マンション管理士

タワーマンションにマンション管理士は必要? 管理組合が専門家を活用したい7つのケース

「管理会社に任せているから大丈夫だと思っていた。でも、この金額まで自分たちで判断するのか」

タワーマンションの理事長や理事になり、大規模修繕の見積書や長期修繕計画を初めて詳しく見たとき、そんな戸惑いを覚えることがあります。普段の生活では扱わない専門用語が並び、修繕や設備更新の金額も大きいため、説明を聞いて理解したつもりでも、本当に妥当なのかまでは確信を持てないことがあるでしょう。

結論からいえば、タワーマンションだからマンション管理士が必ず必要になるわけではありません。ただし、大規模修繕、修繕積立金、管理委託契約、管理会社との交渉、管理規約、理事会負担、専門判断の7つで迷いが生じているなら、第三者専門家を検討する意味があります。

マンション管理士は、管理組合に代わって何でも決める人ではありません。資料を比較し、判断根拠を確かめ、区分所有者へ説明できる状態をつくる支援者として考えると、その必要性を判断しやすくなります。

TABLE OF CONTENTS
目次

タワーマンションでもマンション管理士は必須ではない

マンション管理士は、専門的知識をもって管理組合の運営やマンション管理について相談に応じ、助言や指導その他の援助を行う専門家として位置付けられています。

一方、すべての管理組合がマンション管理士と契約しなければならないわけではなく、タワーマンションでも事情は同じです。

理事会に建築、法律、会計、不動産などの知識を持つ人が継続的に参加し、管理会社から提出される資料や見積もりを管理組合側で検証できるなら、自律的な運営は可能でしょう。管理会社へ質問した際に、金額だけではなく仕様や選定理由まで説明を受けられ、理事会側でも比較できる状態が整っているなら、第三者専門家を常時入れる必要性は低くなります。

とはいえ、輪番制で初めて理事になった人が、突然、大規模修繕や設備更新の判断を任されることがあります。

「去年まではマンション管理のことをほとんど考えていなかったのに、今年は億単位の話を決めるのか」

そう感じるのも自然でしょう。管理会社の担当者は仕事として継続的にマンション管理へ関わっていますが、理事会役員は限られた任期の中で必要な知識を身に付けなければならない場合があります。

問題は管理会社に知識があることではありません。管理組合側に比較や検証を行う材料が十分にないまま、重要な意思決定が進んでしまうことです。

国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、外部専門家を活用したことがあるマンションは41.4%でした。活用した専門家では建築士15.6%、弁護士14.5%、マンション管理士13.8%となっており、管理組合が課題に応じて専門家を利用している状況が確認できます。

マンション管理士を入れるかどうかは、マンションの高さだけで決める話ではありません。

「重要な判断を管理組合自身で検証できているか」

まず、この一点から考えるとよいでしょう。

マンション管理士を検討したい7つのケース

検索してこの記事へたどり着いた人が最初に知りたいのは、タワーマンション管理が難しい理由より、「自分たちの管理組合は専門家へ相談したほうがよいのか」ではないでしょうか。

そこで、先に判断場面を整理します。

マンション管理士を検討したい代表的な場面は、大規模修繕が近いとき、修繕積立金に不安があるとき、管理費や委託契約を見直したいとき、管理会社との交渉が難しいとき、管理規約を見直したいとき、理事会負担が大きいとき、管理組合だけでは専門判断が難しいときの7つです。

それぞれ、どのような状態になったら相談を考えたいのか詳しく見ていきます。

大規模修繕が近い

大規模修繕の時期が近づくと、それまでの日常管理では見なかった資料が一気に増えます。

建物調査、修繕範囲、工事仕様、仮設計画、設計監理、施工会社選定、資金計画など、確認する項目は少なくありません。管理会社から数億円規模の見積もりが提示されれば、「本当にこの金額でよいのだろうか」と理事会が戸惑うこともあるでしょう。

しかし、高いと感じても、その根拠を説明できないことがあります。反対に、もっと安い見積もりが出たとしても、工事範囲や材料、保証条件が異なれば単純比較はできません。

大規模修繕で大切なのは、最安値を探すことではなく、同じ条件で比較できる状態をつくることです。

マンション管理士には、修繕委員会や理事会で何を決めるのか、設計監理会社や施工会社の選定をどのような手順で進めるのか、区分所有者へ何を説明するのかといった管理組合側の意思決定を支援してもらう方法があります。

