業務改善

資料を作る順番 見た目から始めず相手の理解から設計する方法

資料を作ろうとして編集画面を開くと、まずタイトルを置き、文章を書き、空いている場所へ画像を入れ、少し寂しく見えれば色や図形を足したくなります。画面が少しずつ埋まっていけば、何も形になっていない状態で構成だけを考えている時より「ちゃんと進んでいる」という感覚を得やすく、締切が近い時ほど、考え続けるより手を動かしているほうが安心できるからです。

ところが、一枚目を整え、二枚目へ進み、三枚目のグラフまで作ったところで、「この説明はもっと後でよかった」「今回の相手なら先に結論を見せたほうがよい」「そもそも、このグラフはなくてもよかった」と気づくことがあります。その時には、文章を整え、数字を集め、画像を探し、配置まで決めているため、頭では構成を変えたほうがよいと分かっていても、「ここまで作ったものを捨てたくない」という気持ちまで生まれます。

資料作りが長引く原因は、必ずしも編集ソフトの操作が遅いことではありません。相手を考える、話の順番を決める、一枚ごとのメッセージを書く、必要な情報を選ぶ、グラフや写真を作る、書体や配色を整えるという性質の異なる仕事を、一枚目から同時に進めることで、判断を何度もやり直している場合があります。

そこで、資料を作る順番について一つだけ覚えるなら、完成形に近いものから作るのではなく、修正しやすく、しかも後工程へ大きな影響を与える判断から決めると考えてください。

ストーリーが変われば一枚ごとのメッセージが変わり、メッセージが変われば必要なグラフや写真が変わり、素材が変われば適したレイアウトも変わります。それなら、後から変更すると多くの作業へ波及する判断を、まだ文字を入れ替えるだけで済む段階で先に考えたほうが、大きな手戻りを避けやすくなります。

本稿では、この原則を土台に、資料設計で何を考えるのかを「5つの階層」、それを具体的な制作へ移す時の順番を「4つの制作工程」として整理します。

この5階層と4工程は、研究によって唯一の正解として定められた標準モデルではありません。資料作成で思考と制作を混ぜず、後の工程を左右する内容から先に決めるための実務上の整理です。

一方、認知負荷、知覚上の近接、色だけに意味を依存させない設計などについては、それぞれの主張に対応する研究や公式文書を参照します。外部研究や規格で確認できる内容、デザイン実務で使われる考え方、経験的な目安、本稿で用いる制作モデルを、同じ確実性の知識として扱わないことも、このガイドの前提です。

この記事を読み終えた時に目指すのは、資料デザインの知識を大量に暗記することではありません。資料を作り始めた時に、「今はまだ画像を探す段階ではない」「このページの色を直す前に、メッセージへ戻ったほうがよい」と、自分で現在の作業を判断できる状態になることです。

TABLE OF CONTENTS
目次

1 資料作りは最初の一枚から始めない

完成した資料は一枚目から順番に読まれますが、制作まで一枚目から順番に完成させる必要はありません。

たとえば八ページの提案資料を作るとして、一枚目ではタイトルと背景を整え、二枚目では説明文を書きながら画像を探し、三枚目では数字をグラフへ変え、その都度書体や配色まで調整していけば、一枚ごとには確実に完成へ近づいているように見えます。

しかし、五枚目まで進んでから「今回の相手なら、課題の細かな説明より先に提案内容を示したほうが理解しやすい」と気づけば、前半の流れを変更しなければなりません。

そこで発生するのは、単なる編集作業だけではありません。

時間をかけて作ったものほど、「せっかく作ったのだから残したい」という気持ちが生まれます。本来なら削ったほうがよい図でも、「この図を使えるように説明の流れを変えられないだろうか」と考え始めると、資料の目的に合わせて素材を選ぶのではなく、完成済みの素材を残すために資料全体を調整することになります。

反対に、まだ八ページ分のメッセージしか書いていなければ、三番目と五番目を入れ替えても、修正するのは数行の文章だけです。写真もグラフも完成していないため、「ここまで作ったから残したい」という感情も小さく、どちらの順番が相手にとって自然かという本来の基準で考えられます。

つまり、制作で最初に考えたいのは、完成画面へ近づく順番ではありません。後の作業を決めるものを、まだ変更しやすいうちに決める順番です。

「デザインは最後」という考え方も、デザインの価値が低いから成立するのではありません。構成やメッセージが変われば、必要な素材や配置まで変わるため、先に下流の制作を完成させるほど、上流の変更が起きた時に失う作業量が増えるからです。

もちろん、先に構成を考えても、後から新しいデータが判明したり、上司や顧客から条件が追加されたりすれば修正は起こります。この方法は変更を完全になくすものではなく、変更しやすい状態で大きな論点を先に確認することで、避けられる手戻りを減らしやすくする方法です。

2 最初に相手と目的を決める

資料制作の最初に決めるのは、ページ数でも書体でもありません。

誰がこの資料を見るのか、その人に何を理解してほしいのか、必要であれば何を比較してほしいのか、その先でどのような判断や行動へ進んでほしいのかを考えます。

同じ内容を扱っていても、新しく配属された人へ仕組みを説明する資料と、責任者へ施策の承認を求める資料では、必要な情報も順番も変わります。

ある会社で、営業部内の問い合わせ窓口を一つへまとめたいとします。

現在はメール、電話、口頭など複数の経路から依頼が入り、同じ案件へ複数人が対応してしまったり、口頭で受けた依頼が記録に残らず抜けたりしています。そこで受付を一か所へ集約し、誰が担当し、どこまで対応しているのかを共有できる状態へ変え、まず一定期間試したいと考えている場面です。

この話を現場の担当者へ説明するなら、「入力作業が増えないか」「急ぎの案件でも使えるのか」「今までの連絡方法はどうなるのか」といった不安が大きいかもしれません。

一方、承認する立場の人なら、「なぜ今の方法を変える必要があるのか」「追加費用は発生するのか」「現場の負担に見合う効果があるのか」「全面導入の前に確かめられないのか」といった点を先に知りたいでしょう。

提案そのものは同じでも、相手が違えば、最初に答えるべき疑問が変わります。

相手と目的を決めずに資料へ入ると、「詳しく説明したほうがよいのか」「もっと短くしたほうがよいのか」「この数字を入れるべきか」と迷った時に判断基準がありません。

反対に、相手と目的が明確なら、「この人は背景をすでに知っているから説明を短くする」「この人が承認するには費用が必要なので残す」と、情報を残す理由も削る理由も持てます。

理解・比較・判断・行動のどこまで支援するか

相手と目的を考える時には、今回の資料が相手をどこまで支援するのかも決めます。

本稿では、その深さを理解・比較・判断・行動という四つの観点から考えます。

新しい制度を説明する資料なら、「どのような制度なのか」「自分に何が関係するのか」を正しく理解してもらえれば、それだけで目的を果たす場合があります。

状況報告であれば、現在何が起きていて、どこまで影響し、どのように対応しているのかを共有するところまでで十分かもしれません。

複数案を検討する資料なら、価格、期間、効果、負担などの条件をそろえ、相手が違いを比較できる状態まで作ることが役割になる場合があります。

提案資料なら、その比較を踏まえて「実施するか」「予算を承認するか」という判断まで支援する必要があり、制度案内や手続き資料なら、理解した人がそのまま申し込みや申請という行動へ進めるところまで示す必要があるでしょう。

