自治体からマンションの管理状態について通知が届き、封筒の中に「助言」「指導」「勧告」といった言葉を見つけると、理事長や役員は少なからず身構えるものです。とりわけ就任して間もない理事長なら、「自分の任期中に重大な問題が発覚したのではないか」「すぐに何か回答しなければ処分されるのではないか」と不安になることもあるでしょう。
しかし、行政から届く文書はすべて同じ性質ではありません。マンションの管理状況を把握するための調査や制度案内もあれば、マンション管理適正化法に基づく助言・指導や勧告、さらに法令に基づく報告徴収や立入検査もあります。
まず行うべきことは、慌てて回答書を書くことではありません。通知の法的な性質と回答期限を確認し、記憶だけで答えるのではなく、管理規約、総会議事録、会計資料、長期修繕計画などと照合して現在の管理状態を確かめます。
そのうえで理事会として、「何が起きているのか」「なぜ現在の状態になったのか」「何を改善すれば再び同じ問題を起こさずに済むのか」を整理していきます。
行政対応を単に一通の回答書を提出する作業として終わらせず、止まりかけていた管理組合の意思決定や引継ぎを回復する機会にできるかどうかが重要です。
マンションに行政通知が届いたらまず確認する3点
行政からの封書を開いた直後は、「早く返事をしなければ」と考えやすいものです。
ただし、最初の段階で改善策まで決める必要はありません。何を求められているのかが分からない状態で対策を考えても、行政の指摘とずれた対応になる可能性があります。
まず、次の3点を確認してください。
| 最初に確認すること | 確認する内容 | なぜ重要なのか |
|---|---|---|
| 通知の性質 | 調査 助言 指導 勧告 報告徴収 立入検査等 | 文書によって法的な位置づけと対応が異なるため |
| 根拠と期限 | 根拠条文 回答期限 提出資料 要求事項 | 理事会や総会の日程を逆算するため |
| 実際の管理状態 | 規約 議事録 会計 長期修繕計画 修繕履歴等 | 行政の認識と実態が一致しているか確認するため |
ここまで確認すると、「行政に怒られた」という漠然とした不安が、「この通知は何に基づくものなのか」「総会議事録を確認する必要がある」といった具体的な問題へ変わります。
不安を感じることそのものを否定する必要はありません。
ただ、感情と事実を一度分けて整理することで、その後の理事会でも落ち着いて判断しやすくなります。
マンション管理適正化法の助言・指導・勧告とは
マンション管理適正化法第5条の2第1項では、都道府県等がマンション管理適正化指針に即し、管理組合の管理者等に対して、マンション管理の適正化を図るために必要な「助言及び指導」を行うことができると定めています。
一方、同条第2項では、管理組合の運営またはマンションの修繕の実施が指針に照らして著しく不適切であると把握した場合について、勧告を行うことができる仕組みが設けられています。
この制度を理解するとき、最初に避けたいのが「助言を受けたら次は必ず指導、その次は必ず勧告になる」という固定的な三段階のイメージです。
法律はそのような順番を定めているわけではありません。
助言と指導には法律上の明確な段階差はない
「助言は軽く、指導になると一段階重くなる」と理解されることがあります。
しかし、マンション管理適正化法第5条の2第1項では、「助言及び指導」と一括して規定されています。法律上、助言の後に必ず指導へ移るという順番や、指導になれば必ず要求内容が一段強くなるという明確な段階差が定められているわけではありません。
したがって、「助言だからまだ対応しなくてもよい」「指導と書かれているから次は必ず勧告になる」と、名称だけで判断することは避けたほうがよいでしょう。
実際に確認する必要があるのは、通知本文に何が書かれているかです。
例えば総会の開催状況を問題視されているのであれば、過去の総会議事録を確認します。長期修繕計画を指摘されているのであれば、計画書が存在するかだけでなく、作成年、最終見直し時期、修繕積立金との整合性、実際の工事履歴まで確認する必要があります。
勧告は助言及び指導とは別に規定されている
勧告は、助言及び指導とは別に第5条の2第2項で規定されています。
もっとも、助言や指導を受けたマンションが必ず勧告の対象になるわけではありません。管理状態や問題の内容、改善状況などを踏まえて行政が判断するため、「行政から通知が来た時点で勧告まで決まっている」と考える必要はないでしょう。
一方で、問題を放置してよいわけでもありません。
早い段階で現状を確認すれば、総会の再開、規約の整備、会計処理の見直しなど、比較的小さな改善から着手できる場合があります。
