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プレゼンが相手に伝わらない7つの原因と改善方法

資料は何度も見直し、説明する内容も整理したはずなのに、プレゼンが終わると相手の反応が薄い。質疑応答では意図していた論点とは違う質問が続き、結局その場では何も決まらなかったという経験が重なると、「自分では説明できているつもりなのに、なぜ伝わらないのだろう」と戸惑うでしょう。

そこで「もっと大きな声で話そう」「緊張しないようにしよう」と話し方だけを修正しても、本当の原因が別の場所にあれば、次回も似た問題が残ります。プレゼンは、聞き手を理解し、中心となる主張を定め、必要な情報を選び、理解しやすい順序へ並べ、実際の言葉として届けたうえで、最後の判断や行動まで明確にする一連のプロセスだからです。

この記事では、プレゼンが相手に伝わらない状態を7つの原因に分け、それぞれを異なる質問で診断していきます。読み終えたときには、「自分の場合はここが問題だった」と具体的に特定し、次回のプレゼンで直す項目を一つ決められる状態を目指します。

TABLE OF CONTENTS
目次

プレゼンが伝わらないのは話し方だけが原因ではない

プレゼンが思うように進まなかった直後は、「緊張して早口になった」「声が小さかった」「相手の顔を見られなかった」と、本番中の自分の振る舞いへ意識が向きやすいものです。自分の失敗した感覚は強く残るため、伝わらなかった原因まで話し方だけにあるように感じてしまうことがあります。

しかし、落ち着いて話せれば必ず伝わるわけではありません。聞き手が知りたいことと説明内容がずれていれば、流暢に話していても関心を保ちにくくなり、資料が見やすくても中心的な主張が曖昧なら、「結局、何を判断すればよかったのだろう」という疑問が残ります。

立命館大学のプレゼンテーション解説では、プレゼンを「内容と構成」「ツール」「技術」という三つの領域から整理し、主張の明確化、論点の厳選、聞き手の予備知識、資料の情報量、視線、声、話す速度などをそれぞれ重要な要素として挙げています。これは大学での発表を中心にした実務的な指針ですが、プレゼンを単なる話術として捉えないための整理として参考になります。

ビジネスの場では、さらに「プレゼンを聞いた相手に最後は何を判断し、どう動いてほしいのか」という行動設計まで加えて考えると、自分の問題がどこにあるのか見つけやすくなります。

プレゼンの段階 主に確認すること 関係する原因
設計前 誰に向けて何を伝えるか 原因1 原因2
内容設計 何を残しどの順番で伝えるか 原因3 原因4 原因5
実施 内容を実際にどう届けるか 原因6
行動設計 聞いたあと何を判断し行動してほしいか 原因7

この7つは、完全に独立した問題ではありません。実際のプレゼンでは複数の原因が重なるため、「どれか一つだけが正解」というものでもないでしょう。

それでも、原因ごとに診断する問いを変えれば、それぞれの違いは明確になります。原因1で見るのは、話の入口が話し手都合になっていないかという問題であり、原因2では、説明した情報が聞き手自身の仕事や課題へつながっているかを確認します。

原因3は中心的な主張そのものが存在するかという問題であり、原因5は、その主張を聞き手が必要とする時点までに示しているかという順序の問題です。

「自分はプレゼンが苦手だ」と大きな一つの問題として抱え込むより、どの段階で相手との接続が切れているのかを見つける方が、次に取る行動も具体的になります。

原因1 自分が伝えたいことから作っている

プレゼンが相手に伝わらない最初の原因は、話し手が「自分の説明したい順番」を基準に構成し、聞き手が「知りたい順番」を十分に考えていないことです。

発表者は、自分が物事を知った順番で説明したくなります。会社について話すなら沿革や事業内容から、新しいシステムなら開発の背景から、企画なら発案へ至った経緯から丁寧に説明したくなるでしょう。

そこには、「順番に説明しなければ理解してもらえない」という不安があります。また、準備した情報を飛ばすことで、説明不足と思われたくないという気持ちもあるはずです。

しかし、話し手にとって自然な順番が、聞き手にとっても自然とは限りません。

話し手が説明したいことと聞き手が最初に知りたいことは違う

ある会社が、業務効率化システムを企業へ提案する場面を考えてみます。

担当者は、自社を信用してもらいたいという思いから、設立年、事業内容、これまでの導入実績、開発体制まで丁寧に説明し、そのあとで製品紹介へ進もうとします。

説明する側には筋が通っています。

ところが、聞き手が会議へ参加した理由が「毎日の確認作業を少しでも減らしたいから」であれば、最初に知りたいのは会社の歴史ではなく、自分たちの問題が解決するかどうかです。

