「夜になると犬が何度も鳴いて眠れません」「廊下にペットの臭いが残っています」「このマンションはペット禁止だったはずなのに犬を飼っている住戸があります」。こうした相談が管理組合へ届いたとき、理事長や理事が最初に感じるのは、怒りよりも戸惑いかもしれません。
苦情を申し出た居住者は、管理組合へ相談するまでに何日も、あるいは何週間も我慢している可能性があります。夜中に何度も目が覚める、臭いが気になって窓を開けられない、エレベーターで犬と鉢合わせするのが怖いという状況が続いていれば、「どうしてもっと早く対応してくれないのか」と感じるのも無理はないでしょう。
一方、飼育者にも生活があります。犬や猫と長く暮らしている人にとって、ペットは単なる所有物ではなく、毎日の生活を共にしてきた大切な存在です。そのため「ペットが迷惑になっています」という言葉が、飼育方法への指摘ではなく、自分自身や暮らし方そのものを否定されたように聞こえる場合があります。
その間に立つ理事長や理事は、双方から異なる言葉を聞くことになります。苦情を申し出た側からは早急な対応を求められ、飼育者からは「一方の話だけで、なぜ私が悪いことになっているのですか」と反発されるかもしれません。
ここで管理組合が急いで「どちらが正しいのか」を決めようとすると、もともとは鳴き声や臭い、共用部分の使い方だった問題が、住民同士の不信や感情的な対立へ変わっていきます。
マンションのペットトラブルで最初に必要なのは、誰かを早く悪者にすることではありません。
現在有効な管理規約とペット飼育細則を確認し、苦情として聞いた内容と管理組合が確認できた事実を分け、改善してほしい行為を具体化します。その後、本当に状態が変わったかを確認し、改善しない場合に理事会で次の対応を協議し、必要な段階から専門家へつなぐことが基本です。
管理組合の対応は、苦情受付 → 規約確認 → 事実確認 → 当事者への通知 → 改善確認 → 理事会協議 → 専門家相談という流れで考えると整理しやすくなります。
ただし、この七段階をすべての案件で機械的に踏むわけではありません。人がかまれた場合や、攻撃性のある動物が共用部分で制御できない状態になっている場合には、安全確保を優先する必要があります。反対に、原因住戸すら確認できていない鳴き声なら、特定住戸への警告を急ぐより、発生状況の記録や一般的な注意喚起から始めたほうが適切なこともあるでしょう。
感情ではなく手順へ戻ることで、苦情を申し出た居住者のつらさを放置せず、それでも飼育者を最初から違反者と決めつけない対応がしやすくなります。
マンションで多いペットトラブル
マンションで発生するペットトラブルは、「ペットを飼っているから起こる」と単純に説明できるものではありません。同じ建物の中で生活時間や価値観の異なる人が暮らし、音や臭いに対する感じ方にも差があるところへ、飼育方法や共用部分の使い方に関する認識の違いが重なることで問題が表面化します。
マンション管理センターも、犬や猫の場合には鳴き声や臭いなどによって他人へ迷惑を及ぼすおそれがあることなどを挙げ、ペット飼育の可否や具体的なルールを管理規約や使用細則で整理することの重要性を示しています。
犬や猫の鳴き声と足音
ペットトラブルの中でも相談につながりやすいものの一つが、犬の鳴き声や室内を走り回る音です。昼間に数分だけ鳴く場合と、深夜や早朝に長時間繰り返す場合では周囲への影響がかなり異なるため、「犬が鳴いた」という一点だけでは管理組合の対応水準を決めにくいでしょう。
さらに難しいのは、飼育者自身が問題を把握していない場合があることです。飼育者が仕事へ出た後だけ犬が鳴いているのであれば、帰宅する頃には静かになっており、本人は本気で「うちの犬はほとんど鳴きません」と思っている可能性があります。
ところが隣の住戸では、同じ時間に毎日のように鳴き声を聞いているかもしれません。その居住者からすると「知らないはずがない」と感じるため、互いの認識が違ったまま話を始めると、「相手はうそをついている」という不信へ変わってしまいます。
管理組合が最初に確認するべきなのは、飼育者が良い人か悪い人かではありません。発生時間、頻度、継続時間、聞こえてくる場所などを整理し、どのような状態が起きているのかを少しずつ具体化します。
ペットの臭いと衛生問題
臭いについては、玄関付近に排せつ物の臭いが残る、換気をすると近隣住戸から臭気が入る、バルコニーへ抜け毛が飛んでくるといった問題があります。
臭いは音以上に感じ方の個人差が出やすいため、現場を確認した理事には「そこまで強い臭いではない」と感じられることもあるでしょう。しかし、相談者が窓を開けることをためらったり、洗濯物を外へ干せなくなったりしているのであれば、その人の生活には具体的な影響が出ています。
そこで「臭うか臭わないか」という感覚だけを争うのではなく、どこで感じるのか、時間帯に傾向があるのか、共用廊下にも影響しているのか、管理員など第三者でも確認できるのかを整理します。
また、ペットを飼っている住戸の近くで臭いがしたという理由だけで、その住戸を直ちに原因と決めつけることも避けます。排水設備やごみなど別の原因という可能性があるため、疑われていることと確認されたことは分けて考えなければなりません。
共用部分でのペットマナー
エントランスや廊下、階段、エレベーターなどの共用部分では、ペットを飼う人と飼わない人との距離が急に近くなります。
