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分散投資は意味ない? 期待リターンではなく「失敗の原因」から考える本当の意味

分散投資を続けていると、「結局、リターンを薄めているだけではないか」と疑いたくなる瞬間があります。特定の成長株へ集中して資産を何倍にも増やした人や、一つの市場を持ち続けて大きな利益を得た人が目に入る一方、自分のポートフォリオには上昇の鈍い資産も含まれていれば、慎重に分けていること自体が機会損失のように感じられるでしょう。

その感覚を、単なる誤解として片づける必要はありません。同じ期間に事後的に最も上昇した一つの資産を、最初から最後まで100%買い持ちできたという条件なら、その値上がりをすべて受け取れる集中投資の利益は大きくなります。ただし、投資を始める時点では何が最大の勝者になるのか分からないうえ、複数資産を一定比率へ戻しながら運用する場合には、値動きの経路によって単純な買い持ち比較だけでは説明できない複利上の効果も生じます。

そこで分散投資について考えたいのは、「分散した方が必ず儲かるのか」という問いではなく、一つの判断ミスや共通する経済要因によって、守るべき資産全体が同時に傷つく構造になっていないかという点です。分散投資の本当の意味は、金融商品の本数を増やして安心感を得ることではなく、自分にとって致命的になり得る失敗の原因を一つへ集めず、予想が外れたときにも次の選択肢を残せる状態を作ることにあります。

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目次

分散投資は本当に意味がないのか

投資の世界では、「卵を一つのかごに盛るな」という言葉が何度も使われています。一つの投資先へすべてを集中させなければ、その対象で問題が起きても資産全体まで失わずに済む可能性が高まるという、分散投資の考え方を直感的に表した言葉です。

それでも「分散投資は意味ないのでは」と感じる人がいるのは、投資の成果が目に見える数字で比較されるからでしょう。ある株式が30%上昇しているのに、自分が分散のために保有している別の資産はほとんど増えていなければ、「全部あの株へ入れていれば、もっと資産が増えていた」と考えたくなりますし、SNSや投資コミュニティで大きく成功した集中投資ばかり目にすれば、自分だけが慎重になりすぎているような焦りを覚えることもあります。

しかし、その比較で見えているのは、すでに結果が判明した後の世界です。同じ期間に最も上昇した銘柄を後から探すことは難しくありませんが、投資するときに求められるのは、その銘柄を結果が分からない段階で選ぶことです。分散投資は未来を予測できるようにする方法ではなく、何が勝者になるかを完璧には予測できないことを受け入れ、一つの判断が外れただけで資産全体の行方まで決まらないようにする方法だと考える方が、本来の役割を捉えやすくなります。

金融庁も、投資には元本割れを含むリスクがある一方、長期・積立・分散投資を活用することで、リスクの軽減を図りながら安定的な資産形成へ取り組めると説明しています。分散についても、ポートフォリオ全体が特定のリスクから受ける影響を軽減する考え方として整理されており、「何を買っても勝てる仕組み」というより、外れたときの影響を自分が耐えられる範囲へ抑えるための設計として理解する方が適切でしょう。

分散しても期待リターンが自動的に増えるわけではない

分散投資を理解するとき、最初に押さえておきたいのは、資産を複数へ分けたという理由だけで期待リターンが高くなるわけではないことです。ここを曖昧にしたまま「分散した方がよい」とだけ説明すると、実際に上昇率の高い資産を見たとき、「やはり集中していた方がよかったのではないか」という疑問が残ります。

100円を持っている人が、その全額をある投資対象へ預ける場面を考えてみましょう。話を単純にするため、50%の確率で100円がそのまま残り、残る50%では0円になるとすれば、期待値は50円です。これを50円ずつ二つの同条件の投資対象へ分けたとしても、それぞれ一円あたりの期待値が同じである限り、全体の期待値は50円から変わりませんし、10個や100個へ細かく分けても、分けたこと自体が期待値を押し上げるわけではありません。

一期間のポートフォリオ期待リターンも、基本的には構成資産それぞれの期待リターンを投資比率によって加重したものとして考えます。たとえば、期待リターンをともに5%と見込む資産Aと資産Bへ半分ずつ投資すれば全体も5%ですが、10%を見込む資産と2%を見込む資産へ半分ずつ配分すれば、一期間の期待リターンは6%となります。その条件だけを比較すれば、10%を見込む資産へ全額を投じる場合より期待リターンが低くなるため、「分散すると期待リターンが薄まる場合がある」という感覚そのものは間違っていません。

