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仕事で話が伝わらない原因とは? 内容と話し方を分けて改善する方法

時間をかけて資料を作り、話す順番まで考えたのに「結局、何が言いたいの?」と返されると、準備そのものを否定されたように感じることがあります。プレゼン後の反応が薄ければ「自分には話すセンスがないのかもしれない」と考えてしまう人もいるでしょう。しかし、仕事で話が伝わらない原因は一つではありません。内容設計、構成設計、相手設計、デリバリーという4つの領域へ分けて考えると、漠然としていた苦手意識を、具体的に見直せる課題へ変えていけます。

TABLE OF CONTENTS
目次

話が伝わらない原因は4つの領域から考える

話が伝わらなかったと感じたとき、多くの人は声量、滑舌、表情、視線といった「話し方」から直そうとします。確かに、声が小さかったり、極端な早口だったりすれば、聞き手が内容へ集中しづらくなることはあるでしょう。

とはいえ、聞き取りやすい声で話していても、何を伝えたいのかが曖昧なら中心は残りません。反対に、内容を丁寧に準備していても、聞き手の知識量と説明の前提がずれていたり、重要な部分まで同じ速度で話したりすれば、理解しにくくなる可能性があります。

そこで本稿では「伝わらない」を一つの能力不足として扱わず、4つの領域に分けて考えます。

内容設計では、何のために話し、何を一番伝え、どの情報を使うかを決めます。

構成設計では、選んだ材料をどの順番で話せば、聞き手が迷わず目的までたどり着けるかを考えます。

相手設計では、聞き手の知識量、立場、人数、置かれている状況、使える時間などを踏まえ、説明の前提や詳しさを調整します。

デリバリーでは、速度、間、フィラー、視線、表情、姿勢、ジェスチャーなど、実際に言葉を届けるときの状態を確認します。

日本製薬工業協会が公開した2025年の広報セミナー採録では、株式会社カエカのスピーチトレーナー長門萌氏が、話し方をコンテンツとデリバリーに分け、コンテンツをプロット、ファクト、ストーリー、コアなどの要素から説明しています。これは製薬協が一般的な話し方の基準として定めたものではなく、同協会が開催したセミナーにおける講師の説明を採録した内容です。

本稿の4領域は、こうした考え方も参考にしながら、仕事で起こる「伝わらない」を実践上診断しやすい形へ整理したものです。既存理論をそのまま4分類へ置き換えたものではなく、読者が自分のつまずきを見つけ、次の行動へ移りやすくするための整理として扱います。

よくある症状 主に該当する4領域 具体的に見直したい原因 最初に試すこと
「結局何が言いたいの?」と言われる 内容設計・構成設計 目的・コア・プロット 相手に持ち帰ってほしいことを一つ決める
話が長くなり要点が埋もれる 内容設計 ファクトの選択 目的に不要な情報を口頭説明から外す
数字は伝わるのに印象が残らない 内容設計 ファクトとストーリー 数字が生まれるまでの背景や判断を補う
話している途中で自分も迷う 構成設計 プロット 着地点を決めてから順番を組む
相手が途中から理解できなくなる 相手設計 前提知識・用語・説明量 相手が何を知っているかを先に確認する
「えー」「あのー」が増える デリバリー 準備・間・フィラー 言葉を急いで足さず一度黙る
内容は悪くないのに反応が薄い 相手設計・デリバリー 対象者とのズレ・届け方 相手の前提と自分の話し方を両方確認する
急に話を振られると頭が真っ白になる 4領域の応用 即興時の整理 まずコアと着地点だけを決めて話す

この表は、自分を採点するためのものではありません。「自分は話すのが下手だ」という大きすぎる自己評価をやめ、どこから手を付けるか決めるための地図です。

たとえば「結局何が言いたいの?」と言われる人と「内容は分かるけれど聞き取りにくい」と言われる人では、最初に見直す場所が違います。原因が違うのに同じ練習を続ければ、努力しているのに変化を感じられず、かえって苦手意識が強くなることもあるでしょう。

