親が元気に暮らしているうちは、介護費用について家族で詳しく話す機会はそれほど多くありません。それでも自分が40代や50代になり、親の通院が増えたり、以前より階段の上り下りに時間がかかるようになったりすると、「もし介護が始まったら、いくら必要なのだろう」と急に現実味を持って考えることがあります。
公益財団法人生命保険文化センターの2024年度調査に関する解説ページでは、介護に要した一時的な費用は平均47.2万円、月々の費用は平均9.0万円、介護場所別では在宅5.3万円、施設13.8万円、介護期間は平均55.0カ月とされています。
こうした平均額を見ると、「少なくとも500万円くらいは用意しなければいけないのか」と不安になるかもしれません。しかし、本当に確認したいのは介護期間中に動くお金の総額ではなく、親の年金と介護に使える資産を差し引いたあとにいくら不足し、その不足のうち自分はいくら負担し、さらに介護によって自分自身の家計にどの程度の影響が残るのかという点です。
この記事では、最終的に消費されると見込む金額と、万一に備えて手元へ残すお金も分けます。親に長生きしてほしい気持ちと、介護が長期化した場合の家計への不安をどちらも無視せず、自分の家庭で「ここまでは対応できる」と判断できる形へ整理していきます。
親の介護費用は4つの数字に分けて考える
介護資金について考えるときは、一つの大きな「必要額」を作るより、役割の違う数字へ分けたほうが実態をつかみやすくなります。
この記事では、主に親側の要対策額、読者本人の直接支援額、読者本人側の追加支出、介護による読者本人の収入減の4つを確認します。
最初に親側でどの程度の資金不足が残るのかを計算し、その不足を家族がどのように負担するかを決めます。そのうえで、親への支援とは別に自分が負担する交通費などと、働き方が変わったことによる収入減を加える流れです。
この順番で考えれば、「介護には500万円必要らしいから自分も500万円準備する」という単純な計算から離れられます。
親側の要対策額は月間収支差額から計算する
介護費用を検索すると、「月9万円」「総額500万円前後」といった数字が目に入りやすいため、その金額をそのまま自分の家庭へ当てはめたくなることがあります。
ところが、毎月15万円の支出がある家庭でも、親の年金手取りが月14万円なら毎月1万円不足するのに対し、年金が月17万円なら毎月2万円余ります。同じ支出額でも、親の収入によって必要な対策は変わります。
そこで、「月間不足額」ではなく月間収支差額として計算します。
親の月間収支差額
= 親の月間支出 - 親の年金などの月間収入
この数字は、プラスなら不足、マイナスなら余剰です。
たとえば月間支出15万円、年金14万円ならプラス1万円となり、毎月1万円の不足があります。一方、支出12万円、年金15万円ならマイナス3万円となるため、毎月3万円の余剰がある状態です。
この収支差額を想定する介護期間へ広げ、一時費用など期間中に消費すると見込む支出を加えたあと、介護へ使える親の貯蓄を差し引きます。
親側の収支計算結果
= 親の月間収支差額 × 想定介護月数
+ 一時費用
+ 期間中に発生すると見込む追加費用
- 介護に使える親の貯蓄
最後に、計算結果がマイナスなら要対策額を0円とします。
親側の要対策額
= max(0円, 親側の収支計算結果)
この計算なら、毎月余っている年金も一時費用などへ充てられるお金として反映できます。一方で、親側に資金余力があるからという理由で、子どもの交通費や収入減まで相殺することはありません。
親側の不足と自分の家計負担を分ける
親側の要対策額が300万円と分かっても、その300万円を一人の子どもがすべて支払うとは限りません。
兄弟姉妹で分担する家庭もあれば、利用する介護サービスを見直して不足額そのものを小さくする場合もあります。施設を変更したり、介護に利用できる親の別資産を確認したりすることも対策になるでしょう。
そこで、親側の要対策額のうち、自分が実際に負担する部分だけを直接支援額として取り出します。
読者本人の直接支援額
= 親側の要対策額のうち読者本人が実際に負担する金額
さらに、親への不足補填とは別に自分へ発生する費用もあります。
遠距離介護の交通費や宿泊費、介護対応のため新たに必要となった保育費などを自分の家計から支払い、親から精算しないのであれば、本人側の追加支出として扱います。
そして、勤務時間を短くしたことなどによる収入減を加えます。
