日本の家計は、本当に金融リスクを嫌っているのでしょうか。
家計金融資産では現金や預金の割合が高い一方、住宅ローンでは変動金利が多く利用されています。預金では残高が動かない安心を求めながら、負債では将来の金利変化を引き受けているようにも見えるでしょう。
一見すると、ちぐはぐな行動です。
しかし、実のところ、ここから直ちに「日本人は矛盾している」「金融リスクを理解していない」と結論づけることはできません。預金を多く保有する世帯と、変動金利の住宅ローンを利用した世帯が同じとは限らないからです。
それでも、家計の金融判断を考えるうえで重要な問いが残ります。
日本の家計は金融リスクを一律に避けているのではなく、預金残高、適用金利、毎月返済額、保険料、保障額といった見えやすい数字を使い、複雑な金融リスクを部分的に判断しているのではないでしょうか。
見えやすい数字は、金融商品を比較するための大切な入口です。とはいえ、一つの数字だけでは、契約全体で何が変化し、誰にどの負担が残り、どの費用と引き換えなのかまでは分かりません。
この記事では、預金、住宅ローン、保険、投資を通じて、日本の家計が何を見て、何を見落としやすいのかを考えます。
日本の家計金融資産と住宅ローン
現金預金が多い日本の家計
日本銀行の「資金循環の日米欧比較」によると、2025年3月末時点における日本の家計金融資産は2,195兆円です。
このうち、現金と預金は51.0%を占めています。米国では11.5%、ユーロエリアでは31.8%でした。
一方、日本の株式等の割合は12.2%であり、米国の41.5%を大きく下回ります。
この数字を見る限り、日本の家計は価格が日々変動する資産より、口座上の金額が安定して見える資産を相対的に重視していると考えられるでしょう。
100万円を預ければ、翌日も画面には100万円と表示されます。数字が静かであることは、家計にとって分かりやすい安心材料になります。
ただし、現金や預金の割合が高いという統計だけで、すべての日本人が価格変動を避けているとは言えません。資産額、年齢、収入、住宅保有状況によって、金融資産の構成は大きく異なります。
| 地域 | 現金・預金 | 株式等 | 読み取れる特徴 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 51.0% | 12.2% | 額面が安定して見える資産の比率が高い |
| 米国 | 11.5% | 41.5% | 株式等の比率が日本を大きく上回る |
| ユーロエリア | 31.8% | ― | 現金・預金比率は日本と米国の中間 |
変動金利を利用した調査回答者
さて、住宅ローンへ目を移すと、別の傾向が見えてきます。
住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者調査 2026年1月調査」では、同調査の回答者が利用した住宅ローンの75.0%が変動型でした。
この調査は、2025年4月から9月に住宅ローンを利用して住宅を取得した1,237人を対象とするインターネット調査です。
したがって、75.0%という数字は、日本国内のすべての住宅ローン利用者を集計したものではありません。一定の条件を満たした調査回答者における結果として読む必要があります。
回答者が利用した住宅ローンのうち、固定期間選択型は14.9%、全期間固定型は10.1%でした。
調査標本に限った結果ではあるものの、変動型が多く選ばれていたことは確認できます。
| 金利タイプ・回答項目 | 割合 | 解釈上の注意 |
|---|---|---|
| 変動型 | 75.0% | 調査対象1,237人の回答結果であり、国内全利用者の集計ではない |
| 固定期間選択型 | 14.9% | 調査標本内の構成比 |
| 全期間固定型 | 10.1% | 調査標本内の構成比 |
| 今後1年で金利上昇と予想 | 73.7% | 回答者全体の結果で、変動型利用者だけの集計ではない |
| 返済額増加の理解に不安を含む3区分 | 52.0% | 「少し不安」も含み、全員が未理解という意味ではない |
金利上昇予想と理解への不安
同調査の回答者全体では、今後1年間の住宅ローン金利が「現状よりも上昇する」と答えた割合が73.7%でした。
ただし、この回答は変動型を選んだ人だけを集計したものではありません。変動型75.0%との個人単位の対応関係も、概要資料からは確認できないのです。
