会社全体では利益が出ているのに、「結局どの店舗が儲かっているのか」「新しい事業は本当に会社の利益へ貢献しているのか」と聞かれると、数字ですぐ答えられない。複数店舗や複数事業を持つ中小企業では、このような状態が珍しくありません。
売上の大きな事業を見ると、「ここが会社を支えているはずだ」と感じやすいですし、長年育ててきた店舗ほど、悪い数字を細かく見たくない気持ちが生まれることもあるでしょう。しかし、全社の利益だけでは好調な部門と不調な部門が混ざってしまうため、問題が起きていても気付く時期が遅れる可能性があります。
部門別PLは、経理資料を複雑にすることが目的ではありません。店舗や事業ごとに売上、費用、利益を分け、「どこへ人や資金を振り向けるか」「何を改善するか」を考えやすくするための管理資料です。
最初から精緻な管理会計を完成させる必要もありません。まず粗い部門別PLを一度作り、その数字を実際に見ながら、自社に必要な精度へ近づけていくことが現実的でしょう。
部門別PLとは
部門別PLとは、会社全体の売上高や費用を、店舗、事業、営業所、商品群などの単位へ分け、それぞれの採算を把握するための内部管理資料です。
通常の損益計算書を確認すれば、会社全体としてどれほど売上があり、一定期間にいくら営業利益が残ったのかは把握できます。しかし全社の数字だけでは、「A店舗はいくら利益を作ったのか」「法人営業とECのどちらへ人員を増やすべきか」といった具体的な経営判断には情報が足りません。
たとえば会社全体では年間2,000万円の営業利益が残っていても、内訳を見るとA事業が3,000万円、B事業が1,500万円の利益を生み、C事業では2,500万円の損失が発生しているという可能性があります。
会社全体が黒字であれば、経営者として安心するのは自然です。ただし、その黒字がどの事業によって作られ、どの事業で失われているのか分からなければ、次の投資先や改善対象を選ぶときに経験や感覚へ依存する割合が高くなります。
そこで全社PLを、実際に経営判断したい単位まで分解します。
| 項目 | 店舗事業 | EC事業 | 法人事業 | 全社 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 売上原価 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 部門固有費 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 部門貢献利益 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 共通費配賦額 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 配賦後利益 | ○ | ○ | ○ | ○ |
こうして数字を分けると、「会社全体では黒字か」という問いから、「どの部門が利益を作り、どこに改善余地があるのか」という次の問いへ進めるようになります。
財務会計や税務会計と管理会計の違い
部門別PLを理解するときには、財務会計や税務会計と、社内の意思決定へ使う管理会計を分けて考えることが重要です。
財務会計では、会社の財政状態や経営成績を一定の会計ルールに基づいて示します。一方、税務会計では課税所得の計算などを目的として、税法上必要となる調整や処理を行います。
両者には重なる部分がありますが、目的やルールが完全に同じというわけではありません。
これに対して部門別PLは、主として社内の経営管理に使用します。どの単位で採算を見るのか、本社経費をどのように配賦するのかといった設計を、自社の経営課題に合わせて考えられる点が特徴です。
たとえば本社家賃を従業員数で配賦する会社もあれば、利用面積を基準にする会社もあります。重要なのは一つの正解を探すことではなく、何を把握したいのか、その方法を継続して使えるのかを考えることです。
部門別PLは、財務会計や税務会計を置き換えるものではありません。既存の会計情報を、経営者が意思決定しやすい形へ組み替える資料として捉えると理解しやすいでしょう。
部門別PLの基本形
部門別PLでは、会計ソフトの勘定科目をそのまま横へ並べるより、「どの段階で利益が減っているのか」を上から順番に確認できる構造にしたほうが実務で使いやすくなります。
本記事では、次の形を基本とします。
| 階層 | 計算方法 | 確認する意味 |
|---|---|---|
| 売上高 | 顧客への販売額 | 部門の事業規模を見る |
| 売上総利益 | 売上高-売上原価 | 売上に対してどれだけ粗利益が残っているかを見る |
| 部門貢献利益 | 売上総利益-部門固有費 | 部門が共通費負担前にどれだけ利益を残しているかを見る |
