マンション管理士

マンションの修繕積立金が不足する原因と対策 適正額と長期資金計画の見直し方

「このままでは将来の修繕積立金が足りません」

理事会で初めてそう説明されたとき、すぐに値上げの必要性まで納得できる人は多くありません。毎月きちんと支払ってきたのに、なぜ不足するのか。管理会社が作った計画に問題があったのか。それとも過去の理事会が必要な見直しをしなかったのか。突然大きな不足額を見せられると、冷静に原因を整理するよりも先に「誰かが間違えたのではないか」という気持ちが出てくることがあります。

しかも修繕積立金の問題は、自分だけで決められる家計の話ではありません。建物全体を維持するためのお金を、多くの区分所有者が負担しながら決めていく問題です。必要性が分かっていても値上げとなれば生活への影響が気になりますし、「どうして今なのか」「もっと別の方法はないのか」という疑問も生まれるでしょう。

だからこそ、修繕積立金が不足すると分かったときに、最初から値上げ額を決める必要はありません。

まず現在地を確認し、不足した原因と不足する時期を把握します。そのうえで長期収支を一次試算し、建物の状態や工事内容、工事時期、発注条件を確認して支出計画を見直します。再び長期収支を計算し、そこで見えてきた不足額を基礎として、修繕積立金の増額、一時金、借入れなどを比較していく流れが基本です。

ただし、次の大規模修繕工事まで時間がなく、資金不足が直近に迫っている場合は事情が異なります。原因分析や工事条件の検証が終わるまで資金対策を止めるのではなく、必要な検証と並行して増額、一時金、借入れなどの資金手当も検討しなければならない場合があります。

大切なのは、値上げを先にするか後にするかという形式ではありません。不足額だけでなく不足する時期まで把握し、残された時間に応じて進め方を変えることです。

本稿では、修繕積立金不足を初めて知った管理組合の理事を主な読者として、何をどの順番で確認すればよいのかを整理します。制度に関する記述は2026年8月時点を基準としています。

TABLE OF CONTENTS
目次

修繕積立金不足を知ったときに最初に確認すること

長期修繕計画を開いてみると、10年後の残高がマイナスになっている。

そんな資料を初めて見れば、「これまで何をしてきたのだろう」と感じるかもしれません。大規模修繕工事も行い、修繕積立金も毎月徴収しているのに、将来数千万円単位で不足すると説明されれば、どこかに大きな失敗があったように見えるでしょう。

しかし、この段階で過去の管理を失敗と決めつけるのは早すぎます。

以前の長期修繕計画では1億5000万円程度と想定していた大規模修繕工事が、現在の概算では2億円近く必要になっているかもしれません。さらに、数年前に予定されていた修繕積立金の増額が見送られ、その間に給排水設備やエレベーターなどの更新費用も増えていれば、収入と支出の両側で少しずつ差が広がります。

一つ一つのずれは小さく見えても、それが10年、20年と積み重なると大きな不足になります。

そこで最初に確認したいのが、長期修繕計画上では現在いくら残っている予定だったのか、実際にはいくら残っているのか、その差がなぜ生じたのかという三点です。

ここを飛ばして「いくら値上げするか」から議論を始めると、区分所有者から見れば原因が分からないまま負担だけを求められているように感じられます。

現在地を共有することは単なる会計確認ではありません。後の合意形成を支える最初の作業でもあります。

修繕積立金不足の原因を分解する

修繕積立金が不足していると分かったとき、「積立額が安かったからだ」と考えるのは分かりやすい説明です。

ただし、実際にはそれだけではない場合があります。

現在の積立額そのものが低いケースもあれば、長期修繕計画を作成した当時より工事費が上昇したことで不足しているケースもあります。予定外の補修工事が続いたことで積立金を多く取り崩していたかもしれませんし、駐車場使用料などから見込んでいた収入が想定より減少している可能性もあるでしょう。