つまり、「金利が上昇すると考えながら変動金利を選んだ人が73.7%いた」という意味ではありません。
また、金利上昇時に返済額がどれくらい増えるかについて、「理解しているか少し不安」「よく理解していない」「全く理解していない」という3区分の合計は52.0%でした。
この52.0%には、ある程度は理解しているものの少し不安を感じている人も含まれます。「回答者の半数以上が理解していなかった」と言い換えるのは適切ではないでしょう。
それでも、金利上昇時の返済負担について、確信を持てない回答者が一定数いたことは読み取れます。
二つの統計から分かる限界
家計金融資産の統計と住宅ローン利用者調査は、同じ個人を追跡したものではありません。
預金を多く持つ人が変動金利を選んだとは限らず、金利上昇を予想した人が変動型を利用したとも断定できません。
変動金利を選ぶことには、合理的な理由もあります。借入額が小さい、返済期間が短い、金利上昇時に繰上返済できる余裕資金がある場合には、将来の変化を引き受ける選択も成り立ちます。
そのため、日本人の心理や判断力を統計だけから決めつけるべきではありません。
とはいえ、日本の家計を「あらゆる金融リスクを避ける人々」と一括して説明することも難しいでしょう。
見える数字で選ぶ金融商品
家計が注目しやすい数字
金融商品には、比較しやすい数字が表示されています。
預金では、口座残高と預金金利が目に入ります。
住宅ローンでは、適用金利と毎月返済額を見るでしょう。
保険では、保険料と保障額が示されます。
投資では、現在価格と過去利回りが表示されます。
これらはいずれも重要な判断材料です。数字がなければ、複数の商品を比較することはできません。
ところが、金融商品は一つの数字で説明できるほど単純ではないのです。
見えやすい数字と見えにくい負担
預金残高が100万円で変わらなくても、物価が上がれば購入できる商品やサービスは減ります。
住宅ローンの当初金利が低くても、将来の利息額、返済額、元金残高、総支払額は変化するかもしれません。
保険料が安くても、給付条件や免責期間が厳しければ、必要なときに給付を受けられない可能性があります。
投資商品の過去利回りが高くても、その途中で大幅な下落が発生していたかもしれません。
ふと立ち止まると、表示された数字そのものが誤っているわけではありません。
ただし、その数字が契約全体の一部分にすぎないことはあります。
一つの数字で契約全体を見ない
見えやすい数字を確認すること自体は問題ではありません。
本当の問題は、一つの数字だけを見て、契約全体として何を得るのか、何が変化するのか、その負担を誰が引き受けるのかを見失うことです。
保険料が月5,000円であることは分かっても、その保険によってどの損失が補われ、どの損失が家計に残るのかは別の問題でしょう。
住宅ローン金利が年0.7%であることを確認しても、金利が上昇したときに利息や元金残高がどう変わるかまでは見えません。
数字は判断を助けます。それでも、数字だけに寄りかかれば、契約全体がぼんやりする場合があります。
金融リスクと費用の違い
保険料と契約上の費用
金融商品を考えるときは、将来のリスクと、その時点で支払う費用を分ける必要があります。
保険料は、病気や事故が起きるかどうかという不確実性そのものではありません。
病気や事故による大きな損失の一部を保険会社へ移すため、その時点の契約に基づいて支払う費用です。
ただし、更新型の商品などでは、将来の保険料が現在と同額とは限りません。契約期間全体の費用が最初から確定しているとは言えない場合もあります。
払込期間、更新条件、年齢による保険料変更の有無は、契約ごとに確認しなければなりません。
固定金利に含まれる安定性
固定金利が変動金利より高い場合、その差には、一定期間の返済条件を安定させるためのコストも含まれていると考えられます。
ただし、実際の金利差は、将来の市場金利の見通し、固定期間、金融機関の資金調達やヘッジにかかる費用、商品設計、価格設定など複数の要因で決まります。
したがって、固定金利と変動金利の差額すべてを、金利上昇を避けるためだけの料金と捉えるのは適切ではありません。
それでも、固定期間中の返済条件を安定させる機能が、固定金利商品の重要な特徴であることは変わらないでしょう。
投資にかかる費用と税負担
投資商品の購入時手数料や信託報酬などは、投資によって生じる費用です。