ただし、理解、比較、判断、行動は、毎回すべてを一つずつ通過しなければならない固定手順ではありません。

状況報告は理解で完結することがありますし、簡単な手続き変更であれば、比較をほとんど必要とせず、理解からそのまま行動へ進みます。

したがって、この四つは資料構成のテンプレートではなく、今回の資料がどこまで相手を支援する責任を持つのかを考えるための判断フレームです。

この地点が決まれば、情報量も決めやすくなります。相手へ判断を求めていないのに、メリットとデメリットを何ページも比較する必要はないかもしれませんし、反対に承認を求めているのに費用や現場負担へ触れず、「良い施策です」と説明するだけでは相手が判断できません。

3 資料設計で考える5つの階層

資料作成では、文章、グラフ、画像、書体、配色、余白など、多くの要素を考えなければなりません。

それらを最初から同じ重要度で扱うと、「結局、何から考えればよいのか」が分からなくなります。

そこで、本稿では資料設計で考える対象を、次の五つの階層へ整理します。

相手と目的 ストーリー メッセージ 補助情報 視覚設計

この記事の細かな内容を一週間後に忘れても、この五つだけ思い出せれば、資料制作のどこへ戻ればよいかを判断できます。

相手と目的

第一の階層は、誰へ何を届けるかです。

相手の役割、知識量、関心、不安を考え、その人に理解、比較、判断、行動のどこまで進んでほしいのかを定めます。

問い合わせ窓口の例で、営業部門の責任者から一定期間の試行について承認を得ることが目的なら、単に新しい仕組みを説明するだけでは足りません。なぜ現在の方法を変える必要があるのか、追加負担はどうなるのか、なぜ全面導入ではなく試行から始めるのかという、判断に必要な材料まで考えます。

ストーリー

第二の階層では、資料全体で何をどの順番に伝えるかを決めます。

背景から入るのか、最初に結論を示すのか、原因から結果へ進むのか、複数案を比較するのかは、情報そのものが持つ構造と、相手がすでに知っている内容によって変わります。

問い合わせ窓口の例なら、「窓口をまとめたい」という提案を出した後、「なぜ変える必要があるのか」「今どのような問題が起きているのか」「どう変えるのか」「負担は増えないのか」「本当に効果があるのか」という疑問へ答える流れを考えられます。

ストーリーで大切なのは、すべての情報を詰め込むことではありません。相手が途中で置いていかれない順番を作ることです。

メッセージ

第三の階層では、一枚ごとに何を理解してほしいのかを文章にします。

「現状」「課題」「解決策」といった言葉は、話題の種類を示しているだけで、そのページを見た人に何を持ち帰ってほしいのかまでは分かりません。

たとえば「現状」ではなく、「問い合わせ経路が複数に分かれ、対応状況を共有しにくくなっています」と書けば、そのページの意味が分かります。

「解決策」ではなく、「受付窓口を一本化し、担当者と対応状況を同じ場所で確認できるようにします」とすれば、その下へ置く図や説明も選びやすくなります。

一枚一メッセージという考え方は、一枚に一文しか置かないという意味ではありません。一枚の中心となる意味を一つにし、その意味を理解するための文章、数値、図、写真を周囲へ配置するという考え方です。

補助情報

第四の階層では、メッセージを理解、比較、確認するために必要なものを決めます。

ここを「証拠」だけに狭めると、提案資料では使いやすくても、説明資料や報告資料には当てはめにくくなります。

売上の変化を示す数値なら、主張を裏付ける根拠です。

二つの案を比べる表なら、比較材料です。

複雑な業務フローを示す図なら、構造を理解するための説明要素です。

現場の状態を示す写真なら、文章だけでは想像しにくい状況を具体化する情報になります。

そこで、本稿ではこれらをまとめて補助情報と呼びます。

「このページには何か図を置こう」と考えるのではなく、このメッセージを相手が理解するために、何があればよいのかと考えます。

視覚設計

第五の階層が、書体、色、配置、余白、図形、画像などによる視覚設計です。

視覚設計が最後なのは、重要度が低いからではありません。

前の四階層が決まっていなければ、何を大きくするのか、どこへ色を使うのか、何と何を近づけるのかを判断できないからです。

最も重要なメッセージが決まっているから、その一文を大きくできます。

主役と補足が分かっているから、文字サイズや太さへ差を付けられます。

情報同士の関係が分かっているから、近づけるものと離すものを決められます。

視覚設計は、情報を考える代わりではありません。すでに決めた重要度と関係を、目で読み取れる状態へ翻訳する工程です。

4 5つの階層と4つの制作工程は別のもの

ここで、「5つの階層が順番なら、4工程は何なのか」と感じるかもしれません。

二つは競合する別の方法ではありません。

5つの階層は、資料設計で何を考えるのかを示す基本地図です。

それに対して、4つの制作工程は、その地図を実際の作業へ変換したものです。

一つだけ覚えるなら、5階層を覚えてください。

4工程は、そのうち後半にあるメッセージ、補助情報、視覚設計を、制作作業へ落としたものだと考えると整理しやすくなります。

5つの階層と4つの制作工程

資料設計で考えること

相手と目的 ストーリー メッセージ 補助情報 視覚設計

実際に手を動かす時

相手と目的・ストーリーを先に定める 制作工程1 全ページのメッセージを確定する 制作工程2 必要な補助情報を文字で指定する 制作工程3 グラフ・表・図・写真などを具体的に作る 制作工程4 書体・色・余白・配置を整える

重要なのは、5と4という数字を両方暗記することではありません。

相手と目的、ストーリーという条件を考えた後、いきなり写真やデザインへ進まず、メッセージ → 必要なものの指定 → 実物の制作 → 視覚調整と進むことです。

5 ストーリーを相手の疑問と情報構造から作る

ストーリーには、大きく二つの入口があります。

一つは、相手が次に感じる疑問から順番を作る方法であり、もう一つは、時系列、因果、比較、問題と解決など、情報そのものが持っている構造から組み立てる方法です。

どちらか一方だけを使う必要はありません。

情報構造から大まかな骨格を作り、その後で相手の疑問と合っているかを確認してもよく、相手の疑問から構成を作った後で、因果や時系列が崩れていないかを確認しても構いません。

相手の疑問から順番を作る

問い合わせ窓口を一本化する提案で、最初に「営業部内の問い合わせを一つの窓口へ集約し、まず一定期間試したい」と伝えたとします。

まだ現状の問題を知らない責任者なら、「なぜ今の方法を変える必要があるのか」と思うでしょう。

そこで、現在はメール、電話、口頭など複数の経路から依頼が入り、受付内容と対応状況を一か所で把握できていないことを説明します。

すると、「それによって実際に何が困っているのか」が次に気になります。

そこで、同じ案件へ複数人が対応してしまったり、口頭で受けた依頼が記録から抜けたりしていることを示します。

問題が分かれば、「では、どのように変えるのか」が気になり、仕組みが理解できれば、「費用はどうなるのか」「現場の負担は増えないのか」「本当に効果があるのか」という具体的な懸念へ移るでしょう。

このように、作成者が次に話したい内容ではなく、今の説明を聞いた相手が次に何を知りたくなるかを基準にページを並べます。

実際に説明する場面では、ページを切り替える前に「では、なぜ今の方法を変える必要があるのでしょうか」と相手が感じそうな疑問を話し手自身が言葉にし、その次のページで答える方法もあります。

