新規事業を任されたものの、何から手をつければよいのか分からない。市場調査を先にするべきか、事業計画を作るべきか、それとも顧客へ話を聞くべきなのかと迷い、気づけば資料と会議ばかり増えている担当者もいるでしょう。
しかも、新規事業では「まだ分かりません」と言いにくいものです。経営陣からは売上見込みを聞かれ、開発部門からは仕様を求められ、営業部門からは誰に売るのかを問われるため、担当者ほど早く答えを作らなければならない気持ちになります。
しかし、新規事業の立ち上げで最初に必要なのは、正しい答えを完成させることではありません。事業アイデアを仮説として置き、市場と顧客を確かめ、小さな実験から証拠を集めながら、不確実性を一つずつ減らしていくことです。
この記事では、新規事業の立ち上げ手順を8つのSTEPに整理し、「各フェーズで何をするか」だけでなく「何が分かったら次へ進めるか」まで具体的に解説します。
なお、この8STEPは一度ずつ通過する直線的な工程ではありません。何を先に確かめるべきかという基本的な順序であり、検証結果によって前のSTEPへ戻りながら、事業化に必要な証拠を増やしていく流れとして捉えてください。
新規事業は小さく検証することから始める
新規事業を任された直後ほど、立派な事業計画を早く作らなければならないと感じやすいでしょう。
経営会議へ説明するには市場規模が必要になり、予算を取るなら売上予測も求められます。その結果、まだ顧客と一度も話していないにもかかわらず、3年後や5年後の売上だけが細かく決まっていることがあります。
もちろん、事業計画そのものが不要なのではありません。
問題になるのは、まだ確かめていない前提を事実のように扱い、その計画を予定どおり進めること自体が目的になってしまうことです。
新規事業では、既存事業ほど過去の実績を頼りにできません。顧客が本当に困っているのか、自社の解決方法へ価値を感じるのか、実際に対価を払うのかという重要な部分ほど、社内会議だけでは確定できないからです。
ある法人向け業務管理サービスを考えてみます。
顧客が本当に困っているか確認していない段階で500万円を投じ、半年かけてシステムを完成させたとします。ようやく顧客へ見せたところ、「便利ではあるけれど、今のやり方でそれほど困っていません」と言われれば、そこから方向を変えるには大きな痛みが伴うでしょう。
一方で、簡単な画面だけを作って数社へ見せたり、システムの裏側を担当者が手作業で処理したりすれば、大きな開発を行う前に顧客の反応を確認できます。
そこで、新規事業の初期段階では一つの問いを持っておきます。
「100万円使う前に1万円で同じ仮説を確かめるなら何ができるだろう」
これは単なる節約の話ではありません。
最初の1万円で確認できることへ100万円を使ってしまえば、残りの99万円で行えたはずの次の検証機会を失います。逆に、小さな実験で顧客行動が確認できれば、そこで初めて次の投資を判断する材料が生まれます。
Lean Startupでは、アイデアを製品体験へ変え、顧客がどのように反応するかを測り、そのデータから次の行動を決めるBuild-Measure-Learnの循環が重視されています。重要なのは最初から正解を当てることではなく、実験から学び、次の判断へつなげることです。
新規事業の初期段階で価値があるのは、立派な完成品よりも、次の意思決定に使える証拠です。
だからこそ、最初に大きく賭けるのではなく、分からないことから順番に小さく確かめていきます。
新規事業の立ち上げ手順8ステップ一覧
8STEPの役割を先に把握しておくと、途中で迷ったときに「今は何を確かめているのか」へ戻りやすくなります。
| STEP | 主な目的 | 次へ進むために確認したいこと |
|---|---|---|
| STEP1 事業アイデアを仮説として整理する | 誰のどの課題を解決するか明確にする | 顧客 課題 提供価値 検証する行動を説明できる |
| STEP2 市場調査で市場と競合を確認する | 市場の存在と競争環境を確認する | 市場 競合 代替手段 参入障壁を把握できる |
| STEP3 顧客ヒアリングで課題を確かめる | 顧客課題が実在するか確認する | 過去の行動や支出から課題の深さを確認できる |
| STEP4 ビジネスモデルを仮置きする | 事業として成立する構造を考える | 誰が何にいくら払うか説明できる |
| STEP5 MVPを使って学ぶ | 重要な仮説について検証済みの学びを得る | 何を学びたいかと測定方法が明確になっている |
| STEP6 テスト販売で購買行動を確認する | 実際に対価を払うかを見る | 価格と条件を示したうえで具体的な行動が確認できる |
| STEP7 結果をもとに改善する | 継続 ピボット 撤退を判断する | 改善前後の結果と選ばれる理由を説明できる |
| STEP8 検証後に本格展開する | 再現可能な事業へ広げる | 販売 継続 採算 運営の再現性が見えている |
この表は、8つの工程を一度ずつ終わらせるためのチェック表ではありません。
たとえばSTEP6で誰も購入しなければ、STEP5のMVPだけではなく、STEP3の顧客課題まで戻ることがあります。反対に、顧客ヒアリングの途中で想定外の強い需要が見つかれば、その情報を使ってSTEP1の顧客像を書き直すこともあるでしょう。
8STEPの目的は前へ進み続けることではなく、分からないことを順番に減らすことです。
STEP1 事業アイデアを仮説として整理する
最初から正解の事業案を作らない
新規事業の出発点には、何らかのアイデアがあります。
「AIならこの仕事を効率化できる」「既存顧客へ別の商品も販売できそうだ」「海外で伸びているサービスだから日本でも可能性がある」といった着想です。
こうした発想そのものに問題はありませんが、思いついた瞬間から正解として扱うと、その後の市場調査や顧客ヒアリングまで、自分たちの事業案を肯定する材料探しへ変わってしまうことがあります。
自分たちで考えた事業案には、少なからず愛着が生まれるものです。何度も会議を行い、サービス名を決め、経営陣へ説明し、資料まで作った後で顧客から必要ないと言われれば、やはり苦しいでしょう。
