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転職で年収が下がっても家計は大丈夫? 転職前に確認したい5つの数字

仕事内容には魅力を感じている。今より残業が減りそうで、やってみたかった仕事にも近づける。それなのに提示された年収を見た瞬間、転職への気持ちが止まることがあります。

「100万円下がったら住宅ローンは大丈夫だろうか」「子どもの教育費を考えたら今の会社に残るべきではないか」と考え始めると、新しい仕事への期待より家計への不安が大きくなるでしょう。

家族がいる人ほど、自分の希望だけで決めてはいけないという気持ちがあります。自分の選択によって家族の暮らしを苦しくしたくないからこそ、年収が下がるという事実を必要以上に重く感じてしまうこともあるのではないでしょうか。

しかし、転職で年収が下がるとき、本当に確認したいのは額面年収の差だけではありません。

転職初年度の年間手取り、2年目以降の年間手取り、年間の通常支出、今後5年から10年で変動する支出、転職時点で使える金融資産という5つの数字へ分けると、「年収が下がるから無理」という漠然とした不安を、自分で判断できる条件へ変えられます。

大切なのは未来を正確に当てることではありません。自分の家計なら、どこまでの収入減を受け入れられるのか。その境界を知ることです。

この記事では架空のモデル世帯を使い、年収が50万円、100万円、200万円下がる場合を比較します。さらに現職を続ける場合、すぐ転職する場合、半年間仕事を離れてから転職する場合まで並べながら、家計とキャリアを一緒に考えていきます。

TABLE OF CONTENTS
目次

転職で年収が下がるときは年収差だけでは判断できない

現在の年収が600万円で、転職先から提示された年収が500万円だったとします。額面では100万円の差です。

この数字だけを見ると、「年間100万円減るなら、毎月8万円以上も生活費を削らなければならない」と感じるかもしれません。求人票を見たときには前向きだったのに、年収欄を見た瞬間に「やはり今の会社に残ったほうが安全なのでは」と考え始めることもあるでしょう。

けれども、額面年収が100万円下がったからといって、実際に家計へ入るお金が100万円そのまま減るわけではありません。

会社員の給与からは所得税、住民税、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などが差し引かれています。収入が変われば税金や社会保険料も変化するため、転職による家計への影響を見るときは額面年収ではなく手取りで考える必要があります。

ただし、「税金なども下がるから、それほど心配しなくてよい」と考えるのも早いでしょう。

特に注意したいのが住民税です。個人住民税の所得割は原則として前年の所得を基に計算されるため、転職して年収が下がっても、住民税の負担まで同じタイミングで下がるとは限りません。

給与所得者では通常、前年所得に基づく住民税を6月から翌年5月まで給与から特別徴収します。転職初年度や退職後に空白期間を設ける場合には、現在の収入が減っている一方で、前年所得に対応した住民税を支払う時期が生じることがあります。

さらに転職先では賞与が少なくなるかもしれません。現在受けている住宅手当や家族手当がなくなる可能性もあります。

反対に、在宅勤務が増えて通勤や外食に使っていたお金が減ったり、残業が減ることで家族と過ごせる時間が増えたりすることもあるでしょう。

年収600万円と500万円という二つの数字だけでは、こうした変化までは見えてきません。

「年収が下がるのが怖い」という感情の奥にあるのは、100万円という数字そのものより、「その先の生活がどうなるのかわからない」という不安ではないでしょうか。

そこで年収差を眺め続けるのではなく、家計の中身へ分けて考えます。

転職前に確認したい5つの数字

家計シミュレーションと聞くと、何十年分もの複雑な表を作らなければならないように感じるかもしれません。最初からそこまで作り込む必要はありません。

まず、家計表へそのまま入れられる5つの数字を確認します。

1つ目は転職初年度の年間手取り、2つ目は転職2年目以降の年間手取り、3つ目は年間の通常支出、4つ目は今後5年から10年で変動する支出、5つ目は転職時点で使える金融資産です。

