数億円規模を含め、ある程度まとまった資産を築くと、人生の後半で考えるべきことは少しずつ変わってきます。生活に困らないだけの財産があり、自分一人では使い切れない可能性が見えてくると、「もっと増やすにはどうするか」だけではなく、自分がいなくなったあと、その財産がどのように働いていれば、今の自分は納得できるのかという問いが生まれるからです。
子や孫へ安心を残したい人もいれば、長年一緒に働いた社員や後継者へ事業を託したい人、研究や教育、文化、地域社会へ継続的に資金を循環させたい人もいるでしょう。そう考えると、資産承継は相続税や遺産分割だけの問題ではなく、現在ある資産を将来も価値を生む場所へ配置し、その判断を担える人と制度を残すための長期設計として捉えたほうが、本質へ近づきます。
本稿が扱うのは、特定の税務スキームをすべての人へ当てはめる方法ではありません。なぜ十分な財産があっても何世代も残らないことがあるのかを整理し、何を守り、誰へどこまで任せ、何のために残すのかを考えたうえで、100年後から現在へ逆算していきます。
資産承継が三代で失敗すると言われる理由
先に結論を言えば、富が世代を超えて失われる理由を相続税だけで説明することはできません。政治や税制、インフレといった外部環境に加え、家族間の対立や意思疎通、後継者の判断能力という問題が長い時間の中で重なり、現在の資産額が大きいという事実だけでは、それらへの耐久性まで保証されないためです。
世界各地には、大きな富が数世代で失われることを警告する似た表現があります。アメリカでは Shirtsleeves to shirtsleeves in three generations という言葉が知られ、日本には「売り家と唐様で書く三代目」、中国にも富が三代を超えにくいという趣旨の警句が伝わってきました。
ウェルス・マネジメントの世界では、「第2世代までに70%、第3世代までに90%の富裕家族が資産承継に失敗する」という数字も広く引用されています。しかしCFA Instituteが2025年に掲載した記事では、この70%・90%が頻繁に引用されてきた数字である一方、Jim Grubmanが根拠となった過去の研究を現代の富裕家族全般へ一般化することに疑問を示している点も紹介されており、「三代目になれば90%の確率で財産を失う」という普遍的な法則として受け取るべき数字ではありません。
Williams Group系の調査についても、資料ごとの差を残したまま読む必要があります。Julius Baerの資料は、Williams Groupを出典とする「25年間にわたる3,250家族の調査」として、コミュニケーション不足60%、後継者の準備不足25%、家族としての使命の欠如12%、外部関係者の失敗3%という区分を掲載していますが、この記載だけから、同じ3,250家族を25年間連続して追跡した縦断研究だったとまでは確認できません。
一方、Williams Group自身の現在の説明では、20年間にわたる2,500家族の研究と、別途750家族を含む研究プロジェクトが紹介され、Family Readiness Assessmentでは主要な問題として、コミュニケーションと信頼の崩壊60%、準備不足の後継者25%、共有された家族資産の使命がないこと10%を示しています。公開資料によって母集団や分類が完全には一致しない以上、数字を普遍的な因果率として扱うより、家族内の信頼、次世代の準備、共有目的が長期承継の重要論点として繰り返し扱われてきたと理解するほうが適切でしょう。
ここで本当に考えたいのは、何%という数字そのものではありません。富を築いた初代と、生まれたときから資産が存在していた三代目とでは、同じ1億円を見たときに感じる重さまで違う可能性があります。
初代には、売上が立たず眠れなかった夜や、資金繰りが行き詰まりそうになった経験、判断を誤れば社員や家族の生活まで危うくなる緊張があり、1億円という数字にも時間と失敗の記憶が結びついています。それに対して、幼い頃から家や会社、金融資産が存在していた後継世代が同じ恐怖を知らないとしても、それは人格が劣っているからではなく、そもそも経験してきた環境が異なるためです。
「苦労を知らないから駄目になる」と精神論だけで処理すると、承継は後継者の性格任せになってしまいます。一代で富を築く力と、何世代も富を残す力は別であり、後者では人が変わっても機能する仕組みが必要になるというところから考えたほうが、問題の輪郭は見えやすくなります。
富を壊す三つの力
長い時間の中で資産を弱らせる要因は、大きく三方向へ整理できます。政治、税制、通貨、インフレ、金融危機といった外部環境だけでなく、相続争いや離婚、株式分散などの家族内部の問題、さらに資本を扱う後継者の判断能力が重なり、ときには複数の問題が同時に発生します。
| 破壊要因 | 典型的な問題 | 起こり得る結果 | 必要な備え |
|---|---|---|---|
| 外部環境 | 税制変更、インフレ、通貨変動、政治変動、金融危機 | 実質購買力の低下、流動性不足、資産の強制売却 | 流動性確保、地域や資産の分散、制度変更へ対応できる柔軟性 |
| 家族内部 | 相続争い、離婚、株式分散、意思疎通不足 | 経営権争い、共有資産の売却、意思決定の停滞 | 権限設計、家族会議、紛争時の手続き、目的の共有 |
| 後継者 | 教育不足、浪費、集中投資、祖業への固執 | 元本毀損、不採算事業への追加投資、投機による損失 | 段階的な教育、監督制度、小規模な実践、資本配分能力の育成 |