| 配賦後利益 | 部門貢献利益-共通費配賦額 | 共通費まで負担させた後の採算を見る |
部門貢献利益の意味を最初に固定する
本記事では、説明を分かりやすくするため、次の関係で部門採算を捉えます。
売上総利益 - 部門固有費 = 部門貢献利益
ここでいう部門貢献利益は、本記事上の管理指標です。
一般的な管理会計で使われる contribution margin や限界利益は、通常、売上高から変動費を差し引いて計算されます。それに対して本記事では、部門専属人件費や店舗固有家賃など、部門へ直接ひもづけて管理する固定的な費用まで差し引いています。
そのため、一般的な contribution margin と同じ概念ではありません。
名称を覚えることよりも、「どこまで費用を差し引いた数字なのか」を社内で統一することが重要です。
経営会議で同じ「部門利益」という言葉を使っていても、一人は人件費控除前、別の人は人件費控除後を意味しているなら議論がかみ合いません。最初に計算式を決めておけば、その後は同じ定義で比較できます。
ここまで理解できれば、まず部門別PLを作ってみる段階へ進めます。
部門別PLの作り方
部門別PLの作成は、大きく4段階で進めます。
最初に採算を見る単位を決め、次に売上を分け、部門へ直接ひもづく費用を集計し、最後に必要であれば共通費を配賦します。
細かな論点から始めるのではなく、この順序を崩さないほうが全体像をつかみやすいでしょう。
STEP1 採算を見る単位を決める
最初に決めるのは勘定科目ではなく、「どの単位の利益が分かれば経営判断を変えられるのか」です。
小売業なら店舗別、製造業なら工場別や製品群別、サービス業なら事業別や拠点別、建設業なら工事部門別などが候補になります。
同じ会社でも複数の分け方が考えられるため、組織図をそのまま部門別PLへ持ち込む必要はありません。
組織図より経営判断を優先する
たとえば営業一課と営業二課が存在していても、同じ商品を同じ顧客層へ販売し、利益構造にもほとんど差がないのであれば、二つのPLを分けても意思決定が変わらない可能性があります。
一方で、同じ営業部の中に法人販売と個人販売があり、粗利益率や必要人員、販売方法が大きく異なるなら、事業モデル別に分けたほうが経営判断に役立つでしょう。
部門を決めるときには、「この利益が分かったら自分は何を変えるだろう」と考えてみます。
店舗別利益が分かれば、人員配置、営業時間、改装投資、家賃交渉を見直せます。事業別採算が分かれば、採用人数、広告予算、設備投資、新商品の優先順位を変えられる可能性があります。
逆に数字が分かっても何も変えられないのであれば、その単位まで細かく管理する必要性は低いかもしれません。
最初は大きな単位から試す
導入初期では、細かく分けすぎないことも重要です。
店舗別、商品別、顧客別、担当者別、地域別を一度に管理しようとすると、日々の入力時に付ける情報が急増します。経理担当者だけでなく現場の負担も増え、「部門別PLを作るための作業」に時間を取られるようになるでしょう。
本記事では、最初の実務的な目安として2〜4程度の大きな部門から試す方法を紹介します。
これは会計基準などで決められた数字ではありません。20店舗を独立採算で管理している会社なら20店舗を最初から見る意味がありますし、単純な2事業だけなら2部門で十分です。
必要な細かさは、会社の目的や経営者の情報ニーズによって変わります。
最初から完成形を目指すより、一度粗く作り、「もっと分けないと判断できない」と感じた部分だけ細分化するほうが続けやすいでしょう。
STEP2 売上を部門別に分ける
部門を決めたら、次に売上高を分けます。
店舗型ビジネスならPOSデータ、法人営業なら請求データ、ECなら受注データなどから、比較的簡単に帰属先を判断できる場合が多いでしょう。
難しくなるのは、一つの売上に複数部門が関与するケースです。
営業担当者が顧客を獲得し、別部署がサービスを提供する会社では、「この売上はどちらの成果なのか」と迷うことがあります。店舗で商品を知った顧客が後日ECから購入する場合も、売上の帰属をどう考えるかという問題が出てきます。
完璧より継続できるルールを選ぶ
導入初期では、理論上もっとも精密な方法より、毎月同じ基準で集計できる方法を優先したほうが比較しやすくなります。
たとえば「最終的に請求した部門へ付ける」「受注を管理した部門へ付ける」「サービスを提供した部門へ付ける」など、自社の事業に合う基準を一つ決めます。
多少粗い基準でも、半年間同じルールで運用すれば変化を比較できます。
ところが今月は受注部門、来月は担当社員の所属部門というようにルールが変わると、売上増減の原因が事業なのか集計方法なのか分からなくなります。
最初から100点を狙うのではなく、比較できるルールを定着させ、問題が出た部分だけ修正する方法が現実的でしょう。
