現金なら少し迷う商品なのに、貯まったポイントを見ると「これなら使ってもいいか」と気持ちが動くことがあります。ただし、研究から「ポイント払いは無駄遣いを増やす」と一律に断定できるわけではありません。分かっているのは、ポイントと現金では心理的な評価が異なる場合があり、ポイント残高などの条件によって利用意図や支払いの負担感も変化することです。だからこそ、買う直前に「同じ金額を現金でも払うか?」と考えるだけで、自分の判断基準が支払い方法に引っ張られていないか確かめやすくなります。
ポイントでは購入の判断基準が変わることがある
通販サイトで1500円の雑貨を見つけたものの、「今すぐ必要ではないし、今回はやめておこう」と画面を閉じかけたとします。ところが、アプリに2000ポイント残っていることへ気付くと、「ポイントなら買ってもいいかな」と気持ちが揺れることがあります。
商品の品質も1500円という価格も変わっていません。それでも、現金1500円を払う場合と1500ポイントを使う場合では、同じ人の中でも購入への抵抗感が違って感じられることがあります。
この記事で最初に押さえておきたいのは、ポイントを使うこと自体が問題なのではないという点です。注意したいのは、支払い方法が現金からポイントへ変わっただけで「この商品を買うか」という判断基準まで変化していないかということになります。
そこで役立つのが、**「同じ金額を現金でも払うか?」**という問いです。
2000ポイントを使おうとしているなら、一度だけ「財布や銀行口座から2000円減るとしても欲しいか」と置き換えてみます。それでも欲しいなら、ポイントによって予定していた現金支出を抑えられるでしょう。
一方、「2000円なら買わない」と感じるのであれば、商品そのものへの評価だけではなく、「ポイントなら支払いやすい」という感覚が判断を後押ししている可能性があります。
もちろん、それが直ちに浪費を意味するわけではありません。自分へのご褒美として意識的に使い、得られる満足にも納得しているなら、それも一つの選択です。
大切なのは、「ポイントだから」という理由だけで購入基準を緩めないことでしょう。
研究で分かっていることと分かっていないこと
ポイントについて考えるときには、研究で確認された事実と、そこから日常生活へ応用した解釈を分ける必要があります。
今回扱う主要な研究から確認されているのは、ポイント付与と値引きでは知覚価値が異なる場合があること、ポイント残高によってポイント使用意図や支払方法の選択、支払いに伴う知覚コストが変化することです。また、ポイントそのものを対象とした研究ではありませんが、支払い方法の違いが過去の支出の認識や、その後の購買意向へ影響することも検討されています。
一方、これらの結果だけを根拠にして、「ポイントを使う人は必ず不要な商品を買う」「ポイント決済そのものが浪費を増加させる」とまではいえません。
ここは、記事全体を読むうえで重要な線引きです。
この記事で「財布のひもが緩むことがある」と表現しているのも、研究から直接確認されている範囲を超えて断定しないためです。
研究が示している心理的な評価の違いを踏まえ、その違いが自分の買い物にも表れていないかを確かめる。そのための実践的な判断軸として「同じ金額を現金でも払うか?」を使う、というのがこの記事の立場になります。
研究はポイントを悪者にしているのではなく、ポイントを見る人間の物差しが常に一定とは限らないことを示しています。
では、なぜ同じ金額相当でも物差しが変わるのでしょうか。その背景を理解する鍵になるのが、メンタルアカウンティングです。
メンタルアカウンティングとは
メンタルアカウンティングとは、人がお金を完全に一つの総資産として扱うのではなく、入手した経路や使い道などによって、心の中で異なる勘定に仕分けする心理的な仕組みです。
行動経済学者リチャード・H・セイラーは、メンタルアカウンティングを、人や家庭が金銭に関する活動を整理し、評価し、把握するために使う認知的な操作として整理しています。資金の出所や用途にラベルを付け、食費や住居費などのカテゴリーに分けて扱うことも、その特徴に含まれます。
同じ1000円であれば、数字としての1000円は変わりません。
それでも、働いて得た給与の1000円には「無駄にしたくない」と慎重になる一方、キャンペーンでもらった1000円相当のポイントには、「もともとなかったものだから少しくらい使ってもいい」と感じる人がいます。
そのとき心の中では、前者が「生活を支えるお金」、後者が「特典でもらったお金」のように、別々の箱へ入っていると考えられます。
