ふと思い浮かべた相手から突然連絡が届いたり、恋人とほぼ同じタイミングで同じことを口にしたりすると、「ここまで重なるなら、ただの偶然ではないのかもしれない」と感じることがあります。さらに似た出来事が続けば、最初は小さな驚きにすぎなかったものが、「やはり何か特別なつながりがあるのでは」という確信へ変わっていくこともあるでしょう。
こうした体験を考えるときに重要なのは、「偶然へどのような意味を与えたのか」と、「その意味を受け入れた後、自分の考えに合う証拠をどのように扱ったのか」を同一視しないことです。
本記事では、因果関係が確認されていない偶然の一致へ「運命」「特別な縁」「虫の知らせ」といった意味を強く読み込む部分だけを、説明上「共時性バイアス」と呼びます。これは、確証バイアスのように標準化された心理学用語として紹介するものではありません。
一方、確証バイアスは心理学で研究されてきた概念であり、既存の信念や期待、仮説に有利になる形で証拠を探したり解釈したりする傾向を指します。
両者を区別したうえで、偶然が生じ得た機会の数、二つの出来事へ共通して影響する原因、一致とみなす条件の広げ方なども個別に確認すると、「不思議だった」という体験そのものを否定せずに、何が実際に起きたことで、どこから自分の解釈が加わったのかを考えやすくなります。
共時性バイアスと確証バイアスの違い
共時性バイアスと確証バイアスの違いは、「意味づけ」と「証拠の扱い」という二つの層に分けると理解しやすくなります。
本記事でいう共時性バイアスは、直接の因果関係が確認されていない出来事が重なったとき、その一致そのものへ特別な意味を読み込む部分です。
確証バイアスは、それとは異なり、自分がすでに持っている信念や期待、仮説へ有利になる形で証拠を探索したり解釈したりする認知傾向です。Raymond S. Nickersonの1998年のレビューでも、confirmation biasは、既存の信念、期待、手元にある仮説へ偏る形で証拠を探したり解釈したりする傾向として整理されています。
| 比較点 | 本記事でいう共時性バイアス | 確証バイアス |
|---|---|---|
| 主に見る部分 | 偶然の一致への意味づけ | 信念に対する証拠の探索や解釈 |
| 典型的な例 | 思っていた人から連絡が来て「運命かもしれない」と感じる | 「運命だ」と考えた後、その考えを支持する出来事を重く見る |
| 本記事での範囲 | 特別な意味を読み込む部分だけに限定 | 既存の信念や仮説に有利な情報処理 |
| 学術上の位置づけ | 本記事で用いる説明上の呼称 | 心理学で研究されている概念 |
| 両者の関係 | 一つの体験の中で確証バイアスと重なることがある | 共時性とは無関係な信念でも生じる |
たとえば、恋人へ連絡しようと思ってスマートフォンを手に取った瞬間、相手からメッセージが届いたとします。
「今まさに連絡しようとしていた。二人はどこかでつながっているのかもしれない」と感じる部分は、本記事でいう共時性バイアスとして整理できます。
ところが、その後に「昨日も同じ曲を聴いていた」「先週も同じ店へ行きたいと言った」と、自分たちが特別だという考えに合う出来事を重く見る一方、連絡が何時間もすれ違った日や意見が一致しなかった場面をほとんど考慮しなくなったなら、今度は確証バイアスという観点が重要になります。
ただし、「最初に共時性バイアスが起こり、その後で確証バイアスが働く」という固定的な二段階モデルが確立されているわけではありません。
最初から「この人は運命の相手かもしれない」という期待を持っていれば、その期待へ合う一致を見つける段階から、確証的な情報処理が関係する可能性もあります。
用語として理解するときは二つを区別し、実際の体験を考えるときは互いに影響し得るものとして見ることが重要です。
本記事でいう共時性バイアスは意味づけだけを指す
本記事で「共時性バイアス」と呼ぶ範囲は、あくまで偶然への特別な意味づけです。
一致した出来事を自分の信念の強い証拠として扱うこと、偶然が起きる機会を少なく見積もること、二つの出来事へ共通して影響する原因を見落とすこと、予測と結果が合うように後から条件を広げることまで、すべてを一つの「共時性バイアス」へ含めるわけではありません。