CFA InstituteのPortfolio Mathematicsでも、ポートフォリオの期待リターンと、分散・共分散・相関を用いて考えるポートフォリオリスクは区別して扱われています。つまり、分散の価値を考えるときには、平均としてどれほど増えると期待するのかだけでなく、その平均の周囲にどのような結果が広がっているのかまで見る必要があります。

同じ期待値なら分散で結果の分布が変わる

ここでは、期待値が同じ投資対象を分けるという条件に限定して考えてみます。100人がそれぞれ100円を持ち、成功確率50%の投資を一回行うとしますが、100人全員が同じ事業へ投資して一つの結果を共有するのではなく、それぞれが同条件の独立した試行を行うものとします。

この条件で人数を増やしていけば、おおむね半数が100円を残し、残る半数が0円になる方向へ近づきます。期待資産額は50円ですが、各人の結果は50円へ集まるのではなく、100円か0円かという両端へ分かれることになります。

次に、一人あたり100円を50円ずつ二つの独立した投資対象へ分けると、二つとも成功した場合には100円、一つだけ成功すれば50円、二つとも失敗すれば0円となり、それぞれの確率は25%、50%、25%です。期待資産額は依然として50円である一方、全額を失う確率は50%から25%へ下がり、さらに同じ期待値を持つ完全に独立した四つの対象へ25円ずつ分ければ、四つすべてが失敗して0円になる確率は6.25%まで低下します。

投資対象 期待資産額 全額を失う確率
一つへ集中 50円 50%
二つの独立した投資対象 50円 25%
完全に独立した四つの対象 50円 6.25%

この例で分散が変えているのは期待値ではなく、結果がどのように散らばるかという分布です。一つへ集中すれば100円か0円という極端な結果へ寄りやすいのに対して、複数へ分けるほど途中の金額が残る可能性が増え、全損という最も厳しい結果へ到達する確率を下げられます。

ただし、ここから「分散投資では一般に期待リターンが変わらない」と結論づけることはできません。期待リターンの異なる資産へ配分を変更すれば、ポートフォリオ全体の期待リターンも変わるため、この例から確認できるのは、あくまで同じ期待値という条件のもとでも、独立した複数のリスクへ分けることで結果の形を変えられるということです。

この違いが重要になるのは、そのお金に役割があるからです。なくなっても生活に大きな影響を及ぼさない余剰資金なら、全損の可能性を受け入れながら大きな上振れを狙う判断もあり得ますが、老後の生活費や数年後に使う住宅資金なら、本人が本当に知りたいのは大勢を平均した期待値ではありません。悪い結果を自分が引いたとき、それでも予定していた生活を続けられるのかという点の方がはるかに重要になります。

いけすを分ける理由

魚を一つの巨大ないけすへ入れて育てている場面を考えてみましょう。100匹すべてを同じ場所で飼っていれば、水質汚染や設備故障が一度起きただけで群れ全体を失う可能性がありますが、魚を10個のいけすへ分ければ、一つで病気や事故が発生しても、その影響を別のいけすまで広げずに済むかもしれません。

分散したからといって、どのいけすにも問題が起きなくなるわけではなく、長い期間ではどこかで被害が出るでしょう。それでも分ける意味があるのは、目的が一匹の魚も失わないことではなく、一つの事故によって群れ全体まで失う事態を避けることにあるからです。

投資でも考え方は似ています。分散とは、損失を完全になくす技術ではなく、一部が傷ついたときに資産全体まで終わらないようにする仕組みであり、その意味を理解すると「分散したのに一部の資産が下がっている」という状況も、必ずしも分散の失敗とは言えないことが分かります。

投資は掛け算だから大きな下落を無視できない

分散によって極端な結果を抑える意味を考えるときには、資産運用が時間とともに掛け算で進むという性質も知っておく必要があります。100万円が10%増えれば110万円となり、その110万円が翌年さらに10%増えれば121万円になる一方、100万円が50%下落して50万円になった後に50%上昇しても、75万円にしか戻りません。

元の100万円へ戻るためには、残った50万円が100%上昇する必要があります。同じように20%下落した資産なら回復には25%、90%下落して10万円まで減った資産なら900%の上昇が必要になるため、大きな下落ほど、その後に元本へ戻るためのハードルは急速に高くなります。

