「厳しく指導したら成績が上がった」「施術を受けたら痛みが軽くなった」「研修を導入したら売上が戻った」――こうした経験をすると、直前に行ったことが結果を変えたように感じます。しかし、極端に良かった結果や悪かった結果の次には、特別な介入がなくても、一定の統計的条件のもとで最初ほど極端ではない結果が現れることがあります。
この記事で扱う中心テーマは、平均への回帰そのものを覚えることだけではありません。「結果が変わった」という観察と、「自分の介入によって結果を変えた」という因果判断を分けることです。この違いを意識できると、教育、スポーツ、健康、仕事などで経験する成功や失敗を、必要以上に単純な物語へまとめずに考えられるようになるでしょう。
回帰効果バイアスとは 回帰の誤謬との違い
「回帰効果バイアス」という表現は、平均への回帰による変化を介入の効果だと取り違える問題を理解するうえで分かりやすい言葉です。一方、統計学や認知バイアスに関する資料では、一般に「回帰の誤謬」「平均回帰の誤謬」、英語では regression fallacy などの名称が使われています。
そのため、この記事では検索時にも意味を想像しやすい「回帰効果バイアス」を入口として使いながら、中心概念は標準的な表現である「回帰の誤謬」として整理します。カリフォルニア大学バークレー校の統計教材でも、回帰効果を考慮せず、観測された差へ外部の原因を帰属してしまうことを regression fallacy と説明しています。
ある家庭で、普段70点前後を取る子どもが30点を取ったと考えてみましょう。親は「このままではまずい」と不安になり、毎晩勉強を見るようになりました。その後の試験で65点まで戻れば、指導が効いたと感じるでしょう。
もちろん、本当に指導によって理解が深まり、その結果として成績が改善した可能性はあります。しかし、最初の30点に体調不良、睡眠不足、出題内容との相性など、その回だけに強く影響した条件が含まれていたなら、介入がなくても次の得点が普段の水準へ近づいた可能性も残ります。
ここで30点から65点へ上昇した事実を疑う必要はありません。考えるべきなのは、その35点分の変化のうち、どこまでを親の指導による追加的な効果として説明できるのかという点です。
「結果が変わった」と「自分が結果を変えた」は同じ意味ではありません。
この区別を持てるようになることが、回帰の誤謬を理解する第一歩です。
回帰の誤謬に共通するパターン
回帰の誤謬は、教育だけでなく、スポーツ、健康、営業、企業経営などさまざまな場面で起こります。扱っている対象は違っていても、その背後には似た流れがあります。
極端な結果が観測され、それをきっかけとして何らかの介入が行われ、その後に最初ほど極端ではない結果が現れると、人は介入と変化を結びつけやすくなります。
極端な結果 → 介入 → 通常に近い結果 → 介入が原因だったと判断
この構造を先に押さえておくと、後に出てくる例を別々の現象として暗記する必要はありません。「極端な結果を見て行動した直後に、最初ほど極端ではない結果が現れていないか」という視点から整理できるようになります。
| 場面 | 極端な最初の結果 | その後の行動 | 次に観測された結果 | 生まれやすい解釈 |
|---|---|---|---|---|
| 試験 | 極端な低得点 | 補習や追加指導 | 普段に近い得点へ上昇 | 補習のおかげで伸びた |
| 褒める場面 | 極端な高得点 | 賞賛やご褒美 | 普段に近い得点へ低下 | 褒めたから気が緩んだ |
| スポーツ | 一年目に突出した好成績 | 二年目を迎える | 前年ほど極端ではない成績 | 研究されたから落ちた |
| ゴルフ | 極端に悪いスコア | コーチの指導を受ける | 普段に近いスコア | コーチのおかげで直った |
| 健康 | 症状が特に強い時点 | 治療や施術を受ける | 症状が軽くなる | 受けた施術だけが原因だった |
| 営業 | 売上が極端に悪化 | 営業研修を行う | 売上が以前に近い水準へ変化 | 研修のおかげで回復した |
| 経営 | 業績が過去最低になる | 外部専門家を登用する | 業績が持ち直す | コンサルの戦略だけが原因だった |
もちろん、この表にある介入がすべて無意味だという話ではありません。指導、治療、研修、コンサルティングが本当に効果を持つ場合もありますが、介入前後の差だけでは、その効果の存在や大きさを十分に確定できないという点が重要です。