たとえば、事業が苦しい時期に相続が起こり、納税資金を用意しなければならないところへ親族間の対立まで重なれば、本来なら長期保有したかった株式や不動産を急いで売る状況も考えられます。比喩的に言えば、失敗にも複利が働き、一つずつなら耐えられた問題でも、複数の亀裂が重なることで損失が次の損失を呼ぶ可能性があります。
相続税は大きな問題でも唯一の問題ではない
日本では2026年9月現在、相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。また、法定相続分に応ずる取得金額が6億円を超える区分には55%の税率が設定されていますが、実際に各人が取得した遺産全体へ55%をそのまま掛ける制度ではありません。
相続税が何世代も重なれば、保有しているだけでは十分な収益やキャッシュフローを生みにくい財産にとって、大きな負担となる可能性があります。それでも、百年という時間で見れば、税制だけでなく物価、金利、為替、政治、産業構造も変化するため、現在の制度へ極端に最適化した資産構成が将来まで最善とは限らないでしょう。
そこで本稿では、長期的な資産承継を「相続税をゼロにできるか」ではなく、税金、家族への分配、インフレ、投資や事業の損失を負担しても、その後に新しい価値を生み出せる状態が残っているかという視点で考えます。これは公的統計から導かれた成功公式ではなく、長期承継を考えるために本稿が採用する判断軸です。
富を長く残すために守るべきもの
資産承継を考え始めると、現在持っている会社、不動産、株式、現金を「いかに減らさず残すか」へ意識が向きます。しかし百年という時間では、今の優良資産が将来も同じ価値を持つ保証はなく、守る対象を固定しすぎることが、かえって家族資本を弱くする場合があります。
ここで区別したいのが、「今ある財産を保存すること」と「価値を生み出す力を残すこと」です。創業者にとって会社は人生そのものであり、「自分がいなくなっても、この会社だけは残してほしい」と願う気持ちは自然ですが、会社の法人格や屋号が続くことと、次世代にも価値を生み続けることは必ずしも一致しません。
歴史上の家族から見える違い
歴史上の富裕家族を成功家と失敗家へ単純に分けるより、それぞれが何を残し、何を変え、どのような仕組みを持っていたのかを見るほうが、現代の承継を考える材料になります。
| 家族 | 富の主な源泉 | 確認できる特徴 | 現代の承継を考える材料 |
|---|---|---|---|
| メディチ家 | 銀行と商業 | 銀行は1494年に終焉し、美術コレクションは1737年のファミリー・パクトによってフィレンツェへ残された | 事業が終わっても目的や価値は別の形で残せる |
| ヴァンダービルト家 | 海運と鉄道 | 後継世代はThe BreakersやMarble Houseなど大規模な邸宅を建設・所有した | 消費と生産的な資本の維持を分けて考える |
| ロスチャイルド家 | 国際金融 | 1810年の家族協定と五人の息子による欧州主要都市への展開 | 協調と地理的集中リスクを考える材料になる |
| ヴァレンベリ家 | 長期企業所有 | 財団群と専門的な所有組織を通じ、企業所有と研究支援を接続している | 私有財産と目的を持つ制度資本を分けて考える |
| 三井家 | 商業と金融 | 「宗竺遺書」や後の三井家憲で家族と事業の規範を制度化した | 家訓を実際のガバナンスへ変える |
この五家のうち、本文では後の議論と特に深く関係するメディチ家と三井家を詳しく見ていきます。ヴァンダービルト家とロスチャイルド家は、それぞれ消費と資本維持、家族協調と地理的集中を考える補助線として位置づけ、ヴァレンベリ家については社会還元と制度資本を扱う後半で改めて触れます。
メディチ家が残したもの
メディチ銀行は15世紀ヨーロッパを代表する金融機関でしたが、1494年には銀行事業が終焉を迎えました。California Management Reviewは1494年のメディチ銀行を、かつて有力だった組織が失敗した歴史的事例の一つとして挙げていますが、その記述だけから「環境変化へ適応できなかったことが破綻の原因だった」と個別に断定することはできず、経営上の問題や当時の事業環境など複数の事情を考える必要があります。
一方、一族が蓄積した価値のすべてが銀行とともに消えたわけではありません。Uffizi Galleriesは、最後の主要なメディチ家後継者アンナ・マリア・ルイーザが1737年のファミリー・パクトによって、一族の美術コレクションをフィレンツェへ残す方向を定めた経緯を説明しています。
銀行事業そのものは続かなくても、一族が価値を置いた文化資産は別の形で後世へ残りました。ここから本稿が読み取るのは、承継とは現在の事業形態を永久保存することだけではなく、何を未来へ残したいのかに応じて、資産の形そのものを変えることでもあるという点です。
三井家が制度として残したもの
日本では三井家の歴史が、家族資本とガバナンスを考える材料になります。三井文庫によれば、1722年の「宗竺遺書」では三井同苗で財産と事業を共有する「身上一致の家法」が明文化され、生活費、分家、隠居、商売修行、危機への備えなど、家族と事業を維持するための原則が細かく定められました。
大名への融資についても一律禁止ではなく原則として制限され、恩人である牧野家と領主の紀州徳川家は例外として扱われています。ここで重要なのは「危険な投資は一切するな」という単純な禁止ではなく、収益機会が見えていても家産全体を危険にさらすほど無制限に資本を投じず、例外を含めた判断基準を持っていた点でしょう。