飼育者から見ればおとなしい犬でも、動物が苦手な人には近づいてくるだけで怖く感じられることがあります。アレルギーなど身体的な事情を抱えている居住者もいるでしょう。
ここで「もっとマナーを守ってください」とだけ注意しても、何を改善すればよいのかは十分に伝わりません。
自マンションのペット飼育細則に、共用部分では抱きかかえる、ケージへ入れる、短いリードで移動するといった条件が定められているなら、その規定と実際の行為を照らし合わせます。
「あの人は非常識だ」という人格評価から、「細則で定められた共用部分の使い方が守られているか」という管理上の問題へ戻すことで、管理組合も冷静な対応を取りやすくなります。
無断飼育と飼育条件違反
ペット禁止マンションで犬や猫を飼っている場合だけでなく、ペットの飼育そのものは認められているのに必要な届出をしていないケースもあります。
さらに、小型犬のみ、犬猫合わせて一定頭数までなどの条件を超えている場合もあるでしょう。
ここでは、すべてを「ペットの規約違反」と一つにまとめないことが重要です。
飼育自体が禁止されている問題と、飼育は可能だが届出をしていない問題では、管理組合が求める改善内容が異なります。何がどの規定に適合していないのかを分ければ、必要以上に強い対応を避けながら、具体的な是正へ進みやすくなります。
苦情を受けた管理組合が最初にすること
苦情を受けた理事長が最初に迷いやすいのは、「これは住民同士で解決する問題なのか、それとも管理組合として扱う問題なのか」という点です。
確かに、すべての隣人関係を管理組合が仲裁する必要はありません。しかし、何も確認せず「個人間の問題なので当事者同士で話してください」と返してしまうのも適切とは限らないでしょう。
まず、管理規約や使用細則への違反があるのか、共用部分の管理と関係するのか、共同生活の秩序や居住環境へ影響しているのかを確認します。その接点がある範囲で、管理組合として何を確認し、どこまで関与するべきかを判断します。
苦情人数より問題の中身を確認する
苦情を申し出ている人が一人しかいないという理由だけで、「個人的な確執でしょう」と判断するのは早すぎます。
隣接する一戸だけが、特定の住戸から継続的な鳴き声や臭いの影響を受けている場合があります。また、生活時間の違いによって、問題が起きる時間に在宅している人が限られていることもあるでしょう。
反対に、何人もの居住者が「迷惑だ」と言っているからという理由だけで、管理組合が自由な制裁を加えられるわけでもありません。
見るべきなのは苦情人数より、問題となる具体的な行為と管理上の根拠です。
管理規約とペット飼育細則を確認する
苦情を受けたとき、飼育者へ電話する前に現在有効な管理規約を確認します。
「昔からペット禁止だったと思う」「前の理事長は二匹までと言っていた」という記憶だけを根拠に動くと、後から異なる規定や過去の経過措置が見つかる可能性があります。
国土交通省は、各マンションが管理規約を作成または改正する際のひな型としてマンション標準管理規約を公表しており、現行版は2025年10月17日改正版です。標準管理規約は各マンションへそのまま自動適用される規約ではないため、実際のトラブルでは自マンションの現在有効な管理規約と使用細則を確認する必要があります。
現行の標準管理規約に関する考え方では、犬や猫などの飼育を認めるか認めないかという基本的な事項を規約で定め、飼育を認める場合には、種類や数、届出や登録、共用部分の利用方法、ふん尿の処理、飼育者の責任、違反時の措置などを具体化することが想定されています。
したがって、「ペット可」という言葉だけを見て終わるのではなく、具体的にどの条件で飼育できるのかまで確認します。
過去の議事録と管理委託契約を確認する
現在の管理規約だけでは判断できない場合には、過去の理事会議事録や総会議事録も確認します。
以前の規約変更時に既存飼育者への経過措置を設けていたり、特定の運用方法について総会で決議していたりする可能性があるためです。
飼育者から「前の理事会には認めてもらいました」と言われたとき、現在の役員が「そんな話は知りません」と返しても問題は解決しません。当時の記録を確認し、どのような判断がされ、それが現在も効力を持つのかを整理します。
管理会社へ管理業務を委託しているマンションであれば、管理委託契約も確認しておきます。苦情受付、掲示、通知文の作成など、管理会社へどこまで実務を依頼できるかは契約によって異なるからです。
苦情内容と事実関係を整理する
規約を確認したら、次は住民から聞いた苦情を、理事会が判断できる情報へ変えていきます。
ここで必要なのは、相談者の感情を取り除くことではありません。強い言葉の背景には、眠れない、窓を開けられない、共用廊下を通ること自体がつらいといった生活上の苦痛があるかもしれません。
そのつらさを受け止めながら、同時に事実と評価や推測を分けていきます。
感情を否定せず具体的な出来事へ変える
「隣の犬が四六時中吠えていて、もう限界です」と言われたとき、理事長としてはすぐ何とかしなければと思うでしょう。
ただし、その言葉をそのまま「隣の犬が四六時中吠えている」と管理組合の確認済み事実として記録すれば、意味が変わります。