ここで説明しているのは分散効果そのものではなく、長期の資産形成で深い下落を軽視できない理由です。分散によってポートフォリオ全体の値動きを抑えられる場合には、その結果として大幅な下落へ依存する度合いも小さくできる可能性がありますが、「値動きが小さくなれば必ず最終リターンが高くなる」とまで一般化することはできません。

期待値と一人が経験する複利は同じではない

期待値と時間を通じた複利の違いをもう少し深く理解するため、表なら資産が1.5倍、裏なら0.6倍になるコインゲームを考えてみます。表と裏が50%ずつなら、一回あたりの期待倍率は「0.5×1.5+0.5×0.6=1.05」となり、期待値だけを見ると5%増えるゲームです。

しかし、表と裏が一回ずつ出れば「1.5×0.6=0.9」となるため、100円は90円へ減ります。さらに100回中50回ずつ表と裏が出た場合には0.9の50乗となり、元本の約0.515%まで減少する一方、100回後の期待資産額は1.05の100乗で約131.5倍になります。また、100回後に元本以上を残すには表が56回以上必要であり、その確率は約13.56%です。

この例は分散投資の効果を直接示しているものではなく、多数の将来を横に並べた期待値と、一人が時間の中で経験する複利の経路が同じ概念ではないことを示しています。一期間の期待リターンと複数期間のリターン測定を区別する必要があるのはこのためで、CFA InstituteのRates and Returnsでも、時間をまたぐリターンの測定は独立した論点として扱われています。

さらに、一定比率を維持するように複数資産をリバランスする運用では、単純な買い持ちとは異なる現象も生じます。BoothとFamaは、一定比率を維持するポートフォリオについて、その複利リターンが構成資産それぞれの複利リターンの加重平均を上回り得ることを示しているため、「分散すれば必ず最高値上がり資産に負ける」という形で比較することも適切ではありません。

ここで数学から持ち帰りたいのは、期待リターン、結果のばらつき、時間を通じた複利、リバランスがそれぞれ別の要素であり、一つの数字だけでは長期の運用結果を説明できないという点です。この区別さえ押さえれば、数式そのものを追い続ける必要はなく、次に考えるべきなのは、それらのリスクが自分の資産のどこで重なっているのかという実務的な問題になります。

分散効果は資産同士の相関で変わる

二つの資産を持っていても、常にほぼ同じ方向へ同じ程度動くのであれば、二つへ分けたことによるリスク低減効果は限られます。反対に、一方が下落しているときにもう一方がそれほど下落しない、あるいは異なる方向へ動くなら、互いの値動きが一部を打ち消し、ポートフォリオ全体の振れを抑えられる可能性があります。

この連動性を見る代表的な指標が相関係数で、GPIFも、値動きの異なる資産を組み合わせることによって価格変動リスクを抑える効果が期待できると説明しています。重要なのは、「二つ持っている」という数そのものではなく、二つがどの程度同じ経済要因へ反応するのかという関係です。

ただし、相関係数は将来まで固定された数字ではありません。過去には異なる値動きをしていた資産であっても、金利急変、信用不安、流動性不足、世界的な景気後退などの共通ショックが発生すれば、同じ時期に大きく傷つく可能性があります。

そのため、過去の相関を確認したところで分析を止めず、「何が起きたとき、この二つは同時に傷つくのだろう」と考えることが重要です。相関という数字の背後にある原因へ目を向けることで、分散投資は単なる銘柄数の話から、失敗原因をどう分けるかという設計の話へ変わっていきます。

銘柄数を増やしても分散できない場合がある

ある人が日本株を30銘柄保有しているとします。一社だけで不祥事や経営悪化が起きても、その企業が資産全体に占める割合が小さければ、ポートフォリオへの打撃を限定できるため、一企業に固有のリスクという意味では分散が働いています。

ところが、日本経済全体が悪化した場合には事情が変わります。国内景気の後退、日本株市場全体からの資金流出、金利環境の急変などが起きれば、企業名が30個に分かれていたとしても、多くの銘柄が同じ時期に傷つく可能性があり、似た業種へ偏っていれば、規制変更、原材料価格、技術革新、需要構造の変化といった要因も共通して影響するでしょう。

このように、銘柄数を増やすことで小さくしやすい企業固有リスクと、銘柄数だけでは十分に小さくできない共通リスクは別物です。「30銘柄だから安全」「100銘柄なら十分」といった数字だけでは分散の完成度を判断できず、本当に確認したいのは、その30社が何によって同時に傷つくのかという点になります。

