混ざると、管理会社側も何から対応すればよいかわからなくなります。
そこで、確認した事実、関係する契約や仕様、求める改善、回答期限を整理します。
「もっとしっかりしてください」という要望では改善基準がわかりません。
一方、具体的な出来事と求める状態を示せば、双方が同じ課題について話せます。
重要な要求は書面や議事録などに残し、回答後には実際に改善したかを確認します。
12 管理委託契約更新条件の検討
管理委託契約の更新は、単なる契約期間の延長ではありません。
次の契約期間にどのような管理を行うのかを決め直す機会です。
現在うまくいっている業務まで変える必要はありません。
一方、不満が継続している業務や、利用状況が変わったサービスは見直す余地があります。
また、管理会社側から更新を断られることもあります。
突然通知を受ければ、「自分たちの運営が悪かったのだろうか」と理事長が考え込んでしまうかもしれません。
しかし、最初に責任を決める必要はありません。
不更新なのか中途解約なのかを確認し、契約終了日と根拠条項を把握します。
そのうえで現管理会社との協議と後継会社の検討を並行して進め、日常管理に空白をつくらないことを優先します。
13 管理委託費値上げ要請の検証
管理会社から委託費の値上げを求められると、理事会では意見が割れやすくなります。
人件費や物価が上昇しているのだから仕方がないと考える人もいれば、「なぜこの金額まで上げる必要があるのか」と疑問を持つ人もいます。
この場面で重要なのは、その場で結論を出さないことです。
まず値上げの背景と内訳を確認します。
費目ごとの現在額と改定額、人件費増加の理由、再委託先からの価格改定などを整理します。
値上げが必要となる事情が存在することと、提示された増額幅のすべてが妥当であることは別の問題です。
説明を聞いた後はいったん理事会へ持ち帰り、管理組合として判断します。
さらに、委託費を増額した条件で管理委託契約を更新する場合には、金額交渉とは別にマンション管理適正化法第72条の手続を確認する必要があります。
国土交通省の運用では、従前と同一の条件に含まれる軽微な変更として、業務内容などを同じにしたまま委託費を減額する場合などが示されています。一方、委託費を増額する変更はその例には含まれていません。
そのため、委託費を増額して更新する場合は、安易に従前と同一の条件での更新として扱わず、原則として第72条第1項に基づく重要事項説明会を含む手続を確認します。
これまでと同じ管理会社だから前年と同じ進め方でよいと思ってしまうと、金額だけ合意して契約手続の確認が後回しになることがあります。
値上げの妥当性を判断する作業と、変更後の契約条件に必要となる法定手続を行う作業は別のものです。
金額がまとまったところで安心せず、更新手続まで含めて確認することが重要です。
14 管理仕様変更の検討
委託費の上昇に対しては、値下げ交渉以外の方法もあります。
現在の管理仕様そのものを見直す方法です。
管理員の勤務時間、清掃回数、紙資料の作成などについて、現在と同じ形を続ける必要があるか確認します。
ただし、最初に費用削減額を決めると、必要な管理まで削る可能性があります。
そこで維持したい管理水準を先に決めます。
その後、利用頻度の低い業務や別の方法へ置き換えられる仕事を探します。
変更後には必ず状態を確認します。
費用が下がっても苦情やトラブルが増えたのであれば、望ましい見直しだったとはいえません。
15 再委託状況の確認
清掃や設備管理などは、管理会社から専門会社へ再委託されている場合があります。
再委託自体に問題があるわけではありません。
確認したいのは、実際の作業者と、管理会社がその品質をどう確認しているかです。
一部業務について、管理組合が専門会社へ直接発注する方法もあります。
中間的な費用を抑えられる可能性がある一方、契約管理や業者との調整を管理組合が担うことになります。
金額だけを見るのではなく、これまで管理会社が担っていた仕事のうち何が管理組合へ戻るのかを確認する必要があります。
16 緊急対応業務の確認
漏水や設備故障は、理事会の日程を待ってくれません。
夜間に突然連絡を受け、どこへ連絡すればよいかわからない状態になれば、役員の負担も大きくなります。
そこで平常時に、緊急連絡先、受付時間、現場出動条件、費用、専門業者への連絡方法を確認します。
「24時間対応」と書かれていても、電話受付だけなのか現場出動まで含むのかで意味は変わります。