一方、建物の劣化診断、修繕設計、技術仕様、工事監理などは建築士や設計監理コンサルタントが中心となる分野です。

マンション管理士だけですべてを完結させるのではなく、「誰に何を任せるのか」を管理組合が把握しておくことが重要でしょう。

最初にできることは、それほど難しくありません。

現在の長期修繕計画、過去の修繕履歴、管理会社や専門会社から届いている提案資料を一度並べ、「決まっていること」と「まだ決まっていないこと」を分けます。漠然としていた不安が具体的な確認項目へ変われば、理事会は次の一手を考えやすくなります。

修繕積立金に不安がある

修繕積立金の通帳を見ると、かなりの金額が積み上がっていることがあります。

その数字だけを見れば、「これだけあれば大丈夫だろう」と感じるかもしれません。ところが長期修繕計画を開くと、大規模修繕のあとにエレベーター、機械式駐車場、給排水設備、非常用設備などの更新が続いている場合があります。

そこで初めて、「今ある残高ではなく、その先まで見なければならない」と気付くことになるでしょう。

特に確認したいのが、修繕積立金の積立方式です。

国土交通省は2024年6月7日のガイドライン改定で、段階増額積立方式における適切な引上げの考え方として、均等積立方式とした場合の月額を基準額とし、計画初期の額を基準額の0.6倍以上、計画最終額を基準額の1.1倍以内とする考え方を示しています。

ここで「修繕積立金は1.8倍までならよい」と理解しないことが大切です。

0.6倍と1.1倍という両端の条件から計算すれば約1.83倍になりますが、国土交通省が1.8倍を独立した一律上限として定めているわけではありません。また、この考え方は法律上の一律な上限額ではなく、将来の急激な負担増を避けながら適切な積立てを考えるための目安です。

マンション管理士へ相談するときも、「月額をいくらにすればよいか」だけを聞くと議論が狭くなります。

現在の長期修繕計画でどの時点に資金不足が生じるのか、予定工事の時期は妥当なのか、駐車場などの収支変化が影響していないかまで確認することが望ましいでしょう。

不安を消すために数字から目をそらすのではなく、数字の先を見えるようにする。

そこから資金計画の話は始まります。

管理費と委託契約を見直したい

管理会社から値上げの提案が届くと、理事会では「どこか削れないか」という話になりやすくなります。

しかし、管理費を下げること自体を目的にすると、必要な管理品質まで落としてしまう可能性があります。

タワーマンションでは、物件によって防災センター、警備、コンシェルジュ、清掃、設備点検、各階ごみ置場への対応など、多くの管理業務が組み込まれています。

管理委託費を見直すなら、最初に「何にいくら支払っているか」を確認することが重要です。

たとえば、管理員や警備員の配置時間、清掃頻度、設備点検の内容、再委託されている業務などを整理すれば、価格だけでは見えなかった契約構造が見えてきます。

マンション管理士には、管理委託契約書や仕様書を確認し、比較すべき項目を整理してもらう方法があります。

その結果、不要な仕様が見つかる場合もあれば、現在のサービス水準を維持するために必要な費用だと確認される場合もあるでしょう。

専門家活用の価値は、必ず安くすることではありません。

管理組合が「なぜこの金額を支払っているのか」を説明できる状態へ変えることです。

管理会社との交渉が難しい

管理会社から管理委託費の増額を求められると、理事会は難しい立場になります。

人件費や物価が上昇していることは理解できる一方、提示された金額をそのまま受け入れてよいのか判断できない。長く付き合っている担当者へ強く交渉することに抵抗を感じる人もいるでしょう。

