マンション管理士

マンション理事会が機能不全になったら? 立て直し・正常化までの手順をマンション管理士が解説

理事会が何カ月も開かれていない。理事長へ確認しても話が進まず、ほかの役員に尋ねると「詳しいことは分かりません」と返ってくる。このような状態が続けば、「自分のマンションは本当に大丈夫なのだろうか」と不安になるのは自然でしょう。

一方で、理事長の側も何も考えていないとは限りません。管理会社からの連絡、住民からの相談、修繕の見積り、会計資料の確認などが一人へ集中し、「何から処理すればよいのか分からない」と疲れている可能性があります。ほかの役員についても、関心がないというより、専門的な資料を前にして「自分が判断して間違えたらどうしよう」と動けなくなっている場合があります。

マンション理事会の機能不全を立て直すために必要なのは、誰か一人を責めることではありません。現在の役員と管理者を確認し、管理規約と議事録を読み、未処理案件と財務状況を整理したうえで、途中で止まった意思決定を一つずつつなぎ直すことです。

この記事では、まず理事会が機能不全に陥っているかを確認し、最初に見るべき3つの資料と正常化までの6ステップを解説します。その後で、なぜ理事会が止まるのか、放置すると何が起こり得るのか、理事長不在や役員不足ではどのように考えるのか、管理会社やマンション管理士とどう役割を分けるのかまで詳しく見ていきます。

2026年8月時点では、2025年改正の区分所有法の主要部分が2026年4月1日に施行されており、マンション標準管理規約も2025年10月17日に改正されています。古い解説だけを前提にするのではなく、現在有効な法令と自分のマンションの管理規約を確認しながら進めることが重要です。

TABLE OF CONTENTS
目次

マンション理事会の機能不全とはどんな状態か

「理事会の機能不全」は、区分所有法に定義された法律用語ではありません。一般には、管理規約などによって予定されている業務執行や意思決定、役員間の確認や監督が十分に行われず、管理組合として必要な判断を継続できなくなっている状態を指して使われます。

ここで大切なのは、理事会を何回開催したかだけで判断しないことです。

区分所有法には、一般的な理事会について「毎月開催しなければならない」といった全国一律の開催頻度が定められているわけではありません。そのため、三カ月ほど理事会を開いていないという事実だけで、直ちに法律違反または機能不全と断定することは適切ではないでしょう。

一方で、毎月理事会を開催していれば安心とも限りません。管理会社から提出された資料を十分に確認せず、工事や契約に関する提案をほぼそのまま承認しているのであれば、会議自体は開かれていても管理組合としてのチェック機能が弱まっている可能性があります。

逆に、開催間隔が多少空いていても、必要な案件が管理され、財務状況が確認され、期限のある問題について適切な意思決定が続いているマンションもあります。

つまり確認したいのは、会議回数ではなく、情報確認から審議へ進み、決定した内容が実行され、その後の進捗確認と次期役員への引継ぎまでつながっているかという点です。

理事会機能不全が怖い理由の一つは、始まった瞬間が見えにくいところにあります。理事会が止まっても清掃員は来ていますし、エレベーターも動いています。共用灯も点灯しているため、日常生活だけを見れば「今のところ普通に暮らせているから大丈夫だろう」と感じるかもしれません。

しかし、その裏側では給排水設備の修繕見積りが半年近く保留され、管理費等の滞納案件について毎月同じ報告だけが繰り返され、保険や管理委託契約の更新時期まで近づいていることがあります。

「次回に決めよう」という小さな先送りが何度も重なり、気付いたころには誰も全体を説明できなくなっている。この静かな停滞こそ、理事会機能不全で注意したい状態です。

理事会機能不全度チェックリスト

次のチェックリストは、法律上の判定基準ではありません。「何となく管理がおかしい」という感覚を、具体的に確認できる事実へ置き換えるための実務上の目安として利用してください。

  • 数カ月にわたり理事会が開かれず次回開催予定も決まっていない
  • 理事長しか管理会社との協議内容を把握していない
  • 複数の役員が辞任したまま後任が決まっていない
  • 出席者不足によって理事会の定足数を確保できない
  • 理事会議事録の作成や保管が長期間滞っている
  • 総会で決めた事項が実施されないまま残っている
  • 管理費等の滞納状況を役員が把握していない
  • 管理会社から届いた見積書や提案書が長期間未処理になっている
  • 管理費会計と修繕積立金会計の残高を役員が説明できない
  • 修繕積立金が将来いつ不足する可能性があるか確認されていない
  • 管理委託契約の具体的な内容を役員が把握していない
  • 管理会社の提案について比較や検証がほとんど行われていない
  • 前任役員から継続案件の引継ぎが十分に行われていない
  • 現在有効な管理規約がどの版なのか分からない
  • 区分所有法上の集会が少なくとも年1回招集されていない
  • 自マンションの管理規約で予定された通常総会の開催も滞っている

一つ当てはまっただけで、深刻な機能不全と決め付ける必要はありません。しかし、役員不足、未処理案件、財務確認の停止などが複数重なり、それが数カ月以上改善していないのであれば、「そのうち誰かが何とかしてくれるだろう」と待つより、現状整理を始める時期に来ているでしょう。

特に、お金、修繕、契約、集会や総会、役員選任という複数の機能が同時に止まっている場合には注意が必要です。一つの問題なら個別対応できますが、複数の判断が滞ると、管理組合そのものの意思決定能力を回復させなければ前へ進めなくなる可能性があります。