内部取引は必要になってから考える
製造部門が作った商品を販売部門へ渡す会社では、社内振替価格を設定し、部門間の内部売上や内部仕入を計上する方法もあります。
ただし内部取引を入れると、製造部門と販売部門のどちらへ利益を持たせるのかという追加の設計が必要です。
導入初期では、まず外部顧客への売上を基準として全体を作り、内部取引まで管理する必要があるかを後から判断しても構いません。
管理制度を複雑にすることではなく、利益構造を経営者自身が理解できる状態を作ることを優先します。
STEP3 直接費を部門ごとに集計する
売上を分けた後は、各部門に直接ひもづく費用を集計します。
商品仕入、材料費、外注費、専属スタッフの人件費、店舗家賃、部門専用広告費、販売手数料などが代表的です。
迷った場合には、「この費用はどの部門の活動によって発生しているのか」と考えます。
A店舗だけで行った広告ならA店舗、ECだけで利用するシステムならEC事業、法人営業専属社員の給与なら法人営業へ付けるという考え方です。
関係がはっきりしている費用まで共通費へ入れてしまうと、その部門がどの程度のコストを使って利益を作っているのか分かりにくくなります。
人件費の扱いで採算は大きく変わる
中小企業の部門別PLでは、人件費の分け方が特に重要です。
A事業を社員2人、B事業を社員10人で運営しているにもかかわらず、全員の人件費を共通費へ入れてしまえば、人を多く必要とするB事業が実態より高収益に見える可能性があります。
専属社員であれば、担当部門へ直接計上する方法が分かりやすいでしょう。
一方、複数部門を兼務する社員について、すべての業務時間を分単位で測定する必要はありません。
実態を踏まえて「法人営業70% EC30%」という管理上の割合を決める方法もあります。業務内容が大きく変われば見直し、金額的な影響が小さい場合には共通費へ残すなど、必要な精度と管理負担のバランスを取ります。
部門別PLを作るための作業が、本来の営業やサービス提供を圧迫する状態になれば本末転倒です。
STEP4 共通費を分ける
売上と部門固有費まで分けると、各部門が共通費を負担する前にどれほど利益を残しているのか見えてきます。
その次に考えるのが、本社管理部人件費、本社家賃、顧問料、全社IT費、役員報酬などの共通費です。
これらは一つの部門だけに直接ひもづかないため、必要に応じて各部門へ配賦します。
共通費の配賦基準
| 共通費 | 配賦基準の例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 本社管理部人件費 | 部門人数 | 管理業務量が人数と連動すると考える |
| 本社家賃 | 利用面積または人数 | オフィス利用規模を反映する |
| 全社IT費 | アカウント数 | 実際の利用量に近づける |
| 全社広告費 | 売上高や粗利益 | ブランド効果の恩恵を事業規模で考える |
| 経理費 | 取引件数 | 経理処理の負荷を反映する |
| 経営管理費 | 粗利益や均等配賦 | 経営管理との関係から考える |
配賦方法には、どの会社にも通用する唯一の正解があるわけではありません。
費用が発生する原因との関係を説明できるか、計算が複雑になりすぎないか、継続して同じ方法を使えるかという観点から設計します。
すべてを売上高で配賦しない
共通費の配賦では、計算が簡単な売上高比率を使いたくなることがあります。
もちろん売上高比率が合理的な場合もありますが、すべての共通費へ機械的に使うと実態から離れることがあります。
たとえば売上高1億円で粗利益率10%の卸売事業と、売上高3,000万円で粗利益率70%のサービス事業を考えてみましょう。
売上高だけで配賦すれば卸売事業の負担が大きくなりますが、本社の人事や経理の負担が売上高と比例しているとは限りません。従業員数や取引件数のほうが実際の業務量に近いという可能性があります。
だからこそ「この方法が正しい」と決めつけず、費用ごとの性質を見ながら基準を選びます。
配賦には数字を受け取る人の納得感も必要
共通費を配賦すると、それまで黒字だった部門が配賦後には赤字になることがあります。
その数字を見た部門責任者からすれば、「なぜ自分の部門が本社の費用まで負担しなければならないのか」と感じることもあるでしょう。
配賦ルールを説明しないまま数字だけを見せると、部門別PLが利益改善の道具ではなく、責任を押し付け合う材料になりかねません。
人員数で配賦するなら管理負担との関係、アカウント数を使うならシステム利用量との関係というように、なぜその基準を採用したのかを共有します。
完全な公平性を求めるほど配賦は複雑になります。
経営判断に使う管理会計では、一定の合理性があり、説明でき、継続して運用できることにも大きな意味があります。