蛇口が二つでも水源が一つなら分散ではない

ある会社が重要な原材料を二社から調達しているとすれば、取引先が二つに分かれているという事実だけを見て、供給リスクも分散されていると安心したくなるでしょう。しかし、その二社のさらに上流を調べたところ、どちらも同じ地域にある一つの原料供給元へ依存していたなら、入口は二つあっても、水源は一つしかありません。

その水源が止まれば、二本の蛇口から同時に水が出なくなります。投資でも同様に、全米株式ファンド、S&P500連動ファンド、米国大型テクノロジー株ファンドをそれぞれ持っていたとしても、中身を確認すると構成銘柄や経済的なリスク要因が大きく重なっていることがあります。

したがって、商品の本数が増えたからといって、それだけで失敗原因が分かれたとは判断できません。見た目の数ではなく、それぞれの資産が何に依存し、どの出来事によって一緒に傷つくのかを見る必要があります。

一つの原料供給元 同じ地域 取引先 二社から調達 取引先 二社から調達 入口は二つあっても、水源は一つしかありません。

本当に分散すべきなのは「失敗の原因」

本稿で使っている「失敗原因」は、金融工学上の厳密な単一用語ではありません。専門的には、リスク因子、ショック、エクスポージャー、資産クラス、収入源などを区別して扱いますが、ここでは一般の投資家が自分の資産を考えやすくするために、「ある出来事が起きたとき、複数の資産や生活基盤が同時に傷つく理由」をまとめて表す言葉として使っています。

そのため、「米国株」「円」「勤務先」「金利上昇」のように異なる階層の項目を並べて終わるのではなく、因果関係として見る方が分かりやすくなります。たとえば、米国景気が悪化した結果として企業利益の見通しが弱まり、その影響がS&P500や全世界株式の米国部分へ同時に波及するという流れが考えられますし、勤務先の業界が不況になった結果、給与や賞与が減ると同時に、自社株や同業他社株まで下落するという連鎖も起こり得ます。

つまり、確認したいのは「何が起きるのか、その結果として何が傷つき、最終的に自分の生活へどこまで波及するのか」という一連のつながりです。この因果関係まで見れば、「失敗原因を分散する」という考え方が、抽象的な投資理論ではなく、自分の家計を点検するための視点として使えるようになります。

ただし、同じ要因へ依存していること自体を、無条件に悪いと考える必要もありません。日本で暮らし、数年後に円で住宅を購入する人が、そのための資金を円で持っているなら、「円へ集中している」という理由だけで外貨へ分ける必要はなく、使う通貨と保有する通貨が一致していることに意味があります。

分散で目指したいのは、あらゆる重複を消すことではありません。自分が避けたい失敗を先に決め、その失敗が複数の資産や生活基盤へ同時に波及する構造がどこにあるのかを確認することです。

失敗原因を自分の資産へ落とし込む方法

実際に自分のポートフォリオを前にすると、「失敗原因を調べる」と言われても、どこから始めればよいのか迷うでしょう。一つの株式だけでも企業業績、業界環境、景気、金利、為替、市場全体の評価水準など複数の要因に影響されるため、すべてを厳密に分類しようとすれば、それだけで作業が止まってしまいます。

そこで、一つの資産について「何を持っているのか」「何によって価値が増えやすいのか」「何が起きると大きく傷つくのか」「その原因はほかの資産や収入にも作用するのか」「その重複を減らす必要があるのか」という流れで考えてみます。五つを別々の短い問いとして並べるのではなく、一つの因果関係として追っていくことで、商品名だけを一覧にするよりもポートフォリオの構造が見えやすくなります。

たとえばS&P500連動商品なら、米国企業の利益成長などが価値を支える一方、米国景気の悪化や企業利益の低迷、金利や株式の評価水準の変化によって大きく下落する可能性があります。そこへ全世界株式を追加すれば投資対象国は広がりますが、米国株の重複や株式という資産クラスそのものへの依存は残るため、「商品が二つになったから二倍に分散された」とは考えられません。

S&P500と全世界株式を持っている場合

S&P500連動商品と全世界株式を両方持つケースでは、まず両方に多数の米国企業が含まれていることを確認する必要があります。米国株市場が大きく調整する局面では双方が影響を受ける一方、全世界株式には米国以外の先進国や新興国も含まれるため、「米国企業だけへ投資する」という集中は一定程度緩和されます。