この仕分けそのものが悪いわけではありません。
むしろ、食費は月4万円、趣味は月1万円と分けることで、生活に必要なお金まで使ってしまうことを防げます。メンタルアカウンティングは、家計を管理するセルフコントロールとして役立つ面もあるのです。
ところが、ポイントについてだけ「これは普段のお金とは別」と考え始めると、同じ購買力でも使う基準が緩むという可能性があります。
「給与から2000円出すならやめる。でも2000ポイントならいい」
こう考えたとき、本当に商品の価値を再評価したのでしょうか。それとも、お金を入れている心の箱が変わったことで、同じ商品を違う物差しで測っているのでしょうか。
心の中には複数の財布を作れますが、どの財布から使っても、選べる将来の使い道は変化します。
この感覚が、ポイントと現金の違いを考える土台になります。
現金1000円と1000ポイントを違うお金に感じる理由
1ポイントを1円相当として利用できるサービスを例に、財布の1000円と1000ポイントを比べてみましょう。
どちらも1000円の商品を購入できる場合があります。しかし、その経済的な性質も心理的な感じ方も、完全に同一ではありません。
| 比較項目 | 財布にある1000円 | 保有している1000ポイント |
|---|---|---|
| 心理的な位置づけ | 給与や生活資金の一部になりやすい | 特典やおまけとして扱われる場合がある |
| 支出時の感覚 | 手持ち資金が減ったと感じやすい | ポイントを利用したと感じる場合がある |
| 購入時の判断 | 必要性や価格を慎重に考える場合がある | 「ポイントなら」と基準が変わる可能性がある |
| 利用範囲 | 原則として幅広い | 対象店舗やサービスなどに制約がある |
| 有効期限 | 通常は設定されない | 設定される場合がある |
| 見落としやすい点 | 現金を支払った事実 | ポイントにも別の使い道があったこと |
例えば、ある人が1000円の現金を持って店へ入り、900円の少し高級なお菓子を見つけたとします。
財布から900円を出すなら、「残り100円になるし、今日はやめよう」と考えるかもしれません。
ところが、アプリに1000ポイント残っていると分かると、「ポイントなら一度食べてみようかな」と心が動く場合があります。
ここで見落としやすいのは、買わなければ900ポイントが残ることです。
来週必ず購入する食品や洗剤に900ポイントを使えるなら、今回のお菓子へ使うことで、その未来の使い道を選べなくなります。
ある選択によって失う別の選択肢の価値は、経済学では機会費用として考えます。
現金なら「900円あればほかの物を買える」と想像しやすくても、ポイントになると「この900ポイントで将来の現金支出を減らせた」という側面が見えにくくなることがあります。
ただし、ポイントと現金を完全に同じ資産として扱うのも正確ではありません。
ポイントには有効期限が設けられたり、利用できる店舗が限定されたり、交換条件が設定されたりする場合があります。
そのため、ポイントは「現金そのもの」ではなく、利用条件を伴う購買力と捉える方が実態に近いでしょう。
それでも、購入するかどうかを判断するときには現金へ置き換えて考えられます。
1000ポイントは1000円札そのものではありませんが、使えば別の1000円相当の用途を選べなくなる場合があります。
ここを理解できると、「ポイントだから無料」という感覚から少し距離を取れるようになります。
研究ではポイントをどう捉えているのか
ポイントと現金の違いについては、日本のロイヤルティプログラムを対象とした研究があります。
重要なのは、研究が「ポイントは軽いお金である」と単純に結論づけているわけではないことです。
むしろ、ポイントの額や保有残高によって、人が感じる価値や支払いの負担が変化することが示されています。
少額ポイントは値引きより高く評価される場合がある
中川宏道氏の2015年の研究「ポイントと値引きはどちらが得か?:ポイントに関するメンタル・アカウンティング理論の検証」では、少額のポイントを心理的な貯蓄勘定へ、多額のポイントを当座勘定へ計上するという仮説が提示され、スーパーマーケットと家電量販店でアンケート実験が行われています。
スーパーマーケットの実験では945人が対象となり、参加者は全員女性でした。
1000円、5000円、1万円の買い物を予定している状況に対し、1%、5%、10%、25%の値引きまたはポイント付与を提示し、その知覚価値が比較されています。