最初からすべてを直す必要はありません。まずは4領域のどこで最も詰まっているのかを見つけ、その原因を一つ具体化するところから始めます。

内容設計で起こる話が伝わらない原因

内容設計では「そもそも何のために話すのか」「何を一番伝えたいのか」「どの情報を使うのか」を考えます。

話が長い人も、結論が見えない人も、知識が足りないとは限りません。むしろ、伝えたい材料を多く持っているからこそ、何を残して何を外すか決められず、結果として聞き手に整理作業を任せてしまうことがあります。

原因1 何を達成したいか決まっていない

会議があるから参加し、発言を求められたから思っていることを話し、プレゼンの時間を渡されたから資料を最初から説明する。こうした状態は珍しくありませんが「話す機会があること」と「話す目的があること」は同じではありません。

たとえば、新しい施策について意見を求められたとします。目的を決めていなければ、過去の経緯、現在の問題、関連する数字、自分の懸念など、頭に浮かんだ内容を順番に並べてしまうかもしれません。

話している本人には、それぞれを説明する理由があります。「ここを省いたら誤解されるかもしれない」「この数字も判断材料になるかもしれない」と考えるため、情報を足すほど安心するのでしょう。

ところが、聞き手からすると「何を判断してほしい話なのか」が分かりません。説明が終わったあとに「つまり、どうしたいのですか」と聞かれるのは、情報が不足していたからではなく、話の目的が共有されていなかったという可能性があります。

そこで、話す前に「この話が終わったとき、相手にどうなっていてほしいか」を決めます。内容を理解してほしいのか、実施を承認してほしいのか、リスクに気づいてほしいのか、具体的な作業へ動いてほしいのかによって、選ぶ材料は変わります。

製薬協が公開した前述のセミナー採録でも、講師の長門氏は、目的が曖昧なままでは聞き手に情報の羅列として受け取られやすいとして「話す目的を明確にする」ことを原則の一つに挙げています。

たとえば「新しい施策について説明する」では、まだ話す行為そのものが目的です。そこから「この施策を始める前に、見落としているリスクを理解してもらう」まで具体化すれば、成功事例を大量に説明する必要はなくなり、リスク判断に必要な情報を優先できます。

話す前に必要なのは、きれいな最初の一文よりも着地点です。目的が決まれば「この情報は今回必要なのか」という判断基準が生まれ、話全体の輪郭も見えやすくなります。

原因2 一番伝えたいことが決まっていない

目的が決まっていても、伝えたいことが多すぎれば話の中心はぼやけます。そこで必要になるのが、その話で最も相手に残したいコアメッセージです。

あるチームの責任者が、メンバーへ今後の方針を伝える場面を考えてみましょう。その人は「もっと努力してほしい」「自分自身も頑張りたい」「部署を越えて協力したい」「最終的に成果を出したい」と考えています。

どれも大切だからこそ、一つだけを選ぶことに抵抗を覚えるでしょう。本気で考えてきた内容ほど、削ることは難しく感じます。一つを選ぶと、残りの思いを軽く扱ってしまうように思え「全部きちんと伝えた方が誠実だ」と考える人もいるかもしれません。

しかし、それぞれを同じ強さで並べると、聞き手は何を中心に覚えればよいのか迷います。話し手の中では一本につながっている内容でも、初めて聞く側には「いろいろ良いことを言っていた」という印象だけが残る可能性があります。

そこで「今日、一番伝えたいのは一致団結することです」というように、一つの中心を置きます。その後に、なぜ団結する必要があるのか、これまで何が起きていたのか、これからどんな協力を求めているのかを説明すれば、個々の情報が同じ軸へつながります。

製薬協が公開したセミナー採録では、コアメッセージについて「その話で一番伝えたいこと」を短く端的に表現したものと説明され、5〜10文字程度が一つの目安として紹介されています。これはすべての話へ機械的に当てはめる文字数の規則ではありませんが、中心となる言葉を絞る考え方として参考になります。

迷ったときには「この話から一つしか覚えてもらえないとしたら、何を残したいか」と考えてみてください。すべてを話すことと、重要なものを残すことは同じではありません。

コアを決めるとは内容を薄くすることではなく、本当に届けたいものがほかの情報に埋もれないよう焦点を合わせる作業です。

原因3 情報を全部伝えようとしている

時間をかけて資料を作るほど「せっかく調べたのだから全部説明したい」という気持ちが強くなることがあります。

資料に十個の数字が載っていれば、十個すべて説明しないと不十分に感じる人もいるでしょう。省いたところを質問されたら困るという不安から、念のため説明を足し続けることもあります。