ある企業の部門別PL作成例
ここまでのSTEPを使い、店舗事業、EC事業、法人卸事業を持つある企業の数字を部門別へ分けてみます。
この企業の年商は2億円で、経営者は長い間、売上高1億円を持つ店舗事業が会社の中心だと考えていました。
店舗には多くの従業員がいて、顧客との接点にもなっています。そのため「店舗が一番売っているのだから、利益への貢献も一番大きいだろう」という感覚を持っていました。
ところが店舗の家賃と人件費が少しずつ上昇し、「売上はあるのに、なぜ思ったほど会社にお金が残らないのだろう」という違和感が強くなってきます。
そこで全社PLを3部門へ分解しました。
ある企業の完成PL
単位は万円です。
| 項目 | 店舗事業 | EC事業 | 法人卸事業 | 全社合計 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 10,000 | 4,000 | 6,000 | 20,000 |
| 売上原価 | 6,000 | 1,600 | 4,200 | 11,800 |
| 売上総利益 | 4,000 | 2,400 | 1,800 | 8,200 |
| 粗利益率 | 40.0% | 60.0% | 30.0% | 41.0% |
| 部門固有費 | 3,200 | 1,400 | 600 | 5,200 |
| 部門貢献利益 | 800 | 1,000 | 1,200 | 3,000 |
| 部門貢献利益率 | 8.0% | 25.0% | 20.0% | 15.0% |
売上だけを見れば、店舗事業は1億円で最大です。
ところが部門貢献利益まで見ると、店舗事業は800万円、EC事業は1,000万円、法人卸事業は1,200万円となり、売上最大の店舗事業が利益への貢献では最も小さくなっています。
経営者としては、すぐには受け入れにくい結果かもしれません。
長年会社の柱だと思っていた事業ほど、「売上が大きいのだから利益も大きいはずだ」という感覚が強くなります。数字がその思い込みと違っていると、一瞬「計算がおかしいのではないか」と感じることさえあるでしょう。
しかし、数字が店舗事業そのものの価値を否定しているわけではありません。
実店舗がブランド認知を作り、店舗で商品を知った顧客が後からECで購入している可能性もあります。部門別PLが示しているのは、あくまで現在の損益構造です。
ここで「店舗はダメだ」と結論を出すのではなく、「なぜ売上規模の割に利益が残っていないのか」という問いを持つことが重要です。
共通費を配賦してみる
この企業には、役員報酬、本社管理部人件費、本社家賃など年間2,000万円の共通費があるとします。
ここでは見え方の違いを説明するため、売上高比率で配賦します。
売上構成比は店舗50%、EC20%、法人卸30%です。
| 項目 | 店舗事業 | EC事業 | 法人卸事業 | 全社 |
|---|---|---|---|---|
| 部門貢献利益 | 800 | 1,000 | 1,200 | 3,000 |
| 共通費配賦額 | 1,000 | 400 | 600 | 2,000 |
| 配賦後利益 | ▲200 | 600 | 600 | 1,000 |
この管理表上では、全社で1,000万円の配賦後利益が残っています。一方、共通費を配賦した店舗事業は200万円の赤字です。
この数字を見ると、「それなら店舗を閉めればよいのではないか」と感じるかもしれません。
しかし、その判断へ進む前に、まず数字の意味を分けて読む必要があります。
部門別PLの読み方
部門別PLでは、一つの数字だけを見て順位を付けるのではなく、利益が変化していく階層を順番に見ます。
同じ企業でも、売上、粗利益率、部門貢献利益、配賦後利益では、それぞれ違うことを教えてくれます。
売上だけ見た場合と利益まで見た場合
| 見る数字 | 店舗事業 | EC事業 | 法人卸事業 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 10,000 | 4,000 | 6,000 |
| 粗利益率 | 40.0% | 60.0% | 30.0% |
| 部門貢献利益 | 800 | 1,000 | 1,200 |
| 配賦後利益 | ▲200 | 600 | 600 |
売上だけを見るなら、店舗事業が会社の中心に見えます。
粗利益率まで確認すると、EC事業が60%と3部門の中で最も高い粗利益率になっていることが分かります。
部門貢献利益まで見ると、法人卸事業が1,200万円で最も大きく、売上規模だけでは見えなかった利益への貢献が確認できます。
さらに配賦後利益を見ると、店舗事業について、本社費まで含めた会社全体のコスト構造の中で現在の利益水準が十分なのかという問いが生まれます。