修繕の実施に関する勧告の判断基準
ここは対象を分けて理解する必要があります。
国の基準では、マンションの修繕の実施に関する勧告の判断基準として、適切な修繕が行われず、そのまま放置すれば著しく保安上危険となるおそれ、著しく衛生上有害となるおそれなどがある状態が示されています。
つまり、これは「勧告一般の唯一の判断基準が建物の危険性である」という意味ではありません。
修繕の実施について行政が勧告を検討する場合の判断基準として、安全性や衛生上の問題などが示されているということです。
外壁の剥落、著しい腐食など建物の安全に関わる問題が指摘されている場合には、通常の書類整理とは異なり、建築士等による現況確認を早めに検討する必要があります。
助言・指導・勧告の位置づけ
| 区分 | 法律上の位置づけ | 管理組合が確認すること |
|---|---|---|
| 助言及び指導 | 第5条の2第1項で一括して規定 | 通知本文の指摘内容と求められている改善 |
| 勧告 | 第5条の2第2項で別途規定 | 著しく不適切と判断された内容と改善方法 |
| 報告徴収等 | 第5条の2第6項に基づく情報把握手段 | 報告事項 提出期限 立入検査等の根拠 |
行政から届いた文書を読むときは、言葉の強さだけに目を向けるのではなく、具体的にどの管理状態を問題としているのかを確認することが重要です。
マンション行政対応Step1 通知内容を7項目で整理する
通知の大まかな性質を把握したら、内容を理事会で共有できる形に整理します。
理事長一人が文書を持ったまま管理会社や自治体へ連絡すると、「誰が何を聞いたのか」「どこまで回答したのか」が後から分からなくなることがあります。
行政対応も管理組合の業務ですから、最初から記録を残すことが重要です。
行政通知の7項目チェックリスト
| 点検項目 | 確認する内容 | 実務上の目的 |
|---|---|---|
| 発信元 | 自治体名 担当部署 担当者 連絡先 | 問い合わせ窓口を確定する |
| 文書の性質 | 調査 助言 指導 勧告 報告徴収等 | 法的な位置づけを確認する |
| 対象情報 | マンション名 所在地 管理者名 | 自治体の把握情報との違いを確認する |
| 指摘事項 | 管理者 総会 規約 会計 修繕計画 修繕等 | 問題とされている事項を特定する |
| 回答期限 | 回答日 資料提出日 改善予定日 | 理事会や総会の日程を逆算する |
| 要求事項 | 回答書 改善計画 面談 資料提出等 | 次に必要な行動を特定する |
| 添付資料 | 指定様式 チェックシート 自治体指針等 | 指定された方法を確認する |
この段階では、まだ「どう改善するか」まで結論を出す必要はありません。
最初に行うのは、行政が把握している状態と、管理組合が把握している状態を整理することです。
そこを飛ばして改善策へ進むと、すでに改善済みの問題について再度対策を取ったり、本当に必要な課題を見落としたりする可能性があります。
マンション行政対応Step2 管理資料を集めて事実を確認する
通知内容を整理したら、次は資料を集めます。
「総会は開催したと思う」「規約は管理室にあったはず」「長期修繕計画は管理会社が持っているだろう」という記憶だけでは、行政への回答の根拠として十分とはいえません。
実際の資料を確認し、分かっていることと分からないことを区別します。
行政への回答前に準備する資料
| 資料分野 | 主に確認する資料 | 確認したい内容 |
|---|---|---|
| 行政関係 | 今回の通知 過去の通知 回答書 メール | 指摘の経緯と過去の対応 |
| 管理組合 | 総会議事録 理事会議事録 役員名簿 | 総会開催と管理者等の状態 |
| 管理規約 | 現行規約 使用細則 改正履歴 | 現在有効な規約 |
| 会計 | 決算書 貸借対照表 収支資料 預金資料 | 区分経理と資金状況 |
| 滞納 | 滞納一覧 督促記録 | 長期滞納と対応状況 |
| 長期修繕 | 長期修繕計画 修繕積立金資料 | 作成年 見直し状況 資金計画 |
| 修繕履歴 | 工事記録 契約書 写真 | 計画と実際の工事状況 |
| 建物点検 | 点検報告 劣化診断 設備点検 | 要是正事項と安全上の課題 |
| 管理委託 | 管理委託契約書 業務報告 | 管理会社へ委託している範囲 |
資料が見つからないこともあるでしょう。
そのとき、「こんな状態を行政に知られたくない」と感じる理事がいても不思議ではありません。
ただ、資料が散逸しているという事実そのものが、現在の管理体制を示しています。