ところが、聞き手はどの数字が重要なのかを最初から知っているわけではありません。十個すべてを同じ強さで説明すると、今度は聞き手自身が重要度を判断しなければならなくなります。

たとえば、今回の意思決定に必要な数字が二つなら、口頭ではその二つを中心に説明し、残りは資料へ置いておく方法があります。

情報を削ると「説明不足になりそうだ」と不安になりますが、捨てるのは情報そのものではありません。今この場で声に出す優先順位を変えているだけであり、必要なら質疑応答や補足資料で示せます。

University of Wisconsin–Madisonの公開ガイドでも、プレゼンでは目的に密接に関わる主要な内容へ焦点を当て、時間と聞き手に合わせて情報を整理する考え方が示されています。

話が長くなりやすいときには「さらに何を説明すればよいか」ではなく「この情報を話さなくても、コアは理解できるか」と問い直してみてください。

必要な情報を選べることは、分かりやすい説明を作る重要な要素の一つです。知っていることをすべて示すより、今の目的に必要なものを選ぶ方が、聞き手には話の重点が見えやすくなります。

原因4 ファクトだけで背景が見えない

仕事の説明では、数字や事実を示すことが重要です。しかし、正確な数字があれば、それだけで聞き手の理解や納得が深まるとは限りません。

「EC事業の売上が前年同期比20%増えました」と言えば、成果は伝わります。それでも、なぜ伸びたのか、どんな問題があり、何を変えた結果なのかまでは見えてきません。

そこで、必要に応じてストーリーを加えます。

ある会社で顧客離れが続き、最初に試した施策もうまくいかなかったとします。予算にも余裕がなくなり、担当者が「次も失敗したらどうなるだろう」と焦りを感じるなか、改めて顧客への聞き取りを行ったところ、購入途中に大きな不満があることが分かりました。

そこで従来の施策を続けるのではなく方針そのものを見直し、結果として売上が20%増えたのであれば、同じ数字でも受け取られ方は変わります。聞き手には「20%増」という結果だけではなく、問題をどのように発見し、何を判断し直したことで成果につながったのかが見えてくるからです。

製薬協が公開したセミナー採録では、ファクトを統計やサービス紹介などの外部情報、ストーリーを話し手自身の体験や感情などの内部情報として整理し、両方を組み合わせる考え方が紹介されています。また、両者には固定された正解比率があるのではなく、相手や場面によって調整すると説明されています。

ストーリーの方がファクトより優れているわけではありません。判断材料を提示するなら事実が欠かせず、その数字が生まれた背景まで理解してほしいなら、経験や判断の過程が役立ちます。

ファクトは「何が起きたか」を支え、ストーリーは「なぜそこへ至ったか」を見せます。目的に合わせて両者を使い分けることで、根拠と背景の両方を伝えやすくなります。

構成設計で起こる話が伝わらない原因

内容を選べても、その順番が目的に合っていなければ聞き手は迷います。

ここで重要になるのがプロットです。プロットとは、単に話をきれいに並べることではありません。聞き手がどの順番なら理解しやすいかを考え、目的へ向かう道筋を作ることです。

原因5 話の順番が目的に合っていない

ビジネスでは「結論から話すべきだ」と言われることが多くあります。

たとえば、トラブルの一次報告で上司が早く判断したいのであれば「納期が一週間遅れる見込みです。原因は三つあります」と始めた方が状況を把握しやすくなります。

結論が分からない状態で長い背景説明が続けば、聞き手は「この情報を何のために聞いているのだろう」と迷うため、判断の速さが求められる場面では結論を早めに示す方法が使いやすいでしょう。

その一方で、結論ファーストがすべての場面で最適とは限りません。

たとえば、これまで続けてきた方針を大きく変える提案をするとします。冒頭から「新しい方針へ変更します」とだけ言われれば、聞き手には結論が唐突に映り「なぜそこまで変える必要があるのか」という違和感が生じる可能性があります。

そのような場合には「半年前までは、この方法を続けることで問題ないと考えていました」と背景から入り、実際に起きた問題、試した対策、うまくいかなかった理由、そこから得た発見を順番に示したうえで結論へ進む方法があります。

