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ひきこもりの子どもの親なきあと お金はどうする?親が元気なうちに整理したい7つのこと

「私たちがいなくなったあと、この子はどうやって暮らしていくのだろう」

成人したひきこもり状態の子どもを経済的にも精神的にも支えてきた親にとって、親なきあとは簡単に答えを出せる問題ではありません。預金はいくら残せるのか、今の家に住み続けられるのか、困ったときに誰かへ相談できるのかと考え始めるほど心配が広がり、「できるだけ多くのお金を残さなければ」と焦ってしまうこともあるでしょう。

しかし、親なきあとの暮らしは、親が残す現金の額だけで決まるわけではありません。

必要なのは、親自身に必要な老後資金を見積もったうえで、子どもの生活費、将来の固定収入、住居、金銭管理、兄弟との関係、外部の支援先を一つずつ整理することです。

この記事では、親が元気なうちに確認したいことを7つに分けて考えます。最初に親自身のお金を整理し、次に子どもの生活費と収入、住居、金銭管理を確認したあと、兄弟との役割分担と外部の支援先まで見ていきます。

そして最後に、この7つのうち特にお金と暮らしに関係する項目を、一枚の「親なきあと家計表」へまとめます。

いわゆる8050問題として語られる家庭の中には、親が長い間、生活費だけでなく行政手続きや住居管理、社会との連絡役まで担ってきたケースがあります。そのため親なきあとを考えることは、単に「いくら相続させるか」を決める作業ではありません。

親が担ってきた役割を見える形にし、必要な部分を本人や公的制度、家族、専門職へ少しずつ引き継げる状態を作っていくことが重要です。

TABLE OF CONTENTS
目次

親なきあとで本当に困るのはお金だけではない

「せめてお金だけは残してあげたい」と考える親は少なくないでしょう。

子どもに安定した収入がなければ、自分たちの預貯金が将来の命綱のように感じられます。通帳の残高を見ながら、「あと1,000万円あれば安心できるだろうか」「もう少し自分たちが節約すれば」と考え続けてしまうのは、それだけ長い間、親が子どもの暮らしを支えてきたからです。

けれども、十分な預貯金が残っていることと、生活を長く続けられることは同じではありません。

現在は親が電気料金や通信費を支払い、固定資産税の通知を確認し、設備が壊れれば修理業者へ連絡しているかもしれません。役所から届いた書類も親が読み、必要があれば問い合わせを行い、本人が体調を崩したときには受診の段取りまで考えている家庭もあるでしょう。

こうした役割には値札が付いていないため、普段は「親がしている支援」として意識されにくいものです。

本人が日々の買い物やATMの操作はできても、期限のある行政書類への対応や高額な契約になると強い負担を感じるという可能性があります。反対に、対面でのやり取りや外出は苦手でも、オンラインバンキングや公共料金の管理なら自分でできる人もいるでしょう。

ひきこもり状態であることだけを理由に、「一人では何もできない」と決めつけることも適切ではありません。確認したいのは、本人ができることと、現在親が代わりにしていることの境目です。

親なきあとの準備とは、大きな遺産を残す作業だけではなく、親が担っている生活上の役割を少しずつ外へ開いていく作業でもあります。

その視点を持つと、「いくら残せば安心なのか」という答えのない問いから、今確認できる具体的な課題へ移りやすくなるでしょう。

本人ができることと、現在親が代わりにしていることの境目 本人ができること 現在親が代わりに していること 境目 親が担っている生活上の役割 少しずつ外へ開いていく作業
確認したいのは、本人ができることと、現在親が代わりにしていることの境目です。

1 親自身に必要な老後資金を先に見積もる

子どもと親のどちらを優先するかという話ではない

ひきこもり状態の子どもを長く支えている親の中には、自分のためにお金を使うことへ後ろめたさを感じる人がいます。

古くなった家電を見ても「まだ使える」と買い替えず、旅行へ行こうと思っても、「この20万円を残したほうが子どものためになる」と取りやめてしまう。そこには単なる節約ではなく、「自分が残せなかったら誰もこの子を支えてくれない」という切迫感があるのでしょう。

とはいえ、資金計画では親自身に必要なお金を先に見積もる必要があります。これは「子どもより親を優先する」という価値判断ではありません。

親が今後生活するために必要な金額を把握しなければ、そもそも子どもへいくら残せるのか計算できないためです。

親が高齢になれば、日常生活費に加えて医療費や介護費が増えるという可能性があります。自宅で暮らし続けるなら、住宅の修繕や設備交換が必要になることもあるでしょう。

仮に「子どもへ2,000万円残す」と最初に決め、その金額を絶対に使わない資金として扱ってしまえば、親自身の老後生活が苦しくなることがあります。その結果、後になって子どものために確保していた資金を取り崩すことになるかもしれません。