だからこそ、最初の構想は「確定した計画」ではなく「これから確かめる仮説」として扱います。
仮説であれば、自分たちの考えが正しいことだけを証明しようとせず、どこが間違っている可能性があるのかも市場へ問いかけられます。
誰のどの課題を解決するか決める
最初に整理したいのは、対象顧客、顧客が抱える課題、自社が提供する価値です。
たとえば「企業向けAIサービスを作る」だけでは、まだ検証可能な仮説になっていません。
誰が使うのか分からず、どの場面で困っているのかも見えないからです。
そこで、「従業員50〜300人程度の企業で契約書レビューに多くの時間を使っている法務担当者へ、契約書確認の作業時間を減らすAI支援サービスを提供する」と具体化します。
ここまで絞れば、誰へ話を聞けばよいのか、どの問題を確認すればよいのかが見えてきます。
さらに、「一定割合の対象顧客が月額3万円という条件を確認したうえでトライアルへ申し込む」といった形で、期待する行動まで仮置きすると検証しやすくなります。
重要なのは「便利だと思う」で終わらせず、申し込み、予約、購入など、観察できる行動を置くことです。
自社が取り組む理由も整理する
顧客に課題があったとしても、すべての課題を自社が解決する必要はありません。
既存顧客との接点を利用できるのか、独自技術を持っているのか、長年蓄積した業界知識があるのか、自社ブランドとの相性がよいのかを確認します。
市場が伸びているという理由だけで参入すると、後になって「どうやって顧客へ届けるのか」「競合ではなく自社が選ばれる理由は何か」という難問に直面することがあります。
自社なら必ず成功できるという意味ではありません。
それでも、「なぜ自社がこの問題へ取り組むのか」を言葉にしておけば、後の競争戦略や販売方法を考える土台になります。
STEP1の判断基準
誰が、どの状況で、何に困っていて、自社がどんな価値を提供するのかを一続きで説明でき、さらに何を検証するのかが明確なら次へ進みます。
反対に、「すべての企業が対象」「業務を便利にする」「AIで効率化する」といった表現しか出てこない場合は、まだ仮説が広すぎるでしょう。
確認項目は、対象顧客を具体化したか、顧客課題を場面まで説明できるか、提供価値を一文で表現できるか、自社が取り組む理由を説明できるか、検証する顧客行動を決めたかの5点です。
ここで仮説を言葉にできれば、「何となく良さそうな事業」から「確かめられる事業」へ変わり始めます。
STEP2 市場調査で市場と競合を確認する
市場調査は事業案を正当化する作業ではない
事業仮説がまとまったら、市場と競合を確認します。
この段階で起こりやすいのが、自分たちに都合のよい情報ばかり集めてしまうことです。
「市場が拡大している」「DX需要が伸びている」「海外では導入が進んでいる」という情報を見ると、担当者としては少し安心するでしょう。
しかし、市場全体が成長していることと、自社の商品が顧客から選ばれることは同じではありません。
市場調査は事業案を正当化するためではなく、「この事業が成立するために何が分かっていないのか」を確認するために行います。
信頼できる市場データから全体像を見る
市場規模を確認するときは、可能な限り情報源までたどります。
国内市場であれば、経済産業省、総務省統計局、中小企業庁などの公的統計が候補になります。対象業界によっては業界団体の統計、企業の決算資料、調査機関の市場レポートなども有効でしょう。
検索で見つけた記事に「市場規模5000億円」と書かれていても、その数字だけを事業計画へ入れるのは避けます。
対象地域、顧客層、商品分類、調査年度を確認すると、自社が想定している市場とは範囲が違うことがあるからです。
TAMだけを見て判断しない
市場規模を考える際には、TAMという言葉がよく使われます。
TAMは理論上その商品やサービスが対象にできる市場全体ですが、自社が現実に販売できる市場とは限りません。
全国の中小企業すべてが理論上の対象でも、初期の営業体制では東京都内の特定業種しか狙えない場合があります。
「1兆円市場の1%を取れば100億円」という説明は計算上成立しますが、その1%へどうやって到達するのか説明できなければ、まだ期待を数字に置き換えただけという可能性があります。
市場全体の大きさと、自社が現実的に到達できる市場は分けて考える必要があります。
最大の競合は現状維持かもしれない
競合分析では、自社と似た商品を販売する会社だけを見ないことが重要です。
ある経費精算サービスなら、他社の経費精算SaaSだけが競合ではありません。
Excelで管理する、紙の申請を続ける、既存システムで我慢する、担当者が残業して処理するといった方法も、顧客にとっては選択肢です。
つまり、自社商品は競合商品だけではなく、「今のまま何も変えない」という判断とも競争しています。
顧客が現在その問題へほとんど時間も費用も使っていないなら、想像していたほど優先順位が高くないという可能性があります。
競合がいない理由も考える
競合がほとんど見つからないと、「誰もやっていない市場だ」と期待したくなるでしょう。
その可能性はありますが、顧客がお金を払わないため事業として成立せず、競合が残っていないという可能性も考える必要があります。
競合がいるかどうかだけではなく、顧客が現在どのような代替手段へ時間や予算を使っているのかを確認します。
競合が存在しないことを好材料として受け止める前に、「なぜ存在しないのか」と問い直すことが大切です。
STEP2の判断基準
信頼できる資料によって対象市場の存在を説明でき、直接競合と主要な代替手段を把握し、事業成立を妨げる重大な参入障壁が見つかっていないなら顧客ヒアリングへ進みます。
確認するのは、公的資料や業界資料を見たか、市場の成長要因と縮小要因を確認したか、直接競合を把握したか、現状維持を含む代替手段を調べたか、重大な参入障壁を確認したかという5点です。
市場の輪郭が見えたら、次に確かめるのは資料の中にいる顧客ではなく、実際にその問題と向き合っている人です。
STEP3 顧客ヒアリングで課題を確かめる
便利そうという言葉だけで需要を判断しない
顧客ヒアリングまで進むと、初めて社外から直接反応が返ってきます。
