マンション管理士

マンションの漏水事故対応マニュアル 管理組合が事前に整備しておくべき初動体制

マンションで漏水事故が起きたとき、理事長や理事が最初に直面するのは、配管の専門知識が不足していることよりも「誰がどこまで判断してよいのか分からない」という迷いです。水が落ち続ける現場で責任や費用負担の話から始めれば、対応が遅れるだけでなく、被害を受けた住戸と漏水元を疑われた住戸との関係までこじれる可能性があります。

だからこそ管理組合には、事故発生後に対応方法を考えるのではなく、安全確認、止水、緊急連絡、写真撮影、原因調査、管理区分の確認、保険、修繕、事故記録までを平常時から一つの流れとして整備しておくことが求められます。

本稿では、2026年施行の改正区分所有法、令和7年改正版マンション標準管理規約、2026年1月22日の最高裁判決などを踏まえながら、漏水事故が突然発生しても責任論で初動を止めないために、管理組合が事前に整えておきたい実務体制を整理します。

TABLE OF CONTENTS
目次

マンションの漏水事故は発生後ではなく事前の体制整備が重要

夜の9時を過ぎたころ、理事長の携帯電話に管理会社から連絡が入ります。「下階の天井からかなり水が落ちていますが、直上階の方とはまだ連絡が取れていません」と告げられれば、普段は落ち着いている人でも、頭の中にはいくつもの疑問が浮かぶでしょう。

緊急業者を呼んでよいのか、管理組合の費用で調査してよいのか、上階へ立ち入る必要が生じたら誰が判断するのか、専有部分が原因だった場合には誰が費用を負担するのかと迷っている間にも、水はポタポタと天井から落ち続け、壁の内部や床材へ広がる可能性があります。

マンションの漏水事故が難しい理由は、単に水が漏れるからではありません。

事故発生直後には、漏水原因、専有部分と共用部分の区分、区分所有者の過失、保険の適用、最終的な費用負担などが確定していないにもかかわらず、人の安全を守り、漏水を止め、必要な調査を開始する判断だけは待ってくれないからです。

被害住戸では、天井や壁が濡れ、床や家具まで水が広がれば、「一刻も早く何とかしてほしい」と感じるでしょう。一方、漏水元と疑われた住戸では、「原因が分からない段階から自分の責任にされるのではないか」という警戒心が生まれることがあります。

双方が強い言葉になってしまう背景には、それぞれ異なる不安があります。被害を受けた側は、いつまで現在の生活が続くのか分からない不安を抱えており、原因住戸と疑われた側は、根拠のない責任や高額な費用を一方的に負わされるのではないかと心配しているのです。

ここで管理組合まで「まず誰が悪いのかを決めよう」と動けば、調査への協力を得にくくなり、初動そのものが止まりかねません。

そこで漏水事故対応マニュアルの中心に置くべきなのは、責任者を早く決める仕組みではなく、責任が分からない段階でも安全を確保し、被害を抑え、客観的な原因調査へ進める仕組みです。

この考え方を平常時から共有しておけば、事故当日に理事長一人がすべての答えを出す必要はありません。決められた順序に沿って確認し、必要なところから設備業者、管理会社、保険会社、専門家へつないでいけばよくなります。

2026年現在は、この体制整備を考えるうえで法制度の変化も確認する必要があります。

2026年4月1日に施行された改正区分所有法では、他の区分所有者の専有部分等について、保存や改良のため必要な範囲で使用し、または保存することを請求する規定などが整備されました。また、国外に住所等を有する区分所有者が国内管理人を選任できる制度も設けられています。

令和7年改正版マンション標準管理規約では、専有部分への立入りや保存行為について具体的な規定例が示され、大規模な水漏れについても緊急対応を検討する場面として説明されています。

さらに2026年1月22日の最高裁第一小法廷判決では、区分所有法3条前段の区分所有者の団体について、特段の事情がない限り、共用部分について民法717条1項本文の「占有者」に当たるという判断が示されました。

もっとも、この判決から「共用部分から漏水すれば管理組合が必ず全額賠償する」と一般化することはできません。最高裁が直接判断した中心的な論点は占有者性であり、損害額等については東京高裁へ差し戻されています。

つまり、管理組合が整えるべきものは法律知識の一覧ではありません。

今夜漏水が発生しても、安全確認から事故記録まで同じ順序で動ける体制をつくることが出発点です。

漏水発生時の初動対応フロー

漏水事故の初動は時間との勝負ですが、急ぐことと、順序を飛ばすことは同じではありません。

大量の水が照明器具付近から落ちているのに、最初から止水栓を探そうとして濡れた場所へ入り込めば、感電や転倒につながる可能性があります。一方、安全確認だけをして水を流し続ければ、下階や共用部分への被害がさらに広がるでしょう。

そのため、管理組合として使用する公式の初動フローは、次の流れに一本化します。

漏水発生 → 安全確認・被害拡大防止 → 止水・緊急連絡 → 写真 → 原因調査 → 管理区分の確認 → 保険 → 修繕 → 事故記録

漏水発生時の初動対応フロー 漏水発生 安全確認・ 被害拡大防止 止水・緊急連絡 写真 原因調査 管理区分の確認 保険 修繕 事故記録
漏水発生 → 安全確認・被害拡大防止 → 止水・緊急連絡 → 写真 → 原因調査 → 管理区分の確認 → 保険 → 修繕 → 事故記録

止水と連絡は、必ず一方を終えてからもう一方へ進むという意味ではありません。現場では安全を確認したうえで止水を進めながら管理会社や関係住戸へ連絡し、専門業者の到着を待つ間に写真を残すなど、複数の作業を並行して進めます。