修繕周期についても確認が必要です。計画上は一定の時期に全面的な工事を予定していても、現在の劣化状態を診断すると、一部は少し先へ延ばせることがあります。その一方で、まだ先だと思っていた設備の劣化が進み、予定より早く更新したほうがよい場合もあります。

現実には、こうした要因が複数重なっていることも珍しくありません。

たとえば積立額は当初の計画どおり徴収してきたものの、工事費が上昇し、同時に設備更新費も増えているのであれば、「過去の管理組合が積立てを怠った」と単純には評価できません。

反対に、長期修繕計画では5年前に増額する予定だったにもかかわらず、住民負担への懸念から何度も延期してきたのであれば、収入側にも原因があります。

増額を見送った理事会も、何も考えずに先送りしたとは限らないでしょう。高齢世帯から負担増への不安が出たのかもしれませんし、大規模修繕工事が終わった直後で「しばらくは大丈夫ではないか」という空気があったという可能性もあります。

当時は合理的に見えた判断でも、工事価格や建物状態が変われば現在の条件には合わなくなります。

原因を分けるのは責任追及のためではありません。今の条件に合わなくなった部分を見つけ、必要な対策を選ぶためです。

修繕積立金の適正額は一つの数字では決まらない

原因を整理すると、次に気になるのが「では毎月いくら積み立てればよいのか」という問題です。

住民へ説明する際にも、最終的には月額が家計へ直接影響するため、ここへ関心が集まりやすくなります。

国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」では、機械式駐車場に係る修繕工事費を除いた計画期間全体の平均額について、建物の階数や延床面積などに応じた事例データが示されています。

建物条件 平均値 事例の3分の2が含まれる幅
20階未満 延床5,000㎡未満 335円/㎡・月 235〜430円/㎡・月
20階未満 延床5,000㎡以上10,000㎡未満 252円/㎡・月 170〜320円/㎡・月
20階未満 延床10,000㎡以上20,000㎡未満 271円/㎡・月 200〜330円/㎡・月
20階未満 延床20,000㎡以上 255円/㎡・月 190〜325円/㎡・月
20階以上 338円/㎡・月 240〜410円/㎡・月

ここでいう「事例の3分の2が含まれる幅」は、適正額の下限と上限を示したものではありません。国土交通省が収集した事例のうち、中央寄りの3分の2が含まれていた範囲です。

たとえば専有面積70㎡の住戸について、335円/㎡・月という平均値を単純に当てはめれば、月額は約2万3450円になります。

この数字を見ると、「では2万3450円にすればよいのか」と考えたくなるでしょう。

しかし、そう単純ではありません。

国土交通省が示しているのは、計画期間全体における修繕積立金の平均額を検討するための参考値です。現在の月額がこの数字を超えていれば将来まで安全という意味ではなく、この幅から外れているだけで直ちに不適切と判断できるものでもありません。

同じ規模のマンションでも、エレベーターの台数、機械式駐車場の有無、外壁仕様、設備構成、建物形状などによって必要費用は変わります。

だから修繕積立金の適正額には二段階の考え方が必要です。

まず公的な事例データと比較して現在地を確認し、その後、自分たちの長期修繕計画と将来収支から必要額を判断します。

70㎡だから月2万3450円が正解なのではありません。平均値は、自分たちのマンションを詳しく調べるための入口です。

長期修繕計画と資金計画を同じ時間軸で見る

修繕積立金の適正額を考えるとき、長期修繕計画を別の資料として扱うことはできません。

長期修繕計画は、将来どの時期にどの工事を実施し、そのためにどれほど費用が必要になるのかを整理した資金計画の土台だからです。

ここで注意したいのが、「次の大規模修繕工事を実施できれば大丈夫」という考え方です。

仮に15年後に予定する大規模修繕工事を無事に実施できても、その直後に修繕積立金残高がほぼなくなり、さらに数年後には給排水設備やエレベーター更新が控えているなら、資金問題はまだ終わっていません。