課税口座で売却益や配当、分配金などが生じた場合の税負担も、家計の最終的な受取額に影響します。
ただし、実際の税額は、所得の種類、口座区分、損益通算、繰越控除などによって変わる場合があります。
一方、投資価格の下落や為替変動は、将来の結果が動くリスクです。
費用とリスクを一緒に扱うと、何が確定しており、何が将来変化するのか分かりにくくなります。
預金に残る機会費用
預金では、口座から直接差し引かれる費用が発生するとは限りません。
しかし、預金金利が物価上昇率を下回れば、実質的な購買力は低下します。
さらに、長期間使わない資金をすべて預金に置けば、他の資産へ投じた場合に得られたかもしれない収益を逃す可能性があります。
このような負担は、通帳にマイナスとして表示されません。
じわじわと効いてくるため、価格下落より気づきにくい面があるでしょう。
預金に残る金融リスク
預金が家計に必要な理由
預金は、日常生活で使う資金や緊急時の支出を確保するうえで重要です。
額面が安定し、必要なときに支払いへ使いやすい点は、大きな利点になります。
生活費、税金、医療費、急な修繕費など、近い時期に使う資金を値動きの大きい資産へ置くと、必要時の金額を確保できない場合があります。
その意味で、預金は家計の土台です。
金融リスクがあるからといって、預金の重要性が失われるわけではありません。
預金者が直接負担しにくいリスク
預金者は、銀行の個々の融資先が抱える信用リスクを、そのまま直接負担するわけではありません。
ある企業への融資が回収できなくなったからといって、直ちに預金残高が減る仕組みではないからです。
銀行の財務基盤、金融監督、預金保険制度なども、預金者への影響を抑える役割を担っています。
とはいえ、銀行自体の信用リスクが完全に消えるわけではありません。
預金保険制度にも、対象となる預金や保護される金額の範囲が定められています。
預金者に残る購買力低下
預金の画面上の金額は安定していても、実質的な価値は動きます。
物価が上昇すれば、同じ100万円で買えるものは減るでしょう。
つまり、預金には変動がないのではありません。
見えやすい額面が動きにくい一方で、見えにくい購買力が変化しているのです。
預金が安全か危険かを一言で決めることはできません。
何のための資金か、いつ使うのか、どの程度の流動性が必要かによって、預金の適切な割合は変わります。
変動金利に残る住宅ローンリスク
変動金利の当初金利
変動金利は、契約時点で固定金利より低い金利となる場合があります。
その場合、当初の毎月返済額も小さく見えやすく、現在の家計負担を抑えられる住宅ローンとして魅力を感じるでしょう。
住宅購入時には、頭金、諸費用、引っ越し費用、家具や家電の購入費など、多くの支出が重なります。
毎月返済額が数万円違えば、借り手が受ける印象も大きく変わります。
ただし、変動金利が常に固定金利より低いとは限りません。商品や時期によって条件は異なります。
金利変化を受ける借り手
変動金利では、将来の金利変化による影響を借り手が受けます。
固定金利では、契約で定めた期間中の適用金利を固定し、その期間における金利変化の影響を抑えます。
変動金利は、契約時点で固定金利より低い金利となる場合がある一方、将来の金利変化の影響を借り手が受ける契約です。
固定金利は、一定期間の返済条件を安定させる特徴を持っています。
どちらかが常に有利なのではなく、現在の金利、固定期間、借入期間、家計の余裕によって評価は変わるでしょう。
毎月返済額以外の変化
金利が上昇した場合、変化する可能性があるのは毎月返済額だけではありません。
利息額、元金の減少速度、将来の借入残高、完済までの総支払額にも影響が広がります。
元利均等返済の一部商品では、金利が上がっても毎月返済額が一定期間変わらない場合があります。
「返済額が同じなら問題はない」と感じるかもしれません。
しかし、返済額のうち利息へ充てられる割合が増えれば、元金の減少が遅くなる可能性があります。
負担は月額の増加ではなく、残高が減りにくい形や総支払額が増える形で現れる場合もあるのです。
変動金利が合理的になる条件
変動金利が常に不適切なわけではありません。
借入額を抑えている、返済期間が短い、金利上昇時に対応できる預金がある、繰上返済の計画がある家計では、変動金利を選ぶ合理性があります。
重要なのは、現在の低い金利だけを前提に返済計画を成立させないことです。
