マンション管理士

マンションの建物診断会社の選び方 管理組合が比較したい7つのポイント

大規模修繕を考え始めたとき、管理会社から建物診断会社を紹介されることがあります。これまで日常管理を任せてきた会社からの提案なら、そのまま進めたほうが話は早そうです。それでも理事会では「紹介された一社だけで決めてよいのだろうか」「ほかの会社も比較したほうがよいのでは」と、どこかに引っかかりが残ることもあるでしょう。

その迷いが生まれる大きな理由は、建物診断会社を何で比較すればよいのか分かりにくいからです。工事会社なら工事価格を比べられそうですが、建物診断では調査範囲、調査方法、担当技術者、報告書、診断後の支援まで会社ごとに異なります。

だからこそ、見積総額だけを見て安い会社を選ぶという方法では十分ではありません。

管理組合が目指したいのは、建築の専門家になることではなく、候補会社を同じ基準で比較し、なぜその会社を選んだのか説明できる状態をつくることです。

そのための流れは複雑ではありません。

まず建物診断の目的を決め、その目的に沿って7つの視点から各社の事実を確認します。次に今回の目的を最も満たせる会社を選び、最後に選定理由を理事会の記録として残します。

この記事では、この流れを軸に、マンションの建物診断会社の選び方から比較表、面談で使える質問、見積書の確認方法、実際の選定手順まで具体的に整理します。

TABLE OF CONTENTS
目次

マンションの建物診断会社は何をする会社か

マンションの建物診断では、外壁、屋上、廊下、階段、バルコニー、シーリング、鉄部、給排水設備などの状態を確認し、現在の劣化状況や今後検討すべき修繕について整理します。

ただし、建物診断会社という一つの公的な業種区分があり、どの会社も同じ業務を提供しているわけではありません。

実際には建築士事務所、マンション改修を扱う設計コンサルタント会社、調査診断を専門とする会社、施工会社、管理会社やその関連会社など、さまざまな事業者が診断業務へ関わっています。

そのため、会社の肩書きだけを見て判断するのではなく、今回のマンションで何を調べ、誰が評価し、最終的に何を提出するのかを確認することが重要です。

建物診断で確認する内容

建物診断では、まず設計図書や過去の修繕履歴、点検記録などを確認し、現地で目視や触診を行う方法があります。

さらに必要に応じて、外壁の打診、赤外線を利用した調査、シーリングや塗膜の試験、コンクリートの状態を確認する調査、給排水設備の調査などが組み合わされる場合もあります。

ここで注意したいのは、検査項目が多い会社ほど優れているとは限らないことです。

できる検査をすべて行えば情報は増えますが、その分だけ費用が膨らむ可能性があります。一方で、費用を抑えるために調査を絞りすぎると、大規模修繕を判断するための情報が不足するかもしれません。

管理組合が見るべきなのは、検査の数ではなく、その必要性です。

候補会社から調査方法を提案されたら、今回のマンションではなぜその調査が必要なのかを尋ねてみます。目的と調査方法がきちんとつながっているかを見ることが、最初の比較になります。

建物診断は修繕時期を考える材料になる

建物診断を実施したからといって、必ず直後に大規模修繕工事を行うことになるとは限りません。

診断の結果、予定していた修繕が必要と判断される場合もあれば、一部について経過観察という判断材料が得られる可能性があります。反対に、長期修繕計画ではまだ先になっている部位でも、実際の劣化状況によって早めの対応を検討することになるでしょう。

国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでも、長期修繕計画の作成や見直しに当たり、建物や設備の調査・診断結果を踏まえる考え方が示されています。

つまり、築年数が来たから機械的に工事をするのではなく、現在の状態を確認し、その結果から必要な工事と時期を考えることが重要です。

予定表に書かれた年数だけでは、今の建物の状態までは分かりません。

建物診断は、長期修繕計画と実際の建物とのずれを確かめ、次の判断へ進むための材料になるものです。

建物診断会社を選ぶ前に管理組合で決めること

候補会社を探し始めると、早く見積もりを取りたくなるかもしれません。

しかし、その前に管理組合側で整理しておきたいことがあります。ここが曖昧な状態で複数社へ相談すると、A社は簡易的な調査、B社は詳細調査、C社は大規模修繕の設計まで含めた提案となり、価格も内容も横並びで比較できなくなるからです。

建物診断を行う目的

最初に決めたいのは、今回の建物診断で何を知りたいのかです。

例えば、1〜2年以内の大規模修繕を想定して工事範囲を検討したいマンションと、長期修繕計画では来年が修繕時期になっているものの、本当に今実施すべきなのか確認したいマンションでは、診断に求める役割が違います。