そこで、計算する順番を変えます。

まず親自身の年金などの収入と現在の生活費を確認し、今後の医療や介護、住宅維持などに備える金額を見積もります。その結果として、子どものために残せる可能性がある財産を把握します。

最初から精密な老後シミュレーションを作る必要はありません。年金収入、生活費、預貯金、保険、不動産を書き出し、「親自身がこれから使うお金」と「将来残せる可能性があるお金」を分けるところから始めれば十分です。

子どもの将来を考える前に親自身の必要額を見るのは、子どもを後回しにすることではありません。

家族全体の家計を途中で崩さないための計算手順なのです。

2 子どもの毎月の生活費を数字にする

家族の家計に隠れている本人の支出を見る

次に確認したいのが、親なきあとに子どもが暮らすための毎月の生活費です。

現在親子で同居している場合、この数字は意外なほど見えません。冷蔵庫の食材は家族共通で、電気や水道も一緒に使っています。スマートフォン料金は親のクレジットカードから落ち、病院代や衣類代は必要なときに親が支払っているという家庭もあるでしょう。

その状態で「この子には月いくら必要ですか」と聞かれても、すぐ答えられないのは当然です。

そこで、家族全体の生活費から本人の暮らしを少しずつ切り出します。

食費、水道光熱費、通信費、日用品費、医療費など、日常生活で継続的に発生する支出を確認し、現在親が本人に代わって負担しているものも含めます。

たとえばスマートフォン料金が月7,000円、医療費の平均が5,000円、日用品や衣類などが8,000円なら、それだけで月2万円です。一つひとつは大きく見えなくても、年間では24万円になります。

こうした支出を知らないまま、「2,000万円あれば何年暮らせるか」と計算しても、現実に近い答えは出ません。

全国平均よりわが家の数字を使う

単身世帯の生活費については、さまざまな平均額が公表されています。

ただし、親なきあとの計画では、全国平均より本人の現在の生活を基準にしたほうが実態を把握しやすいでしょう。

外出が少ないため交通費がほとんどかからない人がいる一方、自宅で過ごす時間が長いため光熱費や通信費が高くなる人もいます。定期的な通院がある人とそうでない人でも支出は変わります。

仮に本人の基礎生活費と予備費を合わせて月11万円、住居維持費を月2万円と見積もれば、毎月必要な金額は13万円です。

この13万円は一般的な基準額ではなく、「わが家ならどうか」を考えるための仮定にすぎません。

大切なのは、最初から正解の数字を出すことではなく、これまで見えなかった本人の暮らしを金額に置き換えてみることです。

そうすると、「一生分で何千万円必要なのだろう」という大きな不安が、「毎月いくら必要で、いくら不足するのだろう」という確認可能な問題へ変わっていきます。

3 親がいなくなった後の固定収入を確認する

現在の家計と親なきあとの家計は別に考える

現在の生活が成り立っているのは、本人自身に収入があるからではなく、親の給与や年金が毎月入っているからという家庭があります。

今は同じ家に住み、同じ家計の中から生活費を出しているため、その違いを強く意識することはないかもしれません。しかし、親なきあとには家計の入口そのものが変わります。

そこで本人自身に現在どのような収入があり、親がいなくなったあとも継続すると確認できるのかを整理します。

仕事による収入があるなら金額と継続可能性を確認し、すでに年金や手当などを受給しているなら、制度名や金額に加えて必要な届出なども見ておきます。

重要なのは、「将来受け取れるかもしれないお金」と「すでに受給が確認できているお金」を混ぜないことです。

障害年金はひきこもり状態だけでは決まらない

親なきあとについて調べていると、障害年金という制度を知る人も多いでしょう。

ただし、ひきこもりという状態そのものを理由に障害年金が支給されるわけではありません。

障害基礎年金などには、病気やけがの初診日、障害の状態、原則として保険料納付状況など、複数の受給要件があります。ただし、20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある障害基礎年金では、保険料の納付要件はありません。本人の初診時期や加入していた年金制度によって、確認すべき内容は異なります。