大規模修繕だけではなく、外壁、防水、給排水設備、消防設備、エレベーター、機械式駐車場などの更新時期を同じ時間軸へ置きます。

こうして見ると、遠くに見えていた設備更新が大規模修繕の直後に集中していることもあります。その瞬間に「こんなに続けてお金が必要なのか」と驚くかもしれません。

しかし、それを今知ることには意味があります。

10年以上先であれば、毎月少しずつ準備する時間があります。工事直前まで見えなければ、選択肢は大きな一時金や借入れなどに限られやすくなるでしょう。

長期計画を見る意味は未来を正確に当てることではありません。将来の負担を早く発見し、選択肢が残っているうちに対応することです。

なお、既存マンションでは調査や診断の結果などを踏まえ、長期修繕計画を5年程度ごとに見直していくことが一つの目安とされています。

一度作った計画を30年間固定するのではなく、現実とのずれを少しずつ修正します。

長期収支を一次試算して不足時期を見つける

長期修繕計画と現在の資金状況が整理できたら、現時点の工事計画を前提として年度ごとの収支を一次試算します。

借入れや一時金を含めない単純な構造で考えると、第t年度末の修繕積立金残高B_tは次のように表せます。

B_t = B_{t-1} + R_t + P_t − C_t

B_{t-1}は前年度末残高、R_tは通常の修繕積立金収入、P_tは駐車場使用料などから修繕積立金会計へ繰り入れる収入、C_tはその年度に予定する修繕工事費です。

もちろん実際の収支は、これほど単純ではありません。

修繕積立基金や一時金が入る年度もあれば、専用使用料などからの繰入れや運用益が生じることもあります。借入れを利用すれば、その年には資金が入りますが、その後は返済が続きます。

そのため実務では、たとえば次のように拡張できます。

B_t = B_{t-1} + R_t + F_t + P_t + I_t + L_t − C_t − A_t

F_tは修繕積立基金や一時金など、I_tは運用益、L_tは借入れによる資金流入、A_tは借入金の償還などです。

数式が並ぶと、それだけで難しい資料に見えるかもしれません。しかし、式を複雑にすること自体が目的ではありません。

理事会で「どの年度に何が入り、何にいくら使い、その結果いくら残るのか」を追えるようにすることが目的です。

工事費上昇は条件付きの試算として扱う

長期資金計画で悩ましいのが、20年後や30年後の工事価格です。

現在の見積額がそのまま続くとは限りませんが、将来いくらになるかを正確に知ることもできません。

そこで現在価格ベースの工事費をC^0_tとし、一定の工事費上昇率iを仮定するなら、

C_t = C^0_t ×(1+i)^t

のような形で将来工事費を試算できます。

仮に年2%を置いた場合でも、「工事費は毎年2%上がる」と断定しているわけではありません。

年2%上昇するという条件を置いた場合に、将来工事費がいくらになるかを試算しているだけです。

そこで工事費上昇を見込まないケース、一定程度上昇するケース、より厳しいケースなどを比較します。

工事費上昇は条件付きの試算として扱う 現在価格ベースの工事費 工事費上昇を 見込まないケース 一定程度 上昇するケース より厳しい ケース 現在の資金計画が持ちこたえられるか
シミュレーションの目的は未来を言い当てることではありません。条件が変わったときでも、現在の資金計画が持ちこたえられるかを確かめることです。

その結果、「この程度まで工事費が上昇すると現在の積立計画では不足する」という境界が見えてきます。

シミュレーションの目的は未来を言い当てることではありません。条件が変わったときでも、現在の資金計画が持ちこたえられるかを確かめることです。

一次試算では不足額と不足時期をセットで見る

30年間の総収入と総支出だけを比較しても、途中の資金不足を見落とすことがあります。

仮に30年間の収入総額が6億円で、支出総額も6億円だったとします。数字だけなら収支は均衡しています。

ところが15年目に大規模修繕工事が集中し、その時点の残高がマイナス5000万円になれば、工事費を支払うことはできません。

そこで年度別残高を確認します。

最も残高が低くなるのは何年後なのか。そのときいくら不足するのか。その後にはどのような工事が控えているのかを見ます。

この段階で出てくる不足額は、まだ最終的な数字ではありません。現在の工事計画をそのまま置いた一次試算だからです。

同時に重要なのが、不足する時期です。

不足が10年後なら、建物診断や工事条件を検証しながら時間をかけて対策できます。一方、半年後や1年後に大きな支払いが迫っているなら、原因分析だけを続けている余裕はありません。