これらは、同じ不思議な体験を検討するときに関係し得る、性質の異なる問題です。
この範囲を狭く保っておけば、「偶然へ意味を感じること」と「その意味が正しいと判断する過程」を混同しにくくなります。
起きた出来事と原因についての解釈を区別する
何年も会っていなかった友人を、ある日の朝にふと思い出したとします。
学生時代の出来事まで次々によみがえり、「元気にしているだろうか」と考えていた夕方、その友人から突然「久しぶり」と連絡が届きました。長い間ほとんど接点がなかっただけに、「なぜ今日だったのだろう」と胸がざわつき、何か理由を探したくなるでしょう。
ここでは、二つのことを区別できます。
一つは、「友人を思い出した日に、その友人から連絡が来た」という出来事です。
もう一つは、「離れていても意識がつながっていたために起きた」「何かが二人を再び会わせようとした」といった、その出来事の原因についての解釈になります。
前者が起きたからといって、後者まで同時に確認されたわけではありません。
その一方で、本人にとってその出来事が大切な意味を持つことまで否定する必要もないでしょう。偶然の連絡をきっかけに再会し、長く途切れていた関係が再び始まったなら、その日は本人にとって特別な一日になります。
「自分にとってどんな意味があるか」と「何が原因で起きたと確認できるか」は、別々の軸で考えられます。
この区別ができれば、不思議さや喜びを残したまま、原因についてだけ慎重に考えられます。
ユングの共時性とは同じではない
「共時性」という言葉には、カール・グスタフ・ユングが論じたシンクロニシティという分析心理学上の背景があります。
国際分析心理学会の解説では、ユングのsynchronicityは、心理的な内的出来事と外的な出来事が、通常の因果連鎖ではなく意味のある偶然によって結びつくという「acausal connecting principle」として説明されています。
これは、本記事で説明上用いている「共時性バイアス」と同じ概念ではありません。
ユングの共時性は、意味のある偶然をどのように理解するかという理論的な問いを含みます。一方、本記事では、偶然へ遭遇した人がその体験をどう解釈し、その後に証拠をどう評価するのかを認知の側から整理しています。
したがって、「認知的な偏りで説明できる部分があるから、ユングのシンクロニシティは否定された」と結論づけることも、「ユングが共時性を論じたから、個々の偶然には特別な原因がある」と結論づけることもできません。
同じ「偶然」を扱っていても、問いの置き方が異なるためです。
確証バイアスとは
確証バイアスは、既存の信念や期待、手元にある仮説へ有利になるよう、証拠を探したり解釈したりする傾向です。
本人が意図的に都合の悪い事実を無視しているとは限りません。
ある人が「この商品は優れている」と信じていた場合、好意的な評価には「やはり評判がいい」と納得する一方、批判的な評価には「この人は使い方を間違えただけではないか」と別の理由を付けることがあります。
恋愛でも、「この人は自分を大切にしている」という期待があれば、その期待へ合う出来事と、合わない出来事に対して、知らないうちに異なる評価基準を使う可能性があります。
重要なのは、どちらの結論が正しいかを最初から決めることではありません。
自分の信念を支持する証拠と、それに反する証拠へ、本当に同じ基準を適用しているかを見ることです。
Wasonの研究から分かる確認的な証拠だけでは足りない理由
確証的な仮説検証を考える際、P. C. Wasonが1960年に発表した研究は古典的な手がかりになります。
Wasonの実験では29人の参加者を対象に、単純な概念課題について、確認する証拠だけを使うのか、それとも自分の仮説を排除し得る証拠も用いるのかが調べられました。
よく知られている「2・4・6課題」では、参加者は提示された数字から、実験者が設定した規則を推測します。
そこで「2ずつ増える偶数だ」と仮説を立てた人が、「8・10・12」のように自分の予想へ合う数列だけを試せば、「その数列も規則に合う」という答えを受け取れるでしょう。
すると、「やはり自分の仮説は正しい」と感じたくなります。
しかし、その結果だけでは、「2ずつ増える偶数」という狭い規則より、さらに広い規則が存在する可能性を排除できません。
