親から相続した実家を売りたいのに問い合わせが来ない。不動産会社へ相談しても「この地域では難しい」「この条件では扱いにくい」と言われれば、このまま固定資産税や管理の負担だけが残るのではないかと不安になるでしょう。
しかし、実家が売れないという結果だけを見て、「価値がない家だから仕方がない」と結論づける必要はありません。売却が進まない背景には、価格や地域需要だけでなく、建物の状態、残置物、境界、接道、借地、共有名義など複数の事情があり、原因によって取るべき対策は変わります。
この記事で最初に押さえておきたいのは、実家が売れないときには、値下げや解体を先に決めるのではなく、何が売却を妨げているのかを特定することです。原因が見えれば、仲介を続けるのか、買取へ切り替えるのか、隣地との調整を考えるのか、無償譲渡や相続土地国庫帰属制度まで検討するのかという順番も整理しやすくなります。
実家が売れないときにまず確認すること
実家の売却で迷ったとき、最初から法律や制度をすべて理解しようとする必要はありません。まず、自分の実家がどの段階で止まっているのかを確認すると、その後に調べる内容と相談先を絞りやすくなります。
| 現在の状況 | まず確認すること | 主な次の行動 |
|---|---|---|
| 売り出しているが問い合わせが少ない | 売出価格と地域需要 | 査定根拠や販売方法を見直す |
| 内見はあるが契約につながらない | 建物状態や残置物を含む購入負担 | 修繕費や片付け費と売却条件を確認する |
| 不動産会社が扱いたがらない | 接道や境界や権利関係 | 扱いにくい理由を聞き相談先を選ぶ |
| 再建築不可と言われた | 道路の法的位置付けと接道 | 自治体の建築担当部署で確認する |
| 借地に実家が建っている | 借地契約と地主との関係 | 契約内容を確認して売却方法を検討する |
| 隣地との境界が曖昧 | 境界や越境の有無 | 土地家屋調査士への相談を検討する |
| 仲介では買い手が見つからない | 維持費と売却条件 | 買取や隣地売却や無償譲渡を比較する |
| 売却以外の方法で土地を手放したい | 国庫帰属の申請要件 | 解体などに費用をかける前に制度利用の可否を確認する |
この表は、状況だけから原因を断定するためのものではありません。たとえば内見後に断られる理由は建物だけとは限らず、価格や周辺環境、引渡条件が影響することもあるため、まず何を疑い、どこから確認するかを決めるための入口として使うとよいでしょう。
実家が売れないときに最初に行いたいのは、安くすることではなく、売れない理由を説明できる状態にすることです。原因が具体的になれば、それまで漠然としていた不安が、確認できる課題へ変わっていきます。
まず確認したい価格と建物と土地の問題
実家の売却を難しくする事情は、一つだけとは限りません。地域の需要が弱いうえに建物も古く、大量の家財が残り、さらに土地にも確認事項があるというように、複数の事情が重なることがあります。
ここでは多くの実家に共通しやすい価格、建物、土地の問題を確認し、その後で借地や再建築不可といった個別性の高い問題を見ていきます。
立地と価格の問題
不動産は、所有者が売りたいと思うだけでは取引が成立しません。その場所で暮らしたい人、事業に利用したい人、投資対象として取得したい人など、対価を払って所有したい相手が必要です。
人口が減っている地域や交通の便が良くない地域では、住宅を探している人そのものが少ない場合があります。また、一定の需要がある地域でも、周辺の成約水準より高い価格で売り出していれば、購入候補から外れやすくなるでしょう。
ここで難しいのは、家族が感じている実家の価値と、市場で評価される価格が一致しないことです。
ある家庭では、父親が長年働いて建てた家で子どもたちが育ち、柱には幼いころの身長を測った跡まで残っています。家族にとっては替えのきかない場所でも、第三者は立地、土地の形、建物の状態、修繕費、将来の維持費などを見て購入価格を判断します。