声に出して資料をつないでみると、黙読している時には気づかなかった話の飛躍が見つかることがあります。

情報そのものが持つ構造から作る

すべての資料を、相手の疑問だけから一枚ずつ発明する必要はありません。

障害報告なら、発生事象、影響範囲、原因、対応、再発防止という因果構造が自然かもしれません。

進捗報告なら、目標、現在地、計画との差、その理由、今後の対応という流れが使いやすい場合があります。

比較資料なら、比較対象、比較条件、それぞれの違いという構造が中心となり、作業手順なら開始から完了までの時系列が骨格になるでしょう。

まず情報そのものが持つ自然な構造を使い、その後で「この順番で見せた時、相手が途中で疑問を抱えたままにならないか」を確認します。

つまり、「相手の疑問」はストーリーを作る方法であると同時に、どのような構成にも使える検証原理です。

大きな疑問から具体的な条件へ進む

提案資料では、費用や日程を早く示したくなることがあります。

しかし、そもそも施策の必要性を理解していない段階で費用だけを見せても、相手はその金額を評価する基準を持っていません。

必要性をまだ共有できていないなら、まず何をするのか、なぜ必要なのかを示し、その後で費用、負担、日程などへ進むほうが自然です。

一方、相手が背景をすでに十分理解しているなら、同じ説明を長く繰り返す必要はありません。

結論、理由、具体例、結論というPREPのような型も整理には使えますが、型を守ることより、相手が今どこまで知っているかを優先します。

6 制作工程1 全ページのメッセージを最後まで確定する

相手と目的、ストーリーの方向が見えたら、ここから実際の制作へ進みます。

最初に行うのは、一枚目のデザインではありません。

最後のページまで、全ページのメッセージだけを書きます。

紙を横向きに置いて八つほどの枠へ分け、それぞれを一枚のページに見立てて文章を書く方法があります。八ページなら一枚、十六ページなら二枚、二十四ページなら三枚というように増やせばよく、この段階ではグラフ、写真、図形、配色を作りません。

紙でなければならないわけでもなく、全ページの文章を一度に見渡せるのであれば、文章だけを並べられる環境でも構いません。

大切なのは、一枚ずつ完成画面を見るのではなく、資料全体のメッセージを同時に見渡すことです。

見た目にはほとんど何も完成していないため、「これで本当に資料を作っていると言えるのだろうか」と不安になるかもしれません。

しかし、この時に作っているのは表面ではなく骨格です。

文章だけを上から読んで話が自然につながるなら、その後に置く図や写真へ役割を与えやすくなります。反対に、メッセージだけで流れが分からない状態を、画像や配色によって解決しようとしても、構造の問題は残ります。

テーマではなく意味を書く

「現状」「課題」「解決策」とだけ書いても、まだメッセージにはなっていません。

たとえば、「現状」ではなく「問い合わせ経路が複数に分かれ、対応状況を共有しにくくなっています」と書きます。

「課題」ではなく「記録が一か所に残らないため、対応漏れや重複を防ぎにくい状態です」とし、「解決策」なら「受付窓口を一本化し、担当者と対応状況を同じ場所で確認できるようにします」というところまで具体化します。

テーマ名だけで止めると、後からグラフや写真を置いた時に「それで何が言いたいのか」をもう一度考えなければなりません。

メッセージまで決まっていれば、その下へ置く情報を、「この意味を理解するために必要か」という基準で選べます。

最初から短くしすぎない

分かりやすい資料を作ろうとすると、最初から短い表現だけにまとめたくなることがあります。

ところが、短くすることを先に考えると、「なぜそうなのか」「どの条件なら成立するのか」「相手がどこで不安になるのか」という背景まで落としてしまうことがあります。

最初は多少長くても構いません。

理由、条件、経緯まで一度書き、その後で中心となる意味を取り出します。

これは情報を勝手に削るためではなく、中心となる主張、理由、詳細、補足へ役割を分けるための整理です。

第三者レビューは作り込む前に行う

全ページのメッセージが並んだら、可能であれば別の人にも文章だけを読んでもらいます。

確認したいのは色やレイアウトではなく、「この順番で意味が分かるか」「途中で必要な前提が抜けていないか」「同じ話を二度していないか」という構造です。

まだ文章しかなければ、「三ページ目と五ページ目を入れ替えたほうがよい」と言われても、数行を動かすだけで済みます。

写真やグラフまで作った後なら、同じ変更でも作業量と心理的な抵抗が大きくなります。

実務では、最初のまとまった時間をストーリーとメッセージだけへ使い、素材制作へ入らないという方法もあります。時間そのものに普遍的な正解があるわけではなく、構成を考える時間に制作作業を混ぜないことが狙いです。

同じ8ページを2つの作り方で比較する

問い合わせ窓口を整理する提案を八ページで作るなら、たとえば次のようなメッセージを考えられます。

ページ 中心となるメッセージ
1 問い合わせ窓口を一つへまとめ、まず一定期間試したい
2 現在はメール、電話、口頭など複数の経路から依頼が入っている
3 そのため、対応漏れや重複が起こりやすい
4 受付内容と対応状況を一か所で共有できていないことが原因になっている
5 窓口を一本化し、担当者と対応状況を共有できる仕組みに変える
6 現場の負担を増やしすぎない運用条件を整える
7 全面導入の前に一定期間試し、効果と負担を確認する
8 試行開始について承認を求める

この資料を一枚ずつ完成させる場合と、工程を分ける場合では、作業中の心理も変わります。

見た目から1枚ずつ作る場合 工程を分けて作る場合
1ページ目のタイトルや配色を整える 8ページ分のメッセージだけを先に並べる
2ページ目を書きながら写真やアイコンを探す 文章だけで話がつながるか確認する
3ページ目でグラフまで作る 各ページに必要な補助情報だけを文字で指定する
後半で構成を変えたくなる 素材制作前に順番を変えられる
作ったページを削りにくくなる 文章段階なので削除や統合への抵抗が小さい
配色やレイアウトまで作り直す 構成確定後に素材と視覚設計へ進む

左側では、完成画面が増えるので「仕事が進んでいる」という安心感を得やすい反面、資料全体の判断が後回しになりやすくなります。

右側では、最初の段階で完成したページが存在しないため、少し落ち着かなく感じるかもしれません。しかし、変更コストの低い状態で、後工程への影響が大きい判断を先に済ませられるという違いがあります。

7 制作工程2 必要な補助情報を文字で指定する

全ページのメッセージが決まったら、その内容を理解するために必要な情報を文字で書きます。

ここでも、まだ実物は作りません。

「現在の受付経路を示す図」「対応漏れや重複の実態が分かる数字」「導入前後の比較表」「一本化後の業務フロー」「現場の状態が分かる写真」というように、必要なものの名前だけを指定します。

問い合わせ窓口の八ページなら、二ページ目には「現在の受付経路を示す簡単な図」、三ページ目には「対応漏れや重複の件数または具体例」、五ページ目には「一本化後の受付から完了までの流れ」、七ページ目には「試行期間と確認項目」と書けます。

この段階を独立させる理由は、何を作るべきかという判断と、それを実際に作る作業を分けるためです。

自分では地図を入れたいと思っていても、ほかの人に見せると「今回の相手が知りたいのは場所ではなく、実際にどのような人が働いているかではないか」と言われるかもしれません。

まだ「地図」と一行書いてあるだけなら、現場写真へ変えてもほとんど損失はありません。

一方、拠点を調べ、細かな位置まで表示し、体裁を整えた地図を完成させた後では、「ここまで作ったのだから使いたい」と感じるのが自然です。

だから工程2では、完成物を作る前に何を作るのかについて認識をそろえることを優先します。

ここでの判断基準は、「画面が寂しくならないか」ではありません。

その補助情報によって、相手の理解、比較、判断のどこが進むのかを考えます。

8 制作工程3 必要な素材を具体的に作る

メッセージと補助情報が決まったら、ここで初めて数字を集計し、グラフ、表、図、写真などを具体化します。

この時点では「何を作るのか」が決まっているため、画像を探しながら構成まで考え直す状態を避けやすくなります。

グラフは数字だけを置かない

グラフを作った本人は、元データも計算過程も何度も見ています。

そのため、グラフだけを置いても意味が伝わるように感じます。

しかし初めて見る人は、「どこを見るべきなのか」「増加が重要なのか」「平均との差を見るのか」「その変化をどう受け止めればよいのか」まで、自分で分析しなければなりません。