日常の判断でも同じです。
「この人は運命の相手だ」という考えに合う出来事を十個見つけることと、その考え以外の説明が成り立たないかを確かめることは、同じ作業ではありません。
自分の考えを支持する証拠を増やすことと、自分の考えを厳しく検証することは違います。
なぜ二つは同じ心理に見えやすいのか
共時性への意味づけと確証バイアスが同じものに見えやすいのは、実生活では両者が続けて現れることがあるためです。
一度だけ偶然が重なったなら、「不思議なことがあった」で終わるでしょう。
ところが、その出来事へ「運命」という意味を感じ、その後も同じ解釈へ合う出来事を重く受け取るようになれば、最初は弱かった感覚が少しずつ確信へ変わっていきます。
理解のため、本記事では次のような循環として整理します。
これは、既存研究でこのまま確立された一つの因果モデルではありません。
本記事で、意味づけと証拠選択が現実の体験の中でどのように連動し得るかを理解しやすくするために組み立てた説明モデルです。
また、不思議な偶然を評価するときには、確証バイアスだけを見ても十分ではありません。
偶然が成立し得た機会の数や、二つの出来事を同時に生み出した共通原因についても、それぞれ検討する必要があります。
一致が生じ得た機会の数を見る
ある一か月の間に、十人の知人について別々の日に思い出したとします。
九人については何も起こらず、一人だけが直後に連絡してきたなら、その一件は強く印象に残るでしょう。
ここで確認したいのは、「考えていた人から連絡が来た」という一致だけではなく、その一致が成立し得た機会がどの程度あったのかです。
私たちは日常の中で、多くの人を思い出し、さまざまな話題を口にし、何度も時計を見て、多数の情報へ触れています。
その一つ一つを「偶然が起こり得る機会」として意識しているわけではないため、一致した出来事だけを切り取ると、珍しさを判断するための分母が見えにくくなります。
Persi DiaconisとFrederick Mostellerによる「Methods for Studying Coincidences」は、偶然の一致を統計的にどのように研究するかを扱った研究で、Stanford Universityでは1988年12月のtechnical reportとして記録されています。
この研究が日常生活のすべての偶然を一つの理論で説明しているわけではありません。
ここで参考になるのは、偶然の珍しさを考える際に、目の前の一件だけでなく、どのような比較や発生機会を考慮するかという視点です。
共通原因は意味づけとは異なる層の問題
ある夫婦が別々の場所で過ごしている日に、二人とも「今夜は鍋が食べたい」と考えたとします。
結果だけを見れば、「離れているのに同じことを考えた」と不思議に感じるでしょう。
しかし、その日が急激に冷え込んでいたなら、同じ天候が二人の発想へ影響した可能性があります。
同じ会社で働く二人が似た企画を思いついた場合も、同じ顧客データ、市場環境、社内で共有された課題へ触れていたかもしれません。
ここで検討しているのは、「共時性バイアスの別の症状」ではありません。
偶然に見える二つの出来事へ、共通する原因が存在しないかを調べるという原因推論の問題です。
一つの体験を複数の層から考えることで、「全部まとめて一つのバイアス」と処理するよりも、何を確かめるべきかが明確になります。
ケーススタディで違いを見分ける
ここからは定義を繰り返すのではなく、自分の体験をどのように分解すればよいかを、四つの場面から考えていきます。
見るポイントは共通しています。
「どの部分で特別な意味を与えたのか」と、「その意味を信じた後に、賛成と反対の証拠を同じ基準で扱えているか」を確認してください。
| 出来事 | 意味づけとして見る部分 | 確証バイアスとして見る部分 |
|---|---|---|
| 考えていた人から連絡が来た | 「思念が通じた」「特別な縁がある」と感じる | 自分の考えを支持する事例を重く扱う |
| 恋人と同じことを考えた | 「運命の相手だから同じ発想になった」と考える | 一致した意見を信念の証拠として重視する |
| 欲しかった情報を偶然見つけた | 「必要な情報へ導かれた」と解釈する | 成功した発見を自分の考えの裏づけとして扱う |