外壁のひび割れや漏水など、すでに発生している問題を詳しく調べたい場合もあるでしょう。

理事会では、大規模修繕の実施時期を判断するため、修繕範囲を検討するため、長期修繕計画を見直すためといった形で、目的を一文にできるところまで整理しておきます。

この一文は短くても、後の会社選びを左右します。

最終判断で迷ったときも、今回の目的に最も合っているのはどの会社かという原点へ戻れるからです。

調査する範囲

次に、どの部分について状態を知りたいのかを整理します。

外壁、屋上、廊下、階段といった建築部分を中心に見るのか、給排水管などの設備も対象にするのかによって、必要な専門性や費用は変わります。

バルコニーへの立ち入り調査を想定する場合には、対象住戸の選び方や居住者への案内方法も考える必要があるでしょう。

もっとも、管理組合だけで専門的な検査方法まで決める必要はありません。

例えば、外壁と防水の劣化状態を把握し、大規模修繕の時期を判断したいので必要な調査方法を提案してほしい、と依頼する方法があります。

大切なのは、各候補会社へ同じ目的と基本条件を示すことです。

建物診断に使える資料

候補会社へ渡せる資料も整理します。

竣工図書、設計図面、長期修繕計画、過去の大規模修繕資料、部分修繕の記録、定期点検報告書、漏水やその他の不具合記録などが残っていれば確認しておきましょう。

図面や古い工事資料を探し始めると、思った以上に時間がかかることがあります。

しかし、過去の情報が整理されていれば、診断会社は現在の状態だけでなく、これまでどのような工事が行われてきたのかまで踏まえて検討できます。

資料が不足している場合も、その事実を隠す必要はありません。

不足している資料を各候補会社へ同じように伝え、資料がない場合にどのように診断するのかを確認すれば、その対応も比較材料になります。

診断費用をどこから支出するか

建物診断の費用についても、会社選定と並行して確認しておきたいところです。

国土交通省のマンション標準管理規約コメントでは、長期修繕計画の作成や変更、そのために行う劣化診断に要する費用について、管理組合の財産状態などに応じて管理費または修繕積立金から充当できるという考え方が示されています。

一方、修繕工事を行う前提として実施する劣化診断については、修繕工事の一環として原則として修繕積立金から取り崩すという考え方です。

また、2025年10月17日に改正された現行のマンション標準管理規約では、第28条第1項に定める特別の管理の実施と、それに充てるための修繕積立金の取崩しが総会の決議事項として示されています。

ただし、マンション標準管理規約は、国土交通省が各マンションの管理規約を作成・改正するときのひな型として示しているものです。

すべてのマンションに標準管理規約の条文がそのまま適用されるわけではありません。

実際に管理費から支出できるのか、修繕積立金を取り崩すのか、どのような決議が必要なのかについては、自分たちのマンションの管理規約、細則、予算、過去の総会決議などを確認します。

会社を決めたあとで支出方法の確認が必要になり、選定作業が止まってしまうことも考えられます。

財源と意思決定の手続きを先に整理しておけば、その後の理事会も進めやすくなるでしょう。

建物診断会社の選び方7つのチェックポイント

ここからが会社比較の中心です。

管理組合が確認したいのは、マンション診断実績、調査範囲と方法、担当者、診断報告書、費用、施工会社との関係、説明力という7つの視点です。

どれか一つだけで会社を決めるのではありません。

7つの事実を並べ、最初に定めた診断目的へ最も合う会社を探していきます。

7つの視点 マンション診断実績 調査範囲と方法 担当者 診断報告書 費用 施工会社との関係 説明力
管理組合が確認したいのは、マンション診断実績、調査範囲と方法、担当者、診断報告書、費用、施工会社との関係、説明力という7つの視点です。

