海外に住む区分所有者へ総会資料を送ったものの返事がなく、管理会社からも連絡先が分からないと言われると、役員としては不安になるものです。普段は問題なく管理できていた一室でも、総会、大規模修繕、管理費等の滞納、漏水事故などをきっかけに、海外居住であることが突然大きな問題として表面化する場合があります。
2026年4月に施行された改正区分所有法では、こうした海外居住の区分所有者への対応に関係する国内管理人制度が設けられました。しかし、管理組合にとって重要なのは、制度名や条文を覚えることそのものではありません。
必要なのは、自分たちのマンションでは誰が対象なのか、現在の管理規約でどう扱われているのか、総会や緊急時に誰へ連絡すればよいのかを平常時から整理することです。制度を知っているだけでは漏水事故の電話一本にも対応できないため、法律上のルールを実際の管理運営へ落とし込む必要があります。
この記事では、法律上決まっていること、マンション標準管理規約で示されていること、管理組合として実務上検討したいことを分けながら整理します。読み終えたときに、次の理事会で何を確認すればよいのかが具体的に見える状態を目指します。
海外居住の区分所有者がいる管理組合が最初に行う4ステップ
国内管理人制度について調べ始めると、規約改正、届出書、多言語対応、総会手続まで一度に整えなければならないように感じるかもしれません。それでも、最初から制度全体を完成させる必要はないでしょう。
まず管理組合で確認したいのは、次の4ステップです。
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現行の管理規約を確認する
組合員の住所や通知先の届出、総会招集通知、代理人、議決権行使、管理費等の支払い、専有部分への立入りなど、海外居住者への対応と関係する既存規定を確認します。
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海外居住の区分所有者を確認する
外国籍かどうかではなく、日本国内に住所または居所を持たない区分所有者がいるかを確認します。法人の場合には、日本国内の本店または主たる事務所の有無も関係します。
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国内管理人の選任状況を確認する
対象となる区分所有者が国内管理人を選任しているか、管理組合への届出があるか、登録されている住所や連絡先が現在も有効かを確認します。
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届出と連絡体制を整える
国内管理人の情報をどのように管理し、平常時、総会前、緊急時に誰がどの順番で連絡するのかを決めます。
つまり、基本となる流れは 規約確認 → 対象者確認 → 国内管理人確認 → 届出と連絡体制の整備 です。
先にこの全体像を持っておけば、その後に区分所有法やマンション標準管理規約の細かな内容を確認したときも、どこが自分たちのマンションに関係するのかを判断しやすくなります。
制度をすべて理解してから動こうとすると、理事会では話が大きくなりがちです。むしろ自分たちの現在地を先に確認し、不足している部分へ必要な制度を当てはめていく方が実務にはなじむでしょう。
海外居住の区分所有者がいると起こりやすい管理上の問題
根本にあるのは連絡できない状態
海外居住の区分所有者がいること自体が、直ちに管理上の問題になるわけではありません。
管理費や修繕積立金が問題なく支払われ、賃貸管理会社などが住戸を適切に管理していれば、管理組合側が所有者の居住地を強く意識しないまま数年が経過する場合もあります。
問題が表面化するのは、本人の意思確認や迅速な連絡が必要になったときです。
たとえば総会招集通知を送ろうとしたところ、登録住所が古く郵便物が戻ってくることがあります。大規模修繕で専有部分に関する確認が必要になったものの、電子メールにも返事がないという状況も考えられるでしょう。
役員からすれば、これまで問題なく管理できていたのに、なぜ今になって連絡が取れないのかと戸惑います。
しかし実際には、突然問題が生まれたのではなく、所有者の転居や連絡先の変更を継続して確認する仕組みがなかった結果、必要になった瞬間に連絡の空白が見えただけという可能性があります。