そこで、「未処理案件が月末へ集中しています」「導入後は対応時間のばらつきが小さくなりました」というように、グラフから何を読み取ってほしいのかをメッセージと接続します。

表についても同様で、表を置いて「見れば分かる」と相手へ分析を任せるのではなく、何を比較すればよいのかが分かる状態を作ります。

比較では条件をそろえる

複数案を比較する場合には、同じ観点で情報をそろえます。

一方については費用、期間、支援体制まで説明しているのに、もう一方については機能しか示していなければ、公平には比べられません。

価格、導入期間、運用負担、期待効果など、今回必要な比較軸を先に決め、各案について同じ項目を並べます。

資料の目的が比較までなら、どちらを選ぶべきかまで無理に結論付ける必要はありません。

相手が違いを確認できる状態を作ること自体が、資料の役割になる場合もあります。

写真は見栄えではなく役割で選ぶ

きれいな写真を入れると、画面が急に完成したように見えます。

その達成感があるため、内容との関係が薄い写真まで入れたくなることがあります。

そこで、画像を置く前に「この写真がなくなると、何が理解しにくくなるのか」と考えてください。

文章だけでは現場の状態を想像しにくいため写真を使うのであれば、明確な役割があります。

なくても理解がほとんど変わらず、華やかさだけが減るのであれば、その画像は装飾として慎重に扱ったほうがよいでしょう。

人物写真でも、実際の説明内容と雰囲気が大きく違えば、「この写真は今回の話とどう関係するのだろう」と余計な疑問を生む場合があります。

生成した画像についても、手指、文字、背景、光などの不自然さが目立てば、メッセージではなく画像の違和感へ注意が向くことがあります。

素材は「置けるから置く」のではなく、文章だけでは担いにくい仕事を補うために使うと考えます。

9 制作工程4 最後に視覚設計を整える

メッセージ、補助情報、具体的な素材までそろってから、最後に書体、色、余白、整列、図形などを整えます。

ここまで来れば、デザインで何を強く見せるのかを判断できます。

重要なメッセージが決まっているため、大きくする文章を選べます。

主役と補足が分かっているため、太さや文字サイズへ差を付けられます。

情報のまとまりが決まっているため、近くへ置くものと離すものを判断できます。

だから、視覚設計は「最後にきれいにする工程」ではありません。すでに整理された情報の優先順位と関係を、目で読み取れる状態へ翻訳する工程です。

問い合わせ窓口の一枚を視覚設計までつなげる

たとえば三ページ目のメッセージが、「連絡経路が分散しているため、対応漏れと重複が起こりやすくなっています」だったとします。

このページで最初に理解してほしいのは、写真の雰囲気ではなく、この意味です。

そのため、上部へメッセージを明確に置き、下部にはメール、電話、口頭など複数の経路から依頼が入り、それぞれの記録が分かれることで「対応状況が見えない」「同じ案件へ複数人が動く」という問題へつながる様子を、簡潔な図で示せます。

メール 電話 口頭 それぞれの記録が分かれることで 対応状況が見えない 同じ案件へ 複数人が動く

実際の件数があるなら、数値を追加して主張を補強してもよいでしょう。

一方、このページに仕事をしている人物の大きな写真を置いても、経路分散という構造の理解にはあまり役立たないかもしれません。

つまり、個々のデザイン技法を覚える前に、この視覚要素はメッセージのどこを助けているのかと考えるだけでも、不要な装飾を減らせます。

長文には読む順番を作る

説明を省略できず、文章量が多くなるページもあります。

その場合、すべての文章を同じ大きさと太さで置けば、読み手は最初から最後まで同じ重要度で読まなければなりません。

長文を載せる必要があるなら、最初の一文を大きくして結論を先に見せ、内容のまとまりごとに見出しを置き、本文では本当に重要な箇所だけを太くすることで、情報量を保ったまま読む順番を作れます。

情報量が多いこと自体より、中心と補足の区別が見えないことが、読みづらさにつながる場合があります。

複数行の本文では、中央揃えを多用すると行頭の位置が毎回変わるため、左揃えを基本として検討すると安定しやすくなります。一方、短い表紙タイトルなど、文章量が少なく中心性を見せたい場所では中央配置が合う場合もあるため、配置は役割と文章量に応じて選びます。

近接でまとまりを伝える

関係する見出しと説明文は近づけ、別の話題との間には広めの空間を取ります。

Max Wertheimerが1923年に発表した知覚的組織化に関する論考では、間隔の小さい刺激がまとまりとして知覚されやすい「Factor of Proximity」が論じられています。近接だけが知覚的なまとまりを決めるわけではありませんが、要素間の距離が群化へ影響するという背景を確認できます。

資料でも、「何を同じまとまりとして理解してほしいのか」を考え、その関係を距離へ反映します。

余白は、何も置いていない無駄な場所ではありません。情報同士の境界を示し、主役の周囲へ空間を作り、「ここまでが一つの話だ」と理解しやすくするために使えます。

整列と反復で読み方を安定させる

同じ役割の見出しなのに、ページごとに開始位置や大きさが変われば、読む側はページを移るたびに新しい表示ルールを理解し直すことになります。

見出しの位置、本文の開始位置、画像の形、余白など、同じ役割には同じルールを使います。

ただし、反復することと、内容の違いを無視して同じレイアウトへ押し込むことは別です。

三つの案を同じ条件で比較するなら三列構成には意味がありますが、一つだけ中心となる情報があり、残りが補足であれば、三つを同じ大きさにすることで本来の優先順位を消してしまいます。

同じ役割だから同じ見せ方をするのであって、同じ見せ方を使いたいから情報を同じ役割へ変えるのではありません。

色だけで意味を伝えない

成功と失敗、増加と減少、案Aと案Bなどを色だけで区別すると、その色差を認識しにくい人には内容が伝わらない場合があります。

WCAG 2.2のSuccess Criterion 1.4.1では、情報を伝える、操作を示す、反応を促す、視覚要素を区別するといった用途で、色を唯一の視覚的手段として使わないことが定められています。

WCAG 2.2はWebコンテンツ向けの規範的なアクセシビリティ基準ですが、W3CはWCAG2ICTというGroup Noteで、WCAGの原則や成功基準を非Web文書やソフトウェアへ適用する際のガイダンスも提供しています。WCAG2ICT自体は要件を設定する規範文書ではなく、informativeなガイダンスです。

したがって、一般的な電子資料でも、色だけではなく文字ラベル、形、線の種類、配置などを併用し、色を見分けにくい状況でも意味が残るようにする考え方は参考になります。

10 今日5分で試すなら最後までメッセージだけを書く

ここまで読むと、「相手と目的、ストーリー、補助情報まで考えるなら、むしろ大変なのでは」と感じる人もいるかもしれません。

次の資料から、この記事のすべてを完璧に実践する必要はありません。

今日一つだけ試すなら、最初の一枚を作る前に、最後のページまでメッセージだけを書いてください。

八ページの予定なら、八つの文章を書きます。

最初は少し長くても構いません。

画像もグラフも色も考えず、その文章だけを上から読みます。

「二ページ目を読んだ人は、三ページ目の話を自然に知りたくなるか」「四ページ目を理解するための前提が抜けていないか」「六ページ目と七ページ目で同じ話を繰り返していないか」と確認します。