実際にトラブルが起きた後には、初動から報告までを振り返り、次回の対応へ反映します。
管理会社変更が必要かを判断する
17 管理会社変更必要性の診断
改善を求めても状態が変わらなければ、「もう管理会社を変えたほうがよい」と感じるでしょう。
その気持ち自体を否定する必要はありません。
ただし、変更によって本当に問題が解決するかを確認します。
現在の管理会社の履行能力が原因なら、変更には意味があります。
一方、原因が管理仕様にあるなら、新しい会社へ変えても同じ問題が起こる可能性があります。
さらに、新しい管理会社のほうが高額になることもあります。
そこで、「管理会社を変えたい」ではなく「何を改善したいために変えるのか」と考えます。
この一文が明確になるほど、変更の必要性も判断しやすくなるでしょう。
18 管理会社変更方針策定
管理会社を変更すると決めても、次の管理体制が決まる前に現在の契約を終わらせるのは危険です。
会計、清掃、設備点検、緊急対応などに空白が生じる可能性があります。
そこで変更方針と移行計画を同時に作ります。
価格、担当者、提案力、現場品質など、次の会社へ何を求めるのかを決めます。
さらに候補募集、比較、総会、契約、引継ぎまでの日程を整理します。
管理会社変更とは、現在の会社を辞めることではありません。
現在の管理を止めずに次の管理へつなぐことです。
19 管理会社募集要項作成
候補会社を募集するときは、マンション概要、現在の管理条件、提出資料、選定方法、スケジュールなどを整理します。
条件が会社ごとに違えば、後から公平に比較できません。
そのため、候補会社へ渡す基本情報を統一します。
小規模マンションなどでは、依頼すれば必ず多くの会社が応募するとは限りません。
管理会社も採算や人員体制を見て受託可否を判断します。
管理組合が会社を選ぶだけでなく、会社側からも長く受託したいと思われる管理体制を整える視点が必要です。
20 管理仕様書とRFP作成
候補会社を比較するときは、可能な限り同じ条件で見積もりを求めます。
そこで管理仕様書やRFPを作成します。
管理員、清掃、設備、会計、理事会支援、緊急対応などについて条件を整理します。
必ず維持してほしい条件と、候補会社から提案を受けたい部分を分ける方法もあります。
RFPを作る過程で、「管理会社を変えること」が目的ではなく、「どのような管理を実現したいか」が目的だったと再確認できるでしょう。
候補管理会社を比較して選定する
21 候補管理会社を募集する
候補会社は、知名度だけで選びません。
管理実績、担当者体制、緊急対応、現場スタッフの教育などを確認します。
大手会社にも地域型会社にも、それぞれ異なる特徴があります。
重要なのは、自分たちのマンションに合う体制を持っているかです。
候補数を増やすことより、比較可能な会社から同じ条件で提案を受けることを優先します。
マンション管理士などの専門家へ依頼している場合には、候補会社の抽出や募集条件の整理を支援してもらう方法もあります。ただし、最終的に何を重視して会社を選ぶのかは、管理組合側で共有しておく必要があります。
22 管理会社見積比較
見積書が届くと、最初に合計金額へ目が向きます。
しかし、管理員勤務時間や清掃回数が違えば、総額だけでは正しく比べられません。
業務条件をそろえ、項目ごとに比較します。
安い会社には安い理由を確認し、高い会社についても何が含まれているため高いのかを見ます。
価格差の理由まで把握できれば、その金額に見合う管理なのかを判断できます。
23 候補管理会社へヒアリングする
提案書だけでは、実際の対応力まではわかりません。
そこで現在抱えている問題を具体的に示し、「この状況ならどのように対応しますか」と質問します。
可能であれば、実際の担当予定者についても確認します。
各社へ共通する質問を準備すると比較しやすくなります。
ヒアリング後には、回答内容だけでなく「なぜ安心したのか」「どこに不安が残ったのか」も記録しておくとよいでしょう。
数字では表しにくい感覚も、理由まで言葉にできれば選定材料として扱えます。
24 管理会社評価表作成
候補会社にはそれぞれ長所があります。
価格ではA社、担当者ではB社というように迷うこともあるでしょう。
そこで価格、提案力、担当者、現場体制、緊急対応などを評価表にします。
ただし、最高得点の会社を自動的に選ぶ必要はありません。
評価表は判断を代行するものではなく、理事会が何を重視しているのかを共有するための資料です。
点数と一緒に理由を残せば、総会でも選定経緯を説明しやすくなります。