一方、原因調査と管理区分の確認は意識的に分けます。

なぜなら、「どこから漏れたのか」という技術的な事実と、「その部分を規約上誰が管理するのか」という管理上の判断は同じではないからです。原因が判明しても、その箇所が直ちに専有部分か共用部分か決まるとは限りません。

漏水事故対応の一枚フロー

段階 工程 主な実施主体 実施内容と運用上の注意点
第1段階 安全確認と被害拡大防止 被害居住者 管理員 管理会社 感電、漏電、天井材落下、転倒などの危険を確認し、人を危険箇所から離したうえで水受けや養生を行います
第2段階 止水と緊急連絡 居住者 管理会社 理事長 専門業者 原因候補住戸の止水栓や設備を確認しながら、被害住戸、漏水元候補住戸、管理会社、理事会へ連絡します
第3段階 被害状況の記録 被害居住者 管理会社 天井、壁、床、家財、漏水位置などを広角と接写で撮影し、発見時刻や止水時刻も記録します
第4段階 原因調査 専門調査業者 管理組合 圧力試験、赤外線調査、スコープ調査、必要最小限の開口調査などから適切な方法を選びます
第5段階 管理区分の確認 管理組合 管理会社 専門家 管理規約、別表、設備図、配管構造、過去の修繕履歴などから専有部分と共用部分の区分を確認します
第6段階 保険確認と事故受付 管理組合 区分所有者 管理組合側と関係者側の保険について補償対象、必要資料、免責金額などを確認します
第7段階 修繕と復旧 専門業者 関係当事者 原因箇所の修繕と被害住戸の内装や家財の復旧を分け、原因や責任関係に応じて進めます
第8段階 事故記録と事後検証 理事会 管理会社 原因、対応経緯、管理区分、費用、保険、修繕内容を事故台帳へ保存し、次回理事会で対応手順を検証します

この表は記事中の説明資料ではなく、そのまま管理組合のマニュアルへ転用できる成果物として考えることが重要です。

自マンションの管理会社、夜間連絡先、緊急業者、保険会社、理事長の発注権限などを書き加え、管理室や共有フォルダですぐ確認できる状態にしておけば、事故が起きた夜に「マニュアルがどこにあるのか分からない」という新たな混乱も防げます。

①安全確認と被害拡大防止を最優先する

漏水事故の第一段階で確認するのは、誰の責任かではなく、その場所に人が安全にいられるかどうかです。

天井や壁から著しい落水がある場合、水が照明器具、電気配線、コンセントなどへ到達している可能性があります。濡れた設備へ不用意に触れれば感電のおそれがあり、ショートや漏電によって火災につながる可能性もあります。

また、天井材が大量の水を含めば重量が増し、突然落下することがあります。バケツを置くことに気を取られ、膨らんだ天井の真下に長時間立ち続けるような対応は避けなければなりません。

まず人を安全な場所へ移し、電気設備への浸水や天井落下のおそれを確認します。電気設備の使用中止やブレーカー操作が必要になる場合もありますが、濡れた場所へ無理に近づかず、安全を確保したうえで判断します。

安全を確認した後は、バケツ、吸水材、防水シートなどを使って床や家財への二次被害をできるだけ抑えます。移動できる家具や家電は水の届かない場所へ移しますが、大型家具を無理に動かして転倒事故を起こすような対応は避けるべきでしょう。

著しい漏水によって電気設備や天井構造へ危険が及んでいる場合には、管理会社や設備業者だけでなく、消防などへの連絡が必要になる可能性があります。

漏水事故という言葉を聞くと、どうしても「水道を止めること」へ意識が向きます。

しかし、一枚フローの最初に安全確認を置く理由は、事故発生直後の短い時間ほど、設備ではなく人を先に見る必要があるからです。

②止水と緊急連絡を並行して進める

安全確認の後は、漏水量をできるだけ早く減らしながら、必要な関係者へ連絡します。

漏水元候補の止水方法を確認する

給水管や給湯管からの漏水が疑われる場合には、原因候補となる住戸の水道メーター付近にある止水栓などを確認します。

洗濯機の給水ホース外れ、水栓設備の故障、浴室設備の異常など、原因設備が目の前で明らかな場合には、その設備の使用を停止することで被害を抑えられる可能性があります。

一方、どのバルブを閉めればよいか分からないまま共用設備を操作すると、漏水していない住戸まで断水させるおそれがあります。

共用給水設備まで停止する必要がある場合には、管理会社や設備業者と連携して判断します。平常時には、各住戸の主な止水位置をどこまで案内できるのか、共用設備を停止するときの判断者は誰なのかまで確認しておくと安心です。

被害住戸と漏水元候補住戸へ連絡する

漏水事故では、被害住戸だけを見ていても原因は解決しません。

直上階だけでなく、配管経路によっては隣接住戸などが関係する可能性があります。まず被害状況を確認し、原因候補となる住戸へ事情を説明して、設備使用の停止や調査への協力を求めます。

その際、原因がまだ判明していないにもかかわらず「あなたの部屋から漏れています」と断定すると、相手が防御的になる可能性があります。

「現在、下階で漏水が発生しており、原因確認のため室内設備を確認させていただきたい」と、確認できている事実と依頼内容を分けて伝えるほうが、その後の調査にも協力を得やすくなるでしょう。

管理会社と理事会への連絡経路を固定する

管理会社へは、通常営業時間内の担当者だけでなく、夜間休日の緊急窓口へ連絡できるようにします。

ただし、24時間受付があることと、24時間すべての対応をしてくれることは同じではありません。事故受付のみなのか、現地出動を行うのか、専門業者を手配できるのかについて、管理委託契約で確認しておく必要があります。