そこで、いつ頃から始まったのか、どの時間帯に多いのか、一回につき何分ほど続くのか、毎日なのか特定の日だけなのかを聞きます。
相談者によっては、「そんな細かいことまで聞くのは、私の話を疑っているからですか」と感じるかもしれません。その場合には、「理事会で相手へ伝える以上、できるだけ正確な記録にしたいのです」と目的を説明するとよいでしょう。
たとえば「毎晩ずっとうるさい」という申出を、「申出者によると8月12日午後10時20分頃から約15分間、犬の鳴き声が断続的に聞こえた」と整理すれば、その後の状態と比較できます。
これは感情を消すための作業ではありません。感情だけを根拠として相手を違反者と決めないための作業です。
周辺住戸への聞き取りは中立的に行う
必要に応じて周囲の住戸へ確認する場合も、「○号室の犬がうるさいですよね」と尋ねれば、最初から答えを誘導することになります。
「最近この付近で犬の鳴き声について相談がありますが、気になる時間帯などはありますか」という程度の中立的な聞き方にしたほうがよいでしょう。
また、ほかの居住者から同じ苦情が出ていないからといって、最初の申出者の訴えが誤りだとも限りません。住戸の位置や在宅時間によって、影響の受け方が異なる可能性があります。
発生源を急いで断定しない
マンションでは音が壁や床を通じて伝わるため、聞こえてくる方向と実際の発生源が一致しないことがあります。
「上から聞こえるから真上の住戸に違いない」と判断して個別通知を送り、実際には別の住戸だったとなれば、元のペットトラブルとは別の住民間問題を生むことになります。
発生源を確認できない段階では、記録を続けたり、住民全体へ一般的な生活上の注意喚起を行ったりする方法があります。
管理組合に求められるのは、最も早く誰かを叱ることではありません。本当に改善するべき行為へ、間違えずに近づくことです。
匿名の苦情は情報の具体性で判断する
「私が言ったことだけは、相手へ絶対に伝えないでください」と相談されることがあります。
隣人関係が悪化することへの不安や、仕返しをされるのではないかという恐れが背景にあるのでしょう。
匿名であるという理由だけで、相談を一律に取り扱わないとする必要はありません。
共用廊下に排せつ物が残されているなど、管理員や理事が現場で確認できる問題であれば、申出者の名前が分からなくても対応できることがあります。
一方、鳴き声のように何度も追加確認する必要がある問題では、申出者へ再確認できないことで判断材料が不足する可能性があります。
見るべきなのは実名か匿名かという形式だけではなく、管理組合が判断するための具体的な情報があるかどうかです。
飼育者への注意と改善依頼をどう進めるか
規約と事実関係がある程度整理できたら、必要に応じて飼育者へ状況を伝えます。
この段階で重要なのは、できるだけ強い言葉を使うことではありません。何が問題となっており、どの状態を改善してほしいのかを相手が理解できる形にすることです。
| 段階 | 管理組合の対応 | 判断の中心 |
|---|---|---|
| 苦情受付 | 発生日時や状況を聞き取る | 感情と確認可能な事実を分ける |
| 規約確認 | 管理規約とペット飼育細則を確認する | 管理上の根拠を確かめる |
| 事実確認 | 記録や現地確認を行う | 原因と影響を急いで断定しない |
| 当事者への通知 | 全体周知または個別通知を選ぶ | 確認できている範囲に応じて方法を変える |
| 改善確認 | 通知後の状況を確認する | 通知したかではなく改善したかを見る |
| 理事会協議 | 改善しない場合の対応を決める | 個人判断から組織判断へ戻す |
| 専門家相談 | 規約運用や法的対応を相談する | 管理組合だけで判断できる範囲を超えたかを見る |
この流れも、必ず全体掲示を行った後でなければ個別通知をしてはいけないという意味ではありません。
共用部分で特定住戸による明確な細則違反を管理員が確認しているのであれば、全戸へ抽象的な掲示を何度も出すより、該当規定を示して個別に改善を求めるほうが問題に合っている場合があります。
反対に、発生源が分からない鳴き声の段階で特定住戸へ警告することは避けるべきでしょう。
人格ではなく行為について伝える
「飼い主として無責任です」と伝えても、相手には何を改善してほしいのか十分には伝わりません。
むしろ、自分自身を否定されたと感じて身構え、管理組合の話を聞かなくなる可能性があります。
そこで、「ペット飼育細則では共用廊下で抱きかかえることになっていますが、○月○日に犬を歩かせている状況が確認されました」というように、問題となった行為と規定を結びつけます。
管理組合が求めるべきなのは、人格について反省してもらうことではありません。
具体的な行動を改善してもらうことです。
飼育者側の事情を確認する理由
鳴き声や臭いについては、飼育者本人が状況を把握していない場合があります。
最初から「規約違反です」と断定するより、「この時間帯にこのような相談が寄せられていますので、飼育状況をご確認ください」と伝えたほうがよいケースもあるでしょう。
話を聞くと、高齢犬が体調を崩して夜間に鳴くようになった、最近迎えた犬が留守番に慣れていないなどの事情が分かることがあります。
事情があるから周囲が我慢しなければならないという意味ではありません。
原因を理解できれば、現実に可能な改善策を探しやすくなるということです。