担当者にとっては、少し緊張する場面でしょう。
何週間も考えてきたアイデアを説明した後、「このサービスがあったら使いますか」と聞けば、「便利そうですね」「あったら使いたいです」という答えが返ってくることがあります。
その瞬間、「やはり需要がある」と思いたくなるかもしれません。
しかし、人は相手を傷つけないように、悪気なく好意的な返答をすることがあります。
そこで、自社商品への感想よりも、顧客の仕事や生活の中で過去に何が起こったのかを確認します。
未来の希望より過去の行動を聞く
「経費精算で困っていますか」と聞けば、多くの人が「多少は困っています」と答えるでしょう。
それよりも、「直近で経費精算に困ったのはいつですか」と聞きます。
さらに、「そのとき何件処理しましたか」「どれくらい時間がかかりましたか」「誰が対応しましたか」「問題を減らすために何を試しましたか」と掘り下げます。
すると、少し面倒なだけなのか、毎月残業が発生するほど深刻なのかが見えてきます。
課題が存在することと、お金を払ってでも解決したいことは同じではありません。
顧客がこれまでどれほどの時間や金銭を使ったのかを見ることで、課題の深さを判断しやすくなります。
顧客ヒアリングで使える質問例
実際のヒアリングでは、「その問題が直近で起きたのはいつですか」「そのとき具体的に何が起きましたか」「現在はどのような方法で対応していますか」といった質問から始めます。
さらに、「これまで別の方法やツールを試したことはありますか」「対応するために月どのくらい時間を使っていますか」「外注費や人件費を含めるとどの程度の負担がありますか」と聞けば、既存の解決行動や支出まで確認できます。
BtoBであれば、「以前似たサービスを導入したときは誰がどのように決めましたか」「今の方法を変えていない理由は何ですか」という質問も役立つでしょう。
たとえば、「月額3万円なら安いと思いますか」と聞けば、その場の感覚で答えられます。
一方で、「現在この問題へいくら使っていますか」と聞けば、既に存在する予算や支出行動を確認できます。
未来の約束より、過去に起こった事実を聞くことが重要です。
回答だけでなく行動を見る
ヒアリングの終盤では、小さな行動をお願いしてみます。
「来週、試作品を見ていただく時間を30分いただけますか」と聞けば、本当に関心がある場合は予定を確保してもらえる可能性があります。
また、「同じ課題を抱えている別部署の担当者をご紹介いただけますか」とお願いすれば、自分の信用を使ってまで次の接点を作ってくれるか確認できます。
さらに検証が進めば、有償PoCや試験導入といった金銭を伴う行動へ移ります。
ヒアリング中は非常に好評だったのに、次の日程を決めようとすると連絡が途絶えることもあるでしょう。その瞬間は少し落ち込むかもしれませんが、言葉では強かった関心が実際の行動にはつながらなかったという事実は、大きな開発へ進む前だからこそ価値があります。
ヒアリング人数を目的にしない
「何人に聞けば十分なのか」と悩む担当者もいるでしょう。
必要人数は事業内容によって異なります。顧客属性が似ているBtoB事業と、多様な消費者を対象にするBtoC事業では、必要な探索量が同じとは限りません。
そのため、「10人なら十分」「30人なら正しい」と一律に決めるより、同じ顧客層から似た課題や行動が繰り返し確認されるかを見ます。
人数を増やすことではなく、「次の意思決定に必要な情報が得られたか」を目的にすることが重要です。
STEP3の判断基準
複数の対象顧客から似た課題が確認され、その課題へ実際に時間や金銭を使っている事実が見えてきたら、課題仮説を支持する材料になります。
確認するのは、過去の具体的な出来事を聞いたか、課題の発生頻度を確認したか、時間や費用の負担を把握したか、現在の代替手段を確認したか、次回面談や紹介などの具体的な行動を確認したかという点です。
予想と違う答えが返ってきたなら、ヒアリングが失敗したわけではありません。大きな開発費を使う前に、現実へ一歩近づけたと考えられます。
STEP4 ビジネスモデルを仮置きする
課題があっても事業になるとは限らない
顧客ヒアリングで同じ悩みが何度も確認できると、「これはいけそうだ」と気持ちが前へ進みます。
それでも、顧客に課題があることと、事業として継続できることは別です。
誰がサービスを使うのか。誰が料金を払うのか。いくらなら支払うのか。どの方法で販売し、提供するためにどの程度の費用が必要なのか。
ここでビジネスモデルを一度仮置きします。
重要なのは「仮置き」です。
初期段階で5年間の収益予測を完璧にするのではなく、事業が成立するためにどの前提が正しくなければならないのかを整理します。
利用者と購入者と
決裁者を分ける
BtoB事業では、サービスを使う人とお金を払う人が異なる場合があります。
現場担当者が「ぜひ使いたい」と思っても、予算は部長が持っているかもしれません。さらに、情報システム部門の審査や経営会議の承認が必要になることもあります。
現場担当者だけを見ていると、「評価は高いのに契約できない」という状態になりかねません。
そこで、利用者、価値を受ける人、予算を持つ人、最終決裁者を分けます。
誰がどの理由で意思決定するのかまで分かれば、後のテスト販売も現実的になります。
価格を後回しにしない
価格は決めにくいため、「まず無料で使ってもらい、後から考えよう」としたくなるかもしれません。
しかし、無料なら使う人と、月額3万円なら使う人では条件が変わります。
そのため、正解でなくても構わないので早い段階で仮の価格を置きます。月額課金なのか買い切りなのか、初期費用が必要なのか、利用量に応じた課金なのかも考えます。
価格は原価だけでは決まりません。
顧客がどの程度の損失や作業負担を減らせるのかによって、受け入れられる価格も変わります。
顧客単位の採算性を粗く見る
顧客1社を獲得するためにどの程度の費用が必要で、その顧客からどの程度の粗利益を得られるのかも概算します。
SaaSではLTVやCACなどが使われますが、一つの数値基準を絶対視しないことが重要です。
粗利率、契約期間、解約率、販売方法などによって適切な水準は変わります。
