業務改善

売上はあるのに利益が残らない7つの原因 中小企業が見るべき数字と改善方法

売上は前年を上回り、社員も毎日忙しく働いている。それなのに決算書を見ると営業利益がほとんど残っておらず、「これだけ仕事をしているのに、なぜ利益が増えないのだろう」と感じる経営者もいるでしょう。

このような状況では、さらに売上を増やそうと考えがちです。しかし、すでに一定規模の売上を確保している会社では、問題が売上不足ではなく、売上を利益へ変える途中の「利益構造」に潜んでいることがあります。

粗利率が少しずつ低下しているのかもしれません。仕入価格や人件費が上昇しているのに、販売価格を変えられず利益を削っている可能性もありますし、売上は増えていても低採算の商品や顧客ばかり増えているケースもあるでしょう。

だからこそ、最初に必要なのは売上目標を引き上げることではありません。直近の数字を分解して利益がどこで減っているのかを確認し、原因を絞ったうえで、それぞれの改善策が利益へ何円影響するのかまで考えることが重要です。

この記事では、売上1億円の中小企業をモデルにしながら、売上はあるのに利益が残らない7つの原因を整理します。そのうえで、自社では何をどの順番で確認すればよいのか、さらに改善策をどのように比較すればよいのかまで具体的に解説します。

TABLE OF CONTENTS
目次

売上があるのに利益が残らないのはなぜ?

まず、年間売上高1億円の会社を想定してみましょう。

ここでは利益構造を分かりやすくするため、人件費1,800万円を粗利益から負担する費用として置いた単純化した管理モデルを使用します。実際には、製造部門の人件費が売上原価に含まれる場合など、業種や会社の会計処理によって費用区分が異なるため、自社の決算書へ当てはめる際には科目の内容を確認してください。

項目 金額
売上高 1億円
粗利益 3,000万円
人件費 1,800万円
その他固定費 1,000万円
営業利益 200万円

この会社は年間1億円を売り上げていますが、本業から最終的に残っている営業利益は200万円です。売上高に対する営業利益率は2%となります。

売上高だけを見れば、一定の顧客基盤を持ち、事業として相応の規模まで成長している会社に見えるでしょう。毎月注文が入り、請求書も数多く発行され、社員も忙しく動いているため、経営者自身が「会社は伸びている」と感じるのも自然です。

ところが、年間を通じて会社全体を動かした結果として営業利益が200万円しか残らないのであれば、わずかな環境変化でも利益が失われる可能性があります。

たとえば売上高1億円を維持したまま粗利率が30%から28%へ低下すれば、粗利益は3,000万円から2,800万円へ減少します。人件費やその他の費用が変わらないという単純化したモデルでは、200万円あった営業利益がなくなると予測されます。

反対に、売上高を増やさなくても粗利率を30%から31%へ1ポイント改善できれば、粗利益は3,000万円から3,100万円へ増えます。他の条件が同じなら、営業利益は200万円から300万円になる計算です。

粗利率で見れば、違いはわずか1ポイントに見えるでしょう。しかし、売上高1億円の会社では、その1ポイントが100万円になります。

粗利率 粗利益 営業利益
30% 3,000万円 200万円
28% 2,800万円 なくなる
31% 3,100万円 300万円

ここに、売上はあるのに利益が残らない会社を見るうえで重要な視点があります。

問題は売る力そのものではなく、売った金額を十分な利益へ変換できていないことにあるかもしれません。

だからこそ、さらに売上を増やす前に、現在の売上がどのような経路を通り、最終的な営業利益へ変わっているのかを確認する必要があります。

最初に確認するのは売上ではなく利益構造

利益が少ないと分かると、「来期は売上を10%増やせばよいのではないか」と考えたくなるでしょう。

もちろん、売上拡大が必要な会社もあります。しかし、現在の利益構造に問題がある状態で売上だけを増やせば、仕入れ、外注、配送、残業、在庫などまで一緒に増え、利益ではなく忙しさばかりが膨らむ可能性があります。

そこで最初に確認したいのが、売上高から粗利益がどれだけ生まれ、その後に必要な費用を負担した結果として、営業利益がいくら残っているのかという一連の流れです。

数字を単独で評価するのではなく、利益が生まれる順序に沿って確認すると、どこで利益が細くなっているのかを見つけやすくなります。

売上高 粗利益 必要な費用 営業利益 利益が生まれる順序

売上高と粗利益から利益の入口を見る

売上高は、商品やサービスの販売によって計上された金額です。

一方、粗利益は売上高から売上原価を差し引いた金額であり、損益計算書では売上総利益と呼ばれます。売上高1億円に対して売上原価が7,000万円なら、粗利益は3,000万円です。