会社説明が長くなるほど、「自分が知りたい話はいつ始まるのだろう」と感じる可能性があります。表面上は静かに聞いていても、関心が少しずつ別の方向へ移ってしまうこともあるでしょう。

NG例と改善例

同じ提案でも、入口を変えると聞き手にとっての意味が変わります。

パターン 冒頭の伝え方 聞き手から見た違い
NG例 「まず弊社の会社概要と開発に至った経緯をご説明します」 自分に関係する話がいつ始まるのか見えにくい
改善例 「現在の確認作業を1日30分減らす方法をご提案します」 自分の課題と今回のテーマを早い段階で理解しやすい

改善例でも、会社概要そのものを削除する必要はありません。

「その方法を提供しているのが私たちです」と必要な段階で会社情報へ進めば、聞き手には会社概要を聞く理由が生まれます。

大切なのは、自分が持っている情報を順番に放出することではなく、相手の中にどのような疑問が生まれるかを考え、その順番へ説明を組み替えることです。

この原因を確認するときは、「プレゼンの冒頭が、相手が最初に知りたい問いへの答えになっているか」と考えてみてください。

ここがNOなら、情報を増やすより先に、話の入口を聞き手側へ移す必要があります。

原因2 聞き手との関係が見えない

聞き手が知りたいテーマから始めても、「その情報によって自分自身の何が変わるのか」が見えなければ、まだ距離は残ります。

聞き手は、自分の仕事や負担、責任、期待などとの関係を考えながら、提示された情報を受け取ることがあります。そのため、製品の機能や制度の仕組みを正確に説明するだけでは、相手にとっての意味が十分に見えない場合があります。

機能を聞き手の日常へ置き換える

たとえば、「新しい勤怠管理システムはクラウド型で、複数端末に対応しています」と説明されたとします。

機能そのものは理解できます。

しかし、毎日勤怠を入力する社員が気にしているのは、「その機能によって自分の仕事が楽になるのか」「今より覚えることが増えるのではないか」という部分かもしれません。

そこで、「外出先でもスマートフォンから打刻できるため、帰社後に勤怠をまとめて修正する作業を減らせます」と説明すれば、機能が日常の仕事へつながります。

抽象的な製品情報を、聞き手が実際に経験する変化へ置き換えているのです。

相手が変われば説明の重点も変わる

同じ勤怠管理システムでも、経営層と現場社員では判断するときの関心が異なるでしょう。

経営層であれば、費用、管理工数、運用上のリスク、導入によって期待できる効果などを重視する可能性があります。一方、日常的に利用する社員であれば、操作方法、申請の手間、現在の仕事がどう変わるのかという身近な問題を気にするかもしれません。

立命館大学の解説でも、聞き手がどの程度の予備知識を持っているかを想像してから発表内容を決めることが推奨されており、中学生と専門分野を学ぶ大学生では盛り込む内容が変わる例が示されています。

この考え方をビジネスの場へ応用するなら、相手の立場や知識によって説明の重点を変えることが有力な方法になります。

ただし、「同じ説明を使えば必ず伝わらない」という意味ではありません。

聞き手によって判断に必要な情報が異なる場合には、同じ事実を相手が理解しやすい意味へ変換する必要があるということです。

この原因では、「その情報によって、聞き手自身の仕事や判断の何が変わるのかまで説明できているか」と確認します。

内容は正しいのに反応が薄い場合、情報と相手を結ぶ最後の一歩が、まだ言葉になっていないのかもしれません。

原因3 一番伝えたいことが決まっていない

プレゼンの準備を進めるほど、情報は増えていきます。

調べた数字には時間がかかっていますし、説得材料になりそうな事例を見つければ、「これも入れておいた方が安心だ」と感じるでしょう。質問されたときに困りたくないという不安から、念のため多くの情報を載せることもあります。