改善してほしい状態を具体化する
「迷惑をかけないでください」とだけ言われても、飼育者側は何を変えればよいのか判断しにくいでしょう。
鳴き声であれば、問題が起きている時間帯を伝えたうえで、留守番時の環境、窓の開閉、生活リズム、必要に応じたしつけなどを見直してもらう方法があります。
床への振動が問題なら、防音マットなどの対策を本人に検討してもらうことも考えられます。
臭いであれば、排せつ物の処理、トイレやケージの清掃、換気方法などを見直してもらいます。
ただし、管理組合が特定の商品や特定の業者の利用まで当然に強制できるとは限りません。
何を購入させるかより、問題になっている状態をどこまで改善してほしいのかを共有することが重要です。
鳴き声と臭いと共用部分のケース別対応
同じペットトラブルでも、何が問題になっているかによって確認するポイントは変わります。
鳴き声と振動への対応
犬の鳴き声について苦情が届いた場合には、まず発生する時間帯を確認します。
平日の午前中だけ集中しているなら、飼育者が外出した後に起きている可能性があります。その場合、本人は鳴き声の程度を知らないかもしれません。
深夜や早朝に長時間続くのであれば、周囲の睡眠へ与える影響は大きくなりやすいでしょう。
ただし、「午後10時を過ぎたら一声でも規約違反」というような全国一律の単純な基準があるわけではありません。
時間帯、頻度、継続時間、自マンションの規約や細則、建物の構造や周囲への影響などを合わせて確認します。
管理組合は犬のしつけを行う専門家ではありませんので、原因を断定して特定の方法を押し付けるより、どの時間帯にどのような影響が生じているのかを伝え、飼育者側で必要な改善策を検討してもらうほうが役割として明確です。
臭いと衛生問題への対応
臭いでは、どこまで影響が広がっているかを確認します。
専有部分の内部だけなのか、玄関前まで出ているのか、共用廊下や近隣住戸へ流れているのかによって、管理組合が確認するべき範囲も変わります。
バルコニーは標準管理規約では専用使用権の対象となる部分として整理されていますが、実際には自マンションの管理規約や使用細則を確認する必要があります。
また、バルコニーでペットに関する行為をしただけで、全国一律に直ちに規約違反になるわけでもありません。
排せつ物、抜け毛、臭いなどについて細則が何を定めているか、他住戸へどのような影響が確認されているかを整理し、その範囲で改善を求めます。
共用部分でのルール違反への対応
共用部分について具体的な飼育ルールが定められていれば、管理組合としては対応の根拠を比較的示しやすくなります。
たとえば「共用廊下では犬を抱きかかえる」と明確に定めているにもかかわらず、繰り返し犬を歩かせている状況を確認したのであれば、その条項を示して改善を求めます。
ただし、大型犬の飼育を認めているマンションなのに、全ての犬へ抱きかかえだけを義務付けているなら、ルールそのものが現実の生活と合っていない可能性があります。
その場合には違反者を注意し続けるだけではなく、短いリードの使用、移動経路、エレベーターの利用方法など、実際に守ることのできるルールへ見直すことも検討します。
ルールは厳しければ厳しいほど機能するわけではありません。
住民が現実に守ることのできる境界線を示すことに意味があります。
規約違反のペット飼育だった場合
ペット禁止マンションで犬や猫を飼育していることが確認されると、理事会では「規約に禁止と書いてあるのだから、すぐに飼育をやめてもらうべきだ」という意見が出やすくなります。
規約違反が明確であれば、管理組合として是正を求める必要性は高まります。
しかし、違反が明確であることと、手続きを粗くしてよいことは同じではありません。
禁止対象と過去の経緯を確認する
最初に、現在の規約が具体的に何を禁止しているのかを確認します。
犬や猫だけなのか、小鳥や観賞魚などについて別の扱いがあるのか、身体障害者補助犬をどのように扱っているのかを読みます。
身体障害者補助犬法第11条では、国等以外の住宅管理者について、その管理する住宅に居住する身体障害者が補助犬を使用することを拒まないよう努めなければならないとされています。一般の愛玩目的のペットと身体障害者補助犬を同じものとして扱わない視点が必要です。
また、過去に飼育容認から禁止へ変更したマンションであれば、変更時に既存飼育者へ経過措置を設けていなかったかも確認します。
ペット禁止規約に関する裁判例の読み方
ペット禁止規約について検討する際には、東京高等裁判所平成6年8月4日判決が紹介されることがあります。
同判決では、具体的な被害が生じた場合だけに限定せず、動物飼育を一律に禁止する管理規約について当然に無効とはいえないとの判断が示され、その事件では対象となった犬の飼育が規約違反かつ共同の利益に反する行為と判断されました。公益財団法人不動産流通推進センターも、この判決を参照判例として紹介しています。
ただし、これは1994年の判決であり、現在から見るとかなり以前の個別事案についての判断です。
そのマンションにおける規約変更の経緯や飼育状況など、具体的な事情を前提として結論が出されていますので、「ペット禁止規約があれば現在の全ての事案でも必ず同じ結果になる」と一般化することはできません。