「これほど大切にしてきた家なのに、なぜこの金額なのだろう」と感じるのは不自然ではありません。ただ、家族にとっての思い出の価値と市場価格を分けて考えなければ、提示された価格を受け入れるのか、別の売り方を探すのかという判断まで感情に引っ張られてしまいます。
建物の老朽化と残置物の問題
築年数の古い住宅では、屋根、外壁、給排水設備、床下などに修繕が必要となる可能性があり、購入希望者は売出価格だけでなく、購入後の費用まで考えます。
古い住宅だから売却できないと決まるわけではありませんが、建物の状態が分からなければ、買主は将来の修繕費を大きめに見積もることがあります。長期間空き家になっている住宅では、人が住んでいたころには目立たなかった雨漏りや腐食が進んでいる場合もあるでしょう。
さらに実家では、建物そのものより、家の中に残された物が売却の負担になることがあります。
押し入れには何組もの布団があり、食器棚には何年も使っていない皿が並び、婚礼家具、衣類、古い家電、農具などが何十年分も積み重なっている家庭もあります。それらを運び出し、分別し、処分しようとすれば、時間も費用も必要です。
ただし、親にとっては、それらが単なる不要品ではない場合があります。子どもには使わなくなったタンスに見えても、親にとっては結婚するときに両親から贈られた品かもしれず、食器にも親族が集まっていたころの記憶が残っているかもしれません。
実家の片付けが進まない背景には、整理が苦手だからという理由だけではなく、自分が生きてきた時間まで捨てるように感じる心理が隠れていることがあります。そのため、処分費だけを見るのではなく、家族が残したい物や処分への抵抗感も判断材料にしながら、自分たちで整理するのか、業者へ依頼するのか、残置物を含めて引き渡せる買主を探すのかを比較するとよいでしょう。
境界と越境の問題
親が何十年も問題なく暮らしてきた実家でも、売却しようとして初めて土地境界の曖昧さが分かることがあります。
庭の塀を境界だと思っていたものの、資料や測量結果と位置が異なっていたり、隣家の屋根や雨樋がこちらへ越境していたりするケースです。反対に、実家側の塀や植栽が隣地へ入り込んでいることもあります。
親の世代では、「昔からこの位置で使っているから問題ない」という関係で暮らせていたのかもしれません。しかし第三者が購入するとなれば、買主は将来の紛争まで考えるため、境界や越境について説明や調整を求める場合があります。
境界が確定していないから必ず売れないわけではありませんが、買主や取引条件によっては測量や隣地との確認が必要です。どこまで対応すべきか分からない場合には、土地家屋調査士などへ相談し、売却前に必要となる範囲を確認するとよいでしょう。
借地の実家では土地と建物を分けて考える
実家の建物は親の所有でも、その下の土地まで親が所有しているとは限りません。地主から土地を借り、その上に家を所有している借地の場合、一般的な所有権の土地とは異なる確認が必要です。
何十年も同じ家で暮らしていると、家族自身も借地であることを日常的には意識しなくなります。そのため、相続を機に登記や契約書を調べ、「建物は親名義なのに土地は別の人のものだった」と初めて詳しい事情を知る人もいるでしょう。
借地権付き建物の売却では契約を先に確認する
土地を賃借して建物を所有している場合、その建物を第三者へ譲渡するときには、土地賃借権の譲渡について地主の承諾が問題になることがあります。
地主の承諾が得られない場合でも、一定の要件のもとで裁判所へ地主の承諾に代わる許可を求める手続があり、東京地方裁判所も借地非訟としてその仕組みを案内しています。したがって、一度地主から反対されたという理由だけで、直ちにすべての売却方法がなくなるとは限りません。
もっとも、借地権の種類、契約を結んだ時期、地代、更新状況、譲渡条件などによって対応は変わります。実務では地主への承諾料が協議されることもありますが、全国一律の法定金額が定められているわけではないため、まず契約書を確認し、物件の事情に応じて不動産会社や法律の専門家へ相談することが先です。