できれば、内容を詳しく知らない人へ文章だけを見せ、「この順番で何の話か分かるか」「途中で何が気になったか」と聞いてみます。

そこで流れを修正してから、メッセージを確定し、必要な補助情報を文字で指定し、素材を作り、最後に視覚設計へ進みます。

メッセージを確定し 必要な補助情報を文字で指定し 素材を作り 最後に視覚設計へ進みます
そこで流れを修正してから、メッセージを確定し、必要な補助情報を文字で指定し、素材を作り、最後に視覚設計へ進みます。

編集画面を早く開くことが、早く資料を完成させることとは限りません。

最初の一枚を作り込めば、「進んでいる」という安心感は得られます。しかし、資料の後半まで考えた時にその一枚を作り直すのであれば、最初の安心感と引き換えに後の手戻りを抱えることになります。

ここまでが、「資料を何から作ればよいのか」という本稿の中心です。

この先は、実際に資料を作る中で必要になった時に戻って確認できる応用編と参考編です。最初からすべて覚える必要はなく、説明用資料、AI利用、完成後の診断、書体や配色など、今の課題と関係する部分だけ参照しても構いません。

応用編1 説明用と単体閲覧用では完成形を変える

考える順番は同じでも、完成する資料の情報密度まで同じにする必要はありません。

人が説明しながら使う資料

話し手が説明する資料では、相手は音声を聞きながら画面も見ています。

画面へ長い文章を表示し、話し手もほぼ同じ内容を読み上げれば、聞くことと読むことを同時に求めることになります。

John Swellerの1988年の論文では、means-ends analysisを用いる問題解決が大きな認知処理容量を必要とし、その容量がschema acquisitionへ利用しにくくなるという議論と実験的検討が行われています。これはスライドやプレゼンテーションを直接調べた研究ではないため、「長文のスライドは避けるべきだ」と直接証明するものではありません。

ここで研究から読み取れるのは、認知処理に使える容量を無制限とみなせないという背景です。

そのうえで資料実務では、話し手が口頭で補える背景まで画面へすべて書き写さず、結論、重要な数字、比較、構造など、視覚で示す意味の大きいものを画面へ任せる方法があります。これは研究結果そのものではなく、その背景を踏まえて情報の役割を分ける実務上の設計判断です。

ただし、「文字は少ないほどよい」という意味でもありません。

専門用語の定義が必要なら文章を残すべきですし、数字だけでは意味を誤解しそうなら説明も必要です。

単体で読ませる資料

後から一人で読む資料には、話し手がいません。

作成者には当たり前の前提でも、それを知らない人が読むのであれば、背景や条件を残さなければ文脈が切れてしまいます。

したがって、単体閲覧用の資料は、口頭説明用より文章量が増える場合があります。

一枚一メッセージという考え方は維持しながら、そのメッセージを資料だけで理解できるところまで情報を残します。

説明と回覧を兼ねる資料

会議で説明した資料を後から回覧する場合には、本編と補足を分ける方法があります。

本編には、その場で理解や判断に必要な骨子を置き、詳細な計算、前提条件、追加データ、想定質問への回答などを後半へまとめます。

会議では本編で進め、必要になった時だけ補足へ移り、後から読む人は自分に必要な深さまで確認できます。

これは情報を削る方法ではなく、読む目的とタイミングに合わせて情報の置き場所を分ける方法です。

応用編2 AIを使う場合も順番は変えない

AIを使えば、文章、構成案、画像、配色、レイアウトまで短時間で候補を作れます。

以前なら一案作るだけでも時間がかかったところを、複数案から比較できることは大きな利点です。

その一方で、完成らしい画面が早く出るほど、「もう構成まで決まった」と感じやすくなります。

候補を速く作れることと、何を選ぶべきか分かることは別です。

相手と目的が決まっていなければ、十種類のレイアウトを見ても「一番格好よく見えるもの」を選ぶしかありません。

メッセージが決まっていなければ、どの文章を大きくすべきか、どの写真を削るべきかも判断できません。

そのため、AIを使う場合にも、基本となる5階層は変わりません。

AIは、その各段階で候補を増やすための手段として使います。

構成と見た目を同時に決めない

最初から一つの完成案を作らせ、「もっとおしゃれに」「もう少し高級感を」と修正し続けるより、まず構成だけを複数案出し、情報の流れとして最も自然なものを人間が選ぶ方法があります。

構成が決まったらレイアウトを固定して配色だけを比較し、その後で余白、罫線、文字サイズなど細部を整えます。

つまり、構成 → 色 → 細部と判断を分けます。

一度に複数の条件を変えると、「色が変わったから良くなったのか」「配置が変わったから良くなったのか」が分かりにくくなります。

一つずつ比較することで、選択理由を人間側へ残せます。

AIらしい見た目を禁止リストだけで判断しない

AIが作った画面を見て、「整っているけれど、どこか見覚えがある」と感じる場合があります。

強いグラデーション、理由なく横へ並んだカード、大量のアイコン、増えすぎた色、日本語と雰囲気の合わない書体などが、違和感として現れることがあります。

しかし、これらの表現自体が悪いわけではありません。

三つの情報を同じ条件で比較するなら三列カードは合理的ですし、世界観と合うならグラデーションにも意味があります。

アイコンも、文字を読むより速く情報の種類を理解できる場所では役立ちます。

問題なのは表現の種類ではなく、なぜその表現を選んだのかを説明できないことです。

「AIが最初からそうしていたから残した」のではなく、「三つの案を同じ条件で比較するために横並びへした」と説明できるなら、その表現には機能があります。

禁止するなら代わりの原則まで伝える

AIへ「アイコンを使わない」「グラデーションを使わない」と禁止するだけでは、空いた場所を別の装飾で埋める場合があります。

そこで、「見出しごとのアイコンは使わず、文字サイズ、太さ、余白で情報階層を作る」「強いグラデーションを背景に使わず、明るい背景と濃い文字を基本にして、アクセント色を重要箇所へ限定する」というように、避けるものと代替原則をセットで伝えます。

禁止条件だけではなく、代わりに何を基準として判断するのかまで指定します。

参考画像は表面ではなく特徴を伝えるために使う

「落ち着いて高級感がある」「先進的でシャープ」といった言葉は、人によって想像する見た目が異なります。

そこで、参考にしたい制作物を見せ、余白、文字階層、情報密度、配色、写真の扱い方などを読み取らせる方法があります。

ただし、参考画像の構図をそのまま再現することを目的にするのではなく、「現在の構成は維持し、余白の取り方と文字階層だけを参考にする」というように、取り入れる特徴を限定します。

うまくいった判断を次回へ残す

一度よい資料ができても、次回またゼロから同じ判断をする必要はありません。

背景色、文字色、アクセント色、書体、余白、角の丸み、アイコンの使用条件、避けたい表現などを、自分のルールとして残します。

次回は「前回と同じ感じ」という曖昧な指示ではなく、その判断基準を渡します。

AIらしさを減らすとは、人が作ったように見せるためにわざと崩すことではありません。AIが自動的に決めた箇所を人間が確認し、今回の目的に必要なものだけを理由を持って残すことです。