読者本人の家計への影響額
= 読者本人の直接支援額
+ 読者本人側の追加支出
+ 介護による読者本人の収入減
親側で不足している金額と、自分の家計に起きる経済的影響は同じ数字ではありません。この違いを最初に理解しておくことが、親のお金と自分のお金を混ぜずに考えるための土台になります。
平均モデルと実額モデルを使い分ける
介護サービスや施設が決まっていない段階では、平均額を仮の数字として使えます。ただし、平均値と実際の料金を同じ計算に重ねてしまうと、二重計上につながります。
生命保険文化センターの調査では、月々の「介護費用」に公的介護保険サービスの自己負担費用が含まれることは明示されていますが、通常生活費や医療費などとの詳細な費目区分までは示されていません。
そのため、平均モデルで在宅5.3万円に通常生活費や医療費を加える場合には、それぞれの費用範囲が重ならないと仮定した概算として扱います。
一方、利用する介護サービスや候補施設が具体化したら平均値を外し、実際の介護サービス自己負担額、生活費、医療費、居住費、食費などへ入れ替えます。
| 計算段階 | 主な目的 | 費用の扱い |
|---|---|---|
| 平均モデル | 介護開始前に不足が出そうか確認する | 在宅5.3万円などを概算用に利用し施設13.8万円は粗い参考値として扱う |
| 実額モデル | 実際のサービスや施設を判断する | 制度適用後の介護負担や生活費や施設料金へ入れ替える |
平均モデルは未来予測ではありません。「この条件ならどの程度まで対応できそうか」を確認するストレステストとして使い、情報が増えるたびに自分の数字へ更新していきます。
在宅5.3万円と5.2万円の違い
この記事では在宅介護の概算値として5.3万円を使いますが、公式資料には0.1万円の差があります。
生命保険文化センターの2024年度調査に関する解説ページでは在宅5.3万円とされる一方、同調査の報告書本編では在宅5.2万円と記載されています。この記事では解説ページの5.3万円を概算用の仮置きとして採用します。
また、この記事で参照する一時費用47.2万円、月額9.0万円、在宅5.2万円または5.3万円、施設13.8万円、介護期間55.0カ月という数値は、同調査のうち2人以上世帯の集計を基にしています。介護が継続している人については、介護期間を調査時点までの経過期間として集計しています。
もっとも、平均モデル自体が概算である以上、0.1万円の違いを精密な将来予測へ使い分ける必要はありません。実際の介護内容が分かった段階で、平均値そのものを自分の家庭の実額へ置き換えることのほうが重要です。
介護で必要になるお金を7項目に分ける
実額モデルへ進むときは、費用の種類だけでなくどちらの家計へ計上するのかも決めておくと、同じ支出を二重に数えにくくなります。
この記事では、親本人の生活や介護に使う費用は親側へ計上し、親から精算されない交通費や宿泊費などは読者本人側へ計上します。
| 項目 | 主な内容 | 計上先 | 実額モデルで確認すること |
|---|---|---|---|
| 通常の生活費 | 食費 水道光熱費 通信費 日用品 住居費 | 親側 | 介護後も実際に残る支出 |
| 介護サービス費 | 訪問介護 通所介護 ショートステイなど | 親側 | 高額介護サービス費など反映後の実質負担 |
| 医療費 | 通院 薬 訪問診療 入院など | 親側 | 公的医療保険適用後の負担 |
| 住宅改修費 | 手すり 段差解消 床や扉の変更など | 親側 | 制度適用後の自己負担 |
| 施設関連費 | 居住費 食費 管理費 入居一時金など | 親側 | 候補施設の料金表による実額 |
| 家族側の費用 | 交通費 宿泊費 追加保育費など | 読者本人側 | 親から精算されず本人が負担する金額 |
| 想定外の追加費用 | 急な介護用品購入など | 実際の負担者側 | 実際に発生した時点または発生を見込む段階で計上 |
ここで、まだ使っていない緊急予備資金は支出項目へ入れません。
急な入院や施設変更などに備えて50万円を手元に残していても、その50万円を使わなければ最終的な家計負担にはならないからです。実際に想定外支出が発生した時点で、親側または読者本人側の適切な項目へ移して再計算します。
緊急予備資金は最終負担とは別に確保する
介護では、すべての出来事を事前に予測できるわけではありません。