借地だから必ず更地返還になるとは限らない
借地については、「最後は自費で家を壊し、更地にして地主へ返さなければならない」と思い込んでいる人もいます。
しかし、借地権の種類や契約内容、契約が終了する理由によって扱いは異なり、一定の場合には建物買取請求権が問題になる一方、定期借地権などでは別の取扱いになります。そのため、借地であるという理由だけで更地返還を一律に決めることはできません。
ここで覚えておきたいのは細かな制度の違いより、解体する前に契約と権利を確認するという順番です。建物を壊すには大きな費用がかかり、一度解体すれば元には戻せないため、借地の実家ほど「家をどう片付けるか」より先に「どのような契約の上に家が建っているのか」を確かめる必要があります。
再建築不可と言われたら道路と接道を確認する
不動産会社から「この土地は再建築不可です」と言われれば、土地そのものに価値がなくなったように感じるかもしれません。
現在の家を壊したあと新しい住宅を建てられないのであれば、一般的な住宅用地より購入希望者が限られることは考えられます。しかし、再建築不可であることと売買自体が禁止されることは同じではなく、条件を理解した買主や隣人、専門事業者などが取得を検討する余地は残ります。
道幅だけでは再建築の可否を判断できない
都市計画区域や準都市計画区域など、建築基準法の接道規制が適用される区域では、建築物の敷地は原則として建築基準法上の道路へ2メートル以上接する必要があります。
ただし、「家の前の道が4メートル未満なら再建築できない」と判断することはできません。建築基準法42条2項には、一定の既存の道について現況の幅員が4メートル未満でも法上の道路として扱う仕組みがあり、同法43条2項にも一定の要件のもとで認定や許可を受ける仕組みがあります。
そのため、一般読者が条文番号まで覚える必要はなく、前面道路の見た目だけで結論を出さず、所在地の自治体に道路の法的位置付けと接道条件を確認することが実務上のポイントです。
家の前に道らしいものがあるから問題ないとも限らず、反対に狭い道だから直ちに再建築できないとも限りません。「再建築不可」と聞いた時点を結論にせず、何を根拠にそう判断されたのかを確認することで、隣地調整や売却先の選び方まで変わることがあります。
隣地との調整で条件が変わる場合がある
一般市場では扱いにくい土地でも、隣地所有者から見れば価値が大きく変わることがあります。
隣接地を取得することで自宅敷地を広げたり、不整形な土地を使いやすくしたり、駐車場や庭を確保したりできる場合があるためです。広い市場では需要が少なくても、その土地を特に必要としている人が隣にいる可能性があります。
隣地の一部取得を検討できる場合もある
接道条件に問題がある土地では、隣地所有者との協議によって土地の一部を取得することで、状況が変わる場合があります。
とはいえ、「あと数十センチ土地を買えば必ず再建築できる」という意味ではありません。前面の通路そのものが建築基準法上どのように扱われるのかなど、ほかの条件も関係するため、まず自治体や建築の専門家へ確認し、何を改善すれば条件が変わる可能性があるのかを把握したうえで隣人へ相談するほうが合理的です。
また、親同士の口約束だけで他人の土地を通路として使っている場合、その関係が次の世代まで続く保証はありません。「昔から自由に通っていいと言われていた」という事情があっても、土地が相続されたあと新しい所有者が同じ考えとは限らないため、売却や建て替えに必要な利用関係については曖昧なままにしないことが大切です。
隣人へ売却する方法も考えられる
自分が隣地を買うのではなく、隣人へ実家を売るという方向もあります。
単独では形が悪く使いにくい土地でも、隣地と合わせれば利用しやすくなる場合があり、隣人にとって敷地の拡大や土地形状の改善といった利益があれば、一般市場では生まれなかった需要につながる可能性があります。