理事会立て直しで最初に確認する3つの資料

理事会が止まっていると、「臨時総会を開かなければ」「新しい理事長を探さなければ」と焦ることがあります。

しかし、現在誰が役員なのかも曖昧な状態で次の手続を始めれば、さらに混乱する可能性があります。まずは、次の3種類を確認してください。

現行管理規約

現在の役員数、任期、欠員時の扱い、理事長や副理事長の職務、理事会の招集方法、定足数、総会の招集方法などを確認します。

ここで共通の前提として押さえておきたいのが、国土交通省のマンション標準管理規約と、自分のマンションの管理規約は同じものではないという点です。

マンション標準管理規約は法律ではなく、各マンションが管理規約を作成または改正する際のひな型として国土交通省が示しているものです。

この記事でも標準管理規約の条文を紹介しますが、あくまで規定例として扱います。実際の対応では、自分のマンションで現在効力を持つ管理規約を確認してください。

直近の総会議事録

誰が役員として選任されたのか、予算や決算はどこまで承認されているのか、大規模修繕や規約改正などの重要案件がどの段階まで進んでいるのかを確認します。

特に役員任期が曖昧になっている場合には、「去年の理事だったはず」という記憶だけで判断せず、選任された総会と、その後の理事会の記録を確認する必要があります。

現在の役員名簿

理事長、副理事長、理事、監事が誰なのかを確認します。

辞任者がいる場合には、辞任届や関連する議事録も合わせて確認し、「現在選任されている人」と「実際に活動できる人」を分けて整理すると状況を把握しやすくなります。

この3種類だけでも確認できれば、「今このマンションでは誰が何を決められる状態なのか」という正常化の出発点が見えてきます。

理事会を正常化するための6ステップ

理事会の立て直しで最も重要なのが、この6ステップです。

原因分析や制度の勉強を延々と続けるより、まず現在の管理組合が動ける状態へ戻します。その過程で分からない点が見つかったら、必要な管理規約や法令を確認していくほうが、現場では進めやすいでしょう。

ステップ1 現在の役員と管理者を確認する ステップ2 管理規約と総会議事録を確認する ステップ3 未処理案件と財務状況を整理する ステップ4 理事会を再開できる条件を確認する ステップ5 必要な事項を総会で整理する ステップ6 継続して運営できる仕組みに変更する
理事会の立て直しで最も重要なのが、この6ステップです。

ステップ1 現在の役員と管理者を確認する

最初に、現在の理事長、理事、監事が誰なのかを確定します。

総会で誰が役員として選任され、理事長はどのような手続で選ばれたのか、任期はいつまでなのか、辞任者がいるならいつ辞任したのかを議事録や辞任届で確認してください。

ここでよく問題になるのが、任期満了または辞任した役員の扱いです。

令和7年改正マンション標準管理規約単棟型36条3項には、任期満了または辞任によって退任する役員が、後任役員が就任するまで引き続き職務を行うという規定例があります。

ただし、これはあくまで標準管理規約上の規定例です。自マンションの管理規約に同じ趣旨の条項がある場合に、その規約を前提として検討します。

本人は「もう辞めたつもり」であり、周囲は「まだ理事だと思っていた」という認識のずれが生じている場合もあります。そこで、この段階では辞任した人へ責任を押し付けるのではなく、規約、議事録、辞任届などから現在の状態を確定させます。

ステップ2 管理規約と総会議事録を確認する

役員の状態が見えたら、管理規約を詳しく確認します。

特に確認したいのは、役員定数、任期、欠員時の扱い、理事長と副理事長の職務、理事会招集、定足数、総会招集です。

令和7年改正の標準管理規約では、理事会は理事長が招集し、一定数の理事による招集請求があった場合の手続も示されています。また、標準管理規約53条には、理事会は理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、原則として出席理事の過半数で議事を決するという規定例があります。

ただし、自マンションの定足数や招集方法が同じとは限りません。

インターネットの記事に「半数」と書いてあるから大丈夫だと判断せず、自分のマンションで効力を持つ管理規約の条文と照合してください。

直近の総会議事録まで合わせて読むと、「規約上は理事5人だが現在活動できるのは3人」「総会で新役員は選任されたものの、その後の役職決定が止まっている」といった現在地が具体的に見えてきます。

ステップ3 未処理案件と財務状況を整理する

次に、理事会が止まっている間に残った案件を整理します。

ここで大切なのは、問題名だけを並べて終わらせないことです。

給水設備の修繕であれば、すでに見積りがあるのか、追加調査が必要なのか、技術的な判断を専門家へ求める必要があるのか、理事会で決められるのか、それとも総会まで必要なのかを確認します。

滞納についても、「滞納総額100万円」という数字だけでは次の行動が分かりません。いつ発生し、これまで何を行い、現在どこで対応が止まり、次に何を確認するのかを案件単位で整理します。

財務については、管理費会計と修繕積立金会計の現在残高だけを見るのではなく、今後予定される支出まで確認します。

たとえば大規模修繕の時期が近づき、同じころに給排水設備の更新も必要となり、現在の修繕積立金では両方へ対応することが難しいと分かったとします。その状態で管理会社変更の話まで出ていれば、役員が「いったい何から考えればよいのだろう」と感じるのは自然です。

役員の多くは、建築、設備、会計、金融、契約を本業とする専門家ではありません。それにもかかわらず、高額な修繕や長期的な資金計画について判断を求められるため、「自分たちの判断が間違っていたらどうするのか」という怖さから検討が止まる場合があります。

そのようなときは、一つの巨大な問題として考えないことです。

建物として急ぐ工事は何か、資金はいくらあり、いつ不足するのか、工事仕様を見直せる部分はあるのか、積立金増額、一時金、借入れなど何を比較するのかと問題を分けていきます。

修繕積立金についても、現在いくら残っているかだけではなく、長期修繕計画では現在いくら残っている予定だったのかを確認します。

その差がどこから生まれたのかを修繕履歴や過去の総会議事録と照合すると、以前の工事費が計画を上回ったこと、計画外修繕が発生したこと、予定していた増額を見送ったことなど、原因が見えてくる場合があります。

ここで過去の役員を責めることが目的ではありません。

当時は住民負担へ配慮して増額を見送ったのかもしれず、必要な緊急修繕へ資金を使った可能性もあります。重要なのは、計画と現実がどこから離れたのかを理解し、これからの判断材料へ変えることです。

ステップ4 理事会を再開できる条件を確認する

未処理案件まで整理できたら、現在の役員体制で理事会を開催できるか確認します。

理事長が招集できるのか、副理事長による職務代行を検討する状態なのか、現在在任している理事が何人いて、そのうち何人が実際に出席できるのかを管理規約に照らして判断します。