海外居住者対応の本質は、国境そのものではありません。
必要なときに区分所有者本人または適切な権限を持つ国内の担当者へ到達できる状態を、平常時から維持できているかどうかが問題になります。
管理費や修繕積立金の滞納対応にも影響する
海外居住者であっても、管理費や修繕積立金を負担する区分所有者としての立場は変わりません。
一方、国内口座の変更、海外送金、本人の転居、連絡先の更新漏れなどが重なることで、支払いに支障が生じるという可能性があります。
一度の未納であれば事務的な確認で解消することもあるでしょう。それでも、登録住所へ請求書を送っても届かず、電子メールにも返事がない状態が続けば、管理組合側では滞納額がこのまま増えたらどうするのかという不安が生じます。
国内管理人制度では、国内管理人に一定の債務を弁済する権限が法律上認められています。
ただし、国内管理人が弁済できることと、国内管理人自身が管理費等の債務を負うことは別です。この違いを曖昧にすると、滞納時の対応先まで取り違える可能性があります。
総会運営では通知と議決権行使が問題になる
海外居住者への対応が特に目立つのが総会前です。
招集通知をどこへ送るのか、本人へ議案が伝わっているのか、誰が議決権を行使するのかといった複数の確認が同時に必要になります。
マンション管理組合では役員が毎年または数年ごとに交代することも珍しくありません。
前の理事長しか経緯を知らない、管理会社の担当者だけが連絡先を把握しているという状態では、担当者が替わるたびに同じ確認を繰り返すことになります。
国内管理人には、法律上、総会招集通知を受領する権限と議決権を行使する権限があります。
そのため、海外居住の区分所有者がいるマンションにとって国内管理人制度は、単なる連絡先の確保ではなく、総会運営を安定させる仕組みとしても意味を持ちます。
漏水や設備事故では時間そのものが問題になる
総会通知であれば一定の日数をかけて確認できる場合もありますが、漏水や設備事故では事情が異なります。
上階から水が流れている、警報設備が作動している、修繕のため専有部分への対応が必要になったという場面では、数時間の遅れによって被害が広がる可能性があります。
そのとき初めて所有者の連絡先を調べ始めると、国外の電話番号しか分からない、時差があって応答がない、国内の不動産会社は分かるが何を任されているのか不明という問題が重なりかねません。
被害を止めたいのに誰へ確認すればよいか分からない状態は、理事や管理会社にとって大きな負担でしょう。それでも焦って権限を広く解釈すると、別の問題につながるおそれがあります。
だからこそ、事故が起きてから連絡先を探すのではなく、平常時に国内管理人の有無と連絡方法を確認しておく必要があります。
外国人所有者と海外居住者は分けて考える
ここで注意したいのが、外国人所有者と海外居住者を同じ意味で扱わないことです。
外国籍であっても、日本国内に住所や居所を持ち、日常的に連絡できる区分所有者はいます。
反対に、日本国籍であっても、海外赴任や移住によって日本国内に住所や居所を持たない区分所有者がいます。
国内管理人制度との関係で中心になるのは、原則として国籍ではなく、日本国内に住所または居所があるかどうかです。
外国人だから特別対応が必要と考えてしまえば、国内に居住している外国人所有者を不必要に区別する一方、海外へ移住した日本人所有者を見落とすことにもなりかねません。
管理組合が確認すべきなのは、国籍ではなく現在の居住状況、連絡先、通知先、国内管理人の有無です。
| 外国人所有者 | 海外居住者 |
|---|---|
| 外国籍であっても、日本国内に住所や居所を持ち、日常的に連絡できる区分所有者はいます。 | 反対に、日本国籍であっても、海外赴任や移住によって日本国内に住所や居所を持たない区分所有者がいます。 |
国内管理人制度とは
2026年4月施行の改正区分所有法で設けられた制度
国内管理人制度は、2026年4月1日に施行された改正区分所有法で設けられた仕組みです。
区分所有法第6条の2では、日本国内に住所または居所を有しない区分所有者などが、その専有部分および共用部分の管理に関する事務を行わせるため、日本国内に住所または居所を持つ者などから国内管理人を選任できる仕組みが定められています。
法人の場合には、日本国内の本店または主たる事務所との関係も確認する必要があります。