その結果、低い値引率・ポイント付与率では、同額相当の値引きよりポイント付与の知覚価値が高く評価されました。
小さな値引きなら、普段の支払いの中へ溶け込んで「少し安くなった」で終わることがあります。
一方、同じ金額相当でも、「50ポイント獲得」と独立した数字で示されれば、「新しい価値をもらった」という感覚が生まれる可能性があります。
ただし、このスーパーマーケット実験の参加者は全員女性であるため、この結果だけをそのまま消費者全体へ一般化する際には注意が必要でしょう。
同じ研究の家電量販店実験には974人が参加し、男性595人、女性379人でした。こちらでは1000円、1万円、10万円の購入場面と、10%、20%、50%の値引きまたはポイント付与が比較されています。
家電量販店の実験では全般的にポイントの知覚価値が値引きより高かったものの、論文では効果量が非常に小さいことも報告されています。
したがって、「ポイントなら値引きより必ず魅力的に感じる」と一般化することはできません。
現在J-STAGEで公開されている2015年論文には、2016年5月20日に英文表記や本文の誤字について訂正が行われた記録があります。研究内容を確認するときは、現在公開されている訂正版を基準にするのが適切です。
ポイント残高によって知覚コストも変化する
中川氏が2016年に発表した「ポイントと現金の支払いに関する知覚コスト:消費者はどのようなときにポイントを使うのか?」では、ポイント残高がポイント使用意図、支払方法の選択、支払いの知覚コストへ与える影響が検討されています。
ここでいう知覚コストとは、支払う際に本人が感じる心理的な負担として捉えると分かりやすいでしょう。
家電量販店の実験では442人を対象に、500ポイント、1000ポイント、5000ポイント、1万ポイントという残高と、異なる支払金額を組み合わせた条件が設定されました。
結果を見ると、5000ポイントと1万ポイントを保有する条件では、ポイント使用割合が増えるほど支払いの知覚コストが低下しました。
一方、1000ポイントでは明確な変化が見られず、500ポイントの条件では、ポイント使用割合が高くなるほど知覚コストが高くなっています。
ここは慎重に読む必要があります。
研究で直接確認されたのは、500ポイントという条件で、ポイント使用割合の増加とともに知覚コストが高くなったという結果です。
参加者が「せっかくコツコツ貯めた500ポイントだから失いたくない」と感じたことを直接測定したわけではありません。
残高が少ないと、ポイントを使用した際の残高減少を大きく感じ、それが負担につながったという可能性は考えられます。ただし、これは研究で直接確認された心理ではなく、結果を説明する一つの解釈として分けて扱う必要があります。
スーパーマーケットを対象とした実験でも、支払金額よりポイント残高がポイント使用意図などへ影響していました。研究全体としては、ポイント残高が使用意図、支払方法の選択、知覚コストに影響するという結果が示されています。
つまり、ポイントは「いつでも軽く使えるお金」と決まっているわけではありません。
残高や利用状況によっては使いやすく感じる一方、別の条件では使う方が惜しく感じられるという可能性があります。
研究で直接確認されているのは、ポイントへの評価や知覚コストが条件によって変化することであり、その変化がなぜ起きるのかは結果と解釈を分けて考える必要があります。
この整理をしておけば、「ポイントだから浪費する」という単純な説明から離れられるでしょう。
支払い方法はその後の購入判断にも関係する
ポイントそのものを対象にした研究ではありませんが、支払い方法と消費行動の関係を考えるうえでは、Dilip Somanによる2001年の研究も参考になります。
この研究では、支払額をどの程度思い出しやすいか、資産減少がどの程度即時的に認識されるかといった支払い方法の特徴が、過去の支払いの影響を通じて、その後の購買意向と関係することが検討されています。
ここからも、単に「いくら払ったか」だけではなく、「どのような形で払ったと感じるか」が意思決定に関係することが分かります。
ただし、これも「現金以外を使えば必ず多く買う」という意味ではありません。
支払い方法によって金銭の減少をどう認識するかが異なり得るという研究であり、ポイント利用による不要な購入を直接検証したものではないからです。
研究を実生活へ生かすなら、強い結論を作るより、「自分は支払い方法が変わると判断まで変えていないか」と問い直す方が有益でしょう。