技術的な検証と同時に、修繕積立金の増額、一時金、借入れなどの資金調達についても並行して検討する必要があります。

同じ5000万円不足でも、10年後と半年後では意味がまったく違います。

不足が10年後 半年後や1年後に大きな支払いが迫っている
建物診断や工事条件を検証しながら時間をかけて対策できます。 原因分析だけを続けている余裕はありません。

「足りない」という漠然とした不安も、不足額と不足時期に分けることで、ようやく具体的な問題として扱えるようになります。

支出条件を検証して長期収支を更新する

時間的な余裕がある場合、資金対策を確定する前に工事費側を確認します。

これは値上げを避けるために必要な工事を削るという意味ではありません。現在の計画が、建物の状態に対して本当に適切なのかを確かめるためです。

たとえば長期修繕計画では来年全面改修を予定していても、建物診断の結果、一部の工事項目は3年後まで待てるという判断になるかもしれません。

反対に、計画ではまだ先だった給排水設備の劣化が進み、工事を前倒ししたほうがよい場合もあります。

仕様や数量についても確認します。過剰な仕様になっていないかを見る一方、安さだけを優先した結果、耐久性が不足して短期間で再施工になることも避けなければなりません。

今回の工事費だけを安くすることと、30年間の修繕費を抑えることは同じではありません。

建物側の条件を見直したら、その内容を長期収支へ戻してもう一度計算します。

すると一次試算では5000万円だった不足が3000万円へ減るかもしれませんし、反対に追加工事が必要と分かり6000万円へ増える場合もあります。

この再試算を経て、対策を比較するための不足額が見えてきます。

工事見積は同じ条件で比較する

複数社から見積書を取ったとしても、それだけで適正価格が分かるわけではありません。

一社は高耐久仕様を採用し、別の会社は一般仕様、さらに別の会社は一部工事を除外しているのであれば、総額だけを比べても判断できないでしょう。

まず工事範囲、仕様、数量などの条件をそろえます。そのうえで価格、施工体制、品質管理、提案内容などを比較します。

大規模修繕工事では金額が大きいため、数%の差でも管理組合の資金へ大きな影響が出ます。それだけに「一番安い会社だから」という理由で決めたくなる気持ちも出てきます。

しかし、必要なのは単純な値下げではありません。

必要な工事を同じ条件で比較し、適正な価格と品質で発注することです。

発注方式は名称より実際の運用を見る

設計監理方式だから必ず安心で、責任施工方式なら必ず安いという関係ではありません。

設計監理方式では、施工会社とは別の専門家が設計や工事監理を担うことで、異なる立場から工事内容や品質を確認できる利点があります。

ただし、施工会社の選定方法が不透明だったり、設計コンサルタントの中立性に疑問が生じたりすれば、その仕組みを十分に生かせない可能性があります。

そこで、誰が仕様を決めたのか、評価基準はいつ決められたのか、候補会社へ同じ条件が提示されたのかなどを確認します。

「何となく怪しい」という感覚だけで不正を断定することも避けなければなりません。確認できている事実と、まだ確認できていない疑問を分けて整理します。

疑問が一部に限られている場合には、工事数量や仕様、見積内容だけを第三者へ確認してもらう方法もあります。

全部をやり直すか、そのまま進めるかという二択にする必要はありません。

支出検証後の不足額を基礎に資金対策を比較する

工事内容や時期を検証し、長期収支を更新したら、そこで見えた不足額と不足時期を基礎に具体的な資金対策を比較します。

支出条件を検証して長期収支を更新する 年度ごとの収支を一次試算 不足額と不足時期 一次試算 建物の状態に対して本当に適切なのか 工事内容や時期を検証 長期収支を更新 対策を比較するための不足額
工事内容や時期を検証し、長期収支を更新したら、そこで見えた不足額と不足時期を基礎に具体的な資金対策を比較します。