マンションの診断実績

最初に確認したいのは、分譲マンションの建物診断をどの程度経験しているかです。

オフィスビルや商業施設でも建物診断は行われますが、分譲マンションでは区分所有者が暮らしている状態で調査を進めます。

共用廊下での作業、バルコニーへの立ち入り、騒音、プライバシー、防犯、住民への事前説明など、技術以外にも配慮すべきことがあります。

そのため、建物診断の年間件数だけを聞くのではなく、自分たちのマンションに近い戸数、築年数、階数、構造、外壁仕上げなどの診断経験まで確認するとよいでしょう。

例えば、全面タイル張りのマンションであれば、同様の外壁仕上げを持つマンションについてどのような診断を行った経験があるのかを尋ねます。

実績件数が多ければ必ず優れているという意味ではありません。

似たマンションで何が問題になり、何を調べ、どのように評価したのかを具体的に説明できるかを見ることで、経験の中身が分かります。

数字ではなく、今回のマンションへつながる経験かどうかを確認することが大切です。

調査範囲と調査方法

二つ目は、どこをどのように調べるのかです。

同じ外壁調査と書かれていても、地上からの目視を中心とする会社と、手の届く範囲で打診を行う会社では内容が違います。

高所部分について、赤外線を利用した調査などを提案する会社もあるでしょう。

シーリング、塗装、防水、コンクリート、給排水設備についても、目的や状態に応じてさまざまな調査方法があります。

理事会が難しい検査名称を覚える必要はありません。

確認したいのは、どこまで分かるのか、どこは分からないのか、その調査結果を何の判断に使うのかという3点です。

例えば赤外線を利用する調査を提案されたなら、今回のマンションでこの調査が必要な理由を聞いてみます。

その回答によって、単に標準メニューを当てはめているのか、今回の建物の状態や目的を考えているのかが見えてくるでしょう。

調査方法は、数の多さを競うものではありません。

目的に合う調査を選び、その理由と限界を説明できる会社かどうかを比較します。

担当者の資格と経験

三つ目は、会社名だけではなく実際の担当者を見ることです。

立派な会社案内を見て安心していたものの、契約後になって、説明に来ていた人は営業担当で、現地調査を行う技術者は別の人だったと分かることも考えられます。

建物診断では、一級建築士などの建築関係資格や、調査分野に関係する専門資格、マンション改修の実務経験などが判断材料になります。

ただし、一級建築士だから診断能力が必ず高いという意味でもありません。

新築設計を中心に経験してきた建築士と、既存マンションの改修や劣化調査を長年担当してきた建築士では、これまで扱ってきた仕事が違います。

候補会社には、現地調査の責任者は誰なのか、その担当者はマンションの調査診断をどの程度経験しているのか、最終的な評価を行うのは誰なのかを確認するとよいでしょう。

必要に応じて、担当予定者の経歴や資格を確認する方法もあります。

会社と契約しますが、実際にマンションを見るのは人です。

誰が担当するのかを具体的に知るだけでも、管理組合の安心感は変わります。

診断報告書の内容

四つ目は、調査が終わったあとに何が残るのかです。

建物診断が終了すると報告書が提出されますが、劣化写真が大量に掲載されているだけでは、理事会として次に何を判断すればよいのか分からなくなる場合があります。

写真が多いことと、判断しやすいことは同じではありません。

望ましいのは、劣化箇所、現在の状態、原因として考えられること、修繕の必要性、優先順位などが関連付けられている報告書です。

例えば、外壁にひび割れがあるという記録だけではなく、どこにどの程度あり、どのように評価し、いつ頃どのような対応を検討するのかまで分かれば、その後の修繕委員会で議論できます。

契約前に過去の報告書サンプルを確認できるなら、見せてもらうとよいでしょう。

専門家しか理解できない資料になっていないか、図面や写真から場所を追えるか、優先順位を理解できるかを確認します。

報告書は、診断会社が仕事を終えた証明書ではありません。

管理組合が次の判断を始めるための資料です。

費用と見積範囲

五つ目は、見積総額と業務範囲をセットで確認することです。

建物診断には全国一律の公定価格があるわけではなく、建物規模、対象範囲、調査方法、高所作業の有無、試験内容、成果物などによって費用は変わります。

そのため、A社が70万円でB社が100万円だからA社を選ぶという判断では、後から業務範囲の違いに気付く可能性があります。

例えば、A社では目視調査を中心として理事会報告が別料金で、B社では複数の試験や理事会説明まで含まれているかもしれません。

特に確認したいのが、一式と記載されている項目です。

一式表記そのものが問題なのではありません。

現地調査一式なら人数、日数、対象部位などを確認し、報告書作成一式なら写真、図面、PDFデータなど、どこまで成果物へ含まれるのかを聞きます。

安い見積もりを見れば、予算に収まりそうだと安心するでしょう。

それでも、安さだけで判断せず、その価格になっている理由まで確認することが大切です。

価格差の理由が見えれば、金額だけの比較から業務内容の比較へ進めます。

施工会社との関係

六つ目は、建物診断会社と将来の施工会社との関係です。

建物診断を行う会社自身が施工部門を持っている場合もあれば、管理会社の系列会社が診断するケース、設計コンサルタントが施工会社選定まで支援するケースもあります。

このような関係があるからといって、直ちに不適切とはいえません。

一方で、大規模修繕工事では、発注者である管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントの存在が問題になった事例があり、国土交通省も事業者選定における意思決定の透明性や利益相反への注意を示しています。