教育費、生活費、住宅修繕費が増え、収入が減った場合にも返済を続けられるでしょうか。
将来の金利を正確に当てるより、予想が外れても家計が持ちこたえられるかを確認する方が実用的です。
保険に残る保障外リスク
全生保の加入率と保険料
生命保険文化センターの2024年度調査では、民間生命保険会社、簡保、JA、県民共済、生協等を含む「全生保」について、生命保険と個人年金保険の世帯加入率は2人以上世帯で89.2%でした。
世帯の年間払込保険料は平均35.3万円です。
これらの数値は、民間生命保険会社だけを対象としたものではありません。
簡保、JA、県民共済、生協等を含む範囲の統計である点に注意が必要です。
それでも、多くの世帯が生命保険や個人年金保険に加入し、継続的に保険料を支払っていることは読み取れるでしょう。
| 指標 | 2024年度調査 | 対象範囲 |
|---|---|---|
| 生命保険・個人年金保険の世帯加入率 | 89.2% | 2人以上世帯、「全生保」 |
| 世帯の年間払込保険料 | 平均35.3万円 | 民間生保だけでなく、簡保・JA・県民共済・生協等を含む |
保険料と保障額の見やすさ
保険では、月額保険料と保障額が分かりやすい指標になります。
「月々3,000円で入院給付金が1日1万円」と示されれば、家計への負担と保障の大きさを比較しやすく感じるでしょう。
しかし、保険料と保障額だけでは契約全体は分かりません。
どの状態になったときに、何日目から、何回まで、いくら支払われるかを確認する必要があります。
保障額が大きくても、給付条件に該当しなければ保険金や給付金は支払われません。
給付条件と免責範囲
病気になったことと、契約上の給付条件を満たしたことは同じではありません。
本人が働けないと感じる状態でも、約款上の就業不能状態には該当しない場合があります。
入院給付金にも、支払日数の上限や対象となる入院の条件が設定されていることがあります。
医療技術や治療方法が変化すれば、入院日数が短くなり、通院治療が中心になる場合もあるでしょう。
そのため、保障額だけでなく、給付条件、免責期間、支払日数、給付回数を確認しなければなりません。
家計に残る保険料と損失
保険会社が負担するのは、契約上の対象となる損失です。
給付上限を超えた支出、対象外の治療費、免責期間中の収入減少などは家計に残ります。
また、保険料は、その時点の契約に基づいて家計が支払う費用です。
更新型の商品では、将来の保険料が現在と同じとは限りません。
保険とは、病気や事故による不確実で大きな損失の一部を、契約に基づく保険料負担へ置き換える仕組みだと考えられます。
保険で移すべき家計損失
小さな損失まで広く保険で備えれば、保障に対して保険料負担が重くなる場合があります。
反対に、家計では吸収できない損失を無保険で抱えれば、事故や病気によって生活を維持できなくなるかもしれません。
保険を考えるときは、掛け捨てか貯蓄型かという分類だけでは不十分です。
どの損失を保険会社へ移し、そのためにいくらを支払い、どの損失を家計に残すのかを見る必要があります。
投資に残る価格以外のリスク
価格変動が見えやすい投資
投資では価格が日々変動します。
そのため、預金や保険よりもリスクが目に見えやすいでしょう。
価格が下がれば評価額が減少し、上昇すれば資産が増えたように感じられます。
ただし、投資の危険性は値動きの大きさだけでは決まりません。
同じ価格下落でも、その資金をいつ使う予定なのかによって家計への影響が異なります。
資金を使う時期の影響
同じ20%の下落でも、家計への影響は資金を使う時期によって変わります。
翌月に必要な教育費が20%下落すれば、予定していた支出に直接影響します。
一方、20年間使わない老後資金であり、生活費が別に確保されていれば、短期的な下落によって直ちに売却する必要はないかもしれません。
とはいえ、長く保有すれば必ず価格が回復するわけではありません。
投資期間が長いことは、損失がなくなる保証ではなく、短期的な変動へ対応する時間を持ちやすいという意味です。
投資家が負担する複数リスク
投資家が負担するのは価格下落だけではありません。
為替変動、発行体や投資先の信用状態、必要な時期の換金価格、市場で売買しやすいかどうかも影響します。
過去利回りも商品の一部分です。
どの期間の実績なのか、途中でどの程度下落したのか、為替の影響を含むのか、手数料控除後なのかによって意味は変わります。
