行動経済学

同調バイアスと同調圧力の違いとは? 職場・学校の具体例でわかりやすく解説

「みんながそう言うなら、自分の考えが間違っているのかもしれない」と感じることがあります。一方で、「本当は違うと思うけれど、ここで反対したら居場所がなくなるかもしれない」と考え、意見を飲み込む場面もあるでしょう。どちらも外から見れば「周囲に合わせた」という同じ行動ですが、心の中で起きていることは必ずしも同じではありません。

この記事では、同調バイアスと同調圧力を学術上の完全な対概念として切り分けるのではなく、自分の経験を整理するための二つの視点として扱います。大切なのは用語を暗記することではなく、「多数派を見て自分の判断そのものが動いたのか」「判断は変わらないまま周囲との関係を考えて行動だけを合わせたのか」を見分けられるようになることです。

TABLE OF CONTENTS
目次

同調バイアスと同調圧力の違いを先に比較

同調バイアスと同調圧力を実生活で見分ける一つの目安として、「自分の中で多数派を正しいと感じて判断を変えたのか」「周囲と違うことによる不利益を恐れて行動を合わせたのか」という軸があります。

ただし、これは心理学における正式な境界線ではありません。日本心理学会では、同調に関係する社会的影響として「情報的影響」と「規範的影響」を説明しており、どちらか一方が中心になる場合もあれば、双方が関係する場合もあります。

比較する視点 同調バイアスとして整理しやすい状態 同調圧力として整理しやすい状態
主に注目するもの 自分の判断や認知の変化 集団や他者から受ける社会的な力
典型的な心の動き 「大勢がそう言うなら正しいのだろう」 「反対すると嫌われたり評価を下げられたりするかもしれない」
判断そのもの 多数派を参考にして変わることがあります 内心では変わらない場合があります
周囲からの要求 明確な要求がなくても起こります 明示的または暗黙的な要求が関係する場合があります
関係しやすい社会的影響 情報的影響が目立つ場合があります 規範的影響が目立つ場合があります
見直すポイント 人数と事実を分けて確かめる 異論を言った場合の不利益や環境を見る

たとえば、初めて訪れた街で二軒の飲食店が並んでおり、一方だけに長い行列ができていたとします。「これほど人が並んでいるなら、きっとこちらがおいしいのだろう」と考え、自分から列に加わるなら、多数派を情報として使った判断と捉えやすいでしょう。

反対に、職場で本当は帰りたいのに、「みんな残っているのに帰るの?」と言われて残業するのであれば、周囲から外れた場合の評価や人間関係を気にした影響が強いと考えられます。

とはいえ、現実には二つが重なることも少なくありません。「上司のほうが詳しいから自分が間違っているかもしれない」と感じながら、「反対したら評価にも響きそうだ」と不安になるのであれば、正しさについての迷いと、集団から外れることへの恐れが同時に生じています。

つまり、この比較は人を二種類に分けるためのものではありません。自分の中で何が起きているのかを、少し見えやすくするための整理なのです。

同調バイアスと同調圧力は同じ意味でも使われる

ここを最初に押さえておくと、その後の説明を必要以上に二分法として受け取らずに済みます。

「同調バイアス」という言葉は、日本語圏で完全に統一された専門用語として使われているわけではありません。玉川大学の解説では「同調バイアス(同調圧力)」という表現が使われており、両者をかなり近い概念として扱っています。

また、中小企業基盤整備機構のJ-Net21では、同調バイアスを、他者の意見や行動を参考にして自分の意見や行動を決めてしまうバイアスとして説明し、その例には、同調圧力やチームの和を重視するあまり本当の意見を言い出せない状況まで含まれています。

したがって、「考えが変わったら必ず同調バイアス」「考えが変わらなければ必ず同調圧力」という公式な分類が存在するわけではありません。

この記事で使う区別は、あくまで実生活を整理するためのフレームです。

検索している人が本当に知りたいのも、二つの単語の境界だけではないでしょう。「なぜ自分はあのとき周囲へ合わせたのか」を理解し、必要なら次の行動を変えられることに、この違いを知る意味があります。