ただし、隣人なら必ず購入してくれるわけでも、市場価格より大幅に安く売らなければならないわけでもありません。売却先の一つとして検討し、後の認識違いを防ぐためにも、親しい相手であっても価格、境界、残置物、建物状態、引渡条件を書面で明確にして進めたほうがよいでしょう。
値下げ前に原因と相談先を見直す
実家が売れないと、一社でも多くの不動産会社へ査定を依頼したくなるかもしれません。
複数社へ確認することには意味がありますが、会社数を増やせば必ず正しい答えに近づくわけではありません。重要なのは、「なぜこの会社は売りにくいと判断しているのか」を具体的に聞き、その原因に合った相談先へつなぐことです。
地域需要や売出価格が問題なら不動産会社が中心になりますが、接道なら自治体、境界なら土地家屋調査士、相続登記なら司法書士、地主や共有者との法的な争いなら弁護士というように、確認すべき相手は問題によって変わります。
不動産会社から「難しいですね」と言われたときには、その一言を最終結論にせず、価格の問題なのか、建物なのか、土地や権利に問題があるのかまで聞いてみることが、次の行動を決める材料になります。
800万円以下の物件には仲介手数料の特例がある
低価格の不動産では、現地調査や契約業務に必要な手間に対して仲介報酬が小さく、不動産会社が事業として扱いにくいという課題がありました。
国土交通省では2024年7月1日以降、価格800万円以下の宅地・建物を「低廉な空家等」とし、仲介に要する費用を勘案して原則を超える報酬を受領できる特例を設けています。依頼者一方から受領できる上限は税込33万円で、対象となる宅地・建物について使用状態は問わないとされています。
この特例があるからすべての低価格物件を不動産会社が扱うわけではありませんが、一社から断られたことだけを理由に「価値がない家」と判断せず、空き家や低価格物件の取扱経験がある会社へ相談範囲を広げる余地はあります。
仲介と買取では優先するものが違う
仲介では、不動産会社が市場から購入希望者を探すため、市場に近い価格で売却できる可能性がある一方、買主が現れなければ成約しません。
これに対して、不動産会社自身が買主となる買取では、会社側が改修や再販売を前提に判断するため、一般の個人には買いにくい物件でも検討されることがあります。
| 仲介 | 買取 |
|---|---|
| 仲介では、不動産会社が市場から購入希望者を探すため、市場に近い価格で売却できる可能性がある一方、買主が現れなければ成約しません。 | これに対して、不動産会社自身が買主となる買取では、会社側が改修や再販売を前提に判断するため、一般の個人には買いにくい物件でも検討されることがあります。 |
ただし、買取なら必ず残置物を残せるわけでも、市場価格の何割になるという全国共通の基準があるわけでもありません。比較するときは提示価格だけを見るのではなく、残置物処分、測量、修繕、解体などについて、自分がどこまで負担する必要があるのかまで確認するとよいでしょう。
高く売れても、その前に大きな費用を支払えば手元に残る金額は減ります。反対に売却価格が低くても、建物や残置物を現況のまま引き受けてもらえるのであれば、家族が使う時間や労力まで含めた負担は小さくなる場合があり、「高く売ること」と「負担を小さくして手放すこと」は分けて考える必要があります。
無償譲渡という選択肢
仲介でも買取でも引き取り手が見つからない場合には、売却代金を受け取らずに不動産を譲る方法も検討できます。
親が長年守ってきた家であれば、「0円で譲る」という言葉には強い抵抗を感じるでしょう。家族の歴史まで0円と評価されたように感じ、簡単には受け入れられない人もいるかもしれません。
一方で、所有を続ければ固定資産税、草刈り、修繕、建物管理などの負担は残ります。そのため、売却代金を得ることより将来の維持負担から離れることを優先したい場合には、無償譲渡が現実的な出口になることがあります。
0円でも費用まで0円になるわけではない