それでも、どちらも基本的には株式です。世界的な金融危機のように株式という資産クラスそのものが広く売られる場面では、国を分けていても同時に下落する可能性があるため、「S&P500と全世界株式を両方持つのは良いか悪いか」という問いだけでは十分ではありません。

考えるべきなのは、米国への依存をどこまで減らしたいのか、株式全体の値動きをどの程度まで受け入れられるのか、そしてその資金をいつ使うのかという自分側の条件です。S&P Dow Jones Indicesによると、S&P500は米国の主要500社を対象とし、利用可能な米国株時価総額のおよそ80%をカバーしており、MSCI ACWIは先進国と新興国の大型株・中型株を幅広く含み、世界の投資可能な株式機会のおよそ85%をカバーしていますが、どちらも「何に対して分散されているのか」は同じではありません。

証券口座の外にも共通リスクはある

分散を金融資産だけで考えていると、生活全体に存在する集中を見落とすことがあります。ある人が日本企業で働いて円で給与を受け取り、日本国内に自宅を所有し、金融資産の大半まで日本株で保有している場合、見た目では給与、不動産、株式という別々のものを持っています。

しかし、国内景気が大きく悪化するという出来事から考えると、勤務先の利益低下によって給与や賞与が弱くなり、日本株も下落し、地域によっては住宅価格まで影響を受ける可能性があります。この人が抱えている集中は、「日本株を何銘柄持っているか」だけではなく、生活を支える収入と複数の資産が日本経済という共通環境へどこまで依存しているかという問題です。

国内景気が大きく悪化 勤務先の利益低下 給与や賞与が 弱くなり 日本株も下落 地域によっては 住宅価格まで 影響 給与、不動産、株式という別々のものを持っています。

もちろん、日本で生活する人が日本との関係をすべて減らす必要はありません。重要なのは、給与や住宅まで含めた自分の生活が何へ依存しているのかを理解しないまま、「証券口座の銘柄数が多いから十分に分散できている」と考えないことです。

集中しすぎているかは三つの視点で考える

共通する失敗原因が見えてきても、どの程度まで重なっていれば問題なのかを一律に決めることはできません。そこで役に立つのが、損失の大きさ、同時性、回復可能性という三つの視点を組み合わせて見る方法です。

まず、一つの出来事が起きた場合に資産全体のどの程度が傷つくのかを考えます。そのうえで、金融資産だけが下落するのか、それとも給与、事業収入、住宅などまで同じ時期に悪化するのかを確認し、最後に大きな損失を受けても労働収入や時間を使って立て直せるのか、それとも近い将来その資産を生活費として取り崩さなければならないのかまで見ていきます。

損失の大きさ 同時性 回復可能性
一つの出来事が起きた場合に資産全体のどの程度が傷つくのか 金融資産だけが下落するのか、それとも給与、事業収入、住宅などまで同じ時期に悪化するのか 大きな損失を受けても労働収入や時間を使って立て直せるのか、それとも近い将来その資産を生活費として取り崩さなければならないのか

この三つを合わせると、同じ50%の下落でも人によって意味がまったく違うことが分かります。若く安定した収入があり、投資元本がまだ小さく、当面その資金を使わない人なら、大きく下落しても給与から積み立てを続ける時間がありますが、退職後に金融資産から生活費を取り崩している人では、価格回復を待てずに安値で売却せざるを得ない場面も考えられます。

したがって、自分のリスクを考えるときに「株価が何%下がるか」だけを見ても十分ではありません。その下落がほかの収入や資産と同時に起こるのか、さらにその後の生活を立て直す余地が残るのかまで含めて考えることで、自分にとって本当に避けたい集中が見えてきます。

集中投資と分散投資はどちらが正しいのか

分散について考えると、「それなら集中投資は間違いなのか」という疑問が出てきますが、ここを正解と不正解という二択へ落とし込む必要はありません。同じ期間の単純な買い持ちという条件で、事後的に最も上昇した一銘柄を最初から100%保有できたなら、その値上がりをすべて受け取れるため、大きな財産を築いた人の中に特定企業や自分の事業へ資産が集中していた人がいることも不思議ではありません。

ただし、そこで見えにくくなるのが、結果が判明する前の不確実性です。Bessembinderが1926年から2016年までの米国株を調べた研究では、米国株が1か月物Treasury billsを上回って生み出した純富の増加が少数の銘柄へ強く偏っていたことが示されており、大きな勝者の存在が市場全体の長期成果へ大きく寄与していました。