見つからない資料を隠すことよりも、いつから所在が分からなくなったのかを確認し、今後は誰がどこで保管し、役員交代時にどのように引き継ぐのかを決めるほうが、管理の正常化につながります。
マンション行政対応Step3 指摘事項と問題の原因を整理する
資料が集まったら、行政から指摘された項目について実態を確認します。
ここで重要なのは、「できている」「できていない」という判定だけで終わらせないことです。
なぜその状態になったのかまで確認しなければ、一度改善しても翌年度に同じ問題が再発する可能性があります。
管理者等が定められていない場合
国の助言・指導等の判断基準では、管理組合の運営を円滑に行うための管理者等が定められていない状態が、判断の目安の一つとして示されています。
ただし、行政から指摘されたからといって、とにかく誰かを理事長に選べば終わるとは限りません。
役員の高齢化が進み、なり手がいないのかもしれません。賃貸化や相続によって、マンション外に住む区分所有者が増えている可能性もあります。
その場合には、役員の選任方法、任期、輪番制、引継ぎ方法、外部専門家の活用まで含め、運営を継続できる仕組みを考える必要があります。
総会が年1回以上開催されていない場合
集会が年1回以上開催されていない状態も、国の助言・指導等の判断基準に挙げられています。
行政から総会未開催を指摘されると、「では一度総会を開けばよい」と考えたくなるかもしれません。
しかし、数年間総会が止まっていた場合には、なぜ開催できなくなったのかを確認することが重要です。
役員が決まらなかった可能性もありますし、区分所有者の連絡先が古くなり招集通知を出せなかったのかもしれません。会計資料が整理されておらず、決算議案を作れないまま時間が過ぎたというケースも考えられます。
一度だけ総会を開催しても、原因が残れば翌年度に再び止まります。
目指したいのは、総会を一回開くことではなく、必要な情報を確認し、適切な手続で意思決定し、その結果を実行して記録し、次の役員へ引き継げる管理サイクルを取り戻すことです。
管理規約が作成されていない場合
管理規約が作成されていない場合や、必要な改正が行われていない場合も、助言・指導等の判断基準として示されています。
「管理室に規約がある」というだけでは、現在有効な内容かどうか判断できないことがあります。
過去に規約改正を行った記録はあるものの、改正案しか残っていない場合には、総会議事録と照合し、何が正式に決議されたのかを確認する必要があります。
そのうえで、現在の区分所有法やマンション標準管理規約を参考に、必要な改正を検討します。
規約変更では2026年改正法の適用時期を確認する
2026年4月1日以降に規約変更総会の招集手続を開始する場合は、改正区分所有法に基づく手続を確認する必要があります。
規約の設定、変更、廃止については、原則として区分所有者総数と議決権総数の各過半数を基本とする定足数を満たし、そのうえで出席した区分所有者と議決権の各4分の3以上によって決議する仕組みに変更されています。
ただし、経過措置があります。
2026年3月31日までに総会の招集手続を開始していた場合には、総会開催日が4月1日以降であっても旧法側の手続が適用されます。そのため、施行日前後から進んでいる案件については、総会開催日だけではなく、招集手続をいつ開始したのかを確認する必要があります。
また、ここに書かれている数字だけを機械的に使うことも避けてください。
具体的な議案については、改正区分所有法と現在有効な管理規約の双方を確認し、必要に応じて専門家へ相談したうえで手続を進めます。
行政から規約改定を求められているからといって、総会手続そのものを誤れば別の問題を生む可能性があります。
管理費と修繕積立金の経理が不明確な場合
国の判断基準では、管理費と修繕積立金等について明確に区分して経理していないなど、適正な管理が行われていない場合も対象になります。
管理費は清掃、設備点検など日常管理を支える資金であり、修繕積立金は将来の大規模修繕や設備更新へ備える資金です。
この二つが曖昧になると、「現在使えるお金」と「将来残しておくべきお金」の区別がつきにくくなります。
通帳にまとまった金額が残っているからといって、安心できるとは限りません。
今後予定する修繕工事と比較すれば、実際には修繕資金が不足している可能性があります。また、口座を分けているように見えても、修繕積立金から日常管理費へ資金を補填しているケースも考えられます。
行政から会計について指摘された場合には、口座の有無だけではなく、決算書や帳簿を確認し、実際のお金の流れまで把握することが重要です。
長期修繕計画がない場合