現在の修繕積立金額を維持するケース、早い段階から増額するケース、数年間かけて段階的に増額するケース、借入れや一時金を組み合わせるケースなどを同じ収支表で確認します。

ここで議論したいのは、単なる値上げの賛否ではありません。

将来必要になる費用を、現在と将来の区分所有者がどのような時期に負担するのかです。

均等積立方式で将来負担を平準化する

国土交通省は、将来にわたって安定的に修繕積立金を確保する観点から、均等積立方式が望ましいという考え方を示しています。

均等積立方式の意味は、単に毎月同じ金額を徴収することだけではありません。

現在の区分所有者の負担を低く抑えた結果、将来の区分所有者だけに大幅な増額を残す状態をできるだけ避けることにあります。

ただし、現在の修繕積立金額が低いマンションでは、均等積立方式へ一気に移行すると現在の負担が急増することがあります。

理事会から見れば必要な増額でも、各家庭から見れば生活費の増加です。

「必要なのは分かった。でも来月からこの金額は厳しい」

そんな声が出ることを、理解不足として片づけるべきではありません。

必要水準を確認したうえで、どの程度の期間をかけて近づけるのかを考えることも実務の一部です。

段階増額積立方式では将来の実現可能性を見る

段階増額積立方式は、計画当初の負担を比較的低く設定し、その後段階的に修繕積立金を増額していく方法です。

当初の負担感を抑えられる一方で、将来予定した増額を実際に実行できることが前提になります。

国土交通省は2024年6月のガイドライン改定で、均等積立方式による月額を基準額とした場合、段階増額積立方式の初期額を基準額の0.6倍以上、最終額を1.1倍以内とする考え方を示しています。