この結果から「少数銘柄へ集中すればよい」と結論づけることはできません。投資する時点では、その大勝者がどの企業なのか分からないため、集中投資が当たった場合の利益が非常に大きいという事実と、その勝者を持てない場合の影響が大きいという事実を同時に考える必要があります。

集中と分散の違いは、「儲かる方法」と「儲からない方法」の違いではなく、未来の予測へどこまで依存するのか、予測が外れた場合にどの程度まで損失を引き受けられるのかという設計思想の違いです。自分に深い知識や明確な優位性があり、大きな損失を受けても再び資本を作れるなら集中する合理性が生じる場合もありますが、将来必要な資金まで同じ判断へ乗せるなら、失敗したときの意味は大きく変わります。

守る資金と攻める資金では分散の意味が違う

ここまでの話を実際の家計へ戻すと、分散の意味はさらに分かりやすくなります。投資では、すべてのお金へ同じ役割を与える必要はなく、むしろ「いつ使うのか」「減った場合に何が困るのか」を考えたうえで、受け入れる値動きを変える方が自然です。

ある家庭が3年後の住宅購入へ向けて頭金を準備しているとしましょう。相場が好調なら、「現金で置いておくより株式へ投資した方が増えるのではないか」と感じますし、周囲の人の資産が増えていれば、何もしないことの方が損をしているような焦りまで生まれるかもしれません。

ところが、住宅購入の半年前に株式市場が大きく下落すれば、購入を延期するのか、損失を抱えたまま売却するのか、別の貯蓄を取り崩すのかという、投資だけでは済まない人生上の判断を迫られます。この資金へ本来求めていた役割は最大利益ではなく、3年後に住宅購入へ使える状態で残ることだったはずです。

金融庁も、利用者自身がライフプランやライフステージを踏まえ、どのような資金ニーズが生じ、そのためにどのような資産形成が必要なのかを考える重要性を示しています。商品から先に考えるのではなく、そのお金が果たす役割から運用方法を決めるという順序が大切になります。

守るか攻めるかは連続している

「守る資金」と「攻める資金」という表現は分かりやすい一方、現実のお金を二種類の箱へきれいに分けられるわけではありません。明日の生活費と20年後の老後資金はどちらも大切なお金ですが、使うまでの時間が違うため、受け入れられる値動きまで同じにする必要はありませんし、10年後に使う教育資金なら、その中間に位置することもあるでしょう。

そこで分類名より重要になるのが、いつ使うのか、どこまで減っても計画を維持できるのか、減った場合に予定を変更できるのかという三つの条件です。使う時期が近く、許容できる損失が小さく、予定も変更しにくいほど守りの必要性は高まり、反対に使う時期が遠く、大きく減っても生活に支障がなく、必要であれば投資期間を延ばせる資金ほど成長を求めてリスクを取る余地が広がります。

したがって、「守る」「攻める」は二種類の資金を作るためのラベルというより、資金目的の両端を分かりやすく表した言葉として使う方が適切です。金融庁も、貯蓄と投資にはそれぞれ異なる特徴があり、自分の資産状況や今後のライフプランに合わせて使い分けることが重要だと説明しており、J-FLECのサイトで公開されている旧日本証券業協会制作の投資教育コンテンツでも、投資を余裕資金で行い、中長期的な視点を持つ考え方が示されています。

守るべき部分を明確にしておけば、余剰資金ではより大きな値動きを受け入れやすくなります。その意味では、守りと攻めは対立するものではなく、生活や将来計画を支える土台を守るからこそ、残った資金でリスクを取る余地も生まれる関係だと考えられます。

自分の資産を点検する順番

分散投資の考え方を実際の行動へ変えるとき、最初から新しい金融商品を買い足す必要はありません。まず確認したいのは、そのお金を何のために持っているのかという役割であり、次に、その役割を壊す可能性がある出来事を考えます。

そのうえで、同じ出来事が別の金融資産だけでなく、給与、事業、自宅などへも同時に波及するのかを見ていきます。さらに、仮に複数のものが傷ついた場合でも、自分は時間や収入を使って立て直せるのか、それとも生活計画そのものを変更しなければならないのかまで考えれば、単純な資産一覧では分からなかった集中が見えてきます。

そのお金を何のために持っているのか という役割 その役割を壊す可能性がある出来事 同じ出来事が別の金融資産だけでなく、 給与、事業、自宅などへも同時に波及するのか 時間や収入を使って 立て直せるのか 生活計画そのものを 変更しなければならないのか 単純な資産一覧では分からなかった集中が見えてきます。