初期段階では、精密な数字を当てるより、「顧客1社を取るために50万円かかるのに、年間粗利益が10万円しかない」といった構造的な矛盾を見つけるほうが先です。
STEP4の判断基準
顧客、提供価値、価格、販売方法、主要コスト、収益の流れがつながり、「誰が何に対してどのようにお金を払うのか」を説明できればMVPへ進みます。
確認するのは、利用者と購入決定者を分けたか、仮の価格を置いたか、販売チャネルを想定したか、主要コストを概算したか、顧客単位の採算性を確認したかという点です。
ビジネスモデルは未来を断定する完成図ではありません。次の検証へ持っていく設計図です。
STEP5 MVPを使って顧客について学ぶ
MVPは小さな完成品ではない
ビジネスモデルの骨格が見えてきたら、MVPを使った検証へ進みます。
MVPはMinimum Viable Productの略です。
ただし、「最低限の機能を持つ製品」とだけ理解すると、本来の意味よりも「小さな完成品」という印象が強くなります。
Eric Riesによる代表的な定義では、MVPは少ない労力で顧客について最大限のvalidated learningを得るための新製品のバージョンという趣旨で説明されています。さらに、MVPは単に最小の製品を作ることではなく、最初の製品反復から顧客について学べるようにする必要があると説明されています。
ここで重要なのは、製品の小ささではありません。
「何について学びたいのか」「その学びを得るために何が必要なのか」を先に決めることです。
場合によっては動作する簡易サービスが必要になるでしょう。
一方で、説明動画、簡易画面、手作業によるサービス提供だけで十分という可能性もあります。
MVPは製品を安く作るための方法ではなく、顧客について検証済みの学びを得るための実験手段です。
機能を増やしたくなる気持ちに注意する
この段階では、「顧客に見せるなら、もう少しちゃんと作りたい」と感じるものです。
ログイン機能も整えたい。ダッシュボードも欲しい。通知も自動化したい。競合より美しい画面にしたい。
一つずつを見ると、どれも妥当な要望に思えるでしょう。
ところが、それらを積み重ねると、検証前の開発だけで数カ月が過ぎてしまいます。
ここで戻りたい問いは、「今回何を学ぶためのMVPなのか」です。
MVPに入れる機能を決める
ある飲食店向け予約管理サービスを考えてみます。
検証したい仮説が「複数サイトから入る予約情報を一画面で確認できれば、店舗は対価を払う」であれば、予約情報をまとめて確認できる機能は必要です。
一方で、AIによる需要予測、高度な売上分析、スタッフ別の細かな権限管理、多言語対応などは、最初の検証では必要ないという可能性があります。
機能を追加する前には、「この機能がなければ今回必要な学びを得られないだろうか」と問いかけます。
なくても仮説を検証できるなら、初期MVPから外す候補です。
ここでの基準は「あると便利か」ではなく、「今回の実験に必要か」になります。
MVPに入れない機能を具体的に考える
ユーザー認証が必要でも、最初から複雑な権限管理システムを独自開発する必要はない場合があります。
簡易的なログインや担当者による手動ID発行で、今回の検証には十分かもしれません。
決済も、自動課金システムを一から作る前に既存の決済サービスや請求書で対応できます。
通知機能であれば、高度な自動通知を開発する前に担当者が手作業でメールを送る方法もあります。
管理画面についても、美しい独自ダッシュボードを最初から作らず、スプレッドシートやノーコードツールで代替できる可能性があります。
顧客が購入する理由は、機能の数ではありません。
その機能によって自分の問題が解決されることに価値を感じるからです。
作る前にもっと小さく試す
あるサービスでは、ランディングページと申し込みフォームだけで需要の一部を確認できます。
別のサービスでは、画面上は自動処理に見せながら、裏側を担当者が手作業で動かせるかもしれません。
システムを作らず、担当者が顧客一人ひとりへサービスを提供することで価値仮説を確かめる方法もあります。
ここでも「100万円使う前に1万円で試すなら」という問いが役立ちます。
最初に作るものが小さくても、目指す事業まで小さくする必要はありません。
間違った方向へ大きく作らないために、学習手段を小さくします。
STEP5の判断基準
MVPを通じて最重要仮説を検証でき、顧客の反応や行動を記録し、その結果から何を学んだのか説明できる状態なら次へ進みます。
確認するのは、最重要仮説を決めたか、必要な学びを定義したか、学びに不要な機能を削ったか、手作業や既存ツールで代替できないか考えたか、顧客行動を測定できるかという点です。
MVPで削っているのは顧客への敬意ではありません。まだ検証に必要のない労力です。
STEP6 テスト販売して本当に買うかを確認する
高評価と購入は同じではない
新規事業担当者の気持ちが大きく揺れやすいのが、この段階です。
ヒアリングでは好反応だった。MVPを使った検証でも「便利ですね」と評価された。社内でも期待が高まり、「そろそろ本格展開へ進めるのでは」と感じます。
そこで価格を提示すると、急に反応が変わることがあります。
「社内で検討します」
その後、連絡が来ないこともあるでしょう。
無料なら使いたいと言っていた人が、有料になると契約しない場合もあります。
これまでの検証まで否定されたように感じるかもしれませんが、ここで初めて「良い商品だと思うこと」と「自分のお金や会社の予算を使うこと」の距離が見えています。
商品完成前でも購買行動を検証できる場合がある
商品やサービスが完成する前でも、先行予約、クラウドファンディング、有償PoC、試験導入などによって購買行動を確認できる場合があります。
ただし、「未完成であると伝えれば販売してよい」という意味ではありません。
販売方法によって適用される法令や必要な表示、契約条件は異なります。
特に、インターネットなどを利用する通信販売では、販売価格や送料、代金の支払時期と方法、商品の引渡時期、返品や契約解除に関する事項、事業者情報などの表示事項が定められています。
商品の引渡時期についても注意が必要です。