回帰の誤謬を知る目的は、何も信じなくなることではありません。結果が良くなったときも悪くなったときも、原因を一つに決める前に比較する習慣を持つことにあります。
平均への回帰とは
平均への回帰とは、極端な観測値を示した対象を基準にして関連する次の値を見ると、一定の統計的条件のもとで、その値の平均的な位置が最初ほど極端ではなくなる現象です。教育測定の資料でも、一回目に極端な値が観測されたとき、二回目には一回目より平均に近い値が観測されやすい現象として扱われています。
ただし、「平均」という言葉から、何らかの力が数字を中央へ押し戻しているように考えると誤解します。高い値には下げる力、低い値には上げる力が働くという仕組みではありません。
個人が必ず平均へ戻るわけではない
中間試験で100点だった学生が、期末試験でも100点を取ることはあります。反対に、30点だった学生が次回20点になり、さらに平均から離れる場合もあるでしょう。
平均への回帰が表しているのは、一人ひとりが必ず平均へ向かうという法則ではありません。同じ条件で選ばれた対象を集団として見るときに現れる平均的な傾向です。
したがって、「今回が良すぎたから次は必ず悪くなる」と予測することも、平均への回帰の正しい使い方ではありません。統計的な傾向と、目の前にいる一人の次の結果は分けて考える必要があります。
高ければ必ず下がる反転法則ではない
「平均への回帰」という名前から、高かったものが次に低くなり、低かったものが次に高くなる反動のような現象を想像することがあります。
しかし、100点の次に90点になることは平均方向への変化ですが、平均が70点なら90点は依然として高得点です。平均への回帰は、反対側まで行き過ぎることを意味しません。
典型的な線形関係で考えるなら、最初の極端さが平均的には弱まりやすいという理解のほうが適切です。
変化のすべてを平均への回帰で説明できるわけではない
補習後に点数が伸びたなら、本当に学習効果があった可能性があります。スポーツ選手の成績が落ちた背景に、けがや戦術変更がある場合もあるでしょう。
医療でも、症状の変化には平均への回帰だけでなく、疾患そのものの自然経過や実際の治療効果、生活状況の変化などが関係する可能性があります。
平均への回帰は、本当の因果効果を否定するための概念ではありません。前後の差を見ただけで、その差のすべてを介入効果として扱わないための注意点です。
「全部介入のおかげ」と決めるのも、「全部平均への回帰」と決めるのも早すぎます。複数の原因候補を残しながら、比較可能な情報を増やしていくことが必要です。
一時的な揺らぎは理解しやすい一例
試験を二回受けるような場面では、「最初の極端な得点に、その回だけの一時的な条件が含まれ、それらが次回には同じ形で再現されない」と考えると直感的に理解しやすくなります。
腹痛、睡眠不足、出題内容との相性などが典型でしょう。
ただし、これは平均への回帰を繰り返し測定の場面で理解するための一例であり、平均への回帰そのものを「悪かった偶然が消えて元に戻る現象」と定義することはできません。
典型的な線形関係を持つ二つの測定値や変数を考えた場合、それらの関係が完全ではないとき、一方で極端な値を示した対象について、もう一方の条件付き平均はより全体平均に近い位置へ現れます。
一方で、「完全相関でなければどのような二変量分布でも同じ回帰が必ず起きる」と一般化するのも適切ではありません。散布図の形状や統計モデルの前提によって、条件付き平均の関係は異なります。
回帰の誤謬が起こりやすい理由
回帰の誤謬について、心理的な理由を一つだけに決めることはできません。より確実に押さえられるのは、人が介入するタイミングと、極端な結果を基準に対象を選ぶ構造が、誤った因果判断を生みやすくするという点です。
そのうえで補助的に考えられるのが、私たちは結果が変わると、その理由を知りたくなるということです。子どもの成績が突然落ちれば親は原因を探し、会社の売上が急減すれば経営者は何を変えるべきか考えるでしょう。
原因が分かれば、次の行動を決めやすくなります。そのため、偶然性や統計的な変動を含む結果にも、分かりやすい説明を与えたくなるという可能性はあります。
ただし、この心理的な説明だけを、回帰の誤謬が生じる唯一の原因だと考える必要はありません。
原因のある説明は理解しやすい