同調が起こる背景

同調がなぜ起こるのかを考えるときには、「情報的影響」と「規範的影響」という二つの視点が役立ちます。

モートン・ドイッチとハロルド・ジェラードは1955年、社会的影響を情報的影響と規範的影響に分けて検討しました。

情報的影響とは、自分の判断に確信を持てないとき、他者の意見や行動を「正しい答えを知るための情報」として利用する影響です。一方の規範的影響は、周囲から嫌われたり拒絶されたりすることを避け、集団から受け入れられたいという気持ちから周囲へ合わせる影響を指します。

人の心に置き換えると、違いは見えやすくなります。

情報的影響が強いときは、「自分にはよく分からない。でも、みんながそうしているなら、そちらのほうが正しいのだろう」と感じます。ここには、できるだけ間違った判断をしたくないという不安があります。

規範的影響が強いときは、「自分では違うと思う。でも、ここで反対したら嫌われるかもしれない」と感じるでしょう。こちらでは、正解を知りたい気持ちよりも、所属や人間関係を失いたくないという不安が前に出ます。

どちらも、人間が社会で暮らすうえでは理解できる反応です。

私たちは、すべての情報を自分一人で確認することはできません。また、他者との関係を完全に無視して生きることも難しいでしょう。

問題になるのは、多数派の人数が事実そのものに見えてしまったり、少し違う意見を持つだけで大きな不利益を受けたりする状態です。

「周囲を見ること」と「周囲へ判断を預けること」は同じではありません。

アッシュの同調実験から分かること

同調研究で広く知られているのが、ソロモン・アッシュによる線分判断実験です。

参加者には基準となる一本の線と複数の比較線が示され、どの線が基準線と同じ長さなのかを答えるよう求められました。一人で回答する場合には、ほぼ間違えないほど分かりやすい課題です。

ところが、参加者より先に答える実験協力者たちが、全員そろって同じ誤答を口にすると状況が変わりました。日本心理学会の解説では、多数の実験協力者が全員一致して誤答した条件で、本当の回答者のおよそ3分の1に同調行動が見られたと紹介されています。

ここで重要なのは、「周囲が正しいと思ったから同調した」と一つの理由だけで説明しないことです。

参加者の中には、「これほど全員が同じなら、自分の見え方が間違っているのかもしれない」と感じた人がいたという可能性があります。一方で、「自分だけ違う答えを口にするのは気まずい」と感じた人もいたと考えられます。

つまり、アッシュの実験は情報的影響だけを示す研究でも、規範的影響だけを示す研究でもありません。

全員一致した多数派を前にすると、自分の判断への疑いと、集団から外れることへのためらいが重なる場合があります。

この点は、日常生活を考えるうえでも重要です。

ある会議で全員が同じ案へ賛成しているとき、「これだけの人が賛成するなら正しいのだろう」と思う気持ちと、「自分だけ反対するのは言いにくい」と感じる気持ちは、同時に存在できます。

同調の背景を理解するには、どちらか一方だけを探すより、自分が何を信じ、同時に何を恐れているのかを見るほうが実態に近いでしょう。

一人の異論が空気を変える

アッシュの研究では、全員一致の状態が崩れると同調が大きく低下しました。

日本心理学会の解説によると、多数派の中に一人だけ正答する人がいると、同調行動は5.5%まで低下しました。さらに、その一人が参加者と同じ正答ではなく、多数派とは別の誤答をした場合でも、多数派への同調は低い状態でした。

ここから見えてくるのは、「自分と同じ意見の味方」がいなければならないわけではないという点です。

全員が同じではないと分かるだけで、「多数派が絶対に正しいのではないか」という感覚が弱まることがあります。同時に、「違うことを言ってもよいのかもしれない」と感じられる余地も生まれるでしょう。