0.6倍から1.1倍まで増加した場合、単純計算では約1.83倍です。

ただし、これは法律上の値上げ上限ではありません。将来に過度な負担を先送りしないための考え方です。

現在の金額だけではなく、5年後、10年後、20年後にどの程度の負担になる計画なのかを確認します。

将来の大幅な増額を前提としているのに、「そのときになったら考える」という状態になっているなら、現在の時点で実現可能性を見直す必要があります。

一時金は通常の資金計画と分けて考える

工事までの時間が短く、月額を増額しても資金が間に合わない場合には、一時金が現実的な選択肢になることがあります。

一時金には短期間で資金を確保できる利点がありますが、一戸当たり数十万円となれば、高齢世帯や教育費が重なる家庭などにとって簡単な負担ではありません。

そのため、将来不足するたびに一時金を徴収することを通常の資金計画にはしないほうがよいでしょう。

2027年3月31日までの現行の管理計画認定基準でも、長期修繕計画において将来の一時的な修繕積立金徴収を予定していないことが要件の一つになっています。

これは一時金という方法そのものを否定しているわけではありません。ただし、認定を視野に入れるのであれば、将来計画を一時金頼みにしないことが重要です。

借入れは負担時期を調整する手段として考える

借入れに抵抗を感じる住民もいるでしょう。

「マンションまで借金をするのか」と聞けば、将来への不安が大きくなるのも自然です。

一方、借入れを避けるためだけに必要な修繕を先送りし、雨漏りや外壁劣化が進んだ結果、後から修繕範囲が広がる可能性もあります。

借入れは資金不足を消す方法ではありません。必要な工事費を負担する時期を調整する方法です。

そのため借入額だけを見るのではなく、返済しながら次の工事へ向けた修繕積立金を積み上げられるかを確認します。

2027年3月31日までの現行の管理計画認定基準では、長期修繕計画の最終年度に借入金残高がないことも要件の一つです。

目の前の工事を実施できるかだけではなく、返済後の資金計画まで見ます。

駐車場収入は変化する前提でも試算する

駐車場使用料などを修繕積立金会計へ繰り入れているマンションでは、その収入も重要な財源になります。

ただし、現在の稼働率が高いからといって、同じ収入が30年間続くとは限りません。

契約台数が減れば収入も低下しますし、機械式駐車場であれば設備そのものにも保守や更新費用が必要になります。

今は満車だから大丈夫と思っていたのに、10年後には空きが増えているという可能性もあります。

そこで現在の収入をそのまま使ったケースだけではなく、駐車場稼働率が低下したケースも確認します。

将来収入が減った場合でも、長期修繕計画を維持できるかを見ることが重要です。

改定案では値上げ額より負担時期を比較する

修繕積立金の改定案を作るとき、住民が最初に見るのは「月いくら増えるのか」という数字でしょう。

月5000円なのか、8000円なのか、1万円なのか。その違いは家計へ直接影響します。

しかし、管理組合として比較したいのは月額だけではありません。

早めに積立額を増やせば現在の負担は増えますが、将来の一時金や急激な値上げを抑えられる可能性があります。

反対に、現在の負担を小さくして増額を先送りすれば、その分だけ将来の負担が大きくなるかもしれません。

管理組合が選んでいるのは、単なる金額ではありません。

必要な修繕費をいつ負担するのかという時間配分です。

早めに積立額を増やせば 増額を先送りすれば
現在の負担は増えますが、将来の一時金や急激な値上げを抑えられる可能性があります。 現在の負担を小さくして増額を先送りすれば、その分だけ将来の負担が大きくなるかもしれません。

この視点を共有できると、値上げの議論は少し変わります。

合意形成では住民が不安になる理由まで扱う

理事会では長期修繕計画や収支表を何度も見ているため、必要性がだんだん当たり前に感じられてきます。

ところが、総会資料で初めて修繕積立金不足を知った区分所有者には、「なぜ突然こんな話が出てきたのか」と感じられることがあります。

年金生活なのでこれ以上の負担増は厳しい。

子どもの進学時期と重なっている。

あと何年住むか分からないのに、なぜ今払うのか。

こうした気持ちは、建物管理への理解がないから生まれるわけではありません。

管理組合にとって修繕積立金は建物を守る資金ですが、それぞれの家庭から見れば毎月の生活費です。

理事会では「月8000円」という数字でも、ある家庭にとっては年間9万6000円の負担増として見えます。数字の見え方が違う以上、必要性だけを繰り返しても不安は消えません。

だから最初に結論だけを伝えるのではなく、今の積立額を維持した場合には何年後にいくら不足するのか、早めに増額すればどうなるのか、借入れを利用すると現在と将来の負担がどう変わるのかを示します。