応用編3 完成後も5階層の順番で診断する

資料が完成した後に「何となく分かりにくい」と感じると、色を変えたり、写真を増やしたり、強調を追加したりしたくなります。

しかし、制作時に上流から下流へ進んだのであれば、改善する時も上流から確認したほうが原因を見つけやすくなります。

まず、相手と目的を確認します。

「誰へ何を伝える資料なのか」が途中で変わっていないか、情報を足しているうちに本来の目的が埋もれていないかを見ます。

次にストーリーを確認し、必要な前提が抜けていないか、同じ説明が繰り返されていないか、相手が疑問を抱えたまま別の話へ進んでいないかを見ます。

その次に、一枚ごとのメッセージです。

「このページで何を理解してほしいのか」を一言で説明できないなら、複数の主張が混ざっているか、単なるテーマ名で止まっている可能性があります。

次に補助情報を見ます。

グラフ、表、写真、図が本当にメッセージを助けているか、詳細すぎる情報が本編へ入り込んでいないかを確認します。

最後に視覚設計を確認し、書体、色、余白、配置を調整します。

制作時には「何から決めるか」として使った5階層を、完成後にはどこに問題があるのかを探す診断順序として再利用しているわけです。

まず 相手と目的 次に ストーリー その次に 一枚ごとのメッセージ 次に 補助情報 最後に 視覚設計

短い時間で意味が見えるか

ページを表示した時に、「何を伝えたいページなのか」「どこを見ればその理由が分かるのか」を短い時間で大まかに把握できるか確認します。

これは厳密な秒数を計測する科学的な試験ではなく、情報階層が一目で把握できるかを見る実務上の確認です。

分かりにくい場合に強調色を追加する前に、メッセージが曖昧ではないか、一枚へ二つ以上の主張を入れていないかを見直します。

ぼかしても主役が残るか

文字が読めない程度まで縮小したり、一時的にぼかしたりすると、内容を読むことなく視覚的な強さだけを確認できます。

本来のメッセージより装飾や補足数字のほうが強く見えるなら、作成者が考えた優先順位と実際の見た目がずれている可能性があります。

これは正式なアクセシビリティ評価ではなく、意図した視覚階層を確認する補助的な方法です。

モノクロにしても意味が残るか

一時的に色を外すと、色だけへ依存していた区別を見つけやすくなります。

成功と失敗、案Aと案Bの違いが色を外した瞬間に分からなくなるなら、文字ラベル、形、線の種類など、別の手掛かりを加える余地があります。

選択理由を言葉にできるか

「この文字を大きくしたのは、このページで最初に理解してほしい結論だから」

「二案を横並びにしたのは、同じ条件で比較してほしいから」

「この写真を置いたのは、文章だけでは現場の状態を想像しにくいから」

というように、書体、色、写真、配置について目的との関係を説明できる状態を目指します。

「何となく格好いい」という感覚を完全になくす必要はありませんが、重要な判断ほど、相手の理解と結び付いた理由を持てるほうが資料全体は安定します。

参考編 視覚設計をさらに深く考える

ここから先は、「資料を作る順番」という本論を理解するための必須知識ではありません。

工程4へ進んだ後、実際に文字、配色、レイアウトで迷った時に戻って参照するための知識です。

この位置へ分けるのは重要ではないからではなく、資料の構造を考える前に、細部の知識へ意識を奪われないようにするためです。

書体は資料から感じる声を変える

書体は文字の内容を変えなくても、受け手が感じる雰囲気を変えます。

明朝系は、縦線と横線の太さに差があり、線の端にも特徴を持つため、上品さ、知性、伝統、格式といった雰囲気を求める場面で選ばれることがあります。

ゴシック系は、縦横の線幅が比較的そろい、装飾が少ないため、明快さや現代的な印象を求める場面で使いやすく、投影資料でも候補になりやすいでしょう。

丸みのある書体は、柔らかさや親しみを表現したい時に選ばれることがあり、手書き風や装飾性の高い書体は、短い見出しなどで強い世界観を出したい時に使われます。

欧文でも、文字端に飾りを持つ書体は伝統や格式を感じさせる方向で使われることがあり、装飾の少ない書体は簡潔さや現代性を求める場面で選ばれる傾向があります。手書きに近い書体や装飾性の高い書体は個性を出しやすい一方、長い本文に使えば内容より文字そのものへ注意が向く場合があります。

こうした説明は、すべての人へ同じ心理効果が発生するという法則ではありません。書体選びの際に、どのような雰囲気で内容を受け取ってほしいかを考えるための観察の視点として使います。

書体とフォントは同じ意味ではない

書体は文字の形に共通する設計様式を指し、フォントはその書体をコンピューター上で利用できる形にしたデータとして捉えると整理しやすくなります。

文字を見る時には、文字として認識される基本的な骨格、その周囲へ加えられる特徴、文字内部の空間、実際に見える文字の大きさ、一文字が収まる見えない枠など、複数の要素が関係しています。

そのため、同じ文字サイズを指定しても、書体によって実際に見える大きさは同じになりません。

日本語の文字は、基本的に同じ大きさの見えない枠を基準として設計される一方、欧文では文字ごとに幅が大きく異なることがあります。そのため、日本語と欧文を混ぜた時には、数字上では同じサイズでも、文字の大きさや間隔に違和感が出る場合があります。

数値だけで合わせず、最終的には実際の表示を見て調整します。

文字内部の空間や重心も観察材料になる

文字内部の空間が狭い書体を、引き締まった雰囲気を出す目的で選ぶ場合もあれば、内部の空間が広い書体を、ゆったりした印象へ寄せたい時に選ぶこともあります。

文字の重心についても、高く見えるものを軽快な方向へ、低く見えるものを安定感のある方向へ使うという見方があります。

これらは普遍的な心理法則として覚えるのではなく、書体の形を観察し、自分の選択理由を言語化するためのヒントとして扱います。

書体を一人の人物として考える

書体選びに迷った時には、その資料が一人の人物だったら、どのような声で話してほしいかを想像する方法があります。

静かで上品に説明する人物なのか、親しみやすく話しかける人物なのか、端的で力強く伝える人物なのかを考えると、「何となく好きだから」という感覚を、資料の目的と結び付けやすくなります。

これは科学的な分類ではなく、書体一覧を眺め続けて決められなくなった時に、自分の狙いを言語化するための実務上の方法です。

書体の歴史も選択理由を増やす

長く使われてきた書体には、それぞれ作られた背景や利用されてきた文脈があります。

頻繁に利用する書体について背景を知っておけば、「何となく好きだから」という理由だけでなく、「この書体が持つ文脈が今回の制作物と合うから」と説明できる場合があります。

すべての書体史を覚える必要はなく、判断材料を増やすための発展的な知識です。

Webでは同じ書体が表示されない場合がある

Web上では、閲覧者の端末へ制作側と同じ書体が入っているとは限りません。

別の書体へ置き換われば、雰囲気だけでなく文字幅や改行位置まで変わる場合があります。

ネットワーク上から書体データを読み込む仕組みを利用すれば、異なる端末でも一定の表示を保ちやすくなります。

これは一般的な資料制作の必須知識ではなく、Web上で資料やコンテンツを公開する場合に関係する参考知識です。

文字装飾は小さく使う

書体を選んでも、文字が周囲のデザインから浮いて見えることがあります。

そのような時には、資料ですでに使っている色を文字の一部へ取り入れたり、限られた箇所だけへ色を付けたりすることで、周囲との一体感を作れる場合があります。

文字内部の空間へ色や模様を入れたり、細く流れる文字同士を線のようにつなげたりする表現もありますが、これらは「空いているから」という理由で行うものではありません。

読みやすさを損なわず、今回の制作物の世界観に意味がある時だけ使います。

配色は色相 彩度 明度へ分けて考える

配色を感覚だけで決めると、「こちらの青より少し暗い青のほうがよいかもしれない」と候補を比較し続け、決められなくなることがあります。

そこで、色を色相、彩度、明度へ分けます。

色相は赤、青、緑といった色味の違いです。

彩度は鮮やかさで、高いほど強く鮮やかに見え、下げると落ち着いた、くすみのある方向へ変わります。

明度は明るさで、同じ赤でも明るくすれば軽く柔らかな方向へ、暗くすれば落ち着きや重さを感じやすい方向へ変わります。

白、灰色、黒など、色味をほとんど持たない色は無彩色として扱われます。

赤は生命力、興奮、愛情、怒り、警告など複数の意味と結び付けて使われることがあり、青は落ち着き、知性、信頼などを表現したい場面で選ばれることがあります。ただし、こうした印象は文脈や文化、周囲の色によっても変わるため、「赤なら必ず危険」「青なら必ず信頼」と固定的に扱うべきではありません。