しかし、情報が増えることと、主張が強くなることは同じではありません。

中心が決まっていないまま材料だけが増えると、聞き手へ「何が重要なのかを自分で選んでください」と判断を委ねる形になります。

キーメッセージが情報を選ぶ基準になる

ここで必要になるのが、キーメッセージです。

キーメッセージとは、資料全体を短く要約した言葉ではなく、このプレゼンを通して最も理解してほしい中心的な主張を指します。

たとえば、「新しい勤怠管理システムは高機能です」では、テーマは分かっても、相手が何を判断すればよいのかまでは見えません。

これを「勤怠集計の負担を減らせるか検証するため、営業部で新システムを試験導入したい」と定めれば、中心が見えてきます。

中心が決まると、情報の優先順位も変わります。

現在どの程度の作業負担があるのか、試験導入にどれほどの費用が必要なのか、何を基準に結果を評価するのかは重要でしょう。

反対に、今回の試験では使用しない機能や細かな仕様は、本編で詳しく説明しなくても判断できるかもしれません。

立命館大学の実務的な指針でも、主張を明確にしたうえで論点を絞り、本当に伝えたい内容を厳選することが推奨されています。

一文にできるかで中心を確かめる

中心が定まっているか確認するときは、「このプレゼンで一番伝えたいことは何ですか」と自分へ問いかけてみます。

そこで、「最初に現状を説明して、その次に機能を紹介して、最後に費用を話します」と資料の順番しか答えられないなら、中心的な主張がまだ曖昧な可能性があります。

一方で、「勤怠集計の負担を減らせるか確認するため、まず営業部で試験導入したい」と答えられるなら、プレゼン全体の幹はかなり明確です。

一文にすることは、複雑な内容を雑に単純化することではありません。

多くの情報から、今回の聞き手に最も持ち帰ってほしい主張を選び取る作業です。

この原因では、「プレゼンの中心的な主張を一文で説明できるか」を診断します。

ここが定まっていないなら、スライドのデザインを細かく整えるより、まず幹を作る方が先でしょう。

原因4 情報を詰め込みすぎている

キーメッセージが決まっていても、それを支える情報を詰め込みすぎれば、中心は再び見えにくくなります。

資料を削ることに抵抗を感じる人は少なくありません。「ここまで調べたのだから載せたい」「説明不足と思われたら困る」という気持ちがあるからこそ、スライドへ少しずつ情報を足してしまいます。

しかし、プレゼンの目的は、自分が調査した量を証明することではありません。

限られた時間の中で、聞き手が必要な情報を理解し、今回必要な判断をできる状態へ導くことです。

すべてを見せることと十分に伝えることは違う

Kristen M. NaegleがPLOS Computational Biologyに発表した2021年のオープンアクセスEditorialでは、主に研究プレゼンを対象として、各スライドに一つの中心的な目的を置くことや、複雑な情報を扱いやすい単位へ分けて提示する考え方などが実践的なルールとして整理されています。

これは、新たな比較実験によって各ルールの効果を直接検証した実証研究ではなく、既存研究などを踏まえた実践的なEditorialとして読むのが適切です。

同記事では、研究発表用スライドの設計において、聞き手が情報を整理し、処理し、保持するときの認知的な処理を考慮する必要があるとも説明されています。

企業のプレゼンへこれらのルールをそのまま絶対則として持ち込む必要はありません。

それでも、「この一枚では何を理解してほしいのか」「今見せている情報を本当に同時に出す必要があるのか」と考えるための実務的な視点として参考になるでしょう。

立命館大学の指針でも、資料へ情報を詰め込みすぎないことや、グラフや統計が多くなることで聞き手の注意が分散する可能性が指摘されています。

必須情報と補足情報を分ける

削るかどうか迷ったときは、情報を役割で三つに分けると判断しやすくなります。

情報区分 判断基準 プレゼンでの扱い 勤怠システム提案の例
必須情報 キーメッセージを理解し今回の判断をするために必要 本編で明確に示す 現在の作業負担 試験費用 対象期間 評価方法
補足情報 理解を深めるがその場の判断には必須ではない 補足資料や質疑応答へ回す 詳細機能 操作画面 技術仕様
削れる情報 今回の目的との関係が薄い 本編から外す 重複説明 使用しない機能 長い開発履歴

ここでの基準は、「正しい情報かどうか」ではありません。

正しい情報の中から、今回の聞き手が判断するときに使うものを本編へ残します。

補足資料へ移した情報は捨てたわけではないため、質問された場合には提示できます。そう考えれば、「削ったら準備不足に見えるのでは」という不安を抱えている人でも、情報量を調整しやすくなるでしょう。

1スライド1メッセージを絶対視しない

「1スライド1メッセージ」は便利な目安ですが、すべての場面で機械的に守らなければならない法則ではありません。

複数案を比較すること自体が目的なら、一枚に複数の項目を並べる意味があります。

大切なのは、スライドを見た聞き手が「この一枚では何を理解すればよいのか」を見失わないことです。

この原因では、「その情報がなくても、聞き手は今回必要な判断をできるか」と問い直します。

なくても判断できるなら、補足へ移す余地があります。残す情報と退避させる情報を分けることが、重要な内容を目立たせる編集につながります。

原因5 結論が出てくるまで長い

中心的な主張が決まっていても、それを示す時点が遅すぎれば、聞き手は途中で話の方向を見失うことがあります。

丁寧な人ほど、背景、過去の経緯、調査結果、問題点を一つずつ積み上げ、最後に結論を示したくなるでしょう。そこには、「根拠をすべて説明してからでなければ結論を受け入れてもらえない」という不安があります。