ひきこもり状態の背景に精神疾患などがあり、日常生活や社会生活に大きな制限が生じている場合には、障害年金の対象となる可能性があります。

とはいえ、「障害年金を受け取るために受診する」という順番で考えることは適切ではありません。

心身の不調が疑われる場合には、まず本人が必要としている医療や福祉の支援を考えます。そのうえで障害年金の要件に該当する可能性があるなら、年金事務所などへ制度を確認し、必要に応じて社会保険労務士へ相談する流れが自然でしょう。

2026年度の障害基礎年金2級の年金額は、昭和31年4月2日以後生まれの場合、年額84万7,300円が基本額で、対象となる子がいる場合には加算があります。年金額は年度によって改定されるため、長期の家計計画では現在額が将来も続くと固定して考えないようにします。

成人した子どもが親の年金をそのまま引き継ぐわけではない

「自分が亡くなったら、この年金を子どもが受け取れるのではないか」と考えている親もいるでしょう。

しかし、遺族基礎年金などには対象となる遺族について要件があります。成人した30代や40代の子どもが、親の死亡によって当然に親の年金をそのまま受け取れる制度ではありません。

そのため親なきあと家計を作るときは、親の年金を本人の将来収入としてそのまま引き継がないことが重要です。

まず本人名義で現在確認できている固定収入だけを記載します。障害年金などについて確認している途中なら、「受給予定」と決めつけず、「確認中」として別にしておくほうが現実的な家計を作りやすくなるでしょう。

将来受け取れるかもしれないお金 すでに受給が確認できているお金
「受給予定」と決めつけず、「確認中」として別にしておく 本人名義で現在確認できている固定収入だけを記載します。

生活保護という制度を知らないまま除外しない

将来、本人の収入や活用できる資産だけでは生活を維持できなくなるという可能性もあります。

生活保護は、資産や能力など利用できるものを活用したうえでも生活に困窮する人について、必要な保護を行う制度です。年金などの収入も含め、実際の生活状況を踏まえて利用の可否や保護の内容が判断されます。

したがって、今の段階で「将来は必ず生活保護を利用できる」と家計へ入れておくものではありません。

一方で、「親が一生分のお金を残せなかったら、そこで生活が終わってしまう」と考える必要もないでしょう。

必要になったときに相談できる公的制度があることを知っておく。それだけでも、「全部を自分が用意しなければ」という親の重圧を少し和らげることにつながります。

4 今の家に住み続けられるか確認する

持ち家は家賃がなくても維持費がかかる

「家だけは残せるから、住むところは心配ない」

住宅ローンを完済している家庭では、そう考えることがあります。

確かに持ち家を引き継げれば、毎月の家賃を支払わずに済む可能性があります。しかし、家賃がないことと住居費がないことは同じではありません。

固定資産税の負担があるほか、火災保険に加入を続ける場合には保険料も必要です。給湯器やエアコン、水回りが故障すれば修理費がかかります。戸建てなら屋根や外壁などでまとまった費用が発生することもあり、分譲マンションであれば管理費や修繕積立金なども継続するでしょう。

さらに確認したいのは、お金だけではありません。

今は設備が壊れると親が業者へ電話をして、見積もりを確認しながら修理を決めているかもしれません。親なきあとには、その判断を本人ができるのか、あるいは誰かの支援が必要なのかまで考える必要があります。

「家を残せば安心」と結論を出す前に、その家を本人が維持できるかを見ることが大切です。

大きな戸建てを所有し続けるより、将来的には管理しやすい住まいのほうが本人に合うという可能性もあります。ただし、これは親だけで決定する話ではありません。

本人の希望や生活状況を踏まえながら、将来の選択肢として考えていきます。

賃貸住宅では現在の契約内容から確認する

現在親名義の賃貸住宅に同居している場合には、契約名義や同居人としての扱いを確認しておきます。

一般的な賃貸借では、賃借人が死亡した場合の賃借権は相続人に引き継がれます。一方、終身建物賃貸借のように賃借人の死亡時に終了する契約もあるため、親の死亡後に必要な手続きは契約の種類や相続関係などによって異なります。

そのため、「必ずそのまま住める」「親が亡くなれば必ず退去になる」と一律には判断せず、まず現在の契約書を確認しておくことが大切です。

生活困窮者自立支援制度には、住まいに関する相談や支援があります。

ただし、住居確保給付金は、単に収入や資産が少なければ長期間家賃を補ってもらえる一般的な制度ではありません。離職や廃業、本人の責任によらない就労機会の減少などに関する要件に加え、求職活動等の条件も設けられています。