会議でも、全員が無言でうなずいているときには言えなかった疑問が、一人の「私は少し気になります」という発言をきっかけに、次々と出てくることがあります。

異論は、必ずしも正解を与えるものではありません。

それでも、「全員一致ではない」という事実そのものが、ほかの人の判断や発言の自由を広げることがあるのです。

具体例で同調バイアスと同調圧力を比べる

実生活では、心理学用語を当てはめること以上に、「判断がどう動いたのか」「何を恐れていたのか」を見ることが役立ちます。

ここでは、職場、学校、SNSの三つの場面を使い、どちらの側面が目立っているのかを比べます。

職場の会議

ある会社で、新規プロジェクトについて会議が開かれました。

若手社員は事前資料を読み、新しいプランBのほうが市場競争力を持っていると考えています。ところが会議が始まると、部長が「費用対効果を考えれば、従来のプランAで進めるべきだ」と自信を持って発言し、周囲の社員も次々とうなずきました。

自分の判断が変わる場合

若手社員は、誰からも反対を禁止されていません。

それでも、「何度も大きな案件を成功させてきた部長がここまで言うなら、自分の分析には見落としがあるのかもしれない」と感じ始めます。

やがて本人も、プランAのほうが正しいと思うようになりました。

この場合には、多数派や権威者の判断を正しさの情報として使う側面が目立ちます。もちろん、経験豊富な人の見解を参考にすること自体は合理的ですが、「部長だから正しい」「全員が賛成だから正しい」となれば、肩書や人数がデータの代わりになってしまいます。

問題は、意見を変えたことではありません。

何を根拠に意見を変えたのかが分からなくなることです。

判断は変わらないまま行動を合わせる場合

別の若手社員は、データを見てもプランAには重大な欠点があると考えています。

しかし、「新人の自分だけ反対したら、協調性がないと思われるかもしれない」「今後の評価に響いたら困る」という不安が強くなり、最終的には「私もAが現実的だと思います」と発言しました。

本人の判断は変わっていません。

変わったのは、外に出した言葉です。

こちらでは、集団から外れた場合の不利益を避ける規範的な側面が強く見えます。

同じ議事録には、二人とも「Aに賛成」と残るかもしれません。それでも、一人は本当に判断を変え、もう一人は異なる判断を隠しています。

外から見える行動だけでは、その人がなぜ同調したのかまでは分からないのです。

学校と友人関係

学校では、集団から外れることへの不安が強くなりやすい場面があります。

玉川大学の解説でも、クラスやグループには集団規範が存在し、いじめの場面では「周囲と同じようにしなければ自分がいじめられる」という行動に同調圧力が関係することがあると説明されています。

あるクラスで、グループの中心的な生徒が、一人の生徒へ冷たい態度を取り始めたとしましょう。

ある人は、対象の生徒と特に問題がなかったにもかかわらず、「みんなが避けているなら、自分が知らないだけで何か理由があるのだろう」と考え始めます。

この場合、多数派の態度が、その人についての事実のように見えています。

一方、別の人は「これはおかしい」と思っています。それでも、「あの子に話しかけたら、次は自分が仲間外れにされるかもしれない」と感じ、何も言えません。

学校は翌日も通わなければならない場所です。

そこで居場所を失う恐怖を感じている人に、「正しいと思うなら止めればいい」と言うだけでは問題を解決できません。個人の勇気だけでなく、異論を示しても次の標的にならない環境が必要になります。

「嫌われている人だから問題がある」と判断することと、「問題がないと分かっているのに自分を守るため距離を置く」ことは、外からは似ていても内側では異なります。

SNS

SNSでは、支持や批判が「いいね」「リポスト」「閲覧数」として目に見えます。

ある著名人への批判が急速に広がり、数万件の反応を集めていたとします。

元の発言を確認していない人が、「これほど大勢が怒っているなら、本当にひどいことをしたのだろう」と感じ、批判を拡散することがあります。このときには、人数が信頼性の代理として使われています。

一方、元の資料まで確認した人が、「批判は行き過ぎている」と考えていても、「ここで反対したら自分まで攻撃されるかもしれない」と感じ、何も投稿しないことがあります。

この二つが同じ空間で起こると、さらに複雑になります。

反対意見を持つ人が沈黙すると、第三者からは「反対する人がいない」と見えるでしょう。その見かけの一致が新しい人の判断を動かし、さらに異論を言いにくくすることがあります。