高い利回りだけを見れば魅力的でも、その裏側に大きな値動きや信用リスクがあるかもしれません。
NISAは投資資産を置く口座制度
NISAは投資商品でも投資手法でもありません。
株式や投資信託などの投資資産を、どの税制上の口座に置くかを決めるための口座制度です。
同じ投資信託を保有するなら、NISA口座に置いても課税口座に置いても、商品の値動きそのものは変わりません。
NISA口座だから価格下落が小さくなるわけではなく、投資先の信用リスクや為替変動が抑えられるわけでもないのです。
「非課税なら有利ではないのか」と感じるでしょう。
確かに、NISA口座で保有する対象商品から得た一定の売却益や配当などには、非課税となる利点があります。
しかし、利益側だけを見て、NISAが常に有利だと表現するのは不十分です。
NISA口座内で生じた損失は、税務上はなかったものとして扱われるため、課税口座の売却益や配当などとの損益通算には利用できません。
翌年以後への繰越控除もできない仕組みです。
一方、課税口座で生じた上場株式等の一定の譲渡損失は、要件を満たして確定申告を行えば、上場株式等の配当所得等との損益通算が可能です。
控除しきれない損失については、翌年以後3年間の繰越控除を受けられる場合もあります。
つまり、NISAは投資リスクを減らす制度ではありません。
利益が出た場合の税負担を抑える一方で、損失が出た場合には課税口座で利用できる税務上の調整が使えない口座制度です。
NISAを検討する順番
さて、NISAを考える順番も重要になります。
最初に決めるべきなのは、NISA口座を使うかどうかではありません。
まず、人生設計を踏まえて、いつ、何のために、いくら必要なのかを整理します。
住宅購入資金、教育資金、老後資金などは、必要となる時期も金額も異なるでしょう。
次に、急な支出や収入減少に備える生活防衛資金を、預金などで確保する必要があります。
生活防衛資金まで値動きのある資産へ置けば、相場下落時に生活費のための売却を迫られるかもしれません。
そのうえで、近く使う資金と長期間使わない資金を分け、預金、株式、債券などの資産配分を検討します。
最後に、投資する資産のうち、どの商品をNISA口座へ置くかを判断する流れです。
NISAという口座を先に決め、後から投資目的を考えるのでは順序が逆になります。
非課税という見えやすい利点だけではなく、必要資金、使用時期、生活防衛資金、資産配分を先に確認することが大切です。
金融リスクを見抜く三つの確認
変化する数字と期間
最初に確認するのは、何が、どの程度、どの期間変化するのかです。
住宅ローンでは、金利、利息、返済額、元金残高、総支払額が動く可能性があります。
預金では、額面が安定していても購買力が変化します。
投資では、価格、為替、必要時の換金額が変わるでしょう。
保険では、更新後の保険料や実際に給付対象となる範囲が契約条件に左右されます。
変化の大きさだけでなく、一時的か継続的か、上限があるか、元へ戻る可能性があるかも確認します。
負担する人と負担の形
次に、その負担を誰がどの形で引き受けるのかを見ます。
変動金利では、金利変化による返済への影響が借り手に残ります。
預金では、インフレによる購買力低下を預金者が負担します。
投資では、価格、為替、信用、換金条件の変化を投資家が引き受けるでしょう。
保険では、契約上の対象となる損失を保険会社が負担し、対象外の損失と保険料は家計に残ります。
金融商品を選ぶとは、リスクを消すことではありません。
リスクの置き場所と、負担が現れる形を変えることなのです。
他の家計負担との重なり
最後に、他の問題と重なっても家計が耐えられるかを確認します。
金利上昇だけなら預金で対応できるかもしれません。
しかし、同じ時期に物価が上がり、収入が減り、教育費が増えれば状況は変わります。
病気に備えて保険へ加入していても、給付対象外なら医療費と収入減少の両方が家計へ残るでしょう。
投資資産を教育費へ使う時期に相場が下落すれば、売却損と支出が重なる可能性があります。
家計の大きな問題は、一つのリスクだけで起きるとは限りません。
複数の負担が同じ時期に押し寄せることで、生活の余白が急速に失われます。
金融商品と人生設計
将来予測より家計の耐久力
人生設計と聞くと、将来の収入や支出を正確に予測する作業を思い浮かべるかもしれません。
しかし、未来を正確に当てることはできません。