転職前に確認したい5つの数字 転職前に確認したい5つの数字 転職初年度の年間手取り 転職2年目以降の年間手取り 年間の通常支出 今後5年から10年で変動する支出 転職時点で使える金融資産
こうして5つの数字を分けると、「転職できるか」という大きな問いを、自分で確認できる家計条件へ落とし込めます。

ここでいう年間の通常支出には、食費や水道光熱費、日用品費、住宅ローンや家賃、保険料、通信費、固定資産税など、現在の生活を1年間続けるために必要になる支出を含めます。

一方、今後5年から10年で変動する支出には、子どもの進学に伴って増える教育費や、住宅の大規模修繕、設備交換など、年によって金額が大きく変わるものを置きます。

賞与は独立して家計へ加算する6つ目の数字ではありません。初年度と2年目以降の年間手取りを見積もるために、基本給と分けて支給条件を確認します。

支出も同様で、同じ費用を二度計上しないことが重要です。たとえば毎年支払う固定資産税を年間の通常支出へ入れたなら、変動する支出へ再び加算しません。教育費を4つ目で扱う場合も、同じ学費を3つ目へ重ねないようにします。

こうして5つの数字を分けると、「転職できるか」という大きな問いを、自分で確認できる家計条件へ落とし込めます。

転職初年度の年間手取り

最初の数字は、転職した年に実際に家計へ入る手取りです。

転職先から年収500万円と提示されていても、初年度から想定年収どおりになるとは限りません。入社時期によっては賞与が満額支給されず、年間収入が通常年より少なくなる場合があります。

住民税にも前年所得との時間差があります。

そのため転職後の平均的な1年間だけを見るのではなく、「最初の1年間をどのくらいの手取りで過ごすことになるか」を別に確認しておきます。

現在の手取りを把握するときは、給与明細や賞与明細、実際の給与振込額を1年分集計する方法がわかりやすいでしょう。

源泉徴収票では支払金額、源泉徴収税額、社会保険料等の金額などを確認できますが、銀行口座へ入った年間手取りそのものが記載されているわけではありません。

「転職後はそのうち家計も落ち着くだろう」と思っていても、最初の1年で想像以上に貯金が減れば不安は大きくなります。だからこそ、長期シミュレーションの前に初年度を別枠で確認します。

転職2年目以降の年間手取り

2つ目は、転職後の働き方が通常の状態になったときの年間手取りです。

ここでは基本給だけではなく、各種手当と賞与を含めて考えます。

たとえば月給が現在とほとんど変わらなくても、現在は年間120万円だった賞与が転職後に60万円へ減るなら、年間で使えるお金には大きな差が出ます。

しかも賞与を単なる臨時収入として使っていない家庭は多いでしょう。税金の支払い、車検、家電の買い替え、家族旅行、教育費の準備などを賞与から出しているなら、ボーナス減少は日常生活だけではなく将来へ残せるお金にも影響します。

転職後に「月々の暮らしはそれほど変わっていないのに、以前ほど貯金できない」と感じる原因が、実は賞与だったということもあり得ます。

求人票の想定年収を見るときは、基本給と賞与を分け、入社初年度の扱いや業績による変動幅まで確認しておきましょう。

年間の通常支出

3つ目は、現在の暮らしを1年間続けるために必要になる通常支出です。

食費、水道光熱費、日用品費、住宅ローンや家賃、保険料、通信費、自動車関連費、毎年支払う固定資産税などを整理します。

「固定費」だけを見るのではなく、食費や日用品費といった変動費も含めることが重要です。家計シミュレーションでは、実際に1年間生活するための支出全体を把握しなければ、転職後の余裕を大きく見積もってしまいます。

ただし、最初から食費を数千円単位で削る必要はありません。

まず知りたいのは、現在の暮らしを大きく変えずに続けた場合、年間でどの程度のお金が必要なのかという点です。

たとえば転職によって手取りが月6万円減ったとしても、現在毎月10万円を貯蓄できている家庭なら、貯蓄ペースは落ちるものの生活そのものが直ちに成り立たなくなるとは限りません。