突然必要になった介護用品、施設変更に伴う費用、遠距離から家族が駆けつけるための交通費など、当初のシミュレーションには入っていなかった支出が発生する可能性があります。
だからといって、まだ発生していない50万円や100万円を最初から「使ったお金」として親側の要対策額へ加えると、未使用のまま残った場合にも最終負担が大きく表示されてしまいます。
この記事では、緊急予備資金を使わなければ残る安全余力として扱い、親側の要対策額とは別に確保します。
必要額に万人共通の正解はありません。親子の居住距離、親の健康状態、兄弟姉妹の協力状況、介護に使える預貯金などを見ながら、「予定外の支出が起きてもすぐに家計を崩さず対応できる金額」を決めます。
高額介護サービス費を実額モデルへ反映する
公的介護保険サービスを利用した場合、利用者負担は原則1割で、一定以上の所得がある人は2割または3割です。
ただし、実際の負担を確認するときは自己負担割合だけを見るのではなく、所得区分などに応じた月額上限も確認します。対象となる介護サービスの自己負担が上限を超えた場合には、高額介護サービス費として超過分が支給されるためです。
したがって実額モデルへ入力する介護サービス費は、単純にサービス料金へ1割から3割を掛けた金額ではなく、高額介護サービス費などを反映したあとに最終的に親が負担する金額として確認するほうが実態に近くなります。
一方、食費や居住費など、高額介護サービス費の対象にならない費用もあります。介護保険施設を利用する場合などには、介護サービスの自己負担とは別に居住費や食費、日常生活費などが必要になるため、候補施設が決まったら個別の料金表で確認します。
在宅介護の標準モデル
ここからは、実際に数字を入れてみます。
以下は特定の家庭の将来費用を予測するものではなく、自分の家庭ではどの条件になると不足が生じるのかを確認するための概算モデルです。
親が一人暮らしを続けながら在宅介護を利用すると仮定し、介護期間を55カ月、介護関連費を月5.3万円、通常生活費を月10万円、医療費を月1.5万円とします。一時費用は47.2万円、親の年金手取りは月13.5万円、介護へ使える親の貯蓄は300万円とします。
月間支出は16.8万円なので、月間収支差額は次のとおりです。
16.8万円 - 13.5万円
= 月3.3万円の不足
55カ月では、
3.3万円 × 55カ月
= 181.5万円
となります。
ここへ一時費用47.2万円を加えると、
181.5万円 + 47.2万円
= 228.7万円
です。
介護に使える親の貯蓄300万円を差し引けば、
228.7万円 - 300万円
= -71.3万円
となるため、親側の要対策額は0円です。
なお、通常生活費まで含めた55カ月間の親の総支出は1,021.2万円になりますが、これは「介護資金として1,021.2万円を新たに用意する」という意味ではありません。介護前から必要だった生活費も含む期間中の総支出であり、このモデルで最も確認したい数字は親側の要対策額0円です。
さらに、読者本人が通院付き添いなどの交通費を15万円負担し、介護対応による収入減が27.5万円あったと仮定します。
親への直接支援額は0円なので、
0円 + 15万円 + 27.5万円
= 42.5万円
となり、読者本人の家計への影響額は42.5万円です。
この家庭では、親側の最終負担について追加対策は必要ありませんが、急な支出に備える緊急予備資金は別に手元へ残しておきます。たとえば50万円を安全余力として確保しても、使わなければ家計への最終負担42.5万円には加えません。
在宅介護が長期化するモデル
次に、介護期間を84カ月とし、介護関連費も増えた場合を確認します。
介護関連費は月9万円と仮定しますが、この9万円は在宅介護の平均額ではありません。介護が長期化し、毎月の負担も増えた場合に家計がどこまで耐えられるかを見るための仮定値です。
通常生活費を月10万円、医療費を月2万円とすると、月間支出は21万円になります。親の年金手取りが月13.5万円なら、
21万円 - 13.5万円
= 月7.5万円の不足
です。
84カ月では、
7.5万円 × 84カ月
= 630万円
となります。
一時費用47.2万円を加えると、
630万円 + 47.2万円
= 677.2万円
です。
介護に使える親の貯蓄300万円を差し引けば、
677.2万円 - 300万円
= 377.2万円