話し手には全体像が見えているため、その順番でも迷いません。

しかし、聞き手は結論をまだ知らないため、途中で示される情報を何のために聞いているのか考えながら進むことになります。

早い段階で話の目的地を見せる

たとえば、冒頭から市場環境、過去の経緯、現状の数字が続いたとします。

発表者は最後の提案へつながると分かっていますが、聞き手にはまだ見えていません。そのため、「この数字は何を判断するために見ているのだろう」と、情報の意味を探しながら聞くことになります。

立命館大学の指針では、聞き手が最後まで真剣に聞くとは限らないことを踏まえ、最初に発表の目的と大まかな結論を簡潔に示し、最後に再び結論を述べる方法が紹介されています。これは同大学による実務的なプレゼン指導としての推奨です。

勤怠管理システムの提案であれば、「今回は、勤怠集計の負担を減らせるか確認するため、営業部で新システムを試験導入することをご提案します」と早い段階で方向を示します。

そのあとで現在の作業量、費用、導入方法などを説明すれば、それぞれを「試験導入の可否を判断する材料」として理解しやすくなるでしょう。

結論ファーストは目的ではない

ただし、すべてのプレゼンで最初の一文から結論を断定すればよいわけではありません。

聞き手が課題そのものを認識していない場合には、最低限の背景を共有しなければ結論の意味を理解しにくいことがあります。大きな方針変更や受け入れにくい報告でも、背景を示さず結論だけを伝えることで、内容を検討する前に唐突さを感じる可能性があります。

また、理念の共有や体験談など、過程をたどること自体に意味があるプレゼンもあるでしょう。

大切なのは、「結論から話す」という形式を守ることではありません。

聞き手が途中の情報を理解するために必要な時点までに、話の目的地を示すことです。

原因3が「中心的な主張そのものが決まっているか」を問うのに対して、原因5では、「その主張を聞き手が必要とする時点までに示しているか」を確認します。

キーメッセージ自体は明確なのに「話が長い」と言われる場合は、この順序を見直す価値があります。

原因6 内容だけ準備して話し方を練習していない

資料が完成すると、「これで準備は終わった」と感じることがあります。

文章を何度も修正し、数字を確認し、グラフまで整えたのですから、あとは本番で説明すればよいと思いたくなるでしょう。

しかし、聞き手が実際に受け取るのは、スライドに書かれた内容だけではありません。

声の大きさ、話す速度、視線、間などが重なり、どこが重要なのかを伝えます。

正確に読み上げることと伝わることは同じではない

間違えたくないという気持ちが強いほど、原稿を一字ずつ追いたくなります。

発表者としては、「予定していた内容を漏らさず言えた」という安心感が残るでしょう。

ところが、重要な主張も補足説明も同じ速度と調子で続けば、聞き手には情報の強弱が見えにくくなります。

立命館大学の解説では、原稿の棒読みを避けること、聞き手の顔を見ること、簡単な内容と複雑で重要な内容で話す速度に緩急をつけること、話題が変わるところで間を作ることなどが、プレゼン技術として推奨されています。

ここから「視線を合わせれば必ず集中してもらえる」といった強い因果関係まで広げる必要はありません。

実務上は、重要な部分で速度を少し落とし、論点の切り替わりで間を取り、画面だけでなく聞き手へ視線を戻すことで、内容の構造を届け方にも反映させると考えるとよいでしょう。

本番前に確認するデリバリー

確認する状態 起こりやすい問題 改善の方向
原稿をほぼそのまま読み続ける 聞き手より原稿へ注意が向きやすい 要点を確認したら顔を上げる区間を作る
緊張して全体が早口になる 聞き手が情報を整理する余裕を取りにくい 重要部分で意識的に速度を落とす
視線が画面へ固定されている 聞き手の反応を確認しにくい 論点の区切りで聞き手を見る
重要部分と補足説明の速度が同じ 情報の強弱が見えにくい 重要部分の前後で速度や間を変える
表示内容と発話がずれている 見る情報と聞く情報の関係が分かりにくい 話している論点と表示内容を合わせる

声に出して練習すると、黙読だけでは見つからなかった問題が表に出ます。

一文が長すぎて息が続かない、説明に想定以上の時間が必要になる、図を見せているのに話し続けて相手が確認する時間を作れていないなど、本番に近い形で試すからこそ分かることがあります。