消費者庁の特定商取引法ガイドでは、引渡時期は期間または期限として明確に表示する必要があり、「入荷次第」という文言だけでは時期を示したことにならないと説明されています。「○日以内」「○月○日まで」といった具体的な表示が必要です。
したがって、予約販売や先行販売を行う場合は、開発状況や提供予定を説明するだけではなく、販売方法に応じた法令上の表示事項と契約条件まで確認します。
BtoBの有償PoCでも、検証範囲、提供期間、料金、成果物、データの扱い、責任分担などを整理する必要があるでしょう。
「小さく試す」とは、法的な確認まで曖昧にすることではありません。
市場性検証として実施されたNICOBOのクラウドファンディング
市場性を検証するためにクラウドファンディングを活用した例として、パナソニックのNICOBOがあります。
パナソニックは2021年2月16日からMakuakeでNICOBOのクラウドファンディングを実施し、2021年3月19日の公式発表で「今回のクラウドファンディングは、市場性を検証するために実施しました」と説明しています。
また、開始後約6時間30分で目標金額を上回り、最終的に目標金額1000万円を達成したことを受け、支援者向けの開発と量産を本格的に開始すると発表しました。
ここまではパナソニックが公表している事実です。
そのうえで本稿では、NICOBOの事例を「価格条件のある実際の顧客行動を通じて、市場反応を確かめた例」として参考にします。
つまり、「欲しいですか」と質問して好意的な回答を集めるだけではなく、実際に金銭を伴う行動が起きるかを見ることで、より強い証拠を得られるということです。
もちろん、一つのクラウドファンディング事例から、すべての新規事業で同じ方法を使うべきだと一般化することはできません。
商品特性、顧客層、価格、販売方法によって、適切な検証方法は異なります。
重要なのはNICOBOと同じ方法を採用することではなく、自社の事業でも「言葉より強い顧客行動をどう確認するか」と考えることです。
BtoBでは小規模な有償導入を試す
ある法人向け社員研修サービスを考えてみます。
最初から大規模なeラーニングシステムを作るのではなく、3社限定で小規模な試験導入プランを提供します。
オンライン研修2回、簡易教材、担当者向けレポートを組み合わせ、5万円という条件で10社へ提案するとしましょう。
その結果3社が契約し、3社すべてから「受講状況を経営会議へ報告できるデータが欲しい」という声が出たなら、次に追加すべき機能の候補が見えてきます。
一方で、一社も購入しなかった場合でも、すぐに事業全体を否定する必要はありません。
価格が高いのか、課題の優先順位が低いのか、提案相手が決裁者ではないのか、導入時期が合っていないのかを分けて確認します。
売れなかったことより、「なぜ売れなかったのか分からないまま終わること」のほうが問題です。
テスト販売の基準は先に決める
検証前に、「何が起きれば次へ進むのか」を決めます。
結果を見てから基準を作ると、期待に合わせて解釈を変えてしまうことがあるからです。
10社へ提案して3社の有償PoCを目指すのか、一定期間内に50件の予約を得るのか。
適切な数値は商品単価や市場によって変わります。
重要なのは万能な成約率を探すことではなく、今回の仮説について何が起きれば支持されたと判断するかを先に決めることです。
STEP6の判断基準
価格と提供条件を示したうえで、購入、予約、有償PoC、契約などの具体的な行動が確認できれば、需要仮説を支持する材料になります。
確認するのは、実際の価格を提示したか、購入につながる行動を求めたか、無料評価だけで判断していないか、購入しなかった理由を確認したか、販売方法に応じた法令と契約条件を確認したかという点です。
欲しいと言ってくれる人ではなく、条件を理解したうえで実際に動く人がいるか。
そこまで見えて初めて、需要は期待から証拠へ変わり始めます。
STEP7 結果をもとに改善する
仮説が外れたことを担当者の失敗にしない
テスト販売や初期利用を始めると、最初の仮説とは違う結果が出てきます。
想定していた業界からは反応がないのに、別の業界から問い合わせが増えることがあります。
主要機能として力を入れた部分は使われず、補助的に作った機能だけ評価される場合もあるでしょう。
担当者としては、「自分の考えが間違っていた」と感じるかもしれません。
しかし、仮説検証の目的は最初の事業案が正しかったことを証明することではありません。
実際の顧客行動を知り、必要であれば事業を現実に合わせて変えることです。
Lean Startup Co.でも、実験を通じたデータを次の判断へ使い、Build-Measure-Learnの循環を続ける考え方が示されています。
改善する項目を一度に増やさない
結果が悪いと、全部を変えたくなるものです。
価格を下げる。ターゲットを変える。機能を増やす。広告も修正する。
しかし、一度に複数の条件を変えると、次の結果が良くなっても何が効いたのか分からなくなります。
そこで、顧客がどこで止まっているのかを確認します。
問い合わせがないなら、顧客層や訴求内容を疑います。
問い合わせは多いのに契約されないなら、価格、提供条件、決裁プロセスを確認します。
契約はされるものの継続されないなら、実際に得られる価値や利用体験に問題があるという可能性があります。
ピボットで何を残し何を変えるか決める
事業の一部を残しながら方向を変える方法として、ピボットがあります。
複数機能のうち一つだけが強く評価されているなら、その機能へ集中する方法があります。
製品価値は評価されているものの想定顧客が買わないなら、別の顧客セグメントを検証するという可能性があります。
一括購入では難しいものの月額なら受け入れられるなら、収益モデルを変えることも考えられるでしょう。
大切なのは、思いつきで方向を変えないことです。
「この顧客行動が確認されたため、この仮説を修正する」と説明できれば、次の検証で変化を比較できます。
撤退基準を感情が強くなる前に決める
撤退は、新規事業担当者にとって簡単な判断ではありません。
半年間取り組み、予算を使い、多くの人へ協力してもらった後なら、「ここで止めたら今までが無駄になる」と感じるでしょう。