見えている多数派と、本当に多数の人が心の中で考えていることは、必ずしも同じではありません。

同調が維持される背景にある多元的無知

同調や集団規範が連鎖し、誰も望んでいない状態が維持される仕組みを理解するうえで役立つのが、多元的無知です。

多元的無知の中心にあるのは、「自分自身の態度」と「他者が持っていると自分が推測する態度」のずれです。

PrenticeとMillerによる大学生の飲酒規範を扱った研究では、自分自身は大学内の飲酒慣行にそれほど肯定的ではないにもかかわらず、「ほかの学生は自分よりも受け入れている」と認識する傾向が示されました。

つまり、多元的無知は「同調バイアスと同調圧力を足した心理状態」という意味ではありません。

むしろ、ほかの人の本心を誤って推測することで、実際には多くの人が望んでいない規範まで維持される現象です。

残業をめぐる多元的無知

ある職場で、多くの社員が長時間残業をやめたいと思っているとします。

それでも、ある社員は「自分だけ帰ったら、仕事への意欲が低いと思われる」と感じて残ります。

その姿を見た別の社員は、「みんな普通に残っている。残業を嫌なのは自分だけなのかもしれない」と受け取るでしょう。

すると、その人も帰れません。

本当は多くの人が帰りたいのに、全員が残っているため、「全員がこの働き方を受け入れている」ように見えてしまいます。

ここで問題なのは、単に全員が周囲へ合わせたことだけではありません。

互いに他人の本心を読み違えていることです。

沈黙は賛成とは限りません。しかし、沈黙が賛成として解釈されれば、その誤解が次の沈黙を生みます。

企業の不合理な慣行や学校の暗黙のルールがなかなか変わらないとき、「誰も問題だと思っていない」と決めつける前に、多元的無知の可能性を考える価値があります。

問題に気づいている人がいないのではなく、気づいている人同士がお互いの存在を知らないのかもしれません。

残業をめぐる多元的無知 「自分だけ帰ったら、仕事への意欲が低いと思われる」 と感じて残ります。 「みんな普通に残っている。 残業を嫌なのは自分だけなのかもしれない」 と受け取るでしょう。 すると、その人も帰れません。 「全員がこの働き方を受け入れている」 ように見えてしまいます。

ここからは、同調バイアスと同調圧力の違いを理解したうえで、関連しやすい心理現象を整理します。

比較検索に対する答えそのものではありませんが、「なぜ多数派がさらに大きくなるのか」「なぜ危険な場面でも人が動かないのか」を考えるときに役立ちます。

バンドワゴン効果

バンドワゴン効果では、「多くの人から支持されている」という情報が、さらに新しい支持を呼ぶ広がりに注目します。

たとえば、売上ランキング1位の商品を見て「これほど売れているなら良いのだろう」と一人が購入します。その購入によって売上が伸び、それを見た次の人も購入するなら、人気が人気を呼ぶ循環が生まれるでしょう。

個人が多数派を見て判断を寄せる部分には同調的な心理が関係します。

それが多くの人へ連鎖し、支持そのものが膨らんでいくところを見るなら、バンドワゴン効果として理解しやすくなります。

正常性バイアス

正常性バイアスは、異常な出来事が起きても「まだ大丈夫だろう」と危険を日常の範囲として受け止めようとする心理です。

災害時に煙のようなものが見えていても、「火は見えていないから大したことはない」と考える場合があります。

そこへ「周囲も逃げていない」という情報が加われば、「みんな動いていないなら大丈夫なのだろう」という他者参照まで重なる可能性があります。

異常そのものを過小評価する心理と、他人を判断材料にする心理は同じではありません。

それでも一つの場面で重なると、避難の遅れにつながる可能性があります。

周囲の落ち着きは、安全の証明とは限らないのです。

集団極化

集団極化とは、話し合いなどを通じて、集団の判断がもともとの傾向より極端な方向へ移る現象です。

日本心理学会では、その背景として情報交換や社会的比較などが説明されています。

SNSで似た意見を持つ人たちが互いの投稿を読み続けると、「多くの人が同じ方向を向いている」という感覚に加え、自分の考えを支持する新しい情報も次々と目に入るでしょう。