同じ1億円を売り上げている会社でも、粗利益が5,000万円残る会社と2,000万円しか残らない会社では、その後に負担できる費用の大きさが大きく異なります。

売上高 粗利益
1億円 5,000万円
1億円 2,000万円

ここで注意したいのが、会計上の売上原価と管理会計上の変動費は必ずしも同じではないことです。

変動費とは、販売数量や売上規模などに応じて増減する性質を持つ費用です。一方、売上原価には業種や会計処理によって固定的な性質を持つ費用が含まれる場合もあります。

したがって、損益分岐点を確認するときには、売上原価をそのまま変動費として扱うのではなく、その費用が売上や販売数量の変化に応じてどのように動くのかまで確認する必要があります。

粗利率から売上の質を見る

粗利率は、売上高のうち何%が粗利益として残っているのかを見る指標です。

計算するときは、粗利益を売上高で割って100を掛けます。売上高1億円で粗利益3,000万円なら、粗利率は30%です。

ただし、「粗利率30%なら健全」といった一律の判断は避ける必要があります。

製造業、建設業、卸売業、小売業、飲食サービス業、情報通信業などでは原価構造が異なりますし、同じ業種であっても商品構成や外注比率によって数値は変わります。

そのため、自社の粗利率を見るときには同業種の公的統計を参考にしつつ、自社自身の過去数年間の推移も確認することが重要です。

たとえば、これまで32%前後だった粗利率が29%まで低下しているなら、単純に「29%は良いのか悪いのか」と考えるだけでは十分ではありません。

値引きが増えたという可能性がありますし、仕入価格が上昇したのかもしれません。低粗利の商品や顧客の割合が増えた結果として、会社全体の平均粗利率が下がっていることも考えられます。

数字を確認する目的は、良し悪しを判定して終わることではなく、その数字が変化した理由を突き止め、次の経営判断へつなげることです。

人件費と労働分配率から人の使い方を見る

利益が残りにくい会社では、人件費の負担が大きくなっていることがあります。

ただし、「人件費が高いなら給与を下げればよい」と単純に考えるのは適切ではありません。

社員は単なる費用ではなく、営業、製造、開発、接客、管理などを通じて会社の付加価値を生み出している経営資源でもあります。

人件費負担を見る際に参考になる指標の一つが労働分配率です。

一般的な労働分配率は、企業が生み出した付加価値額のうち、人件費としてどの程度を配分しているのかを見る指標です。なお、管理上の簡便な方法として粗利益に対する人件費割合を見ることもありますが、公的統計などで用いられる労働分配率とは定義が異なります。

2026年版中小企業白書では、労働生産性を高めるには従業員数の伸びを上回る付加価値額の伸びが必要であり、省力化投資やAI活用、デジタル化に取り組む企業ほど、労働投入量の最適化を達成している傾向が示されています。

人件費を見るときには、給与総額だけではなく、社員の時間がどこへ使われているのかまで確認する必要があります。

営業担当者が顧客と話す時間よりも社内資料の作成へ時間を費やし、専門職が単純な入力や転記に追われているのであれば、「人が多い」というより「人の時間を十分に生かせていない」という問題が隠れている可能性があります。