さらに1900年には三井家憲が制定され、近代の法制度や社会環境へ合わせて家族と事業の規範が再構成されています。規則を一度作って永久固定するのではなく、守りたい目的を残しながら制度を時代へ適応させていったことに、長期承継を考える意味があります。
こうした歴史事例から導けるのは、「成功した家族はこの制度を持っていたから生き残った」という単純な因果関係ではありません。むしろ、守るべき目的と、変えてよい手段を区別できるかどうかが、百年単位の承継を考えるうえで重要だという視点です。
資産から資本へ変える
ここで、本稿における「資産」と「資本」の意味を明確にしておきます。経済学、会計、金融では用語の定義が異なり、現金、土地、株式なども文脈によって資本に含まれるため、本稿では専門用語として厳密に線を引くのではなく、現在価値を保存しているものを主に資産、将来の価値創出へ配置されている状態を主に資本と呼び分けます。
この意味での資本は、自分や家族が経営する会社だけを指しません。自ら事業を営む方法もあれば、世界各地の企業の株式を通じて他者の事業へ資本を供給する方法、債券やファンドを通じて資金需要へ応える方法、賃貸不動産やREITなど収益資産を持つ方法、知的財産、設備、人材へ投資して将来の収益力を高める方法もあります。
したがって、本稿が考える循環は、資産 → 将来の価値を生む対象へ配置 → キャッシュフローや価値増加 → 一部を分配 → 一部を再投資 → 次の資本という形になります。どの経路を選ぶかは、本人の経験、資産規模、リスク許容度、家族構成によって異なり、自分で会社を経営することが長期承継の必須条件という意味ではありません。
むしろ、事業経営に関心がなく、その能力や経験も持たない人が「資本を残すには会社を作るべきだ」と考えて無理に新規事業へ集中投資すれば、本来避けたかったリスクを増やす可能性があります。その人にとっては、複数の企業、地域、資産クラスへ分散して所有するほうが、長期的な目的に適しているかもしれません。
また、すべての資産を高収益の対象へ振り向ける必要もないでしょう。十分な現金や比較的安全性の高い資産には、収益を最大化する役割より、納税、生活費、危機時の資金需要へ対応し、相場が悪い時期に優良資産を売らなくて済む選択肢を残す役割があります。
ある家庭に3億円の財産があるとして、それを生活費や相続のたびに取り崩すだけなら、最初の金額が大きくても長期的には減少しやすくなります。一方、その一部が複数の企業、収益資産、事業、人材などへ配置され、そこから得た収益の一部を再投資できれば、相続に伴う資金流出が起きたあとにも新しい価値を生み出す余地が残るでしょう。
したがって、この記事でいう「資産から資本へ」とは、富裕層に起業を勧める言葉ではありません。資産を消費対象としてだけ保有するのではなく、自分が経営するかどうかを問わず、将来の価値を生む場所へ配置し続けられる状態を作ることを意味します。
会社という箱だけでは解決しない
この考え方に立つと、「資産を会社へ入れれば承継問題が解決する」という発想にも限界があることが分かります。法人が現金、不動産、株式などを持っていても、その非上場会社の株式を個人が保有していれば、相続や贈与の際には株式そのものが評価対象となります。
つまり、会社という箱を挟んだだけでは、資産承継の問題が消えるわけではありません。実際に顧客へ価値を提供し、人が働き、利益が生まれ、次の投資へ資金が戻る会社であれば、創業者の寿命を超えて資本を働かせる器になり得ますが、単に資産を置いただけなら、承継する対象が現金や不動産から会社株式へ変わったにすぎない場合があります。
また、2022年4月19日の最高裁判決は、相続財産である不動産について、財産評価基本通達による評価とは異なる価額を基礎にした課税処分が争われた事案でした。最高裁は具体的な事情を踏まえて判断しており、不動産についてのこの判例を、あらゆる財産や評価方法へそのまま一般化することはできません。
会社を作るか個人で保有するかという議論だけで終わらせず、その資産がどのような価値を生み、誰が判断し、利益をどこへ再配置するのかまで見る必要があります。
元本を守ることと資本を動かすことは両立する
「元本には手をつけさせない」という考え方は、家族の私的消費から中核資本を守るという意味では重要です。しかし、その原則を「現在持っている会社や土地を永久に売却してはいけない」という意味まで広げれば、時代の変化へ対応できなくなる可能性があります。
現金を名目額のまま残しても、長期間の物価上昇が続けば購買力は低下しますし、かつて高収益だった会社も永遠に成長するとは限りません。市場が縮小した事業から資金を回収し、より有望な企業、事業、不動産、金融資産へ移す行為は、元本を壊すのではなく、元本の価値創出力を守るために必要になる場合があります。
果樹園に置き換えると、その違いは理解しやすいでしょう。家族が毎年実る果実を食べることまで禁止する必要はありませんが、現在の消費を増やすために木そのものを次々と切れば、翌年以降の果実まで失われる一方、病気になった木を植え替えることさえ禁じれば、守っているつもりの果樹園そのものが衰えていきます。
したがって本稿では、元本防衛を「資産を動かさないこと」とは捉えません。私的消費によって中核となる価値創出力を毀損しない一方、より適切な場所へ資本を再配置する自由は残すことを、長期的な元本防衛として考えます。
後継者と家族ガバナンスをどう設計するか