現在の案件では、自マンションの規約、規約制定や変更の経緯、既存飼育への経過措置、当事者の事情、現在の法制度などを個別に確認する必要があります。
古い裁判例は判断材料の一つですが、現在発生している全てのマンションのペットトラブルへそのまま当てはめる答えではありません。
本人の事情を聞く理由
規約違反の可能性が高い場合には、該当する条項を示しながら、いつから飼育しているのか、購入時や入居時にどのような説明を受けたのか、過去に管理組合へ相談や届出をしたことがあるのかを確認します。
この確認は、違反を容認するためではありません。
管理組合が把握していない過去の経緯があるかもしれませんし、後になって「説明する機会すら与えられなかった」という別の対立を生まないためにも意味があります。
法的措置を一本道で考えない
区分所有法には、共同の利益に反する行為について一定の要件のもとで法的措置を取る制度があります。
しかし、規約違反が確認されたからといって、「注意の次は差止め、その次は使用禁止、最後は競売」という自動的な順番で進むわけではありません。
措置ごとに必要となる事実や決議、裁判手続が異なります。
「何度も注意したから次は強制退去できる」と理事会だけで判断するのではなく、差止めなどの法的措置が現実的な選択肢になった段階で弁護士へ相談する必要があります。
もちろん、規約違反であったとしても、理事長や管理会社が勝手に専有部分へ入り、犬や猫を連れ出すこともできません。
問題が重大であるほど、管理組合自身が手続きを守る必要があります。
ペットトラブルをきっかけに規約を見直す場合の注意点
ここまでは、現在起きているマンションのペットトラブルへ管理組合がどう対応するかを中心に見てきました。
一方、同じ問題が何度も発生している場合には、個別注意だけを続けても根本的な改善につながらないことがあります。
「小型犬という言葉だけで基準がない」「理事会ごとに共用部分のルール解釈が変わる」「飼育届の制度があるのに誰も現在の飼育状況を把握していない」といった状態なら、住民のマナーだけでなく、現在の管理規約やペット飼育細則そのものを振り返る必要があるでしょう。
この段階になって初めて、規約改正や細則変更の手続が重要になります。
規約変更と細則変更を名前だけで分けない
国土交通省の標準管理規約では、ペット飼育の可否という基本的事項は規約で定め、具体的な手続などの細部を使用細則へ委ねることが想定されています。
そのため、届出様式、登録方法、共用部分での具体的な移動方法などは、ペット飼育細則で整備できる場合があります。
ただし、「細則という名前だから普通決議で何でも変更できる」と考えるのは危険です。
細則の制定や変更にどのような決議が必要かは、自マンションの現在有効な規約をまず確認します。また、文書の名称が「ペット飼育細則」であっても、実質的にペット飼育の可否や根本的な制限など、規約で定めるべき基本事項を変更する内容なら、単なる細則変更として処理できるとは限りません。
見るべきなのは文書の名称ではなく、変更によって区分所有者の権利や飼育の基本方針が実際にどう変わるかです。
区分所有法31条の現在の決議要件
2026年4月1日に施行された改正区分所有法第31条では、規約の設定、変更または廃止について、議決権を有する区分所有者の過半数であって、かつ議決権の過半数を有する者が出席することを原則的な定足数としています。
そのうえで、出席した区分所有者と、その出席者が有する議決権の各4分の3以上による決議が必要です。また、この定足数については、規約で法定割合を上回る割合を定めることも認められています。
ここで重要なのは、法律上の要件を確認しただけで「自分たちのマンションも必ずその数字だけでよい」と考えないことです。
自マンションの管理規約が法定割合を上回る定足数を定めていれば、その規定も確認する必要があります。
また、規約変更が一部の区分所有者の権利へ特別の影響を及ぼす場合には、その区分所有者の承諾が必要となることも区分所有法31条に定められています。
標準管理規約第47条はモデルとして確認する
現行のマンション標準管理規約第47条も、改正区分所有法に対応した規定例を示しています。
規約変更などの特別決議について、組合員総数の過半数であって議決権総数の過半数を有する組合員の出席を要し、そのうえで出席組合員とその議決権の各4分の3以上で決する形です。マンション管理センターも、改正法と現行標準管理規約の関係をこの内容で説明しています。
ただし、マンション標準管理規約は法律ではありません。
国土交通省が各マンションの規約作成や改正のために示しているひな型ですので、実際の規約改正では、区分所有法上の現在の要件 → 自マンションの現在の管理規約 → 標準管理規約の規定例という順で関係を整理すると誤解しにくくなります。
2026年4月1日前後は招集手続日も確認する
過去に2026年4月1日前後で規約改正を行ったマンションでは、総会開催日だけを見て旧制度か新制度かを判断しないことにも注意が必要です。
国土交通省は、規約改正を決議する総会について、2026年3月31日までに招集手続を行った場合と、同年4月1日以降に招集手続を行った場合とで手続が変わることを明示しています。特に4月1日以降に招集手続を行う場合には、改正区分所有法に対応した総会の定足数や決議要件を満たす必要があります。