固定費と変動費から損益分岐点を見る

会社の費用は、販売数量や売上規模に応じて増減する変動費と、短期的には売上規模にかかわらず一定額が発生する固定費へ分けて考えることができます。

商品の仕入代金や販売数量に連動する材料費などは変動費になりやすく、事務所家賃や一定額のリース料などは固定費として扱われることが多いでしょう。

ただし、実際の費用には固定的な部分と変動的な部分が混在するケースもあるため、自社の実態に合わせた分類が必要です。

J-Net21では、損益分岐点を利益がゼロになる売上規模として説明し、固定費と変動費率の双方を使って計算する方法を示しています。

基本的な考え方では、損益分岐点売上高は固定費を限界利益率で割って求めます。

したがって、限界利益率など他の条件が同じであれば、固定費が増えるほど損益分岐点売上高も高くなり、利益を生み出すために必要となる売上規模は大きくなります。

反対に、固定費が変わらなくても値上げや変動費低減によって限界利益率を改善できれば、損益分岐点売上高を下げることが可能です。

損益分岐点を見る際には固定費だけを見て判断するのではなく、一円の売上から限界利益がどれだけ残るのかと組み合わせて考える必要があります。

営業利益から本業の結果を見る

営業利益は、企業が本業によってどれだけ利益を残したかを見る基本的な指標です。

会計上は、売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いて計算します。

売上高が前年比110%へ増えている一方、営業利益が前年より減っているなら、「売上が伸びているから問題ない」とは判断できません。

粗利率が低下している可能性もあれば、販売費及び一般管理費が増えていることも考えられます。低採算案件の割合が増え、売上高だけが大きくなっているという可能性もあるでしょう。

一方で、営業利益が黒字だからといって、借入金返済や資金繰りまで問題がないとは限りません。

まず営業利益から本業の収益力を確認し、その後に現金の動きを確認するという順序にすると、利益と資金繰りを混同せずに整理できます。

まず直近12カ月の6つの数字を確認する

利益構造の基本が分かったら、ここから自社の数字へ戻ります。

粗利率、人件費、固定費という言葉を理解しても、自社のどこに問題があるのか分からなければ経営判断にはつながりません。

そこで最初の実践として、直近12カ月について売上高、粗利益、粗利率、人件費、その他固定費、営業利益を月別に一枚の表へまとめます。

本格的な管理会計システムを最初から構築する必要はありません。現在使っている試算表や会計データから取得できる範囲で始め、前年同月や前月と比較できる状態をつくることが先です。

確認する数字 最初に見る変化 変化があった場合に確認すること
売上高 前年同月や直近月から大きく増減していないか 商品別や顧客別の売上増減
粗利益 売上の増減と同じ方向に動いているか 原価や値引きの変化
粗利率 前年や過去平均より低下していないか 値付け 原価 商品構成
人件費 粗利益の伸び以上に増えていないか 採用 残業 人員配置 業務量
その他固定費 継続的に増加していないか 新規契約 設備 家賃 システム
営業利益 売上が増えているのに減少していないか 粗利率と費用を上流から再確認

たとえば売上高が前年より増えている一方、粗利率が32%から29%へ下がっているのであれば、最初に調べるべきなのは売上不足ではありません。

販売価格、仕入価格、商品構成など、粗利率を押し下げた要因から確認します。

反対に、粗利率は前年とほぼ変わらないのに営業利益だけが減っているのであれば、人件費やその他固定費が増えていないかを確認したほうが原因へ早く近づけるでしょう。

ここで重要なのは、一度にすべてを改善しようとしないことです。

仮に「前年より粗利率が2ポイント下がり、年間でおよそ200万円の粗利益を失っている」と分かれば、漠然としていた問題はかなり具体的になります。

経営者にとって苦しいのは、数字が悪いことだけではありません。「なぜ利益が残らないのか分からない」という状態では、どこへ手を付けても正しいのか確信を持てず、不安だけが残りやすくなります。

ところが、「まず粗利率低下の原因を確認する」と決まれば、次に見るべき数字も、担当者へ確認すべき内容も変わります。

利益改善は、不安を数字へ置き換え、動ける課題へ変えるところから始まります。

売上があるのに利益が残らない7つの原因

直近12カ月を確認し、どの数字に異常があるのかが見えてきたら、次に原因を絞ります。

売上はあるのに利益が残らない状態は、主に七つの方向から発生します。ただし実際には、粗利率低下と人件費増加が重なっているケースや、低採算商品の増加と固定費膨張が同時に起きているケースもあるため、原因を最初から一つに決めつけるべきではありません。

売上があるのに利益が残らない7つの原因 原因1 粗利率が低い 原因2 値付けが安すぎる 原因3 原価が上昇している 原因4 低粗利の商品や 顧客が増えている 原因5 人件費が売上や 付加価値に対して重い 原因6 固定費が増えすぎている 原因7 売上増加だけを追っている

原因1 粗利率が低い

最初に確認したいのは、売上高に対して十分な粗利益を確保できているかという点です。

たとえば、以前は売上高8,000万円で粗利率35%だった会社なら、粗利益は2,800万円です。

翌年に売上高が1億円まで増えても、粗利率が28%まで低下すれば粗利益は同じ2,800万円にとどまります。

売上高 粗利率 粗利益
8,000万円 35% 2,800万円
1億円 28% 2,800万円

売上高は2,000万円増えていますから、現場では以前より忙しくなっているでしょう。経営者も請求額の増加を見れば、「会社は成長しているはずだ」と感じるかもしれません。