理事長や担当理事への第一報についても、どの程度の事故で連絡を入れるのかを事前に決めておくと現場が迷いません。

特に、原因不明の調査費を管理組合が一時負担する場合や、専有部分への緊急立入りを検討する場合には、管理会社だけで判断できないケースがあります。

居住者名簿を漏水事故対応の基盤にする

上階のインターホンを鳴らしても反応がなく、管理会社が保有している電話番号にもつながらない場面で、初めて名簿の重要性を実感することがあります。

国土交通省は、居住者名簿を整備する意義として、設備点検や漏水事故などへの対応で専有部分への立入りが必要になった際、現在の居住者へ円滑に連絡できることを挙げています。

区分所有者の住所だけでは、事故現場で玄関を開けてもらえない場合があります。賃貸住戸については、所有者だけでなく、実際の居住者へ必要な連絡を取れる体制を検討することが大切です。

一方、名簿には個人情報が含まれます。

事故対応に使える状態へ整えることと、誰でも閲覧できる状態にすることは同じではありません。利用目的、保管方法、閲覧できる者、更新方法などを細則や運用ルールとして決めておく必要があります。

③写真を残して原因調査へ進む

止水できたからといって、事故対応が終わるわけではありません。

原因を修繕しなければ再び漏水する可能性があり、管理区分、保険、責任を整理するためにも、事故時の状態を客観的に残す必要があります。

被害住戸では「早く濡れた天井を外して元に戻してほしい」と感じるでしょう。生活への影響が続いている以上、その気持ちは自然です。

しかし、写真を残さず天井材や原因箇所を撤去してしまえば、後から保険会社や専門家へ事故当時の状況を説明しにくくなる可能性があります。

被害写真は広角と接写を残す

写真は、部屋全体と被害箇所の位置関係が分かる広角写真だけでは不十分です。

天井や壁の染み、床の濡れ、家財への被害、原因候補箇所などが分かる接写も残します。可能であれば、発見時刻、撮影時刻、止水時刻、水量の変化なども記録します。

スマートフォンで撮影した写真でも、何も残っていない場合と比べれば、その後の説明のしやすさは大きく変わります。

ただし、写真だけから原因を決めつけないことも重要です。

水は梁やスラブ、配管周囲などを伝って移動するため、水が出ている場所と、本当の漏水原因が離れている可能性があります。

原因不明時は専門業者による調査へ進む

原因が明らかでない場合には、漏水調査の経験を持つ給排水設備業者や建築診断業者などへ依頼します。

給水管や給湯管では、配管に圧力をかけて圧力低下を確認する試験が行われる場合があります。漏水状況によっては、着色水、赤外線サーモグラフィ、ファイバースコープなどを用いる調査も考えられます。

非破壊調査だけでは原因が確定せず、必要最小限の開口調査へ進むこともあるでしょう。

重要なのは、特定の調査方法を万能と考えないことです。建物構造、配管経路、水の出方などを確認し、専門業者が必要な調査方法を組み合わせます。

調査報告書では事実と推定を分ける

調査後に「たぶんこの配管でしょう」という口頭説明だけが残っていると、後から保険や責任について話し合う段階で認識のずれが生じます。

報告書には、調査した範囲、実施した試験、確認できた事実、原因として有力と考えられる事項、追加確認が必要な事項を分けて記載してもらうと整理しやすくなります。

原因調査は、誰かを責めるための手続ではありません。

被害住戸にも漏水元候補住戸にも、「責任を決める前に、まず何が起きているのかを確認するための調査です」と説明することで、不要な対立を小さくできる可能性があります。

④原因調査後に専有部分と共用部分を確認する

漏水原因が見えてきたら、次に行うのが管理区分の確認です。

この工程を原因調査と分けているのには理由があります。

原因調査で分かるのは、「どの配管や部位から水が漏れたのか」という技術的な事実です。一方、その部分を誰が管理するのかは、管理規約、別表、配管構造、設置位置などを確認して判断する必要があります。

④原因調査後に専有部分と共用部分を確認する 原因調査 「どの配管や部位から水が漏れたのか」という技術的な事実 管理区分の確認 その部分を誰が管理するのか
この工程を原因調査と分けているのには理由があります。

ここで避けたいのが、「室内だから専有部分」「パイプスペースだから共用部分」「枝管だから専有部分」と、名称や見た目だけで決めることです。

標準管理規約別表第2の配管区分を確認する

令和7年改正版マンション標準管理規約では、第8条と別表第2に共用部分の範囲が示されています。

給水管については、本管から各住戸メーターを含む部位が共用部分の例として挙げられています。雑排水管と汚水管については、配管継手及び立て管が共用部分の例として示されています。

したがって、「立て管は共用部分で枝管は専有部分」とだけ整理すると、実際の規約上の区分を単純化し過ぎる可能性があります。

給水設備であれば、各住戸メーターの位置と、その前後を自マンションの管理規約がどのように定めているのかを確認します。

排水設備についても、立て管から分岐しているという理由だけで、すべての枝管が一律に専有部分となるわけではありません。

スラブ下の排水枝管は構造まで確認する

築年数が経過したマンションでは、上階住戸で利用する排水枝管が床スラブを貫通し、下階住戸の天井裏を通って排水立て管へ接続されている構造があります。

上階住戸だけが使っている配管であれば、「上階所有者の専有部分ではないか」と考えたくなるでしょう。

しかし、最高裁平成12年3月21日判決では、特定住戸の排水に使用される枝管であっても、その設置場所や構造上、上階側から点検修理することができず、下階の天井裏から作業する必要があることなどを踏まえて、共用部分に当たると判断された事例があります。