25 総会で管理会社を選定する
理事会では長期間検討していても、一般の区分所有者には突然の管理会社変更に見えることがあります。
そのため、現在の問題、改善要求の経緯、候補会社の募集方法、比較結果、費用、移行予定などを整理して説明します。
管理委託契約の締結は、令和7年改正マンション標準管理規約では総会の決議事項として整理されています。
一方、管理委託契約を締結することと管理規約を変更することは同じではありません。
国土交通省が2026年4月1日以降の総会招集について示している案内には、管理規約を改正する場合の手続を説明した部分があります。管理会社選定や管理委託契約締結のすべてを、規約変更と同じ特別決議とする趣旨ではありません。
実際の総会では、今回の議案内容、現行の区分所有法、そのマンションで有効な管理規約を確認して必要な定足数と決議要件を判断します。
管理会社変更と同時に規約変更や管理方式変更を行う場合には、議案ごとに決議要件が異なる可能性があります。
総会では採決だけでなく、「なぜこの会社なのか」という判断過程まで共有することが重要です。
新しい管理体制へ移行する
26 旧管理会社から引き継ぐ
新しい会社が決まると、「ようやく終わった」と感じるかもしれません。
しかし、実務ではここから引継ぎが始まります。
会計資料、管理規約、議事録、設備資料、契約書、図面、鍵、居住者情報などを確実に移します。
さらに重要なのが、進行中の問題です。
設備不具合、未収金、居住者からの相談、発注途中の工事などが引き継がれなければ、資料だけそろっていても管理が途中で切れてしまいます。
引継ぎ項目を一覧化し、重要な受渡しは記録します。
引継ぎとは書類を運ぶ作業ではなく、マンション管理を切れ目なくつなぐ作業です。
27 新管理会社へ移行する
管理会社を変更すれば、すぐ問題が解決すると期待したくなります。
しかし、新管理会社にも建物の特徴や過去の経緯を理解する時間が必要です。
開始後には問題や質問を記録します。
一か月程度で一度確認し、さらに数か月後にも振り返ります。
以前問題だった担当者対応、清掃、報告などがどう変わったのかを確認します。
会社変更そのものではなく、最初に改善したかった問題が解決したかを成果として見ることが重要です。
管理方式そのものを見直す場合
28 自主管理から委託管理へ移行する
自主管理を長く続けてきたマンションでは、「自分たちで守ってきた」という思いがあります。
会計に詳しい人や設備をよく知る人が、長年責任を持って管理してきた場合もあるでしょう。
その一方、高齢化や役員不足が進むと、「このやり方をあと何年続けられるだろう」という不安が生まれることもあります。
そこで現在の業務を洗い出します。
会計、清掃、設備、契約、総会支援などについて、外部へ任せたい部分と管理組合に残したい部分を決めます。
委託管理へ移ることは、これまでの自主管理を否定することではありません。
これまで続けてきた管理を、次の世代にも引き継げる形へ組み替える作業と考えることができます。
29 委託管理から自主管理への移行を検討する
管理委託費の値上げをきっかけとして、自主管理を考える場合もあります。
確かに委託費は減る可能性があります。
しかし、管理会社が行っていた会計、設備、契約、緊急対応などの仕事がなくなるわけではありません。
その仕事を誰が担うのかを具体的に考えます。
全面的な自主管理だけでなく、一部業務だけ外部へ委託する方法もあります。
今の役員ならできるかではなく、数年後も続けられるかという視点で判断することが重要です。
30 自主管理の事務体制を整える
自主管理では、特定の人へ業務が集中しやすくなります。
「あの契約は前理事長しかわからない」という状態は、本人にも管理組合にも大きな負担になります。
年間予定、会計処理、契約先、設備業者、書類の保存場所などを記録します。
最初から完璧なマニュアルを作る必要はありません。
「自分が明日退任したら次の人が何に困るか」を考え、一つずつ残します。
必要な専門業務だけ外部へ委託することも、自主管理を持続させる方法の一つです。
状況別に追加で確認したい論点
管理業者管理者方式と利益相反
管理会社が日常の管理業務だけではなく管理者等にもなる管理業者管理者方式では、役員負担を軽減できる可能性があります。
その一方、「管理会社自身が判断する立場にもなるなら、誰がその判断を確認するのだろう」という不安も生じます。