個人から個人へ不動産を無償で譲った場合、受け取った側には贈与税の検討が必要です。実際に贈与税が生じるかどうかは贈与された財産の価額や課税方法などによって異なるため、「0円で譲渡するから税金もかからない」と考えることはできません。
このほか、不動産の取得に伴う税金や、所有権移転登記に関する登録免許税なども確認が必要です。
そのため、無償譲渡を考えるときには、建物状態、境界、残置物などをどの状態で引き渡すのかと併せて、譲受人側にどのような費用が生じる可能性があるのかを事前に共有しておく必要があります。
相続土地国庫帰属制度を利用できる場合
通常の売却や譲渡が難しい土地では、相続土地国庫帰属制度が選択肢になることがあります。
この制度は、相続または相続人に対する遺贈によって土地の所有権を取得した人などが、一定の要件を満たす場合に国庫帰属の承認を申請できる仕組みです。共有地についても、相続などで持分を取得した人を含む共有者全員が共同して申請することで制度を利用できる場合があります。
ただし、「売れない実家を家ごと国へ引き取ってもらえる制度」ではありません。
建物付きの土地はそのまま申請できない
相続土地国庫帰属制度では、現に建物が存在する土地は原則として申請できません。また、担保権などの権利が設定されている土地、一定の他人利用が予定される土地などにも制限があり、申請できた土地についても、通常の管理や処分に過分な費用や労力を要する場合には承認されないことがあります。
ここで注意したいのは、「国庫帰属を使うなら、まず家を壊そう」と順番を決めてしまうことです。
建物を解体したあとで、共有者の同意が得られないことや別の土地要件によって申請できないことが分かれば、解体費を負担したうえで別の出口を探すことになります。そのため、建物、境界、第三者の権利、共有状態などを先に確認し、制度利用の可能性を見たうえで費用をかける順番を決めることが大切です。
共有地では共有者全員の意思確認が必要
実家の土地を兄弟姉妹などで共有している場合、一人の共有者が自分の持分だけを単独で国へ返す制度ではありません。
法務省のQ&Aでは、共有地の承認申請には共有者全員で申請する必要があり、誰か一人でも共同申請に同意しなければ、その土地について承認申請できないと説明されています。
そのため、共有名義の土地では土地の条件だけではなく、ほかの共有者が売却、保有、国庫帰属のどれを望んでいるのかも早めに確認しておく必要があります。
国庫帰属にも費用がかかる
相続土地国庫帰属制度では審査手数料が必要であり、承認後には一定の負担金も納付します。制度を利用できるとしても、建物解体や土地の整理に必要となる費用まで含めて考えた結果、買取や無償譲渡のほうが家族の負担を抑えられる場合もあります。
制度を利用できることと、その制度が最も負担の少ない方法であることは同じではありません。国庫帰属は、条件を満たす土地について利用できる出口の一つとして、ほかの方法と並べて比較することが重要です。
相続放棄をすれば解決するとは限らない
売れない実家が相続財産に含まれていると、「それなら相続放棄をすればよいのではないか」と考える人もいるでしょう。
しかし、相続放棄は不要な実家だけを選んで手放し、預貯金など必要な財産だけを受け取るための制度ではありません。相続全体について判断する手続なので、不動産だけでなく預貯金や負債などを含めて考える必要があります。
| 無償譲渡という選択肢 | 相続土地国庫帰属制度を利用できる場合 | 相続放棄をすれば解決するとは限らない |
|---|---|---|
| 0円でも費用まで0円になるわけではない | 建物付きの土地はそのまま申請できない | 相続放棄は不要な実家だけを選んで手放し、預貯金など必要な財産だけを受け取るための制度ではありません。 |
相続放棄は原則3か月以内に検討する
相続放棄には期限があり、裁判所は原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続を承認するか放棄するかを決める必要があると案内しています。個別の事情によって扱いが問題となる場合もあるため、期限が迫っているときほど自己判断で結論を出さないほうがよいでしょう。