「今回は複数の条件が重なり、回帰効果も含まれているかもしれない」という説明より、「先生が厳しく指導したから成績が上がった」という説明のほうが、一つの物語として理解しやすいでしょう。
とはいえ、分かりやすさと因果関係の正しさは別です。
介入の直後に結果が変わっても、時間的な前後関係だけで因果効果が証明されるわけではありません。前後に並んだ二つの出来事の間に、本当に追加的な効果があったのかを別に確かめる必要があります。
介入する時期が極端な結果と重なりやすい
回帰の誤謬を生みやすい構造として特に重要なのが、介入のタイミングです。
売上が普段通りなら、高額な研修やコンサルティングを緊急導入する理由は弱いでしょう。しかし、過去最低の数字が出れば、「何かしなければ」という圧力が強くなります。
健康でも同じです。症状がいつもと変わらないときより、特に強くなったときのほうが、新しい治療や施術を試そうと考えやすくなります。
つまり、人は極端な状態を観測したからこそ介入することがあります。その後に最初ほど極端ではない結果が現れると、介入が時間的に間に入っているため、「介入したから変わった」という解釈が生まれやすくなるわけです。
ここでは「自然に回復した」と決めつける必要はありません。より正確には、介入がなくても起きた可能性のある変化まで、介入の成果として数えてしまうことがあると考えます。
試験成績で見る回帰の誤謬
試験の例で重要なのは、極端な成績を使って対象者を選ぶことです。成績下位者だけに介入すると、その後に観測される変化のすべてを介入効果として読みたくなります。
ある学生が普段70点前後なのに、中間試験で30点だったとしましょう。本人は落ち込み、親や先生も、このままでは危ないと感じるかもしれません。
しかし、その30点には理解不足だけでなく、その試験だけに影響した条件も含まれている可能性があります。次の測定で同じ条件が再現されなければ、得点は最初ほど極端でなくなることがあるでしょう。
東京女子大学の斉藤慎一氏の研究では、標準化テストの成績下位群に補習を行ったと仮定したデータを用い、平均への回帰を調整する場合としない場合の違いが検討されています。単純な前後比較では補習効果があるように見えても、ANCOVAや残差得点分析では異なる結論になり得ることが示されています。
この研究は、実際に学生へ補習を実施して、そのプログラムの有効性を検証した介入研究ではありません。重要なのは、「極端な得点で選んだ人たちの前後差を、そのまま介入効果として読んではいけない」という分析上の問題です。
点数が上がったことと、補習によって点数が上がったことは別の主張になります。
褒めることと叱ることで起こる勘違い
この例で重要なのは、人が自分自身の指導法を誤って学習してしまう可能性です。
ある家庭で、普段70点程度の子どもが100点を取ったとします。親はうれしくなり、「よく頑張ったね」と褒め、ご褒美を与えるかもしれません。
次の試験が75点なら、「褒めすぎて気が緩んだのではないか」と考えるでしょう。
反対に30点を取ったあとで厳しく叱り、次回65点になれば、「やはり厳しくしなければ伸びない」と感じるかもしれません。
褒めるのは極端に良かったとき、叱るのは極端に悪かったときです。そのため、平均への回帰を考慮しなければ、褒めたあとには悪化し、叱ったあとには改善するという経験が積み重なりやすくなります。
飛行訓練の有名な事例
TverskyとKahnemanが1974年に発表した論文では、飛行訓練に関連する事例が、回帰を無視した判断の問題と結び付けて紹介されています。
飛行教官から見れば、良い着陸を褒めたあとには次の着陸が悪化し、悪い着陸を叱ったあとには改善するように見えます。同じ経験を重ねれば、「称賛より叱責のほうが有効だ」と考えるのも不思議ではありません。
しかし、特に良かった試行と特に悪かった試行を基準に次を見る以上、回帰効果を考慮する必要があります。
ここで厄介なのは、教官が見た変化そのものが間違っているわけではないことです。実際に褒めたあと悪くなり、叱ったあと良くなったとしても、その変化を何が引き起こしたのかは別に検証しなければなりません。
経験を疑う必要はありません。経験から作った因果関係のほうを確かめる必要があります。
スポーツの二年目のジンクス
スポーツの例で重要なのは、突出した成績を残した選手だけに注目していることです。