これは、排水枝管がすべて共用部分になるという意味ではありません。

重要なのは、枝管という名称だけでは判断できず、配管がどこを通っているのか、誰が現実に点検修理できるのか、管理規約がどのように定めているのかを確認する必要があることです。

そのため、竣工図、設備図、管理規約、過去の修繕履歴などを照合し、必要に応じて設備専門家や法律専門家へ確認します。

修繕主体と損害賠償責任を混同しない

管理区分を確認するときには、修繕主体と損害賠償責任を分けて考えることも重要です。

原因箇所が共用部分であり、管理組合が修繕することになったとしても、漏水事故によって生じたすべての損害について自動的に同じ結論になるとは限りません。

反対に、原因箇所が専有部分だったとしても、その区分所有者が当然にすべての損害を賠償すると断定することも避けるべきです。

たとえば、民法709条に基づく不法行為責任を問題とする場合には、故意や過失などの要件を確認する必要があります。壁や床の内部に隠れており、通常の生活では劣化を把握しにくい配管の自然劣化であれば、所有者に過失が認められるかどうかが問題になる可能性があります。

一方、民法717条、管理規約、契約関係、保険など、別の法的な整理が必要になる場合もあります。

だからこそ、管理区分を確認した後も、原因箇所の修繕主体、原因調査費の負担、被害に対する損害賠償、保険適用を分けて整理します。

⑤保険確認から修繕と事故記録までつなげる

原因調査と管理区分の確認を進めながら、管理組合が加入している保険や関係する区分所有者側の保険も確認します。

原因が完全に確定するまで保険会社への連絡を待つ必要があるとは限りません。事故発生後の比較的早い段階で保険会社や代理店へ連絡し、必要な写真や資料を確認しておけば、後から資料を集め直す負担を減らせます。

原因調査費用に関する補償を確認する

マンション向けの保険には、契約内容によって漏水原因調査費用に関する補償が付帯されている場合があります。

ただし、対象事故、調査内容、開口費用、調査後の復旧費、免責金額、支払限度額などは保険契約によって異なります。

「マンション総合保険に加入しているから原因調査費も当然に補償される」と考えるのではなく、現在の保険証券と約款を確認します。

賠償責任に関する保険を確認する

共用部分の設置や保存の瑕疵などによって他者へ損害を与え、管理組合が法律上の損害賠償責任を負う場合には、契約内容によって賠償責任に関する補償が利用できる可能性があります。

居住者の過失による漏水では、個人賠償責任に関する保険が関係する場合もあります。

ただし、法律上の責任があることと、保険金が支払われることは同じではありません。

法的責任を確認したうえで、具体的な補償可否は保険会社へ確認します。

応急処置と本修繕と内装復旧を分ける

漏水事故では、被害を見た瞬間に「全部すぐ元に戻してほしい」と思うのは自然です。

それでも、応急止水、原因箇所の本修繕、被害住戸の内装や家財の復旧では、工事目的と費用負担の考え方が異なる場合があります。

まず被害を止めるための応急措置を行い、原因を確認して本修繕へ進み、その後に内装等の復旧を進めると整理しやすくなります。

応急処置と本修繕と内装復旧を分ける 応急措置 原因を確認して本修繕 内装等の復旧
まず被害を止めるための応急措置を行い、原因を確認して本修繕へ進み、その後に内装等の復旧を進めると整理しやすくなります。

保険会社による写真確認や現場確認が必要な場合もあるため、本復旧を急ぐときほど保険会社へ確認してから進めることが重要です。

修繕後は事故台帳へ記録する

事故が収束すれば、理事会でも「ようやく終わった」という安堵が広がるでしょう。

しかし、そこで資料を閉じてしまえば、数年後に同じ配管系統で漏水が起きたとき、また最初から原因を探すことになります。

事故発生日、発見時刻、被害住戸、原因箇所、管理区分、調査方法、修繕内容、費用、保険金、写真、調査報告書などを事故番号とともに保存します。

事故履歴が蓄積すれば、同じ系統で漏水が繰り返されていないかを確認できます。

それは単なる事故記録ではなく、配管更新時期を検討する長期修繕計画の資料になり、保険更新時には過去の事故発生状況を確認する材料にもなります。

漏水事故前に管理組合が決めておくべき実務項目

ここまでは事故発生後の流れですが、その通りに動くには、事故が起きていない平常時に役割と権限を決めておかなければなりません。

漏水が始まってから調査費の負担ルールを話し合おうとすると、すでに被害を受けた住戸と、原因を疑われている住戸が存在しています。

被害住戸からすれば「なぜ事故が起きてから会議をしているのか」と感じるでしょうし、他の区分所有者からは「原因も分からない事故へ管理組合のお金を使ってよいのか」という意見が出る可能性があります。