聞き手は最終判断だけを受け取るのではなく「なぜその判断になったのか」という思考の過程を追えるため、背景への理解が必要な場面ではこちらの構成が適することもあります。

結論先行と背景先行のどちらが優れているかを決める必要はありません。早く判断してもらいたいなら結論を早めに示し、判断へ至った過程まで理解してもらいたいなら背景を使うというように、目的によって順番を選びます。

型を知ることは役立ちますが、型を守ること自体が目的になれば、相手に合わない話になることがあります。構成力とは一つの型へすべてを押し込む力ではなく、その場に合う道筋を選ぶ力ではないでしょうか。

相手設計で起こる話が伝わらない原因

話し手の中で完璧に整理された説明でも、聞き手の前提知識や状況と合っていなければ伝わりません。

「これくらいは知っているはず」と考えて説明を省くこともあれば、反対に丁寧にしようとするあまり、相手がすでに知っている基本事項を長く話してしまうこともあります。

原因6 相手の知識量と状況を見ていない

専門分野に長く関わっている人ほど、自分にとっての常識が増えていきます。そのため、自分が日常的に使っている専門用語を、聞き手も当然理解できるように感じることがあります。

あるエンジニアが、開発チームでは普通に使う用語を、そのまま営業部門への説明でも使ったとします。本人にとっては短く正確な言葉でも、相手が意味を知らなければ、その一語を理解できなかったところから後の説明まで積み上がりません。

反対に、相手がすでに詳しい内容について基本事項から長く説明すれば「そこは分かっているから、本題へ進んでほしい」と感じさせるでしょう。話し手は丁寧にしているつもりなので、このズレには気づきにくいものです。

さらに、1対1と大人数では説明方法が変わります。1対1なら相手の表情や反応を見ながら「ここまではご存じですか」と確かめ、その場で説明量を調整できます。

一方、大人数のプレゼンでは一人ずつ確認できないため、どの程度の予備知識を持つ人へ合わせるのかを事前に考える必要があります。時間についても、3分の報告に30分分の情報を詰め込めば早口になり、逆に十分な時間があるのに結論だけを述べれば、判断に必要な背景が不足する可能性があります。

製薬協が公開したセミナー採録では、講師の長門氏が「対象者を分析する」ことを原則の一つに挙げ、聞き手の属性、状況、知識量を把握し、それに応じて用語や表現を選ぶ必要があると説明しています。

ここで注意したいのは「聞き手は話し手より詳しくない」と決めつけないことです。実際には、聞き手の方が専門知識を持っていることもあれば、話し手とは別の前提から内容を見ている場合もあります。

重要なのは、知識量の上下を決めることではなく「同じ前提で情報を受け取っているとは限らない」と考えることです。

話す前には「相手は何を知っているか」「何を知りたいのか」「どのくらい時間があるのか」を確認してみてください。伝える内容は、話し手の頭の中だけでは完成しません。

聞き手が立っている位置から説明を見直したとき、同じ情報でも届く形へ変わります。

デリバリーで起こる話が伝わらない原因

内容、構成、相手への合わせ方が整っていても、実際の届け方によって聞き取りやすさは変わります。

ここでは「声がきれいか」「堂々としているか」といった印象だけで考えず、自分で観察し、少しずつ変えられる要素へ分けることが重要です。

原因7 話し方を自分の感覚だけで判断している

自分が話している姿は、自分自身では意外と分かりません。

落ち着いて話しているつもりでも、映像を見ると身体が小刻みに動いていたり、普通の速度だと思っていても緊張によって早口になっていたりすることがあります。また、自分ではほとんど気づかなかった「えー」「あのー」「えっと」が、録音すると何度も入っている場合もあるでしょう。

初めて自分の記録を確認すると「こんなふうに話していたのか」と恥ずかしくなり、途中で見るのをやめたくなるかもしれません。普段は自分の声や表情を内側の感覚から捉えているため、外から記録された姿との違いが大きいほど違和感が生まれます。

だからこそ、録音や録画は自分を採点するためではなく、感覚と実際の差を知るために使います。

Northern Illinois Universityのプレゼンテーション教材では、音声レコーダーで自分の話し方を録音し、明瞭さ、話す速度、フィラー、文頭で繰り返す表現などを分析する方法が紹介されています。ここで明示されているのは、音声を録音して振り返る方法です。