どの数字か一つだけが正しいわけではありません。
売上高は事業規模、粗利益率は売上に対してどれだけ粗利益が残っているか、部門貢献利益は部門固有費を負担した後に残る利益、配賦後利益は共通費まで負担させた結果を表しています。
見る数字が変われば、経営者が考えるべき問いも変わります。
数字が悪い部門では原因を一段下げて見る
たとえば店舗事業の部門貢献利益率が低いと分かった場合、「店舗の利益率が悪い」で止めないことが大切です。
売上総利益が低いのであれば、原価率や値引き、商品構成を確認します。
売上総利益は十分なのに部門貢献利益が小さいなら、人件費、家賃、広告費などの部門固有費を調べる必要があります。
このようにPLを上から下へたどることで、「何となく儲からない」という感覚を、確認すべき具体的な項目へ変えられます。
部門別PLを見る目的は、成績表を作ることではありません。
利益が減っている場所を特定し、「なぜなのか」を現場へ戻って確認することにあります。
部門別PLを経営判断に使うときの注意
ここまでで部門別PLの作り方と読み方は理解できます。
ただし、事業撤退や大型投資のような重要な意思決定では、部門別PLの数字をそのまま答えとして使わないことが重要です。
特に注意したいのが、配賦後赤字を見て事業撤退を即断することです。
配賦後赤字と撤退判断は別に考える
先ほどの店舗事業は、部門貢献利益が800万円である一方、共通費1,000万円を配賦すると200万円の赤字になります。
表だけを見れば、「200万円の赤字部門を閉めれば会社の利益が増える」と感じるかもしれません。
しかし共通費の配賦額は、社内管理上の割り振りです。
店舗を閉めたとしても、本社家賃、役員報酬、管理部人件費などがそのまま残るのであれば、配賦した1,000万円が自動的に消えるわけではありません。
店舗を撤退した場合を考える
ここでは計算の仕組みを分かりやすくするため、単純化した条件を置きます。
店舗事業を撤退すると、店舗売上高1億円と売上原価6,000万円がすべてなくなり、さらに部門固有費3,200万円も全額が将来発生しなくなると仮定します。
また、本社共通費2,000万円は一切減らず、店舗撤退によってEC事業や法人卸事業にも影響がないものとします。
この条件では、店舗事業が生んでいた800万円の利益貢献が失われます。
計算は、売上高10,000万円から売上原価6,000万円と、撤退によって回避できる部門固有費3,200万円を差し引いた800万円です。
そのため、この管理表上の全社配賦後利益1,000万円は、単純計算では200万円まで低下します。
配賦後には200万円の赤字だった店舗を閉めたのに、会社全体の利益は800万円悪化する計算です。
ここで重要なのは、800万円という結果そのものではありません。
この計算が成立するのは、「店舗固有費3,200万円が撤退によってすべて消える」という前提があるからです。
実務では回避できる費用を確認する
現実には、店舗固有費として計上されている費用が、撤退によってすべてなくなるとは限りません。
店舗を閉じても社員を他部門へ配置転換すれば給与支出は残りますし、賃貸借契約の関係で家賃を一定期間払い続けなければならない場合もあります。
反対に、店舗撤退によって本社管理コストまで一部削減できる可能性もあるでしょう。
さらに原状回復費や設備処分費など、撤退したことで新たに発生する支出も考えられます。店舗がECへの集客拠点として機能していたなら、撤退後にEC売上が減少するという可能性もあります。
そのため、撤退や継続を判断するときには、部門別PL上の分類ではなく、その意思決定によって将来の収入と支出が実際にどう変わるのかを確認します。
一般的な限界利益と、本記事で使っている部門貢献利益も同じものではありません。
部門別PLは、詳しく調べるべき事業を見つけるところまで使い、その先の重要な意思決定では将来キャッシュフローを別途検討するという役割分担が適切でしょう。
ここを一度理解しておけば、部門別PL上の赤字という数字だけに振り回されにくくなります。
部門別PLからKPIへ落とす方法
部門別PLを完成させただけでは、現場の行動は変わりません。
PLで確認できるのは主として結果であり、「店舗事業の利益率が低い」と分かっても、その言葉だけでは現場が翌日から何をすればよいか判断できないからです。
そこで、利益を構成している要因を現場で動かせるKPIへ分解します。
店舗事業のKPI
店舗事業なら、売上を来店客数と客単価へ分解できます。
さらに人件費率、商品別粗利益率、在庫回転、スタッフ一人当たり売上などを確認すれば、利益が減っている理由を探しやすくなるでしょう。
来店客数は増えているのに利益が増えていないなら、値引きが増えていたり、低粗利商品の販売構成比が高まっていたりする可能性があります。