標準管理規約には、所定数の理事が理事長へ理事会の招集を請求し、それでも一定期間内に招集通知が発せられない場合に、請求した理事が招集できる規定例があります。

また、監事にも一定の場合に理事会の招集へ関与する規定例があります。ただし、理事長が理事会を開かないという理由だけで、監事がいつでも自由に代わって招集できるわけではありません。

現在の管理規約を確認し、利用できる正式な手続を選びます。

理事会を再開できる状態なら、最初の会議ですべてを解決しようとしないことも大切です。

役員状態の確認、緊急性の高い案件、財務の概要、次回日程などへ絞り、「正常な手続で理事会が一度成立した」という状態をつくります。

さらに、会議終了時には次の行動まで決めます。

管理会社へ見積りを依頼するのであれば、何について、どの条件で、いつまでに提出してもらうのかを明確にし、次回理事会でその結果を確認します。

理事会で話したことと、実際の管理が進んだことは同じではありません。

「決めるところ」から「動かすところ」までつなぐことが、正常化の重要な分岐点です。

ステップ5 必要な事項を総会で整理する

役員選任、管理規約改正、重要な予算変更など、理事会だけでは処理できない事項については総会へつなげます。

ここでは、区分所有法上の「集会」と、管理規約で使われる「通常総会」の関係を整理して理解しておく必要があります。

区分所有法34条2項が管理者へ直接義務付けているのは、少なくとも毎年1回「集会」を招集することです。

一方、令和7年改正マンション標準管理規約42条では、管理組合の総会を区分所有法上の集会と位置付け、通常総会と臨時総会に分けたうえで、理事長が通常総会を毎年1回、新会計年度開始後2か月以内に招集するという規定例になっています。

そのため、「法律上、通常総会という名称の会議を毎年1回開催しなければならない」と理解するのは正確ではありません。

法律上は区分所有法の集会を確認し、通常総会という名称や具体的な開催時期については自マンションの管理規約を確認します。

また、高額修繕や修繕積立金の大幅増額を総会へ提出する場合には、招集通知で初めて住民へ知らせるだけでは合意形成が難しくなることがあります。

住民側からすれば、「突然値上げすると言われた」「理事会でもう全部決めてしまったのではないか」と感じるかもしれません。

そこで、不足が生じた理由、何もしなかった場合の将来残高、値上げ、一時金、借入れなどの選択肢について事前に説明し、住民から出た疑問も踏まえて総会資料を整えます。

合意形成とは、全員を一度の説明で賛成させることではありません。

異なる立場の区分所有者が、同じ判断材料を見て意思表示できる状態をつくることです。

ステップ6 継続して運営できる仕組みに変更する

理事会が再開し、必要な総会まで終わると、「これで正常化した」と安心したくなります。

しかし、以前と同じ運営方法へ戻れば、数年後に同じ状態が繰り返される可能性があります。

そこで最後に、「なぜ止まったのか」を振り返ります。

理事長へ仕事が集中していたのであれば業務を分担し、管理会社との重要な連絡内容を複数の役員で共有します。

役員交代のたびに案件が消えていたのであれば、継続案件一覧を作り、何を決めたのかだけでなく、なぜその判断になったのか、次に何を確認するのかまで残します。

日程調整に毎回時間がかかっていたなら、総会、決算、監査、契約更新などから逆算して年間スケジュールを設定する方法があります。

ここで、高度な業務システムを導入すること自体を目的にする必要はありません。

簡単な表でも、案件名、担当者、期限、次に確認することが記録され、毎回の理事会で更新されているのであれば十分役に立ちます。

立て直しとは、頑張れる人を探すことではありません。

誰か一人が頑張り続けなくても、必要な意思決定が続く管理組合へ変えることです。

理事会立て直しで確認したい資料一覧

最初に確認する3資料に加え、正常化を進める段階では次の資料も整理していきます。

確認資料 主に確認する内容 正常化での目的
現行管理規約役員数 任期 欠員 理事会招集 定足数 総会招集現在利用できる正式な手続を確認する
使用細則と運営細則会議方法 役員選出 情報共有方法現在の運営ルールを確認する
直近2〜3年の総会議事録役員選任 予算 決算 工事 規約改正過去の決議と現役員の根拠を確認する
直近1〜2年の理事会議事録開催状況 出席者 保留案件 決定事項停滞が始まった時期と未処理案件を確認する
現在の役員名簿理事長 副理事長 理事 監事現在の役員体制を確定する
辞任届等辞任者 辞任時期 後任状況欠員状態を確認する
管理委託契約書業務範囲 更新条件 委託費管理組合と管理会社の役割を整理する
決算書と予算書収入 支出 繰越財務の全体像を確認する
月次収支報告書最近の入出金現在の資金状態を確認する
滞納一覧金額 期間 対応履歴対応の優先順位を判断する
預金残高資料実際の口座残高帳簿との整合を確認する
長期修繕計画工事時期 想定費用 予定残高将来必要な資金を確認する
修繕履歴過去の実施工事長期修繕計画との差を確認する
工事見積書工事内容 金額 回答期限未処理案件の緊急度を確認する
保険証券補償内容 更新時期契約切れなどを防止する
組合員名簿区分所有者 連絡先集会や総会の基礎情報を確認する
重要な連絡記録管理会社等への依頼 回答 保留認識違いを事実へ戻す