資本を価値の生まれる場所へ配置できても、それを扱う人が育っていなければ長く続きません。逆に、優秀な後継者が一人いれば安心だと考えても、その次の世代まで同じ能力を期待するだけでは、制度としては脆弱です。
必要なのは、後継者が小さな責任から判断経験を積み、能力に応じて権限を広げながら、一人の判断ミスだけでは共同資本全体が壊れない仕組みを作ることです。人を育てることと、人へ過度に依存しない制度を作ることは、矛盾する仕事ではありません。
後継者へ渡すのは財産より判断経験
大きな資産を持つ親が抱きやすい迷いの一つに、「資産額を知らせたら子どもの努力を奪うのではないか」という不安があります。その結果、親が資産の存在をほとんど知らせず、死後になって初めて巨額の財産を渡せば、子どもは管理経験を持たないまま大きな判断を迫られることになります。
CFA Instituteの記事でも、子どもの野心を弱めることを恐れて資産情報や財務判断から遠ざけることが、かえって準備不足を作り、「三代目の呪い」を自己成就させる可能性があるという専門家の指摘が紹介されています。
だからといって、幼い頃から家族の総資産額を詳しく知らせる必要はありません。幼少期には労働と対価、自分で管理できる範囲のお金、家族がどのように財産を築いたのかを学び、成長後には外部企業、専門職、大学院、起業などを通じ、家族資産から一定の距離を置いた環境で自分自身の能力を確かめる方法があります。
成人後には財務諸表を読み、税理士や弁護士、投資担当者の説明を理解するところから始め、やがて失敗しても家族資本全体へ致命傷を与えない範囲で実際の判断を任せます。利益を出したかどうかだけではなく、どの情報を集め、何をリスクと考え、前提が崩れたときにどう修正したかまで見ることで、一度の幸運と再現可能な判断を区別しやすくなるでしょう。
Julius BaerのFamily Barometer 2024でも、専門家が担当するUHNW顧客について、次世代の準備策として家族や事業の意思決定への参加23%、ウェルス教育17%、投資判断への参加17%などが報告されています。これは各施策の効果を実験的に証明した数字ではありませんが、実務の現場で「受け取る前から判断へ参加させる」という発想が使われていることを示す材料にはなります。
家族であることと経営権を分ける
家族企業が難しくなる理由の一つは、親としての愛情と、組織としての評価を同じ場所で扱ってしまうことです。子どもを無条件に愛する気持ちと、「この人には会社の経営を任せない」という判断は本来両立しますが、役割が分かれていなければ、その判断が愛情の否定として受け取られることもあります。
そこで、家族として支援を受けること、経済的な利益を受けること、会社を所有すること、経営すること、資本配分を行うこと、経営者を監督することを分けて考えます。
| 立場 | 主な役割 | 持つ権限の例 | 求めたい条件 |
|---|---|---|---|
| 家族や受益者 | 生活や教育などの基盤を受ける | 定められた範囲の分配や支援 | 共同体の理念や基本ルールへの理解 |
| 所有者 | 長期的な方向を守る | 取締役選任や重要方針への関与 | 財務とガバナンスの基礎知識 |
| 経営者 | 事業を日々運営する | 人事、営業、設備投資などの業務執行 | 実務能力と成果責任 |
| 資本配分担当 | 余剰資本を次の投資へ振り向ける | 再投資、撤退、新規投資の提案 | 投資知識と判断経験 |
| 監督者 | 暴走や利益相反を防ぐ | 重要案件の承認、監査、経営者評価 | 独立性と専門性 |
家族であることは能力によって決まるものではありませんが、共同資本を動かす権限まで自動的に付与する必要はありません。反対に血縁がなくても、長年の実績と信頼があり、共同体の目的を理解している社員や専門経営者へ実際の経営を任せることはできます。
血縁は共同体との関係を生む一つの入口であっても、資本を動かす能力の証明ではないという考えを持てれば、家族への愛情と経営上の判断を少し分けやすくなるでしょう。
公平と均等は同じではない
相続を考える親にとって、「子どもを差別したくない」という気持ちは強いでしょう。三人の子を同じように愛してきたなら、会社株式も三等分したいと考えるのは自然です。
しかし、経済価値を公平に残すことと、議決権を均等に配ることは同じではありません。三人へ同じ株数を渡し、その次の世代でも細分化が進めば、事業を成長させたい人、配当を増やしたい人、現金化したい人、会社へ関心のない人が同じ株主として重要な意思決定へ関係する可能性があります。
株主が増えれば必ず会社が停滞するという普遍法則ではありませんが、利害関係が増えるほど合意形成が複雑になる可能性はあります。そこで、経済的利益、所有権、議決権、経営権を必ず同じ割合で渡すという前提を外し、家族にとって何を公平と考えるのかを生前から話しておく意味があります。
安心を残して依存を残さない
十分な財産を持つ親は、「子どもが資産に依存して働かなくなるのではないか」と不安になることがあります。その心配から、あえて資産の存在を知らせなかったり、必要以上の不自由を経験させようとしたりする場合もあるでしょう。
しかし、教育、医療、安全な住環境、研究や起業へ挑戦する時間まで奪う必要はありません。家族に資本があるなら、それを「何もしなくても贅沢できる権利」ではなく、「普通なら選びにくい長期的な挑戦にも踏み出せる安全網」として使うことができます。
大学や大学院で学びたい場合には支援し、重い病気になれば費用だけを理由に治療を諦めなくて済むようにする一方、新しい事業へ資金を出すなら計画や損失上限を確認し、見栄のための高額消費では共同資本へ簡単に触れられないようにするという設計も考えられます。