まだ誰も当事者ではない平常時に決めるからこそ、中立的なルールを作りやすくなります。

緊急連絡先

管理会社、理事長、副理事長、担当理事、給排水設備業者、漏水調査業者、保険会社または保険代理店の連絡先を一つの資料へまとめます。

管理会社については夜間休日の連絡先だけではなく、その窓口が事故受付のみなのか、現地へ出動するのか、専門業者まで手配できるのかを管理委託契約で確認します。

居住者については、区分所有者と実際の居住者の双方へ必要な連絡を取れる体制を検討します。

海外居住者がいる場合には、国内管理人制度なども踏まえ、緊急時に国内で誰へ連絡すればよいのかを確認しておくと実務で役立ちます。

原因調査業者の手配方法

漏水事故が起きた夜に初めてインターネットで業者を探すと、調査実績、夜間料金、報告書の内容まで落ち着いて比較する余裕はありません。

平常時に管理会社と協議し、給排水設備業者や漏水調査業者の候補を確認しておきます。

第一候補へ連絡できない場合に備え、複数の候補を用意しておくと安心です。

また、原因不明の一次調査を誰が発注できるのかも決めておきます。

管理組合または委託を受けた管理会社が調整役となる運用を採用する場合には、その発注権限、費用上限、事後報告の方法まで整理します。

住戸への立入り方法

2026年現在の漏水事故対応では、専有部分への立入りと保存行為について平常時に確認しておく重要性が高まっています。

令和7年改正版マンション標準管理規約第23条では、管理上必要な範囲で他の者が管理する専有部分等への立入りや、保存行為の実施を請求できる規定例があります。

また、災害や事故が発生し、緊急に立入りや保存行為を行わなければ共用部分や他の専有部分へ重大な影響を与えるおそれがある場合には、理事長が立入りや保存行為を行うことを想定した規定例も設けられています。

国土交通省のコメントでは、専有部分で大規模な水漏れが生じ、放置すると他の専有部分や共用部分へ重大な影響を与える場合も想定されています。

ただし、標準管理規約は各マンションの規約そのものではありません。

自マンションの管理規約に同様の規定が入っているかは別途確認する必要があります。

また、緊急時だから何でも自由にできるという意味でもありません。

所有者や居住者への連絡経過、緊急性、必要性、実施者、必要最小限の措置、立入り後の記録や原状回復までを運用手順として定めておくことが重要です。

調査費の一時負担ルール

漏水事故の初動が止まりやすい理由の一つが、原因調査費を誰が支払うのかという問題です。

原因が分からないから調査したいのに、「原因者が払うべきだ」と先に決めようとすると、原因者がまだ分からないため誰も発注できないという状態に陥ります。

その間に水が広がれば、結果として復旧費まで大きくなる可能性があります。

そこで、原因不明で共用部分が関係する可能性を排除できない事故について、一定の条件と金額上限のもとで管理組合が調査を先行手配する運用が考えられます。

調査後に原因、管理区分、保険、過失などを確認し、最終的な費用負担を整理します。

この制度を設ける場合には、一時負担は最終的な法的責任や費用負担を確定するものではないことをマニュアルや細則へ明記しておくと、後の誤解を減らせます。

写真と報告書と事故履歴の保存方法

事故資料は管理会社へ任せきりにせず、管理組合として引き継げる形で保存します。

担当理事のスマートフォンだけに写真が残っていれば、役員交代や端末変更によって確認できなくなる可能性があります。

電子データで保存する場合には、「2026-001 漏水事故」のように年度と事故番号を付け、写真、調査報告書、見積書、請求書、保険資料、修繕完了報告書を一つのフォルダへまとめる方法があります。

事故後には、工事内容だけではなく、連絡に時間がかかった部分、業者手配で迷った点、保険資料で不足していたものなども残します。

次の事故が起きたときに「前回どこで判断が止まったのか」まで分かれば、事故履歴がそのままマニュアル改善の材料になります。

2026年の区分所有法改正で確認しておきたい点

2026年4月1日に施行された改正区分所有法では、マンション管理実務に関係する複数の制度が見直されています。

漏水事故との関係では、専有部分等の使用と保存、共用部分と専有部分を一体的に管理する場面、国内管理人制度などを確認しておきたいところです。

保存行為と専有部分への対応

改正区分所有法第6条2項では、区分所有者が自己の専有部分または共用部分を保存し、または改良するため必要な範囲で、他の区分所有者の専有部分等を使用し、または自ら保存することを請求できる規定が置かれています。

この改正を踏まえ、令和7年改正版マンション標準管理規約でも、立入りや保存行為に関する規定が整理されています。

国土交通省のコメントでは、専有部分内の配管から漏水が発生して共用部分へ被害が生じている場合に、漏水元の専有部分へ立ち入り、保存行為として漏水箇所を補修する場面も示されています。

ここで理解しておきたいのは、「専有部分の設備だから管理組合は一切関われない」という整理では対応できない事故があることです。

一方、管理組合が保存行為を実施できることと、最終的な修繕費や損害賠償責任を管理組合が負担することは別問題です。

共用設備と専有設備の一体修繕

給排水設備は、共用部分と専有部分の設備が接続され、一つの系統として機能しています。

築年数が進み、各住戸の配管でも漏水事故が増えているマンションでは、共用部分の配管更新に合わせて専有部分側の設備まで一体的に修繕することが合理的な場合があります。

令和7年改正版マンション標準管理規約では、専有部分に属する設備のうち、共用部分と構造上一体となっている部分について、一定の条件のもとで共用部分の管理と一体として保存行為等を行う考え方が整理されています。

ただし、専有部分の修繕費用を管理組合がどこまで負担するのかについては、規約上の根拠、修繕積立金の使用、公平性などを慎重に検討する必要があります。

国内管理人と緊急連絡体制

改正区分所有法第6条の2では、国内管理人制度が設けられています。

海外に居住する区分所有者がいるマンションでは、漏水事故が発生しても本人へ短時間で連絡できないことがあります。

国内管理人が選任されていれば、一定の管理行為や通知について国内の窓口を確保できるため、漏水事故のような緊急時にも実務上の意味を持つ可能性があります。

ただし、海外居住区分所有者すべてについて法律上当然に国内管理人の選任が義務付けられるわけではありません。

自マンションの所有者構成を確認し、必要に応じて管理規約や届出制度の整備を検討します。

2026年最高裁判決で確認する共用部分漏水の責任

2026年1月22日の最高裁第一小法廷判決は、マンションの共用部分から発生した漏水について管理組合の法的立場を考えるうえで重要な判断です。

この事件では、外壁コンクリート躯体部分や床下スラブ部分の亀裂等によって専有部分へ漏水が発生し、区分所有法3条前段の区分所有者の団体が民法717条1項本文の「占有者」に当たるかどうかが争われました。