全部を一日でそろえる必要はありません。

むしろ、「最新の役員名簿がない」「議事録が見当たらない」という結果も、現在の管理上の弱点を示す重要な情報です。

資料がないことを責めるより、「今後はどこに何を保管すれば同じことが起きにくいか」という再発防止へつなげてください。

理事会が機能不全になる代表的な7つの原因

正常化の手順が見えたところで、次に「なぜ止まったのか」を確認します。

原因を分析する目的は、以前の役員を責めることではありません。同じ構造が残れば再び機能不全になるため、再発しやすい部分を見つけることが目的です。

役員の高齢化と担い手不足

築年数が進んだマンションでは、建物だけではなく区分所有者も年齢を重ねます。

以前なら輪番制で問題なく役員を選べたマンションでも、体力、介護、仕事、育児などの事情によって役員就任が難しくなる人が増えることがあります。

また、賃貸化や相続によって非居住所有者が増えれば、現地居住者だけで役員候補を探すこと自体が難しくなるでしょう。

総会へ出席しない人についても、単純に「無関心だから」と決め付けることはできません。

資料が難しくて内容を理解できないこともあれば、修繕の必要性は分かっていても追加負担が怖く、議論から距離を置いてしまう人もいます。高齢期に大きな負担増を提示されれば、将来自分が何年住むのかを考えて迷う人もいるでしょう。

こうした背景を無視して「所有者なのだから役員をするべきだ」と求め続けても、制度が現実の生活に合わなくなった問題は解決しません。

役員数、任期、会議方法、専門家利用などを含めて、現在の区分所有者でも参加できる仕組みを考える必要があります。

理事長への業務と責任の集中

真面目な理事長ほど、仕事を抱え込みやすいことがあります。

管理会社から連絡が来れば自分で対応し、現地確認、住民相談、修繕業者との打合せまで一人で行っているうちに、ほかの役員は「理事長が全部分かっている」と感じるようになります。

理事長本人も、最初から情報を独占しようとしたわけではないでしょう。

ほかの役員へ説明するより自分で処理したほうが早かったり、頼んでもなかなか返事が来なかったりするうちに、結果として仕事が集中した可能性があります。

しかし、情報が一人へ集まるほど、その人が動けなくなったときの影響も大きくなります。

正常化で必要なのは、その人の権限を奪うことではありません。個人の頭の中やメールボックスにある情報を管理組合の情報へ戻し、業務を分けられる状態をつくることです。

理事間の対立と合意形成の停止

大規模修繕、積立金増額、管理会社変更などでは、役員同士の意見が割れることがあります。

工事を早く実施したい人にも理由があり、住民負担を考えて延期したい人にも理由があります。

意見の違いそのものは、管理組合にとって異常なことではありません。

問題となるのは、「工事をどうするか」という議論が、「あの人は信用できない」「何にでも反対する」という人物への対立へ変わったときです。

そうなると、会議へ参加すること自体が精神的な負担となり、欠席者が増える場合があります。

このようなときには、事実、選択肢、費用、期限、その日の会議で決める範囲を分け、人ではなく判断材料へ話を戻す必要があります。

管理会社への過度な依存

管理会社へ専門的な事務を委託することは、マンション運営では一般的です。

問題になるのは、事務だけではなく判断まで無条件に委ねてしまうことです。

管理会社から示された工事について比較せず承認し、契約金額の変更理由も確認せず、「プロが言っているから間違いないだろう」という判断が続けば、理事会自身の確認機能は弱まります。

一方で、契約上は管理会社へ依頼できる仕事まで理事長が一人で抱えている場合もあります。

任せ過ぎることだけではなく、任せなさ過ぎることも負担集中の原因になるでしょう。

非居住所有者の増加

マンション外に住む所有者が増えると、現地居住者との情報量に差が生まれる場合があります。

居住者であれば、共用部分の照明や駐輪場の状態を毎日目にします。一方、遠方の所有者には、年に数回届く資料がマンションの状態を知る主な手掛かりになっているかもしれません。

そこで、参加しないことを無関心と決め付けるのではなく、Web会議や電子資料などを利用し、参加するための障壁を下げる方法も検討します。

前任役員からの引継ぎ不足

役員全員が短期間で交代すると、管理組合の知識まで一緒に消える場合があります。

前期で一年かけて検討した案件について、なぜその会社から見積りを取ったのか、なぜ別の工法を見送ったのかが記録されていなければ、新しい役員は一から同じ調査を繰り返します。