そのため、長期間ひきこもり状態にある人の親なきあと家計へ、将来の恒常的な家賃補助として最初から組み込むのは適切ではないでしょう。

住まいや家計そのものに困難がある場合には、住居確保給付金だけを目的にするのではなく、地域の自立相談支援機関へ生活全体を相談するほうが実態に合います。

まずは持ち家なら固定資産税や保険料を確認し、賃貸なら現在の契約書を取り出してみる。それだけでも、「住む場所はある」という曖昧な安心から、「この住まいを続けるには何が必要か」という具体的な確認へ進めます。

持ち家 賃貸住宅
固定資産税の負担があるほか、火災保険に加入を続ける場合には保険料も必要です。 現在親名義の賃貸住宅に同居している場合には、契約名義や同居人としての扱いを確認しておきます。
給湯器やエアコン、水回りが故障すれば修理費がかかります。戸建てなら屋根や外壁などでまとまった費用が発生することもあり、分譲マンションであれば管理費や修繕積立金なども継続するでしょう。 一般的な賃貸借では、賃借人が死亡した場合の賃借権は相続人に引き継がれます。一方、終身建物賃貸借のように賃借人の死亡時に終了する契約もあるため、親の死亡後に必要な手続きは契約の種類や相続関係などによって異なります。

5 お金を誰が管理するのか考える

財産を残すことと生活で使い続けることは別

仮に本人へ2,000万円を残せても、その2,000万円が自動的に毎日の生活へ変わるわけではありません。

本人が日常の買い物やATMの利用はできても、税金や公共料金の支払い期限を管理することに負担を感じるかもしれません。高額な住宅修繕の契約や行政から届いた重要書類への対応になると、誰かへ相談したいという人もいるでしょう。

反対に、対面でのやり取りは苦手でも、オンライン上の銀行手続きや支払いなら問題なくできる人もいます。

そこで、「財産管理ができるか」という一つの問いだけで判断しません。

本人が日々の支払いをどこまで管理できるのか、重要書類を確認できるのか、大きな契約の際に誰かへ相談できるのかを分けて見ます。こうすると、「全部本人に任せる」か「全部第三者へ任せる」かという二択ではなくなります。

難しい部分だけを支援へつなげるという考え方ができるでしょう。

本人ができる範囲 支援が必要な範囲
日常の買い物やATMの利用 税金や公共料金の支払い期限を管理すること
オンライン上の銀行手続きや支払い 高額な住宅修繕の契約や行政から届いた重要書類への対応

日常生活自立支援事業が利用できる場合

判断能力が十分ではないものの、事業の契約内容について判断できる人については、日常生活自立支援事業を利用できる可能性があります。

この事業では、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理などが行われています。利用には一定の要件があり、本人との契約に基づいて支援する仕組みであるため、すべてのひきこもり状態の人が利用できるわけではありません。

重要なのは、制度名だけを覚えて「これで解決する」と考えないことです。

本人が何に困っていて、どの程度の支援が必要なのかを地域の社会福祉協議会などへ相談し、その制度が本人に合うのかを確認します。

成年後見制度は現在と将来を分けて考える

判断能力が不十分で、財産管理や重要な契約について法的な支援が必要な場合には、成年後見制度が検討対象となることがあります。

2026年8月時点では、現行の法定後見制度として後見、保佐、補助の3類型があります。

一方、成年後見制度を見直す改正法は2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されました。成年後見制度に関する改正部分は、公布から2年6か月を超えない範囲で政令により定める日に施行される予定です。

さらに改正法では、現在の後見と保佐を廃止し、補助の制度へ一元化するなど、大きな制度変更が予定されています。

つまり、現在使われている後見、保佐、補助という3つの仕組みを、そのまま数年後の親なきあとへ当てはめられるとは限りません。

このため、数年先や十数年先を見据えて成年後見制度を検討する場合には、「今の制度を調べたから準備は終わり」と考えないほうがよいでしょう。

実際に利用を検討する時点で最新の制度をあらためて確認するとともに、今は「本人がどのような法律行為や財産管理で支援を必要とするのか」を整理しておくことが重要です。

民事信託などは目的を整理してから考える

まとまった財産を本人へ一度に渡すことへ不安がある家庭では、民事信託などの方法を検討することもあります。

たとえば、本人のための財産を一定の目的に沿って管理したい、自宅を含む財産管理を将来ほかの人へ託したいという希望がある場合です。

ただし、財産管理の仕組みを作っただけで、本人の医療や福祉、日常生活の支援まで自動的に整うわけではありません。

親なきあとで必要なのは、制度名をできるだけ多く知ることではなく、「本人が何を自分でできて、どこに支援が必要なのか」を明らかにすることです。

そのうえで相続、成年後見、民事信託など具体的な法的設計が必要になれば、弁護士や司法書士などへ確認するとよいでしょう。

6 兄弟にどこまで頼るのか整理する

お願いという言葉の中身を小さく分ける

「私たちがいなくなったら、この子のことをお願いね」

親としては、兄弟にそう頼みたくなるかもしれません。

ところが、言われた側には「お願い」の意味が分かりません。一緒に暮らすことなのか、毎月生活費を渡すことなのか、病院へ付き添うことなのか、行政手続きをすることなのかによって、負担は大きく変わります。