不安を否定するのではなく、比較できる材料へ変えていくことが合意形成の出発点です。

管理組合の実行力は担当と期限で確認する

資金不足について「今後検討する」と議事録へ書かれていても、翌年も同じ文章が残っているだけでは状況は変わりません。

実際に前へ進めるためには、誰が長期収支を更新するのか、いつまでに複数案を比較するのか、住民説明会をいつ行うのか、どの総会へ議案を提出するのかまで具体化します。

問題があること自体を過度に恐れる必要はありません。

建物が年を重ねれば設備は劣化し、工事費も変化します。

そのときに問題を発見し、期限を決め、意思決定して修正できるかどうかが重要です。

管理組合の力は、修繕積立金口座の残高だけには表れません。問題を前へ動かす力にも表れます。

実行後は計画と実績の差を確認する

総会で修繕積立金の改定が可決されると、それまで続いていた議論が終わり、ようやく肩の力が抜けるでしょう。

しかし、長期資金計画は総会で可決された瞬間に完成するものではありません。

改定した修繕積立金が予定どおり徴収されているか、滞納状況に変化がないか、実際の工事費が計画額とどれほど違ったかを確認します。

駐車場収入が減少した場合や、予定外の補修工事が発生した場合も長期収支へ反映します。

計画と現実が完全に一致することはほとんどありません。

重要なのは、差が発生しないことではなく、差を小さいうちに発見して修正することです。

毎年少しずつ確認することで、数年後に突然大きな不足が見つかるリスクを抑えやすくなります。

管理計画認定と融資制度は適用時期を確認する

管理計画認定制度や住宅金融支援機構の融資は、長期資金計画を支える制度として活用できる場合があります。

ただし、制度を利用すること自体を目的にするのではなく、自分たちの資金計画に合うかを確認することが重要です。

2027年3月31日までに適用される現行の管理計画認定基準では、長期修繕計画について30年以上の計画期間があり、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれていること、将来の一時的な修繕積立金徴収を予定していないこと、計画最終年度に借入金残高がないことなどが基準に含まれています。

一方、2027年4月1日から管理計画認定制度の見直しが施行され、同日以降に地方公共団体へ申請する場合には見直し後の認定基準が適用されます。見直し後の基準を定める改正省令や告示は2026年7月31日に公布されています。

管理組合の管理者等が2027年4月1日以降に申請する場合、長期資金計画との関係で特に確認しておきたい変更があります。

長期修繕計画については、その作成または見直しが原則として申請日前5年以内であることが求められます。また、計画期間を30年以上とし、申請日から計画期間終了までの間に大規模修繕工事が2回以上含まれることが基準となります。

さらに、この記事の主題と特に関係が深いのが、計画期間全体における修繕積立金の総額が、長期修繕計画で見込まれる修繕工事費の総額を下回らないことという基準です。

この考え方は、修繕積立金の現在月額だけを見ても十分ではなく、長期修繕計画と収支を一体で確認する必要があるという本稿の考え方ともつながります。

一時的な修繕積立金徴収を予定しないことや、計画最終年度に借入金残高を残さないことについても、見直し後の基準に含まれます。

適用時期 長期修繕計画に関する基準
2027年3月31日までに適用される現行の管理計画認定基準 長期修繕計画について30年以上の計画期間があり、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれていること、将来の一時的な修繕積立金徴収を予定していないこと、計画最終年度に借入金残高がないことなどが基準に含まれています。
2027年4月1日以降に地方公共団体へ申請する場合 長期修繕計画については、その作成または見直しが原則として申請日前5年以内であることが求められます。また、計画期間を30年以上とし、申請日から計画期間終了までの間に大規模修繕工事が2回以上含まれることが基準となります。
計画期間全体における修繕積立金の総額が、長期修繕計画で見込まれる修繕工事費の総額を下回らないこと
一時的な修繕積立金徴収を予定しないことや、計画最終年度に借入金残高を残さないことについても、見直し後の基準に含まれます。

そのため、認定を検討する場合には「以前確認した基準では大丈夫だった」と考えず、実際の申請日が2027年4月1日より前なのか後なのかを確認したうえで、適用される基準に長期修繕計画を照合する必要があります。

住宅金融支援機構の2026年4月版「マンションすまい・る融資」では、耐震改修、浸水対策、省エネルギー対策のいずれかに該当する対象工事、マンションすまい・る債の積立て、管理計画認定の取得という三つの区分について、それぞれ年0.2%の金利引下げが示されています。

三つの区分は併用でき、最大年0.6%の引下げとなります。融資金利の下限は年0.1%です。

三つの区分 金利引下げ
耐震改修、浸水対策、省エネルギー対策のいずれかに該当する対象工事 年0.2%
マンションすまい・る債の積立て 年0.2%
管理計画認定の取得 年0.2%
三つの区分は併用でき 最大年0.6%
融資金利の下限 年0.1%