ようやく状況を理解したころには任期が終わり、次の役員がまた最初から調べる。

これでは建物は毎年古くなる一方で、管理組合の知識だけが何度も一年目へ戻ります。

引継ぎで残したいのは、書類の束だけではありません。

何を決めたのか、なぜそう判断したのか、次に何を確認するのかまで残すことが重要です。

現状に合わない管理規約と運営方法

分譲時の管理規約を長期間見直していない場合、現在の区分所有者構成や生活様式と制度が合わなくなることがあります。

以前は問題なく運用できた役員数や任期でも、高齢化や非居住化が進んだ現在では大きな負担になっているかもしれません。

国土交通省は2025年10月17日にマンション標準管理規約を改正し、2026年4月1日に施行された改正区分所有法などを踏まえた内容を示しています。

ただし、標準管理規約へ合わせること自体が目的ではありません。

自マンションで何が運営を難しくしているのかを確認し、その問題を軽減するために必要な部分を見直します。

理事会機能不全を放置すると起こり得る問題

原因が分かっても、「現在生活できているなら、それほど急がなくてもよいのでは」と思う人はいるでしょう。

実際、理事会が止まってもマンション生活は翌日から破綻するわけではありません。

それが危機感を共有しにくい理由でもあります。

修繕判断の遅れ

屋上防水、外壁、給排水設備、消防設備、エレベーターなどは、理事会の都合を待ってくれません。

小さな不具合の段階なら計画的に対応できたものが、判断を先送りした結果、被害範囲を広げる可能性があります。

緊急工事になれば、複数社の提案を比較したり、仕様を十分に検討したりする時間まで失われることもあるでしょう。

修繕積立金不足

現在の口座に数千万円残っていたとしても、その金額だけで安心することはできません。

次回大規模修繕、設備更新、計画外修繕など、将来必要となる支出と比較する必要があります。

特に確認したいのは、「いくら不足するか」と同時に「いつ不足するか」です。

十年後に不足する場合と、二年後の大規模修繕で不足する場合では、検討できる対策が異なります。

滞納対応の長期化

管理費等の滞納は、役員が心理的に対応を先送りしやすい問題です。

同じマンションで暮らす人へ何度も支払いを求めることに気まずさを感じたり、病気や失業などの事情を知って強い対応をためらったりすることがあります。

その気持ち自体を否定する必要はありません。

しかし、「もう少し待とう」という判断に期限がなく、同じ案件が何年も残り続ければ、管理組合全体の財務へ影響します。

対応の目的を「滞納者へ強く言うこと」にするのではなく、現在どこまで対応し、次に何を判断するのかを管理できる状態へ変える必要があります。

契約更新の惰性化

管理委託契約、保険、設備保守などの契約が、十分に検討されないまま毎年更新されることもあります。

同じ会社との契約を続けること自体に問題があるわけではありません。

しかし、金額、業務内容、実際の管理品質を誰も確認せず、「去年も同じだったから」という理由だけで更新しているなら、管理組合として判断したとは言いにくいでしょう。

集会や通常総会の停止

区分所有法34条2項では、管理者は少なくとも毎年1回集会を招集しなければならないとされています。

一方、通常総会という名称や具体的な開催時期については、自マンションの管理規約を確認します。

標準管理規約42条では、総会を区分所有法上の集会として位置付け、通常総会を毎年1回、新会計年度開始後2か月以内に招集する規定例が示されています。

理事会だけでなく、区分所有者全体による意思決定まで長期間動いていないのであれば、管理組合の機能低下はより深刻になっていると考えたほうがよいでしょう。

正常化前と正常化後の運営フロー

理事会正常化の成果は、開催回数だけでは判断できません。

情報を受け取り、判断し、実行し、その結果を確認する流れがどのように変わったかを見る必要があります。

運営項目 正常化前 正常化後
年間予定問題が起きてから日程調整総会や契約更新から逆算して準備
情報共有理事長だけが把握必要な情報を役員間で共有
議題届いた順に話す決議事項と報告事項を整理
判断材料管理会社資料だけで判断比較条件と不足資料を確認
意思決定一部役員へ集中規約に従い理事会や総会で判断
議事録結論だけを記録重要案件では判断理由まで記録
継続案件次回まで曖昧なまま担当者と期限を決めて追跡
管理会社への依頼口頭や曖昧な依頼内容と期限を明確化
財務現在残高だけを見る将来支出や滞納まで確認
管理会社評価感覚的な不満で判断契約や履行などへ分けて評価
引継ぎ書類だけを渡す判断経緯と次の行動を共有
改善確認実施したら終了数カ月後に効果を確認

「理事会で話した」ということと、「管理が進んだ」ということは同じではありません。

たとえば、理事会で管理会社へ見積りを依頼すると決めても、対象範囲、比較条件、提出期限が曖昧であれば、管理会社側ではまだ相談段階だと理解している可能性があります。

誰が何をいつまでに行い、その結果をいつ確認するのかまでつながって初めて、意思決定は実際の管理へ変わります。

理事長不在や役員不足などケース別の考え方

同じ「理事会が動かない」という状態でも、原因によって対応は変わります。

理事長が辞任または不在のケース

最初に、副理事長の職務代行規定と退任役員の扱いを現行管理規約で確認します。

標準管理規約36条3項には、後任役員の就任まで退任役員が職務を継続する規定例がありますが、前述のとおり自マンションの規約を確認することが前提です。

辞任届、総会議事録、理事会議事録を合わせて見ながら、現在誰がどの職務を行えるのかを整理します。

理事長はいるが理事会を開かないケース

最初に「なぜ開かないのか」を確認します。

理事長本人が多忙なのか、ほかの理事が集まらないのか、役員間の対立が続いているのか、未処理案件が多過ぎて何から議題にすればよいか分からなくなっているのかでは、対応が異なります。

現行管理規約に理事からの招集請求に関する規定がある場合には、その手続を検討します。

役員辞任が相次いでいるケース

「現在理事が3人しかいない」という情報だけでは、理事会が成立するかどうか判断できません。

規約上の役員数、現在在任している人数、実際に出席できる人数を分けて確認します。

役員の補充方法についても管理規約を確認し、必要であれば総会で役員体制を整えます。

理事全員が辞任したケース

役員全員が辞任しても、区分所有者全員で構成される管理のための団体そのものが直ちになくなるわけではありません。

しかし、日常的な執行機能が大きく低下するため、現在誰が管理者なのか、退任役員を自マンション規約上どのように扱うのか、集会を誰が招集できるのかを早急に確認する必要があります。

全員辞任まで進んでいる場合には、独自判断だけで進めず、早い段階で専門家へ相談したほうがよいケースもあります。

非居住所有者が多いケース

役員資格を居住者だけへ過度に限定する規約が残っていないか確認します。

また、遠方からの参加が難しいことが問題なら、Web会議や電子資料の共有などを検討します。

参加しない人を責めるより、参加できる仕組みになっているかを見るほうが正常化には有効でしょう。

理事長が長期間固定化しているケース

長年同じ人が理事長を続けているマンションでは、本人が辞めたくても辞められない場合があります。

周囲からは「慣れている人がやってくれて助かる」と見えていても、本人は「自分が辞めたら誰も分からなくなる」と感じているかもしれません。

そこで、いきなり次の理事長候補を探すのではなく、現在の仕事を細分化します。

管理会社との連絡、会計確認、修繕、住民相談、総会準備などに分ければ、「全部は無理でも一部なら担当できる」という人が見つかる可能性があります。

正常化では、次の強い理事長を探すのではなく、強い理事長がいなくても回る仕組みをつくることが重要です。

管理会社変更を考える前に確認したいこと

理事会が機能不全になると、管理会社への不満も大きくなりやすいものです。

「返事が遅い」「費用が高い」「何も提案してくれない」と感じれば、管理会社を変更すればすべて改善するように思えるかもしれません。

その不満自体を否定する必要はありません。

ただし、管理会社変更へ進む前に、何が問題なのかを分けます。

現在の管理委託契約に問題があるのか、業務仕様が不足しているのか、契約された仕事を十分に履行していないのか、品質が期待水準へ届いていないのか、費用とのバランスが問題なのかを整理します。