従来から、海外居住の区分所有者が国内の親族、不動産会社、専門家などを連絡先として指定していたマンションはあるでしょう。
しかし、郵便を受け取るだけの人なのか、本人の代わりに議決権まで行使できるのかという権限の違いが分かりにくい場合もありました。
国内管理人制度では、法律によって基本となる権限が定められています。
そのため、単なる国内連絡先とは異なる法的な立場として整理できるところが制度の特徴です。
国内管理人の選任は法律上一律の義務ではない
ここは特に誤解を避けたい部分です。
改正区分所有法では、一定の区分所有者が国内管理人を選任することができるという仕組みになっています。
したがって、2026年4月から海外居住の区分所有者全員に国内管理人の選任が法律上一律に義務付けられたわけではありません。
管理組合から区分所有者へ案内するときも、法律で必須になったと一律に説明するのは正確ではないでしょう。
一方、国土交通省の令和7年マンション標準管理規約コメントでは、国内に居住していない組合員などについて、管理規約で国内管理人の選任を義務付ける場合の規定例が示されています。
つまり、法令上の扱いと各マンションの管理規約上の扱いを分ける必要があります。
法律では一律の選任義務ではありませんが、各マンションが管理規約でどのように定めるかは別途検討できます。
マンション標準管理規約は法律そのものではなく、各マンションが管理規約を作成または変更する際の参考となるひな型です。
| 改正区分所有法 | マンション標準管理規約コメント |
|---|---|
| 一定の区分所有者が国内管理人を選任することができるという仕組みになっています。 | 国内に居住していない組合員などについて、管理規約で国内管理人の選任を義務付ける場合の規定例が示されています。 |
そのため、標準管理規約に規定例があるからという理由だけで、自分たちのマンションでも自動的に義務になったと判断してはいけません。
国内管理人の5つの法定権限と注意点
国内管理人に認められている5つの法定権限
区分所有法第6条の2第2項では、国内管理人に認められる基本的な権限が定められています。
一つ目は、対象となる専有部分の保存行為です。
二つ目は、専有部分の性質を変えない範囲において、その利用または改良を目的とする行為です。
三つ目は、総会などの招集通知を受領する権限です。
四つ目は、総会において議決権を行使する権限です。
五つ目は、区分所有者が負っている一定の債務を弁済する権限です。マンション管理の実務では、管理費や修繕積立金等が関係します。
国内管理人は、日本国内の単なる緊急連絡先ではありません。
総会招集通知の受領や議決権行使まで法律上の権限として含まれているため、誰を国内管理人として選任するかは区分所有者本人にとっても重要な判断になります。
法定5権限は個別の委任契約で削れない
国内管理人と区分所有者との間では、委任契約などによって具体的な役割を確認することが考えられます。
ただし、法律で定められた5つの法定権限を、個別の委任契約によって自由に削ることはできません。
国土交通省の令和7年マンション標準管理規約コメントでは、区分所有法第6条の2第2項で定められた権限について、個別の委任契約によって全部または一部を削ることは認められないと説明されています。
たとえば総会招集通知は受け取るものの、議決権を行使する権限は持たせないという形で、法律上の5権限から一部だけを外すことはできません。
管理組合が国内管理人の届出書を作成するときも、この点に注意が必要です。
届出書の権限欄は、法定5権限の中から好きなものだけを選択する欄ではありません。
法定5権限以外の権限は追加できる
一方、法定5権限以外の権限を追加することは可能です。
国土交通省の資料では、区分所有者と国内管理人との委任契約によって、それ以外の権限を追加して付与できることが説明されています。
具体的にどのような追加事務を任せるかは、区分所有者と国内管理人との関係によって異なるでしょう。
管理会社からの日常的な連絡への対応、本人との情報連携などが追加事務として定められるという可能性があります。
実務上重要なのは、追加された権限がある場合に、管理組合側でもその内容を確認できる状態にしておくことです。
本人から任されていると説明されても、その範囲が分からなければ、緊急時や総会運営で判断に迷います。