逆に今の手取りをほぼ使い切っている家庭では、同じ6万円の減少でも影響は大きくなります。

年収が高くても毎年の通常支出が大きければ、収入減には弱くなります。

「それなりに収入はあるのに、なぜ転職がこんなに怖いのだろう」と感じるなら、まず現在の暮らしに年間いくら使っているのかを確認してみるとよいでしょう。

今後5年から10年で変動する支出

4つ目は、現在と同じ金額が毎年続くとは限らない支出です。

代表的なのが教育費です。

子どもが現在小学生なら、今の教育費だけで転職を判断するのは十分ではありません。中学、高校、大学と進むにつれて必要になるお金は変わり、私立への進学や自宅外通学によって負担がさらに増える場合もあります。

住宅でも同じです。

毎年の住宅ローンや固定資産税は年間の通常支出へ入れますが、屋根や外壁の大規模修繕、給湯器や水回りなどの設備交換は特定の年にまとまった支出が発生する可能性があります。

ここで求めたいのは、10年先までの金額を完璧に言い当てることではありません。

「何年後に家計負担が増えそうか」を把握することです。

今は余裕があっても、教育費が増える5年後や8年後に家計が厳しくなるなら、転職時に受け入れられる年収水準も変わるでしょう。

転職時点で使える金融資産

5つ目は、転職時点で使える金融資産です。

預貯金、株式、投資信託などを整理しますが、金融資産の全額を転職後の生活費として使えるとは限りません。

病気や失業などへ備える生活防衛資金、数年以内に必要な教育費、住宅修繕など、すでに役割を持っている資金があります。

そのため「600万円あるから大丈夫」と残高だけで判断するのではなく、そのうち転職による収入減を吸収するために使える金額がどの程度なのかを考えます。

また、株式や投資信託を含める場合には、必要な時期に価格が下がっている可能性にも注意が必要です。

金融資産は転職してよい人を決める合格点ではありません。収入が下がったときに、自分がどの程度の選択肢を持てるかを見る数字です。

5つの数字をモデル世帯へ当てはめる

ここからは家計判断の方法を理解するため、架空のモデル世帯を使います。

夫40歳、妻38歳、子ども10歳と7歳の4人家族です。

夫の現職年収は600万円とし、妻の年間手取りは制度上の基準を意味しない比較用の丸め値として100万円、開始時点の金融資産は600万円とします。

住宅ローンの年間返済額は120万円です。

年間の基本生活費等は264万円とし、食費、水道光熱費、通信費、日用品、保険、自動車の日常的な維持費に加え、このモデルでは固定資産税も264万円の中に含めます。

したがって、この世帯の教育費を除く年間の通常支出は、基本生活費等264万円と住宅ローン120万円を合わせた384万円です。

教育費は年間通常支出へ入れず、年齢と進学段階に応じて変動する支出として別枠で計上します。

一方、住宅の大規模修繕、物価上昇、大きな医療費、旅行や大型家電などの臨時支出、金融資産の運用損益は計算へ入れません。

金融資産600万円も、比較を単純にするため全額を現預金として扱います。

さらに、夫婦の収入は各シナリオで10年間変わらないものとし、昇給や減給、妻の働き方の変更も考慮しません。税・社会保険制度や扶養控除等の変化による手取りの変動も反映せず、各シナリオの年間手取りは10年間一定とします。

実際には転職後に昇給する場合もあれば、働き方や税・社会保険の条件が変わる場合もあるでしょう。しかし、ここでは年収条件の違いだけを比較するため、手取りを一定に固定します。

なお、このモデルでは年収差による長期的な影響を比較しやすくするため、転職初年度についても2年目以降と同じ年間手取りを使います。実際に自分の家計を計算するときは、初年度の賞与や住民税などを踏まえ、1年目だけ別の手取り額へ置き換えてください。