それでも、固定費などを負担するための粗利益は増えていません。

さらに売上増加によって残業や配送、管理業務などの負担まで増えていれば、営業利益が以前より減る可能性があります。

こうした場合は会社全体の粗利率だけで判断せず、自社の事業に合った単位まで細分化して確認します。商品販売なら商品別、受託型ビジネスなら案件別、建設業なら工事別というように採算を分け、主要顧客についても利益率の変化を重ねて見ると原因を特定しやすくなります。

原因2 値付けが安すぎる

「値上げをしたら取引先が離れるかもしれない」という不安から、原価や人件費が上昇していても販売価格を据え置いている会社があります。

特に長年取引してきた顧客ほど、価格改定は言い出しにくいものです。

経営者としても関係を壊したくないため、「今回だけは自社で吸収しよう」と考えることがあるでしょう。

しかし、その判断が何度も繰り返されれば、自社だけがコスト上昇を抱える状態になります。

たとえば原価700円の商品を1,000円で販売していれば、一個当たりの粗利益は300円です。

原価が750円まで上昇しても販売価格を据え置けば、粗利益は250円へ減ります。差は50円でも、年間10万個を販売する商品なら粗利益は500万円減少します。

原価 販売価格 粗利益
700円 1,000円 300円
750円 1,000円 250円

目の前では小さく感じる価格差でも、年間の販売数量を掛け合わせると会社全体の利益を揺らす金額になるわけです。

もちろん、値上げをすれば必ず利益が増えるわけではありません。価格変更によって販売数量が減少する可能性もあるため、価格と数量の両方を試算しながら判断する必要があります。

価格を変えることへの不安そのものを無理に消す必要はありません。

むしろ、「値上げしない場合に年間何円の利益を失うのか」を数字で確認することによって、感情だけで据え置きを選ばない状態をつくることが重要です。

原因3 原価が上昇している

販売価格を変えていなくても、材料、商品仕入、外注、物流、エネルギーなどのコストが上昇すれば粗利益は減ります。

厄介なのは、原価上昇が一度に大きく表れるとは限らないことです。

仕入価格が数%上がり、その後に運賃が変更され、さらに外注費まで改定されるというように、小さな上昇が一年の中で重なっていく場合があります。

一件ごとの変化が小さければ、「この程度なら吸収できる」と判断してしまうこともあるでしょう。

しかし、年間の取引量を掛け合わせると数百万円単位の利益減少へつながる場合があります。

そこで、売上原価の合計額だけを見るのではなく、自社の売上が生まれる単位に合わせて原価を比較します。

さらに、原価低減を仕入価格だけの問題として考えないことも重要です。不良、廃棄、再加工、作業ミス、緊急配送などによるロスも、最終的には会社の利益を減らします。

安い仕入先へ変更した結果として不良が増えれば、表面上の仕入価格は下がっていても、再作業まで含めた総コストは増える可能性があります。

原価改善では「いくらで仕入れたか」だけではなく、顧客へ商品やサービスを届けるまでに何が無駄として発生しているのかまで確認する必要があります。

原因4 低粗利の商品や顧客が増えている

会社全体の売上が増えていても、利益率の低い商品の販売割合が高くなれば、平均粗利率は低下します。

たとえば粗利率40%の商品Aと粗利率15%の商品Bを扱う会社で、商品Bだけが大きく伸びた場合、売上高が増えても会社全体の収益性は下がる可能性があります。

商品 粗利率
商品A 40%
商品B 15%

営業担当者からすれば、売上目標を達成しているため、「これだけ売ったのに、なぜ利益が増えないのだろう」と感じるかもしれません。

この状況を努力不足として処理してしまうと、本当の原因を見失います。

問題は、どの商品を売ったのかという商品構成にある可能性があるからです。

顧客別の採算でも同様のことが起こります。

年間売上が大きい顧客であっても、頻繁な仕様変更や小口配送、短納期対応、追加作業などによって多くの工数を使っていれば、売上額ほど会社へ利益をもたらしていない場合があります。