逆に、不満が積み重なっていると「それなら管理会社を変えればよい」と感情が先に動くこともあります。

しかし、管理会社との交渉は勝敗を決める場ではありません。

必要な管理水準を保ちながら、管理組合と管理会社の双方が継続可能な条件を探す作業です。

マンション管理士には、現在の契約内容や値上げ対象となっている業務を整理し、交渉時に確認すべき事項を明確にしてもらう方法があります。

場合によっては業務頻度や人員配置を調整し、サービス内容と金額を再構成できる可能性もあります。

管理会社を変更する場合には、さらに慎重さが必要です。

現行仕様を整理し、候補となる会社へなるべく同じ条件を提示しなければ、見積額を公平に比較できません。

「担当者が嫌だから変える」ではなく、「現在の契約を検証した結果として変更する」。

そこまで理由を整理できれば、総会でも説明しやすくなります。

管理規約を見直したい

管理規約は、分譲時に作ったものを永久に使い続ける文書ではありません。

法律や社会環境が変われば、管理組合が扱う問題も変わります。

国土交通省は2025年10月17日、マンション関係法の改正内容を踏まえ、2026年4月1日に施行された改正区分所有法への対応としてマンション標準管理規約を改正しました。改正内容には、総会の開催手続きや決議要件など、管理組合運営に関わる重要事項が含まれています。

現在はすでに改正区分所有法の施行後です。

そのため、これから管理規約を見直す管理組合では、現行法と最新の標準管理規約を前提に確認する必要があります。

ただし、標準管理規約をそのままコピーすればよいわけではありません。

タワーマンションでは、住宅だけでなく店舗や事務所を含む複合用途型の物件もあります。その場合、住宅部分と店舗部分の共用設備や修繕費用の負担区分が曖昧だと、「なぜこちらが負担するのか」という対立につながる可能性があります。

ほかにも、EV充電設備、民泊、専有部分工事、共用施設利用、役員資格など、マンションごとの事情に合わせたルールが必要でしょう。

マンション管理士には、現行規約と標準管理規約を比較し、どの条文から見直すべきか整理してもらう方法があります。

すべてを一度に改正することが難しいなら、現実に問題が起きている条文から着手してもかまいません。

規約を「昔からあるもの」ではなく、「現在の管理に合わせて育てるもの」と捉えられるようになると、管理組合の動きも変わります。

理事会の負担が大きい

理事会の負担は、決算書には表れません。

仕事を終えてから資料を読み、休日に住民からの相談を確認し、管理会社とのメールへ返信する。最初は「一年だけなら何とかなる」と思っていた理事長が、気付けば毎日のようにマンションのことを考えている場合があります。

騒音、ペット、駐車場、共用施設、設備故障、修繕、契約など、扱うテーマも一つではありません。

しかも役員が交代すると、前年度までの経緯が十分に引き継がれず、同じ問題を「また最初から」話し合うこともあります。この状態が続けば、次の役員候補が尻込みするのも不思議ではないでしょう。

マンション管理士が継続的に理事会へ関われば、過去の検討経緯を踏まえて論点を整理し、必要な手続きを示してもらえる場合があります。

目的は理事会の仕事を丸投げすることではありません。

調査や制度確認に費やしている時間を減らし、理事が本来行うべき意思決定へ集中しやすくすることです。

まずは過去半年から1年程度の議事録を振り返ってみましょう。

同じ議案が何度も持ち越されているなら、そのテーマが外部相談を検討するサインかもしれません。

専門的な判断を管理組合だけで行えない

マンション管理では、「何が問題なのか」より「誰に相談する問題なのかわからない」ことがあります。

たとえば、役員のなり手不足を背景に外部管理者方式を検討するケースです。

「外部へ任せれば理事会が楽になるのでは」と感じるかもしれませんが、実際には誰を管理者にするのか、どの権限を持たせるのか、管理組合側の監査機能をどう残すのかまで検討する必要があります。

国土交通省は2026年4月1日に「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を改訂しています。現行ガイドラインでは、管理業者管理者方式を含む外部管理者方式の適正な運営について、利益相反取引への対応などが重要な論点として整理されています。

管理会社が管理者を務める方式では、管理業務の受託者と管理者という立場が重なる場面があります。

そのため、役員負担が減るかどうかだけではなく、監査、情報開示、利益相反への対処まで含めて判断することが必要です。

ほかにも、建築上の問題なら建築士、訴訟や法律問題なら弁護士、税務なら税理士など、問題によって専門領域が変わります。

マンション管理士に期待したいのは、何でも一人で解決することではありません。

管理組合の問題を整理し、「ここからは建築士」「ここは弁護士」と適切な専門領域へつなげられることも重要な能力です。

タワーマンションで専門家支援が必要になりやすい理由

7つのケースを見て、「うちにも少し当てはまる」と感じた人もいるでしょう。

では、なぜタワーマンションではこうした問題が複雑になりやすいのでしょうか。

理由を整理すると、マンション管理士が必要かどうかを「タワーだから」という曖昧な感覚ではなく、自分たちの建物条件から判断できるようになります。

タワーマンションは修繕方法が複雑になりやすい

一般的な中低層マンションでは、外壁修繕の際に地上から足場を組む方法が採用できることがあります。

一方、高さのあるタワーマンションでは、建物形状や敷地条件によって一般的な足場だけでは対応しにくく、ゴンドラや移動昇降式足場などを含めた施工方法を検討する場合があります。