以下の手取り額も、2026年時点の税や社会保険制度から個別条件を精密に計算した一般的な標準値ではありません。

同じ支出条件の家計で手取りだけを変えたとき、資産残高がどのように動くかを見るための説明用モデルです。

つまり「10年後には必ずこの金額になる」という予測ではなく、条件の違いを見るための比較値として読んでください。

年収が50万円・100万円・200万円下がる家計を比較

まず、夫の年収だけを変えてみます。

項目 現職600万円 年収550万円 年収500万円 年収400万円
夫の額面年収 600万円 550万円 500万円 400万円
夫の年間手取りモデル 約465万円 約430万円 約395万円 約320万円
妻の年間手取りモデル 約100万円 約100万円 約100万円 約100万円
世帯年間手取り 約565万円 約530万円 約495万円 約420万円
現職との手取り差 0円 約35万円減 約70万円減 約145万円減
月平均の手取り差 0円 約2.9万円減 約5.8万円減 約12.1万円減

年収100万円減のケースでは、夫の額面年収が600万円から500万円へ下がります。

一方、この簡易モデルでの世帯手取り差は年間約70万円です。月平均なら約5万8000円になります。

「年収が100万円も下がる」と考えていた状態から、「今の家計から毎月約5万8000円減ったら、どこまで生活を維持できるだろうか」という問いへ変わります。

ここまで具体的になると、現在の家計と比べやすくなるでしょう。

今まで毎月10万円程度を貯蓄できているなら、転職後は貯蓄ペースが落ちても日常生活を大きく変えずに済む可能性があります。

一方、現在ほとんど貯蓄できていないなら、同じ年収100万円減でも意味は変わります。

年収200万円減では、モデル上の世帯手取り差は月約12万円です。ここまで差が広がると、現在の生活だけではなく、数年後の教育費まで含めて見なければなりません。

「年収が100万円下がったら危険」「年収500万円あれば大丈夫」といった一律の基準では判断できない理由がここにあります。

教育費が増える時期を入れて10年間の資産推移を見る

次に、年間の通常支出へ、年ごとに変動する教育費を加えて10年間の家計を見ます。

転職直後に毎月黒字だからといって、10年間ずっと余裕があるとは限りません。

子どもの教育費が増えれば年間支出は変わりますし、一時的に年間収支が赤字になっても、十分な金融資産を持っていれば吸収できる場合があります。

今回の教育費モデルは、文部科学省などが公表している平均額をそのまま転記したものではありません。

子どもの年齢と進学時期によって支出が増える様子を比較するため、次のように単純化しています。

現在10歳と7歳の子どもについて、1年後は二人とも小学生として年間68万円、2年後から4年後は上の子が中学生で下の子が小学生として88万円、5年後から7年後は上の子が高校生で下の子が中学生として114万円を置きます。

8年後は上の子が大学へ進学し、下の子が高校へ進学する時期が重なる想定です。そのため教育費を190万円まで一時的に増やし、9年後と10年後は上の子の大学在学と下の子の高校在学が続く想定で160万円としています。

つまり、この表で参考にしてほしいのは68万円や190万円という金額そのものではありません。

子どもの年齢→進学イベント→教育費の増加→年間収支の変化→金融資産の減少

子どもの年齢→進学イベント→教育費の増加→年間収支の変化→金融資産の減少 子どもの 年齢 進学 イベント 教育費の 増加 年間収支の 変化 金融資産の減少

という流れです。

自分で計算するときは、自分の子どもの年齢と希望する進路に合わせて教育費を置き換えます。

経過年数 教育費モデル 年間総支出 現職600万円 年収550万円 年収500万円 年収400万円
スタート 68万円 452万円 600万円 600万円 600万円 600万円
1年後 68万円 452万円 713万円 678万円 643万円 568万円
2年後 88万円 472万円 806万円 736万円 666万円 516万円
3年後 88万円 472万円 899万円 794万円 689万円 464万円
4年後 88万円 472万円 992万円 852万円 712万円 412万円
5年後 114万円 498万円 1059万円 884万円 709万円 334万円
6年後 114万円 498万円 1126万円 916万円 706万円 256万円
7年後 114万円 498万円 1193万円 948万円 703万円 178万円
8年後 190万円 574万円 1184万円 904万円 624万円 24万円
9年後 160万円 544万円 1205万円 890万円 575万円 100万円不足
10年後 160万円 544万円 1226万円 876万円 526万円 224万円不足