長期修繕計画が作成されていない場合や必要な見直しが行われていない場合、適時適切な維持修繕のための修繕積立金が積み立てられていない場合も、助言・指導等の判断材料になります。
ただし、管理室で計画書が見つからなかったからといって、すぐに「未策定」と決める必要はありません。
管理会社がデータを保有している場合や、過去の総会資料に計画案が残っている場合もあります。
まず現在利用できる長期修繕計画が本当に存在しないのかを確認し、その後に最後の大規模修繕時期、現在の修繕積立金残高、過去の工事履歴を確認します。
長期修繕計画は、30年先を完全に言い当てるための予言書ではありません。
建物状態、工事価格、設備更新、資金状況などが変化する中で、将来必要になる修繕と区分所有者の負担について話し合うための意思決定資料です。
長期修繕計画が古い場合
長期修繕計画が存在していても、現在の判断に使えるとは限りません。
例えば十数年前に作った計画なら、その後に行った大規模修繕や設備更新、工事価格の上昇などが反映されていない可能性があります。
資金不足が判明したからといって、最初から修繕積立金の値上げ額だけを決めるのは避けたいところです。
まず過去の工事履歴を確認し、現在の建物状態を把握します。そのうえで将来必要になる工事と必要資金を整理すれば、「なぜこの負担が必要なのか」を区分所有者へ説明しやすくなります。
必要な修繕が実施されていない場合
長期修繕計画に基づく適切な修繕が行われていない場合も、助言・指導等の判断基準として示されています。
さらに、修繕の実施に関する勧告の判断基準では、適切な修繕が行われず、そのまま放置することで著しく保安上危険となるおそれなどがある状態が示されています。
外壁の浮き、著しい腐食、落下のおそれ、繰り返す漏水などが確認されている場合には、書類を整えるだけでは問題は解消しません。
このようなケースでは、管理組合運営の正常化と建物の安全確認を分けて考えます。
必要に応じて建築士などへ調査を依頼し、現在の建物状態、修繕の緊急性、必要な工事、総会までの工程を具体化することが重要でしょう。
助言・指導等の判断基準と管理計画認定基準を混同しない
マンション管理について調べていると、監事の選任、修繕積立金の滞納率、長期修繕計画の期間など、さまざまな条件が出てきます。
ここで注意したいのは、助言・指導等の判断基準と、管理計画認定制度の認定基準は別の制度だということです。
例えば現在の国の管理計画認定基準では、直前の事業年度終了日時点の修繕積立金について、3か月以上の滞納額が全体の1割以内であることが基準の一つになっています。
また、長期修繕計画については、作成または見直しが7年以内であることなどが認定基準として定められています。
これらの数字を、そのまま「超えたら行政指導になる基準」と考えるのは正確ではありません。
一方で、行政対応をきっかけに管理状態全体を確認するのであれば、管理計画認定基準をマンション管理の健康診断のような参考指標として利用することには意味があります。
マンション行政対応Step4 理事会で改善方針を決める
実態と原因を確認した後は、行政通知を理事会の正式議題として扱います。
通知が理事長宛てに届いていたとしても、内容がマンション管理に関するものであれば、理事長個人の問題ではありません。
通知日、自治体名、指摘事項、回答期限、確認できた事実、見つからなかった資料、今後の担当者などを理事会で共有し、議事録へ残します。
「自分が理事長になったときに通知が来た」というだけで、すべてを一人で背負う必要はありません。
数年間続いた管理不全であれば、現在の理事長一人によって生じた問題ではない場合が多いでしょう。
行政の指摘と実際の状態を照合する
自治体が把握している情報が最新ではない場合もあります。
例えば「総会未開催」と指摘されているものの、実際には総会を開催しており、その情報が行政へ届いていなかったという可能性があります。
この場合に必要なのは、新たな総会を急いで開くことではありません。
開催済みの総会議事録などを示し、事実関係を確認します。
反対に、実際に総会が開かれていなかったのであれば、その事実を認めたうえで原因を整理します。
「事実」と「行政の評価」を分けることで、必要以上に防御的にならず、本当に改善すべき問題へ集中しやすくなります。
責任追及より正常化を先に考える
総会や会計が止まっていることが分かると、「前の理事長が悪い」「管理会社が何もしていなかった」という不満が出る場合があります。
そう感じること自体は不自然ではありません。
ただ、責任追及から始めると、必要な資料や情報が集まらなくなることがあります。
まず、最後に正常な状態を確認できたのはいつか、その後どこから分からなくなったのかを整理します。