「ポイントだから実質無料」が危険な理由
「全部ポイントで買えたから実質無料だった」
普段の会話では自然な表現ですが、家計全体を見ると少し違う景色が見えてきます。
5000円の商品を5000ポイントだけで購入した場合、その場で銀行口座や財布から5000円が出ていかないことは事実です。
しかし、5000ポイントという購買力は失われます。
そのポイントを来月必ず買う食料品や日用品に充当できたのであれば、今回使わなければ将来の現金支出を5000円分抑えられた可能性があります。
「今日は現金を払っていない」という意味での無料と、「何の価値も失わず手に入れた」という意味での無料は同じではありません。
ある人が6000ポイントを保有していて、5500円の雑貨を見つけたとします。
現金5500円なら「少し高いからやめておこう」と感じたのに、ポイント残高を見た瞬間、「ポイントだけで買えるならいいか」と注文しました。
その雑貨を長く愛用できたなら、本人にとって価値のある使い道だったのでしょう。
反対に、数週間後には棚の奥へ入ったままになり、「そういえば現金なら買っていなかった」と感じるなら、ポイントという支払い方法が購入判断に影響していた可能性があります。
大切なのは、結果だけを見て後悔することではありません。
買う直前の自分が、現金とポイントで違う物差しを使っていなかったかを見ることです。
ただし、有効期限が目前なら事情は変わります。
明日失効する1000ポイントにほかの使い道がなく、以前から必要だった900円の商品へ使えるなら、利用する合理性があります。
ポイントには期限や利用条件があるからこそ、現金と完全に同じではありません。
それでも、「ポイントがあるから何か買おう」と商品探しを始めると、目的と手段が入れ替わります。
本来は「必要な物がある。その支払いにポイントを使う」という順番だったはずです。
ポイントを使って必要な現金支出を置き換えることと、ポイントを消化するために新しい支出を作ることは別です。
この違いを見分けられるだけでも、「実質無料」という言葉との距離感は変わってくるでしょう。
値引きとポイント還元ではお得感も変わる
1万円の商品に「10%値引き」と書かれている場合と、「10%ポイント還元」と書かれている場合を比べてみます。
10%値引きなら、支払額は9000円です。
1000円がそのまま手元に残るため、その1000円を何に使うかは基本的に自由に決められます。
一方、10%相当のポイント還元なら、最初に1万円を支払い、その後1000ポイントを受け取る形が一般的です。
1000円の現金が残るわけではなく、ポイントの利用先や期限などには制度ごとの条件があります。
| 10%値引き | 10%ポイント還元 |
|---|---|
| 支払額は9000円です。 | 最初に1万円を支払い、その後1000ポイントを受け取る形が一般的です。 |
| 1000円がそのまま手元に残るため、その1000円を何に使うかは基本的に自由に決められます。 | 1000円の現金が残るわけではなく、ポイントの利用先や期限などには制度ごとの条件があります。 |
ここで「10%還元なのに実質的には約9.09%」という説明を見かけることがありますが、この計算には前提があります。
1万円を支払って1000ポイントを受け取り、その1000ポイントで後日1000円の商品を購入し、ポイント利用分には新しいポイントが付かないと仮定します。
この条件なら、現金1万円で通常価格合計1万1000円相当の商品を取得したことになるため、通常価格総額に対する差額は、
1000円 ÷ 1万1000円 × 100 ≒ 9.09%
となります。
ただし、すべての10%ポイント還元が必ずこの価値になるわけではありません。
ポイントを即時利用できるのか、ポイント利用分にもポイントが付与されるのか、有効期限があるのかなどによって実質的な価値は変わります。
さらに、数字上の価値と「得をした」という主観的な感覚も同じとは限りません。
値引きなら「1万円の支払いが9000円になった」と感じます。
ポイント還元なら「1万円は払ったけれど、新しく1000ポイントをもらった」と感じるため、支出とは別に利益を一つ受け取ったような印象が残る場合があります。
中川氏の2015年の研究で、低いベネフィット水準において同額相当の値引きよりポイント付与の知覚価値が高くなった結果は、こうした違いを考える材料になります。
とはいえ、研究結果は「いつでもポイントの方がお得に感じる」と示しているわけではありません。