したがって、施工会社と関係があるから危険と決めつけることも、専門家だから全部任せて大丈夫と考えることも避けたほうがよいでしょう。

見るべきなのは、関係の透明性です。

診断後に自社や系列会社が施工を受注する可能性があるのか、特定の施工会社を紹介するのか、資本関係や業務提携があるのか、施工会社選定にどのように関わるのかを確認します。

少し聞きにくい質問かもしれませんが、管理組合の資金を使う以上、利害関係を確認するのは自然なことです。

誰とどのような関係があるのかを知ったうえで選ぶことが、中立性を考える第一歩になります。

管理組合への説明力

七つ目は、専門的な内容を管理組合が理解できる言葉で説明できるかです。

建物診断では、浮き、中性化、付着力、躯体、防水層など、普段の生活ではほとんど使わない用語が登場します。

説明を聞きながら、何となく分かった気はするけれど、自分では住民に説明できないと感じることもあるでしょう。

だからといって、理事側が専門知識不足を気にする必要はありません。

専門家には、知識だけでなく、その知識を発注者が判断できる言葉へ変換する力も求められます。

面談では、なぜ今直す必要があるのか、少し待つ場合は何が変わるのか、今回は修繕しないという判断も考えられるのかと質問してみます。

写真や図を用い、分かっていることと現時点では判断できないことを分けて説明できる担当者なら、その後の住民説明でも頼りになる可能性があります。

大規模修繕は、技術的に正しいという理由だけでは進みません。

区分所有者が内容を理解し、判断できるところまで伝わって初めて、合意形成へつながります。

7つのポイントから最終的に会社を選ぶ方法

ここまで7つの比較軸を見てくると、今度は別の迷いが出てきます。

A社は安いものの、B社は説明が分かりやすく、C社は実績が多い場合、どこを選ぶべきなのかという問題です。

この場面で、すべての項目を機械的に点数化する必要はありません。

むしろ、最初に決めた建物診断の目的へ戻ります。

例えば、大規模修繕を今行う必要があるのか判断したいのであれば、単純な工事提案の多さより、現在の劣化状態をどのように把握し、修繕時期をどのように評価するのかが重要になるでしょう。

一方、1年後の大規模修繕に向けて工事範囲を整理したいのであれば、診断結果をその後の設計や数量検討へどうつなげられるのかも重要になります。

最終判断では、次の順番に戻れば整理しやすくなります。

診断目的を決める → 7つの視点で事実を比べる → 今回の目的を最も満たせる会社を選ぶ → 選定理由を文章で残す

この流れが、建物診断会社を選ぶときの背骨です。

比較項目の多さに迷ったときは、今回自分たちは何を知りたかったのかと問い直してみてください。

候補3社比較表

ここからは、7つの基準を実際の選定へ使うための実践編です。

比較表の役割は、新しい判断基準を増やすことではありません。

前章までに確認した事実を、一枚の表へまとめることです。

比較項目 A社 B社 C社
分譲マンション診断実績
類似規模マンション実績
類似構造や仕上げの実績
担当予定者
担当者の資格
マンション改修経験
現地調査人数
現地調査日数
外壁調査範囲
屋上防水調査
バルコニー調査
設備調査
主な調査方法
居住者アンケート
報告書サンプル
劣化優先度の表示
理事会報告
住民説明会対応
見積総額
追加費用の条件
施工会社との関係
診断後の支援業務
説明の分かりやすさ
今回の診断目的との適合性
総合判断