たとえば清掃への不満でも、契約上の清掃回数自体が少ないのであれば仕様の問題です。一方、契約上は十分な回数が設定されているのに実施されていないのであれば、履行上の問題でしょう。

会社だけを変更しても、原因が仕様に残っていれば同じ不満が繰り返される可能性があります。

まず改善を求め、その結果を確認し、それでも改善できない場合に管理会社変更を比較するという順番が合理的です。

そして、新しい会社へ変更できたこと自体を成功と考えません。

数カ月後に、以前問題となっていた清掃、報告、担当者対応、費用などが実際に改善したかを確認します。

変更の終点は契約締結ではなく、改善結果の確認です。

管理会社だけでは解決しにくい問題

通常の理事会方式では、管理会社は管理委託契約に基づいて管理組合を支援します。

理事会資料の準備、会計報告、見積り取得などを行っていても、管理組合の意思決定そのものまで当然に管理会社へ移るわけではありません。

そのため、「管理会社が決めてくれない」と感じていた案件が、実際には理事会や総会の判断を待っている状態だったということがあります。

逆に、「管理会社がしてくれない」と不満を感じている仕事が、現在の管理委託契約には含まれていない場合もあります。

長年同じ管理会社と契約していると、契約内容を詳しく確認しないまま更新が定例作業になり、「どこまで頼んでいるか」が双方で曖昧になることがあります。

そこで、管理会社との関係を立て直す場合には、「契約どおりの仕事が行われていないのか」「そもそも契約していない仕事を管理組合が期待しているのか」を分けてください。

全部任せることも、全部自分たちで行うことも正常化ではありません。

管理組合が判断し、管理会社が契約に基づいて実行するという役割分担を明確にすることが重要です。

マンション管理士を活用する場合に依頼できること

マンション管理士の役割は、理事会に代わってあらゆる結論を決めることではありません。

複雑な問題を整理し、管理組合自身が判断できる状態をつくることに意味があります。

管理規約と議事録を確認し、現在の役員状態を整理すること、未処理案件を分類すること、理事会で決める事項と総会へ出す事項を分けることなどを相談できます。

修繕積立金不足であれば、現在残高、長期修繕計画、将来工事費を確認し、増額、一時金、借入れなどを比較するときの論点整理を依頼する方法があります。

管理会社との問題であれば、契約、仕様、履行、品質、費用などを整理し、改善要求で対応できるのか、契約変更が必要なのか、会社変更まで進むべきなのかを考える支援もあります。

理事会運営そのものについて、年間スケジュール、議案整理、資料確認、継続案件管理、議事録などを支援してもらう方法もあるでしょう。

ただし、専門家へ依頼する目的を「自分たちの代わりに答えを決めてもらうこと」にしてはいけません。

理事会が判断理由を理解し、住民へ説明でき、次の役員へその理由を残せる状態を目指します。

マンション管理士と弁護士等の役割比較

問題 マンション管理士へ相談しやすい内容 他の専門家へ相談を検討する内容
理事会機能不全現状分析 正常化手順 運営改善法的地位を巡る紛争は弁護士
管理規約現行規約確認 改正案検討高度な法的紛争は弁護士
総会議案整理 運営支援決議無効等の争いは弁護士
滞納管理手順整理 初期対応訴訟や強制執行は弁護士
修繕積立金不足原因整理 資金案比較工事技術判断は建築士等
大規模修繕管理組合側の論点整理劣化診断や設計は建築専門家
管理会社契約確認 改善事項整理損害賠償等の紛争は弁護士
会計管理組合会計の運用整理高度な監査は会計専門家

専門家を利用することは、判断を放棄することではありません。

役員がすべての専門知識を身に付けなくても、必要な材料を集め、理由を理解し、自分たちで選択できる状態をつくることが大切です。

匿名化した理事会立て直し事例

以下は、特定の実在マンションの相談内容をそのまま掲載したものではありません。理事会機能不全で起こり得る複数の状況を組み合わせ、立て直しの考え方を理解しやすい形へ再構成したモデルケースです。

修繕積立金不足で判断が止まったケース

築35年で40戸程度のマンションでは、大規模修繕の時期が近づく一方、給排水設備にも更新の必要性が出ていました。

工事見積額は以前の長期修繕計画より高く、双方を予定どおり実施すれば修繕積立金が不足する見込みです。

理事長は、「値上げを提案したら高齢の住民は困るのではないか」と悩んでいました。ほかの理事からは、「工事時期を延期できないか」という意見も出ています。

誰も何も考えていないわけではありません。

それぞれがマンションと住民のことを考えているからこそ、簡単に決められなくなっていました。

そこで、最初から工事をするか延期するかを決めるのではなく、まず不足額と不足時期を確認します。

次に、技術的に急ぐ工事と時期調整できる工事を分け、積立金増額、一時金、借入れなど複数の方法を比較します。

総会では「不足しているので値上げします」とだけ伝えるのではありません。

なぜ不足したのか、何もしなければ将来どうなるのか、どの方法を比較し、理事会がなぜその案を推奨するのかまで説明します。

このケースで変わったのは金額だけではありません。

理事長一人が怖い決断を背負う状態から、区分所有者が判断材料を共有し、共同で決める状態へ移ったことに正常化の意味があります。

長期滞納と理事会停止が重なったケース

管理費等の滞納案件が数年間残っているマンションでは、管理会社から毎月「督促しています」と報告されていました。

その報告を聞くことで、理事会側も何らかの対応が続いていると感じ、次の判断を先送りしていました。

理事長は滞納者と日常的に顔を合わせるため、強い対応へ踏み切ることに抵抗があります。

この気まずさは理解できます。

そこで、最初から訴訟をするかどうかを決めるのではなく、滞納額、期間、これまでの対応、現在の状態を案件ごとに整理します。

そのうえで管理委託契約を確認し、どこまで管理会社が督促し、どの段階から管理組合が次の判断を行う必要があるのかを明確にします。

正常化後は滞納総額だけを見るのではなく、新しく発生した案件、前月から変化していない案件、分割払い中の案件などの動きを確認します。

正常なマンションとは、問題が一件も起こらないマンションではありません。

問題が起こったときに把握し、判断し、必要に応じて専門家へつなぎ、次の役員へ経緯を残せる管理組合です。

管理会社変更を巡って理事会が割れたケース

あるマンションでは管理会社への不満から、「すぐ変更するべき」という理事と、「長年の会社を簡単に変えるべきではない」という理事に分かれていました。

会議を開くたびに同じ主張が繰り返され、いつの間にか管理会社そのものより、相手の意見へ反対することが議論の中心になっています。

そこで、変更の賛否を最初の議題にするのをやめます。

返事が遅かった具体的な案件、清掃上の問題、管理委託費の増額などを別々に確認し、それぞれの原因が契約なのか、仕様なのか、履行なのか、品質なのか、費用なのかを整理します。