となり、親側の要対策額は377.2万円です。
兄弟2人で同額ずつ直接支援すると決めた場合、読者本人の直接支援額は188.6万円になります。
さらに遠距離介護などによる本人側の追加支出が30万円あり、介護のために手取り収入が月5万円減る状態が84カ月続けば、収入減は420万円です。
188.6万円 + 30万円 + 420万円
= 638.6万円
となるため、読者本人の家計への影響額は638.6万円です。
このケースでも、親側の緊急予備資金として100万円を確保したいのであれば、377.2万円へ加えて「失うお金」とするのではなく、別の手元資金として残します。
84カ月という長い期間を入力することには、心理的な抵抗を覚える人もいるでしょう。親には長生きしてほしいのに、介護が長く続くほど家計負担が増える計算をしていると、自分が冷たいように感じるからです。
しかし、長期ケースを計算するのは介護が早く終わることを望むためではありません。親を長く支えたいからこそ、どこまでなら家計を維持できるのかを先に知り、限界へ近づいたときに別の方法へ切り替えられるようにしておくのです。
施設介護の平均13.8万円の使い方
施設介護について調べると、生命保険文化センターの解説ページにある月平均13.8万円という数字が目に入ります。
この13.8万円は、具体的な施設が決まっていない段階で「施設介護では介護関連費がどの程度になる可能性があるのか」を考える粗い参考値として利用できます。
ただし、13.8万円だけでは通常生活費や医療費、自宅を残した場合の維持費まで含む総支出は分かりません。
そのため、平均13.8万円から無理に施設介護の総支出を作り、在宅モデルの総額と横並びで比較することはしません。
実際に施設入居を検討する段階では平均値を外し、候補施設の料金表から実額を入力します。
施設介護の実額モデル
候補施設が決まったら、実際に親が負担する金額を項目ごとに確認します。
ここでは計算方法を説明するための架空例として、高額介護サービス費などを反映したあとの介護サービス実質負担を月3.5万円、居住費や食費などを月14.5万円、医療費を月1.5万円、自宅を残す場合の維持費を月1万円と仮定します。
月間支出は20.5万円です。
親の年金手取りが月13.5万円なら、
20.5万円 - 13.5万円
= 月7万円の不足
となります。
施設利用期間を60カ月とすると、
7万円 × 60カ月
= 420万円
です。
入居一時金100万円を加えると、
420万円 + 100万円
= 520万円
となります。
介護に使える親の貯蓄300万円を差し引けば、
520万円 - 300万円
= 220万円
となり、このケースの親側の要対策額は220万円です。
兄弟2人で同額ずつ支援するなら、読者本人の直接支援額は110万円になります。
さらに、施設入居後の面会や手続きなどによる交通費を20万円負担し、仕事への影響による収入減が30万円だった場合には、
110万円 + 20万円 + 30万円
= 160万円
となります。
このケースでの読者本人の家計への影響額は160万円です。
また、親側に100万円程度の緊急予備資金を置いておきたい場合には、220万円の最終負担へ加えるのではなく、未使用なら残る安全余力として別に確保します。
在宅介護と施設介護は実額で比べる
在宅介護と施設介護を本格的に比べるなら、両方について費用範囲をできるだけそろえる必要があります。
在宅では実際の介護サービス自己負担、通常生活費、医療費、住宅改修費などを確認します。施設では介護サービスの実質負担、居住費、食費、医療費、自宅を残す場合の維持費などを確認し、どちらの場合でも本人側の追加支出と収入減を別に計算します。
在宅介護のサービス料金が施設より安くても、遠距離介護で交通費が増え、さらに仕事を減らすことで収入まで落ちれば、自分の家計への影響は大きくなる可能性があります。
反対に施設介護では親側の月間支出が増えても、子どもがこれまでどおり働けることで、自分の家計への影響を抑えられる場合もあるでしょう。
比較するときに確認する数字は二つです。
親側の要対策額
読者本人の家計への影響額
= 直接支援額 + 本人側追加支出 + 収入減
この二つは足し合わせません。直接支援額は親側の要対策額のうち、すでに読者本人が負担すると決めた部分だからです。
そして、費用だけで在宅か施設かを決める必要もありません。