この表では、最初から総合点を付ける必要はありません。

まず各社から確認した事実を書き込みます。

そのあと、今回の診断目的との適合性を理事会で話し合い、最終的な判断理由をまとめます。

先にA社が良さそうという空気ができてしまうと、その会社を支持する情報ばかり目に入りやすくなるという可能性があります。

事実を先に並べ、評価を後にすることで、比較の順番を整えられます。

建物診断会社を2社から3社比較するときの条件

複数社から見積もりを取る場合、社数以上に重要なのが条件の統一です。

今回確認した国土交通省資料では、建物診断は全国一律で最低3社から見積もりを取らなければならない、といった国の法令等による一律の社数ルールは確認できません。

国土交通省が大規模修繕工事の発注で重視しているのは、特定の社数そのものではなく、事業者選定における意思決定の透明性や利益相反への配慮です。

ただし、自分たちのマンションの管理規約、細則、総会決議、発注に関する内部ルールなどで、相見積もりの社数や手続きが定められている可能性があります。

そのため、まず自マンションのルールを確認します。

特段の定めがなく、管理組合として価格や提案内容を比較したい場合には、2〜3社程度を候補にして比較する方法が考えられるでしょう。

ただし、3社を集めること自体が目的ではありません。

A社には外壁と屋上だけを依頼し、B社には設備診断まで含めて依頼していては、金額を横に並べても比較できません。

候補各社には、建物概要、築年数、戸数、階数、構造、外壁仕上げ、診断目的、希望する対象範囲、実施希望時期、過去の修繕履歴、希望成果物、理事会説明の有無などを同じように伝えます。

調査方法を管理組合側で決められない場合には、この目的を達成するために必要な調査方法を提案してほしい、と条件をそろえます。

そうすると、会社ごとに異なる提案が出てくるかもしれません。

その違いこそ、会社の考え方を比べる材料になります。

理事会で使える質問10項目

比較表を埋めるためには、候補会社へ直接確認する必要があります。

そこで使うのが、面談での質問です。

難しい専門用語で相手を試す必要はありません。

管理組合が本当に判断したいことを、各社へ同じように聞くほうが比較しやすくなります。

質問 確認するポイント
当マンションと同程度の規模や築年数の診断実績はありますか類似物件の経験
現地調査を実際に担当する人は誰ですか実際の担当体制
担当者はどのような資格とマンション改修経験を持っていますか資格と実務経験
今回の見積もりではどこまで調査しますか調査範囲
調査できない場所や診断だけでは判断できない部分はありますか診断の限界
この調査方法を選んだ理由を教えてください調査方法の妥当性
診断結果では修繕の緊急度をどのように示しますか優先順位
見積金額以外に追加費用が発生する可能性はありますか追加費用
特定の施工会社やメーカーとの資本関係や紹介関係はありますか利益相反につながり得る関係
診断結果を理事会や区分所有者へどこまで説明してもらえますか説明支援

ここでは、回答内容だけでなく答え方も見ます。

分からないことを無理に断言せず、現段階では判断できないため、この部分を調べる必要があると説明できる担当者も、信頼性を判断する材料になるでしょう。

何でもその場で言い切れることと、技術者として誠実であることは同じではありません。

面談が終わったら、その日の印象だけで決めず、回答を比較表へ戻します。

質問は会社を試すためではなく、事実をそろえるために使います。

建物診断の見積書チェック例

見積書では、右下の合計金額だけを見るのではなく、何が含まれているのかを確認します。

ここで行いたいのは、前章までの比較軸をもう一度説明することではありません。

単純に、価格の中身をそろえる作業です。

見積項目 記載例 確認したい内容
事前資料調査設計図書及び修繕履歴確認 一式確認する資料
現地目視調査現地調査 2名 2日人数と日数
外壁調査打診調査 一式実際の調査範囲
高所部分調査赤外線調査等必要性と対象範囲
防水調査屋上及び共用部調査対象部位
バルコニー調査抽出調査 ○戸抽出方法と戸数
材料試験シーリング等 ○箇所種類と試験数
設備調査給排水設備調査対象設備
アンケート居住者アンケート配布と回収と集計
報告書調査診断報告書写真と図面と評価内容
データ納品PDF等納品形式
理事会説明1回 ○時間回数と追加料金
交通費等含むまたは実費別途費用の有無
追加調査別途追加になる条件