話す速度を一つの数字に固定しない

「プレゼンでは1分間に何文字が最適」と、一つの数値だけを絶対的な基準にする必要はありません。

内容の難しさ、聞き手の予備知識、図表を確認する時間などによって、必要な速度は変わります。立命館大学の指針でも、固定した文字数ではなく、内容の難しさや重要度に合わせて話す速度へ緩急をつける方法が示されています。

そのため、原稿の文字数を特定の数字へ合わせることより、本番と同じ資料を使って実際に話し、聞き手が情報を整理する余白まで含めて時間を確認する方が現実的でしょう。

メラビアンの研究をプレゼン全体の割合にしない

話し方について調べていると、「コミュニケーションでは言葉が7%しか重要ではない」という説明を見かけることがあります。

しかし、1967年のMehrabianとWienerの研究は、単語と声などの不一致したコミュニケーションにおける態度の受け取られ方を扱った研究であり、一般的なビジネスプレゼンの情報伝達全体を対象に、「言葉の内容は7%しか重要ではない」と検証した研究ではありません。

同年のMehrabianとFerrisによる研究も、顔や声などの手掛かりから受け手が態度をどのように推測するかを扱っています。

したがって、これらの研究を根拠にして、「数字や論理を扱うビジネスプレゼンでも言葉の内容は7%しか意味を持たない」と一般化することはできません。

内容と届け方のどちらか一方を選ぶ問題ではないのです。

論理が崩れている提案を声や表情だけで成立させることはできず、反対に、内容が優れていても極端な早口や棒読みでは理解しにくくなる可能性があります。

この原因では、「資料を完成させたあと、本番と同じように声へ出して確認したか」を診断します。

原因7 最後に何をしてほしいかが分からない

プレゼンが終わったあと、「よく分かりました」と言ってもらえたのに、その後何も進まないことがあります。

話し手としては、理解してもらえたことで一定の手応えを感じるでしょう。

しかし、聞き手の中では、「内容は分かったけれど、次に自分は何を判断すればよいのだろう」という疑問が残っている可能性があります。

理解してもらうことと、次の行動へ進んでもらうことは分けて考える必要があります。

目的とネクストアクションを分ける

たとえば、勤怠管理の課題を説明するプレゼンで、「現在の問題を理解してもらうこと」を目的にしたとします。

それだけでは、理解したあと相手に何をしてほしいのかまでは決まりません。

そこで、「営業部で1か月間試験導入する承認を得る」と、次の行動まで具体化します。

すると、最後の言葉も変わります。

「本システムについて前向きにご検討ください」では、聞き手が何を判断するのか曖昧です。

これを、「営業部で1か月間試験導入し、作業時間の変化を検証したいため、本日は試験実施の承認をお願いします」とすれば、今回求められている判断が見えます。

最後の行動を決めると途中の情報も決まる

ネクストアクションは、最後の一枚だけの問題ではありません。

試験導入の承認を求めるなら、聞き手は対象部署、期間、費用、評価方法、想定されるリスクなどを判断材料として必要とするでしょう。

つまり、最後に何を求めるのかを決めることで、プレゼン途中に必要な情報まで逆算できます。

逆に、ゴールが「検討してもらう」程度に曖昧なままだと、どの情報が必要なのか判断できず、資料を増やしすぎたり、意思決定に必要な情報が抜けたりすることがあります。

この原因では、「プレゼンが終わった直後、聞き手に何を判断し、何をしてほしいのかを具体的に言えるか」と確認します。

「理解してほしい」「考えてほしい」だけで止まっているなら、もう一段先の行動まで考えてみる価値があります。

伝わらないプレゼンと伝わるプレゼンの違い

7つの原因を並べて見ると、伝わるかどうかは、人前で流暢に話せるかだけでは決まらないことが分かります。

観点 伝わりにくい状態 伝わりやすくする考え方
話の入口 自分が説明しやすい順番から始める 相手が最初に知りたいことから考える
相手との関係 機能や制度そのものを説明する 相手自身の仕事や判断への影響へ置き換える
中心メッセージ 多くの情報を並べて重要度の判断を任せる 最も伝えたい主張を一文で定める
情報量 調べた情報をできるだけ載せる 判断に必要な情報と補足情報を分ける
構成 背景をすべて説明してから結論へ進む 必要な時点までに話の方向を示す
デリバリー 資料完成を準備完了と考える 実際に話して速度や視線や間を確認する
終わり方 内容を理解してもらったところで終える 次の判断や行動まで明確にする