2026年4月1日には改正マンション管理適正化法と関係制度が施行され、管理者受託契約の重要事項説明や、利益相反のおそれが高い一定の取引についての事前説明などが制度化されています。
管理事務報告については経過措置にも注意が必要です。
改正後の第77条第2項による説明会形式の管理事務報告は、2026年4月1日より前に締結された管理受託契約に基づく管理事務には適用されません。
一方、第77条の2による利益相反のおそれがある取引の事前説明については、施行前に管理者受託契約を締結していた場合でも、施行後の対象取引には原則として適用されるという別の整理があります。
つまり、「2026年4月から全部同じ新制度」と考えてはいけません。
契約締結時期と対象となる行為を確認し、どの規定が適用されるのかを判断する必要があります。
そのうえで、発注先、価格、相見積もり、関係会社との取引などが実質的に確認できる状態になっているかを見ます。
専門会社へ任せる範囲が広くなるほど、区分所有者側が説明を受け、判断過程を確認できる仕組みの重要性も高くなります。
小規模マンションの管理持続性
小規模マンションでは、一戸あたり管理費が高くなりやすい構造があります。
設備点検などは、戸数が少なくなっても同じ割合では安くならないからです。
また、人件費や業務コストの上昇によって、管理会社側が受託を慎重に判断する可能性もあります。
「こちらが管理会社を選ぶ立場なのだから」と考えていても、実際に募集すると候補会社が思うように集まらず、不安になる管理組合もあるでしょう。
そこで管理員勤務時間、設備保守方式、事務のデジタル化などを見直し、限られた管理費を必要な業務へ集中させます。
管理組合が管理会社を選ぶだけでなく、管理会社からも長く受託したいと思われる関係をつくることが重要になるでしょう。
管理費と修繕積立金の区分
管理委託費が上がると、「修繕積立金から一部を出せないだろうか」と考えたくなる場合があります。
目の前にまとまった資金があるように見えるだけに、その考えが出てくること自体は不自然ではありません。
しかし、標準管理規約では、委託業務費など通常の管理に必要な費用を管理費から支出する構成となっています。
一方、修繕積立金は計画的な修繕や所定の特別な管理に要する費用へ充て、管理費とは区分して経理する考え方です。
| 管理費 | 修繕積立金 |
|---|---|
| しかし、標準管理規約では、委託業務費など通常の管理に必要な費用を管理費から支出する構成となっています。 | 一方、修繕積立金は計画的な修繕や所定の特別な管理に要する費用へ充て、管理費とは区分して経理する考え方です。 |
ただし、標準管理規約はひな型なので、実際にはそのマンションで現在有効な管理規約を確認します。
目の前の管理費不足だけを理由として、将来の修繕資金を安易に減らさないことが重要です。
現在の管理を維持することと、将来必要になる修繕へ備えることは、どちらも同じマンションを守るための判断です。
マンション管理士と進める管理会社見直し
この記事の第一読者は、理事長や理事を含む管理組合です。
本稿で想定するマンション管理士は、その管理組合が判断するための支援者として位置付けています。
契約書や業務資料を確認し、問題を契約、仕様、履行、品質、費用へ分けます。
管理会社への改善要求を整理し、必要であれば候補会社の比較や管理会社選定も支援します。
重要なのは、マンション管理士が「この会社へ変えましょう」と結論だけを与えることではありません。
なぜ現在の問題が起きているのか、どの選択肢なら何が変わるのかを管理組合が理解できる状態をつくることです。
理事会の中で意見が割れているときには、第三者が論点を整理することで、「誰の意見が正しいか」という議論から「どの事実を基準に判断するか」という議論へ移りやすくなる場合があります。
一方、マンション管理士などの外部専門家自身が管理者や理事長へ就任している場合には、単なる助言者ではなく、その地位に基づく役割と責任を負います。
同じ専門家でも、助言を行う立場と管理者として執行する立場は区別して考える必要があります。
管理会社見直しを小さく始める
ここまで読むと、「確認しなければならないことが多すぎる」と感じるかもしれません。
実際、一度に30項目すべてを確認する必要はありません。
現在もっとも気になっている問題から始めます。
清掃なら契約上の清掃範囲を確認し、現場を見ます。委託費なら一つの費目を選んで内訳を確認します。
担当者の対応なら、依頼日と回答日を記録するだけでも構いません。