それらすべてを求められているように感じれば、兄弟にとって親なきあとそのものが重い問題になってしまうでしょう。

民法上、直系血族と兄弟姉妹には扶養義務があります。

ただし、具体的な扶養の方法や程度は、それぞれの経済状況や生活状況などを踏まえて考えられる問題であり、「兄弟だから親の代わりとして生活のすべてを担わなければならない」と単純化することはできません。

なお、生活保護では扶養義務者による扶養が保護に優先しますが、同居していない親族へ先に相談しなければ申請そのものができないという制度ではありません。

この点を混同してしまうと、「兄弟がいる限り、将来は兄弟がお金を出し続けなければならない」と親も本人も思い込んでしまう可能性があります。

兄弟にも自分の仕事や家庭があり、将来の生活があります。

そのため親なきあとの計画では、兄弟を「次の親」にしないことが重要です。

たとえば日常的な生活費の負担を頼むのではなく、緊急時の連絡先だけお願いできないかと話してみます。本人の金銭管理を全面的に任せるのではなく、支援機関との連絡が途切れたときに様子を確認してもらえないかという頼み方もあるでしょう。

「全部お願いしたい」という気持ちを、具体的で小さな役割へ分ける。

そのほうが、兄弟との関係を壊さずに将来について話しやすくなるでしょう。

財産を多く残したいときは相続も整理する

収入の少ない子どもへ、ほかの兄弟より多く財産を残したいと考える親もいます。

「この子には自分で収入を得ることが難しいかもしれないから、少しでも多く残したい」という気持ちには理由があります。

一方で、親の死亡後には相続人同士の関係も生じます。

特定の子へ財産を多く残す遺言を考える場合には、ほかの相続人の遺留分など法律上の問題を確認する必要があります。

親にとっては「必要だから多く残す」という判断でも、事情を知らない兄弟から見ると、「なぜ自分だけ少ないのか」と感じるという可能性があります。

財産額だけではなく、親がなぜその配分を考えたのかをどう伝えるかも重要でしょう。

具体的な遺言内容や遺留分、相続手続きについては、家族だけで結論を出さず、弁護士などの専門家へ確認するほうが安全です。

7 FPだけに頼らず支援チームと相談先を作る

お金の問題と生活の問題を分ける

親なきあとの問題は、お金だけで完結しません。

家計、福祉、医療、年金、住居、相続などが重なっているため、一人の専門家ですべてを解決しようとすると無理が生じます。

FPは、親自身の老後資金を見積もり、子どもの毎月の生活費や不足額を整理し、残せる資産がどのように減っていくかを試算する場面で役立つでしょう。

しかし、FPがひきこもり状態そのものを治療したり、すべての福祉制度や法律問題を解決したりするわけではありません。

地域生活や福祉サービスについては、社会福祉士や精神保健福祉士などが関わります。障害年金については年金事務所が基本的な相談先となり、専門的な申請支援が必要な場合には社会保険労務士を検討できます。

遺言、相続、成年後見、民事信託など法律上の判断が必要になれば、弁護士や司法書士などへ相談することになるでしょう。

「誰にすべて任せればいいか」ではなく、「この問題は誰に聞くか」と考えます。

相談先が増えると、かえって複雑に感じるかもしれません。しかし実際には、親一人の肩に乗っていた問題を、専門分野ごとに少しずつ下ろしていく作業です。

この問題は誰に聞くか 「この問題は誰に聞くか」 親自身の老後資金を見積もり、 子どもの毎月の生活費や 不足額を整理し、 残せる資産がどのように 減っていくかを試算 FP 地域生活や福祉サービス 社会福祉士や 精神保健福祉士など 障害年金 年金事務所 社会保険労務士 遺言、相続、成年後見、 民事信託など法律上の判断 弁護士や 司法書士など
「誰にすべて任せればいいか」ではなく、「この問題は誰に聞くか」と考えます。