しかし、既に使った費用は戻りません。
経営判断で見るべきなのは、これからさらに資金と人材を投入する根拠があるかどうかです。
そのため、撤退条件は苦しくなってから考えるのではなく、検証開始前に置いておきます。
一定期間で有償顧客が目標へ届かない、継続率が採算ラインを大きく下回る、検証予算の上限へ達した、顧客課題そのものが確認できなかったといった条件が候補です。
STEP7の判断基準
改善を繰り返した結果、特定の顧客層で購入や継続利用が繰り返し確認され、「なぜ選ばれるのか」を一定程度説明できる状態なら本格展開を検討できます。
確認するのは、実際の利用と販売データを見たか、購入しなかった顧客にも理由を聞いたか、一度に変更する項目を絞ったか、改善前後を比較したか、継続、ピボット、撤退を同じ基準で検討したかという点です。
事業案を守ることが仕事ではありません。顧客が継続して対価を払う形へ近づけることが、このフェーズの役割です。
STEP8 検証できてから本格展開する
売れ始めたときほど再現性を見る
初期顧客が付き、売上が発生し始めると社内の雰囲気は変わります。
「営業を増やそう」「広告費を増やそう」「システムを正式版へ作り直そう」という話が出るでしょう。
長く不確実な状態で進めてきた担当者にとっては、ようやく認められたように感じる瞬間かもしれません。
それでも、ここで一度確認します。
その売上は再現できるでしょうか。
担当者の知人だから購入してくれた。責任者本人が何時間も説明すれば契約できる。顧客ごとに大幅な個別対応をしている。
この状態では、売上があっても事業を拡大できるとは限りません。
検証段階と拡大段階では仕事が変わる
検証段階では、多少非効率でも問題ありません。
10社の顧客へ担当者が直接連絡し、システムの裏側を手作業で処理することもできます。
しかし、顧客が100社、1000社へ増えれば同じ方法は続けられません。
そこで本格展開では、手作業だった工程を自動化し、営業プロセスを標準化し、カスタマーサポート体制を整えます。
商品だけではなく、顧客獲得から契約、提供、請求、継続支援までの流れを仕組みに変える段階です。
Lean Startupでは、顧客反応を測り、そのデータによって次の意思決定を行うことが重視されています。そこから本稿では、不確実性が高い初期段階では大規模投資を避け、顧客行動や採算性に関する証拠が増えた時点で、次の投資を判断するという実務上の進め方を採用します。
これは「Lean Startupとは証拠が増えるたびに自動的に投資額を増やす方法である」という意味ではありません。
段階投資は、本稿が新規事業の不確実性を管理するために採用している実務的な考え方です。
本格投資の前に主要数字を見る
本格展開では、顧客獲得コスト、粗利益、継続率、解約率、販売にかかる期間、提供コストなどを確認します。
広告費を2倍にしても、同じ効率で顧客が増えるでしょうか。
営業担当者を増やしても、立ち上げ担当者と同程度の成約率を維持できるでしょうか。
顧客が10倍になったとき、サポート費用が売上以上に膨らまないでしょうか。
事業拡大では、問いが「売れるか」から「売れる状態を繰り返せるか」へ変わります。
本格展開でも検証は終わらない
本格展開へ進んだからといって、不確実性がなくなるわけではありません。
顧客数が増えれば、初期顧客では見えなかった要望が出てきます。
広告チャネルを広げれば、顧客獲得コストが上昇するかもしれません。
組織が大きくなれば、立ち上げ担当者の経験だけではサービス品質を維持できなくなるでしょう。
本格展開とは検証が終わることではありません。
事業が必要とされるかを確かめる段階から、成長の再現性や運営効率を確かめる段階へ問いが変わった状態です。
STEP8の判断基準
複数の顧客へ繰り返し販売でき、一定の継続利用が確認され、顧客獲得とサービス提供のコストを把握できたら本格投資を検討します。
確認するのは、複数顧客で販売を再現したか、継続利用を確認したか、主要コストを把握したか、営業と提供プロセスを標準化できるか、追加投資の理由を数字と検証結果で説明できるかという点です。
大きな事業を目指すことと、最初から大きく投資することは同じではありません。証拠を増やし、その時点で合理的に説明できる範囲まで投資することが重要です。
新規事業は前のSTEPへ戻ってよい
8STEPを順番に説明してきましたが、実際の新規事業は一直線には進みません。
市場調査をした結果、想定顧客では市場が小さすぎると分かり、STEP1へ戻ることがあります。
顧客ヒアリングでは、想定していた課題より別の問題のほうが深刻だと分かるかもしれません。
MVPを使った実験では、予定していなかった使い方だけ強く評価されることもあります。
テスト販売では購入されたものの継続されず、STEP5へ戻って価値提供を見直すこともあるでしょう。
こうした往復は、プロセスが失敗している証拠ではありません。
8STEPは、何を先に確かめるべきかの優先順序です。
Lean StartupのBuild-Measure-Learnでも、顧客から得たデータを次の学習へ反映し、必要な意思決定を行う反復が重視されています。
新しい事実が分かったにもかかわらず、「もうSTEP5まで進んだから」と以前の仮説へ固執するほうが危険でしょう。
新規事業の進捗は、何STEPまで進んだかだけでは測れません。
重要な不確実性がどれだけ減り、次の意思決定に使える証拠がどれだけ増えたかを見る必要があります。
「違った」と分かったときに、まだ戻れる余力がある。
それこそが、小さく検証する大きな意味ではないでしょうか。
新規事業でありがちな失敗とやり直し方
8STEPを理解していても、現場では心理や組織事情によって判断がずれることがあります。
手順を知らないから失敗するとは限りません。
分かっていても、期待されているから止めにくい。時間を使ったから捨てにくい。顧客に褒められたから信じたくなる。
こうした人間らしい感情が、新規事業の意思決定を難しくします。
顧客を確認する前に製品を作り込む
技術力のある会社ほど、「何を作れるか」から事業を考えてしまうことがあります。