実際に比較するときには、還元率の数字だけでなく、最終的な支払額、ポイントを確実に使えるか、有効期限が十分にあるかまで見る必要があります。
「何%還元か」と「自分にとって何円の価値が残るか」は、同じ質問ではありません。
お得感に引かれたときほど、一度数字へ戻ることが役立ちます。
ポイントで判断を変えないための3つの質問
研究を詳しく知っても、買い物のたびに論文の内容を思い出すのは現実的ではありません。
そこで、実際の購入場面では三つの質問だけに絞ります。
| 購入前の質問 | 確認したいこと | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 同じ金額を現金でも払うか? | ポイントだから購入基準を緩めていないか | 現金なら買わない場合は一度保留する |
| 失効を避けるためだけに買おうとしていないか? | 期限切れへの不安が余計な支出を作っていないか | 失うポイントと追加支出を比較する |
| 来月の必要な支出へ使った方がよくないか? | ポイントの別の使い道を忘れていないか | より必要な用途があれば残す |
同じ金額を現金でも払うか
三つの中で、まず覚えておきたいのはこの質問です。
2500ポイントの商品なら、「今ここで2500円を支払うとしても欲しいか」と考えます。
答えが「それでも買いたい」なら、ポイントを使うことで予定していた現金支出を2500円抑えられる可能性があります。
一方、「2500円だったら買わない」と感じたなら、すぐに購入する必要はありません。
24時間だけ保留し、翌日になっても欲しいと思えるか確認してみてもよいでしょう。
ここで目的にしているのは我慢ではなく、ポイントを見た瞬間の勢いと、商品そのものへの欲しさを分けることです。
失効を恐れて余計に買っていないか
ポイントの有効期限が近づくと、「せっかく貯めたものを失いたくない」という気持ちが生まれます。
それ自体は不自然ではありません。
しかし、100ポイントを失いたくないために、必要ではない1000円の商品を買おうとしているなら話は変わります。
100ポイントが失効する損失と、不要な1000円の支出を比べれば、後者を避けた方が家計には有利な場合があります。
反対に、失効予定の1000ポイントだけで、来週必ず購入する日用品を買えるなら、先に使っておく意味があるでしょう。
「ポイントを失わないこと」を目的にするのではなく、最終的に自分の資源をどれだけ残せるかを見ることが大切です。
もっと必要な支出へ使えないか
最後に、別の使い道を一つだけ想像します。
来週買う食品、洗剤、交通サービスなどへ利用できるなら、今日の嗜好品へポイントを使わないことで、将来の現金支出を減らせるかもしれません。
だからといって、ポイントを楽しみに使ってはいけないわけではありません。
以前から欲しかった本や旅行、趣味の商品に大きな満足を感じるなら、それも立派な使い道です。
「生活必需品以外は禁止」と厳しくしすぎれば、ポイント管理そのものが息苦しくなります。
守りたいのは用途ではなく、判断の順番です。
「ポイントがあるから買う」のではなく、「買いたい物があるから支払いにポイントを選ぶ」
この順番を保てれば、ポイントは判断を乱す存在ではなく、現金支出を調整する道具として使いやすくなるでしょう。
自分がポイントで購入した物を記録する
自分がポイントに影響されやすいかどうかは、一般論だけを読んでも分かりません。
最も確かめやすいのは、自分の購入履歴です。
毎日家計簿をつける必要はなく、最近ポイントで購入した物を3件から5件ほど振り返るだけでも構いません。
| 購入した物 | 使用ポイント | 現金でも買ったか | ポイントを使った理由 | 今も買ってよかったと思うか |
|---|---|---|---|---|
例えば、ある人が日用品には毎回ポイントを使っており、「現金でも必ず買っていた」と答えられるなら、必要な現金支出をポイントへ置き換えていることになります。
一方、雑貨や限定のお菓子についてだけ「ポイントのときしか買わない」という傾向が見つかるかもしれません。
それだけで、その買い物が悪いと判断する必要はないでしょう。
趣味として満足しているなら、自分で納得して使えているからです。
ただ、「ほとんど使っていない」「なぜ買ったのか覚えていない」という品物がポイント購入に偏っているなら、自分はポイント残高が多いときに購入基準を緩めやすいという可能性があります。
また、「期限が近づくと毎回何かを探して買っている」と気付く人もいるでしょう。
こうした個人差は、一般的な節約法を読むだけでは分かりません。