本人が動かなくても家族から相談を始める

「本人が相談へ行ってくれないから、何もできない」

そう思っている親もいるでしょう。

しかし、ひきこもり支援では家族から相談を始められる窓口があります。ひきこもり地域支援センターなどでは、本人だけでなく家族への相談支援も行われています。

最初から本人を就労へつなげることを目的にする必要はありません。

「親が高齢になってきた」「本人には現在固定収入がない」「親なきあとの生活が心配」「本人自身はまだ相談を希望していない」と、今ある状況をそのまま伝えればよいでしょう。

家庭の中だけで10年、20年と続いてきた問題を、外の誰かへ初めて話すことには抵抗があるかもしれません。「家庭のことを知られたくない」「相談しても何も変わらないのでは」と感じることもあるでしょう。

それでも、一人でも家族の状況を知る支援者が増えれば、「親しか知らない」という状態から変わります。

親なきあとを考えるとき、この変化には大きな意味があります。

社会福祉協議会と自立相談支援機関も知っておく

日常的な金銭管理への不安がある場合には、地域の社会福祉協議会で日常生活自立支援事業について相談できます。

また、経済的困窮、住居、社会的な孤立など複数の問題が重なっている場合には、生活困窮者自立支援制度の自立相談支援機関も選択肢になります。

大切なのは、親が制度をすべて勉強してから相談することではありません。

「どの制度が使えるか分からないので相談したい」と伝えて構わないのです。制度を選び分けるところまで親だけの仕事にしないことも、長く支え続けてきた親が少しずつ役割を外へ渡すために必要でしょう。

7つの準備を一枚の親なきあと家計表につなげる

家計表は7つを実際の行動へ変える補助ツール

ここまで、親なきあとに整理したい7つのことを見てきました。

最初にこの記事の地図として示した通り、ここからはその中でも特にお金と暮らしに関係する部分を、一枚の家計表へまとめます。

この家計表は7つとは別の新しい整理方法ではありません。7つの準備のうち、特に2の生活費、3の固定収入、4の住居、5の金銭管理を具体化するための補助ツールです。

親自身の老後資金は1で別に確認し、兄弟との役割分担は6、外部の相談先は7で整理します。

親なきあと全体では7つを見る。

その中でも数字にできる部分を、次の5項目へ落とし込みます。

確認項目 書き込む内容
今の生活費 基礎生活費と予備費を合わせた本人の毎月の生活費
将来の固定収入 現時点で受給が確認できている継続収入
住居費 家賃または固定資産税や管理費や修繕費などの月額換算
毎月の不足額 生活費と住居費から固定収入を差し引いた金額
誰が管理するか 本人ができる範囲と支援が必要な範囲および相談先

最初の欄を「親の資産総額」にしていないことがポイントです。

親の預貯金が1,000万円でも3,000万円でも、本人が毎月いくら使い、毎月いくら入ってくるのかが分からなければ、その資産がどの程度生活を支えられるのか判断できません。

先に不足額を把握し、そのあとで親自身の老後資金を除いて残せる財産と照らし合わせます。

匿名化モデルケースで親なきあと家計を考える

68歳の父と65歳の母と38歳の長男

ここで、ある家族を例に考えてみます。

68歳の父と65歳の母は年金を受給しており、38歳の長男と暮らしています。長男には12年ほどのひきこもり期間があり、現在は仕事による収入がありません。

自宅は築30年の戸建てで、住宅ローンは完済しています。世帯の預貯金は1,800万円です。

父はときどき、「1,800万円あれば何とかなるのではないか」と考えます。一方の母は、「私たちだってこれから介護が必要になるかもしれないし、家も古くなるでしょう」と不安を感じています。

どちらの感覚も理解できます。

父は「残せる金額」を見て安心したい一方、母は「これから減っていくお金」が気になっています。どちらも子どもの将来を心配しているのに、見ている数字が違うのです。

ただし、1,800万円という資産総額だけを見ている限り、「大丈夫かどうか」の答えは出ません。

まず1の準備として、父母自身の老後生活に必要となる資金を別に見積もります。そのうえで、長男の暮らしについて家計表を作ります。

モデルケースの親なきあと家計表

このケースでは、長男の基礎生活費と予備費を合わせて月11万円、固定資産税や保険、将来の修繕費などを月額換算した住居費を2万円と仮定します。

現時点では長男本人の固定収入は確認できていません。

確認項目 モデルケース
基礎生活費と予備費 月11万円
将来の固定収入 現時点では月0円
住居費 月2万円
毎月の不足額 月13万円
誰が管理するか 未定

この表を見ると、この家庭で次に確認すべきことが分かります。

問題は単純に「預貯金が1,800万円しかないこと」ではありません。長男本人の固定収入が現時点で確認できていないことと、親がいなくなった後に誰が支払いや重要な手続きを支援するのか決まっていないことです。