一方、University of Wisconsin–MadisonのPublic Speaking Guidelinesでは、自分のプレゼンを録画する方法が勧められており、アイコンタクト、間、フィラー、声の変化、表情、身体の動きなどについても確認項目が示されています。

そのため、音声だけで確認しやすい要素と、映像がなければ分かりにくい要素を分ける方法があります。最初は音声だけを聞き、速度やフィラー、間を確認したうえで、映像では視線や姿勢、身体の動きを見るようにすれば、一度に多くの項目を採点しようとする負担も減るでしょう。

客観的に自分を見ることには、少し居心地の悪さがあります。それでも「上手か下手か」ではなく「次に一つ直すなら何か」という視点に変えれば、記録は欠点を並べる採点表ではなく、改善点を探すための道具になります。

原因8 沈黙を怖がって言葉を詰め込んでいる

人前で話していると、ほんの一秒の沈黙でも長く感じることがあります。

「話すことを忘れたと思われるのではないか」「止まったら気まずい」と不安になり、次の内容がまとまる前に声を出してしまうため「えー」「あのー」が増える人もいるでしょう。

しかし、話し手にとって不安な沈黙が、聞き手にとっても悪い時間とは限りません。

聞き手は、話し手と同じ前提や同じ速度で情報を受け取るとは限りません。初めて聞いた数字や新しい考え方であれば、その意味を整理する時間が必要になることがあります。

そこで休みなく次の情報を重ねると、一つ前の内容を理解している途中で、さらに新しい情報を受け取ることになります。

製薬協が公開したセミナー採録では、話し始める前、聞き手へ問いかけたあと、話題を転換するとき、重要な言葉の前後、話し終えるときなどが、間を意識する場面として紹介されています。また、句点のあとに2秒程度という一つの目安も示されています。

もちろん、すべての文のあとで機械的に2秒止まる必要はありません。聞き手に考えてほしい場所、話が切り替わる場所、最も伝えたい言葉を置く場所で、焦って空白を埋めないことが重要です。

University of Connecticutのキャリアセンター記事では、フィラーを減らすための実践方法として、自分の話を録音して確認することや、情報をまとまりごとに整理することなどが紹介されています。これは研究論文ではなく実践的なガイドですが、自分の癖を見つける方法として参考にできます。

沈黙を使えるようになると、聞き手だけでなく話し手にも次の言葉を考える余白が生まれます。言葉を増やすことだけが話し方の改善ではなく、必要な場所で何も言わないことも、伝えるための選択肢です。

原因9 身体の動きと言葉が一致していない

ジェスチャーは、大きく動けば伝わりやすくなるわけではありません。

緊張すると、ペンを繰り返し触ったり、身体を左右へ揺らしたり、話している内容とは関係なく手を動かしたりすることがあります。本人にとっては不安を逃がすための無意識の行動であっても、聞き手には言葉とは別の視覚情報として映ります。

一方、言葉と動きが合っていれば、ジェスチャーは説明を補助できます。

「ポイントは三つあります」と言うときに三本の指を示したり、二つの案を比較するときに左右の空間を使ったりすれば、聞き手は内容の構造を目でも追いやすくなるでしょう。

Toastmasters Internationalの公開資料でも、身体表現は話している言葉を強調したり明確にしたりするために使えると説明され、無意識の癖を抑えることや、話の内容に合ったジェスチャーを使うことなどが勧められています。

重要なのは、常に動き続けることではありません。何も強調する必要がなければ静かに話し、意味を持たせたい瞬間だけ身体を使う方法があります。

録画を見るときにも「動きが大きいか」だけではなく「この動きは、話している内容と関係があるか」という視点で確認するとよいでしょう。

4領域を使って話し方を改善する5ステップ

ここまで原因を詳しく見てきましたが、実際の会議やプレゼンで9項目を一つずつ思い出す必要はありません。実践では、4領域を5つの手順へまとめて使うと整理しやすくなります。

ステップ1 相手と目的を決める ステップ2 コアを一つ決める ステップ3 ファクトとストーリーを選ぶ ステップ4 目的に合うプロットを組む ステップ5 デリバリーと相手の反応を確認する
5ステップで行っているのは、結局のところ優先順位を付けることです。