その結果、当初より強い主張へ動くという可能性があります。

同調は周囲と同じ方向へ寄ることを考える概念であり、集団極化は集団全体の意見がさらに極端な方向へ動くことを考える現象です。

日本人は同調しやすいのか

「日本人は集団主義的だから、ほかの国の人より同調しやすい」と説明されることがあります。

しかし、このような国民性だけによる断定には注意が必要です。

TakanoとSogonが2008年に発表した研究では、同じ大学のクラブに所属する日本人大学生140人からなる40グループでアッシュ型の同調実験を行い、日本人が内集団においてもアメリカ人以上に同調するという結果は示されませんでした。

もちろん、一つの研究だけで文化差が存在しないと結論づけることはできません。

同調には、人数、全員一致の程度、集団内での地位、課題の性質、個人差、文化など複数の条件が関係すると考えられています。

また、山岸俊男と橋本博文による社会的ニッチ構築の考え方では、人間の行動を固定した性格だけではなく、周囲から返ってくる反応を含む社会環境へ適応する戦略として分析します。

この見方に立てば、同調した人を見て「意思が弱い」と結論づける前に、「この環境で反対すると何を失うのか」を確認する必要があります。

異論によって評価や居場所を失う可能性が高い場所なら、周囲へ合わせることが自己防衛として合理的に見える場合もあるでしょう。

同じ人でも、違う意見を言っても安全な場所へ移れば、行動が変わるという可能性があります。

人の同調を理解するには、性格だけでなく、その人を囲む環境まで見ることが欠かせません。

周囲に流されそうなときの確認方法

日常では、「今の自分は同調バイアスなのか、それとも同調圧力なのか」と迷うこともあるでしょう。

そのときは、名前を当てることより、次の三つを確認するほうが実用的です。

確認すること 自分への問い 見えてくること
不利益がなくても合わせるか 反対しても評価や人間関係へ絶対に影響しないなら考えを変えるか それでも変えるなら周囲を情報として信頼している可能性があります
根拠は何か 客観的なデータを見たのか、多数派であること自体を根拠にしたのか 人数が事実の代わりになっていないか確認できます
本当に圧力があるか 実際に反対者が不利益を受ける環境なのか、自分が先回りして恐れているのか 認知を見直すべきか、環境への対処が必要かを考えられます

たとえば、「周囲と違っても一切嫌われないと保証されても、多数派の意見のほうが正しそうだから変える」と思うなら、情報面からの影響が強いでしょう。

反対に、「不利益がないなら今すぐ本当の意見を言いたい」と感じるなら、外側の圧力を確認する必要があります。

そして、二つが同時に当てはまることもあります。

無理に「これは同調バイアス」「これは同調圧力」と一つだけへ分類する必要はありません。自分の中にある「間違えたくない」という不安と、「孤立したくない」という不安を分けて確認できれば、その後の行動を選びやすくなります。