新人選手が一年目に大活躍すれば、二年目にも同じ数字を期待されます。そこで成績が落ちると、「相手に研究された」「慢心した」「オフの過ごし方が悪かった」といった原因が語られるでしょう。
それらが実際に影響した可能性はありますが、突出した一年目の数字を基準に選手を見ている以上、平均への回帰も考慮する必要があります。
一年目の成績に高い実力だけでなく、その年に良い方向へ働いた複数の条件が含まれていたなら、それらが翌年も同じ形で続くとは限りません。
ここで学びたいのは、「二年目のジンクスは平均への回帰だけで説明できる」ということではなく、成績が落ちたという事実だけから、新しい悪化原因を必ず作る必要はないということです。
ゴルフのレッスンで考える介入のタイミング
ゴルフの例では、介入する時点がすでに極端な状態になっている点が重要です。
ある人が普段100前後で回っているのに、その日は130という悪いスコアを出したとします。不安になってレッスンを受け、次回103になれば、「先生に直してもらった」と感じるでしょう。
本当に指導による改善が含まれている可能性はあります。ただし、130という極端な結果を見たからこそ介入している以上、レッスンがなくても次のスコアが最初ほど極端ではなかった可能性を考えなければなりません。
知りたいのは、130から103になった27打の差だけではなく、「レッスンを受けなかった場合」と比べて、どれだけ追加的な改善が生まれたかです。
一人の人について、同じ時点から「受けた場合」と「受けなかった場合」を同時には観測できません。この見えない比較対象をどう考えるかが、因果効果を評価する難しさにつながります。
治療や施術では平均への回帰と自然経過を分けて考える
医療や健康の例では、平均への回帰、疾患や症状そのものの自然経過、実際の治療効果を混同しないことが重要です。
慢性的な痛みなど症状が変動する状態では、人は症状が比較的軽い日より、「もう耐えられない」と感じるほど強い日に受診や施術を決断しやすいでしょう。
その後に症状が軽くなれば、「あの治療が効いた」と感じるのは自然です。しかし、そこには少なくとも異なる可能性があります。
一つは平均への回帰です。極端な値を基準にその後を見ているため、次の測定値が最初ほど極端でなくなることがあります。
もう一つは症状そのものの自然経過です。治療とは別に、病状や症状が時間とともに変化する場合があります。
そして、実際の治療効果が含まれている可能性もあります。
Barnettらは、平均への回帰によって観測された変化を誤解する可能性があり、とくに極端なベースライン値を基準に対象を選ぶ場合には、研究設計や統計解析による対処が重要だと論じています。
なお、この論文には後に訂正情報も公開されているため、学術的に詳細を参照する場合には訂正も併せて確認するのが適切です。
重要なのは、症状が軽くなったという本人の経験を否定することではありません。「軽くなったこと」と「何が軽くしたのか」を別々に考えることです。
医療上必要な治療や処方については、平均への回帰を理由に自己判断で中断せず、担当する医療専門家と相談しながら判断する必要があります。
営業研修やコンサルで起こる成果の誤認
ビジネスの例で重要なのは、前後差をそのままROIとして扱わないことです。
ある営業部門の売上が過去最低になり、経営陣が高額な営業研修を導入したとします。数か月後に売上が以前に近い水準へ戻れば、「研修が効いた」と評価したくなるでしょう。
しかし、過去最低の数字には市況、大口商談の失注、案件時期のずれなど複数の要因が重なっていたかもしれません。そこで介入前後の差をすべて研修成果として扱えば、研修がなくても起きた可能性のある変化までROIへ含めることになります。
同じ問題は、成績下位者だけを研修へ送る場合にも起こります。最下位という極端な値で社員を選んでいるため、その後の成績を見るときには回帰効果を考慮しなければなりません。
企業全体の業績が極端に落ち込んだ時期にコンサルティング会社を登用し、その後に利益率が持ち直したケースでも同様です。市場環境、価格改定、供給状況などが同時に変わっているなら、それらとコンサルティングによる追加効果を分けて考える必要があります。
経営陣自身が高額な施策を決断した場合、「あの判断は正しかった」と思いたくなる気持ちもあるでしょう。それでも、業績が変わったことと、その施策が業績を変えたことは同じ命題ではありません。
回帰の誤謬を避ける方法