ステップ1 相手と目的を決める

最初に「誰に話すのか」「相手はどこまで知っているのか」「この話のあと、どうなってほしいのか」を決めます。

たとえば同じ新システムについて話す場合でも、導入判断をする人には「試験導入する価値を理解してもらう」、実際に使う人には「導入後に自分の仕事がどう変わるか理解してもらう」というように目的が変わります。

ステップ2 コアを一つ決める

目的が決まったら、そのために最も残したいメッセージを一つ選びます。

「試験導入する価値を理解してもらう」ことが目的なら「このシステムなら毎週の入力作業を減らせる」といった一文を中心に置き、ほかの情報はその説明として扱います。

ステップ3 ファクトとストーリーを選ぶ

次に、コアを支える数字や事実を選び、必要なら背景を補います。

「毎週二時間かかる作業を一時間程度まで減らせる」という数字を示すだけでなく、その一時間がなぜ重要なのか分かりにくければ「締め日前には担当者が通常業務を止めて入力している」といった状況を加えます。

ステップ4 目的に合うプロットを組む

材料が決まったら、聞き手が追いやすい順番へ並べます。

短い進捗報告なら結論を早めに示し、方針変更までの判断過程を理解してほしい場合には、状況、問題、試行錯誤、変化、結論という流れも考えられます。型の名前ではなく、相手が途中で迷わず目的へ到達できるかを基準にします。

ステップ5 デリバリーと相手の反応を確認する

最後に実際に声へ出し、速度やフィラーを見たいなら録音し、視線や身体動作まで確認したいなら録画します。

一度にすべてを直そうとせず、今回は間、次回は視線というように確認項目を絞ると、自分でも変化を追いやすくなるでしょう。

さらに本番後は、コアが伝わったか、どのような質問が出たか、必要な判断や行動につながったかを確認します。そこで見つかった課題を4領域へ戻せば、次に何を直すか決められます。

5ステップで行っているのは、結局のところ優先順位を付けることです。目的、コア、材料、順番、改善点をその場に合わせて選び、必要なものへ意識を集中させます。

伝える力は、言葉を増やす力だけではありません。今この場で大切なものを選び、相手が受け取れる形へ整える力でもあるのです。

即興は5ステップを短時間で使う応用練習

会議で突然指名され「この件についてどう思いますか」と聞かれた途端、それまで頭の中にあった考えが消えたように感じる人は少なくありません。

その経験が続けば「自分は頭の回転が遅い」「即興に弱い」と考えやすくなります。しかし、十分な準備時間があるプレゼンと、その場で答える発言では条件が異なるため、同じように話せないからといって能力全体の不足とは限りません。

即興は、ここまで説明してきた考え方とは別の10個目の技術ではありません。相手と目的を考え、コアを決め、必要な根拠を選び、順番を作るという流れを、準備時間がほとんどない状況で使う応用です。

Toastmasters InternationalのTable Topicsでは、その場で与えられた質問やテーマに答えることを通じ、考えを素早く整理して即興で応答する力を練習します。

一方「十分な準備から始め、5分、1分、数十秒と準備時間を短縮する」という特定の時間系列が、標準化された即興訓練法として確立されているわけではありません。そのため、この方法を使う場合は一つの練習例として扱います。

まずは十分な時間を取り、相手、目的、コア、根拠、順番まで整理して話します。その次には準備できる時間を短くし、同じ思考手順をどこまで維持できるか試してみます。

具体的には5分程度から始め、慣れたら1分程度、さらに短い条件へ変える方法もあります。ただし、大切なのは数字そのものではなく、時間が短くなったときに自分の思考がどこから崩れるのかを知ることです。

十分な時間があればコアを決められるのに、急ぐと情報を並べ始める人もいます。反対に、結論はすぐ出せても、その理由を整理する段階で迷う人もいるでしょう。そこで弱い工程が見つかれば、次の練習ではその部分を重点的に扱えます。

実際の会議でも、質問された瞬間に声を出す必要はありません。「早く答えなければ」と焦るほど、思いついた内容を順番に並べてしまいやすくなるため、短い間を取り「一番伝えるべきことは何か」と「どこへ着地するか」を決めてから話し始める方法があります。