伝わるプレゼンは、話し上手な人だけが作れるものではありません。

むしろ、聞き手がどこで迷い、どの情報を必要とし、最後に何を判断するのかを想像しながら、その迷いを減らすように設計されたプレゼンです。

この違いが見えると、「もっと堂々と話さなければ」と漠然と悩むより、自分が直せる場所へ意識を向けやすくなるでしょう。

悪いプレゼンを7つの原因から改善する実例

ここからは、7つの原因を一つの流れで確認するため、ある会社の勤怠管理システム導入提案を題材に考えます。

ある担当者が、長年使用している勤怠管理システムを更新するため、経営陣へ新しいシステムを提案することになりました。

担当者は準備にかなりの時間を使います。

生体認証、外部システムとの連携、有給休暇管理、複数端末への対応など、多くの機能を調べ、「これだけ詳しく説明すれば、良いシステムだと分かってもらえるはずだ」と考えました。

改善前に起きたこと

当日のプレゼンでは、現在のシステムを導入した経緯から説明し、そのあとで新システムの機能を一つずつ紹介していきます。

説明を終えた担当者には、「言おうと思っていたことは全部説明できた」という安堵がありました。

ところが、経営陣から出てきたのは、「現在のシステムでも仕事は動いているのに、なぜ今変える必要があるのか」「費用に見合う効果はあるのか」という質問です。

担当者は戸惑います。

製品については十分に説明したつもりだったのに、相手が判断したかったことには十分答えられていなかったからです。

聞き手と目的を定め直す

最初に、聞き手を「新システムについて詳しく知りたい人」ではなく、「投資の可否を判断する経営陣」と捉え直します。

すると、説明の中心に置くべきなのは搭載機能の数ではなく、現在の作業負担、導入した場合に期待できる変化、必要な費用、運用上のリスク、そして試す価値があるかという論点だと考えられます。

続いて、プレゼンの目的を「新システムを紹介すること」から、「営業部で限定的な試験導入を行うための承認を得ること」へ変更します。

ここで初めて、プレゼンのゴールが「説明すること」から「判断できる状態を作ること」へ変わります。

キーメッセージを決めて情報を選ぶ

中心的な主張は、「勤怠集計の作業負担を減らせるか確認するため、営業部で新システムを試験導入したい」と設定します。

この一文を基準にすると、現在の作業負担、試験導入の費用、対象期間、評価方法などを本編へ残す理由が明確になります。

一方、試験では使わない機能や細かな技術仕様は補足資料へ移せます。

担当者には、「時間をかけて調べた内容なのに、見せないのはもったいない」という気持ちが残るかもしれません。

それでも、今回の目的は自分の調査量を示すことではなく、相手が試験導入の可否を判断するために必要な情報を届けることです。

話の順番と届け方を変える

改善前は過去の経緯から始めていましたが、改善後は「今回は、勤怠集計の負担を減らせるか検証するため、営業部で新システムを試験導入することをご提案します」と方向を示します。

そのあとに現在の作業状況、試験で確認する内容、費用、実施方法へ進めます。

資料が完成したら、本番と同じ画面を使って声に出します。

そこで、費用の説明を急いで通り過ぎていることや、一部の機能説明に時間を使いすぎていることに気づきました。

重要な判断材料では少し速度を落とし、論点が切り替わる場所では短い間を作るよう調整します。

最後の要求を具体化する

改善前は、「高機能なシステムですので、ぜひ前向きにご検討ください」と終えていました。

改善後は、「営業部の一部で1か月間試験導入し、作業時間と運用上の問題を検証したいため、本日は試験実施の承認をお願いします」と締めます。

この形であれば、経営陣は全社導入をその場で決定するのではなく、限定された試験を行うかどうかを判断できます。

質疑が必ず狙った方向へ変わるとは限りませんが、試験条件、費用、評価方法など、今回の意思決定に必要な論点を話し合いやすい構成にはなると考えられます。

BeforeとAfter

検証項目 Before After
話の入口 システム導入の歴史から説明 今回解決したい問題と提案から開始
聞き手との接続 システム機能を中心に説明 経営判断に必要な影響へ置き換える
キーメッセージ 高機能であることを幅広く紹介 試験導入で作業負担を検証する提案へ集約
情報量 多くの仕様を本編で説明 判断材料を残し詳細は補足へ移す
構成 背景 機能 費用 結論 提案 現状 根拠 実施方法 判断
リハーサル 資料を黙読して確認 本番形式で声に出し届け方を調整
終了時 前向きな検討を依頼 限定した試験導入の承認を依頼