現在、新たに規約改正へ着手する管理組合であれば既に改正法施行後の制度を前提にしますが、過去の改正手続を確認するときには、総会の開催日だけでなく招集手続の時期も確認します。
ペット飼育細則を見直したほうがよい状態
同じ種類のトラブルが何度も起きている場合には、住民だけを責める前に細則を読み直します。
「小型犬」としか書かれておらず大きさを判断する基準がない、飼育届制度があるのに台帳が長期間更新されていない、共用部分でどのように移動するかが曖昧、違反が起きた後にどのような手順で改善を求めるのか決まっていないといった状態は、見直しを検討するきっかけになります。
さらに、管理規約ではペット禁止と読める一方、古い細則では条件付き飼育を前提としているなど、文書同士が矛盾している場合もあります。
「前の理事会では認められたのに、今回は違反だと言われた」という話が繰り返されるのであれば、住民のマナーだけでなく、誰が読んでも近い判断へ到達できる規約体系になっているかを確かめる必要があります。
管理会社とマンション管理士と弁護士へ相談する目安
ペット問題が長引くと、「結局どの専門家に相談すればよいのか」という別の迷いが生じます。
管理会社、マンション管理士、弁護士はそれぞれ役割が異なるため、誰が一番優れているかではなく、現在どの種類の判断が必要なのかで使い分けます。
管理会社へ相談する段階
管理会社は、苦情が発生した直後から相談しやすい存在です。
管理員が確認した現場の状況を聞いたり、過去の苦情履歴を調べたり、掲示や通知の実務について相談したりできる場合があります。
ただし、管理会社がどこまで対応するかは管理委託契約によって異なります。
管理会社へ連絡したからといって、住民間の交渉や法的判断まで全て引き受ける義務が当然に生じるわけではありません。
管理組合が対応方針を決め、その方針に沿う実務を契約の範囲で管理会社へ支援してもらうという関係が基本になります。
マンション管理士へ相談する段階
訴訟になるような状態ではなくても、規約をどう読めばよいのか分からない、ペット飼育細則が現在の生活実態と合っていない、理事会内で対応方針が割れているという場合には、マンション管理士への相談が考えられます。
たとえば「ペット可という基本方針は維持したいが、共用部分でのトラブルを減らしたい」という問題であれば、どの部分を管理規約で扱い、どこを細則で具体化するべきかを整理する支援が考えられるでしょう。
この段階で専門家へ相談する目的は、誰かを言い負かすことではありません。
次に同じ問題が起きても、理事会が毎回ゼロから悩まなくてよい仕組みを作ることです。
弁護士へ相談する段階
通常の注意や改善依頼を重ねても問題が解消せず、規約の法的な有効性や具体的な権利義務について当事者間の見解が対立するようになった場合には、弁護士への相談を検討します。
たとえば、管理組合が規約上の根拠を示して改善を求めているのに、飼育者側が「その規約自体が無効なので従う必要はない」と主張している状況では、同じ通知を何度送っても話が平行線になる可能性があります。
また、鳴き声や臭いなどによる実害を理由に差止めや損害賠償を具体的に検討する段階や、訴訟へ進む可能性が現実的になった段階では、管理規約、総会議事録、苦情記録、これまでの通知、相手からの回答などを整理して弁護士へ相談することが重要です。
つまり、「一度注意を拒否されたら弁護士」という単純な基準ではありません。
管理組合だけでは法的評価や必要な手続きを安全に判断することが難しくなったかどうかが、一つの目安になります。
改善確認と記録を次の管理へつなげる
注意文を送った瞬間に「対応済み」として案件を閉じてしまうと、本当に何かが変わったのか分からなくなります。
住民が求めているのは、管理組合が一枚の通知を発送したという事実ではなく、夜中の鳴き声が減り、共用廊下の臭いが改善し、細則で定められた使い方が守られるようになることです。
そこで、一定期間後に状況を確認します。
「完全に鳴かなくなったわけではありませんが、夜中に長時間鳴くことはなくなりました」という変化が確認できれば、問題は改善方向へ動いている可能性があります。
そのような場合には、すぐさらに強い措置へ進むのではなく、少し経過を見るという判断も考えられるでしょう。
反対に、通知前と状態がほとんど変わらず、明確な規約違反も繰り返されているのであれば、その経過自体が次の理事会協議や専門家相談の重要な資料になります。
ここで記録が必要になります。
苦情を受けた日、申出内容、確認した規約、管理組合自身が確認できた事実、まだ確認できていない情報、相手へ通知した日、相手からの説明、その後の変化、理事会でどのような判断をしたのかを残しておきます。
役員が定期的に交代するマンションでは、今年の理事会が何か月もかけて得た経験も、記録がなければ数年後には失われます。
次に似た苦情が届いたとき、「以前にも同じようなことがあったらしいけれど、誰も何をしたか分からない」という状態になれば、また最初から同じ議論を繰り返すことになるでしょう。
一件のトラブルを処理して終わるのではなく、次の理事会が利用できる経験へ変える。
改善確認と記録は、そのための一続きの作業です。
管理組合がペット問題で避けたい対応
ペットトラブルが長く続けば、理事長や理事にも疲れがたまります。