開発チームには技術があり、経営陣も期待しているため、会議を重ねるたびに機能が増えていきます。
半年後にようやく顧客へ見せたところ、反応が薄い。
この場合、問題は技術力ではなく、顧客課題を確認する順番が遅かったことです。
やり直すなら追加開発を止め、STEP3へ戻ります。
「この商品が欲しいですか」と聞くのではなく、顧客の日常で実際にどのような問題が起きているかを確認します。
初期段階で大きな予算を使う
「新規事業なのだから大きく投資しなければ成果も出ない」と考えることがあります。
しかし、不確実性が最も高い時期に大きな予算を使うと、仮説が外れた後に戻りにくくなります。
既に数千万円を使ったシステムを止めるのは、合理性だけでは判断しにくいでしょう。
それまで関わった人の努力もあるため、「あと少し続ければ結果が出るかもしれない」と考えたくなるからです。
だからこそ、「100万円をどう使うか」の前に「1万円で何を確かめられるか」と考えます。
顧客のお世辞を需要だと思う
「便利ですね」「完成したら欲しいです」という言葉は、担当者にとってうれしいものです。
社内で何度も否定されながら進めていれば、その一言に救われることもあるでしょう。
それでも、売上予測へ置く前には行動を確認します。
次回面談、担当者紹介、予約、有償PoCなど、顧客側にも時間や信用、金銭を使う行動を求めます。
相手の言葉を疑うためではありません。需要の強さを正確に理解するためです。
MVPを小さな完成品として作り込む
MVPを「機能の少ない正式版」と考えると、少しずつ機能が増えます。
管理画面を作れば権限管理も必要になり、通知も欲しくなり、気づけば本格開発と変わらなくなるでしょう。
この場合は、「今回もっとも重要な仮説は何か」「その仮説について何を学びたいのか」を書き直します。
その学びに使わない機能は、一度外します。
MVPの価値は、機能を減らしたことではなく、必要な学びを早く得られることにあります。
無料利用だけで需要を判断する
無料ユーザーが多く集まれば、手応えを感じるでしょう。
関心を示すデータとしては意味がありますが、無料で利用することと、有料条件を受け入れて契約することは同じではありません。
適切な段階で価格を提示し、購入、予約、有償PoCなどへ進む人がどの程度いるかを確認します。
価格を示した途端に反応が大きく落ちたとしても、その結果を隠したくなる必要はありません。
むしろ、本格投資前に価格受容性の問題へ気づけたことが重要です。
撤退を担当者の
失敗にする
新規事業で特に危険なのが、「撤退すると担当者の評価が下がる」という状態です。
その環境では、悪い検証結果ほど報告されにくくなります。
しかし、小さな実験で市場性が低いことを確認し、大きな投資を止められたのであれば、それ自体に経営上の価値があります。
新規事業で求められるのは、すべての仮説を当てることではありません。
間違った仮説へ大きく投資する前に気づくことです。
新規事業で確認したい一次情報
新規事業では、検索で見つかった解説記事だけに判断を委ねないことが重要です。
市場規模や企業数、人口動態などを見る場合は、経済産業省、総務省統計局、中小企業庁などが公開している統計を確認します。
業界固有の市場では、業界団体の統計や公開資料も役立つでしょう。
法律や規制が関係する事業なら、所管省庁が公開する法令、ガイドライン、制度資料まで確認する必要があります。
特に、予約販売や先行販売を行う場合は、販売方法によって適用されるルールが異なります。
通信販売に該当する場合、消費者庁の特定商取引法ガイドでは、販売価格、支払時期と方法、商品の引渡時期などの表示事項が示されています。インターネット通信販売の最終確認画面についても、必要事項を一覧性をもって確認できるよう表示する規制があります。
そして、外部資料と同じくらい重要なのが、自社で取得する一次情報です。
顧客ヒアリングで確認した過去の行動、現在の代替手段、MVPによる実験結果、テスト販売の成約率、購入を見送った理由、継続率、解約理由などは、自社の事業可能性を判断する直接的な材料になります。
市場全体が伸びていても、自社の商品が買われるとは限りません。
反対に、市場全体では小さく見えても、一部の顧客が非常に深い問題を抱え、自社の商品へ強く反応する場合があります。
外部データで市場を確認し、自社で集めた一次情報で顧客を見る。
この二つを往復することで、事業判断の解像度が高まります。
自社だけで難しい場合にコンサルを使うタイミング
新規事業を進めていると、社内だけでは前へ進みにくい場面があります。
市場構造を整理できない。顧客ヒアリングを行っても好意的な感想しか集まらない。MVPで何を検証すればよいのか決まらない。経営陣と現場で意見が割れ、何を確認すれば判断できるのか分からない。
こうした場合は、外部のコンサルタントや専門家を活用する方法があります。
ただし、外部支援の役割は考えることを丸ごと任せることではありません。
社内に不足する調査力、方法論、専門知識、客観性を補うことです。
市場調査を依頼するなら、「この市場を調べてください」ではなく、「この顧客層だけで事業目標を満たせる市場規模があるか」といった判断につながる問いを渡します。
顧客ヒアリングの設計を支援してもらう場合でも、顧客との対話そのものには事業責任者ができる限り参加したほうがよいでしょう。
顧客がどの言葉で問題を説明するのか、どこで言葉に詰まるのか、どの話題を何度も繰り返すのかは、報告書だけでは伝わりきらないことがあります。
継続や撤退を社内だけで決めにくい場合は、事前に決めた判断基準と実績を第三者へレビューしてもらう方法もあります。
それでも、最終的な事業判断の責任は自社に残します。
コンサルタントは正解を代わりに決める人ではなく、自社だけでは見えにくい仮説や選択肢を整理するために使うほうが、新規事業では活用しやすいでしょう。
新規事業立ち上げのFAQ
- 新規事業は何から始めるか
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最初は「誰のどの課題を解決するのか」という事業仮説の整理から始めます。