経営者としては大口顧客を失うことに不安を感じるでしょう。

だからこそ印象だけで判断せず、売上額だけでなく粗利益や対応工数を確認し、「売上が大きい顧客」と「利益を支えている顧客」を分けて考える必要があります。

原因5 人件費が売上や付加価値に対して重い

人件費が増えれば、他の条件が同じなら利益は減少します。

とはいえ、それを単純に「社員の給与が高すぎる」という問題へ置き換えると、改善の方向を誤る可能性があります。

たとえば営業担当者が顧客対応より社内資料作成へ時間を取られ、専門職が単純な入力業務を続けているなら、問題は給与水準よりも業務設計にあるでしょう。

その状態で給与だけを削減しても、非効率な仕事は残ります。

さらに社員の意欲が下がったり、有能な人材が離職したりすれば、長期的には生産性が悪化する可能性もあります。

人件費が増えている場合には、粗利益や付加価値の伸びと比較したうえで、採用、残業、人員配置、実際の仕事内容などを確認することが重要です。

「人が多すぎる」と結論を急ぐのではなく、「今いる人の時間を十分に生かせているか」という問いから始めたほうが、経営を傷めずに改善できる可能性が広がります。

原因6 固定費が増えすぎている

固定費は、一度契約すると日常の中へ埋もれやすい費用です。

業績が良かった時期に広い事務所へ移転し、システムや車両、保険などを増やした後、事業環境が変化しても契約だけが残っていることがあります。

たとえば月額5万円の契約でも、一年間では60万円です。

同程度の不要契約が五つ残れば年間300万円となり、冒頭のモデル企業では営業利益200万円を上回る金額になります。

それでも解約や縮小をためらうのは、契約した当時には必要だったという事情があるからでしょう。

「また使うかもしれない」と思えば、切る判断も簡単ではありません。

そこで固定費を見るときには、単純に金額の大小を評価するのではなく、その費用が現在どの成果につながっているのかを確認します。

一方、人材育成、設備、システム、研究開発など、将来の収益力をつくる費用まで一律に削るべきではありません。

短期的な利益を守るために未来の利益源を失えば、別の問題が数年後に現れる可能性があります。

削るべきなのは将来への投資ではなく、すでに役割を終えた支出です。

原因7 売上増加だけを追っている

最後に確認したいのが、会社が何を成果として評価しているのかという点です。

営業会議で売上高だけを確認し、社員の評価も売上額だけで決まる会社では、現場が利益より受注を優先するようになる可能性があります。

月末に売上目標が不足していれば、営業担当者は値引きをしてでも案件を取りたくなるでしょう。

追加作業を無料で引き受けたり、採算の低い大型案件を受注したりすれば、売上目標そのものは達成できます。

この結果を見て、「営業担当者が利益を考えていない」と社員だけを責めても問題は解決しません。

会社自身が売上だけを成功の基準として示してきた可能性があるからです。

たとえば1,000万円の売上から100万円の利益が残る案件と、700万円の売上から250万円の利益が残る案件なら、売上ランキングでは前者が上になります。

しかし会社への利益貢献は後者のほうが大きくなります。

売上 利益
1,000万円 100万円
700万円 250万円

売上目標自体をなくす必要はありません。

売上高とともに粗利益額、粗利率、商品別採算、顧客別採算などを確認し、「いくら売ったか」と「その売上からいくら残したか」の両方を見る経営へ変える必要があります。

原因が分かったら利益への影響額で優先順位を決める

7つの原因を理解した後に必要なのは、同じ説明をもう一度読むことではありません。

自社ではどこから手を付けるべきなのかを決めることです。

直近12カ月の診断結果と改善策を結び付けると、判断しやすくなります。

診断で見えた変化 次に確認する数字や事実 主な改善候補
粗利率が低下している 商品別粗利 顧客別粗利 販売価格 原価 値上げ 原価改善 商品構成変更
原価率が上昇している 仕入単価 廃棄 不良 外注 物流 調達見直し ロス削減 工程改善
低採算売上が増えている 商品別採算 顧客別採算 対応工数 商品構成変更 取引条件変更
人件費負担が増えている 付加価値 残業時間 工数 人員配置 業務改善 配置変更 自動化
固定費が増えている 契約内容 利用状況 投資効果 不要契約解約 規模見直し
売上増加でも利益が減っている 粗利率 追加固定費 追加変動費 KPI見直し 受注基準変更