安心を与えることと、自立する必要をなくすことは同じではありません。 富があるからこそ失敗しても人生そのものを失わない環境を作り、その中で責任を持って挑戦させることができます。
家族共同体は変化する
家族は固定された集団ではありません。出生、結婚、離婚、死別によって構成が変わり、三代、四代と進めば、お互いをほとんど知らない親族が同じ資本へ関係する可能性もあります。
その状況で「同じ家族だから最後は分かり合える」という期待だけへ依存するのは危険ですが、新しく加わった配偶者を最初から資産流出の原因として扱うことも、共同体への不信を生む可能性があります。そこで、血縁関係、経済的な受益資格、ガバナンスへの参加資格、経営や投資に関する権限を分けて考えます。
新しく参加する人には、家族史や事業の目的、資本を残す理由、利益相反、意思決定の手続きを学ぶ機会を用意し、経営や投資へ関与する場合には経験や責任に応じて権限を広げます。一方、重大なルール違反が繰り返された場合にも、家族関係そのものを否定するのではなく、共同資本を動かす権限だけを制限できる仕組みのほうが現実的です。
また、共同体は個人の結婚、職業、思想、生き方まで支配するためのものではありません。医師や研究者、会社員として別の人生を歩みたい人まで家業へ縛りつければ、資本を守る制度が個人の自由を奪う装置となり、長期的には反発や共同体からの離反につながる可能性があります。
強い共同体とは全員が同じ人生を選ぶ集団ではなく、異なる人生を選んでも共同資本について最低限の目的と手続きを共有できる集団だと考えたほうが、百年単位では持続しやすいのではないでしょうか。
専門家へ任せても監督は残す
資産規模が大きくなるほど、税務、法務、投資、保険、事業承継のすべてを家族だけで処理することには限界が生まれます。税理士、弁護士、公認会計士、投資の専門家、外部取締役などへ役割を分け、規模によってはファミリーオフィス的な機能を持たせることで、家族は本来の事業や生活へ時間を戻せるでしょう。
しかし、専門家にも能力差や利益相反があり、金融商品を販売する立場と、家族全体の資本を長期的に守る立場が完全に一致するとは限りません。そのため、一人へ法務、税務、投資、資金移動のすべてを集中させず、重要案件について別の立場から確認できる仕組みを持ち、家族の側にも専門家を選び、質問し、必要なら交代させる能力を残しておく必要があります。
人を信じないことが目的ではありません。人を信頼しながら、その人が間違えても全体が壊れない制度を作ることが、長期的なガバナンスの役割です。
何のために資本を残すのかを先に決める
一定以上の資産を持つと、やがて「自分一人では使い切れない」という現実が見えてきます。高価な住宅や旅行、趣味へ多くのお金を使うことはできますが、人が使える時間にも享受できる消費にも限界があるため、資産額が増え続けても本人の幸福が同じ割合で増えるとは限りません。
すると問いは、「いくら残せるか」から「自分がいなくなったあと、何が残っていれば今の自分は納得できるのか」へ変わります。子や孫が教育や医療を理由に人生の選択肢を失わないことを望む人もいれば、社員や後継者が事業を発展させること、研究や文化、地域社会へ資金が流れ続けることに意味を感じる人もいるでしょう。
そして、資本を託す相手は必ずしも血縁者だけではありません。血がつながっていても本人の事業や価値観へ関心を持たない人はいますし、反対に血縁がなくても、長い時間を共に過ごし、自分の理想を理解して次の時代へ発展させてくれる社員、経営者、研究者などがいるかもしれません。
ここまで考えると、「相続」という言葉だけでは少し狭く感じられます。財産だけではなく、事業、判断基準、知識、人間関係、文化、社会への責任まで次へ渡すのであれば、それは「継承」と捉えたほうが近いでしょう。
この章で決めたいのは最終結論ではなく、制度設計の前提となる目的です。何のために資本を残すのかが決まれば、誰へ利益を渡すのか、何を再投資するのか、後継者へどの権限を渡すのかという後の判断に一本の基準ができます。
社会還元と資産防衛をつなぐ
社会へ資金を出せば、その分だけ現在の財産は減るため、社会貢献と資産防衛は反対方向に見えます。しかし、元本を一度に使い切るのではなく、事業や投資から生まれる収益の一部を継続的に還元するなら、資本の維持と社会的な価値創出を同時に目指せます。
Wallenberg Investmentsによれば、Wallenberg Foundations全体の資産価値は2025年末で約3,700億スウェーデンクローナであり、保有資産から得た配当は研究や教育への助成に使われています。またWallenberg公式サイトは、2025年にスウェーデンの研究へ31億スウェーデンクローナが配分されたと説明しています。
ここで対象を広げすぎないことも重要です。公式資料から直接確認できるのは、少なくともWallenberg Foundationsに置かれた資産について、個々の家族構成員が通常の私有財産のように自由に取り崩す構造ではなく、財団の目的に沿って管理され、研究や教育へ成果が循環していることです。一族が個人的に所有する全財産へ同じ制約があるとまでは、これらの資料から確認できません。
もちろん、数億円規模の家庭が同じような巨大財団を作る必要はありません。年間100万円や300万円でも、自分が大切だと考える研究、教育、地域活動、若い起業家などへ十年、二十年と資金を出せば、一度きりの寄付とは異なる経験と関係が蓄積します。