ただし、融資金利そのものは毎月見直されます。

実際に利用を検討するときは、その時点の金利と利用条件を確認し、最新条件で返済計画を作ります。

修繕積立金の適正化は管理状態を判断する材料になる

修繕積立金を適正化したからといって、マンションの売却価格が必ず上昇するとはいえません。

不動産価格は立地や需給、住戸条件など多くの要因から影響を受けます。

一方、長期修繕計画が定期的に見直され、必要な資金が準備され、問題が生じたときに管理組合が対応できる状態は、マンションの管理状況を見る重要な材料になります。

目指すのは、単純に「修繕積立金残高が多いマンション」ではありません。

必要な工事を必要な時期に行い、その次の工事へも資金をつなげ、状況が変われば計画を修正できる状態です。

修繕積立金は、その仕組みを支えるための資金です。

マンション管理士が長期資金計画を支援する意味

マンション管理士が修繕積立金の見直しを支援する場合、目的は積立額を高くすることではありません。

現在残高と予定残高を比較し、不足原因と不足時期を整理して長期収支を一次試算します。その後、建物状態や工事条件を確認して支出計画を修正し、もう一度長期収支を計算します。

そこで見えてきた不足額を基礎として、均等積立方式への移行、段階増額方式の修正、一時金、借入れ、駐車場収入などを比較します。

資金不足が直近に迫っている場合には、この手順を順番に終えるまで待つのではなく、必要な検証と資金手当を並行して進めます。

そして最終的には、専門家だけが理解できる収支表を作ることが目的ではありません。

なぜ今見直す必要があるのか。何もしなければいつ資金が不足するのか。なぜこの金額が必要なのか。この案を選んだとき、10年後にはどうなるのか。

住民が抱くこうした疑問へ答えられる材料に変えていきます。

専門家が代わりに結論を決めるのではありません。

管理組合が自分たちで判断できる状態をつくることに意味があります。

マンション管理士が長期資金計画を支援する意味 現在残高と予定残高を比較 不足原因と不足時期を整理 長期収支を一次試算 建物状態や工事条件を確認して 支出計画を修正 もう一度長期収支を計算 均等積立方式への移行、段階増額方式の修正、 一時金、借入れ、駐車場収入などを比較
管理組合が自分たちで判断できる状態をつくることに意味があります。

修繕積立金不足を知ったら小さな確認から始める

ここまで読むと、長期収支や建物診断、工事費、借入れまで考えなければならず、「理事会だけでは大変すぎる」と感じるかもしれません。

しかし、最初からすべてを行う必要はありません。

現在の長期修繕計画を開き、今の年度に予定されていた修繕積立金残高を確認してください。

次に、実際の修繕積立金会計の残高と比べます。そして次の大きな工事がいつ予定されているかを確認します。

この三つだけでも、現在どの程度の時間的余裕があるのかが少し見えてきます。

差が大きければ原因を探し、次の工事まで時間があれば順番に検証します。反対に資金不足が目前なら、原因分析と同時に資金確保の検討も始めます。

小さく始めるとは、問題を軽く見ることではありません。

大きな問題を、管理組合が実際に動ける大きさまで分けることです。

まとめ

修繕積立金が不足すると分かったとき、すぐに値上げ額を決める必要はありません。

まず、なぜ不足したのかを整理し、現在の積立水準を公的な事例データとも比較します。そのうえで長期修繕計画を確認し、年度別の長期収支から不足額と不足時期を一次試算します。

時間的な余裕があれば、建物状態や工事内容、仕様、工事時期、発注条件を検証して支出計画を見直し、長期収支を再計算します。

資金不足が直近に迫っている場合には、これらの検証と並行して、一時金や借入れなどの資金手当を検討します。

そこで見えてきた条件を基礎として、均等積立方式、段階増額方式、一時金、借入れなどを比較し、住民へ理由と将来への影響を説明したうえで管理組合として決定します。

そして実行後も、計画と実績との差を確認し続けます。

国土交通省が示す修繕積立金の㎡単価は、適正額を考えるための重要な参考情報です。

ただし、「事例の3分の2が含まれる幅」は推奨される適正額の上下限ではありません。

自分たちのマンションで、いつ何の工事が必要になり、その時点までにどれだけの資金を準備しておかなければならないのか。

そこまで確認したとき、初めて「このマンションではいくら積み立てる必要があるのか」という問いに答えられるようになります。

参考資料

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-マンション管理士