責任の問題を無視するという意味ではありません。
必要な事実がそろってから、別途検討すべき責任問題があるかを判断するほうが、管理正常化を進めやすい場合があります。
管理会社との役割を契約で確認する
管理会社がいるマンションでは、「行政対応も管理会社に任せればよい」と考える役員がいるかもしれません。
実際、管理会社が総会資料、会計資料、点検記録、修繕履歴などを保有している場合には、重要な協力先になります。
しかし、管理会社と管理組合は同じではありません。
管理会社が行う業務は、原則として管理委託契約の範囲によります。
例えば総会資料作成の補助を契約で依頼しているのに実施されていなければ、履行上の問題である可能性があります。一方で、そもそも契約に含まれていない仕事を管理組合側が当然に実施してくれると思っていたのであれば、期待と契約内容のずれが原因です。
行政から指摘を受けたことだけを理由に、すぐ管理会社変更へ進む必要はありません。
役員不足、総会停止、所有者名簿の未更新など、原因が管理組合側の意思決定機能にある場合には、管理会社を変更しても問題は残ります。
まず問題の原因を分け、改善できるものかを確認したうえで、必要なら契約見直しや管理会社変更を検討するほうがよいでしょう。
マンション行政対応Step5 必要な事項を総会で決める
改善内容の中には、理事会だけでは決められない事項があります。
役員選任、管理規約の変更、修繕積立金の変更、一定の修繕工事などについては、区分所有法と現在有効な管理規約を確認し、必要な総会手続を行います。
行政から改善を求められたとしても、「役所から言われたので賛成してください」という説明だけでは、区分所有者の理解を得にくいでしょう。
なぜ指摘されたのか、現在どのような状態なのか、このままでは何が問題になるのか、そのために何を変える必要があるのかを説明します。
特に修繕積立金の増額など、各世帯の負担に直結する事項では、結論だけを先に示すと反発が大きくなることがあります。
建物状態、予定工事、必要費用、現在の資金状況を一つの流れで示すことで、初めて話し合いの土台が整います。
理事会で整理する主な改善項目
| 改善項目 | 理事会で行う主な作業 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| 総会未開催 | 会計整理 議案作成 招集準備 | 区分所有法と現行規約 |
| 管理者等未選任 | 候補者確認 役割整理 | 現行規約上の選任方法 |
| 管理規約 | 現行規約確定 改正案作成 | 改正区分所有法と現行規約 |
| 会計不備 | 帳簿確認 区分経理の是正 | 予算 決算 総会手続 |
| 長期滞納 | 状況確認 督促方針整理 | 規約と必要な法的対応 |
| 長期修繕計画 | 修繕履歴 現況 資金確認 | 計画内容と総会手続 |
| 建物修繕 | 診断 見積 工事方法検討 | 工事内容に応じた決議 |
行政対応だからといって、通常必要な管理組合の意思決定手続を飛ばすことはできません。
むしろ、行政から指摘されたときこそ、手続を丁寧に確認する必要があります。
マンション行政対応Step6 改善計画書を作り実行する
自治体への回答では、長い弁明を書くことより、現在の状態と改善工程を具体的に示すことが重要です。
「今後善処します」とだけ書いても、行政側は何を、いつ、どのように改善するのか確認できません。
改善計画書では、指摘された事項について現在の状態、原因、改善方法、担当者、予定時期、必要な理事会や総会手続などを整理します。
総会未開催を指摘された場合の整理例
例えば数年間総会が開催されていなかった場合、「役員改選が停止したため総会準備も進まなくなっていた。現在は区分所有者の連絡先と会計資料を確認しており、次回理事会で議案を整理した後に臨時総会の開催を予定している」というように整理できます。
この書き方であれば、単に「総会を開きます」と答えるより、問題が生じた背景と改善工程が伝わります。
事情を書くことは責任逃れではありません。
なぜ現在の状態になったのかを整理しなければ、再発防止策を作れないからです。
全部を一度に直そうとしない
数年間積み残された問題があると、「規約も会計も総会も長期修繕計画も全部すぐ直さなければ」と感じることがあります。
しかし、一度にすべてを進めようとすると、役員の負担が大きくなり、結果としてどの作業も進まなくなることがあります。
最初の理事会では行政通知と関係資料を確認し、不足している資料と優先課題を明らかにします。その結果を踏まえ、次の理事会までに必要資料を集め、改善案や総会議案を具体化するというように工程をつなげれば、現実的に進めやすくなるでしょう。