さらに、生きているうちに社会還元を試せば、「自分は何を未来へ残したいのか」という問いにも具体的な答えが見えてきます。「先祖のお金だから減らすな」だけでは次世代が守る意味を感じにくくなっても、「この資本があるから家族の挑戦を支えながら、毎年研究や教育へ資金を送り続けられる」と説明できれば、共同資本を維持する理由は現在を生きる人にとっても理解しやすくなるでしょう。
法人や信託は目的のあとで選ぶ
資産承継について調べ始めると、資産管理会社、持株会社、信託、遺言、生命保険など、具体的な制度へ意識が向かいます。そこで最初に「どれを使えば税金が減るのか」と考えたくなりますが、長期承継では順序を逆にしたほうが整理しやすくなります。
本稿では、目的 → 受益者 → 経営者や資産運用の担当者 → 監督者 → 中核資本と分配の原則 → 法人や信託などの器という順序で考えます。法律や税制が将来変わったとしても、目的が明確であれば、器を変更しながら基本方針を残しやすいからです。
法人版事業承継税制の特例措置について、国税庁は2026年4月1日現在、特例承継計画の提出期間を2027年9月30日まで、特例措置の相続等・贈与の適用期限を2027年12月31日までとしています。同制度は一定要件のもとで非上場株式等に係る相続税や贈与税の納税を猶予し、所定の場合に免除へつながる制度であり、「会社を持てば相続税がなくなる」という仕組みではありません。
信託についても、一種類の万能制度ではありません。信託協会は事業承継信託について、自社株式を受託者へ管理させ、判断能力低下への備えや、契約に基づく後継者への株式承継に利用できることを説明していますが、事業承継に信託を活用した場合は法人版事業承継税制の対象にならないことも明記しています。
したがって、法人と信託のどちらが優れているかを抽象的に決めることはできません。税負担への備えを優先するのか、株式の管理継続や判断能力低下への対応を重視するのか、誰へどの順序で権利を渡すのかによって必要な仕組みは変わります。
箱を先に選ぶのではなく、残したい未来を先に決め、その未来を実現しやすい箱を選ぶという順序が重要です。
生きているうちに承継を小さく試す
資産承継の仕組み作りは、重要であっても緊急に見えにくい仕事です。家族憲章を作らなくても明日の売上は変わらず、後継者教育を一年遅らせてもその日に資産が消えるわけではないため、事業を築いてきた人ほど目の前の成長機会へ時間を使いたくなります。
しかも、その人を成功させたのが顧客を増やし、新しい市場へ進み、リスクを取る「攻め」の能力であれば、ガバナンス、権限分散、後継者教育といった「守り」の仕事は、成果が見えにくく感じられるでしょう。それでも、死亡、病気、判断能力の低下、事業危機は準備が終わるまで待ってくれません。
一定以上の資産を持つ人には、生活を壊さない範囲で小さな失敗を経験できる場合があります。その余裕をさらに大きな賭けへ使うのではなく、自分がいなくても資本が働く仕組みを試作する時間と失敗余力として使うことが、長期承継では重要になります。
まず自分の状態を確認する
同じ3億円の財産があっても、必要な準備は同じではありません。金融資産が中心で事業を持っていない人と、財産の大部分が創業会社の株式へ集中している人では問題が異なり、すでに子が経営へ参加している家庭と、家族に後継者候補がいない家庭でも優先順位は変わります。
事業を持たない人であれば、自ら新会社を作ることより、資産が特定の国、通貨、企業、不動産へ偏りすぎていないか、本人が判断できなくなった場合に誰が投資方針を引き継ぐのかを考えるほうが先かもしれません。創業企業へ財産が集中している人なら、会社の承継、議決権、納税資金、経営者選び、事業外資産への分散が中心課題になるでしょう。
大切なのは「富裕層なら全員同じ制度を使う」と考えず、自分の資産が何へ集中し、自分がいなくなるとどの機能が止まるのかを最初に把握することです。
本人不在テストを行う
事業を持つ人なら、最初は一週間ほど日常的な意思決定から意図的に離れてみます。その間に顧客からの問い合わせが本人へ戻り、銀行との連絡が止まり、社員が重要事項を何も決められないなら、表面上は組織になっていても、実際には創業者の記憶や人間関係が会社を動かしていると分かります。
そこで止まった仕事を確認して情報と権限を別の人へ移し、次は二週間、その後は一か月と期間を延ばします。売上だけでなく、本人しか知らない契約や顧客関係が残っていないか、重要情報が個人端末へ集中していないか、社員が判断基準まで理解しているかを見ることで、死後に初めて問題を発見する危険を減らせます。
事業を持たない人も、似たテストは可能です。自分が一か月間、銀行、証券会社、不動産会社、税理士などへ連絡できない状態になったとき、家族がどこに何の資産があり、誰へ連絡し、どの支払いを続ければよいか分からないのであれば、資産運用以前に情報承継の問題があります。
後継者には小さな予算から任せる
後継者の資本配分能力を育てる場合も、最初から巨額を任せる必要はありません。ある家庭では500万円程度を独立予算として、新規事業、上場株式、不動産関連投資など本人が理解できる対象を調べさせる方法も考えられますが、金額そのものに意味があるわけではなく、総資産や経験に応じて「失敗しても学習を続けられる規模」に設定することが重要です。
| 確認する点 | 見たい行動 |
|---|---|
| 調査 | 自分で情報を集め、分からない点を専門家へ確認できるか |
| 判断 | 利益だけでなく損失可能性と代替案まで考えているか |