法定5権限は削れない一方、それ以外の権限は追加できるという関係を整理しておくと、国内管理人の権限を理解しやすくなるでしょう。
国内管理人自身が管理費等の債務者になるわけではない
五つ目の権限で特に注意したいのが、管理費や修繕積立金等の弁済です。
国内管理人には、区分所有者が負っている一定の債務を弁済する権限があります。
しかし、国内管理人自身がその債務を負うわけではありません。
国土交通省の解説でも、国内管理人は組合員が負う債務を弁済する権限を持つものの、国内管理人自身がその債務を弁済する義務を負うものではないことが示されています。
たとえば海外居住の区分所有者に管理費等の未納があり、国内管理人へ連絡した場合を考えてみます。
国内管理人が区分所有者に代わって支払い手続を行うことはできますが、国内管理人自身の財産から当然に立て替える義務が生まれるわけではありません。
したがって、国内管理人がいるなら、その人自身へ管理費を請求すればよいという理解は適切ではありません。
また、国内管理人という法的地位だけで保証人になるわけでもありません。
これは、国内管理人になったことだけを理由として区分所有者の債務を保証する立場になるわけではないという意味です。
別途、保証契約などが締結されている個別事情がある場合まで否定するものではありません。その場合には国内管理人制度とは別の契約関係として確認する必要があります。
管理規約で確認しておきたいポイント
法令と標準管理規約と実務提案を分けて考える
国内管理人制度を理解するときには、三つの層を分けると混乱しにくくなります。
一つ目は法令上のルールです。
国内管理人を選任できることや、5つの法定権限などがここに含まれます。
二つ目はマンション標準管理規約で示されている内容です。
国内管理人に関する届出規定、管理規約で選任を義務付ける場合の規定例、国内管理人の届出がある場合の総会通知などが関係します。
三つ目は、管理組合が実務上検討したい運用です。
緊急時の連絡フローを事前に作ることや、既存の名簿確認と合わせて国内管理人情報を点検することなどが該当します。
この三つを同じ強さの義務として扱わないことが大切です。
| 法令上のルール | マンション標準管理規約で示されている内容 | 管理組合が実務上検討したい運用 |
|---|---|---|
| 国内管理人を選任できることや、5つの法定権限などがここに含まれます。 | 国内管理人に関する届出規定、管理規約で選任を義務付ける場合の規定例、国内管理人の届出がある場合の総会通知などが関係します。 | 緊急時の連絡フローを事前に作ることや、既存の名簿確認と合わせて国内管理人情報を点検することなどが該当します。 |
法律上しなければならないことなのか、標準管理規約で示された規定なのか、より円滑な管理のための実務上の工夫なのかを分ければ、理事会でも説明しやすくなります。
最初に現行の管理規約を確認する
国内管理人制度への対応を考えると、新しい規約条文を作ることから始めたくなるかもしれません。
しかし最初に確認すべきなのは、現在使っている管理規約です。
組合員の住所や通知先の届出、総会招集通知、議決権行使、代理人、管理費等の納入、専有部分への立入りなどを確認します。
既存規約の中にすでに利用できる仕組みがあるかもしれません。
一方、国内管理人に関する条項だけを追加した結果、既存の代理人規定や通知規定との関係が分かりにくくなる可能性もあります。
令和7年改正マンション標準管理規約では、単棟型第31条の3に国内管理人に関する規定が設けられています。
また、総会招集通知に関する第43条でも、国内管理人の届出がある場合を想定した規定が置かれています。
ただし、各マンションの管理規約が標準管理規約と同じ条番号や内容になっているとは限りません。
まず自分たちの規約を開き、標準管理規約と比較するところから始めるのが現実的でしょう。
国内管理人への届出事項を整理する
国内管理人を選任した場合には、管理組合として、誰がどの住戸の国内管理人なのかを確認できる状態にしておく必要があります。
マンション標準管理規約では、国内管理人を選任した場合の届出について規定が設けられています。
国土交通省が示している届出書の例では、対象住戸、国内管理人の氏名または名称、住所などの所在地、電話番号、緊急連絡先、選任日、委任した権限などを確認できる形になっています。