小さく実行することは、先延ばしにすることではありません。
大きな課題を実行できる単位へ分け、進捗を確認しながら進めるという意味です。
完了まで時間が必要な改善は工程を伝える
管理規約の全面改定や長期修繕計画の作成は、短期間では完了しない場合があります。
そのとき、実現できない日程を約束するより、現在どこまで進んでおり、理事会、区分所有者説明、総会をどの時期に予定しているのかを工程として示すほうが現実的でしょう。
予定より時間がかかることもあります。
その場合は、期限を過ぎてから初めて説明するのではなく、変更が分かった段階で自治体へ事情と新しい予定を伝えることが、行政とのやり取りを継続するうえで重要です。
報告徴収や立入検査を受けた場合の注意点
通常の助言・指導と、マンション管理適正化法に基づく報告徴収や立入検査は分けて理解する必要があります。
第5条の2第6項では、都道府県知事等が助言・指導や勧告を行うために必要な限度で、管理状況の報告を求めたり、マンションや敷地、建築設備、書類などについて検査や質問を行ったりできる仕組みが設けられています。
通知に「第5条の2第6項」「報告徴収」「立入検査」などの記載がある場合には、通常のアンケートと同じものだと考えないほうがよいでしょう。
報告拒否等には10万円以下の過料規定がある
マンション管理適正化法第113条第1号では、第5条の2第6項に基づく報告をしない場合や虚偽の報告をした場合、検査を拒否、妨害、忌避した場合、質問に答えなかった場合や虚偽の陳述をした場合について、10万円以下の過料を定めています。
この点は、助言・指導そのものと区別して理解する必要があります。
「行政指導には強制力がないと聞いたから、自治体から来るものはすべて無視できる」という理解は適切ではありません。
何に基づく文書なのかを確認することが重要です。
分からない事項を現場で推測して答えない
立入検査などが行われる場合には、行政担当者の所属、氏名、確認された資料、質問内容、その場で回答できなかった事項などを記録しておくと、その後の対応を整理しやすくなります。
管理会社や専門家が事情を詳しく把握している場合には、必要に応じて同席について相談することも考えられます。
その場で分からない質問に対して、曖昧な記憶を頼りに回答する必要はありません。
資料確認が必要な事項については、その旨を伝えたうえで事実を確認し、後日正確に回答するほうが適切でしょう。
マンション行政対応Step7 必要に応じて専門家へ相談する
行政通知を読んでも、「制度の意味は分かったが、自分たちのマンションで具体的にどう進めればよいのか分からない」ということがあります。
特に、総会が数年間開催されていない、規約が見つからない、会計と修繕の問題が同時に起きているといった場合には、理事会だけで課題を整理することが難しいこともあるでしょう。
そのときは、問題の性質に応じて専門家を利用します。
マンション管理士へ相談できること
マンション管理士には、行政通知の内容整理、管理状態の確認、改善項目の優先順位づけ、理事会や総会に向けた資料整理、管理規約の見直し、長期修繕計画に関する課題整理、行政への回答書や改善計画書の作成支援などを相談できます。
相談前には、行政通知、現行管理規約、総会議事録、理事会議事録、決算関係書類、長期修繕計画、修繕履歴、管理委託契約書など、手元にある資料を準備すると状況を共有しやすくなります。
すべてそろっていなくても構いません。
むしろ、何が存在しないのかを確認すること自体が、管理状態を整理する入口になります。
ただし、マンション管理士へ相談しただけで行政の指摘が自動的に解消するわけではありません。
最終的に総会を開き、規約を改定し、会計を是正し、修繕を実施する主体は管理組合です。
専門家は管理組合に代わってすべてを決める人ではなく、管理組合自身が適切な判断を行えるよう問題を整理する支援者と考えるほうがよいでしょう。
弁護士へ相談したほうがよいケース
総会決議の有効性を巡る争い、長期滞納者への法的措置、損害賠償請求、管理組合を代理する法律上の交渉などが必要になる場合には、弁護士への相談を検討します。
行政への改善対応と区分所有者との紛争を一つの問題として扱うと、何を優先するべきか分かりにくくなることがあります。
管理正常化の問題と法律紛争を分け、それぞれ適切な専門家へ相談することが重要です。
建築士へ相談したほうがよいケース
外壁の剥落、コンクリートの著しい劣化、手すりの腐食、漏水、構造上の安全性など、建物そのものに関する問題が指摘されている場合には、建築士等による技術的な確認が必要になる可能性があります。