購入記録で見るべきなのは何ポイント使ったかだけではなく、ポイントがあるときにだけ選んでいる物です。
自分のパターンが分かれば、すべてのポイント利用へ厳しいルールを設ける必要はなくなります。
判断が変わりやすい場面だけ、購入前に少し時間を置けばよいのです。
ポイントを貯めること自体が悪いわけではない
ポイントについて心理的な違いを知ると、「それならポイント制度を使わない方が安全なのでは」と思うかもしれません。
しかし、そこまで極端に考える必要はありません。
研究からも「ポイントを持つこと自体が無駄遣いを生む」と確認されているわけではなく、ポイントへの知覚価値や使用意図、支払いの知覚コストが条件によって変化することが示されています。
もともと必要だった商品を買ってポイントを受け取り、そのポイントを後日の必要な支出へ使えば、家計の現金流出を減らせます。
例えば、ある家庭が毎月5000円の日用品を必ず購入しており、5000ポイントを保有しているとします。
その5000ポイントで日用品を買えば、5000円の現金を手元に残せます。
この場合、ポイントを使うために新しい支出を作っているわけではありません。すでに予定されていた支出の支払い方法を、現金からポイントへ変えています。
ポイントを貯めるときも同様です。
「今日はポイント10倍だから、予定にはなかった物まで買おう」と考えれば、ポイントを得るために支出を増やすことになります。
一方、もともと払う予定だった通信費や日用品で自然にポイントが貯まるなら、余計な買い物をせず還元を受けられます。
さらに、ポイントには有効期限があります。
そのため、何年も貯め続けることが常に有利とは限りません。
自分の使っている制度を確認し、「日用品へ使う」「旅行に使う」「一定残高になったら使う」など、自分に合った出口を決めておくとよいでしょう。
ポイント投資などへ回せるサービスもありますが、投資商品と連動する場合には価格変動によって価値が減る可能性があります。
「消費しないから得」と単純には考えず、サービスの条件やリスクを確認する必要があります。
ポイントは貯めることも使い切ることも目的ではなく、自分の生活に必要な価値へ交換するための道具です。
還元率や期限の数字に振り回されず、この位置づけを保てることが、長く使い続けるうえでは重要でしょう。
メンタルアカウンティングとポイントのよくある質問
- メンタルアカウンティングとは簡単にいうと何ですか?
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メンタルアカウンティングとは、同じお金でも入手経路や使い道などに応じて、心の中で別々の勘定へ分けて考える心理的な仕組みです。
給与の1000円なら慎重に使う一方、臨時収入やポイントの1000円相当なら使いやすく感じる場合があります。
セイラーの整理では、資金の出所や用途へのラベル付け、食費や住宅費などの支出カテゴリーもメンタルアカウンティングに関係しています。
ただし、予算を用途ごとに分けることは家計管理にも役立つため、メンタルアカウンティングそのものが悪いわけではありません。
- ポイントも現金と同じように考えた方がいいですか?
-
商品の購入判断では、現金に置き換えて考える方法が役立ちます。
1000ポイントの商品なら、「現金1000円でも買うか」と考えることで、ポイントだから購入基準が緩んでいないか確認できます。
ただし、ポイントには有効期限、利用先、交換条件などがあるため、現金と経済的性質が完全に同一ではありません。
そのため、ポイントを「現金そのもの」と考えるより、「利用条件のある購買力として扱い、購入時には現金換算して考える」と捉えるのが実用的でしょう。
- ポイントと値引きではどちらがお得ですか?
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利用条件が同じなら、直接値引きはその場で支払額が減り、残った現金を幅広く使えるという利点があります。
一方、ポイントは利用場所や有効期限が限定される場合があります。
ただし、心理的な知覚価値は別です。
中川氏の2015年の研究では、スーパーマーケットの低いベネフィット水準において、同額相当の値引きよりポイント付与の知覚価値が高く評価されました。ただし、あらゆる条件でポイントの方が高く評価されたという結果ではありません。
実際には、支払額、利用期限、利用先、ポイントを確実に使えるかまで含めて比較する必要があります。
- メンタルアカウンティングは悪いことですか?