多数派を正しさの根拠にしすぎているときの対処

多数派を必要以上に正しさの手掛かりへしていると気づいたら、「人数」と「内容」をいったん切り離します。

ネットショッピングなら、レビュー数を見る前に、自分に必要な条件を決めておく方法があります。

価格、機能、耐久性、使用目的などを先に考えておけば、「星4.8だから買う」という判断だけになりにくいでしょう。

SNSで大きな炎上を目にした場合にも、「これだけ多くの人が怒っている」という事実と、「元の出来事が本当に問題だった」という事実を分けます。

可能であれば、元の発言や一次資料を確かめます。

ここで使いやすい問いは、「人数が見えなくても、自分は同じ判断をするだろうか」です。

もし人数を隠すと判断が大きく変わるなら、内容だけでなく、多数派の存在そのものから強い影響を受けていたという可能性があります。

周囲を無視する必要はありません。

大切なのは、多数派を参考情報として使うことと、正解そのものとして扱うことを分けることです。

同調圧力を感じるときの対処

同調圧力が強い場合、「もっと自信を持てばいい」という助言では足りません。

本当に反対者が冷遇される職場や、異論を言った人が排除される集団であれば、本人が感じている恐怖には現実的な理由があります。

そこでまず、「恐れている不利益は実際に起こる可能性があるのか」を確認します。

これまで反対意見を言った人が普通に受け入れられているなら、自分が先回りして強く恐れているという可能性があります。その場合は、小さな異論から試し、実際の反応を確認できるかもしれません。

一方、過去に反対者が評価を落とされたり、仲間外れにされたりしているなら、個人の考え方だけで解決しようとしないほうがよいでしょう。

相談先を変える、複数人で伝える、記録を残す、組織内の正式な制度を利用するなど、一人だけがリスクを背負わない方法を考える必要があります。

圧力の強い場所で「堂々と反対すればいい」と言うだけでは、本人へ負担を戻しているにすぎません。

同調圧力への対処で大切なのは、無理に勇敢になることではなく、違う意見を持っても大きな不利益を受けにくい条件を作ることです。

職場で同調を減らす方法

職場では、個人の精神力だけに頼るより、意思決定の手順を工夫するほうが現実的な場合があります。

特に、影響力の強い上司が最初に結論を示すと、「経験豊富な上司がそう言うなら正しいのだろう」という情報面の影響と、「違う意見を言ったらどう見られるか」という規範面の影響が同時に生じる可能性があります。

他人の意見を聞く前に自分の判断を書く

会議前に、自分の結論と理由を短く残しておきます。

「A案に賛成」だけではなく、「売上面ではAが有利だが、人員面には不安がある」と根拠まで記録すると、その後で意見が変わった理由を確認できます。

新しい情報を得て変えたのであれば、判断を柔軟に更新したことになります。

一方で、「部長も先輩もAだったから」としか説明できないなら、一度元の根拠へ戻る余地があるでしょう。

目的は意見を変えないことではありません。

何によって変わったのかを、自分で把握できるようにすることです。

最初の意見を独立して集める

会議の冒頭で一人ずつ口頭回答すると、後から話す人ほど前の意見を知った状態で判断することになります。

そこで、最初の判断だけは匿名フォームなどで独立して集める方法があります。

そうすれば、「全員が最初から同じだった」のか、「最初は意見が割れていたのに、会議の中で一致した」のかを区別できます。

最終結果だけではなく、結論へ至る過程を見ることが重要です。

デビルズアドボケイトで反対論を検討する

デビルズアドボケイトは、決まりかけた案に対して、あえて弱点や反証を検討する役割を置く手法です。

「A案が失敗するとしたら何が原因か」「B案のほうが優れている条件はないか」と、反対論を公式な役割として扱います。

ここで大切なのは、デビルズアドボケイトを「必ず意思決定の質を高める方法」と断定しないことです。

Schweiger、Sandberg、Raganによる1986年の特定の集団意思決定実験では、デビルズアドボカシーと弁証法的検討を用いた群が、コンセンサス方式の群より質の高い提案や前提を示しました。一方で、コンセンサス群では、集団への満足度や決定の受容などが高かったと報告されています。

また、Schwenkによる1990年のメタ分析でも、デビルズアドボカシーには一定の有効性が示された一方、比較する手法や課題条件によって結果が異なるため、万能な改善策とは言えません。