最高裁は、共用部分については基本的に区分所有者の団体が支配管理し、通常有すべき安全性を確保していくことが予定されているとして、特段の事情がない限り、区分所有者の団体が共用部分について民法717条1項本文の占有者に当たると判断しています。

この判決によって、管理組合が共用部分の支配管理主体として民法717条上の責任主体になり得ることが明確になりました。

しかし、ここから「共用部分から漏水すれば管理組合が必ず全額賠償する」と一般化することはできません。

最高裁が直接判断した中心的な論点は占有者性であり、当該事件についても損害額等をさらに審理するため東京高裁へ差し戻されています。

個別の事故で損害賠償責任を判断する場合には、設置または保存の瑕疵、損害との因果関係、損害額、具体的な事実関係などを確認する必要があります。

この判決を知った理事の中には、「これからは共用部分の事故が起きたら管理組合がすべて責任を負わなければならないのではないか」と不安を感じる人もいるでしょう。

しかし、管理組合に求められているのは、判決を恐れて事故のたびに責任を認めることではありません。

共用部分をどのように点検し、異常を把握したらどう修繕し、事故発生後にはどのような初動を取り、その経過をどう記録したのかを説明できる管理体制を整えることです。

匿名化モデル事例で見る漏水事故対応マニュアルの使い方

ここでは特定の相談案件そのものではなく、実際のマンションで起こり得る論点を組み合わせた匿名化モデル事例として考えます。

築38年で50戸程度のマンションにおいて、3階住戸の和室天井から広範囲な漏水が発生したとします。天井材は大量の水を含み、畳や家具にも被害が広がっており、居住者は通常の生活を続けることが難しい状態です。

管理会社が直上階へ連絡したところ、所有者は「自宅の床には水がなく、設備も普通に使えているため、自分の部屋が原因とは思えない」と調査への立入りに難色を示しました。

被害住戸では「一日でも早く直してほしい」という焦りが強くなっています。一方、直上階の所有者は、まだ原因も分からない段階で床を解体され、高額な調査費や修繕費を請求されるのではないかと不安を感じています。

マニュアルがなければ、理事会は両者の感情の間に挟まれながら、その場で一つずつ判断することになります。

しかし、公式フローが整備されていれば、まず被害住戸の安全を確認し、必要な養生と止水を行います。同時に管理会社、理事長、原因候補住戸へ連絡し、被害状況を写真で記録します。

その後に原因調査へ進みます。

竣工図や設備図を確認すると、上階住戸で使用する排水枝管が床スラブを貫通し、下階の天井裏を通って排水立て管へ接続されている構造だったとします。

ここで「上階だけが使っている枝管だから上階の専有部分」と即断しません。

平成12年最高裁判決の考え方も踏まえ、配管の位置、点検修理の方法、管理規約を確認し、原因調査の後に管理区分を確認するという公式フローどおりに進めます。

原因調査については、事前に定めた一時負担ルールに従って専門業者を手配します。

最初から大規模な解体を行うのではなく、被害住戸側から確認できる範囲で赤外線やスコープなどを使用し、必要となった場合に最小限の開口調査へ進みます。

直上階の所有者にも、「責任を決めるために調査するのではなく、まず原因を確認するための調査であり、調査へ協力したことや一時的に費用を負担したことだけで最終責任が決まるわけではない」と説明します。

この説明があるだけでも、「調査に応じたら自分の責任を認めたことになるのではないか」という心理的な抵抗を小さくできる可能性があります。

調査の結果、スラブ下の排水枝管に老朽化による亀裂が確認された場合には、次の工程として管理区分を正式に確認します。

その配管が管理規約と建物構造上共用部分に当たると判断された場合には、管理組合による配管修繕を検討します。

一方、被害住戸の天井、畳、家具などについて誰がどこまで負担するかは、管理区分だけで自動的に決まりません。保険契約を確認し、損害賠償まで問題になる場合には法律専門家への確認も行います。

事故が収束した後は、結果だけでなく、公式フローのどこで時間がかかったのかを理事会で確認します。

安全確認はできたか、止水と連絡を並行できたか、必要な写真を残せたか、原因調査を費用問題で止めなかったか、管理区分の判断に必要な資料はそろっていたかという一連の流れを振り返れば、次に直すべき部分が見えてきます。