このうち権限については、法定5権限と追加権限を分けて考える必要があります。
法定5権限は個別の委任契約で削ることができません。
一方、追加して委任された権限がある場合には、その内容を管理組合が把握できるようにしておくことが求められます。
実務上は、海外居住の区分所有者本人についても、海外住所、電話番号、電子メールアドレスなど、通常連絡できる方法を確認しておくと役立つでしょう。
ただし、本人の連絡先をどこまで取得するかは、管理組合の運用上の判断も含まれます。
個人情報は多く集めればよいものではないため、利用目的や保管方法、閲覧できる人の範囲も合わせて検討する必要があります。
国内管理人の変更や終了にも対応する
選任届だけを整えて安心すると、数年後に情報が古くなる可能性があります。
国内管理人が転居した、法人の所在地が変わった、担当者が変更された、委任関係そのものが終了したというケースは十分に考えられます。
いざ漏水事故が起きて連絡したところ、すでに担当ではないと言われれば、せっかく整えた制度が機能しません。
マンション標準管理規約では、国内管理人の選任を終了した場合や届出内容に変更が生じた場合についても、届出を行う規定が示されています。
選任時だけではなく、変更時と終了時まで一つの管理サイクルとして考えることが大切です。
管理組合が整備したい平常時 総会前 緊急時の運用
平常時は情報を古くしない
平常時の実務で大切なのは、新しい制度を次々と増やすことではなく、必要な情報を古くしないことです。
基本的な流れは、海外居住者を確認し、本人の連絡先を確認したうえで国内管理人の選任状況を調べ、届出内容を名簿へ反映し、法定権限と追加権限を整理して情報を更新していく形になります。
毎年の組合員名簿等の確認時期に、国内管理人の情報もあわせて確認する方法があります。
ここでは、法令上の義務と標準管理規約上の規定を分けて理解する必要があります。
令和7年改正マンション標準管理規約第31条の2では、理事長が毎年1回以上、組合員名簿等の内容を確認する規定が設けられています。
ただし、これはマンション標準管理規約上の規定です。
すべてのマンションに法律上直接適用される年1回の確認義務という意味ではなく、各マンションでは自分たちの管理規約を確認する必要があります。
そのうえで、すでに組合員名簿等の確認を行っているマンションであれば、その機会に国内管理人の氏名、住所、連絡先、選任状況などもあわせて確認する方法は、実務上合理的と考えられます。
大掛かりなシステムを導入しなくても、現在の名簿管理へ確認項目を加えるところからなら始めやすいでしょう。
管理で怖いのは、情報が一度もなかったことだけではありません。
以前は分かっていたはずの情報が、いつの間にか使えなくなっている状態も同じように問題になります。
総会前は通知先を早めに確認する
総会前は、最新名簿の確認、国内管理人届出の確認、現行規約上の通知先確認、招集通知の発送、議決権行使状況の確認という順番で整理すると動きやすくなります。
マンション標準管理規約第43条では、第31条の3による国内管理人の届出がある場合を想定した通知規定が設けられています。
ただし、これは標準管理規約上の規定です。
実際のマンションでどのように通知するかは、自分たちの現行規約と届出状況を確認して判断する必要があります。
海外居住の区分所有者本人にも参考として資料を電子メールなどで共有する運用は考えられますが、それが一律の法的義務という意味ではありません。
正式な通知手続と、本人への情報共有を分けて整理しておけば、何が必要な手続で、何が円滑な意思疎通のための工夫なのかを説明しやすくなるでしょう。
総会直前になってから連絡先の確認を始めれば、役員も管理会社も焦ります。
そのため、総会準備の初期段階で海外居住者と国内管理人の情報だけを先に確認する運用も、実務上の選択肢になります。
緊急時は連絡先と権限を同時に確認する
漏水、設備事故、警報作動などが発生した場合は、事故内容を確認し、対象住戸を特定したうえで国内管理人へ連絡し、必要な権限を確認して初期対応を行い、その経過を記録する流れを準備しておくと動きやすくなります。
緊急時に必要なのは電話番号だけではありません。
その人が単なる緊急連絡先なのか、区分所有法上の国内管理人なのかによって位置付けが異なります。