たとえば、数年後に円で使う資金を円預金として保有しているなら、「円への集中」という言葉だけを理由にその重複を減らす必要はありません。使途と保有通貨が一致しているため、その重複には目的があります。

反対に、勤務先、自社株、同業他社株、自宅が同じ地域や産業の景気へ強く結びつき、その環境が悪化した場合に給与と資産が同時に傷ついて生活再建まで難しくなるなら、その重なりは自分にとって重要なリスクです。分散で減らしたいのは重複そのものではなく、自分が耐えられない失敗が複数の場所へ同時に広がる構造なのです。

分散投資に関するよくある疑問

分散投資は何銘柄すればよい?

すべての投資家へ共通する絶対的な銘柄数はありません。同じ業界の30銘柄を持つ場合と、異なる国や業種へ広く分かれた30銘柄を持つ場合では残っている共通リスクが異なりますし、一本のインデックスファンドで数百社や数千社へ投資していれば、保有商品は一つでも個別企業のリスクは広く分散されている場合があります。

そのため、「何銘柄なら安全か」という数字から入るより、企業固有リスク、特定の国や業界、株式市場全体など、どのリスクに対して分散したいのかを先に考える方が実用的です。銘柄数は結果として決まるものであり、分散の目的そのものではありません。

分散しすぎるとリターンは下がる?

分散すること自体が、必ず期待リターンを下げるわけではありません。期待リターンが同程度で異なる値動きをする資産を組み合わせられれば、期待リターンを大きく変えずにポートフォリオの値動きを抑えられる場合がありますが、期待リターンの低い資産へ大きく配分を移せば、全体の期待リターンも低下します。

さらに、一定比率へリバランスする複数期間の運用では、単純な買い持ち比較とは異なる複利上の分散効果が生じる場合もあります。そのため、「分散したからリターンが下がった」と一括りにせず、何を組み入れ、どの比率で持ち、どのように運用した結果なのかを分けて見る必要があります。

S&P500だけでも分散投資といえる?

S&P500は米国の主要500社を含み、米国株式市場の利用可能な時価総額のおよそ80%をカバーしているため、個別企業という観点ではかなり広く分散されています。一社や数社だけへ投資する場合と比べれば、特定企業の不祥事や業績悪化が資産全体へ与える影響は小さくなります。

一方、米国大型株という市場全体へ影響する出来事には引き続きさらされているため、「企業固有リスクが広く分散されている」という説明と、「家計全体のあらゆるリスクが分散されている」という説明は同じではありません。S&P500だけで十分かどうかは、何を守り、何のリスクを減らしたいのかによって変わります。

オルカンだけでも分散になる?

MSCI ACWIは先進国と新興国の大型株・中型株を幅広く対象とし、世界の投資可能な株式機会のおよそ85%をカバーしているため、企業と国という観点では非常に広く分散されています。特定の一国や数社だけへ投資する場合と比較すれば、地域や企業固有のリスクは大きく分散されています。

それでも資産クラスとしては株式なので、世界的に株式市場全体が下落する局面では大きな影響を受ける可能性があります。したがって、全世界株式は「世界の株式の中では広く分散している」と言える一方、株式、債券、預金などを含めた資産クラス全体の分散とは区別して考える必要があります。

集中投資の方が儲かる?

同じ期間の単純な買い持ちで、事後的に最も上昇した銘柄を最初から100%保有できたなら、その値上がりをすべて受け取れる集中投資の利益は大きくなります。ただし、その比較には勝者を事前に選べるという条件が含まれており、実際の投資時点ではどの企業が大勝者になるかを確実に知ることはできません。

Bessembinderの研究が示したように、米国株市場では長期の富の創出が少数の大勝者へ強く偏っていましたが、その事実は、その少数を投資前に特定できることを意味しません。集中投資は、大きく儲かる方法というより、判断が当たった場合の上振れと、外れた場合の下振れの両方を強く受ける方法と考えた方が実態に近いでしょう。

相関係数が低ければ安全?