親はどこで暮らしたいのか、家族は仕事や子育てを続けながらどの程度介護へ関われるのか、夜間対応まで必要になった場合にも生活を維持できるのかによって、現実的な選択は変わります。
最も安い方法を探すだけではなく、親の希望と家族の生活を無理なく両立できる方法を探すことが、長期的には大切でしょう。
入力値を変える介護資金シミュレーション
自分の家庭で計算するときは、平均モデルと実額モデルのどちらを使うのかを先に決めます。
| 入力項目 | 平均モデル | 実額モデル |
|---|---|---|
| 想定介護期間 | ○カ月 | ○カ月 |
| 平均介護関連費 | 在宅5.3万円などを概算に使用。施設13.8万円は粗い参考値 | 使用しない |
| 介護サービス自己負担 | 使用しない | 高額介護サービス費など反映後の実質負担 |
| 施設居住費や食費 | 平均値と重ねて個別加算しない | 実際の料金 |
| 通常生活費 | 在宅では○万円。平均介護費との範囲重複に注意 | 実際に残る生活費 |
| 医療費 | ○万円 | 実際の負担 |
| 自宅維持費 | 必要な場合 | 必要な場合 |
| 一時費用 | ○万円 | 実際の見積額 |
| 親の年金手取り | ○万円 | ○万円 |
| 介護に使える親の貯蓄 | ○万円 | ○万円 |
| 読者本人の直接支援額 | ○万円 | ○万円 |
| 読者本人側の追加支出 | ○万円 | ○万円 |
| 読者本人の月間収入減 | ○万円 | ○万円 |
| 収入減が続く期間 | ○カ月 | ○カ月 |
| 緊急予備資金 | 最終負担へ加えず別枠で確保 | 最終負担へ加えず別枠で確保 |
| 一時立替資金 | 必要な場合は別枠で確認 | 必要な場合は別枠で確認 |
計算では、最初に月間収支差額を求めます。
親の月間収支差額
= 親の月間支出 - 親の月間収入
※プラスなら不足 マイナスなら余剰
次に親側の要対策額を計算します。
親側の要対策額
= max〔0円, 月間収支差額 × 介護月数
+ 一時費用
+ 発生を見込む追加費用
- 介護に使える親の貯蓄〕
その後、読者本人の家計について確認します。
読者本人の家計への影響額
= 読者本人の直接支援額
+ 読者本人側の追加支出
+ 月間収入減 × 収入減が続く月数
緊急予備資金と一時立替資金は、この家計への影響額へ自動的には加えません。どちらも「最終的に失う金額」とは限らず、手元へ確保する現金として別に確認するためです。
最終負担額と必要な手元資金を分ける
この記事で計算している親側の要対策額や読者本人の家計への影響額は、基本的に最終的に家計から消費されると見込む金額です。
一方、実際の介護では「最終的には戻ってくるが、一度は払わなければならないお金」や、「使うか分からないが、万一のため手元に残しておきたいお金」もあります。
そこで、必要資金は二つの視点から確認します。
| 確認するお金 | 意味 |
|---|---|
| 最終負担見込み | 実際に消費されると見込む親側の要対策額や読者本人の家計影響額 |
| 必要手元資金 | 緊急予備資金や給付還付までの一時立替資金など |
高額介護サービス費などでは、対象となる自己負担が上限を超えた場合に超過分が後から支給されることがあります。最終負担は軽減されても、支給までの間に手元資金が必要になる可能性があるため、一時立替資金として確認します。
緊急予備資金は、まだ起きていない支出に備えて残しておく安全余力です。使わなければ資産として残るため、最終負担へ最初から加えることはしません。
ただし、実際に急な支出が発生した場合には、その金額を親側または読者本人側の支出としてシミュレーションへ反映し直します。
家族の収入減と働き方
親の介護費用を考えると、訪問介護や施設の料金ばかりが気になりやすいものです。しかし40代から60代の現役世代では、働き方が変わることで生じる収入減が家計へ大きな影響を与える場合があります。
当初は月に一度の通院付き添いで済んでいても、身体状態や認知機能が変化すれば、平日の対応が増える可能性があります。その結果として勤務時間を短くしたり、残業を減らしたり、一定期間の介護休業を利用したりすれば、手取り収入にも影響が出るでしょう。
介護休業給付では、一定の要件を満たす場合、同じ対象家族について通算93日を限度として3回までが支給対象となり、給付額は原則として「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」で計算されます。