実家の価値を調べ、借金の有無を確認しているうちに時間が過ぎることもあります。売れない不動産や負債がある可能性に気づいた時点で、相続放棄を選択肢に含めるのかを早めに検討することが重要です。
放棄後の保存義務は状況によって変わる
相続放棄について、「放棄すればすぐに実家と無関係になる」とも、「放棄しても必ず管理し続ける」とも一律には言えません。
現行民法では、相続放棄時に相続財産を現に占有している人について、相続人や相続財産清算人へ引き渡すまで財産を保存する義務が問題になります。そのため、親と同居しており死亡後も実家を実質的に管理している人と、長年遠方で暮らし実家を占有していない人では事情が異なります。
相続放棄は期限だけでなく、放棄前に財産をどのように扱ったかも問題になり得るため、売れない実家と負債がある場合には、自己判断で売却や処分を進める前に専門家へ確認するほうが安全でしょう。
実家が売れないと分かったら早めに動く
実家問題で深刻になりやすいのは、難しい物件であることそのものより、何年も判断しないまま時間が過ぎることです。
古い書類を探し、親や親戚から話を聞き、隣人との境界を確認し、不動産会社や役所へ相談するとなれば、「今すぐ困っているわけではないから、また来年考えよう」と思いたくなるでしょう。
それでも、時間が建物の老朽化や相続関係の複雑化を止めてくれるわけではありません。
管理不全空家になる前に方向を考える
改正空家法では、従来の特定空家に加え、そのまま放置すれば特定空家になるおそれのある「管理不全空家」という区分が設けられています。
国土交通省によれば、管理不全空家や特定空家について自治体からの指導に従わず勧告を受けると、その敷地について住宅用地特例を受けられなくなります。小規模住宅用地では固定資産税の課税標準を6分の1とする特例がありますが、特例が外れた場合の実際の税額が単純に必ず6倍になるわけではありません。
誰も住んでいない家でも、所有している間は管理の問題が残ります。屋根や外壁が傷み、雑草や庭木が周囲へ広がり、近隣から苦情が出てから売却を始めても、そのころには建物状態が悪化し、買主が負担する費用も増えているかもしれません。
今すぐ売らない場合でも、将来は住むのか、貸すのか、売るのか、解体するのかという方向を家族で考えておけば、問題が深刻になってから初めて話し合う状況を避けやすくなります。
相続登記を後回しにしない
相続登記は2024年4月1日から義務化されており、相続によって不動産を取得したことを知った場合には、原則としてその日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
2024年4月1日より前の相続で、施行日前から不動産を相続したことを知っていたにもかかわらず相続登記をしていない場合には、原則として2027年3月31日までの申請が必要です。2026年9月時点では、この経過措置の期限まで残された期間は長くありません。
「売れるかどうか分からないから、名義のことも後で考えよう」と先送りしている間に次の相続が起きれば、以前なら兄弟だけで話し合えた問題に甥や姪など次の世代が関わることもあります。
売却が難しい実家だからこそ、所有関係まで曖昧にしないことが、その後の選択肢を守ることにつながります。
早く動くことは早く売ることではない
まだ親が実家で暮らしているなら、すぐ売却する必要がない家庭も多いでしょう。
それでも、親が自分の意思を伝えられるうちに、借地契約はどうなっているのか、普段使っている通路は誰の土地なのか、隣地との境界について昔どのような話があったのかを聞いておく価値があります。登記簿や契約書だけでは分からない事情を、親本人だけが覚えている場合があるためです。
とはいえ、親へ突然「元気なうちに家を売ってほしい」と迫れば、自分の居場所を奪われるように感じることもあるでしょう。「今すぐ処分する話ではなく、将来みんなが困らないように土地や書類のことを知っておきたい」と伝えれば、売却を迫られているのではないと理解してもらいやすくなります。