反対に売上が横ばいでも、来店客が少ない時間帯の人員配置を見直すことで、利益率が改善する場合があります。
「店舗利益を上げよう」という抽象的な指示ではなく、「平日15時以降の売上とシフトを比較する」という具体的な行動まで落とすことがポイントです。
EC事業のKPI
EC事業では、アクセス数、購入率、平均注文単価、顧客獲得単価、リピート率、顧客生涯価値などが候補になります。
広告費が増えているだけでは、良いとも悪いとも判断できません。
広告費を増やした結果として新規顧客が増え、その後の継続購入によって十分な粗利益を得られているのであれば、成長のための投資として合理的な場合があります。
一方、広告費が増え続け、顧客獲得単価も上昇し、リピート率まで低下しているなら、広告運用や商品構成を見直す必要があるでしょう。
PL上では一つの「広告宣伝費」だった数字をKPIへ分解すると、費用が増えた理由まで調べられるようになります。
法人卸事業のKPI
法人卸事業では、売上高だけでなく取引先別の粗利益を見ることが有効な場合があります。
年間1,000万円を購入する大口顧客でも、大幅な値引き、小口配送、返品、頻繁な訪問対応などが必要であれば、実際には利益があまり残っていない可能性があります。
取引先別粗利益率、営業担当者一人当たり粗利益、商談数、成約率、平均受注単価などを確認すると、どの顧客へ営業資源を振り向けるべきか考えやすくなるでしょう。
部門別PLからKPIへ落とす目的は、管理数字を際限なく増やすことではありません。
「利益が悪い」という結果を、「何を変えれば利益が動くのか」という行動可能な問いへ変換することです。
毎月30分で見るべき5項目
部門別PLは、一度完成させることより、毎月同じ基準で見続けることに価値があります。
ただし経営者が毎月何時間も細かな数字を見る必要はありません。
そこで本記事では、運用を始めるための一例として「まず30分程度で5項目を確認する」という方法を紹介します。
30分や5項目という数字は制度上の基準ではなく、あくまで実務上の目安です。会社の規模や部門数によって、15分で足りる場合もあれば、数時間必要になることもあります。
| 確認項目 | 見るポイント | 次に考えること |
|---|---|---|
| 部門貢献利益 | 前月や計画から大きく変化していないか | 売上と費用のどちらが原因か |
| 粗利益率 | 値引きや原価上昇がないか | 商品構成や仕入条件を確認する |
| 人件費効率 | 人員増加に利益増加が伴っているか | 配置やシフトを見直す |
| 共通費総額 | 本社費が膨らんでいないか | 固定費や契約内容を確認する |
| 売掛金と在庫 | 利益に対して資金負担が増えていないか | 回収条件や在庫量を確認する |
売掛金と在庫は、PLそのものの項目ではありません。
それでも併せて確認したいのは、PL上で黒字でも、売掛金の回収が遅れたり在庫が増えたりすれば、手元資金が減る可能性があるからです。
部門別PLは利益構造を見る資料であって、キャッシュフローをそのまま表す資料ではありません。
必要に応じて貸借対照表や資金繰り表も見ながら、利益と資金の両面を確認します。
そして確認の最後には、「次回までに何を一つ変えるのか」を決めます。
店舗の人件費率が上昇しているなら曜日別売上とシフトを比較し、法人営業の粗利益率が低下しているなら主要顧客の販売価格を確認します。ECの広告効率が悪化しているなら、媒体別の顧客獲得単価を調べるというように、数字から具体的な行動へつなげます。
数字を眺めて終わるのではなく、一つでも次の行動が決まれば、部門別PLは経理資料から経営資料へ変わります。
部門別PLでよくある失敗
部門別PLは、細かく作れば作るほど優れた管理資料になるわけではありません。
精度を追い求めすぎると経理担当者の作業が増え、現場にも入力負担がかかり、肝心の数字が完成する時期まで遅くなることがあります。
細かく分けすぎて運用できなくなる
最初から商品別、顧客別、担当者別、地域別まで管理すると、入力項目が急増します。
数カ月すると部門コードの入力漏れが増え、経理担当者が修正に追われ、「こんなに大変なら全社PLだけでいい」という状態へ戻るかもしれません。
必要なのは最大限細かなPLではなく、経営判断に必要な精度のPLです。
細分化するか迷ったら、「この数字が分かったとき、何か行動を変えるのか」と考えます。
共通費を細かく配賦しすぎる
コピー用紙や少額のクラウドサービスまで細かく配賦すると、精度は上がったように見えます。
しかし数千円の配賦方法を決めるために何時間も使うなら、管理コストのほうが大きくなる可能性があります。
まず売上原価、人件費、家賃、外注費、主要広告費など、利益に与える影響が大きい項目を正しく捉えることを優先します。