ただし、67%という数字だけを見て「普段の収入の3分の2が必ず残る」と考えることはできません。給付には上限があり、介護休業中に賃金が支払われた場合には減額され、条件によっては支給されない場合もあります。
そのため、シミュレーションへ入れるのは制度名ではなく、自分の場合に実際の手取りが月いくら減るのかという数字です。
介護が始まった時点で仕事を辞めるしかないと決める必要もありません。勤務先の介護休業や休暇、短時間勤務などを確認し、外部サービスも組み合わせながら仕事を続けられる方法を探すことは、自分の家計を守るための介護資金対策でもあります。
住宅改修費と医療費の考え方
在宅介護では、それまで気にならなかった玄関の段差や浴室の床が、身体状態の変化によって危険な場所へ変わることがあります。
介護保険では、手すりの取り付けや段差解消など一定の住宅改修について支給制度があり、支給限度基準額は20万円です。制度を利用する場合には、原則として工事前に必要な申請を行います。
ただし、20万円まで無条件に無料で工事できるわけではありません。利用者負担割合や対象外工事の有無によって、最終的に自分で支払う金額は変わります。
身体状態が変わると工事を急ぎたくなりますが、公的制度を利用する場合には先に自治体やケアマネジャーなどへ相談し、対象となる工事や手続きを確認しておくことが重要です。
医療費についても、介護サービス費とは別項目にします。
高額療養費制度では、保険適用となる医療費の自己負担が年齢や所得に応じた上限を超えた場合に、超えた分が支給されます。入院時の食事負担や差額ベッド代など、高額療養費の対象にならない費用もあるため、医療関連支出のすべてが上限内に収まるわけではありません。
2026年8月からは月額上限の見直しに加えて年間上限が設けられ、年間は8月から翌年7月までとして扱われています。
実際の負担額は年齢や所得区分などによって異なるため、「医療費は月○万円まで」と固定せず、自分の区分と対象になる費用を利用時点で確認します。
親の年金と介護に使える資産を確認する
計算方法が分かっても、親の年金や預貯金を確認するところで手が止まる家庭があります。
突然「貯金はいくらあるの」と聞けば、親は財産を調べられているように感じるかもしれません。まだ元気なのに、すでに介護される側として扱われているようで抵抗を覚える人もいるでしょう。
親にとって介護の話は、単なる家計相談ではありません。自分が年を取り、今までできていたことが難しくなる未来を想像する話でもあるため、数字だけを急いで聞こうとすると会話そのものが止まりやすくなります。
最初は「もし一人で暮らすのが難しくなったら自宅にいたいのか」「施設についてはどう考えているのか」といった暮らし方の希望から聞き、その希望をかなえるために年金や資産を確認しておきたいと伝えるほうが自然でしょう。
親の総資産ではなく介護に使える資産を入力する
親に800万円の預貯金があったとしても、そのすべてを介護へ使えるとは限りません。
配偶者がいればその人の生活資金を残す必要があり、持ち家なら固定資産税や修繕費も考えなければなりません。さらに、緊急予備資金として一定額を手元へ残したい場合には、その金額を介護へ直接使える資産から分ける必要があります。
たとえば親の預貯金が850万円あり、300万円を別の生活目的に残し、さらに緊急予備資金50万円を確保するなら、介護費へ直接使う前提でシミュレーションへ入力する資産は500万円です。
850万円 - 300万円 - 50万円
= 500万円
このように分けておけば、緊急予備資金を最終負担へ加えなくても、手元へ残す分まで使ってしまう計算にはなりません。
子ども側にも同じ考え方が必要です。
住宅ローンや教育費、自分自身の老後資金がある以上、親の介護へ使える金額には限界があります。親を大切に思うほど「自分が何とかしなければ」と考えやすいものですが、自分の老後資金まで使い切れば、今度は自分が高齢になったときに資金不足を抱える可能性があります。
親を支えることと自分の生活を守ることは対立しません。長く支援するためにも、無理なく負担できる範囲をあらかじめ確認しておくことが必要です。
介護費用を考えると後ろめたくなる理由
介護期間を7年や10年へ延ばして計算していると、「あと何年続くのだろう」と考えた自分に後ろめたさを覚えることがあります。