早く動くというのは、早く実家を売ることではありません。まだ本人へ聞けることがあり、隣人との関係も続き、複数の方法から選べるうちに、実家がどのような不動産なのかを知っておくことです。
ある人の実家で複数の問題が見つかった場合
ある人が、地方都市の郊外にある古い木造住宅を相続したとします。
土地には一定の広さがあるため、最初は「家を壊して更地にすれば、それなりの価格で売れるだろう」と考えていました。しかし、不動産会社へ相談すると前面通路と接道に確認すべき点が見つかり、さらに家の中には大型家具や生活用品が大量に残っていることも問題になります。
売却すればお金が入ってくると思っていたのに、調べるほど解体費、片付け費、測量費といった支出の話が増えていけば、「相続したのは財産ではなく負担だったのではないか」と感じるかもしれません。
こうした場面でも、最初から建物を壊したり、大幅な値下げを決めたりする必要はありません。
まず自治体で道路と接道の扱いを確認し、隣地との調整で条件が変わる可能性があるかを調べます。そのうえで一般仲介だけでなく、条件のある物件を扱う買取事業者などへ相談し、残置物を含めた売却条件も比べます。
隣人への売却を検討しても、価格や利用目的が合わず話がまとまらないことはあるでしょう。一方、現況のまま取得したい事業者が見つかれば、売却価格は当初の想定より低くても、自分で先に解体や片付けを行わずに済む可能性があります。
ここで見るべきなのは、額面の売却価格だけではありません。売却価格から解体費、残置物処分費、測量費、維持費などを差し引き、さらに家族が手続や片付けに使う時間まで考えると、最も高い金額を提示した方法が、最も負担の少ない方法とは限らないことが分かります。
実家が売れないときは、最初に立てた売却計画へ固執するより、調査で分かった原因に合わせて出口を組み替えることのほうが、納得できる着地点へ近づきやすいでしょう。
実家が売れない場合のよくある質問
- 田舎の実家は本当に売れない?
-
田舎にあるという理由だけで、必ず売れないわけではありません。
ただし、住宅を探している人が少ない地域では、都市部と同じ売り方では購入希望者が見つかりにくい場合があります。そのときは一般的な居住用住宅だけでなく、移住、二地域居住、隣地利用、事業利用など、別の需要がないかまで考えると選択肢が広がります。
一方、「いつか誰かが買うだろう」と何年も待つほど建物の劣化や維持負担が増えることもあるため、一定期間反応がなければ価格だけでなく販売方法そのものを見直すことが必要です。
- 再建築不可でも売却できる?
-
再建築不可であることだけを理由に、売買そのものが禁止されるわけではありません。
ただし、建て替えに制約があれば購入希望者が限定され、価格へ影響することがあります。また、現況の道幅が4メートル未満でも建築基準法上の道路として扱われる場合や、一定の認定・許可が検討できる場合があるため、前面道路の見た目だけで判断せず、自治体へ法的位置付けを確認することが大切です。
- 値段が付かない実家を無料で譲ることはできる?
-
相手が取得を希望し、権利関係や引渡条件について合意できれば、無償譲渡を検討できます。
ただし、0円だから譲受人の負担まで0円になるわけではありません。贈与税、不動産取得に伴う税金、所有権移転登記に関する登録免許税などが関係する可能性があるため、契約を結ぶ前に税金と手続費用を確認しておく必要があります。
- 相続土地国庫帰属制度で建物付きの実家を手放せる?
-
建物が存在する土地は、その状態のまま制度へ申請できません。
さらに、土地の権利関係や管理状態などにも要件があり、共有地では共有者全員による共同申請が必要です。そのため、建物を先に解体するのではなく、申請者と土地の両方が制度要件を満たしそうかを確認してから、解体などに費用をかける順番を決めることが重要です。
- 不動産会社に価値がないと言われたらどうする?