管理会社へ改善を求め、その結果を確認したうえで、それでも解決しない問題について会社変更を比較します。

こうすると、「管理会社が好きか嫌いか」という対立から、「現在の管理状態を良くするには何を変える必要があるのか」という議論へ戻りやすくなります。

外部管理者方式を検討すべきケース

役員候補が恒常的に見つからず、役員数や会議方法を見直しても理事会方式の維持が難しい場合には、外部管理者方式を比較検討する余地があります。

マンション管理士などの外部専門家や管理会社等を管理者として活用することで、役員負担を軽減できる可能性があります。

しかし、外部管理者方式は理事会機能不全を自動的に解決する万能な仕組みではありません。

利益相反の確認 管理会社が管理者を兼ね、 その会社や関係会社が工事を 受注する場合などには、 管理組合側と管理者側の利害が 一致しない可能性があります。 監督体制の確保 理事会を置かない方式へ 変更するなら、それまで理事会が 担っていた確認機能を別の形で 用意しなければなりません。 費用と継続性の比較 外部管理者や外部専門家へ 依頼すれば、報酬が必要になる 場合があります。
しかし、外部管理者方式は理事会機能不全を自動的に解決する万能な仕組みではありません。

国土交通省は2026年4月1日に「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を改訂しており、管理業者管理者方式を含め、利益相反や監督体制など適正運営のための考え方を示しています。

利益相反の確認

管理会社が管理者を兼ね、その会社や関係会社が工事を受注する場合などには、管理組合側と管理者側の利害が一致しない可能性があります。

だからといって、管理業者管理者方式そのものが不適切という意味ではありません。

誰が必要性を判断し、誰が契約相手となり、どこへ経済的利益が発生するのかを区分所有者が確認できる仕組みにする必要があります。

監督体制の確保

理事会を置かない方式へ変更するなら、それまで理事会が担っていた確認機能を別の形で用意しなければなりません。

監事、外部専門家、情報開示、区分所有者への定期報告などを組み合わせ、管理者の業務をどのように確認するのかを導入前に設計します。

外部へ任せることと、外部へ任せきることは違います。

費用と継続性の比較

外部管理者や外部専門家へ依頼すれば、報酬が必要になる場合があります。

現在の理事会方式で発生している人的負担と、外部へ委ねた場合の金銭的負担を比較してください。

費用が高いから不適切とも、役員をしなくて済むから適切とも一概にはいえません。

数年後だけでなく、10年後も継続できる管理方式かという視点が重要です。

理事会正常化後に再発を防ぐチェックポイント

理事会を一度再開できると、「これで解決した」と思いたくなります。

しかし、本当に正常化できたかどうかは、その日の会議だけでは判断できません。

半年後も意思決定の仕組みが動いているかを見る必要があります。

年間スケジュールの設定

総会、決算、監査、予算、契約更新、大規模修繕などから逆算して検討時期を決めます。

目的は会議回数を増やすことではありません。

判断直前になって慌てないよう、必要な準備時間を確保することです。

決議事項と報告事項の区別

理事会で扱う案件について、報告だけでよいものと、その日に判断する必要があるものを分けます。

これにより、重要な案件へ時間を使いやすくなります。

ただし、会議時間を短くすること自体を成果にはしません。

三時間の理事会が一時間になっても、重要な検討まで省略されていれば改善とはいえないでしょう。

継続案件の管理

最も消えやすいのは、「追加資料を確認して次回もう一度検討しましょう」となった案件です。

現在の状態、担当者、次の行動、期限を残し、次回理事会で必ず確認します。

管理会社への依頼記録

何をいつまでに依頼したのかを記録します。

回答が遅れた場合にも、管理会社側の問題なのか、依頼内容や期限が曖昧だったのかを確認しやすくなります。

判断理由の引継ぎ

なぜその工事会社を選んだのか、なぜ工事を延期したのか、なぜ修繕積立金を増額したのかという理由を残します。

役員は交代しますが、マンション管理はその後も続きます。

次の役員が一から同じ検討をやり直さずに済む状態をつくることが重要です。

小さな改善後の確認

すべてを一度に変える必要はありません。

最初は議題を決議事項と報告事項へ分け、次回から継続案件の期限を残し、その後に管理会社への依頼事項を一覧化するという進め方でもよいでしょう。

そして、数カ月後に変化を確認します。

重要案件へ時間を使えるようになったのか、依頼した資料が届くようになったのか、継続案件が前へ進むようになったのかを見ることが大切です。

制度を作ったことではなく、制度によって管理が動きやすくなったことを成果と考えます。

よくある質問

理事会が何カ月も開催されないのは問題ですか?

何カ月開催しなければ直ちに違法という全国一律の基準があるわけではありません。

重要なのは、修繕、財務、契約、滞納など管理組合として判断すべき事項が止まっているかどうかです。

なお、区分所有法34条2項は、管理者に少なくとも毎年1回集会を招集するよう定めています。通常総会という名称や具体的な開催時期については、自マンションの管理規約も確認してください。

理事長が理事会を開かない場合はどうすればよいですか?

まず、自マンションの管理規約で理事会の招集方法を確認します。

標準管理規約には一定数の理事による招集請求などの規定例がありますが、自マンションへ自動的に適用されるわけではありません。

理事長が動かない理由についても、多忙、出席者不足、役員間の対立などを確認し、原因に応じて対応します。

理事全員が辞任した場合はどうなりますか?