すると、理事会が見るべきものは工事金額だけではなくなります。

仮設方法、工期、安全対策、作業可能条件、施工範囲など、多くの条件が費用へ影響するからです。「他のマンションではもっと安かった」という比較が、そのまま使えない場合もあるでしょう。

タワーマンションの大規模修繕では、自分たちの建物条件を前提に比較することが欠かせません。

高額設備の更新時期が重なることがある

タワーマンションには、物件によって高速エレベーター、非常用発電設備、ディスポーザー関連設備、加圧給水設備、機械式駐車場、免震設備や制震設備などが設けられています。

こうした設備には、それぞれ点検や修繕、更新時期があります。

一つずつなら対応できても、複数の更新が近い時期に重なると資金計画への影響が大きくなるでしょう。

長期修繕計画を見るときは、「次の大規模修繕はいくらか」だけを見るのではありません。

その後の設備更新まで含め、修繕積立金残高がどのように推移するかを確認する必要があります。

この視点を持つと、修繕積立金の値上げについても「高いか安いか」ではなく、「何のために必要なのか」で話せるようになります。

修繕積立金は一般的な平均値だけで判断できない

国土交通省の資料では、20階以上のマンションにおける計画期間全体の専有面積当たり修繕積立金について、機械式駐車場分を除き、事例の3分の2が含まれる幅として月額240円から410円/㎡、平均値338円/㎡が示されています。

この数字は参考になりますが、基準額へ合わせれば安心という意味ではありません。

同じ20階以上でも、設備構成や修繕内容は異なります。

機械式駐車場が多い物件と少ない物件、免震設備を持つ物件と持たない物件では、必要な支出も変わるでしょう。

平均値は自分たちの積立額を考える入口にはなりますが、最終判断は長期修繕計画を基に行う必要があります。

多くの区分所有者への説明が必要になる

タワーマンションの所有者構成を一律に語ることはできません。

ただし、物件によっては実居住者、不在所有者、法人所有者、賃貸運用を行う所有者など、立場の異なる区分所有者が混在しています。

修繕積立金の値上げ一つを取っても、受け止め方は異なるでしょう。

長く住み続ける人は建物の安全や快適性を重視するかもしれませんが、現在の負担額を重く見る所有者もいます。

ここで「理解してもらえない」と感じて説明を諦めると、対立が深くなります。

必要なのは、結論を繰り返すことではなく、判断までの過程を共有することです。

なぜ今なのか、どの資料を確認したのか、ほかの選択肢を検討したのか。

この説明ができれば、全員が同じ意見にならなくても、議論の土台はつくれます。

タワーマンションと一般マンションの主な確認ポイント

比較項目 一般的なマンション タワーマンションで確認したい点
外壁修繕 一般的な足場工法を採用できる場合がある 建物形状や高さに応じた仮設方法を確認する
設備更新 建物ごとの設備構成で判断する 高層用設備や防災設備も含めた更新時期を見る
修繕積立金 規模と修繕計画から検討する 高額設備を含め長期収支を確認する
所有者構成 物件によって異なる 不在所有者などがいる場合の説明方法を考える
大規模修繕 建物条件に応じて実施する 高所施工や工期など固有条件を精査する
管理組合運営 戸数や役員体制によって異なる 多数の区分所有者への合意形成を設計する