これだけで必ず迷わなくなるわけではありませんが、話の中心を決めてから口を開くことで、思いついた情報を次々と足していく状態を避けやすくなるでしょう。

即興とは、何も考えずに滑らかに話す能力ではありません。限られた時間の中で重要なものを選び、聞き手が追える形へまとめる力だと捉えれば、才能ではなく練習できる課題として向き合いやすくなります。

話した後は上手さではなく4領域へ戻って振り返る

話し終わった直後は、自分の失敗ばかり気になるものです。

途中で言葉に詰まったことや、声が少し震えたこと、準備していた一文を言い忘れたことは自分だけが細かく覚えているため「あそこが駄目だった」と考えたくなるでしょう。

しかし、仕事におけるコミュニケーションで本当に確認したいのは、完璧に話せたかどうかだけではありません。相手がコアを理解したのか、話を踏まえた質問が出たのか、必要な判断や行動につながったのかを見ます。

たとえば「この企画を検討する価値があると理解してもらう」ことが目的だった場合、説明後に「導入費用はどれくらいですか」「いつ試せますか」という質問が出たなら、少なくとも検討する段階まで話が届いたという可能性があります。

反対に「そもそも何のための企画ですか」と聞かれたのであれば、内容設計で目的やコアが十分に伝わっていなかったのかもしれません。

専門用語の意味についての質問が続くなら、相手設計を見直す必要があるという可能性があります。途中から聞き返しが増えた場合には、構成、情報量、話す速度など複数の要因を確認した方がよいでしょう。

ここで「相手が理解してくれなかった」と考えるだけでは、次の改善材料を得にくくなります。一方で「自分は話すのが下手だ」と能力全体を否定しても、直す場所は見えてきません。

そこで、相手の反応を4領域へ戻して考えます。

内容設計では目的とコアが明確だったかを確認し、構成設計では聞き手が順番を追えたかを見直します。相手設計では前提や説明量が合っていたかを考え、デリバリーでは速度、間、視線などが内容を届けるうえで気になる要素になっていなかったかを確認します。

4領域 確認
内容設計 目的とコアが明確だったか
構成設計 聞き手が順番を追えたか
相手設計 前提や説明量が合っていたか
デリバリー 速度、間、視線などが内容を届けるうえで気になる要素になっていなかったか

一回の発表で直す課題は、一つでも構いません。相手の反応から次の改善点を決め、その一点を次の場面で試すことで、振り返りが漠然とした反省ではなく具体的な練習へ変わります。

仕事で話が伝わらないときによくある質問

結局何が言いたいのか分からないと言われるときは何を直せばよいですか

最初に内容設計を見直し、話の目的とコアメッセージを確認します。

自分が説明したい情報から考え始めるのではなく「話し終わったあとに相手へ何を理解してほしいのか」を決め、そのために一つだけ残したい内容を選びます。それでも分かりにくい場合には構成設計へ進み、結論へ至る順番であるプロットも確認するとよいでしょう。

話が長くなるときは何を削ればよいですか

最初に、今回の目的と直接関係しない補足データから見直します。

さらに、自分が調査した過程や苦労した経緯についても「この話のコアを理解するために必要か」という基準で判断してください。ただし、その判断過程自体が今回伝えたい教訓につながる場合には、ストーリーとして残す意味があります。

結論から話した方がよいのはどんな場面ですか

相手が短時間で状況を把握し、判断する必要がある場面では、結論を早めに伝える方法が使いやすいでしょう。

一方、方針変更の背景や、失敗を経て考えが変わった理由まで理解してほしい場合には、状況や問題から順番に説明する構成も考えられます。結論ファーストという形式を守ることより、その場の目的に適した順番を選ぶことが重要です。

相手に合わせて話すには何を確認すればよいですか

相手がどこまで知っているのか、何を知りたいのか、どのくらいの時間を使えるのかを確認します。

相手の方が詳しい場合もあれば、こちらとは異なる前提で内容を見ている場合もあるため「自分が知っていることを、相手も同じように知っている」と考えないことが大切です。1対1なら反応を見ながら途中で調整し、大人数なら事前に想定する対象者を決めるとよいでしょう。

数字とストーリーはどちらを重視すればよいですか

どちらか一方を常に優先する必要はありません。

数字や客観的事実は提案や報告の根拠を示し、ストーリーは、その結果が生まれるまでの判断や背景を伝える際に役立ちます。聞き手が何を理解する必要があるのかに合わせ、両方の比重を調整するとよいでしょう。