補色 類似色 グラデーションを目的で使い分ける

色相環で大きく離れた色は強い対比を作りやすく、近い位置にある色はまとまりを作りやすくなります。

目立たせたい場所では対比を使い、全体を落ち着かせたい場合には同じ色相を中心に明度や彩度を変える方法があります。

異なる色同士でも、明度や彩度の傾向を合わせたり、色の変化を滑らかにつないだりすることで、一体感を作れる場合があります。

ただし、グラデーションを使えば質が上がるわけではありません。その色の変化が今回の資料でどのような役割を持つのかを確認します。

70対25対5は配色を整理する目安

配色では、ベースカラーを約70%、メインカラーを約25%、アクセントカラーを約5%として考える方法があります。

背景など広い場所へベースを使い、テーマを示す色をメインとして、特に目立たせたい部分へアクセントを使う考え方です。

これは公式規格や科学的な法則ではなく、色の役割を整理するために使われる実務上の目安です。

比率を守るために不要な色を増やす必要はなく、背景、濃い文字色、テーマカラーだけで目的を達成できるなら、それでも構いません。

色数より役割を見る

一般的な業務資料では、有彩色を増やしすぎないほうが扱いやすい場合があります。

ただし、「必ず三色以内」という規則ではありません。

複数カテゴリーを区別する必要があれば、複数色が必要になることもあります。

新しい色を追加したくなった時には、同じ色相の明度や彩度を変えるだけで対応できないか、無彩色で代替できないかを先に考えます。

色数そのものより、その色に役割があるかを確認します。

真っ黒や極端に強い色は存在感を理解して使う

完全な黒と白の組み合わせは、非常に強い対比を作ります。

本文量が多い場合には、少し灰色を含んだ濃色を使うことで、十分な読みやすさを保ちながら見た目の強さを抑えられる場合があります。

鮮やかさや明るさが非常に高い色も強く目立つため、アクセントには使えますが、広い面積へ使えば情報より色そのものが強く見えることがあります。

「黒は禁止」「鮮やかな色は禁止」と覚えるのではなく、今回その強さが必要なのかで判断します。

赤も役割から決める

赤は警告、停止、注意などの表現で使われることが多いため、強い注意喚起を必要とする場面で選ばれることがあります。

そのため、「重要だからすべて赤」という使い方を続けると、画面の各所が同じ強さで主張し、どこが本当に重要なのか分からなくなる場合があります。

赤という色自体を避けるのではなく、資料全体の文脈と、今回その強さが必要なのかを確認します。

画面と印刷では色の仕組みが違う

画面では、赤、緑、青の光を組み合わせるRGB方式で色を表現します。

一般的なデジタル表現では、それぞれの成分を0から255の値で扱い、三つがすべて0なら黒、すべて最大なら白になります。

一方、印刷ではシアン、マゼンタ、イエロー、黒を中心としたCMYK方式で色を扱います。

画面で鮮やかに見えた色が、紙では同じように再現されない場合があるため、最終的に画面で見るのか、印刷するのかは制作の早い段階で確認します。

配色に迷ったら事例を分析する

配色を支援するサービスや、優れたデザイン事例を検索できるサービスを使えば、自分だけで色を考え続けるより多くの参考例を確認できます。

ただし、そこで見つけた配色をそのままコピーするのではなく、「なぜ背景はこの明るさなのか」「なぜこの部分だけ反対方向の色を使っているのか」「鮮やかな色をどの程度の面積に限定しているのか」と分析します。

表面の色より、選択理由を学ぶほうが別の資料へ応用しやすくなります。

基本レイアウトを少数持っておく

毎ページ、レイアウトをゼロから発明する必要はありません。

実務上は、表紙、区切り、タイトルあり、タイトルなしという少数の基本形を持っておくと、判断回数を減らせます。

これは唯一の分類方法ではなく、毎回考えなくてもよい部分を減らすための実務上の整理です。

表紙

表紙では、何についての資料なのかと、必要な発信者情報が分かれば十分です。

文字量が少ない場合には中央配置を使うこともできますが、その場合には中心を曖昧にせず正確にそろえます。

少し寂しいからという理由だけで装飾を増やすのではなく、背景へ写真や模様を使う場合にも、タイトルより強く見えないようにします。

区切り

長い資料では、聞き手が「今どの話をしているのか」を見失いやすくなります。

章の変わり目で区切りを入れ、現在のテーマや全体の中での位置を示せば、一度内容を整理して次へ進みやすくなります。

タイトルあり

上部へメッセージを置き、その下へグラフ、表、図、写真などを配置する構成は、業務資料で扱いやすい形です。

下部へ置くものは、上部のメッセージを理解するための内容へ絞ります。

タイトルなし

強い問いかけや写真などを大きく見せたい場合には、タイトルを置かない構成が有効なことがあります。

ただし自由度が高いため、何を伝えるページなのかが曖昧にならないようにします。

表示比率は利用環境から決める

横長の16対9は現在広く使われていますが、すべての用途で同じ比率が最適とは限りません。

印刷を前提とする場合、既存設備へ投影する場合、映像と資料を同時に表示する場合など、最終的な環境によって使いやすい比率は変わります。

4対3を含め、習慣だけで形式を決めるのではなく、実際にどこで見られるのかから逆算します。

図形や矢印は関係を説明するために使う

角丸の箱、影、派手な矢印などは簡単に追加できますが、追加できることと必要であることは別です。

図形を置くなら、「原因と結果をつなぐ」「同じグループとして示す」「手順を表す」といった役割を持たせます。

矢印も、太く大きくすれば分かりやすくなるわけではありません。

関係が伝わるのであれば、細い線や単純な記号で十分な場合があります。

アイコンは理解が速くなる場所に使う

見出しごとにアイコンを置けば、画面が整ったように見える場合があります。

しかし、アイコンが増えるほど視線の入口も増えます。

電話、場所、注意など、文字を読む前に情報の種類を認識できる場面では有効ですが、なくても理解が変わらないなら、装飾として存在している可能性があります。

画像の縦横比を崩さない

画像を横だけに伸ばしたり、縦だけ縮めたりすると、人物や物の形が不自然になります。

枠へ合わせる必要がある場合には、元の比率を維持したまま切り抜きます。

複数の写真を同じ役割で並べる場合には、形や大きさをそろえることで、同じ種類の情報であることを理解しやすくできます。

言葉と視覚には別の仕事を持たせる

文章で説明していることを、そのまま別の形で重複させれば必ず理解しやすくなるわけではありません。

Allan PaivioによるDual Coding Theoryの整理では、言語を扱う系と、非言語的な対象や出来事を扱う系を区別し、それらが独立して働く場合と協調して働く場合があるという枠組みが説明されています。Paivio自身の教育に関する論考でも、言語的表象と非言語的表象の関係が中心的に扱われています。

ここから資料実務へそのまま「文章と画像を両方置けば必ず理解が深まる」という結論を導くことはできません。

本稿では、理論的な背景とは区別したうえで、背景や理由は文章、数値の変化はグラフ、構造は図、状態や雰囲気は写真というように、それぞれの表現へ適した仕事を持たせるという実務上の考え方へつなげます。