それでも、反対意見を「個人の反抗」ではなく「検討すべき役割」として扱うことには意味があります。

異論を述べた人だけが空気を乱す人物として見られにくくなり、決まりかけた前提をもう一度確認する機会を作れるからです。

上司が最初に結論を言わない

責任者が最初に「私はA案だと思う」と言えば、その後の参加者にとってA案は単なる選択肢ではなくなります。

「経験豊富な上司が選んだ案」という情報が付き、さらに「反対したらどう見られるか」という問題も生まれるでしょう。

そのため、議題によっては担当者や各参加者の情報を先に集め、責任者が最後に見解を示す方法が考えられます。

ただし、若手を最初に指名して別の圧力をかけては意味がありません。

会議で集めたいのは忠誠心ではなく、それぞれが持っている異なる情報です。

普通の人が無理をせず異論を出せる手続きのほうが、一人の勇気に依存する会議より安定しやすいでしょう。

職場で同調を減らす方法 他人の意見を聞く前に自分の判断を書く 最初の意見を独立して集める デビルズアドボケイトで反対論を検討する 上司が最初に結論を言わない

小さく実践して変化を確認する

同調について学んだからといって、明日から多数派へ逆らう必要はありません。

むしろ、「人と違うことをしなければ」と考え続ければ、それも周囲を基準にしている状態です。

最初は、判断する順番を少し変えてみます。

レビューを見る前に自分が欲しい条件を考える。上司が発言する前に自分の意見を一行書く。SNSの反応数を見る前に元の内容を確認する。

こうした小さな行動で十分です。

最初のうちは、周囲へ合わせたあとに「あのとき人数を根拠にしたな」と気づくだけかもしれません。それでも、気づかない状態とは違います。

そのうち、合わせる直前に気づける場面が増えてくるでしょう。

さらに、自分がどのような条件で同調しやすいのかも見えてきます。

専門知識のない分野では多数派を信じやすいけれど、自分の仕事では流されない人もいます。一方、人間関係が絡まなければ自分で判断できるのに、仲間外れの可能性があると何も言えなくなる人もいるでしょう。

「自分は流されやすい人間だ」と人格全体を決めつける必要はありません。

「情報が不足すると人数を頼りやすい」「居場所を失いそうになると黙りやすい」と条件を具体化したほうが、次の行動を選びやすくなります。

同調をなくすのではなく、無意識だった選択を、自分で理由の分かる選択へ変えていくことが大切です。

よくある質問

同調バイアスと同調圧力は同じですか?

資料によっては近い意味で扱われるため、完全に別の標準化された対概念とは言い切れません。

玉川大学では「同調バイアス(同調圧力)」と表記され、J-Net21の同調バイアスの説明にも、同調圧力によって自分の意見を言えない例が含まれています。

この記事では、自分の経験を整理する一つの目安として、「多数派を正しいと感じて判断が動く側面」と「集団から外れる不利益を恐れて行動を合わせる側面」を分けています。

同調バイアスは悪いことですか?

必ずしも悪いものではありません。

人はすべての情報を自分だけで検証できないため、他者の行動を参考にすることには合理性があります。

ただし、「大勢がそうしている」という事実だけで判断を終え、自分が持っている明確なデータまで無視するようになると、誤った多数派に引っ張られる可能性があります。

周囲を参考にすることと、周囲へ判断を預けることは別です。

同調が起こりやすいのはどんな場面ですか?

自分の判断に確信がない場面、多数派が全員一致している場面、集団内で自分の立場が弱い場面などでは、同調が起こりやすくなると考えられています。

日本心理学会も、人数、全員一致、集団内での地位、個人差や文化差などを、同調に関係する要因として紹介しています。

同調バイアスとバンドワゴン効果は何が違いますか?

この記事で同調バイアスという言葉を使う場合は、個人が多数派を見て判断を寄せる側面へ注目します。

一方のバンドワゴン効果では、そのような選択が連鎖し、多くの支持がさらに新しい支持を生んでいく広がりへ注目します。

「みんなが買っているから自分も買う」という一人の判断から、「その購入でさらに人気が上がり、それを見た人がまた買う」という循環へ広がれば、バンドワゴン的な現象として理解しやすくなるでしょう。

職場で同調しすぎないためにはどうすればよいですか?