例えば、建物診断業務一式 800,000円とだけ記載されているなら、一式の内容を尋ねます。

必ず細かな単価まですべて分解できなければ問題というわけではありません。

重要なのは、契約後に対象外の業務や追加費用が判明し、管理組合との認識違いが起きない程度まで範囲を確認することです。

また、安い見積もりだから不適切、高い見積もりだから高品質と決めることもできません。

金額に差があるなら、どの業務の違いでその差が出ているのかを確認します。

比較したいのは金額の大小ではなく、同じ目的に対して何をどこまで行う価格なのかです。

診断会社と施工会社は同じでもよいか

建物診断会社を比較していると、診断会社と実際の大規模修繕施工会社は分けたほうがよいのかという疑問が出てきます。

結論として、必ず分けなければならないとも、同じ会社で問題ないとも一律にはいえません。

同じ会社へ依頼する場合

診断から工事まで同じ会社や企業グループへ依頼すると、窓口をまとめやすく、理事会の連絡調整を減らせる場合があります。

調査結果から施工計画まで話をつなげやすいことも利点になるでしょう。

一方、自社が将来の工事を受注する可能性がある立場で診断する場合には、修繕提案と自社の工事受注が結び付く構造になる可能性があります。

それだけで不適切とは判断できませんが、工事項目や価格の妥当性を管理組合がどのように確認するのかを考えておく必要があります。

診断と施工を分ける場合

診断や設計と施工を別の事業者へ依頼すると、施工会社とは異なる立場から建物の状態や工事内容を検討できる可能性があります。

共通仕様を作り、複数の施工会社を比較したいマンションでは有力な選択肢になるでしょう。

ただし、設計コンサルタントを入れれば自動的に中立性が確保されるという意味でもありません。

国土交通省は、大規模修繕工事において、管理組合の利益と相反する設計コンサルタントが関与する問題について注意喚起しています。

会社を分けるかどうかだけで安心するのではなく、利害関係と会社選定の手続きを確認することが必要です。

確認したいのは関係と仕組み

管理組合が見るべきなのは、同じ会社か別会社かという一点ではありません。

診断結果を誰が確認するのか、工事項目の必要性をどう判断するのか、施工会社をどのような手続きで選ぶのか、工事見積もりをどのように比較するのかという仕組みを見ます。

診断と施工が同じ会社でも、説明や第三者確認を組み合わせる方法は考えられます。

反対に、会社が別でも選定過程や関係性が不透明なら、管理組合の不安は残るでしょう。

誰に任せるのかと同時に、どのように確かめるのかを決めることが重要です。

自力で比較しにくい場合のマンション管理士への相談

候補会社の提案を見比べても、自分たちだけでは判断しにくいと感じる管理組合もあるでしょう。

これは珍しいことではありません。

理事になったからといって、突然建築や発注の専門家になるわけではないからです。

そのような場合には、マンション管理士など第三者の専門家へ選定プロセスについて相談する方法があります。

マンション管理士の役割

国土交通省はマンション管理士について、専門的知識をもって管理組合の運営だけでなく、建物構造上の技術的問題等を含むマンション管理について相談に応じ、助言や指導その他の援助を行う者と説明しています。

また、マンション管理士試験の対象には、マンションの構造や設備、長期修繕計画、建物・設備の診断、大規模修繕なども含まれています。

そのため、マンション管理士は建物の技術的な内容には一切関与しないと考えるのは正確ではありません。

一方、マンション管理士資格を持っているという事実だけで、外壁調査、コンクリート調査、設備診断など個別の技術診断能力が一律に保証されるわけでもありません。

実際に相談するときは、資格名に加えて、建築や設備に関する経験、マンション改修の実績、過去に担当した業務、所属組織の体制などを確認します。

建物診断会社選定で考えられる支援

例えば、診断会社へ示す条件の整理、提案依頼書の作成支援、候補会社の比較、面談への同席、選定過程の整理などを相談する方法があります。

役割分担にも一つの正解があるわけではありません。

例えば、専門性や資格、実務経験に応じて、建物の物理的な調査や評価を建築・設備分野に詳しい専門家が担当し、選定条件や管理組合内の合意形成をマンション管理士が支援する形があります。