同じシステムについて話していても、改善前と改善後ではプレゼンの役割が異なります。

改善前は「システムについて詳しく説明すること」が中心でしたが、改善後は「経営陣が試験導入について判断できる状態を作ること」が中心です。

この違いを理解すると、プレゼンを改善するときに、話し方より先に見直すべき場所があることも見えてくるでしょう。

プレゼンが伝わらない原因診断チェックリスト

自分で作ったプレゼンは、内容をすでに知っているため、初めて聞く人がどこで迷うのか気づきにくいものです。

そこで、本番前に次の7項目をYESかNOで確認します。

確認項目 YES / NO NOなら確認する原因
相手が最初に知りたい問いから話を始めている 原因1
情報によって相手自身の何が変わるか説明できる 原因2
プレゼンの中心的な主張を一文で説明できる 原因3
今回の判断に不要な情報を本編から外している 原因4
中心的な主張を必要な時点までに示している 原因5
本番と同じように声へ出して練習している 原因6
終了直後に取ってほしい行動を具体的に言える 原因7

YESの数で自分を評価する必要はありません。

このチェックリストの役割は、「自分には弱点がいくつあるのか」を数えることではなく、今回のプレゼンで最初に手を入れる場所を決めることです。

たとえば原因3がNOなら、その状態でスライドの色や文字サイズを細かく直しても、肝心の中心メッセージは曖昧なままです。まずキーメッセージを一文にする方が、後の情報整理や構成まで進めやすくなるでしょう。

一方、原因1から5まで整理できているのに、本番になると極端な早口になるなら、原因6へ集中する方が改善内容を明確にできます。

次のプレゼンで改善する1項目を決める

原因を特定したあとに必要なのは、さらに多くのプレゼン術を覚えることではありません。

次の準備で実際に何を変えるのかを決めます。

7つすべてを一度に直そうとすると、準備中も本番中も意識する内容が増え、自分が何を改善したのか分からなくなる可能性があります。

そこで、今のプレゼンを最も強く妨げている一項目へ絞ります。

決める内容 記入例
今回改善する原因 原因3 キーメッセージ
現在の問題 説明事項は多いが中心的な主張を一文で言えない
準備で変えること スライドを作る前に中心的な主張を一文へまとめる
本番で意識すること 冒頭と最後で中心となる主張が分かるように伝える
終了後に確認すること 相手の質問や判断が中心論点と合っていたかを見る

「説明を短くする」という曖昧な目標より、「冒頭で今回の目的と中心的な主張を伝える」と行動へ落とした方が、本番でも実行しやすくなります。

情報過多が課題なら、「スライドを半分にする」と枚数だけで決めるのではなく、「今回の判断に直接使わない情報を補足資料へ移す」とした方が、必要な情報まで削ってしまう危険を抑えられるでしょう。

一つを変え、その結果を見るという方法なら、「自分はプレゼンが下手だ」という大きく曖昧な悩みを、「今回は情報量を直す」「次回は最後の要求を明確にする」という具体的な課題へ変えていけます。

プレゼンの成功を自分の流暢さだけで判断しない

プレゼンが苦手な人ほど、本番後に自分の細かな失敗を覚えています。

途中で一度言葉に詰まった、予定していた表現を忘れた、声が少し震えたという出来事が気になり、「今日もうまくできなかった」と感じることがあるでしょう。

けれども、プレゼンの目的が、相手に必要な内容を理解してもらい、判断や行動へつなげることなら、自分の感覚だけで成功か失敗かを決める必要はありません。

多少緊張していても、聞き手が中心的な主張を理解し、必要な質問を行い、次の意思決定へ進めたなら、プレゼンは役割を果たしている可能性があります。

反対に、一度も詰まらず流暢に話せても、最後に「結局、何を決めればよいのでしょうか」と聞かれたなら、内容設計や行動設計には改善の余地があります。

評価軸を「自分が上手に話せたか」だけに置くと、緊張をなくすこと自体が目的になってしまいます。

相手の質問、理解、判断、次の行動まで見ることで、本当に修正すべき場所を冷静に判断しやすくなるでしょう。

よくある質問

プレゼンが伝わらない一番多い原因は何ですか

プレゼンが伝わらない状態には、聞き手への理解、中心的な主張、情報量、構成、話し方など複数の要素が関係するため、一つを「最も多い原因」と断定することは難しいでしょう。

最初に確認するなら、「相手が最初に知りたいことへ答えているか」「中心的な主張を一文で言えるか」「最後に何をしてほしいのかが決まっているか」という三点を見ると、問題の位置を整理しやすくなります。