理事会だけで「まだ大丈夫だろう」「危ないかもしれない」と話し合っても、安全性そのものを正確に判断することはできません。
現況調査によって緊急性と必要な修繕方法を確認し、必要な工事、費用、総会までの工程を具体化していきます。
自治体の専門家派遣制度も確認する
自治体によっては、マンション管理士などの専門家派遣制度や相談制度を設けています。
行政から通知が届いたとき、「改善を求められた側」として構えるだけでなく、「改善のために利用できる相談制度や専門家派遣制度はありますか」と担当部署へ確認する方法もあります。
自治体ごとに制度の内容や対象条件は異なるため、利用できるかどうかは個別に確認してください。
行政との接点が、止まっていた管理組合を動かす支援につながる場合もあります。
マンション行政対応Step8 行政へ報告して改善後を確認する
改善を実施したら、その内容を確認できる資料を整理して行政へ報告します。
総会を開催したのであれば議事録、規約を変更したのであれば改正後の規約、長期修繕計画を見直したのであれば新しい計画書など、改善した事実を示せる資料を準備します。
ただし、行政へ報告書を提出した瞬間が管理改善の終点ではありません。
総会が翌年度も開催できるか確認する
総会未開催を改善したのであれば、翌年度も適切に開催できているかを確認します。
一度だけ総会を開いて、その後また役員がいなくなれば、根本的な問題は残っています。
役員交代時には、行政との連絡記録、議事録、契約書、会計資料などが次の役員へ引き継がれているかも確認するとよいでしょう。
会計や修繕の改善が続いているか確認する
会計を是正したのであれば、次の決算でも管理費と修繕積立金が適切に区分されているかを確認します。
長期修繕計画を見直した場合も、計画書を作って棚へ戻すだけでは意味がありません。
その後の工事検討や資金確認につながっているか、次回の見直し時期を誰が確認するのかまで決めておく必要があります。
改善とは、一枚の書類を作った状態ではありません。
役員が変わった後も、新しく整えた仕組みが続いて初めて、管理状態そのものが変わったといえるでしょう。
行政対応を管理組合正常化につなげる考え方
例えば築38年で24戸のマンションで、役員の高齢化と賃貸化が進み、数年間総会が開催されていなかったとします。
そこへ自治体から管理状況について通知が届けば、新しく連絡役になった区分所有者は、「どうして自分がこんな問題を引き受けなければならないのか」と感じるかもしれません。
しかし、資料を調べてみると、最後に正常な総会が開催された年度がはっきりせず、現在有効な管理規約も分かりません。さらに長期修繕計画は十数年前のものしかなく、現在の修繕積立金で今後の工事に対応できるか判断できない状態でした。
このような場合に、規約、会計、総会、長期修繕計画、大規模修繕を一度にすべて正常化しようとすると、役員の負担が大きくなり、かえって動けなくなることがあります。
そこで、まず行政通知と過去資料を集め、現在分かっていることと分からないことを整理します。
その後、区分所有者への連絡体制を確認し、適切に総会を開催できる状態を整えます。最初の総会では役員体制の回復や今後の改善方針など、優先度の高い事項から意思決定を再開し、その後に規約、会計、長期修繕計画を順番に整えていく方法も考えられます。
一度の総会で過去数年分の問題をすべて解消する必要はありません。
重要なのは、必要な情報を確認し、適切な手続で決定し、その内容を実行して記録し、次の役員へ引き継げる状態を取り戻すことです。
行政からの通知を「早く終わらせたい面倒な案件」として処理するだけでは、同じ問題が数年後に再び表面化する可能性があります。
反対に、なぜ管理が止まったのかまで確認し、意思決定と引継ぎの仕組みを整えられれば、行政対応を管理組合そのものの立て直しへつなげることができます。
マンション行政指導のよくある質問
- 行政から助言を受けたら必ず対応しなければいけませんか
-
助言そのものを、罰則付きの改善命令と同じものとして理解する必要はありません。
一方で、行政が管理状態を確認したうえで改善の必要性を伝えている可能性があるため、内容を確認せず放置することも適切ではないでしょう。
まず通知の根拠と指摘内容を確認し、管理規約、総会議事録、会計資料などと照合したうえで、実際に改善が必要な状態かを判断します。
- 助言と指導は何が違いますか
-
マンション管理適正化法第5条の2第1項では「助言及び指導」と一括して規定されており、法律上、助言より指導が必ず一段階強いという明確な序列は定められていません。