一方、一級建築士とマンション管理士の両資格を持ち、技術面と管理組合支援の双方に関わる専門家もいるでしょう。

重要なのは職種名で業務を固定することではありません。

今回必要な業務を明確にし、その仕事に必要な専門性と実務経験を持つ人へ依頼することです。

建物診断会社の選定から契約までの流れ

ここまでの内容を、実際の理事会の動きへ落とし込みます。

選定の流れは、次の8段階で考えると整理しやすくなります。

手順1 建物診断の目的を決める

最初に、今回なぜ診断するのかを一文にします。

大規模修繕の実施時期を判断したいのか、修繕範囲を検討したいのか、長期修繕計画を見直したいのかを整理します。

この目的が、最終的な会社選びの基準になります。

手順2 建物資料を整理する

竣工図書、長期修繕計画、過去の修繕履歴、点検記録、不具合記録などを集めます。

不足資料があれば、その状態も含めて各候補会社へ同じ情報を伝えます。

資料の条件をそろえることで、提案内容を比較しやすくなります。

手順3 提案依頼条件を作る

マンション概要、診断目的、対象範囲、希望時期、成果物、理事会説明の有無などをまとめます。

専門的な調査方法は、必要に応じて候補会社から提案してもらいます。

重要なのは、候補会社ごとに前提条件が変わらないことです。

手順4 候補会社を探す

管理会社から紹介された会社を候補に含めても構いません。

必要に応じて、マンション改修を扱う建築士事務所、設計コンサルタント、調査診断会社なども検討します。

複数社へ依頼する場合は、自マンションの管理規約や内部ルールに選定手続きの定めがないか確認しておきます。

手順5 見積書と提案内容を比較する

各社から届いた資料を候補会社比較表へ転記します。

ここでは評価を急がず、まず事実をそろえます。

分からない項目は空欄のまま終わらせず、面談で確認する質問へ変えます。

手順6 候補会社と面談する

実際の担当予定者を交えて話を聞きます。

質問10項目などを使い、各候補会社へできるだけ同じ内容を確認します。

説明力や受け答えだけでなく、管理組合の目的を理解しようとしているかも見ます。

手順7 診断目的に戻って最終判断する

各社の違いが分かったら、最初に決めた目的へ戻ります。

すべての項目で一番の会社を探すのではなく、今回の目的を最も満たせる会社はどこかという観点で検討します。

そのうえで、この会社を選ぶ理由を一文から数文程度で整理します。

例えば、最安値ではないものの、類似物件の実績があり、今回必要な調査範囲が明確で、追加費用の条件と診断後の説明内容も確認できたため、という形です。

選定理由は、誰かを疑うために残すものではありません。

数か月後に見ても、理事会がなぜその判断をしたのか分かるようにするための記録です。

手順8 契約内容を確認する

最後に、業務委託契約の範囲を確認します。

調査対象、調査方法、成果物、納期、説明会、追加費用、秘密保持、再委託などを見ます。

診断後の設計、施工会社選定、工事監理などが別契約なのかも確認しておきましょう。

建物診断を依頼したからといって、その後の大規模修繕業務まで当然に同じ会社へ依頼する必要があるわけではありません。

最後まで契約範囲を一つずつ確認することで、管理組合が判断する余地を残せます。

建物診断会社選定チェックリスト

最後に、選定から契約までの確認事項を一枚にまとめます。

この表は、新しい評価基準を増やすためのものではありません。

ここまで行ってきた作業に抜けがないかを、契約前に確認するためのものです。

確認項目 確認
建物診断の目的を理事会で共有した
調査対象となる建物や設備を整理した
竣工図書や修繕履歴を整理した
診断費用の財源を確認した
修繕積立金を取り崩す場合の手続きを自マンションの規約で確認した
見積取得や会社選定に関する内部ルールを確認した
各社へ同じ基本資料を渡した
各社へ同じ依頼条件を伝えた
分譲マンションの診断実績を確認した
類似マンションの経験を確認した
実際の担当予定者を確認した
担当者の資格と実務経験を確認した
現地調査の人数と日数を確認した
調査対象範囲を確認した
主な調査方法と理由を確認した
診断では判断できない範囲を確認した
追加調査が必要になる条件を確認した
報告書サンプルを確認した
修繕優先度が示されるか確認した
理事会や住民への説明対応を確認した
見積書の一式項目を確認した
別途費用と追加費用の条件を確認した
施工会社などとの関係を確認した
診断後に受託する業務を確認した
今回の診断目的との適合性を確認した
選定理由を文章として残した
契約書と業務仕様を確認した