年収500万円へ転職するケースを見ると、4年後には金融資産が約712万円まで増えています。

ところが教育費が大きくなると資産残高は減少し、10年後には約526万円となります。

このケースで注意したいのは、転職直後よりも8年後以降です。

目の前の月収だけを見ていれば「転職しても問題なさそう」と感じても、子どもの進学時期まで広げると家計の姿は変わります。

一方、年収400万円のケースでは8年後に金融資産が約24万円まで低下し、9年後にはモデル上の資金不足へ入ります。

転職した年には生活できていても、教育費のピークが近づくと余裕がなくなる構造です。

だからこそ、10年後の最終残高だけではなく、途中で金融資産が最も少なくなる時期にも注目します。

もちろん、これを見て「年収500万円なら安全で400万円なら危険」と考えることはできません。

この表では夫婦の年間手取りを10年間固定し、転職初年度の手取り減、物価上昇、税制変更、住宅の大規模修繕なども反映していません。

知りたいのは安全な年収ではなく、自分の家計がどの条件に弱いのかです。

現職と即時転職と半年空白を3パターンで比較する

年収差を確認したら、次は転職の方法を変えて比較します。

ここでは、現職を続ける場合、空白期間を作らず年収500万円へ転職する場合、半年間仕事を離れてから同じ年収で転職する場合の3つを並べます。

半年の空白期間については「半年休むなら140万円必要」という一般的な基準があるわけではありません。

空白期間が家計へ与える影響は、仕事を続けていれば受け取れた手取りに、退職中の保険料などの負担変化を加え、受け取れる給付や仕事をしないことで減る支出などを差し引いて考えます。

簡略化すると、

空白期間による家計への影響額=空白期間に失う手取り+退職中に増える負担-受け取れる給付-空白期間中に減る仕事関連支出

空白期間による家計への影響額=空白期間に失う手取り+退職中に増える負担-受け取れる給付-空白期間中に減る仕事関連支出 空白期間に失う手取り 退職中に増える負担 受け取れる給付 空白期間中に減る 仕事関連支出 空白期間による家計への影響額

という考え方です。

このモデルでは制度を細かく再現せず、半年の空白期間によって即時転職より初年度の金融資産が140万円少なくなるというストレス条件を置きます。

140万円は半年休むための標準額ではありません。実際には自分の収入、生活費、税金、保険料、給付条件などへ置き換える必要があります。

シナリオ 1年後 5年後 8年後 10年後
現職継続 約713万円 約1059万円 約1184万円 約1226万円
年収500万円へ即時転職 約643万円 約709万円 約624万円 約526万円
半年空白後に年収500万円へ転職 約503万円 約569万円 約484万円 約386万円

数字だけを見れば現職継続が最も有利です。

10年後の金融資産は現職継続で約1226万円、即時転職で約526万円、半年の空白期間を置いた場合は約386万円となります。

では、1226万円を残せるなら今の会社に10年間残るべきなのでしょうか。

ここからは家計表だけでは答えを出せません。

今の仕事で慢性的な長時間労働が続いているなら、その10年間には年収だけでは測れない負担があります。家族と過ごせる時間を増やしたい人もいれば、今後のキャリアにつながる仕事へ移りたい人もいるでしょう。