タワーマンションだから危険なのではありません。

判断に影響する条件が多くなりやすいため、「何を確認して決めたのか」を残すことがより重要になるのです。

マンション管理士が必要か確認する10項目チェックリスト

7つのケースは、マンション管理士を検討したい代表的な場面を示したものです。

一方、ここからの10項目は、自分たちの管理状況を点検するためのセルフチェックとして使います。

法律上の判定基準ではありませんが、理事会で問題を整理するときの入口にはなるでしょう。

  1. 長期修繕計画をおおむね5年以上見直していない
  2. 修繕積立金の将来推移を理事会で説明できない
  3. 高額な修繕や設備更新を実質一社の提案だけで判断している
  4. 管理会社から大幅な委託費改定や契約継続について相談を受けている
  5. 管理規約を長期間見直しておらず現行制度との違いを確認していない
  6. 店舗や事務所などとの費用負担を巡る問題が続いている
  7. 理事会役員が交代するたびに過去の検討経緯が途切れている
  8. 外部管理者方式や管理業者管理者方式を検討している
  9. 管理会社から提出される月次報告や点検資料を十分確認できていない
  10. 高額設備の更新方針や必要資金を整理できていない

該当数だけで「危険」「安全」と機械的に判断するものではありません。

たとえば、大規模修繕の施工会社を決める直前なのに比較条件が整理されていない場合は、一項目でも早めに相談する意味があります。反対に複数項目へ当てはまっていても、理事会で課題が共有され、改善計画が進んでいれば状況は異なるでしょう。

チェックリストの目的は不安を増やすことではありません。

「何から確認するか」を見つけるために使います。

タワーマンションで考えられるマンション管理士活用の想定事例

ここでは実在する個別案件の成果としてではなく、タワーマンションで起こり得る複数の論点を組み合わせた想定事例を紹介します。

専門家を入れれば同じ結果になるという意味ではなく、どのような順番で問題を整理するのかを見るための例です。

想定事例 大規模修繕費が積立残高を上回った場合

第1回大規模修繕を控えたタワーマンションで、提示された工事見積額が現在の修繕積立金残高を上回ったとします。

不足額について、一時金徴収や修繕積立金増額などの案が出ました。

理事会では、「突然まとまった負担をお願いするのは難しい」という意見と、「必要な修繕を延期するのも怖い」という意見がぶつかります。

ここで、どちらかを感情で選んでしまうと話が止まりやすくなります。

まず確認したいのは、本当に今回実施すべき工事がどこまでなのかです。

建物診断や修繕設計を担う建築士などと連携し、劣化状況、施工範囲、工事時期を確認します。そのうえで発注方法や施工会社の比較条件を整理し、資金計画と合わせて検討します。

劣化状況、施工範囲、工事時期を確認します。 発注方法や施工会社の比較条件を整理し、 資金計画と合わせて検討します。
大切なのは、価格だけではなく「なぜこの工事を今行うのか」を説明できることです。

マンション管理士が関与するなら、修繕委員会の検討手順や専門家選定、理事会と総会への説明資料など、管理組合側の意思決定を整える役割が考えられるでしょう。

結果として工事費が変わる可能性もあれば、当初案が妥当だと確認される可能性もあります。

大切なのは、価格だけではなく「なぜこの工事を今行うのか」を説明できることです。

想定事例 管理委託費と費用負担の問題が重なった場合

住宅部分と店舗部分を持つ複合用途型のタワーマンションで、管理会社から委託費増額を求められたとします。

同じ時期に機械式駐車場の利用率が下がり、維持費を誰がどの程度負担するのかについても議論が起きました。

「なぜ住宅側の負担が増えるのか」

「店舗側だけの設備ではないはずだ」

こうした声が重なると、管理委託費の話だったはずが、過去の不満や費用負担の問題まで混ざり始めます。

ここでは、一つに見える問題を分けることが最初の仕事です。

管理委託費については契約と業務仕様を確認し、駐車場については利用状況と収支を確認します。住宅と店舗の負担問題は、管理規約や共用部分の区分を別に整理する必要があるでしょう。