空欄が一つ見つかったからといって、選定に失敗したわけではありません。

むしろ、契約前に確認すべきことを見つけられたということです。

マンション建物診断会社のよくある質問

建物診断会社は管理会社に紹介してもらってもよいですか

管理会社から建物診断会社を紹介してもらうこと自体を一律に避ける必要はありません。

管理会社は、マンションの日常的な管理状況や過去の修繕履歴を把握している場合があり、建物の事情を理解した会社を紹介できる可能性があります。

ただし、管理会社から紹介されたという理由だけで選定を終えないようにします。

紹介された会社についても7つの比較軸を使って確認し、必要に応じてほかの候補会社と同じ条件で比較します。

管理会社からの紹介は候補を知る入口であり、それ自体が選定理由ではありません。

建物診断は何社から見積もりを取るべきですか

今回確認した国土交通省資料では、全国のマンションに対して建物診断は必ず何社以上から見積もりを取る、とする国の法令等による一律の最低社数ルールは確認できません。

ただし、自分たちのマンションの管理規約、細則、総会決議、発注に関する内部基準などで手続きが定められている可能性があります。

まずは自マンションのルールを確認してください。

特段の定めがなく、費用や提案内容を比較したい場合には、2〜3社程度の候補を比較する方法が考えられます。

重要なのは社数を満たすことではなく、同じ条件で比較し、選定理由を説明できることではないでしょうか。

マンション管理士は建物診断ができますか

マンション管理士は、専門的知識をもってマンション管理に関する相談に応じ、助言や指導その他の援助を行う国家資格者です。

国土交通省が示す試験内容には、マンションの構造・設備、建物・設備の診断、大規模修繕なども含まれています。

したがって、マンション管理士が建物に関する技術的内容へ一切関与しないと整理することはできません。

一方で、マンション管理士資格を持っているだけで、すべての物理的な建物診断について実施能力が保証されるわけでもありません。

実際の診断を依頼する際は、専門分野、資格、実務経験、診断実績、組織体制などを確認する必要があります。

一級建築士とマンション管理士のどちらに相談すべきですか

資格名だけで二者択一にする必要はありません。

外壁や防水、雨漏り、修繕方法、改修設計などの技術的課題が中心であれば、その分野について実務経験を持つ建築士などが候補になります。

一方、管理規約、発注手続き、会社選定、理事会運営、合意形成などについて相談したい場合には、その分野に詳しいマンション管理士が候補になるでしょう。

一級建築士とマンション管理士の両資格を持つ専門家もいます。

まず何を相談したいのかを決め、その仕事に必要な専門性と経験を持つ人を選ぶことが大切です。

建物診断会社と大規模修繕の施工会社は分けたほうがよいですか

一律に分けるべきとはいえません。

同じ事業者へ依頼する方法にも、別々の事業者へ依頼する方法にも利点と注意点があります。

同じ会社であれば窓口をまとめやすい反面、診断結果が自社施工へつながる場合には、利益相反につながり得る関係を確認する必要があります。

別会社へ依頼すれば第三者的な確認を行いやすくなる可能性がありますが、別会社だから自動的に中立になるわけでもありません。

大切なのは、会社を分けることそのものではなく、関係性を把握し、工事内容と会社選定を管理組合が確認できる仕組みにすることです。

まとめ

マンションの建物診断会社を選ぶときは、見積金額や紹介元だけで判断するのではなく、マンション診断実績、調査範囲と方法、担当者の資格と経験、診断報告書、費用、施工会社との関係、管理組合への説明力という7つの視点から比較します。

ただし、7つの項目を機械的に採点すれば答えが出るわけではありません。

最初に今回なぜ建物診断をするのかを決め、7つの視点で各社の事実を確認し、その目的を最も満たせる会社を選びます。そして、なぜこの会社なのかを理事会の言葉で残すところまでが選定です。

この流れが、建物診断会社を選ぶときの背骨です。 診断目的を決める 7つの視点で事実を比べる 今回の目的を最も満たせる会社を選ぶ 選定理由を文章で残す
診断目的を決める → 7つの視点で事実を比べる → 今回の目的を最も満たせる会社を選ぶ → 選定理由を文章で残す

専門家を選ぶために、理事が専門家になる必要はありません。

分からないことを質問し、同じ条件で比較し、答えの違いを確かめることはできます。

大規模修繕を前にすると、自分たちの判断で本当に大丈夫なのだろうかと不安になることもあるでしょう。それでも、一つずつ条件をそろえていけば、会社名や金額だけでは見えなかった違いが少しずつ見えてきます。

目指したいのは、専門家に任せた結果として会社が決まる状態ではありません。

今回の目的と条件に照らして候補会社を比較し、この理由で自分たちはこの会社を選んだと説明できる状態です。

そこまで進めば、建物診断会社選びは、大規模修繕を誰かへ丸投げする最初の一歩ではありません。

管理組合が自分たちで建物の将来を考え、必要な専門家を使いながら判断していくための第一歩になります。

参考資料

この記事の主軸である建物診断、長期修繕計画、修繕積立金の取崩し、大規模修繕工事の発注、マンション管理士の役割について確認する際は、次の国土交通省資料が参考になります。

国土交通省 マンション標準管理規約

国土交通省 長期修繕計画標準様式 長期修繕計画作成ガイドライン

国土交通省 マンション大規模修繕工事に関する実態調査

国土交通省 令和7年改正マンション標準管理規約 単棟型コメント

国土交通省 マンション管理士になるには

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