-
必ずしも悪いものではありません。
住居費、食費、教育費、趣味などに予算を分けることで、大切なお金を守れる場合があります。
問題になりやすいのは、「ポイントだから別」「ボーナスだから別」と例外を増やすうちに、商品を買う基準そのものまで変化する場合です。
メンタルアカウンティングをなくそうとするより、自分に役立っている勘定と、自分を納得させるためだけに作っている勘定を見分ける方が現実的でしょう。
- ポイントで余計な買い物を防ぐ方法はありますか?
-
最も簡単なのは、購入直前に「同じ金額を現金でも払うか?」と確認することです。
現金でも買うなら、ポイントを使うことで予定していた現金支出を減らせます。
現金なら買わないと感じるなら、すぐに決済せず、一度保留してみましょう。
さらに、過去のポイント購入を数件だけ見返すと、自分がどのカテゴリーで判断基準を変えやすいのか分かることがあります。
すべてのポイント利用を我慢するのではなく、自分が揺れやすい場面だけにルールを作る方が続けやすいでしょう。
まとめ
ポイントと現金では、同じ金額相当でも心理的な評価が変わる場合があります。
メンタルアカウンティングによって、給与は生活資金、ポイントは特典というように別の心の勘定へ入れば、支払いへの感じ方が違っても不思議ではありません。
研究では、ポイントと値引きの知覚価値に違いが生じる条件や、ポイント残高によって使用意図、支払方法の選択、支払いの知覚コストが変化することが確認されています。
一方、「ポイント払いをすると一般的に不要な買い物が増える」と直接実証した研究と同じではありません。
だからこそ、研究以上に強い結論を作るのではなく、自分自身の買い物へ落とし込むことが大切です。
ポイントは現金そのものではなく、有効期限や利用条件を伴う場合があります。それでも商品やサービスへ交換できる以上、別の用途に使える購買力を持っています。
そこで、買う直前に一度だけ問い直します。
「同じ金額を現金でも払うか?」
それでも欲しいなら、ポイントは予定していた現金支出を抑えてくれる便利な手段になります。
反対に、現金なら買わないと気付けたなら、そのポイントを次の生活必需品や、本当に欲しいものへ残せるでしょう。
目指すべきなのは、1ポイントも失わないことでも、ポイントを一切使わないことでもありません。
支払い方法が変わっても、自分にとって価値のある物を同じ基準で選べる状態です。
ポイントに使い道を決めてもらうのではなく、自分がポイントの使い道を決める。その小さな逆転が、無理に我慢せず、納得できる買い物を続けるための基準になるのではないでしょうか。
参考資料
リチャード・H・セイラー「Mental Accounting Matters」Journal of Behavioral Decision Making 12巻3号 183-206頁 1999年。メンタルアカウンティングの定義、資金の出所や用途へのラベル付け、支出カテゴリーなどを整理した基礎研究です。 Mental Accounting Mattersの書誌情報を確認する
中川宏道「ポイントと値引きはどちらが得か?:ポイントに関するメンタル・アカウンティング理論の検証」『行動経済学』第8巻 16-29頁 2015年。ポイント付与と値引きの知覚価値を、スーパーマーケットと家電量販店の実験で比較した研究です。 J-STAGEでポイントと値引きの研究を確認する
中川宏道「ポイントと現金の支払いに関する知覚コスト:消費者はどのようなときにポイントを使うのか?」『行動経済学』第9巻 12-29頁 2016年。ポイント残高と使用意図、支払方法の選択、支払いの知覚コストとの関係を検証した研究です。 J-STAGEでポイント残高と知覚コストの研究を確認する
Dilip Soman「Effects of Payment Mechanism on Spending Behavior: The Role of Rehearsal and Immediacy of Payments」Journal of Consumer Research 27巻4号 460-474頁 2001年。支払い方法の特徴と過去の支払いの認識、その後の購買意向との関係を検討した研究です。 IDEAS RePEcでSomanの研究概要を確認する