また、法定5権限以外の追加権限が委任されている場合には、その内容も確認できるようにしておくと実務が進みやすくなるでしょう。
ただし、国内管理人がいるからといって、あらゆる工事や専有部分への立入りが無条件で可能になるわけではありません。
具体的な事故の状況、管理規約、法律上の権限などを踏まえて判断する必要があります。
被害を早く止めたい場面では、つい結論を急ぎたくなります。
それでも、緊急時だからこそ誰へ連絡し、誰が何を判断し、どの対応を行ったのかを記録しておくことが、その後の混乱を減らすでしょう。
海外所有者対応チェックリスト
制度への対応を一度に完成させようとすると、理事会では検討事項が広がりすぎます。まず現在できていることと不足していることを分けるため、次の項目を確認してください。
- 現行の管理規約で住所や通知先に関する規定を確認している
- 日本国内に住所または居所を持たない区分所有者を把握している
- 外国人所有者と海外居住の区分所有者を混同していない
- 海外居住者本人の現在の連絡先を必要な範囲で確認している
- 国内管理人を選任している区分所有者を把握している
- 国内管理人の氏名または名称と国内の住所などを確認している
- 国内管理人の電話番号や緊急連絡先を必要な範囲で確認している
- 国内管理人の選任日を把握している
- 国内管理人の変更や選任終了を把握できる運用になっている
- 法定5権限以外の追加権限がある場合は届出内容から確認できる
- 総会招集通知の送付先を現行規約に沿って確認できる
- 海外居住者への総会資料の連絡方法を整理している
- 管理費等の滞納時に区分所有者本人と国内管理人の立場を混同しない運用になっている
- 漏水などの緊急時に最初に確認する連絡先が決まっている
- 管理会社と理事会で必要な連絡先情報を共有できている
- 名簿等の確認時に国内管理人情報も更新できる仕組みがある
- 外国人区分所有者へ案内できる英語資料と中国語資料を把握している
- 国内管理人制度を踏まえた管理規約見直しの必要性を検討している
- 規約変更や権限判断で迷った場合の相談先を決めている
すべてにチェックが付かなかったとしても、慌てる必要はありません。
空欄になった項目は、そのまま次の理事会で確認すべき課題になります。
制度全体を一度に整えるより、まず海外居住の区分所有者が何人いるかを確認し、その人たちの現在の連絡先と国内管理人の有無を見るところから進める方が現実的でしょう。
外国人区分所有者には多言語で何を伝えるべきか
法律を翻訳するだけでは伝わらないことがある
外国人区分所有者への対応では、日本語の管理規約をそのまま外国語へ翻訳すれば十分とは限りません。
国や地域によって集合住宅の管理制度や所有者の関与の仕方が異なるため、日本では区分所有者自身が管理組合を構成し、総会を通じてマンションの管理へ参加するという前提自体が伝わっていない可能性があります。
その状態で管理費、修繕積立金、総会参加だけを求めれば、購入した住戸なのに、なぜ管理組合へここまで関わらなければならないのかと感じる人がいても不思議ではありません。
最初に管理組合の役割、管理規約、総会による意思決定という基本構造を説明し、その後で管理費、修繕積立金、生活上のルール、海外居住時の連絡方法を伝えた方が理解しやすいでしょう。
多言語対応とは、単に日本語を外国語へ置き換えることではありません。
制度の前提が違う相手に、なぜその手続が必要なのかまで届ける作業だと考えると、案内内容も変わってきます。
管理費と修繕積立金の違いも説明する
日本のマンションを初めて所有する人にとっては、毎月の管理費とは別に修繕積立金を負担する仕組みが分かりにくい場合があります。
毎月費用を払っているのに、なぜ別の積立金も必要なのかと感じる背景には、制度への理解不足だけでなく、母国の集合住宅管理との違いがあるという可能性があります。
管理費は日常的な管理運営などに使われ、修繕積立金は将来の計画的な修繕へ備えるための資金です。
| 管理費 | 修繕積立金 |
|---|---|
| 日常的な管理運営などに使われ | 将来の計画的な修繕へ備えるための資金です。 |
請求金額だけを知らせるのではなく、建物を長く維持するために何へ使われるお金なのかまで説明すると、負担の意味を理解してもらいやすくなります。
総会と国内管理人の役割を伝える