| 嫌な予感が当たった | 「虫の知らせだった」と意味づける | 的中した事例を重視し、反する事例を十分に検討しない |
ケース1 考えていた人から連絡が来た
ある人が、数か月連絡を取っていない知人について思い出した直後、その人からメッセージを受け取ったとします。
「こちらが思ったことが相手へ伝わったのでは」と考える部分には、偶然への意味づけがあります。
次に確認したいのは、その一件を何の証拠として使っているかです。
「自分たちは特別なタイミングでつながっている」という考えの強い証拠として扱うのであれば、その考えに反する事例についても同じ基準で検討する必要があります。
ここでは、「不思議な一致だった」という感想と、「二人には特別な通信の仕組みがある」という一般的な結論の間に、検証する段階が必要でしょう。
ケース2 恋人と同じことを考えた
ある二人が夕食について話し、ほぼ同時に「今日は中華が食べたい」と口にしたとします。
「やっぱり気が合うね」と笑えば、その一致は二人にとって楽しい思い出になるでしょう。
そこから「運命の相手だから、考えることまで同じになる」と特別な原因を読み込むなら、本記事でいう共時性への意味づけが現れています。
さらに、「この人とは特別な関係であってほしい」という期待がある状態で、その期待を支持する出来事を重く解釈するなら、確証バイアスという視点も必要になります。
ここで言えるのは、既存の期待や信念に有利な証拠を探したり解釈したりする傾向があるということです。
「相手への思いが強いほど、一致の記憶が必ず強くなる」という量的な関係まで、この説明から断定する必要はありません。
偶然の一致を二人の思い出として大切にしながら、長期的な相性については約束、価値観、話し合い方など異なる材料から考えることができます。
ケース3 欲しかった情報を偶然見つけた
ある人が仕事上の問題について何日も悩み、答えを探していたとします。
帰宅途中に書店へ立ち寄り、何気なく棚へ目を向けると、まさに抱えている問題を扱った本が置かれていました。
「必要な情報へ導かれたのでは」と感じるなら、そこには偶然への意味づけがあります。
さらに、「自分には必要な情報を引き寄せる力がある」という考えを持ち、それに合う発見を自分の考えの証拠として積み上げるなら、確証バイアスという観点からも確認できます。
また、その本に気づいた理由については、一つの説明へ決める必要はありません。
数日前から同じ問題について考えていたため、関連する言葉や題名を普段より認識しやすい状態だったという可能性も考えられますが、この説明は本記事で引用している確証バイアス研究から直接確認した結論ではありません。
ここでは、複数考えられる説明の一つとして扱うのが適切でしょう。
ケース4 嫌な予感が当たった
朝から何となく落ち着かず、「今日は嫌なことがありそうだ」と感じていた日に、夕方になって仕事で大きなトラブルが起きたとします。
結果を知った瞬間、「やはり朝から何かを感じ取っていた」と考えるかもしれません。
不安とトラブルの一致へ「虫の知らせだった」という意味を与えることと、自分の直感には高い予測能力があると一般化することは同一ではありません。
「自分の直感はよく当たる」と判断するのであれば、的中した事例だけでなく、同じ条件で比較できる他の事例も確認する必要があります。
外れを分母から除外した状態では、的中率や予測の精度を適切に評価できないためです。
自分の体験を見分けるためのチェックポイント
ケーススタディの次は、自分自身の体験を確かめてみましょう。
不思議な出来事が起きた瞬間から、感情を抑えて分析する必要はありません。久しぶりの友人から連絡が来ればうれしいでしょうし、好きな人と同じことを考えていたなら、その一致を大切な思い出にして構いません。
確認が必要になるのは、その体験から原因や能力について一般的な結論を出したり、重大な判断を下したりするときです。
外れも分母へ入れているか
「友人のことを考えたら連絡が来た」という一件があるなら、同じ基準で比較できる他の機会も確認します。
「嫌な予感が当たる」と感じるのであれば、その判断を評価するために必要な比較対象をそろえることが重要です。
目的は、外れを探して自分の体験を否定することではありません。