この事例で重要なのは、法律解説をもう一度繰り返すことではありません。

マニュアルを使用することで、安全確認から原因調査までは被害を止めるために進め、その後に管理区分と責任を落ち着いて整理できるという実務上の意味が見えることです。

理事会で確認する漏水事故対応チェックリスト

長いマニュアルを最初から作る前に、現在の管理体制で何が決まっており、何が決まっていないのかを確認します。

次の表は、そのまま理事会で不足事項を確認するためのチェックリストとして使えます。

点検項目 確認する内容 現状 改善の具体策
安全確認手順 感電や天井落下などを含む最初の安全確認がマニュアルにあるか □整備済 □未整備 一枚フローの最初に安全確認と避難判断を明記します
緊急立入り規定 自マンションの規約に緊急時の立入りと保存行為の規定があるか □整備済 □未整備 標準管理規約第23条と照合して規約改正の必要性を検討します
居住者連絡体制 区分所有者と実際の居住者へ緊急連絡できるか □整備済 □未整備 年1回以上の名簿確認方法と変更届の運用を整備します
海外所有者対応 海外居住者との連絡方法や国内管理人の扱いを整理しているか □整備済 □未整備 国内管理人制度を踏まえて規約と届出方法を検討します
夜間緊急業者 夜間休日に一次対応できる業者が決まっているか □整備済 □未整備 第一候補と予備業者をマニュアルへ登録します
原因調査手配 原因不明時に誰が専門業者を発注するか決まっているか □整備済 □未整備 管理組合と管理会社の役割を管理委託契約と照合します
管理区分確認 原因箇所判明後に規約や設備図を確認する担当と手順があるか □整備済 □未整備 管理規約、別表、竣工図、修繕履歴の確認手順を決めます
調査費一時負担 原因不明時の調査費を先行負担する条件と上限があるか □整備済 □未整備 一時負担と最終負担を分けた運用ルールを作ります
保険契約 原因調査費や賠償責任の補償内容を確認しているか □整備済 □未整備 現在の保険証券と約款を保険会社や代理店と確認します
緊急発注権限 理事長や管理会社が緊急発注できる範囲が明確か □整備済 □未整備 金額上限と事後報告方法を定めます
写真記録 被害写真と原因箇所をどのように残すか決まっているか □整備済 □未整備 広角と接写を含む写真保存ルールを決めます
事故台帳 過去の漏水事故を一元的に確認できるか □整備済 □未整備 事故番号を付けて原因、管理区分、修繕内容を蓄積します
事後検証 事故後にマニュアルを見直す仕組みがあるか □整備済 □未整備 事故後最初の理事会で対応レビューを行います

未整備の項目が多ければ、「これまで何もできていなかったのではないか」と不安になる理事もいるでしょう。

しかし、チェックが付かないこと自体が問題なのではありません。

今まで担当者の経験や管理会社任せになっていた部分が、具体的な改善項目として見えるようになったことに意味があります。

最初は、安全確認を含む一枚フロー、夜間緊急連絡先、原因不明時の調査手配という三つから確認すると進めやすくなります。

その後、管理区分の確認手順、保険、立入り、事故台帳へ範囲を広げれば、一度の理事会で抱える検討量も大きくなりません。

数か月後に同じチェックリストを使い、未整備項目が減っていれば、管理組合の事故対応力が実際に変わったことを確認できます。

マンション管理士が支援できること

漏水事故は給排水設備の問題に見えますが、実際には管理規約、区分所有法、管理委託契約、保険、居住者名簿、理事会権限など複数の領域が重なっています。

理事会だけで整理しようとすると、「設備業者には規約まで聞けない」「管理会社へ相談しても損害賠償の法律判断まではできない」という境界部分で話が止まりやすくなります。

漏水事故対応マニュアルの整備

マンション管理士には、現在の管理規約、管理委託契約、管理体制などを確認しながら、事故時の役割分担やマニュアルを整理する支援を相談できます。

安全確認、緊急連絡、業者手配、管理区分確認、立入り、調査費の一時負担、事故記録など、管理組合として事前に決める事項を抽出し、必要に応じて規約や細則の見直しへつなげます。

専有部分と共用部分の論点整理

配管事故では、管理規約だけでなく、竣工図、設備図、配管の設置位置、点検修理の方法などを確認する必要があります。

特にスラブ下配管のように、使用する住戸と点検修理できる位置が一致しない場合には、平成12年最高裁判決なども踏まえて論点を整理する必要があります。

マンション管理士はこうした管理実務上の整理を支援できますが、具体的な法律紛争における最終的な法的責任の判断や、当事者を代理して損害賠償交渉を行うこととは区別しなければなりません。

法的な争いが具体化している場合には、弁護士へ確認することが必要です。

保険と専門家の役割を整理する

加入保険について、漏水事故でどの補償項目を確認する必要があるのかを整理する支援も考えられます。

一方、個別の保険商品について実際に補償対象となるかは、保険会社や保険代理店へ確認する必要があります。

管理組合にとって大切なのは、すべてを一人の専門家へ任せることではありません。

原因調査は設備専門家、保険適用は保険会社、具体的な損害賠償紛争は弁護士というように、誰へ何を確認するのかを事前に整理しておくことが重要です。

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原因調査は設備専門家、保険適用は保険会社、具体的な損害賠償紛争は弁護士というように、誰へ何を確認するのかを事前に整理しておくことが重要です。

マンション漏水事故対応のよくある質問

漏水原因が分からない場合は誰が調査を依頼しますか

すべての漏水事故で管理組合が調査を発注しなければならないという共通ルールはありません。

ただし、原因が不明で共用部分が関係している可能性もあり、複数住戸へ被害が広がっている場合には、管理組合または管理会社が調整役となり、専門業者を手配する運用が考えられます。

事故が起きてから発注主体を話し合うと調査が遅れるため、自マンションの規約と管理委託契約を確認し、原因不明時の一次調査を誰が発注するのか事前に決めておくとよいでしょう。

原因調査費用は誰が負担しますか

最終的な負担は、原因、管理区分、過失、管理規約、保険契約などによって変わる可能性があります。

そのため、初動段階では一時負担と最終負担を分けて考えます。

一定の条件のもとで管理組合が原因調査費を先行負担し、原因と管理区分が判明した後に保険や法的責任を踏まえて整理する方法もありますが、管理組合が先に支払ったことだけで最終負担者が決まるわけではありません。

上階の住戸と連絡が取れない場合はどうしますか

区分所有者、実際の居住者、登録されている緊急連絡先など、適切に保管している連絡先から接触を試みます。

海外居住区分所有者について国内管理人が選任されている場合には、その連絡先も確認します。

それでも連絡が取れず、漏水を放置すれば他住戸や共用部分へ重大な影響を与える可能性がある場合には、自マンションの管理規約に定められた緊急立入りや保存行為の規定を確認して対応します。