海外に住んでいる区分所有者へ総会資料を送る際は、総会が単なる定例会議ではなく、マンション管理に関する重要事項を決める場であることも説明したいところです。
修繕、管理運営、費用など、自分が所有する資産にも関係する判断が行われます。
国内管理人を選任する場合には、国内管理人が総会招集通知を受領し、議決権を行使する法定権限を持つことも、本人が理解しておく必要があります。
特に法定5権限は個別の委任契約で削れないため、国内管理人を単なる郵便受取人と誤解したまま選任しないよう、制度の内容を分かりやすく説明することが重要でしょう。
国土交通省の英語版と中国語版を活用する
管理組合が制度説明を一から外国語へ翻訳すると、専門用語の意味が正しく伝わっているのかという別の不安が生まれます。
そこで利用したいのが、国土交通省が公開している外国人区分所有者向けの公式資料です。
国土交通省では、日本におけるマンション管理について説明した資料を公開しており、英語版と中国語版も用意されています。
日本のマンション管理の基本的な考え方、管理組合、管理規約、総会などを説明する際の基礎資料として活用できます。
管理組合が制度の基本説明をすべて独自に作るより、公的資料を共通の土台として使い、そのうえで自分たちのマンション固有の連絡方法や管理規約を補足する方が説明のずれを抑えやすくなるでしょう。
マンション管理士へ相談した方がよいケース
国内管理人の選任を管理規約で義務付けたい場合
国内管理人制度を区分所有者へ案内することと、管理規約で選任を義務付けることは同じではありません。
選任を規約上の義務にする場合には、対象者をどのように定めるのか、どのような届出を求めるのか、既存の通知規定や代理人規定とどう整合させるのかなどを検討する必要があります。
国土交通省のマンション標準管理規約コメントには、選任を義務付ける場合の規定例があります。
ただし、その規定例をそのまま自分たちのマンションへ入れればよいと断定することはできません。
個別マンションの規約変更については、現行規約や所有状況を踏まえ、必要に応じてマンション管理士などへ相談しながら進める方法があります。
法定権限と追加権限の境界に迷う場合
国内管理人制度を実際に運用すると、この対応は法律上の5権限に含まれるのか、追加の委任が必要なのかと迷う場面が出てくる可能性があります。
法定5権限を削ることはできませんが、それ以外の権限を追加することは可能です。
ただし、具体的な工事、財産管理、専有部分への対応などでは、一般的な制度説明だけで判断しにくいケースもあります。
管理組合内で解釈が分かれる場合には、無理に一つの判断へ押し切らず、専門家へ確認した方が安全でしょう。
管理費等の滞納が長期化している場合
国内管理人を選任している区分所有者に管理費等の滞納があっても、国内管理人自身が債務者になるわけではありません。
国内管理人という法的地位だけで保証人になるわけでもないため、国内にいる人へ請求を続ければ解決すると考えるのは適切ではないでしょう。
滞納額が増えている、区分所有者本人との連絡が途絶えている、支払いの見込みが立たないといった事情がある場合には、専門家へ相談する必要性が高まります。
具体的な法的請求や訴訟が関係する場合には、マンション管理士を相談の入口としつつ、必要に応じて弁護士など適切な専門家へつなぐことも検討します。
役員だけで抱え続けると、判断を先送りしている間にも状況が変化する可能性があります。
どの段階で外部へ相談するのかを先に決めておくことも、役員の負担を抑えながら管理を継続するための仕組みです。
国内管理人制度のよくある質問
- 国内管理人は必ず選任しなければなりませんか
-
法律上、すべての海外居住の区分所有者へ国内管理人の選任が一律に義務付けられているわけではありません。
区分所有法第6条の2は、対象となる区分所有者が国内管理人を選任できる制度として定めています。
一方、マンション標準管理規約コメントでは、各マンションの管理規約で選任を義務付ける場合の規定例が示されています。
そのため、自分のマンションで選任義務があるかどうかは、現行の管理規約も確認する必要があります。
- 国内管理人には誰を選任できますか
-
制度上、日本国内に住所または居所を有する者などから選任することになります。
実際に誰へ依頼するかを考える際には、国内で継続的に連絡できるか、総会通知を確実に受領できるか、法律上の権限を担う立場であることを理解しているかなども確認した方がよいでしょう。