マンション管理士が役立つとすれば、「絡まった話をほどき、誰が何を確認する問題なのかを分ける」ところです。

議題が分かれれば、理事会でも一つずつ判断できるようになります。

管理会社とマンション管理士の違い

管理会社とマンション管理士は、どちらもマンション管理に関わるため役割を混同されることがあります。

しかし、管理組合との契約関係と主な役割は異なります。

管理会社は、管理委託契約に基づき、会計、出納、清掃、管理員業務、設備点検の手配などを担う事業者です。

マンション管理士は、管理組合運営やマンション管理について助言や支援を行う専門家になります。

さらに、大規模修繕で建物の劣化診断や設計、工事監理を行う場合には、建築士や設計監理コンサルタントが中心となります。

重要なのは、「誰が一番優れているか」を決めることではありません。

今の問題について誰に何を依頼するのかを分けることです。

管理会社とマンション管理士と建築士の役割分担

項目 管理会社 マンション管理士 建築士や設計監理コンサルタント
主な役割 日常管理業務の実施と支援 管理組合運営への助言 建築技術に関する診断や設計や監理
会計と出納 委託契約に応じて担当 内容確認を支援する場合がある 通常は中心業務ではない
管理規約 運用を補助する場合がある 見直しや運用を支援 技術事項に関与する場合がある
長期修繕計画 作成や提案を行う場合がある 計画検討や組合判断を支援 技術面から作成や検証を行う場合がある
管理委託契約 管理組合との契約当事者 内容確認や見直しを支援 技術仕様を確認する場合がある
大規模修繕 提案や発注支援に関与する場合がある 発注手順や合意形成を支援 劣化診断や修繕設計や工事監理
主な確認点 委託範囲と取引関係 専門分野と利害関係 技術力と施工会社などとの関係