| 実行 | 契約、資金管理、記録を丁寧に進められるか |
| 失敗後 | 結果を隠さず、前提と判断過程を振り返れるか |
| 再挑戦 | 同じ失敗を避け、次の判断へ学習を反映できるか |
500万円が550万円になれば合格で、400万円なら失格という評価では不十分です。上昇相場で偶然利益が出ただけかもしれず、反対に適切な判断をしても短期的には損失が出るため、結果だけでなく判断過程を見る必要があります。
生前の小さな失敗なら、一緒に原因を確認して次の機会へつなげられます。死後に初めて数億円を渡し、その時点で本人が資本管理を学び始める設計では、教育に必要な損失額まで大きくなりかねません。
家族会議も小さく始める
家族ガバナンスという言葉から、大きな会議室や複雑な規則を想像する必要はありません。最初は年に一度でも、資産残高だけではなく、「この資本をなぜ残すのか」「今年どこへ再投資したのか」「何がうまくいかなかったのか」を話せる場を作れば、承継は死後の手続きから現在の共同作業へ変わります。
Julius BaerのFamily Barometer 2024では、Julius Baerの専門家873人、PwCの専門家586人、第三者の専門家390人を合わせた1,849人へ調査票が配布され、全体回答率は33.7%でした。この調査は富裕家族本人1,849人が回答したものではなく、富裕顧客へ接する専門家を対象とした調査である点に注意が必要です。
その回答では、担当するUHNW顧客の家族ガバナンスについて、非公式な話し合いを中心とする構造が64%、議題を定めた会議などを含む明確な構造が31%、構造を持たないケースが5%と報告されています。この数字から「正式な家族会議を作れば承継に成功する」とは言えませんが、資産規模が大きくなれば自然に統治の仕組みまで整うわけではないことを考える材料にはなるでしょう。
最初から完成した家族憲章を作るより、まず会話を続けられる場所を作り、その後、参加資格、議決方法、重要資産の売却条件、利益相反、紛争時の調停や退出方法まで必要に応じて制度化するほうが、家族にとって意味を理解しやすくなります。
社会還元も生前に試す
社会への還元も、死後の遺言だけで決める必要はありません。年間100万円や300万円など、家族資本全体を傷めない規模から研究、教育、文化、地域活動、起業家支援などへ資金を出してみれば、自分が本当に何へ価値を感じるのかを確かめられます。
想像していたほど意味を感じなければ支援先を変えられますし、ある活動へ強く共感したなら翌年から支援を深めることもできます。後継者にも支援先の調査や評価へ参加してもらえば、社会還元は単なる寄付ではなく、資本を何のために使うのかを考える実践的な教育になります。
こうした試行錯誤を十年、二十年と続ければ、次世代へ残るのは契約書や遺言書だけではありません。何を試し、どこで失敗し、なぜ制度を変えたのかという経験も残るため、自分が亡くなった日に仕組みが初めて動くのではなく、すでに動いている仕組みの管理者だけが交代する状態へ近づいていきます。
最初の一週間でできること
この記事を読んだあと、最初から信託や持株会社を作る必要はありません。まず自分の財産を、現在の自分や家族が自由に使うための部分と、できれば自分の死後も働かせたい部分に分け、後者を「何のために残したいのか」と一枚の紙へ書いてみるところから始められます。
次に、自分が明日から一か月間まったく動けなくなった場合、会社、投資、銀行口座、不動産、重要契約、家族への支払いのどこが止まるのかを確認します。その結果によって、最初に必要なのが税務対策なのか、資産情報の整理なのか、事業の組織化なのか、後継者教育なのか、家族との対話なのかが変わってくるでしょう。
100年後から現在を逆算する
ここまでの議論を一つへ統合する方法が、100年後から現在へ逆算する考え方です。現在10億円あるから何円を子どもへ渡すかと考えるのではなく、自分が亡くなって100年後、その資本がどのような状態で存在し、何を生み出していてほしいのかを先に考えます。
家族や大切な人が、教育や医療を理由に人生の選択肢を失わない状態を望む人もいるでしょう。自分が作った会社そのものはなくなっていても、そこから生まれた資本が別の企業や事業へ投じられ、新しい雇用や商品を生み出していることに満足する人もいます。
あるいは、毎年一定の資金が研究や教育へ流れ、自分が一度も会うことのない未来の人たちを支えていることに意味を感じるかもしれません。答えは人によって異なり、その違いが資産承継の設計を決めます。
100年後の姿を思い描けば、50年後にも機能してほしいガバナンスが見え、そこから25年後に必要となる後継者教育を考え、さらに現在の自分が何を試すべきかまで戻ってくることができます。これは未来を正確に予言するためではなく、短期的な節税や現在の資産価格だけでは見えにくい優先順位を明らかにするための逆算です。
その視点に立つと、「先祖の会社を絶対に残せ」「この資産は永久に売るな」という固定的な命令では足りないことが分かります。家族も法律も産業も変わる以上、必要なのは資産を凍結する規則ではなく、目的を守りながら資本の置き場所と制度を更新できる能力でしょう。
死ぬときにいくら残すかではなく、100年後にその資本が何を生み出していてほしいのかを先に考え、そこから現在へ戻ってくる。 この視点を持つと、資産承継は財産を渡す作業から、未来へ残したい価値を生きているうちに仕組みへ変えていく仕事になります。
富裕層の資産承継に関するFAQ
- 富は本当に三代でなくなる?