何度説明しても状態が変わらないと、「もう少し強く言わなければ分かってもらえないのではないか」と感じることもあるでしょう。
そのようなときほど、管理組合として越えてはいけない線を確認する必要があります。
確認前に特定住戸を犯人扱いしない
相談者が「あの住戸で間違いありません」と確信していても、管理組合自身が確認できていなければ推測として扱います。
特に音の問題では、実際の発生源が予想していた住戸と違う可能性があります。
誤った住戸へ「あなたが原因です」と通知すれば、元のペットトラブルより大きな人間関係の対立を生むかもしれません。
急いで誰かへ注意することより、どこまで確認できているのかを把握してから動くことが重要です。
理事長個人の怒りで対応しない
何度も苦情を受けていると、「自分が直接行って話をつけよう」と思うことがあります。
しかし、理事長自身も同じマンションに暮らす一人の居住者です。訪問先で口論になれば、管理組合としての正式な対応なのか、個人的な住民間争いなのかが分からなくなります。
自マンションの規約が勧告や警告について理事会決議を求めているのであれば、その手続きを守ります。
伝える内容も「みんな怒っています」という感情より、確認された事実と規約上の根拠を中心にしたほうが、その後の対応を続けやすくなります。
氏名や部屋番号を掲示して制裁しない
規約違反が続くと、「部屋番号を掲示すれば本人も反省するのではないか」という意見が出ることがあります。
しかし、晒し上げを目的とした掲示は、プライバシーや名誉など別の問題を生む可能性があります。
住民全体への一般的な注意喚起と、特定住戸への個別対応は分けて考えるほうがよいでしょう。
規約違反なら必ず望む結果を得られると断言しない
規約違反が確認されたことと、管理組合が希望する法的な結果を必ず実現できることは同じではありません。
東京高裁平成6年8月4日判決のようにペット禁止規約について判断した裁判例はありますが、その結論は具体的な事案を前提としています。
「裁判をすれば必ず勝てる」「規約違反なら必ずペットを撤去させられる」と説明することは避けるべきです。
まして、管理組合や理事長の判断だけで居住者を強制的に退去させることもできません。
強い法的措置を検討するほど、管理組合だけで判断を完結させないことが重要になります。
ペット問題の実務想定事例
以下は、特定のマンション管理士が実際に担当した案件として紹介するものではありません。
管理組合で起こり得る状況をもとに、どのように問題を整理できるかを見るための想定事例です。
ペット禁止マンションで既存飼育への対応に迷うケース
ペット禁止マンションで猫を飼育している住戸があることが分かり、周囲から臭いについて苦情が寄せられたとします。
理事会は規約を確認し、飼育者へ是正を求めました。
しかし、飼育者は何年も一緒に暮らしている猫について「突然手放すことはできません」と反発します。
理事会には「規約を守らなければ意味がない」という思いがあり、飼育者には「大切な家族を捨てろと言われている」という感情があります。そのまま双方が強い言葉を重ねても、話は前へ進みにくいでしょう。
そこで、まず現在発生している臭いの問題について具体的な改善を求め、それとは別に、現在の規約、規約変更の経緯、既存飼育者への経過措置がないかを確認します。
そのうえで、既に飼育している動物に限った経過措置などを検討するのであれば、理事会の口約束で「今回だけ認める」と処理せず、ペット禁止という基本方針との関係や必要な規約変更手続について専門家へ確認する必要があります。
例外を作るかどうかだけではなく、なぜその判断をしたのかを数年後の理事会にも説明できる状態にしておくことが重要です。
ペット容認マンションで掲示だけでは改善しないケース
別のマンションではペット飼育を認めているものの、廊下での排せつ物やエレベーター利用について苦情が繰り返されているとします。
理事会はそのたびに「ペットマナーを守りましょう」という掲示を出しました。
ところが、同じ内容の掲示が続くうちに、住民からは見慣れた紙として読み飛ばされるようになり、問題もほとんど改善しなくなりました。
この場合、注意文の表現をさらに強くするだけではなく、細則そのものが具体的で分かりやすいかを確認する必要があります。
ペット飼育者同士で情報共有やマナー啓発を行う組織を検討する方法もありますが、加入義務、会費、清掃などの役割を定めるのであれば、管理規約や細則との整合、負担の公平性を確認しなければなりません。
問題を「守らない人が悪い」で終わらせず、そもそも住民が守りやすい仕組みになっているかを見ることで、管理組合の対応は個人への注意からマンション管理の改善へ進みます。
よくある質問
- 管理会社はペットトラブルを直接解決してくれますか?
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管理会社がどこまで対応するかは、管理委託契約によって異なります。
苦情受付、掲示、管理員による状況報告、通知文作成などを支援する場合はありますが、すべての住民間紛争について代理交渉や最終的な法的判断まで行う存在とは限りません。
管理組合が主体となって対応方針を決め、その方針に沿う実務を契約の範囲で管理会社へ支援してもらう形が基本になります。
- ペット禁止なのに飼っている住民にはどう対応しますか?