改善策を選ぶ際には、利益への影響額だけでなく、実行までに必要な時間や顧客への影響、社員への負担まで考えます。

年間100万円の不要固定費が明確に見つかっている会社であれば、その見直しは比較的着手しやすいでしょう。

一方、粗利率が数年間にわたって低下している会社では、固定費だけを削っても根本的な問題が残る可能性があります。

その場合には、販売価格、原価、商品構成のどこに原因があるのかを先に確認する必要があります。

不採算顧客が見つかったとしても、すぐ取引を終了する必要はありません。

価格改定、最低発注数量の設定、小口配送への送料設定、特別仕様への追加料金、短納期対応の有料化などによって、採算を改善できる可能性があります。

人件費負担に問題がある場合も同様です。

人員削減へ進む前に仕事の流れを調べ、入力、転記、承認、資料作成などに時間が取られているのであれば、業務標準化や自動化によって同じ人数でも付加価値を増やせる可能性があります。

改善策を決めるときには、「値上げが正しい」「固定費削減が正しい」と最初から結論を置くのではなく、自社の数字で原因を確認し、それぞれの施策が営業利益へ何円影響するのかを比べることが重要です。

売上1億円の会社で改善効果をシミュレーション

利益改善では、「改善したい」という曖昧な言葉を具体的な金額へ変換することが重要です。

ここでは冒頭のモデル企業を使い、粗利率改善、固定費削減、売上増加によって営業利益がどのように変わるのかを比較します。

現状は売上高1億円、粗利益3,000万円、粗利率30%、人件費1,800万円、その他固定費1,000万円、営業利益200万円です。

比較しやすくするため、それぞれの施策以外の条件は変わらないものと仮定します。また、売上増加ケースについては、追加売上に対する限界利益率を30%と仮定し、新たな固定費は発生しない単純化したモデルを使います。

改善策 変更前 変更後 改善後の営業利益 利益への影響
現状 粗利率30% 粗利率30% 200万円
粗利率改善 粗利率30% 粗利率31% 300万円 +100万円
その他固定費削減 1,000万円 900万円 300万円 +100万円
売上増加 1億円 1億1,000万円 500万円 +300万円

粗利率を30%から31%へ改善した場合

売上高1億円で粗利率30%なら、粗利益は3,000万円です。

ここから粗利率を31%へ改善できれば粗利益は3,100万円となり、他の条件が変わらない場合、営業利益は200万円から300万円へ増えると予測されます。

粗利率の変化は1ポイントですが、営業利益への影響は100万円です。

従来の営業利益200万円と比較すると、50%の増益になります。

利益率の薄い会社ほど、粗利率の小さな変化が営業利益へ大きく影響することが分かるでしょう。

なお、粗利率改善を一律の値上げだけで実現する必要はありません。

一部商品の販売価格改定、原価ロスの削減、高粗利商品の販売割合向上などを組み合わせた結果として、会社全体の粗利率を改善する方法もあります。

固定費を年間100万円削減した場合

次に、その他固定費を年間1,000万円から900万円へ削減します。

粗利益3,000万円と人件費1,800万円が変わらないのであれば、営業利益は200万円から300万円へ増加します。

つまり、年間100万円の固定費削減が、そのまま年間100万円の営業利益改善につながるモデルです。

ただし、この結果だけを見て固定費削減を常に最優先と判断する必要はありません。

すでに固定費を十分に抑えている会社では削減余地が小さく、無理に削減すれば必要な設備や教育、システムまで失う可能性があります。

反対に、現在使っていない契約や過剰設備が明確に見つかっている会社であれば、固定費削減は有力な改善策になり得ます。

売上を1000万円増やした場合

売上高を1億円から1億1,000万円へ増やしたケースも確認します。

追加売上1,000万円について限界利益率30%を確保でき、新たな固定費が発生しないという単純化したモデルでは、追加で300万円の限界利益が生まれるため、営業利益は200万円から500万円になると予測されます。