実際の業務範囲は契約や専門家によって異なります。

資格名だけを見て判断せず、「今回の依頼について何を担当するのか」を契約前に明確にしておきましょう。

第三者活用は管理会社への不信ではない

マンション管理士の起用を理事会で提案すると、「管理会社を信用していないと思われないか」と気になることがあります。

しかし、第三者による確認と管理会社への不信は別の話です。

管理会社の提案が妥当なら、その理由を確認したうえで採用すればよいでしょう。別の選択肢が適切なら、比較資料を基に協議します。

「管理会社が言ったから決めた」という状態と、「管理会社の提案を確認して管理組合が決めた」という状態では、同じ結論でも意味が違います。

後者の状態をつくることが、第三者専門家を活用する一つの目的です。

顧問とスポット相談とプロジェクト支援の使い分け

マンション管理士を活用すると聞くと、毎月顧問料を払って長期契約を結ぶイメージを持つ人もいます。

しかし、関わり方は一つではありません。

相談内容が一件だけならスポット相談、完了目標がある案件ならプロジェクト支援、継続的な課題があるなら顧問契約というように、問題の性質に合わせて選ぶことができます。

なお、マンション管理士の報酬に全国共通の公的な標準料金が設定されているわけではありません。

マンション規模、依頼内容、会議回数、資料量、成果物、支援期間などによって条件が変わるため、具体的な金額だけで比較しないことが重要です。

スポット相談

特定の問題だけを確認したい場合に使いやすい方法です。

たとえば、管理会社から届いた契約変更案を確認したい、長期修繕計画の読み方を相談したい、総会議案を出す前に考え方を整理したいといったケースがあります。

最初から長期契約を結ばないため、専門家との相性を見る機会にもなるでしょう。

説明がわかりやすいか、こちらの質問に具体的に答えるか、専門外のことを無理に断定しないか。

一度相談するだけでも、その専門家の姿勢は見えてきます。

プロジェクト支援

管理規約の全面改定、管理会社変更、大規模修繕の発注支援など、一定の完了点がある場合に適しています。

「管理会社の選定まで」「規約改定案を総会へ提出するまで」など、契約前に終了条件を決めます。

ここで重要なのは成果物です。

会議へ参加するだけなのか、比較表を作るのか、規約案を作成するのか、住民説明会も支援するのかによって業務量が変わります。

契約範囲を明確にすれば、管理組合も支援効果を確認しやすくなるでしょう。

顧問契約

毎月の理事会で専門的な問題が発生し、一部の役員へ負担が集中している場合には、継続的な顧問契約を検討できます。

理事会への出席、資料確認、管理規約の相談、管理会社との協議内容整理などを契約範囲に応じて依頼します。

役員が交代しても専門家が過去の経緯を把握していれば、毎年「前の理事会ではなぜこう決めたのか」から調べ直す負担を減らせる可能性があります。

一方、相談事項がほとんどない管理組合では、継続契約まで必要ない場合もあるでしょう。

顧問という名称ではなく、実際に何を依頼するのかを見ることが大切です。

同じ業務条件で見積もりを比較する

専門家を選ぶ際は、複数者へ見積もりを依頼する方法があります。

ただし、A事務所はいくら、B事務所はいくらという金額比較だけでは十分ではありません。

理事会出席回数、資料確認の範囲、相談手段、成果物、現地確認、追加費用が発生する条件などをそろえて比較します。

安くても必要な支援が含まれていなければ、後から追加費用が生じる可能性があります。高額でも不要な業務まで含まれていれば、管理組合にとって過剰でしょう。

見積書は値段だけを見るものではなく、仕事の中身を比較する資料です。

タワーマンションに詳しいマンション管理士の選び方

マンション管理士資格を持っていることと、タワーマンションで起きている問題に詳しいことは同じではありません。

自分たちが相談したい問題に近い経験があるかを具体的に確認する必要があります。

タワーマンションの支援経験

「マンション管理士として経験豊富ですか」という質問だけでは、答えが抽象的になりがちです。

どの程度の戸数や建物規模を扱ったのか、大規模修繕、管理会社変更、複合用途型、外部管理者方式などについてどのような支援を経験したのか確認しましょう。

経験年数が長いことより、自分たちの課題に近い案件へ関わったことがあるかを見るほうが実務的です。

得意分野と専門外の説明

「何でもできます」と答える専門家より、自分の担当範囲を具体的に説明できる専門家のほうが安心できる場合があります。

建築技術について建築士が必要なら、その旨を説明する。法的紛争なら弁護士への相談を勧める。

自分で担当できる領域と別の専門家が必要な領域を分けられることは、弱みではありません。

むしろ、専門分野を理解している証拠と考えられるでしょう。

建築士や弁護士との連携

タワーマンションの問題は、管理運営だけで完結しないことがあります。

修繕の話に契約問題が入り、規約の話に建築設備の問題が入ることもあるでしょう。

必要に応じて建築士、弁護士、その他の専門家と連携できる体制があるかを確認します。

ただし、紹介された専門家をそのまま採用する必要はありません。

紹介理由や費用関係を確認し、管理組合が納得して選ぶことが重要です。

独立性と利害関係

第三者の意見を求める以上、専門家と施工会社、管理会社などとの関係は確認しておきたいところです。

特定の事業者だけを紹介する場合には、なぜその会社なのか説明を求めましょう。報酬や紹介料などの関係がある場合は、その仕組みについても確認します。

第三者専門家を入れたのに、別の情報の偏りが生まれてしまっては意味がありません。

合意形成の支援力

マンション管理では、正しい答えを知っているだけでは話が進まない場面があります。

修繕積立金を上げる必要があるとしても、数百人の区分所有者へ「上げます」と伝えるだけでは納得されにくいでしょう。

なぜ必要なのか、ほかの案は検討したのか、いつまでに決める必要があるのか。

こうした疑問に対して、専門用語を並べず説明できる能力が必要です。

候補となるマンション管理士との面談では、「住民説明会ならどう説明しますか」と聞いてみるとよいでしょう。

相手の不安を理解しながら話せるかを見ることができます。

マンション管理士へ相談する前に準備しておく資料

専門家へ相談する前に、管理組合ですべての答えを出しておく必要はありません。

むしろ、答えがわからないから相談するのです。

ただし、基本資料がそろっているほど、一般論ではなく自分たちのマンションに即した助言を受けやすくなります。

初回相談で確認したい資料

資料 主な確認内容
管理規約と使用細則 現在のルールと改定履歴
直近数年の総会議案書と議事録 過去の決議と議論の経緯
管理委託契約書 管理会社へ委託している業務
重要事項説明書 管理委託契約の条件
長期修繕計画 将来予定されている工事と必要資金
直近の決算書と予算書 管理費会計と修繕積立金の状況
修繕履歴 過去に行った工事と時期
建物概要資料 戸数や階数や主な設備
現在の提案書や見積書 今判断しようとしている案件
懸案事項メモ 理事会が困っていること

資料をそろえたあと、もう一つだけ準備したいものがあります。

「今何に困っているのか」を一文にしたメモです。

「マンション管理士を探しています」だけでは、相談内容がまだ広すぎます。

「管理会社から委託費改定案を提示されたが、現在の業務仕様を含めて妥当性を確認したい」

ここまで書ければ、専門家も何を確認すべきか理解しやすくなります。

もし理事会で一文にまとめられないなら、それ自体が課題でしょう。

その場合は、最初から解決策を求めず、「問題を整理してほしい」と相談する方法もあります。

タワーマンションとマンション管理士のよくある質問

管理会社がいてもマンション管理士は必要ですか?