漏水元の住戸へ立入りできますか

原則として、まず所有者や居住者へ事情を説明し、調査や立入りへの協力を求めます。

令和7年改正版マンション標準管理規約第23条には、管理上必要な範囲で専有部分等への立入りや保存行為を請求する規定例があり、一定の緊急時に理事長が立入りや保存行為を行う規定例も示されています。

ただし、標準管理規約の存在だけで、どのマンションでも無条件に入室できるという意味ではありません。

自マンションの管理規約、事故の緊急性、本人への連絡経過、必要性などを確認することが重要です。

管理組合の保険で原因調査費用は補償されますか

補償されるかどうかは、加入している保険契約によります。

原因調査費用を対象とする補償が付帯されている場合でも、対象事故、調査内容、開口費や復旧費の扱い、免責金額、支払限度額などは契約ごとに異なります。

事故が起きる前に保険証券と約款を確認し、保険会社や代理店へ事故受付の方法や必要資料まで確認しておけば、実際の事故時に迷いにくくなります。

マンション管理士にはどこまで相談できますか

漏水事故対応マニュアル、管理規約や細則、管理委託契約との役割分担、居住者名簿、事故記録、理事会で検討する事項などについて相談できます。

さらに、竣工図や管理規約から専有部分と共用部分の論点を整理し、設備業者、保険会社、弁護士などへ確認すべき事項を明確にする支援も考えられます。

漏水原因そのものの技術的な特定は設備専門家などが担い、具体的な損害賠償紛争については弁護士へ相談するという役割分担が必要です。

漏水事故対応マニュアルを理事会で動かす第一歩

漏水事故への備えを考えると、管理規約、保険、名簿、業者、事故台帳まで確認することが多く、どこから手を付ければよいのか分からなくなるかもしれません。

そこで最初の理事会では、三つの事項から確認すると進めやすくなります。

まず、安全確認から管理区分の確認まで含めた公式の一枚フローがあるかを確認します。

次に、夜間でも居住者、管理会社、専門業者へ連絡できる体制があるかを確認し、最後に、原因不明でも調査を始められる発注権限と一時負担ルールがあるかを整理します。

この三つが整えば、少なくとも事故発生直後に「責任者が分からないから何もできない」という状態に陥る可能性を小さくできます。

その後に、管理規約の立入り条項、管理区分確認の手順、加入保険、事故台帳を確認し、自マンションのマニュアルへ追加します。

実際に事故が発生した後には、結果だけを見るのではなく、公式フローのどの工程で時間がかかったのかを確認します。

安全確認で迷わなかったか、止水と連絡を並行できたか、必要な写真を残せたか、原因調査を費用問題で止めなかったか、管理区分を判断する資料がそろっていたか、保険会社へ必要資料を提出できたかという一連の流れを検証すれば、次に直すべき部分が具体的に見えてきます。

漏水事故対応マニュアルの価値は、文章量やページ数では決まりません。

担当理事が交代しても事故対応の経験が失われず、突然の漏水を前にした人が「まず何を確認し、その次に何をすればよいか」を理解できることにあります。

まとめ

マンションの漏水事故では、責任や費用負担を決めることより先に、人の安全を守り、被害拡大を防ぎ、原因を客観的に確認できる体制を整えておくことが重要です。

管理組合では、公式の事故対応フローを\*\*「漏水発生 → 安全確認・被害拡大防止 → 止水・緊急連絡 → 写真 → 原因調査 → 管理区分の確認 → 保険 → 修繕 → 事故記録」\*\*に統一し、どの資料を見ても同じ順序で動ける状態にしておきます。

そのうえで、緊急連絡先、業者手配、専有部分への立入り、原因不明時の調査費一時負担、管理区分確認、保険、事故記録について平常時からルールを整えておく必要があります。

2026年現在は、改正区分所有法、令和7年改正版マンション標準管理規約、2026年1月22日最高裁判決を踏まえることも重要ですが、法律知識を増やすこと自体が目的ではありません。

事故が起きたときに責任論で初動を止めず、安全確保と原因調査を進め、その後に管理区分と責任を落ち着いて整理できる管理組合へ変えていくことが、このマニュアルの主眼です。

最初から完璧な体制を完成させる必要はありません。

次回の理事会で一枚フローを確認し、連絡体制を点検し、原因不明時の調査手配を一つ決めるところから始めれば、その小さな積み重ねが次の漏水事故で大きな差になります。

次回の理事会で一枚フローを確認し、連絡体制を点検し、原因不明時の調査手配を一つ決める 一枚フローを確認 連絡体制を点検 原因不明時の調査手配を一つ決める
次回の理事会で一枚フローを確認し、連絡体制を点検し、原因不明時の調査手配を一つ決めるところから始めれば、その小さな積み重ねが次の漏水事故で大きな差になります。

参考資料

本文の主軸となる区分所有法については、e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律で確認できます。

専有部分への立入り、保存行為、共用部分の範囲などについては、国土交通省 令和7年改正版マンション標準管理規約 単棟型を参照してください。

令和7年の標準管理規約見直しの考え方については、国土交通省 令和7年マンション標準管理規約の見直しで確認できます。

2026年1月22日の共用部分漏水に関する最高裁判決については、最高裁判所 令和6年受第385号 損害賠償等請求事件で判決全文を確認できます。

スラブ下の排水枝管について共用部分該当性が争われた平成12年3月21日最高裁判決の整理は、一般財団法人不動産適正取引推進機構 第9章マンションの区分所有者間の紛争等も参考になります。

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