「このまま何年も続けられる気がしない」と感じているなら、金融資産を最大化することだけが人生全体の最適解とは限りません。

反対に、転職先の仕事に強く惹かれているわけではなく、現在の不満が一時的なものであれば、急いで年収を下げる必要はないかもしれません。

家計シミュレーションが役立つのは、この違いを考えられるところまで不安を具体化できるからです。

「この転職をすると家計にはこれだけの差が生まれる。それでも得たい仕事や時間があるだろうか」

最後は、その問いを自分に返します。

条件別に基本シミュレーションへ追加したい確認事項

ここまでが基本の家計シミュレーションです。

住宅ローンがある人、教育費が大きくなる人、転職前に退職したい人は、基本計算へそれぞれ必要な条件を追加します。

同じ原理をもう一度最初から説明するのではなく、自分の場合に何を加える必要があるかを確認していきます。

住宅ローン返済中なら住宅修繕を追加する

住宅ローンがある家庭では、毎年の返済額や固定資産税を年間の通常支出へ入れたうえで、今後5年から10年で変動する支出に将来の修繕や設備交換を加えます。

「自分の転職のために家族の住まいを危うくしてはいけない」と考えるほど、年収減に慎重になるのは自然でしょう。

ただし、住宅ローンがあること自体で転職の可否が決まるわけではありません。

転職後の手取りから返済を続け、教育費や通常の生活費を支払っても一定の金融資産を残せるかを見ることが重要です。

フラット35では、すべての借入れを含む総返済負担率について、年収400万円未満は30%以下、400万円以上は35%以下という利用条件があります。

ただし、これは融資を利用するための条件であり、すべての家庭がその水準まで借りても余裕を持って暮らせるという意味ではありません。

転職時には金融機関の基準だけではなく、自分の家計に残る余白を確認します。

教育費が大きくなるなら進学時期を追加する

教育費がある家庭では、現在の支出だけではなく、子どもの年齢と進学予定を家計表へ追加します。

「お金を理由に進路を狭めたくない」と思うほど、必要額を多めに準備したくなるものです。

一方で、教育費を優先するあまり生活防衛資金や親自身の将来資金まで使い切れば、後になって別の負担が家族へ戻る可能性があります。

進路が決まっていない場合は、公立中心、私立を含む、自宅外通学を含むなど複数の条件を作ればよいでしょう。

正確な未来を一つ決めることより、教育費が増えた場合でも家計がどこまで耐えられるのかを知ることのほうが重要です。

転職前に退職するなら空白期間の資金繰りを追加する

次の会社を決める前に、一度仕事を辞めたいと考える人もいるでしょう。

今の仕事を続けながら転職活動をする余力がない、少し休んで状態を立て直したい、資格取得や学び直しへ時間を使いたいという理由もあります。

その選択を家計だけで否定する必要はありません。

ただし即時転職とは違い、空白期間については住民税、健康保険、年金、雇用保険まで確認します。

退職後の健康保険には、任意継続、国民健康保険、家族の健康保険の被扶養者になる方法などがあります。

協会けんぽの任意継続では、資格喪失日の前日までに継続して2か月以上の被保険者期間があることに加え、資格喪失日から20日以内に資格取得申出書を提出する必要があります。20日目が土日や祝日の場合は翌営業日となります。

また、退職後すぐ厚生年金へ再加入しない場合には、年齢や配偶者の扶養状況などに応じて国民年金の手続きが必要です。

雇用保険の基本手当についても、受け取れることを前提に計算してはいけません。

基本手当を受給するには、就職する意思といつでも就職できる能力があり、積極的に求職活動をしているにもかかわらず就職できない「失業」の状態であることなどが必要です。

そのため、半年間を純粋な休養期間として仕事を探さないのであれば、その期間の基本手当を家計へ見込むことはできません。

受給要件を満たす場合には、自分の場合にいつからどの程度受け取れるのかを確認します。

退職日が2025年4月1日以降で、正当な理由のない自己都合退職の場合は、離職票を提出して求職の申込みを行い、受給手続きをした日から原則7日間の待期を経た後、給付制限が原則1か月あります。

一方、退職日からさかのぼって5年間に2回以上、正当な理由のない自己都合退職で受給資格決定を受けている場合には、給付制限が3か月になります。また、一定の教育訓練等を受ける場合には給付制限が解除される制度があります。