必要なのは、予測が外れたときにも生活を維持できる余地があるかを確認することです。
住宅ローン金利が上がっても教育費を確保できるでしょうか。
投資資産が下落しても、生活費のために急いで売却せずに済むでしょうか。
保険の給付対象外でも、一定期間の収入減少を吸収できますか。
金融商品を選ぶ前に、家計が変化へ対応できる余白を確認する必要があります。
必要資金と生活防衛資金
人生設計では、すべての資金を一つの目的で考えません。
数カ月以内に使う生活費と、20年後に使う老後資金では、許容できる値動きが異なります。
教育費のように使用時期を動かしにくい資金もあるでしょう。
まず、いつ、何のために、いくら使うのかを整理します。
次に、病気、失業、災害、住宅修繕などに備える生活防衛資金を確保しなければなりません。
そのうえで、長期間使わない資金について、どの程度の価格変動を受け入れられるかを判断します。
預金か投資か、NISAか課税口座かという選択は、その後に続く問題です。
商品単体から家計全体へ
預金、住宅ローン、保険、投資を、それぞれ別の商品として見るだけでは不十分です。
預金が多くても、住宅ローン残高が大きければ、家計全体では金利上昇の影響が強い場合があります。
十分な保険に加入していても、毎月の保険料が重く、貯蓄が増えないこともあるでしょう。
投資資産が増えていても、数年後に必要な資金まで値動きの大きい商品へ置いていれば、使用時期のリスクが高まります。
商品単体では魅力的でも、家計全体では負担が一方向へ集中する場合があるのです。
日本人の金融リスク判断
日本人が金融リスクを一律に嫌っているとは言い切れません。
預金では額面の安定を重視する一方、住宅ローンでは将来の金利変化の影響を受ける変動金利が調査回答者の多くに利用されていました。
保険では将来の大きな損失に備え、現在から保険料を支払います。
投資では将来の収益を得る可能性と引き換えに、価格や為替の変動を負担します。
この組み合わせから見えてくるのは、単純なリスク回避ではありません。
日本の家計は、預金残高、適用金利、毎月返済額、保障額、過去利回り、NISAの非課税といった見えやすい数字や利点を使い、複雑な金融リスクを部分的に判断している可能性があります。
もちろん、この仮説が統計によって直接証明されているわけではありません。
住宅ローン調査も、家計金融資産の統計も、個人単位で商品選択の理由を明らかにしたものではないからです。
それでも、一つの数字だけで契約や制度を評価すれば、別の場所に残る負担を見落としやすくなります。
まとめ 金融における慎重さ
金融における慎重さとは、あらゆる変動を避けることではありません。
預金だけを選ぶことでも、変動金利を避けることでも、保険へ多く加入することでもないでしょう。
NISA口座を利用すること自体が、慎重な資産形成を意味するわけでもありません。
一つの数字に安心することでも、一つの値動きを恐れることでもないのです。
確認すべきなのは、何がどの程度変化するのか、その負担を誰がどの形で引き受けるのか、リスクを抑えるためにどの費用を支払うのかです。
さらに、その負担が他の支出や収入減少と重なった場合にも、家計全体で耐えられるかを見る必要があります。
金融商品には、単独の正解があるわけではありません。
得られる利益、現在支払う費用、将来の変動、負担する人、資金を使う時期の組み合わせが、それぞれ異なります。
目先では費用が高く見える選択が、家計では耐えられない変動を抑えることもあります。
反対に、現在は有利に見える選択が、将来の負担を家計へ集中させるかもしれません。
金融商品を選ぶときは、人生設計、必要資金、生活防衛資金、資産配分を先に整理します。
その後で商品を選び、最後にNISAや課税口座など、投資資産を置く口座を検討する順番が適切でしょう。
商品全体、契約全体、家計全体へと視野を広げる必要があります。
そのうえで、未来が予想から外れても、生活を維持できる余白を残すことが重要です。
参考資料
- 日本銀行「資金循環の日米欧比較」2025年8月29日公表
- 住宅金融支援機構「住宅ローン利用者調査 2026年1月調査」2026年2月20日公表
- 生命保険文化センター「2024年度 生命保険に関する全国実態調査」2025年1月発行
- 預金保険機構「預金保険制度」
- 金融庁「NISAを知る」
- 国税庁「NISA制度」
- 国税庁「上場株式等の譲渡損失及び繰越控除」