その後、必要な改善を求めます。
一定期間が経過したところでもう一度状態を見ます。
改善していれば次の課題へ進み、変わっていなければ原因をもう一段深く確認します。
「管理会社を見直す」と考えると大きな仕事に見えますが、実際の第一歩は一つの契約条項や一つの業務を確認することかもしれません。
大きな制度変更より、こうした小さな確認の積み重ねのほうが管理の質を変えることもあります。
管理会社見直し後の効果を確認する
管理会社へ改善を求めたり、契約を変更したりすると、その時点で一仕事終わったように感じます。
しかし、見直しの最後は「実施」ではありません。
変化を確認することです。
清掃仕様を変えたなら、共用部分の状態は良くなったでしょうか。
委託費の値上げを受け入れたなら、説明された管理品質は維持されているでしょうか。
管理会社を変更したなら、以前問題だった事項は本当に改善したでしょうか。
状況を描き、不安や不満が生まれた理由を振り返ります。
その背景を契約や現場から分析し、必要な行動を選びます。
小さく実践した後には、結果を確認します。
この循環が定着すると、管理組合は問題が起きるたびに慌てる状態から、日常的に管理状態を確認して改善できる状態へ変わっていくでしょう。
マンション管理会社と管理委託契約のまとめ
管理会社への不満が生じたとき、すぐ会社変更へ進む必要はありません。
まず契約と業務内容を確認し、問題が契約、仕様、履行、品質、費用のどこにあるのかを判断します。
改善できる問題には改善を求め、その結果を確認します。
契約条件や管理仕様に原因があるなら更新時に見直し、それでも解決できない場合に管理会社変更を検討します。
委託費を増額して契約更新する場合には、金額の妥当性だけでなく、原則としてマンション管理適正化法第72条第1項に基づく重要事項説明会を含む手続を確認します。
変更するときには、次の管理体制を確保してから移行し、管理業務に空白を生じさせないことが重要です。
管理会社選定の総会では、管理委託契約締結と管理規約変更を同じ手続として扱わず、議案内容、現行法、そのマンションで有効な管理規約に応じて決議要件を確認します。
管理業者管理者方式では、契約締結時期と対象行為によって改正法の経過措置が異なる点にも注意が必要です。
管理費と修繕積立金についても、現在の負担だけを見ず、それぞれの資金の目的と現在有効な管理規約を確認します。
そして、何かを変更した後には必ず効果を確認します。
一つ確認し、一つ改善し、その結果を見る。
この流れを続けることで、管理組合は管理会社に任せきる状態でも、自分たちだけですべてを抱え込む状態でもなくなります。
管理会社やマンション管理士などの専門家を適切に利用しながら、自分たちのマンションに必要な管理を判断できる状態をつくる。
それが、日々の暮らしとマンションという資産を長く守る管理につながるのではないでしょうか。
参考資料
管理委託契約やマンション管理業者に関する制度については、国土交通省 マンションの管理の適正化の推進に関する法律関係で、重要事項説明や各種標準書式を確認できます。
管理委託費を増額して契約更新する場合の重要事項説明については、同ページに掲載されているマンション管理適正化法第72条関係の資料や運用通知が参考になります。
管理業者管理者方式に対応した標準契約書については、国土交通省 マンション標準管理者事務委託契約書等の策定改正で確認できます。2025年12月12日にマンション標準管理者事務委託契約書が策定され、関連する標準書式も改正されています。
改正マンション管理適正化法の管理事務報告や利益相反取引に関する経過措置については、国土交通省 マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則の一部改正が参考になります。
外部管理者方式や管理業者管理者方式については、国土交通省 マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドラインで確認できます。
管理会社選定総会や管理規約の考え方については、国土交通省 マンション標準管理規約が参考になります。
マンション管理適正化法の現行条文については、e-Gov法令検索 マンションの管理の適正化の推進に関する法律で確認できます。
区分所有法の現行条文については、e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律で確認できます。