相関係数が低い資産を組み合わせることで、ポートフォリオ全体の価格変動を抑える効果は期待できますが、それによって安全が保証されるわけではありません。相関は市場環境によって変化するため、過去には別々に動いていた資産でも、金利急変や信用不安などの大きな共通ショックが起きれば同時に下落する場合があります。

そのため、相関係数を確認した後には、数字だけで安心せず、「どのような出来事が起きれば両方が同時に傷つくのか」まで考える必要があります。その問いまで進めて初めて、相関の確認が失敗原因の分散へつながります。

まとめ

「分散投資は意味ない」と感じる背景には、投資の価値を「最も上昇した資産をどれだけ多く持てたか」という尺度だけで測ってしまうことがあります。同じ期間の単純な買い持ちで、事後的に最も上昇した一つの資産を最初から100%保有できたなら、その値上がりをすべて受け取れる集中投資の利益は大きくなりますが、現実の投資では未来の最大上昇資産を事前に知ることはできません。

同じ期待値を持つ独立した投資対象を分ける例では、平均を変えずに全損へ至る確率を下げられる一方、期待リターンの異なる資産へ配分を変更すれば、ポートフォリオ全体の期待リターンも変化します。また、投資は時間とともに掛け算で進むため、大幅な下落を受ければ元本回復のハードルが高くなりますが、複利の問題と分散効果そのものは同じではなく、期待リターン、結果の分布、相関、複利、リバランスをそれぞれ分けて理解する必要があります。

それでも、この記事で最も持ち帰ってほしいのは数式ではありません。分散投資を見るときには、何銘柄持っているかより、ある出来事が起きた場合に、どの資産や収入が同時に傷つき、その損失が生活へどこまで広がり、そこから立て直せる余地が残るのかという因果関係を追うことが重要です。

蛇口が何本あっても、水源が一つなら、その水源が止まったときにはすべて使えなくなります。しかし、だからといって水源の重複を無条件に消せばよいわけではなく、自分がいつ、どの通貨で、何のためにその資産を必要とするのかによって、残すべき重複と減らしたい重複は変わります。

自分の資産を点検するときには、まずそのお金が担っている役割を確認し、次に、その役割を壊す可能性がある出来事を考えます。その出来事が金融資産だけでなく給与や住宅まで同時に傷つけるのか、さらに大きな損失を受けた後でも時間や収入を使って立て直せるのかまで見れば、自分にとって本当に避けたい集中が見えてくるでしょう。

守る資金と攻める資金についても、二つの箱へ機械的に分ける必要はありません。使うまでの期間が短く、許容できる損失が小さく、予定を変更しにくい資金ほど守りを重くする一方、長期間使わず、大きな下落を受けても生活を維持でき、必要なら運用期間を延ばせる資金ほど成長を求める余地が広がります。

こうして考えると、分散投資とは単に銘柄を増やす作業ではなく、自分が避けたい失敗を特定し、その失敗が資産と生活の全体へ一度に広がらないようにする設計だと分かります。商品を何本持っているかではなく、自分は何を守り、どの出来事に弱く、どこまでなら損失を引き受けられるのかという順番で考えることが、形だけではない分散投資への第一歩になるのではないでしょうか。

参考資料

分散投資によって特定のリスクから受ける影響を軽減する考え方や、長期・積立・分散投資の位置づけについては、金融庁の資料で確認できます。 金融庁「長期・積立・分散投資の考え方」

値動きの異なる資産を組み合わせる意味や、分散投資の基本的な考え方については、GPIFの公式資料で確認できます。 GPIF「分散投資の意義」

ポートフォリオ期待リターン、分散、共分散、相関など、一期間のポートフォリオ分析の基礎については、CFA InstituteのPortfolio Mathematicsで確認できます。 CFA Institute「Portfolio Mathematics」

複数期間を含むリターン測定の考え方については、CFA InstituteのRates and Returnsが参考になります。 CFA Institute「Rates and Returns」

一定比率を維持するポートフォリオの複利リターンと、分散による寄与の関係については、BoothとFamaの研究概要で確認できます。 CFA Institute「Diversification Returns and Asset Contributions」

個別株の長期リターンが少数の大勝者へ強く偏る性質については、Bessembinderの研究をArizona State Universityの公開ページで確認できます。 Arizona State University「Do stocks outperform Treasury bills?」

S&P500とMSCI ACWIの対象範囲については、それぞれ指数提供会社の公式情報で確認できます。 S&P Dow Jones Indices「S&P 500」 MSCI「MSCI ACWI Index」

余裕資金や中長期投資については、J-FLECのサイトで公開されている旧日本証券業協会制作の投資教育コンテンツでも基本的な考え方を確認できます。なお、同ページには2024年6月以降は内容を更新していない旨が明記されています。 J-FLEC掲載「日常生活で頻繁に市場の値動きを確認する時間の余裕がなくても株式投資はできますか?」

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