平均への回帰そのものは統計現象なので、避ける対象ではありません。避けたいのは、平均への回帰やその他の変化を、確認せずに介入の成果や失敗だと取り違えることです。
日常では毎回厳密な実験を行えませんが、判断の手順を変えることで誤認を減らせます。研究や大きな投資判断では、さらに適切な設計や統計解析が必要になります。
何もしなかった場合を考える
結果が改善したら、「この介入をしなかった場合はどうなっていただろう」と考えます。
30点から60点へ上がったとしても、介入がなければ50点になっていた可能性があるなら、介入によって説明したいのは30点分すべてではありません。
この「介入しなかった場合」は直接観測できないため、比較対象や統計的な方法を使って推定する必要があります。
一回の極端な値だけで判断しない
一度だけ売上が急落した社員と、一年間低迷している社員では、同じ「今月最下位」でも意味が異なります。
試験でも、一回だけ30点だった学生と、過去五回すべて30点前後だった学生では状況が違うでしょう。
可能であれば介入前の複数期間を確認し、普段の変動幅を把握します。複数回見れば因果関係が証明されるわけではありませんが、一回だけの極端な値へ過剰反応する危険は減らせます。
適切な比較対象を用意する
可能であれば、介入した対象だけではなく、似た条件で介入しなかった対象も見ます。
研究では、実施可能な場合に介入群と対照群へ無作為に割り付けるランダム化比較試験が利用されます。無作為化によって偶然要因が必ず完全に均等になるわけではありませんが、特定の要因が一方だけへ系統的に偏る危険を抑え、因果効果を評価しやすくします。
有限標本では群間の偶然的な不均衡も起こり得ますし、脱落や測定方法など別の問題も残ります。それでも、介入した人だけの前後を比較する方法より強い根拠を得やすい設計です。
季節性や時間トレンドも確認する
同じ方向の成果が何度か続いても、それだけで介入の因果効果が確定するわけではありません。
市場全体が成長している、季節的に需要が伸びている、別の施策も同時に動いているなど、共通する別要因が継続して結果へ影響する場合があるからです。
そのため、「介入がなかった場合と比べて追加的な変化が確認できるか」を考えます。反復は一回だけの成功より有力な情報になりますが、適切な比較の代わりにはなりません。
成功したときにも同じ確認をする
過去最高の売上が出ると、失敗したとき以上に原因を疑わなくなることがあります。
新しい販売施策を始めた月に記録的な売上が出れば、「この方法が正解だ」と思いたくなるでしょう。しかし、極端に良い値にも回帰効果を考える必要があります。
翌月に数字が落ちたとき、「施策が飽きられた」と新しい説明を作る前に、最初の結果そのものがどの程度極端だったのかを確認するとよいでしょう。
成功を喜ぶことと、成功の原因を慎重に検証することは両立します。
極端な結果へ過剰反応しない
一回の失敗で施策をすべて変え、一回の成功だけで急拡大すると、極端な値に判断を振り回されやすくなります。
まず過去の変動幅を確認し、その数字が通常の範囲なのかを考えます。
ただし、安全や健康、事業継続に重大な危険がある場合に対応を遅らせるという意味ではありません。必要なのは「極端な結果を無視すること」ではなく、「結果が極端であることと、その原因が分かったことを区別すること」です。
平均への回帰をもう一段正確に理解する
ここまでの説明でも、日常で回帰の誤謬を見抜くための考え方はつかめます。統計的な仕組みまで理解したい場合には、もう少し厳密な説明を加えると、なぜこの現象が起こるのかを整理しやすくなります。
ゴルトンと回帰という言葉
平均への回帰という考え方の歴史は、フランシス・ゴルトンによる親子の身長研究と深く関係しています。
ゴルトンは、極端に高身長の親の子どもは平均より高い傾向を残しながらも親ほど極端ではなく、低身長側でも対応する傾向が見られることを研究しました。
ここで「背の高い親から背の低い子どもが生まれる」という意味ではありません。親子の身長には関連がありながら完全には一致しないため、極端な親を基準に予測した子どもの値は、標準化して考えるとより集団の中心側へ位置します。
この研究が、「regression」という統計用語の歴史的背景になりました。
X=T+Eで考える
教育測定では、古典的テスト理論の直感的なモデルとして、観測得点を次のように考えることがあります。
X = T + E