つまり、3の固定収入と5の金銭管理について次の行動が必要だと分かります。

障害年金を受給できる前提で計算しない

長男には長いひきこもり期間がありますが、それだけで障害年金を受け取れるとは判断できません。

本人に心身の不調があり、医療や福祉による支援が必要なのであれば、まず必要な支援について相談します。その後、障害年金の制度上の要件を満たす可能性がある場合に、年金事務所などへ確認する流れになります。

仮に将来、障害基礎年金2級の受給が認められ、子の加算などを考慮せず、2026年度の基本額である年84万7,300円を受け取ると仮定すると、月額換算は約7万600円です。

このモデルでは、この障害基礎年金額だけを固定収入として置いて単純計算します。

月13万円の支出に対して約7万600円の固定収入があると仮定すれば、不足額は月約5万9,400円となり、年間では約71万3,000円です。

もし父母自身の老後資金を見積もったあと、長男のために1,200万円を残せると仮定すれば、現在の条件だけを用いた単純計算では約16.8年分の不足を補う計算になります。

反対に、固定収入が月0円のままであれば、月13万円、年間156万円が不足し、1,200万円は単純計算で約7.7年分です。

固定収入 毎月の不足額 年間では 1,200万円
約7万600円 月約5万9,400円 年間では約71万3,000円です。 約16.8年分の不足を補う計算になります。
月0円 月13万円 年間156万円が不足 単純計算で約7.7年分です。

かなり大きな違いでしょう。

しかし、この数字から「障害年金を受給できれば16年以上安心」と結論づけることはできません。

物価は変わる可能性がありますし、住宅の大規模修繕や医療費が発生することもあるでしょう。年金額や公的制度そのものが将来変更されるという可能性もあります。

この家計表の目的は、未来を言い当てることではありません。

どこが家計の弱い部分なのかを見つけることです。

この家庭なら、「固定収入について確認する」「金銭管理の相談先を作る」という二つの行動が見えてきます。それが分かれば、漠然とした「1,800万円で足りるのだろうか」という不安は、少なくとも次に動ける問題へ変わるでしょう。

親なきあと準備は一つの空欄から始める

一度に7つ完成させなくてもいい

ここまで読むと、「やはり準備することが多い」と感じるかもしれません。

親自身の老後資金を計算し、子どもの生活費を調べ、年金について確認し、住居や成年後見、相続まで考える。全部を今日から始めようとすれば、かえって手が止まってしまいます。

だから、一度に7つ完成させる必要はありません。

今週は本人のスマートフォン料金や医療費を調べ、生活費の欄を埋めてみる。次に固定資産税の通知書を探し、その後で地域の相談窓口を一つ確認するという進め方でも十分です。

相談窓口へ電話することがまだ重ければ、名称や連絡先を書いておくだけでも前進でしょう。

昨日まで「何千万円必要か分からない」と考えていた状態から、「まず月の生活費を確認しよう」と思えるようになったなら、不安の形はすでに変わっています。

準備の変化は不安が消えたかで測らない

分からないことが減れば前へ進んでいる

親なきあとへの準備を進めても、不安そのものが完全になくなるとは限りません。

子どもの将来を思えば、「本当にこの準備で足りるのだろうか」と心配になる日もあるでしょう。そうした気持ちが残るからといって、準備が進んでいないわけではありません。

以前は本人の生活費すら分からなかったけれど、今は月11万円程度だと把握できている。固定収入はまだないものの、どこへ確認すればよいか分かった。家の維持費を調べ、兄弟に頼みたい役割について少し話せた。

このように、分からないことが減っているなら準備は進んでいます。

親なきあとの計画とは、何十年先まで完璧に予測することではありません。

親がいなくなったときにも、本人の暮らしが次の人や制度へつながっていけるように、今ある空白を一つずつ埋めていくことです。

ひきこもりの子どもの親なきあと FAQ

親は子どものためにいくら残せばいいですか?

「この金額があれば大丈夫」という一律の基準はありません。

必要額は本人の生活費、固定収入、住居費、医療や福祉の利用状況などによって変わります。毎月3万円不足する家庭と13万円不足する家庭では、同じ20年間でも必要になる資金は大きく違います。

そのため、先に目標相続額を決めるのではなく、親自身に必要な老後資金を見積もったうえで、本人の毎月の不足額と残せる資産を照らし合わせる方法が現実的です。

親自身の老後資金と子どもの生活費はどちらを優先しますか?