この結果だけを見ると、「やはり売上を増やすことが一番なのではないか」と感じるかもしれません。

しかし実際には、追加売上を獲得するために広告宣伝費が増えたり、営業人員や残業が必要になったり、在庫や配送負担が増えたりする可能性があります。

その場合、1,000万円の追加売上から300万円がそのまま営業利益へ残るとは限りません。

仮に営業利益を100万円増やすことを目標とし、追加売上について限界利益率30%を維持でき、新たな固定費も発生しないとすれば、必要な追加売上は約333万円です。

一方、年間100万円の不要固定費を削減できれば、新たに約333万円を販売しなくても、同じ100万円の営業利益改善になります。

これは固定費削減のほうが優れているという意味ではありません。

同じ100万円の利益改善でも、必要となる営業活動、投資、時間、顧客への影響、実行リスクが異なるということです。

1%を金額へ変えると経営判断が変わる

売上高1億円の会社では、売上高の1%が100万円です。

この感覚を持つだけでも、値引きや原価上昇を見る目は変わります。

大口顧客から3%の値下げを求められたとき、「3%くらいなら仕方ない」と感覚だけで判断するのではなく、対象となる年間売上へ3%を掛けて利益への影響を確認します。

仕入先から値上げを求められた場合も同じです。

値上げ率だけを見るのではなく、年間購入額へ掛け合わせることで、その条件変更が年間利益へ何円影響するのかを把握できます。

「少し値引きした」「仕入れが少し高くなった」という曖昧な認識を、「年間で何円変わるのか」という具体的な経営判断へ置き換えることが、利益構造を見るということです。

利益が増えても資金繰りが改善するとは限らない

利益構造を改善して営業利益が増えたとしても、銀行口座の残高まで同じように増えるとは限りません。

利益と現金は異なるタイミングで動くからです。

たとえば商品やサービスを提供して売上を計上しても、取引先からの入金が翌月や翌々月なら、売上計上時点では現金を受け取っていません。

その一方で、給与、家賃、仕入代金などの支払日はやってきます。

この時間差によって、損益計算書では利益が出ているのに、「銀行残高を見ると安心できない」と感じる状態が生じることがあります。

利益と現金は異なるタイミングで動くからです。 売上計上時点では 現金を受け取っていません 取引先からの入金が 翌月や翌々月 給与、家賃、仕入代金などの 支払日

特に注意したいのが、売上が急速に拡大している会社です。

売上拡大に伴って売掛金や在庫が増える一方、仕入代金の支払いが先行する事業では、成長するほど多くの運転資金が必要になる可能性があります。

一般的な必要運転資金は、売上債権と棚卸資産の合計から仕入債務を差し引く考え方で確認できます。

増加運転資金とは、その必要運転資金が以前よりどれだけ増えたのかという増加部分です。

さらに、借入金の元本返済は損益計算書上の費用ではありませんが、現金を確実に減らします。

反対に減価償却費は損益計算書上の費用として利益を減らしますが、その期に同額の現金が出ていくわけではありません。

借入金の元本返済 減価償却費
さらに、借入金の元本返済は損益計算書上の費用ではありませんが、現金を確実に減らします。 反対に減価償却費は損益計算書上の費用として利益を減らしますが、その期に同額の現金が出ていくわけではありません。

このため、営業利益とキャッシュは一致しません。

利益が増えているのに手元資金が増えない場合には、売掛金の回収期間、棚卸資産、仕入債務、借入金返済、設備投資などを分けて確認する必要があります。

「決算では黒字なのに、なぜお金がないのだろう」と感じる場合には、利益構造とは別に資金繰りを確認しなければなりません。

このテーマは関連記事である「黒字なのにお金がない会社の原因」へ内部リンクし、売掛金、在庫、借入金返済、設備投資などの影響を詳しく確認できるようにすると、読者が次の経営課題へ自然に進めます。

売上はあるのに利益が残らない会社のFAQ

売上が増えれば利益も増えるのでは?

売上が増えれば利益も増える可能性はありますが、必ずしも同じ割合で増えるわけではありません。

追加売上に伴って仕入原価、材料費、外注費、物流費なども増えるうえ、人員や設備が追加で必要になれば固定的な費用まで増加する可能性があります。

さらに、低粗利の商品や顧客ばかり増えれば、売上高が伸びているにもかかわらず会社全体の利益率が低下するという可能性もあります。

そのため、売上増加を評価するときには「いくら売れたか」だけを見るのではなく、その追加売上によって限界利益や営業利益が実際に何円増えるのかまで確認する必要があります。

粗利率はどこを見れば分かりますか?

粗利率は、損益計算書に記載されている売上高と売上総利益から確認できます。

売上総利益を売上高で割って100を掛ければ、会社全体の粗利率を計算できます。

ただし、会社全体の粗利率だけでは低下した原因まで分からないことがあります。

可能であれば商品別、サービス別、主要顧客別にも採算を分け、どの取引が会社全体の粗利率を押し下げているのかを確認すると原因を見つけやすくなるでしょう。

また、業種によって原価構造は大きく異なるため、特定の粗利率を一律の健全基準として扱わず、自社の過去推移や同業種の公的統計と比較することが重要です。

利益を増やすなら値上げと固定費削減のどちらが先ですか?