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まず現在有効な管理規約と使用細則、過去の規約変更、既存飼育者に関する経過措置などを確認します。
規約違反が確認できた場合には、該当する規定を示して本人の事情を確認したうえで必要な是正を求めます。
それでも改善せず、規約の有効性や差止めなどについて具体的な法的争いになった段階では、弁護士への相談を検討します。
- 鳴き声だけでも管理組合が注意できますか?
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規約やペット飼育細則との関係があり、共同生活への影響を確認できる場合には、注意や改善依頼を検討できます。
ただし、音は発生源を特定しにくいことがあるため、苦情を受けただけで特定住戸を違反者と断定するべきではありません。
発生日時や継続時間を記録し、原因が不明であれば全体への一般的な注意喚起を行うなど、確認できている範囲に応じて対応方法を選びます。
- ペット飼育細則がない場合はどうすればよいですか?
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まず管理規約本体でペット飼育についてどのような基本方針を定めているのかを確認します。
飼育を認めている一方で、種類、頭数、届出、共用部分の利用方法、違反時の対応などが定められていないのであれば、ペット飼育細則の整備を検討する価値があります。
マンション管理センターも、ペット飼育の可否を管理規約で定め、飼育を認める場合には使用細則などで具体的なルールを設ける考え方を紹介しています。
ただし、細則という名称であっても、実質的にペット飼育の可否など基本事項を変更する内容なら、単純な細則変更として処理できるとは限りません。
- マンション管理士と弁護士のどちらへ相談すべきですか?
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管理規約の整理、ペット飼育細則の見直し、理事会や総会の進め方など、管理組合の仕組みを整えることが中心であれば、マンション管理士への相談が考えられます。
一方、規約の有効性をめぐる具体的な争い、差止め、損害賠償、代理交渉、訴訟などが中心になっているのであれば、弁護士への相談が適しています。
「今後のルールを整える問題なのか」「現在起きている法的紛争を解決する問題なのか」と分けて考えると、相談先を整理しやすくなるでしょう。
マンションのペットトラブルで管理組合が目指すこと
ペットトラブルへ対応していると、理事長や理事は「どちらからも責められている」と感じることがあります。
苦情を申し出た居住者からは「管理組合の対応が遅い」と言われ、飼育者からは「そこまで言われる必要はない」と反発されるかもしれません。何をしても誰かに不満を持たれるように感じ、役員を引き受けたこと自体を後悔する人もいるでしょう。
それでも、管理組合が判断の軸を持てば、対応は少しずつ安定します。
現在の規約を確認し、相談者のつらさを聞きながら事実を整理し、問題となっている行為を具体化したうえで改善を求めます。その後の変化を確認し、必要なら理事会で次の対応を決め、自分たちだけでは判断しにくくなったところから専門家へつなぎます。
管理組合の役割は、ペットを飼う人と飼わない人のどちらかを勝たせることではありません。
同じ建物で暮らす人が予測できるルールを維持し、そのルールが現在の生活実態や法制度に合わなくなったのであれば、適切な手続で見直していくことです。
トラブルが起きたこと自体は望ましいことではありません。
それでも、曖昧だった規約に気づき、苦情受付の方法を整え、次の理事会にも引き継げる対応の流れを残すことができれば、一件の問題をマンション管理の改善へ変えることはできます。
まとめ
マンションのペットトラブルでは、苦情を受けた勢いのまま飼育者を責めるのではなく、規約確認 → 事実確認 → 改善依頼 → 改善確認という軸を失わないことが重要です。
改善しない場合には理事会で次の対応を協議し、規約運用や細則の見直しが中心ならマンション管理士、規約の有効性や差止めなど具体的な法的紛争へ進んだ場合には弁護士への相談を検討します。
また、同じ問題が繰り返されるのであれば、住民への注意だけで終わらず、管理規約やペット飼育細則が現在の生活に合っているかを確認する必要があります。
管理組合が目指すべきなのは、誰かを早く処罰することではありません。
苦情を申し出た人の生活を軽視せず、飼育者を最初から悪者にもせず、確認できる事実と現在のルールを基準として改善へ進むことです。
その判断方法を記録として次の役員へ残せれば、一件のトラブル対応は、そのマンションがこれから落ち着いて問題へ向き合うための仕組みに変わっていくでしょう。
参考資料
現行のマンション標準管理規約は2025年10月17日改正版です。管理規約を作成または改正する際のひな型として国土交通省が公表しています。
2026年4月1日施行後の区分所有法第31条を含む現在の条文を確認する一次資料です。規約変更の定足数と決議要件については、実際の規約改正時に最新条文を確認してください。
改正区分所有法第31条と現行マンション標準管理規約第47条について、管理規約の設定や変更に必要な決議要件を整理したマンション管理センターの資料です。
マンション内におけるペット飼育の可否やルール整備について、管理組合向けに整理された相談資料です。
住宅における身体障害者補助犬の使用について定める身体障害者補助犬法第11条を確認できる厚生労働省資料です。
東京高裁平成6年8月4日判決を参照判例として紹介している公益財団法人不動産流通推進センターの資料です。掲載ページ自体も個別相談事例であることを明記しているため、現在の事案へ一律に当てはめず参考資料として利用します。