「えー」「あのー」が多いときはどうすればよいですか

まず自分の話を録音し、どこでフィラーが入っているのか確認すると原因を見つけやすくなります。

言葉を探している時間をすべて音で埋めず、必要なら一度黙ることも試してみてください。また、次に何を言うか分からなくなっている場合には、フィラーだけではなく構成や準備の方法を見直す必要があります。

録音と録画では何を確認すればよいですか

録音では、話す速度、フィラー、間、聞き取りやすさなどの音声面を確認できます。

録画では、それに加えて視線、表情、姿勢、身体の揺れ、ジェスチャーなどを見ることができます。一度にすべてを評価するより、今回は速度、次回は視線というように観点を絞った方が、修正した結果を判断しやすくなるでしょう。

急に話を振られたときはどうすればよいですか

すぐに完璧な文章を作ろうとせず、最初に「一番伝えたいことは何か」と「どこへ着地するか」を決めます。

必要であれば短い間を取り、コアを決めてから話し始めてください。普段の練習では、その場で問いを与えて答える方法に加え、十分な準備から徐々に準備時間を短くし、自分がどこで迷いやすいのか確認する方法も使えます。

準備時間を5分、1分、数十秒などに変える方法は一つの練習例であり、その時間系列自体が標準化された即興訓練法というわけではありません。数字を達成することではなく、短い時間でも目的、コア、根拠、順番をできる範囲で整理することを目指します。

まとめ

仕事で話が伝わらないとき、その原因を「自分には話す才能がない」という一言へまとめる必要はありません。

まず、内容設計、構成設計、相手設計、デリバリーという4領域へ分けて考えてみてください。目的やコアが曖昧なら内容設計、話の順番で迷わせているなら構成設計、前提や説明量がずれているなら相手設計、速度や間、視線などに課題があるならデリバリーを見直します。

目的やコアが曖昧なら内容設計 話の順番で迷わせているなら 構成設計 前提や説明量がずれているなら 相手設計 速度や間、視線などに課題があるなら デリバリーを見直します

次の会議やプレゼンでは、最初に「誰に話すのか」と「この話が終わったとき、どうなっていてほしいのか」を決め、そこからコアを一つ選んでみてください。そのうえで必要な情報を選び、目的に合う順番で話し、終了後には相手へ何が残ったのかを確認します。

うまく伝わらなかったとしても、そこで能力全体を否定する必要はありません。4領域のどこでずれたのかを振り返り、次回は一つだけ変えてみます。

伝える力は、言葉を増やす力だけではありません。今この場で大切なものを選び、相手が受け取れる形へ整え、その反応からもう一度調整する力です。

漠然としていた「話が伝わらない」という悩みを、修正できる要素へ一つずつ分けていけば、次の会議やプレゼンで試せることは見つけやすくなるのではないでしょうか。

参考資料

コンテンツとデリバリー、目的設定、対象者分析、コアメッセージ、ファクトとストーリー、間などについては、製薬協広報委員会が開催したセミナーで株式会社カエカの長門萌氏が講演した内容の採録を確認できます。

日本製薬工業協会 第43回 広報セミナー

自分の話し方を音声レコーダーで録音し、明瞭さ、話す速度、フィラーなどを分析する方法については、Northern Illinois Universityのプレゼンテーション教材で確認できます。

Northern Illinois University Rehearsing the Presentation

自己録画による練習、アイコンタクト、間、フィラー、話す速度、表情、身体動作、内容を主要な点へ絞る考え方については、University of Wisconsin–Madison Department of Medicineの公開ガイドで確認できます。

University of Wisconsin–Madison Public Speaking Guidelines

ジェスチャーや無意識の身体動作など、非言語コミュニケーションについては、Toastmasters Internationalの公開資料で確認できます。

Toastmasters International Gestures and Body Language

その場で与えられた質問へ答えながら、考えを素早く整理する即興練習については、Toastmasters InternationalのTable Topicsで確認できます。

Toastmasters International Table Topics Speaker

フィラーを自覚するための録音や、話す情報をまとまりごとに整理する方法については、University of Connecticutのキャリアセンター記事で確認できます。

University of Connecticut Learn How to Stop Using Filler Words

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