まず、上司や多数派の意見を聞く前に、自分の判断と根拠を短く残す方法があります。

組織側では、最初の意見を独立して集める、責任者が早い段階で結論を固定しない、反対論を正式に検討する役割を作るなどの方法が考えられます。

大切なのは、異論を言える特別な人を探すことではありません。

普通の人でも、違う意見を述べたことで不必要な不利益を受けない環境を作ることです。

まとめ

同調バイアスと同調圧力は、検索すると別々の言葉として出てきますが、心理学上の完全な二分法として理解すると単純化しすぎる可能性があります。

資料によって「同調バイアス」の用法には幅があり、情報的影響と規範的影響も一対一で対応するわけではありません。

そのうえで実生活を整理するなら、「多数派を見て自分の判断そのものが動いたのか」「自分の判断は残っているのに、周囲から外れる不利益を恐れて行動を合わせたのか」という視点が役立ちます。

現実には、二つが同時に起こることもあります。

「みんなが賛成しているから、自分が間違っているのかもしれない」と感じながら、「ここで反対したら評価も悪くなりそうだ」と不安になることは十分にあり得るからです。

さらに、周囲の本心を誤って推測する多元的無知が加われば、本当は多くの人が疑問を持っている規範でも、全員が受け入れているように見えることがあります。

だからこそ、無理にラベルを一つ選ぶ必要はありません。

周囲に合わせそうになったとき、「自分は何を根拠に考えを変えようとしているのか」「違う意見を言ったら、何が起こると感じているのか」と分けて考えてみてください。

前者が問題なら、情報や事実を確かめ直せます。

後者が問題なら、自分だけを責めるのではなく、異論を言いにくくしている環境を見る必要があります。

周囲と同じ結論になること自体は問題ではありません。

多数派を参考にしながら、それでも最後には「自分はなぜこの選択をするのか」を自分の言葉で説明できる状態を作ることが、同調に振り回されにくくなるための一歩ではないでしょうか。

まとめ 「多数派を見て 自分の判断そのものが 動いたのか」 「自分の判断は残っているのに、 周囲から外れる不利益を恐れて 行動を合わせたのか」 現実には、二つが同時に 起こることもあります。

参考資料

日本心理学会 心理学ミュージアム「同調 集団の圧力」

同調の基本概念、アッシュの実験、情報的影響と規範的影響、全員一致の影響を確認できる資料です。

玉川大学「心と行動の無意識の偏り1 同調バイアス 同調圧力」

学校の集団規範や同調圧力について扱い、「同調バイアス(同調圧力)」という用語の使われ方も確認できます。

J-Net21「認知バイアスを減らすためにはどのようにしたらよいでしょうか」

同調バイアスの説明に、同調圧力やチームの和によって異なる意見を言えない例まで含めている資料です。

PubMed「A study of normative and informational social influences upon individual judgement」

DeutschとGerardによる1955年の研究で、規範的影響と情報的影響を区別して検討しています。

Princeton University「Pluralistic Ignorance and Alcohol Use on Campus: Some Consequences of Misperceiving the Social Norm」

自分自身の態度と他者の態度についての推測がずれる多元的無知を、大学生の飲酒規範を通じて検討した研究です。

CiNii Research「Are Japanese More Collectivistic Than Americans?」

TakanoとSogonによる2008年の研究で、日本人大学生を対象にアッシュ型の同調実験を行っています。

日本社会心理学会「Yamagishi and Hashimoto 2016 Social niche construction」

人間の行動を、固定的な性格だけでなく社会環境への適応戦略として見る社会的ニッチ構築の考え方を確認できます。

Schweiger, D. M., Sandberg, W. R., & Ragan, J. W.(1986)“Group Approaches for Improving Strategic Decision Making: A Comparative Analysis of Dialectical Inquiry, Devil's Advocacy, and Consensus.” Academy of Management Journal, 29(1), 51–71.

デビルズアドボカシー、弁証法的検討、コンセンサス方式を比較した集団意思決定研究です。安定して閲覧できる公開本文リンクを確認できないため、書誌情報のみ記載しています。

CiNii Research「Effects of devil's advocacy and dialectical inquiry on decision making: A meta-analysis」

Schwenkによる1990年のメタ分析の書誌情報を確認できる公開ページです。

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