必ず必要になるわけではありません。

管理会社は管理委託契約に基づいて管理業務を担い、マンション管理士は管理組合運営やマンション管理について助言する専門家です。

管理会社の提案について理事会が十分に比較し、重要な判断を自分たちで行えているのであれば、常時マンション管理士と契約しなくても運営できます。

一方、重要案件について「管理会社の提案以外に比較材料がない」という状態が続いているなら、第三者へ相談する価値があるでしょう。

マンション管理士には何を依頼できますか?

管理組合運営、管理規約、管理委託契約、長期修繕計画、修繕積立金、理事会や総会運営などについて相談できます。

大規模修繕では、専門家選定や管理組合側の意思決定手順を支援する場合もあります。

ただし、建物診断や設計、工事監理は建築士などが中心となる分野であり、法律紛争では弁護士など別の専門家が必要になることがあります。

何でも一人へ依頼するのではなく、課題ごとに役割を分けることが重要です。

タワーマンションの経験は確認したほうがよいですか?

確認したほうがよいでしょう。

タワーマンションでは、高層部の修繕、設備構成、複合用途、大規模な管理組合運営など、物件固有の論点が生じる場合があります。

「経験年数は何年ですか」と聞くだけでなく、「今回と似た問題について何を支援しましたか」と具体的に質問します。

自分たちの課題と経験が重なっているかを見ることが大切です。

顧問契約とスポット相談はどちらがよいですか?

一つの問題を確認したいならスポット相談、一定期間で解決したい課題ならプロジェクト支援、継続的な課題が多い場合には顧問契約を検討できます。

最初から顧問契約へ進む必要はありません。

まず特定の問題について相談し、専門家との相性や助言の具体性を確認してから関与を広げる方法もあります。

建築士とマンション管理士はどう使い分けますか?

建物の劣化診断、修繕設計、工事監理などは建築士や設計監理コンサルタントが中心になります。

一方、管理組合運営、管理規約、管理委託契約、修繕積立金、合意形成などはマンション管理士へ相談できる分野です。

大規模修繕であれば、建築士が「建物をどう直すか」を技術的に検討し、マンション管理士が「管理組合としてどう決めるか」を支援する役割分担も考えられます。

どちらか一方だけを選ぶ必要はありません。

建築士や 設計監理コンサルタント 建物の劣化診断、修繕設計、 工事監理など マンション管理士 管理組合運営、管理規約、 管理委託契約、修繕積立金、 合意形成など
どちらか一方だけを選ぶ必要はありません。

まとめ

タワーマンションだからマンション管理士が必須になるわけではありません。

判断基準にしたいのは、管理会社の提案や高額な修繕計画について、管理組合自身が比較し、根拠を確認し、区分所有者へ説明できているかです。

大規模修繕、修繕積立金、管理委託契約、管理会社との交渉、管理規約、理事会負担、専門判断のいずれかで迷いが続いているなら、一度外部専門家へ相談する意味があります。

最初から顧問契約を結ぶ必要はありません。

まず「今何に困っているのか」を一つに絞り、資料をそろえてスポット相談から始めてもよいでしょう。その後、以前より理事会で判断しやすくなったか、区分所有者へ説明できる材料が増えたかを確認します。

その変化が見えるなら、第三者専門家を活用した意味があります。

マンション管理士を使う目的は、管理組合の代わりに決めてもらうことではありません。

自分たちのマンションについて、管理組合自身が納得できる根拠を持って決められる状態をつくることです。

参考資料

本記事で扱った外部専門家の活用状況については、国土交通省 令和5年度マンション総合調査で確認できます。

段階増額積立方式の初期額0.6倍以上と最終額1.1倍以内という考え方については、国土交通省 長期修繕計画作成ガイドラインとマンションの修繕積立金に関するガイドラインの改定が中心資料です。

20階以上のマンションにおける修繕積立金の目安については、国土交通省 修繕積立金に関する確認資料で確認できます。

管理規約の見直しに関する現行資料は、国土交通省 マンション標準管理規約に掲載されています。

外部管理者方式や管理業者管理者方式については、国土交通省 マンション管理に関する各種ガイドラインで、2026年4月1日改訂の現行資料を確認できます。

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