どちらを優先するべきかは、自社の利益構造によって異なります。

売上1億円の会社で粗利率を1ポイント改善できれば、他の条件が変わらないモデルでは100万円の粗利益増加になります。一方、不要な固定費を年間100万円削減できれば、他の条件が同じなら営業利益も100万円増えます。

最初からどちらか一方を正解とするのではなく、それぞれの利益への影響額を計算し、実行までに必要な期間や顧客への影響、業務への副作用を比較するとよいでしょう。

原価や労務費の上昇を長期間販売価格へ反映できていない会社なら、固定費だけを削減しても根本的な収益構造が変わらない可能性があります。

人件費が高いかどうかはどう判断しますか?

給与総額だけを見ても、人件費が高いかどうかは判断できません。

労働分配率、一人当たり付加価値、粗利益の推移、残業時間、人員配置、実際の仕事内容などを組み合わせて確認する必要があります。

人件費が増えていても、それ以上に付加価値が増えているのであれば、人材への投資として合理的である可能性があります。

反対に、人件費だけが増え続け、粗利益や付加価値が伸びていないのであれば、給与水準を疑う前に業務プロセスや人員配置、間接業務の量を確認したほうがよいでしょう。

営業利益とキャッシュはなぜ違うのですか?

営業利益は損益計算書上の収益と費用から計算されますが、実際の入金や支払いが同じタイミングで行われるわけではありません。

売掛金として売上を計上していても入金前なら現金は増えず、商品や材料を先に仕入れれば現金は先に減ります。

さらに、借入金の元本返済は損益計算書上の費用ではありませんが現金を減らし、減価償却費は費用として利益を減らしても、その期に同額の現金支出を伴いません。

そのため、営業利益が黒字であっても資金繰りが厳しくなる可能性があります。

まとめ 売上ではなく利益構造を分解して原因を絞る

売上はあるのに利益が残らないとき、最初から「もっと売らなければならない」と考える必要はありません。

まず直近12カ月について売上高、粗利益、粗利率、人件費、その他固定費、営業利益を並べ、前年同月や過去の推移と比較します。

粗利率が低下しているなら値付けや原価、商品構成を確認し、人件費負担が増えているなら給与額だけではなく人員配置や仕事の流れまで調べます。固定費が増えている場合には、将来に必要な投資と、すでに役割を終えた支出を分けて考える必要があるでしょう。

原因が見えた後は、「値上げをするべきか」「固定費を削るべきか」と感覚だけで決めるのではなく、それぞれの改善策によって営業利益が何円変わるのかを試算します。

経営者にとってつらいのは、利益が少ないという事実だけではありません。

社員も懸命に働き、顧客もいて、売上も立っている。それなのに利益が残らない理由が分からなければ、どこを改善すればよいのか判断できず、頑張り方そのものに迷いが生じます。

しかし、利益構造を分解すれば、漠然としていた不安は確認できる数字へ変わります。

最初から会社全体を大きく変える必要はありません。まず直近12カ月を一枚にまとめ、最も大きく変化している数字を一つ見つけ、その原因を確認して小さな改善を実行します。

その後、翌月以降の数字がどう変わったのかを確認し、改善効果が出ているなら続け、十分な変化がなければ次の原因を調べます。

すでに売上をつくる力がある会社だからこそ、その売上を利益として残す仕組みを整える余地があります。

参考資料

損益分岐点売上高や限界利益の考え方、販売価格、変動費、固定費を変えた場合の改善シミュレーションについては、中小企業基盤整備機構が運営する J-Net21 損益分岐点の計算方法と経営改善に向けた活用方法 を参照できます。

中小企業の付加価値、労働生産性、省力化投資、AI活用、デジタル化などの動向については、中小企業庁が公表する 2026年版中小企業白書 小規模企業白書の概要 が参考になります。

労務費の価格転嫁や価格交渉における発注者と受注者の行動については、公正取引委員会の 労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針 を確認できます。

利益とは別に将来の現金の出入りを管理する場合は、日本政策金融公庫が公開している 各種書式ダウンロード 中小企業の方 から、資金繰り表や作成手順、記載例を確認できます。

人気記事

  • 本日
  • 週間
  • 月間

-業務改善