小さな費用については、共通費のまま残す判断も十分あり得ます。
配賦基準が説明できない
部門責任者から「なぜこの共通費を負担するのですか」と聞かれたときに説明できない配賦基準は、数字への不信につながります。
正確さだけではなく、社内で理解できることも重要です。
配賦後利益を人事評価へどう使うかについても、会社ごとに考える必要があります。責任者が価格や人員をどこまで決定できるかによって、評価に使うべき利益段階も変わるでしょう。
数字を作ることが目的になる
毎月きれいな部門別PLを完成させても、経営会議で「確認しました」で終われば利益は変わりません。
数字を作る目的は、異常を見つけ、原因を考え、次の行動を決めることです。
前月比や計画比で変化を見つけたら、少なくとも一つは確認事項や改善行動を決めるようにします。
表の精度より、数字を見た後に何をするかのほうが重要です。
最初はExcelでもよい 部門別PLの運用方法
部門別PLを始めようとすると、「専用システムが必要なのではないか」と考える経営者もいるでしょう。
しかし部門区分や配賦ルールが固まっていない初期段階では、ExcelやGoogleスプレッドシートのほうが柔軟に試せます。
最初にシステムを入れてしまうと、ソフトの仕様に合わせて自社の管理方法を決めることになりかねません。
まず何を見たいのかを決め、その後で集計作業を楽にするためにシステムを使うという順番が扱いやすいでしょう。
1カ月目は主要項目だけ分ける
最初の月は、売上高、売上原価、専属人件費、家賃、主要広告費など大きな項目だけを部門別にします。
共通費を全部配賦する必要もありません。
まず「各部門がどれほど粗利益を作り、どの程度の固有費を使っているのか」を確認できれば、最初のPLとしては十分役割を果たします。
分類に迷う費用は、無理に分けず共通費へ残しても構いません。
2カ月目は違和感を修正する
一度数字を入れて眺めると、「この人件費は直接付けたほうがよい」「この費用を細かく分けても判断は変わらない」といったことが分かってきます。
机上で完璧なルールを作ろうとすると、細かな例外が気になって前へ進めません。
実際のPLを一度作り、使ってみてから修正するほうが、自社に必要な管理粒度を見つけやすくなります。
3カ月目以降は変化を比較する
3カ月ほど同じ形式で数字が並ぶと、単月では分からなかった傾向が見え始めます。
売上が伸びているのに粗利益率が下がっている事業、人を増やしたのに利益が増えていない部門、広告投資後から粗利益が伸び始めたチャネルなど、時系列で見ることで原因を探しやすくなります。
部門別PLは、一枚を完璧に作って完成する資料ではありません。
同じ定義の数字を継続して並べ、「いつ変わったのか」「施策の後にどう動いたのか」を追える状態にすることが大切です。
会計ソフトの部門管理機能を確認する
Excelなどで部門管理のルールが見えてきたら、現在利用している会計ソフトに部門管理機能があるか確認します。
主要な会計ソフトには、取引へ部門情報を付けたり、部門ごとの損益を集計したりする機能があります。
ただし登録できる部門数、階層管理、配賦、帳票などの機能は、製品や契約プランによって異なります。
そのため「部門別PLを始めるなら会計ソフトを変更しなければならない」と考える必要はありません。
現在使っているソフトでどこまでできるかを確認し、足りない部分だけExcelなどで補う方法もあります。
自動化するのは、自社が見たい数字と管理ルールが固まってからでも遅くありません。
部門別PLを作った後に確認したい変化
部門別PLが機能しているかどうかは、表が美しく完成しているかだけでは判断できません。
経営会議の会話が変わったかを見ると、本当に数字が経営へ使われているかが分かります。
以前は「今月は売上が悪かったから来月は頑張ろう」という会話だけだった会社でも、部門別PLが定着すると、「店舗Aは売上より人件費率の上昇が問題になっている」「法人営業は売上が落ちたが粗利益率は改善している」といった話へ変わっていきます。
ECについても、「広告費が増えた」で終わるのではなく、「新規顧客の獲得単価はどう動いたのか」「リピート率まで含めると投資効果はどうなのか」という問いへ進めるでしょう。
一見すると小さな変化ですが、経営上の意味は大きいものです。
「もっと頑張る」という抽象的な言葉から、「どの数字を確認し、どの行動を変えるのか」という具体的な議論へ移っているからです。
さらに現場から「この商品を値上げすると粗利益はいくら変わりますか」「一人採用するなら売上をどれくらい増やす必要がありますか」といった質問が出始めれば、数字が経理担当者だけのものではなくなっています。
部門別PLは、数字の悪い部門や人を責めるための資料ではありません。