Xは観測された得点、Tは真値に相当する部分、Eは測定誤差に相当する部分です。コロラド大学ボルダー校の教育測定資料でも、この考え方を使って regression fallacy が説明されています。
非常に高い得点には高いTだけでなく、その測定で正方向に作用したEが含まれている可能性があります。反対に極端に低い得点には、負方向のEが加わっている場合があるでしょう。
次回に同じ誤差が同じ方向で同じ大きさだけ発生するとは限らないため、観測値は最初ほど極端でなくなることがあります。
ただし、この説明は繰り返し測定を理解するためのモデルです。平均への回帰の一般的な意味をX=T+Eだけへ還元するものではありません。
相関と条件付き平均
典型的な線形関係を仮定し、二つの変数を標準化して考えると、回帰効果は数理的にも理解できます。
一回目の値が平均から2標準偏差上で、二回の測定間の相関が0.6なら、単純な線形回帰では二回目の条件付き平均は平均から1.2標準偏差程度上になります。
つまり、依然として平均より高いものの、最初の2標準偏差ほど極端ではありません。
ただし、相関が完全でないという条件だけから、あらゆる二変量分布について同じ性質が自動的に成立するわけではありません。散布図の形状やモデルの前提を考慮する必要があり、バークレー校の教材も典型的な楕円形の散布図などを前提として説明しています。
ANCOVAなどによる統計的調整
事前値が異なる集団の介入効果を分析するときには、単純な変化量だけでなく、事前値を考慮する方法が用いられる場合があります。
東京女子大学の資料では、ANCOVAや残差得点を用いた分析と単純な分析とで、解釈が異なり得ることが示されています。
しかし、「ANCOVAを使えば平均への回帰の問題は必ず解決する」と考えるのも適切ではありません。研究デザイン、群の作り方、測定誤差、モデルの前提などによって適切な方法は変わります。
統計手法は、研究設計上の問題を自動的に消してくれるものではありません。何を比較したいのかを先に明確にし、その問いに合った設計と分析を選ぶことが重要です。
個別の結果と集団全体の傾向を分ける
平均への回帰を理解するとき、最後まで忘れてはいけないのが個人と集団の違いです。
集団として平均側へ寄る傾向があっても、一人の次の結果がどうなるかは決まっていません。100点だった人が次回も100点を取ることはありますし、活躍した新人選手が翌年さらに大きく伸びる場合もあります。
反対に、「平均への回帰を知っているから次は下がるはずだ」と考えれば、今度は別の思い込みを作ることになります。
平均への回帰は未来を簡単に当てる道具ではありません。極端な結果を見たあと、その原因を急いで決める前に思い出したい統計的な視点です。
統計的な傾向を知ることと、目の前の一人の将来を決めつけることは別です。この線引きを守れば、回帰効果の知識そのものが新しいバイアスへ変わることも避けやすくなるでしょう。
回帰効果バイアスについてよくある質問
- 回帰効果バイアスとは何ですか?
-
この記事では、平均への回帰によって生じた可能性のある変化を、直前に行った指導や治療、施策などの効果だと誤って判断する問題を「回帰効果バイアス」と呼んでいます。
一般的な統計資料では「回帰の誤謬」や regression fallacy という名称が使われます。平均への回帰という統計現象そのものと、それを無視して因果関係を作る判断上の問題を区別することが重要です。
- 回帰効果と平均への回帰は同じですか?
-
この記事では、基本的に同じ統計現象を指す言葉として扱っています。
一定の統計的条件のもとで、一方の極端な値を手掛かりに関連する別の測定値を見ると、その平均的な位置がより全体平均側に現れる現象です。
ただし、個人が必ず平均へ戻るという意味ではありません。高かった人がさらに高くなることもあるため、集団としての平均的傾向と個別結果は分けて理解する必要があります。
- 回帰効果バイアスの具体例は何ですか?
-
試験で極端な低得点だった学生へ補習を行い、その後の点数上昇をすべて補習の成果だと判断する例があります。
スポーツでは、突出した一年目の成績が翌年に落ち着いたとき、その変化をすべて慢心や研究された結果だと解釈するケースが考えられるでしょう。
医療では症状が特に強い時点で治療を始め、その後に起きた変化のすべてを治療効果と考えると、平均への回帰や自然経過との区別が難しくなります。
- 回帰の誤謬はなぜ起こりやすいのですか?