学習と実践

テンプレートは考えなくてよい部分を減らすために使う

毎回、タイトル位置、本文サイズ、余白、色、ページ番号などをゼロから考える必要はありません。

一定のルールが設定されたテンプレートを使えば、見た目について判断する回数を減らし、その分だけ相手や内容について考える時間を増やせます。

ただし、テンプレートに三列の枠があるから三つに分けるというように、内容を型へ無理に合わせてはいけません。

内容に合う型を選びます。

優れた事例では表面より理由を見る

優れた資料を見て、「この色がきれい」「この配置を真似したい」と感じることは学習の入口になります。

そのまま形をコピーするのではなく、「なぜここには広い余白があるのか」「なぜこの一文だけ大きいのか」「なぜ写真を一枚しか使っていないのか」と考えます。

表面の形ではなく判断理由を推測すれば、別の内容へ応用できる知識になります。

一度に全部変えなくてよい

次の資料から、この記事に書かれた内容をすべて完璧に実行する必要はありません。

最初は「全ページのメッセージを先に書く」だけでも構いません。

それができたら、次は「補助情報を文字で指定してから作る」を試します。

さらに余裕ができたら、近接、余白、配色などへ進めば十分です。

知識を一度に覚えるより、後の作業を左右する部分から一つずつ実務へ持ち込むことのほうが重要です。

他人の反応で伝わり方を確かめる

完成した資料を内容に詳しくない人へ見せ、「このページは何を伝えたいように見えるか」と聞いてみます。

説明しなくても意図した内容に近い答えが返ってくれば、メッセージはかなり明確です。

さらに、「この次に何を知りたくなったか」と聞けば、ストーリーの順番も確認できます。

違う答えが返ってきても、失敗ではありません。

本番前に、作成者の意図と相手の受け取り方の差を見つけられたということです。

まとめ

資料を作る順番で中心に置くべきなのは、一枚目をどれだけ早く完成させるかではありません。

修正しやすく、しかも後工程へ大きな影響を与える判断から決めることです。

そのために、相手と目的を確認し、ストーリーを組み、一枚ごとのメッセージを最後まで書き、必要な補助情報を文字で指定してから素材を作り、最後に視覚設計へ進みます。

相手と目的を確認し ストーリーを組み 一枚ごとのメッセージを 最後まで書き 必要な補助情報を 文字で指定してから素材を作り 最後に視覚設計へ進みます

細かな方法をすべて覚えられなくても、今日の資料で最初の一枚を作り込む前に、最後のページまでメッセージを書いてみることはできます。

その文章を上から読んだ時に話が自然につながり、相手が次に知りたい情報へ無理なく進めるのであれば、画面を整え始める前に、資料の重要な部分はかなり設計できています。

書体、色、写真、図形、テンプレート、AIは、その設計を助ける手段です。

制作技術がどれだけ進歩しても、誰に何をどの順番で届けるのかという判断まで不要になるわけではありません。

資料作成で磨きたいのは、きれいな画面を作る力だけではなく、自分が持っている情報を、相手が理解し、必要に応じて比較し、判断し、次へ進める順番へ編集する力なのです。

FAQ

資料は何から作り始めればよいですか?

最初に相手と目的を確認し、資料全体のストーリーを考えた後、最後のページまで一枚ごとのメッセージを書きます。一枚目を完成させるより、修正しやすい文章段階で全体構成を確認してから補助情報や素材へ進むほうが、大きな手戻りを避けやすくなります。

資料設計の5つの階層とは何ですか?

本稿では、資料設計で考える対象を「相手と目的 → ストーリー → メッセージ → 補助情報 → 視覚設計」の五つへ整理しています。これは研究によって標準化された五段階モデルではなく、資料制作で何を先に考えるのかを整理するための実務上のモデルです。

5つの階層と4つの制作工程は何が違いますか?

5つの階層は「何を考えるか」を示す基本地図であり、4つの制作工程は、その地図を「どう作るか」へ変換した手順です。相手と目的、ストーリーを考えた後、メッセージ確定、補助情報の文字指定、素材制作、視覚調整へ進みます。

ストーリーとメッセージはどちらを先に決めますか?

基本的には、資料全体で何をどの順番に伝えるかというストーリーを先に考え、その流れを具体化する形で一枚ごとのメッセージを作ります。ただし、メッセージを書いてみることで全体構成の不自然さへ気づく場合もあるため、一度で固定せず、全ページを並べた後でストーリーへ戻って調整します。

補助情報とは何ですか?

メッセージの理解、比較、確認を助ける情報全般です。主張を裏付ける数値やデータだけでなく、比較表、具体例、業務フロー図、現場写真なども含むため、本稿では「証拠」より広い概念として扱っています。

グラフや写真はいつ作ればよいですか?

全ページのメッセージが決まり、各ページへ必要な補助情報を文字で指定した後です。「売上推移グラフが必要」「現場写真が必要」と決めてから具体的に作ることで、時間を使って完成させた素材を後から捨てる場面を減らしやすくなります。

デザインはいつ始めればよいですか?

メッセージ、必要な補助情報、具体的な素材がそろった後です。先に情報の重要度と関係を決めておけば、どの文章を大きくするのか、どこへ色を使うのか、どこへ余白を取るのかを目的に沿って判断できます。

説明用と単体で読む資料でも同じ順番ですか?

考える順番は基本的に共通していますが、完成時の情報密度は変わります。話し手がいる資料では口頭で補える情報があり、単体閲覧用では背景や条件まで資料内へ残す必要があります。

AIを使う場合も同じ順番ですか?

基本的には同じです。AIへ最初から完成品を作らせるより、ストーリー、メッセージ、補助情報、素材、視覚表現という段階に分け、人間が相手と目的に照らして候補を選ぶほうが、AIの初期案へ資料の目的を合わせてしまう状態を避けやすくなります。

5分だけ試すなら何をすればよいですか?

予定しているページ数だけ枠を作り、最後のページまでメッセージだけを書いてください。画像、色、グラフを考えず、その文章を順番に読んで話が自然につながるかを確認するだけでも、一枚目を作り込んでから全体を考える進め方から抜け出すきっかけになります。

参考資料

以下は、本稿のうち外部の研究や公式基準と直接結び付けて説明した部分について、原著、原典、公式文書を中心に確認できる資料です。本稿の「5つの階層」と「4つの制作工程」は、これらの研究から導出された学術モデルではありません。

John Sweller, Cognitive Load During Problem Solving: Effects on Learning, 1988

means-ends analysisを用いる問題解決に必要な認知処理容量とschema acquisitionの関係を論じた原著論文です。Cognitive Science 12巻2号、257–285頁に掲載され、出版社ページではFree Accessとして公開されています。

Cognitive Load During Problem Solving: Effects on Learning

Max Wertheimer, Laws of Organization in Perceptual Forms, 1923

知覚的組織化を扱った原典で、近接した刺激がまとまりとして知覚されやすいFactor of Proximityを確認できます。York Universityでは、1923年の原著をもとにした1938年の英訳が公開されています。

Laws of Organization in Perceptual Forms

World Wide Web Consortium, Understanding Success Criterion 1.4.1: Use of Color

色を、情報伝達、操作の提示、反応の促進、視覚要素の区別に用いる唯一の視覚的手段へしないことを説明したW3Cの公式文書です。

Understanding Success Criterion 1.4.1: Use of Color

World Wide Web Consortium, WCAG2ICT

WCAG 2の原則や成功基準を、非Web文書やソフトウェアへ適用する際の考え方を示すW3C Group Noteです。W3Cは、この文書がinformativeであり、要件を設定する規範的な文書ではないことを明示しています。

WCAG2ICT Overview

Allan Paivio, Dual Coding Theory and Education, 2006

言語を扱う系と非言語的な対象や出来事を扱う系を区別し、それらが独立または協調して働くというDual Coding Theoryを教育との関係から整理した論考です。University of Michiganで公開されている資料では、著者、所属、会議用原稿であることとともに、理論の概要を確認できます。

Dual Coding Theory and Education

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