どちらを人として優先するかという問題ではありません。

資金計画では、まず親自身の老後生活に必要な金額を見積もらなければ、子どもへどの程度の財産を残せるのか計算できません。

親の生活費や医療、介護などに必要な資金を確認した結果として、子どものために残せる資産を把握します。「子どもに2,000万円残す」と先に固定するのではなく、親と子の資金を分けて考えることが重要です。

本人がFP相談に来なくても相談できますか?

親自身の老後資金や資産状況、子どもへ残せる財産の見通しなどについては、親だけでFPへ相談を始められる場合があります。

ただし、成人した本人の契約や財産、個人情報に関わる手続きを、親だからという理由だけで自由に進められるわけではありません。

最初は「成人したひきこもり状態の子どもの親なきあとについて、親側の家計から整理したい」と伝えると、相談できる範囲を確認しやすいでしょう。

兄弟に面倒を見てもらう前提で考えてよいですか?

兄弟が親の役割をそのまま引き継ぐことを前提にした計画は避けたほうがよいでしょう。

兄弟にも自分自身の生活や家族、老後があります。

扶養義務があることと、親に代わって本人の生活費や日常生活のすべてを兄弟が負担しなければならないことは同じではありません。また、生活保護では扶養義務者による扶養が保護に優先しますが、同居していない親族への事前相談が申請そのものの条件になるわけでもありません。

「面倒を見てほしい」と一括りにせず、緊急連絡先など、どの役割ならお願いできるかを具体的に話し合い、それ以外を公的支援や専門職で補えないか考えることが重要です。

FPと社会福祉士にはどちらに相談すればよいですか?

家計収支、親自身の老後資金、子どもの生活費や不足額、資産の見通しを数字で整理したい場合には、FPが相談先の一つになります。

一方、地域で利用できる福祉サービスや生活支援、家族支援などは、社会福祉士や精神保健福祉士などの専門領域です。

どちらか一人ですべてを解決しようとせず、家計と生活支援を分けて相談するほうが親なきあとの全体像を整理しやすくなるでしょう。

どこから先は弁護士や社労士などに相談すべきですか?

障害年金について具体的な請求手続きや初診日に関する確認などで専門的支援を求める場合には、社会保険労務士が選択肢になります。

遺言、遺留分、相続、成年後見、民事信託など法律上の判断が必要になれば、弁護士や司法書士などへ相談します。

FPから「この部分は法律の専門家へ確認してください」と言われても、相談がうまくいかなかったわけではありません。

問題を適切な専門分野へ切り分けられたということです。

ひきこもりの子どもの親なきあと お金と暮らしのまとめ

ひきこもり状態の子どもの親なきあとを考えると、「一生分のお金を全部自分が残さなければ」と思い詰めてしまうことがあります。

しかし、親なきあとに整理したいのは相続額だけではありません。

親自身に必要な老後資金を見積もり、子どもの生活費、固定収入、住居、金銭管理、兄弟との役割、外部の支援先という7つを順番に確認します。

そのうち生活費、固定収入、住居、金銭管理については、一枚の親なきあと家計表にすると、まだ分かっていない部分や次に調べることが見えやすくなるでしょう。

家計表を最初から完成させる必要はありません。

今日分かる数字を一つ書き、分からない項目があれば、その部分について相談できる人を一人見つけるところから始めます。

そうして親だけが担ってきた役割を少しずつ本人や社会へつないでいくことが、親なきあとへの現実的な備えではないでしょうか。

親なきあとに整理したい7つのこと 親自身に必要な老後資金を見積もり 子どもの生活費 固定収入 住居 金銭管理 兄弟との役割 外部の支援先
親自身に必要な老後資金を見積もり、子どもの生活費、固定収入、住居、金銭管理、兄弟との役割、外部の支援先という7つを順番に確認します。

参考資料

制度は改正されることがあるため、実際に利用や申請を検討する際には最新の公的情報を確認してください。

日本年金機構 障害基礎年金の受給要件と年金額

日本年金機構 遺族基礎年金の受給要件

厚生労働省 ひきこもり支援に関する取組

厚生労働省 日常生活自立支援事業

厚生労働省 生活困窮者自立支援制度

厚生労働省 生活保護を申請したい方へ

厚生労働省 住居確保給付金

裁判所 成年後見制度

法務省 成年後見及び遺言制度の見直し

e-Gov法令検索 民法

政府広報オンライン 改正住宅セーフティネット法

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