プレゼンでは結論から話した方がよいですか

多くのビジネスプレゼンでは、早い段階で目的や大まかな結論を示すことで、聞き手がその後の情報を整理しやすくなると考えられます。

立命館大学のプレゼンテーション指針でも、最初に目的と大まかな結論を簡潔に述べる方法が、実務上の推奨として紹介されています。

ただし、聞き手に前提知識がない場合や、背景なしでは結論の意味が分かりにくい場面では、必要な背景を短く示してから方向を伝える方法もあります。

「結論ファースト」という型そのものではなく、聞き手が話の行き先を見失わないことを優先するとよいでしょう。

プレゼンで情報を削る基準は何ですか

「その情報が、中心的な主張を理解し、今回必要な判断をするために使われるか」を基準にすると整理しやすくなります。

判断に不可欠なら本編へ残し、理解を助けるものの必須ではない情報は補足資料へ移します。今回の目的とほとんど関係しない内容であれば、正しい情報でも本編から外せるでしょう。

削除することに不安があるなら、質疑応答用の補足資料として残しておけば、説明の厚みを失わずに本編を整理できます。

プレゼンのキーメッセージとは何ですか

キーメッセージは、プレゼン全体を通して聞き手に最も理解してほしい中心的な主張です。

「新しい勤怠管理システムについて説明します」のようなテーマ名だけではなく、「勤怠集計の負担を減らせるか確認するため、営業部で試験導入したい」というように、今回伝えたい提案や判断まで含めます。

中心が一文で見えるようになると、残す情報の基準や話す順番も決めやすくなります。

資料が見やすくてもプレゼンが伝わらないことはありますか

あります。

資料が整理されていても、内容が聞き手の関心からずれていたり、中心的な主張が曖昧だったりすれば、プレゼン全体では伝わりにくくなります。

さらに、表示している内容と話している内容が大きくずれていれば、聞き手は何を見ながら何を聞けばよいのか迷うでしょう。立命館大学の指針でも、話している内容と表示中の資料を一致させる重要性が示されています。

資料はプレゼンを支える要素の一つであり、聞き手理解、内容、構成、届け方まで合わせて考える必要があります。

緊張するとプレゼンは伝わりにくくなりますか

強い緊張によって声が極端に小さくなったり、早口になったりすれば、聞き手が内容を理解しにくくなる可能性があります。

しかし、緊張しているという事実だけでプレゼンの成否は決まりません。

多少声が震えていても、聞き手が中心的な主張を理解し、適切な質問を行い、必要な判断へ進めたのであれば、目的を達成している可能性があります。

緊張の程度だけではなく、相手側で何が起きたのかまで振り返ることが大切です。

プレゼンを改善するなら最初にどこを直すべきですか

全員が同じ場所から直す必要はありません。

診断チェックリストを使い、現在のプレゼンを最も強く妨げている原因から着手します。

ただし、キーメッセージそのものが定まっていない場合には、細かなデザインや話し方を直すより、中心的な主張を明確にする価値が高いでしょう。

聞き手とのずれが大きいなら原因1や原因2から、内容は理解してもらえるのに行動へつながらないなら原因7からというように、自分の状態に合わせて一項目を選びます。

まとめ

プレゼンが相手に伝わらないとき、「自分は話すのが苦手だから」と一つの原因にまとめる必要はありません。

まず、自分のプレゼンが聞き手理解、内容設計、実際の届け方、行動設計のどこで止まっているのかを確認します。

聞き手理解、内容設計、実際の届け方、行動設計 聞き手理解 内容設計 実際の届け方 行動設計

そのうえで次回は、7つすべてを直そうとせず、最も影響が大きそうな一項目を具体的な行動へ変えてみてください。

本番後には、自分がどれほど流暢に話せたかだけではなく、相手の質問、理解、判断、次の行動がどう変わったのかを見ます。

伝わるプレゼンは、最初から話術に恵まれた人だけが作れるものではありません。聞き手がどこで迷うのかを見つけ、その迷いを一つずつ減らすように設計と実践を修正していくことが、次のプレゼンを変える現実的な一歩ではないでしょうか。

参考資料

立命館大学 国際関係学部「プレゼンテーションの方法」

プレゼンの内容と構成、資料、技術について、主張の明確化、論点の厳選、聞き手の予備知識、情報量、目的と大まかな結論の提示、視線、速度、間などを解説しています。

Kristen M. Naegle「Ten simple rules for effective presentation slides」

PLOS Computational Biologyに2021年に掲載されたEditorialで、主に研究プレゼンを対象として、一枚のスライドに中心的な目的を置くことや、複雑な情報を分割して提示する考え方などを扱っています。

Mehrabian A, Wiener M.「Decoding of inconsistent communications」

1967年の原著で、態度、コミュニケーション、声などを扱っています。一般的なビジネスプレゼン全体について「言葉は7%しか重要ではない」と検証した研究ではありません。

Mehrabian A, Ferris SR.「Inference of attitudes from nonverbal communication in two channels」

1967年の原著で、顔や声などの手掛かりから受け手が態度をどのように推測するかを扱っています。

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