先に退職したいときほど、「失業給付があるから何とかなる」と考えるのではなく、純粋に休む期間と求職活動を始める時期を分けて資金計画を作ることが重要です。

厳しい結果が出たら一つの条件だけ変えてみる

シミュレーションの結果が厳しいと、「やはり転職は無理なのか」と感じるかもしれません。

しかし、厳しい数字が出ること自体は失敗ではありません。問題が起こる前に、自分の家計の弱点を見つけられたということです。

たとえば年収500万円なら10年後まで金融資産が残る一方、400万円では教育費のピーク時に不足するとわかったとします。

その場合、「転職できない」と結論づけるのではなく、転職先の希望年収を500万円以上に設定するという行動へ変えられます。

金融資産の少なさが弱点なら、転職前に現預金を増やす方法があります。半年の空白期間が大きな負担になるなら、3か月の場合を試してみてもよいでしょう。

住宅費の影響が大きければ通常支出や修繕予定を見直し、教育費が弱点なら進路条件を変えたケースを比較します。

ここで一度にすべてを変える必要はありません。

一番影響の大きい条件を一つだけ変え、同じシミュレーションをもう一度行います。

こうして条件を少しずつ動かしていくと、「転職するか」という大きすぎる問いが、「自分が転職するには何が必要か」という具体的な行動へ変わります。

ただし、計算上の黒字を作るために生活費を極端に削ることは避けたいところです。

家族との時間を増やすために転職したのに、今度は毎日お金のことで緊張するようになれば、望んでいた暮らしとは違ってしまいます。

数字が成立することと、その生活を続けたいと思えることは別の問題です。転職判断では両方を見る必要があります。

転職後は実際の数字へ置き換える

転職前に作ったシミュレーションは、転職した瞬間に役目を終えるものではありません。

半年後や1年後には、仮定だった数字を実際の数字へ置き換えます。

想定より手取りが多いこともあれば、賞与が少ないこともあるでしょう。在宅勤務が増えて外食や交通関連の支出が減る一方、自宅の光熱費が増える場合もあります。

そこで「予測が外れた」と考える必要はありません。未来を完全に当てるためのシミュレーションではないからです。

初年度の年間手取り、通常年の年間手取り、実際の年間通常支出、最新の教育費や住宅修繕予定、現在の金融資産を実績へ更新します。

想定より家計が厳しければ、教育費が大きくなる前に調整できます。

反対に予想より余裕があれば、「年収を下げる転職をして本当に大丈夫だったのか」という不安も、現実の数字を確認するたびに薄れていくでしょう。

状況を確認し、自分の家計を振り返り、弱いところを一つ直し、その後の変化を確かめる。この繰り返しのほうが、一度だけ完璧な計画を作ろうとするより現実的です。

状況を確認し、自分の家計を振り返り、弱いところを一つ直し、その後の変化を確かめる。 状況を確認し 自分の家計を 振り返り 弱いところを一つ直し その後の変化を 確かめる

転職と年収減に関するよくある疑問

転職で年収が100万円下がると生活はどのくらい変わる?

額面年収が100万円下がっても、手取りが100万円そのまま減るとは限りません。

この記事の簡易モデルでは、夫の年収が600万円から500万円へ下がった場合、世帯手取りの減少を年間約70万円、月平均約5万8000円と置いています。

ただし、これは一般的な手取り額ではありません。

自分の給与明細や賞与明細から現在の年間手取りを確認し、転職初年度と2年目以降の想定手取りとの差を計算したうえで、年間通常支出と比較すると生活への影響を判断しやすくなります。

年収が下がっても転職したほうがよい場合はある?

あり得ます。

仕事内容への納得感、労働時間の改善、健康への影響、通勤時間、将来身につけられる経験など、転職によって得られるものは給与だけでは測れません。

ただし、やりたい仕事だから家計を考えなくてよいという意味でもありません。

家計が受け入れられる年収減の範囲を確認し、その範囲の中で転職によって得たいものを考えます。

住宅ローン返済中でも転職できる?

住宅ローン返済中であることだけを理由に、転職できないとは限りません。

転職後の手取りから住宅ローンを返済し、生活費や教育費を支えても一定の金融資産を残せるか確認します。

住宅ローンや固定資産税は年間の通常支出へ、将来の大規模修繕や設備交換は年ごとに変動する支出へ分けると、家計表を作りやすくなります。

新規借入れや借り換えを予定している場合は審査条件が金融機関や商品によって異なるため、利用予定先への確認も必要です。

子どもの教育費がかかる時期の転職で注意することは?