いきなり詳細な事業計画や開発見積もりを作るのではなく、対象顧客、課題、提供価値を言葉にし、どのような顧客行動が確認できれば仮説を支持したと判断するのかまで決めます。
最初に必要なのは大きな答えではなく、次に確かめる問いです。
- 市場調査と顧客ヒアリングはどちらを先に行うか
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基本的には、最低限の市場調査で市場構造や競合を確認した後、顧客ヒアリングへ進む方法が分かりやすいでしょう。
ただし、公開データが少ない新しい市場では、探索的な顧客ヒアリングを先に行い、その内容から追加調査するという可能性があります。
市場調査と顧客ヒアリングは一度ずつ行って終わるものではなく、必要に応じて往復します。
- MVPとは何か
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MVPはMinimum Viable Productの略です。
Eric Riesによる代表的な定義では、少ない労力で顧客について最大限のvalidated learningを得るための新製品のバージョンという考え方が中心にあります。したがって、単に機能を減らした製品や安価な試作品を意味するわけではありません。
何について学ぶ必要があるのかを先に決め、その学びを得るために必要な体験を用意します。
- MVPはどこまで作り込むか
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検証したい仮説について必要な学びを得られる範囲まで作ります。
需要を確認したいだけなら、ランディングページと申し込みフォームで足りる場合があります。
サービス価値を確かめたいなら、裏側を担当者が手作業で処理してもよいでしょう。
完成品へどれだけ近づいたかではなく、重要な仮説について十分な学びを得られるかで判断します。
- 商品完成前にテスト販売できるか
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商品やサービスが完成する前でも、先行予約、クラウドファンディング、有償PoC、試験導入などによって購買行動を確認できる場合があります。
ただし、未完成であることを説明するだけで自由に販売できるわけではありません。
販売方法に応じて、適用される法令、必要な表示事項、契約条件を確認します。
通信販売では、販売価格、代金の支払時期と方法、商品の引渡時期、返品や解除に関する事項などが表示事項として定められています。また、引渡時期について「入荷次第」とするだけでは足りず、期間または期限を具体的に表示する必要があります。
- ヒアリングで好評なら開発へ進めるか
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好意的な反応だけでは、もう一段階確認したほうがよいでしょう。
「便利そう」「欲しい」という回答は参考になりますが、実際の購入を保証するものではありません。
次回面談、試作品利用、担当者紹介、予約、有償PoCなど、顧客側が時間、信用、金銭のいずれかを使う行動まで確認します。
言葉を否定するのではなく、その言葉がどこまで行動につながるのかを見ることが重要です。
- 8STEPは必ず順番どおり進めるのか
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基本的な確認順序としてSTEP1からSTEP8まで整理していますが、一度ずつ通過する必要はありません。
STEP6のテスト販売で購入されない理由を調べた結果、STEP3の顧客課題まで戻ることがあります。
反対に、顧客ヒアリングで想定していなかった顧客層から強い反応があれば、STEP1の顧客仮説を修正することもあるでしょう。
手順どおり進むことより、検証によって得た情報を次の判断へ反映することが重要です。
- 新規事業コンサルはいつ依頼するか
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市場調査の専門性が不足しているとき、顧客ヒアリングの設計がうまくいかないとき、MVPで何を学ぶべきか整理できないとき、継続や撤退を社内だけで判断しにくいときなどが候補です。
一方で、顧客理解や最終的な事業判断まで外部へ丸投げすることは避けたほうがよいでしょう。
自社に不足している能力を補いながら、意思決定そのものは自社に残します。
まとめ
新規事業の立ち上げで重要なのは、8つの工程を一度ずつ順番どおり終わらせることではありません。
事業アイデアを仮説として整理し、市場を調べ、顧客の過去の行動を確認します。その後、ビジネスモデルを仮置きし、必要な学びを得るためのMVPを使って検証し、価格を提示して実際の購買行動を確かめます。
結果が想定と違えば改善し、必要なら前のSTEPへ戻ります。
そして、購入、継続、採算、運営の再現性に関する証拠が増えてから、本格的な開発費、広告費、人員などの投資を検討します。
つまり、この記事の8STEPを貫く中心は「仮説から証拠を集め、その証拠で次の判断をすること」です。
途中で仮説が外れることはあるでしょう。
それでも、100万円を投じた後ではなく1万円の検証で気づけたのであれば、次の選択肢はまだ残っています。
新規事業に必要なのは、「この方法なら失敗しない」という手順ではありません。
何が分からないのかを明確にし、小さな検証で一つずつ不確実性を減らしながら、次へ進む理由を積み重ねることではないでしょうか。
まずは現在の事業案について、「誰のどの課題を確かめるのか」「今もっとも不確かな仮説は何か」「何が分かったら次へ進めるのか」を書き出してみてください。
その3つが見えれば、漠然としていた新規事業は、大きな賭けではなく、確かめながら前へ進める仕事へ変わり始めます。
参考資料
本記事の主軸である新規事業の仮説検証、MVP、Build-Measure-Learn、通信販売の表示事項、NICOBOの市場性検証については、以下の一次情報・公式資料を参考にしています。
What Is an MVP? Eric Ries Explains Lean Startup Co.