-
特に重要なのは、介入する時点そのものが極端な結果と重なりやすいことです。
人は結果が普段通りのときより、過去最低や異常な好成績といった目立つ結果が出たときに行動を変えやすくなります。その直後に最初ほど極端ではない値が観測されると、介入と変化が時間的に続くため、因果関係のように見えやすくなります。
結果に分かりやすい原因を求める傾向も一因として考えられますが、それだけを唯一の心理的原因と考える必要はありません。
- 回帰の誤謬を防ぐにはどうすればよいですか?
-
まず、「何もしなかった場合にも同じ方向の変化が起きただろうか」と考えます。
そのうえで、複数期間のデータを見る、適切な比較対象を設ける、季節性や市場全体の変化を確認するなどの方法を使います。
研究では、無作為化比較や適切な統計的調整が利用されます。日常でそこまで厳密な方法を使えなくても、「良くなった」と「良くした」を別の主張として扱うだけで、結論を急ぎにくくなるでしょう。
- 回帰効果と回帰分析は関係ありますか?
-
歴史的なつながりがあります。
「regression」という名称には、ゴルトンが親子の身長を研究し、極端な親から予測される子どもの値がより集団の中心側へ位置する関係を扱った歴史があります。
ただし、現在の回帰分析と平均への回帰は同じ概念ではありません。回帰分析は変数間の関係をモデル化する幅広い統計手法であり、平均への回帰は極端な観測値を条件として関連する値を見るときに現れる統計的現象です。
まとめ
「回帰効果バイアス」という言葉で検索してきた人が理解しておきたい中心概念は、一般に「回帰の誤謬」と呼ばれる判断上の問題です。
極端な結果のあとに最初ほど極端ではない結果が現れたとき、その変化を直前に行った指導、治療、研修、経営施策などの成果だと即断してしまうことがあります。
だからといって、介入の効果をすべて疑えばよいわけではありません。本当に効果があった可能性と、平均への回帰、自然経過、その他の要因によって変化した可能性を分けて考えることが重要です。
そのためには、一回の前後差だけを見ず、「何もしなかった場合」と比較する視点を持ちます。過去のデータ、比較対象、時間トレンド、適切な研究設計などを使えば、結果が変わった理由へ少しずつ近づけるでしょう。
そして、個人について次の結果が必ず平均へ近づくわけでもありません。平均への回帰は未来を決める法則ではなく、極端な結果から原因を作る前に思い出したい統計的な視点です。
「変わった」と「変えた」の間には、思っている以上に大きな距離があります。
その距離を確かめる習慣があれば、必要以上に誰かを叱ったり、一度の成功を万能な方法だと思い込んだり、効果が十分に確認されていない施策へ資源を投入し続けたりする危険を減らせます。
すべてを疑う必要はありません。結果が動いたときほど、原因まで同時に分かったとは考えず、少しだけ結論を急がないことが、より確かな判断への出発点になるのではないでしょうか。
参考資料
回帰効果と regression fallacy の基本的な関係、個人と集団の違い、飛行訓練の例について確認できます。
UC Berkeley Statistics「Errors in Regression」
日本語で「回帰の誤謬」という用語と認知バイアスとしての位置付けを確認できます。
十文字学園女子大学「回帰の誤謬」
標準化テストの事前事後比較と平均への回帰、ANCOVAや残差得点を用いた分析について確認できます。
東京女子大学学術情報リポジトリ「平均への回帰を考慮したテストスコア変化の分析について」
平均への回帰を考慮したテストデータ解析について、日本テスト学会誌の研究を確認できます。
J-STAGE「不完全データに基づく平均への回帰を考慮したテストデータの解析」
医学研究における平均への回帰と、研究設計や統計解析による対処について確認できます。
PubMed「Regression to the mean: what it is and how to deal with it」
Barnettらの論文について後に公開された訂正情報です。
PubMed「Correction to: Regression to the mean: what it is and how to deal with it」
飛行訓練を含む判断のヒューリスティックとバイアスを扱ったTverskyとKahnemanの1974年論文の書誌情報を確認できます。
PubMed「Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases」
古典的テスト理論のX=T+Eと、gain scoreやregression fallacyの関係を確認できます。
University of Colorado Boulder CADRE「Gain Scores and the Regression Fallacy」
平均への回帰という概念の歴史的背景となったゴルトンの1886年の原論文です。
Francis Galton「Regression towards Mediocrity in Hereditary Stature」