現在の教育費ではなく、進学が重なる時期まで確認します。

子どもが複数いる家庭では、高校や大学への進学時期が近くなる場合があります。

公立中心、私立を含む、自宅外通学を含むなど複数のケースを作り、それぞれで金融資産がどこまで減るかを見ると判断しやすくなります。

転職先が決まる前に退職するなら貯金はいくら必要?

すべての家庭に共通する金額はありません。

空白期間に失う手取り、通常の生活支出、住民税、健康保険や年金、受給要件を満たした場合の雇用保険などによって必要額は変わります。

仕事を探さず純粋に休養する期間については、基本手当を受け取れる前提で計算しないことも重要です。

まず6か月のケースを作り、その期間を過ぎても生活防衛資金を残せるか確認してみましょう。

転職前の家計シミュレーションでは何年先まで見る?

まず5年から10年程度を確認すると、転職による家計変化を把握しやすくなります。

特に子どもがいる家庭では、教育費が大きくなる時期まで含めてください。

遠い将来の残高を一円単位で信じるのではなく、いつ金融資産が最も少なくなり、その原因が何なのかを見ることが重要です。

まとめ 年収減の許容ラインは自分の家計から決める

転職で年収が下がるとき、額面年収の差だけを見て「転職できない」と決める必要はありません。

まず確認したいのは、転職初年度の年間手取り、2年目以降の年間手取り、年間の通常支出、今後5年から10年で変動する支出、転職時点で使える金融資産という5つの数字です。

年間の通常支出には、食費、水道光熱費、日用品、住宅ローンや家賃、保険、通信費、毎年の固定資産税など、現在の生活を続けるために必要な支出を入れます。

一方、子どもの進学による教育費の変化や住宅の大規模修繕など、特定の年に金額が大きく変わるものは別に時系列へ置きます。

そのうえで年収50万円減、100万円減、200万円減を比較し、教育費が増える年まで金融資産がどう動くのかを見ます。

なお、この記事のモデルでは比較を単純にするため、転職初年度も2年目以降と同じ手取りを使っています。実際に自分で計算するときは、初年度の賞与や住民税などを踏まえ、最初の1年だけ別に試算してください。

さらに現職継続、即時転職、空白期間を設けた転職という3つの未来を並べれば、自分の家計が受け入れられる条件が具体的になってくるでしょう。

知りたいのは、「転職するべきか」という一つの正解ではありません。

自分の家計では、どこまでの年収減なら暮らしや教育費を守れるのか。空白期間を設けるなら、どの程度の金融資産を残しておきたいのか。そして、その金銭的な差を受け入れてでも得たい仕事や時間があるのかを考えます。

まとめ 年収減の許容ラインは自分の家計から決める まとめ 年収減の許容ラインは自分の家計から決める どこまでの年収減なら暮らしや教育費を守れるのか。 空白期間を設けるなら、どの程度の金融資産を 残しておきたいのか。 その金銭的な差を受け入れてでも 得たい仕事や時間があるのかを考えます。

厳しい結果が出ても、転職を諦める答えとは限りません。

希望年収を上げる、転職前の現預金を増やす、転職時期を変えるなど、一つの条件を動かせば新しい選択肢が見えてくることがあります。

年収が下がることへの不安を完全になくすのは難しいでしょう。

それでも、何が怖いのかわからない状態と、「この条件までは家計が耐えられるが、ここを超えると厳しい」とわかっている状態では、転職への向き合い方が変わります。

家計の数字は、人生の答えを決めるためのものではありません。

家族の暮らしを守りながら、自分が納得できる仕事を選ぶための判断材料として使うことが大切です。

参考資料

国税庁 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引

東京都主税局 個人住民税と特別徴収について

文部科学省 令和5年度 子供の学習費調査

日本学生支援機構 令和6年度学生生活調査・高等専門学校生生活調査・専門学校生生活調査

協会けんぽ 任意継続

日本年金機構 就職 転職 退職

厚生労働省 基本手当について

厚生労働省 教育訓練等を受ける場合の給付制限解除

フラット35 ご利用条件

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