親には長生きしてほしいのに、介護期間が長くなるほど家計負担が大きくなる計算をしている。その二つの気持ちが並ぶと、自分が冷たい人間になったように感じる人もいるでしょう。
しかし、親に長生きしてほしい気持ちと、家計がいつまで持つのか心配する気持ちは同時に存在します。むしろ、親の暮らしを長く支えたいからこそ、途中で資金が尽きないかを確かめたくなる面があるのではないでしょうか。
介護資金を計算するのは、親の人生を金額だけで評価するためではありません。
家族が無理を積み重ねた結果として、ある日突然「もう続けられない」となることを避け、親にも家族にも選択肢を残すためです。
「今の条件なら5年程度は対応できそうだが、さらに長くなったらサービスや施設を見直す」と分かっていれば、状況が変わったときにも早く動けます。
漠然とした怖さを具体的な判断条件へ変えることが、介護資金シミュレーションの役割です。
親との介護費用の話は小さく始める
介護資金を考え始めたからといって、一度の話し合いですべての通帳や保険証券を確認する必要はありません。
急いですべてを聞こうとすると、親は「もう自分は介護される年齢だと思われているのか」と身構えることがあります。
最初は将来どのように暮らしたいのかを聞き、その次の機会に年金額を確認し、必要になった段階で預貯金や保険の情報へ進むくらいでも構いません。
今日確認できたのが年金額だけなら、それでも平均値だけだったシミュレーションの一つを実際の親の数字へ置き換えられています。
介護について話すことには、親子双方に少し重さがあります。だからこそ、一度に完成させるより、親が元気なうちに日常の会話の中で少しずつ共有するほうが続けやすいでしょう。
年1回と条件変化時に再計算する
介護資金シミュレーションは、一度作れば終わるものではありません。
親の年金や預貯金、健康状態、利用する介護サービスが変われば計算結果も変わります。公的介護保険や医療保険などの制度が変更されることもあるため、年1回程度は入力値を見直しておくとよいでしょう。
ただし、年1回という日付だけを決めるより、「何が起きたら計算し直すのか」を決めておくほうが実用的です。
要介護認定を受けたとき、サービス利用量が増えたとき、入院したとき、候補施設が決まったとき、家族の働き方が変わったとき、緊急予備資金を実際に使ったときなど、計算の前提が変化した場合にはその都度更新します。
再計算の目的は、不足額を何度も見て不安になることではありません。現在の条件ならどこまで対応できるのかを確かめ、限界に近づいたら早めに別の方法へ切り替えるためです。
介護も家計も変化する以上、計画も変えて構いません。
親の介護費用に関するよくある質問
- 親の介護費用はまず誰のお金から考えればよいですか
-
資金計画では、まず介護を受ける親本人の年金や介護に使える資産でどこまで負担できるかを確認すると整理しやすくなります。
それでも不足する部分を親側の要対策額として把握し、介護サービスや施設の見直し、兄弟姉妹との分担、家族からの支援などによって対応方法を検討します。
親側の不足額すべてを、一人の子どもが負担する前提にする必要はありません。
- 介護費用として貯金はいくら必要ですか
-
すべての家庭に共通する必要貯金額はありません。
2024年度調査に関する解説ページでは、一時費用47.2万円、月々の費用9.0万円という平均値がありますが、その金額がそのまま自分の家庭で必要になるわけではないからです。
親の年金と介護へ使える資産を差し引いた要対策額に加えて、未使用なら残る緊急予備資金や一時立替資金など、手元に確保しておく資金も別に考えます。
- 月間収支差額がマイナスになった場合はどうしますか
-
月間収支差額は「月間支出-月間収入」で計算するため、マイナスになることがあります。
マイナス3万円なら「不足額がマイナス3万円」という意味ではなく、毎月3万円の余剰がある状態です。
その余剰は一時費用などへ充てられるため、0円へ丸めず、そのまま期間全体の収支計算へ反映します。
- 在宅介護と施設介護はどちらがお金がかかりますか
-
解説ページでは在宅5.3万円、施設13.8万円という月額平均が示されていますが、この数字だけで家族全体の負担を比較することはできません。
在宅では介護サービス費や通常生活費、住宅改修費、家族側の交通費や収入減などが関係し、施設では介護サービスの実質負担、居住費、食費などを確認する必要があります。
本格的に比較するときは、両方の実額について同じ範囲の費用をそろえます。