まず、現行管理規約で退任役員の扱いを確認します。

標準管理規約36条3項には、後任役員就任まで退任役員が職務を継続する規定例がありますが、自マンションに同様の規定があるかを確認して判断します。

全員辞任まで進んでいる場合には、管理者や集会招集の問題も関係するため、専門家への相談を検討してください。

管理会社が代わりに理事会を運営できますか?

通常の理事会方式では、管理会社は契約に基づいて資料作成や会議支援を行えますが、理事会や総会の意思決定を当然に代替するわけではありません。

管理会社自身が管理者を担う方式へ変更する場合には、必要な手続と監督体制を別途検討します。

管理会社を変更すれば理事会問題も解決しますか?

原因によります。

管理会社が契約上の業務を十分に履行していない場合には、変更によって改善する可能性があります。

一方、管理仕様そのものに問題がある場合や、理事会側が判断できないことが主因なら、管理会社だけを変更しても同じ問題が再発する可能性があります。

区分所有者から正常化を求めることはできますか?

区分所有者から理事会や管理者へ問題を提起することはできます。

また、区分所有法上の集会を招集する必要があるにもかかわらず管理者が動かない場合には、区分所有法34条に一定要件を満たす区分所有者による招集請求の仕組みがあります。

具体的に手続を行う場合には、現行法と自マンションの管理規約を確認してください。

マンション管理士に立て直しを依頼できますか?

管理規約や議事録の確認、役員状態の整理、未処理案件の分類、理事会や総会の運営支援、管理会社との役割分担、規約見直しなどを相談できます。

ただし、訴訟など具体的な法的紛争は弁護士、建物の劣化診断や設計は建築士等と役割を分ける必要があります。

外部管理者方式へ変更すれば理事会問題は解決しますか?

役員不足を軽減できる可能性はありますが、万能ではありません。

利益相反、監督方法、情報開示、報酬など新たに確認する事項が生じるため、現在の理事会方式を簡素化する案と比較したうえで判断することが重要です。

マンション理事会の立て直しは意思決定をつなぎ直すこと

理事会が長期間止まっていれば、理事長へ腹が立つこともあるでしょう。

ほかの役員へ「なぜ誰も動かないのだろう」と思う人もいれば、管理会社へ「もっと早く教えてほしかった」と感じる人もいるはずです。

反対に、理事長本人は「何度頼んでも誰も手伝ってくれなかった」と疲れているかもしれません。

それぞれの感情には、それぞれの理由があります。

だからこそ、立て直しでは感情を無視するのではなく、感情だけで結論を決めないことが大切です。

現在の役員は誰なのか、管理規約には何と書かれているのか、どの案件が止まり、お金はいくらあり、何をいつまでに判断する必要があるのかを確認します。

そこまで整理すると、最初は一つの巨大な問題に見えていた状態が、いくつかの小さな判断へ分かれてきます。

次の理事会で一つ決め、管理会社へ一つ明確に依頼し、その結果を次回確認する。

外から見れば、小さな変化かもしれません。

しかし、止まっていた管理組合にとっては、その一つの循環が再び動き始めることに大きな意味があります。

役員が建築、法律、会計、契約の専門家になる必要はありません。

分からない問題に直面したときに、何を確認し、誰へ相談し、何と何を比較すれば次の判断へ進めるのかが分かる状態をつくることが重要です。

そして、判断した理由を記録し、次の人へ渡します。

理事会正常化の目的は、以前と同じ回数の会議を開くことでも、強い理事長を見つけることでもありません。

誰が役員になっても、情報確認、審議、決定、実行、進捗確認、引継ぎまでがつながり、次の役員がその続きから始められる管理組合をつくることではないでしょうか。

情報確認 審議 決定 実行 進捗確認 引継ぎ
誰が役員になっても、情報確認、審議、決定、実行、進捗確認、引継ぎまでがつながり、次の役員がその続きから始められる管理組合をつくることではないでしょうか。

まとめ

マンション理事会が機能不全になったとき、最初に行うべきことは原因を延々と議論することではありません。

現行管理規約、直近の総会議事録、現在の役員名簿を確認し、「今誰が何を決められる状態なのか」を把握します。

その後、未処理案件と財務状況を整理し、現在の役員体制で理事会を再開できる条件を確認します。

理事会だけでは処理できない役員選任や規約改正などは総会へつなげ、正常化後は年間スケジュール、案件管理、管理会社への依頼記録、議事録、引継ぎを整えていきます。

標準管理規約については、自マンションへ自動適用される法律ではなく規定例であるという前提を忘れないことも重要です。

また、法律上の年1回の招集義務は区分所有法上の「集会」について定められており、通常総会という名称や具体的な開催時期については自マンションの管理規約も確認してください。

誰が悪かったのかを決めるだけでは、次の理事会は動きません。

誰が何をいつまでに確認し、その結果をどこで判断し、次回どこまで進んだかを確認するのかが見える状態をつくることが、マンション理事会正常化の最初の一歩です。

参考資料

建物の区分所有等に関する法律

集会の招集、管理者、規約、決議などマンション共同管理の基本となる法律です。

e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律

改正区分所有法に関する情報

2025年に成立したマンション関係法改正と施行内容を確認できます。

法務省 老朽化マンション等の管理及び再生に関する法改正

マンション標準管理規約

管理規約の作成や見直しを行う際の国土交通省のひな型です。2025年10月17日改正版が公表されています。

国土交通省 マンション標準管理規約

令和7年改正マンション標準管理規約単棟型

役員任期、通常総会、理事会の招集や定足数などの規定例を確認できます。

国土交通省 令和7年改正マンション標準管理規約単棟型

外部管理者方式等に関するガイドライン

外部管理者方式や管理業者管理者方式における利益相反、監督、情報開示などを確認できます。2026年4月1日に改訂されています。

国土交通省 外部管理者方式等に関するガイドライン

人気記事

  • 本日
  • 週間
  • 月間

-マンション管理士