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「第2世代までに70%、第3世代までに90%が失敗する」という数字は広く引用されていますが、普遍的な法則として確立しているわけではありません。数字を宿命として恐れるより、家族のコミュニケーション、後継者教育、資本配分、ガバナンスといった改善可能な問題へ分けて考えるほうが実務的です。
- 相続税だけが資産減少の原因?
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相続税は大きな負担になり得ますが、長期的な資産減少の原因はそれだけではありません。収益を生みにくい資産への集中、過大な家族分配、不適切な投資、事業環境の悪化、後継者間の対立なども重なるため、節税だけで百年単位の承継が完成するわけではありません。
- 資本を残すには事業を始める必要がある?
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必要ありません。本稿でいう資本とは、自分で経営する会社だけではなく、他者の企業への株式投資、収益不動産、REIT、債券、ファンド、知的財産など、将来の価値創出へ資産を配置した状態を広く含む考え方です。事業経営の経験や意欲がなければ、無理に会社を作るより、分散された資本所有のほうが目的に合う場合があります。
- 会社に資産を入れれば相続対策になる?
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法人を利用することで資産管理や承継を設計しやすくなる場合はありますが、個人が非上場株式を持っていれば、その株式自体が相続や贈与時の評価対象になります。会社という箱だけを見るのではなく、中でどのような利益が生まれ、その利益を誰がどこへ再投資するのかまで考える必要があります。
- 元本は絶対に使わないほうがよい?
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私的消費によって中核資本を安易に毀損しないことは重要ですが、現在の資産を永久に固定する必要はありません。不採算事業から撤退したり、集中した投資を分散したりすることも、長期的な価値創出力を守るためには必要になる場合があります。
- 子ども全員へ同じ株数を渡すべき?
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経済価値を公平に残すことと、議決権や経営権を均等に配ることは別問題です。誰がどの程度の経済的利益を受けるのかと、誰が会社の重要判断へ参加するのかを分けて設計する余地がありますが、具体的には遺留分、会社法、税務なども関係するため、専門家との確認が必要になります。
- 後継者が経営に向いていない場合は?
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無理に家族を経営者へする必要はありません。外部の適任者へ日々の経営を任せ、家族は長期所有者として経営者を選び、監督し、必要な場合に交代させる役割を担う形も考えられます。
- 家族以外へ資本を託してもよい?
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資本を残す目的が血縁そのものではなく、事業や価値を未来へ残すことにあるなら、社員、専門経営者、研究者、財団などが重要な役割を担う場合もあります。誰が家族かという問題と、誰へどの権限を託すかという問題を分けることが重要です。
- 社会貢献をすると資産は減らない?
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支出した資金そのものは減ります。ここで重要なのは「寄付すれば資産が減らない」という話ではなく、事業や投資から生まれる収益の一部を継続的に社会へ還元する設計によって、資本の維持と社会的目的を同時に追求できるという点です。
- 法人と信託はどちらがよい?
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どちらか一方が常に優れているわけではありません。誰へ利益を渡すのか、誰が管理するのか、何を監督したいのかによって適した仕組みは変わり、事業承継に信託を利用した場合には法人版事業承継税制の対象にならない点にも注意が必要です。
まとめ
資産承継で最初に決めるべきことは、節税方法でも法人形態でもなく、自分がいなくなったあと、その資本に何をさせたいのかです。その目的が定まれば、自分で事業を続けるのか、他者の企業へ分散投資するのか、どこまで家族へ分配するのか、誰へ経営や監督を任せるのかという具体的な判断へ進めます。
今週できることは、それほど複雑ではありません。自分の財産の中で「現在の生活のために使う部分」と「自分の死後も働かせたい部分」を分け、後者について100年後に何を生み出していてほしいのかを一度書き出してみることで、単なる遺産を次の世代でも価値を生む資本へ変えていく最初の設計が始まります。
参考資料
三代承継に関する70%・90%という数字とその批判的検討は、CFA Institute「How real is the third-generation curse?」 を参照しています。
Williams Group系調査の分類については Julius Baer「Wealth Planning: Your succession compass」、Williams Group自身の研究説明については The Williams Group「Our Story」 と Family Readiness Assessment を参照しています。
家族ガバナンス、調査票配布数、回答率、次世代準備の施策については、Julius Baer「Family Barometer 2024」 を参照しています。
日本の相続税については 国税庁「相続税がかかる場合」 と 国税庁「相続税の税率」、法人版事業承継税制については 国税庁「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等」 を参照しています。
事業承継信託と法人版事業承継税制との関係については 信託協会「事業承継信託」、不動産評価をめぐる2022年4月19日の判決については 最高裁判所「令和2年(行ヒ)第283号 判決本文」 を参照しています。
歴史事例では、三井家について 三井文庫「家訓 宗竺遺書」 と 三井文庫「三井家憲の制定」、メディチ家について Uffizi Galleries「About us」、ヴァンダービルト家について Vanderbilt University「The Vanderbilt Legacy in Newport」、ロスチャイルド家について Rothschild & Co「About us」 を参照しています。
Wallenberg Foundationsの資産構造と2025年の研究助成については、Wallenberg Investments「Ownership and holdings」 と Wallenberg公式サイト を参照しています。