- 高額介護サービス費はシミュレーションへ反映しますか
-
実額モデルでは反映したほうが、実際の負担に近くなります。
対象となる介護保険サービスの自己負担が所得区分などに応じた月額上限を超えた場合には、高額介護サービス費として超過分が支給されるためです。
ただし、食費や居住費など対象外となる費用もあります。
- 緊急予備資金は親側の要対策額へ加えますか
-
この記事では加えません。
緊急予備資金は、予定外の出来事へ備えて手元に確保する安全余力であり、使わなければ資産として残るからです。
実際にその資金を使った場合には、発生した支出として親側または読者本人側へ計上し直します。
- 介護の交通費や宿泊費はどちらへ入れますか
-
誰が最終的に負担するかで決めます。
親の資産から支払う場合や、子どもが立て替えたあと親から精算する場合は親側です。子ども自身が負担し、あとで精算しない場合には読者本人側の追加支出として計算します。
同じ支出を親側と本人側の両方へ入れないことが重要です。
- 介護で仕事を減らす場合は収入減も計算しますか
-
読者本人の家計への影響を把握するなら、計算したほうが分かりやすくなります。
親側の要対策額が0円でも、介護によって200万円の収入を失い、親から精算されない交通費を20万円負担すれば、読者本人の家計には220万円の影響があります。
- 一時立替資金は家計への影響額へ加えますか
-
最終負担を計算する式には加えません。
一時立替資金は、給付や還付までの間に必要となる可能性がある手元資金であり、最終的な損失とは別の数字です。
後で戻る金額まで家計への影響額へ加えると負担を二重に数える可能性があるため、入力表でも別枠で確認します。
- 医療費と介護費は別々に考えますか
-
シミュレーションでは別項目にしたほうが分かりやすくなります。
医療費には公的医療保険と高額療養費制度、介護費には公的介護保険と高額介護サービス費という異なる仕組みがあるためです。
2026年8月から高額療養費制度には年間上限も設けられていますが、入院時の食事負担や差額ベッド代など対象外の費用もあります。
まとめ 親の介護費用は最終負担と手元資金を分ける
親の介護費用について考えるとき、平均額は出発点になります。
2024年度調査に関する解説ページでは、一時費用47.2万円、月々の費用9.0万円、在宅5.3万円、施設13.8万円、介護期間55.0カ月という数値が示されています。在宅については報告書本編に5.2万円との記載もありますが、どちらも自分の家庭の実額へ置き換えるまでの参考値です。
本当に確認したいのは、大きな介護総額ではありません。
親の月間収支差額を計算し、プラスなら不足、マイナスなら余剰として期間全体へ反映したうえで、親の年金と介護に使える資産から親側の要対策額を求めます。
その不足のうち自分が実際に負担する直接支援額を決め、さらに親から精算されない交通費や宿泊費などの本人側追加支出と、働き方の変化による収入減を加えます。
読者本人の家計への影響額
= 直接支援額 + 本人側追加支出 + 収入減
一方、まだ使っていない緊急予備資金や、給付・還付までに一時的に必要となる立替資金は、最終的な損失には加えません。最終負担見込みと必要手元資金を別々に確認することで、「最終的にいくら負担するのか」と「今いくら現金を準備しておく必要があるのか」を混同せずに済みます。
親に長生きしてほしいという思いと、介護が長期化したときの家計を心配する気持ちは両立します。
介護資金を計算するのは、親の暮らしを金額だけで決めるためではありません。親の希望をできるだけ尊重しながら、自分や家族の生活も壊さずに支援を続けるためです。
最初から完璧な数字をそろえる必要はありません。まず親の年金など確認しやすい数字から平均モデルを作り、サービスや施設が具体化したら実額へ置き換えます。
そして親の状態や家族の働き方が変わったときには何度でも再計算し、「今の条件ならここまでは対応できる」という判断材料を持ち続けることが、長い介護への備えにつながるでしょう。
参考資料
公益財団法人生命保険文化センター 介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?
公益財団法人生命保険文化センター 2024年度 生命保険に関する全国実態調査
公益財団法人生命保険文化センター 実際にかかる介護費用はどれくらい?