そのため、名称だけを見て緊急度を判断するのではなく、通知本文で何を指摘され、どの対応を求められているのかを確認することが重要です。
- 助言や指導を放置すると必ず勧告になりますか
-
必ず勧告になるわけではありません。
勧告は、管理組合の運営や修繕の実施が指針に照らして著しく不適切である場合に行われ得る措置です。
ただし、問題となっている管理状態をそのまま放置すれば、行政が継続して状況を確認したり、追加の対応を検討したりする可能性があります。
特に建物安全に関係する問題については、早めに専門的な確認を行うことが重要です。
- 何を改善すればよいか分からない場合はどうしますか
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まず自治体の担当部署へ、どの基準を踏まえて指摘しているのか、どの状態まで改善すればよいのか、何を提出すれば改善状況を確認してもらえるのかを尋ねます。
そのうえで、自分たちの管理規約、総会議事録、会計資料、長期修繕計画などと照合します。
管理組合だけで整理することが難しい場合には、マンション管理士などへ相談する方法があります。
- 管理会社へ任せれば行政対応は終わりますか
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管理会社には、管理委託契約の範囲内で資料準備や事務作業などの協力を求められます。
しかし、マンションの管理主体は管理組合です。
役員選任、規約改定、総会、修繕積立金、重要な工事などについては、管理組合自身が必要な意思決定を行います。
管理会社へ丸投げするのではなく、管理委託契約を確認し、管理会社が担当する作業と管理組合が決める事項を分けることが重要です。
- 長期修繕計画が古い場合は何から確認しますか
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最初に現在の計画書と過去の修繕履歴を確認します。
その後、現在の建物状態と修繕積立金残高を把握し、将来必要になる工事と資金を整理したうえで計画を見直します。
資金不足が分かったからといって、最初に値上げ額だけを決めると、区分所有者へ負担の根拠を説明しにくくなるため注意が必要です。
- 行政から報告徴収を受けた場合はどうしますか
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まず通知に記載された根拠条文、提出資料、期限を確認します。
第5条の2第6項に基づく報告徴収等は通常のアンケートとは異なり、報告拒否や虚偽報告、検査拒否等について10万円以下の過料に関する規定があります。
分からない事項を推測で回答するのではなく、資料を確認したうえで正確に対応してください。
- 弁護士への相談が必要になるのはどのような場合ですか
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総会決議の有効性を巡る争い、長期滞納者への法的措置、損害賠償請求、管理組合を代理する法律上の交渉などが必要になる場合です。
管理組合運営や行政対応についてマンション管理士へ相談し、法律紛争となった部分を弁護士へ相談するなど、問題の性質に応じて専門家を分ける方法があります。
まとめ マンション行政対応は通知確認から管理正常化へつなげる
自治体から助言・指導や勧告に関する通知が届いたとき、最初から大がかりな改善策を決める必要はありません。
まず通知の性質、法的根拠、指摘事項、回答期限を確認し、管理規約、総会議事録、会計資料、長期修繕計画などを使って実際の管理状態を確認します。
その後は、「何ができていないのか」だけではなく、「なぜその状態になったのか」まで整理することが重要です。
理事会で改善方針を決め、必要な事項については総会で意思決定し、実行可能な工程に分けながら改善を進めます。
行政への報告が終わった後も、新しい管理方法が翌年度まで続いているかを確認してください。
行政から通知を受けることは、管理組合にとって気持ちのよい出来事ではありません。
それでも、長年見過ごされていた管理上の問題を整理し、必要な情報を確認し、意思決定し、実行し、その結果を次の役員へ引き継げる管理組合へ戻す契機にすることはできます。
行政対応の本当の終わりは、回答書を提出した瞬間ではありません。
役員が変わっても管理の仕組みが続き、同じ問題を繰り返しにくい状態をつくれたとき、初めて今回の行政対応を管理改善につなげたといえるのではないでしょうか。
参考資料
国土交通省 マンション管理適正化の基本方針と助言・指導等の判断基準
e-Gov法令検索 マンションの管理の適正化の推進に関する法律