-
「価値がない」という言葉だけを受け取るのではなく、なぜその評価になったのかを確認してください。
地域需要が少ないのか、価格が高いのか、接道や借地に問題があるのか、解体費や残置物処分費を考慮しているのかによって、その後の対策は変わります。不動産会社を増やすだけではなく、原因によって自治体、土地家屋調査士、司法書士、弁護士などへ相談先を変えることも必要です。
- 隣人に買ってもらうことはできる?
-
隣人が取得を希望し、価格や引渡条件について合意できれば売却できます。
隣接地を取得することで敷地が広がったり、土地形状が改善したりする場合には、一般市場とは違う需要が生まれる可能性があります。ただし、親しい間柄であっても、後の認識違いを防ぐために価格、境界、残置物、建物状態などの条件を明確にして進めることが大切です。
- 相続放棄すれば実家を管理しなくてよい?
-
相続放棄後の扱いは、放棄時に実家を現に占有しているかなどによって変わるため、一律には言えません。
また、相続放棄には原則として3か月という期間があり、実家だけを選んで放棄する制度でもありません。預貯金や負債を含む相続全体を確認し、実家や借金が問題になりそうであれば早い段階で専門家へ確認するとよいでしょう。
まとめ
実家が売れないと分かったとき、最初に行うべきなのは、大幅な値下げや解体を急いで決めることではありません。
問い合わせが少ないのであれば価格と需要を確認し、不動産会社が扱いにくいと言うのであれば、その理由をさらに掘り下げます。借地なら契約内容、再建築が問題なら道路と接道、境界が曖昧なら土地の状態というように、原因を分けて考えることで「売れない」という一言の中身が具体的になっていきます。
原因が分かれば、通常の仲介を続けるだけでなく、買取、隣人への売却、隣地との調整、無償譲渡などを比較できます。相続した土地が制度要件を満たすのであれば、相続土地国庫帰属制度まで含めて検討できるでしょう。
そして、売却価格だけを見ないことも大切です。高く売れても解体や片付けに大きな費用が必要なら家族の負担は重くなり、反対に売却価格が低くても現況のまま手放せれば、結果として負担を抑えられる場合があります。
親が元気で、昔の契約や土地の事情を知る人がいる今なら、まだ確認できることがあります。すぐに売却しなくても、何が分かっていて、何が分からないのかを整理しておけば、将来の選択肢を残しやすくなるでしょう。
家族が長年大切にしてきた実家だからこそ、思い出だけを理由に抱え続けるのでもなく、不安だけを理由に安く手放すのでもなく、売れない原因を確かめながら、自分たちが納得できる出口を探していくことが必要です。
今日から一つだけ行動するとすれば、不動産会社へ「この実家が売れにくい一番の理由は何でしょうか」と聞き、その答えを具体的にしてみてください。価格なのか、建物なのか、土地なのか、権利なのかが分かれば、次に調べるべきことも自然に見えてきます。
参考資料
低価格の宅地・建物に関する仲介手数料の特例は、国土交通省の公式案内で確認できます。
接道義務や建築基準法上の道路に関する規定は、e-Gov法令検索で確認できます。
地主の承諾に代わる許可を求める借地非訟手続は、東京地方裁判所の公式案内で確認できます。
相続土地国庫帰属制度の対象者、共有地、建物のある土地などの取扱いは、法務省のQ&Aで確認できます。
相続放棄に関する基本的な手続は、裁判所の公式Q&Aで確認できます。
相続登記の3年以内という原則と、2024年4月1日より前の相続に関する期限は、法務省の公式ページで確認できます。
管理不全空家と住宅用地特例の関係は、国土交通省の空き家対策特設サイトで確認できます。
個人から財産を贈与された場合の贈与税については、国税庁の公式解説で確認できます。