経営者と現場が同じ数字を見ながら、「なぜこうなっているのか」「次は何を変えるのか」を話せる土台を作ることに意味があります。
部門別PLのよくある質問
- 部門別PLと通常の損益計算書の違いは
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通常の損益計算書は、会社全体の一定期間における収益、費用、利益を示します。
部門別PLは、それらを店舗、事業、営業所などの管理単位へ分け、社内の意思決定や業績管理で利用する資料です。
財務会計や税務会計とは利用目的やルールが異なるため、社内管理用の配賦計算などをそのまま外部報告や税務処理と同一視しないことが重要です。
- 本社経費は各部門にどう配賦する
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人員数、利用面積、売上高、粗利益、システムアカウント数、取引件数など複数の基準があります。
どの会社にも共通する唯一の正解はありません。
費用の発生原因との関係、計算のしやすさ、社内で説明できるかという点を確認し、継続運用できる方法を選びます。
- 人件費は部門別に分けるべき
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特定部門に専属する従業員の人件費は、担当部門へ直接計上したほうが採算を理解しやすくなります。
複数部門を兼務する社員については、実際の従事割合に応じて配分する方法があります。
ただし厳密な工数管理で現場負担が大きくなる場合は、大まかな固定比率を使ったり、影響の小さいものを共通費へ残したりする方法もあります。
- 部門が赤字なら撤退したほうがいい
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赤字という一つの数字だけでは撤退を判断できません。
特に共通費配賦後の赤字は、社内で費用を割り振った結果でもあるため、撤退によって同額の支出が消えるとは限りません。
事業存廃を判断する際には、撤退によって失う売上、削減できる費用、残存する費用、撤退費用、他部門への影響など、実際に変化する将来の収支を確認します。
- Excelだけでも部門別PLは作れる
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導入初期で部門数がそれほど多くなければ、ExcelやGoogleスプレッドシートでも十分作成できます。
むしろ最初に表計算ソフトで試すことで、自社に必要な部門区分、費用分類、配賦方法が見えてくる場合があります。
運用が定着し、取引量や集計負担が増えてから会計ソフトや管理会計システムへ移行する方法も現実的でしょう。
- 何部門くらいまで細かく分けるべき
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一律の正解はありません。
本記事では、導入時の目安として2〜4程度の大きな単位から始める方法を紹介しましたが、これは会計上決められた基準ではありません。
判断基準にしたいのは、「この単位の採算が分かったときに、経営上の行動を変えられるか」です。
細かく分けても意思決定が変わらないのであれば、入力や集計の負担だけが増える可能性があります。
まとめ 部門別PLは粗く作って改善につなげる
部門別PLでは、まず経営判断したい単位を決め、売上を分け、部門固有費を集計し、必要に応じて共通費を配賦します。
最初から完璧に作る必要はありません。
粗い部門別PLでも、売上最大の部門が必ずしも最大の利益を生み出していないことや、どの費用が利益を圧迫しているのかが見え始めます。
重要なのは、表を作って終わらせないことです。
見えてきた数字から「なぜなのか」を考え、KPIへ下り、次に変える行動を一つ決めます。
そして事業撤退や大型投資のような重要な判断では、配賦後利益だけで結論を出さず、その意思決定によって実際に変化する将来の収入と支出まで確認します。
「思っていた利益構造と違う」という違和感が一つでも見つかれば、部門別PLを作った意味はすでにあります。
その違和感を放置せず、次の改善行動へつなげることが、部門別PLを経営に使う本当の目的ではないでしょうか。
参考資料
部門別採算や中小企業会計に関する情報
中小企業庁 会計関連情報
中小企業向けの会計ルールに関する情報
中小企業庁 中小企業の会計に関する基本要領
一般的な contribution margin とCVP分析について
ACCA Cost volume profit analysis
意思決定で考慮する関連原価について
ACCA Relevant costs
財務情報と非財務情報を使った経営分析について
経済産業省 ローカルベンチマーク