- 法定5権限の一部だけを外せますか
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外せません。
区分所有法第6条の2第2項で定められた5つの法定権限は、個別の委任契約によって全部または一部を削ることは認められていません。
一方、それ以外の権限を委任契約で追加することは可能です。
- 国内管理人は管理費を自分で支払う義務がありますか
-
国内管理人自身が、区分所有者の管理費や修繕積立金等を自己の債務として負うわけではありません。
国内管理人には一定の債務を弁済する権限がありますが、債務者そのものが国内管理人へ変わる制度ではないからです。
また、国内管理人という法的地位だけで保証人になるわけでもありません。
別途保証契約などが存在する場合には、その契約関係を個別に確認する必要があります。
- 海外居住者への総会通知はどうすればよいですか
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まず、自分たちの管理規約と区分所有者から提出されている届出を確認します。
令和7年マンション標準管理規約では、国内管理人の届出がある場合を想定した総会招集通知の規定が置かれています。
ただし、標準管理規約は個々のマンションへ自動的に適用されるものではありません。
実際の通知方法は、自分たちの現行規約に基づいて整理する必要があります。
- 管理規約で国内管理人の選任を義務化できますか
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マンション標準管理規約コメントでは、国内管理人の選任を義務付ける場合の規定例が示されています。
ただし、具体的な管理規約変更については、対象者の定義、既存規約との整合、必要となる規約変更手続などを個別に確認する必要があります。
標準管理規約の規定例だけを根拠として機械的に変更するのではなく、必要に応じてマンション管理士などへ相談しながら検討する方がよいでしょう。
- 国内管理人の情報は毎年確認しなければなりませんか
-
区分所有法が、すべてのマンションに国内管理人情報を年1回確認する義務を直接課しているわけではありません。
一方、令和7年改正マンション標準管理規約第31条の2では、理事長が毎年1回以上、組合員名簿等の内容を確認する規定が設けられています。
そのため、この標準管理規約を参考にした管理体制を採っているマンションでは、組合員名簿等の確認時に国内管理人の情報もあわせて点検する方法が実務上考えられます。
実際にどのような確認義務があるかは、自分たちの管理規約を確認してください。
まとめ
海外居住の区分所有者がいるマンションで最初に行いたいのは、国内管理人制度について細部まで暗記することではありません。
現行規約を確認する → 海外居住の区分所有者を確認する → 国内管理人の選任状況を確認する → 届出と連絡体制を整える
まず、この4ステップから始めることが大切です。
国内管理人には5つの法定権限があり、個別の委任契約でその全部または一部を削ることはできません。一方、法定権限以外の権限を追加することは可能です。
| 法定5権限 | 法定権限以外の権限 |
|---|---|
| 個別の委任契約でその全部または一部を削ることはできません。 | 追加することは可能です。 |
また、国内管理人に管理費等を弁済する権限があっても、国内管理人自身が区分所有者の債務を負うわけではありません。
国内管理人という法的地位だけで保証人になるわけでもないという線引きも、滞納対応へ入る前に管理組合内で共有しておきたいところです。
平常時の情報確認についても、法律上のルール、マンション標準管理規約上の規定、管理組合としての実務上の工夫を分けて考えれば、必要以上に制度を難しく捉えずに済みます。
制度を整える目的は、書類や規約を増やすことではありません。
総会前に慌てて連絡先を探さなくて済み、漏水などの緊急時にも誰へ連絡すればよいのかが分かる状態を作ることにあります。
一度に完璧な仕組みを目指す必要はないでしょう。
まず次の理事会で4つの確認を始め、その後の総会や平常時の運用で本当に連絡が円滑になったかを振り返ることが、海外居住の区分所有者がいても管理を止めにくいマンションへ近づく一歩になります。