的中率や珍しさを評価するなら、結果が一致した事例だけでは全体の頻度を把握できないためです。
結果が起きる前から具体的に予想していたか
出来事が起きた後になって、「そういえば予感していた」と感じることがあります。
そこで、結果が出る前の時点で、どこまで具体的な予想をしていたのかを確認します。
「今日は何か嫌なことがありそう」という広い予感なら、仕事、人間関係、交通、健康など、後から結びつけられる出来事は数多くあります。
一方、「今日15時の商談で契約が延期されると思う」と事前に記録していたなら、一致条件はかなり限定されるでしょう。
出来事の前に内容を残しておけば、結果を知った後から予想の意味を広げていないか確認しやすくなります。
一致の範囲を後から変えていないか
「考えた直後に連絡が来た」という表現にも幅があります。
数分後を想定していたはずなのに、実際の連絡が夜になった後で「その日のうちだから直後と同じ」と範囲を広げれば、一致条件は変化しています。
内容についても同様です。
「二人とも旅行を考えていた」という広い一致と、「二人とも同じ日に同じ町へ行きたいと考えていた」という一致では、条件の細かさが違います。
時間や内容の許容範囲を結果の後で変更していないかを見ると、偶然の一致をより適切な条件で評価しやすくなります。
共通原因が存在しないか
二つの出来事が重なったときには、両方へ影響した別の条件がないかも考えます。
家族が同じ料理を食べたくなったなら、共通する天候やテレビ番組の影響がなかったでしょうか。
同僚が似た企画を考えたなら、共通の顧客データや市場環境へ触れていた可能性があります。
これは共時性バイアスでも確証バイアスでもなく、出来事の原因について他の説明が成り立たないかを検討する作業です。
賛成と反対の証拠へ同じ基準を使っているか
「この人とは価値観が合う」と考えているなら、一致する情報だけではなく、その考えに反する情報へどのような基準を使っているかも見ます。
「自分の直感は正確だ」と考えるなら、的中した事例だけを証拠として扱わず、比較に必要な事例を同じ条件で検討します。
反対の証拠が一つ見つかったからといって、それまでの考えをすべて捨てる必要はありません。
重要なのは、自分に有利な情報には簡単に納得する一方、不利な情報だけへ極端に厳しい基準を要求していないかです。
何を証拠として持っているかだけでなく、その証拠を評価する基準まで確かめることが、確証バイアスを考えるうえで役立ちます。
記録を使って偶然を確かめる
自分に不思議な一致がどの程度起きているのかは、記憶だけでは判断しにくいものです。
そこで、結果が分かる前から一定期間記録してみる方法があります。
たとえば最初は一週間程度を目安にしてもよいでしょう。ただし、この「一週間」は共時性への意味づけや確証バイアスを科学的に判定できると実証された基準期間ではなく、生活へ取り入れやすい実践例にすぎません。
誰かを思い出したときには、
「9月16日18時30分、友人Aを思い出した。今日中に連絡が来る気がする」
というように、その時点で予想の内容と期限を残します。
その後、本当に連絡が来た場合だけではなく、何も起こらなかった場合についても同じ記録の中へ残してください。
嫌な予感について確かめるなら、「何となく嫌な感じ」とだけ書くのではなく、可能な範囲で何が起きると思ったのか、いつまでを予測範囲にするのかも先に決めておきます。
期間が終わったら、当たりの数だけを見るのではなく、記録した総数、比較対象となる事例、実際の時間差、共通原因として考えられることまで振り返ります。
「記憶では何度も起きている気がしたのに、記録すると違って見えた」と感じる人もいるでしょう。
反対に、「思っていたより一致がいくつかあった」と感じる場合もあります。
どちらでも構いません。
この方法の目的は、共時性を否定することでも、特別な能力を証明することでもありません。
結果が一致した出来事だけではなく、後から印象に残りにくい事例も同じ条件で並べ、自分が何を根拠に判断しているのか確かめやすくすることです。
偶然への意味づけや確証バイアスは悪いものなのか
「バイアス」という言葉には、取り除かなければならない欠点という印象があります。
しかし、確証バイアスについても、単純に「悪い癖」とだけ整理すれば十分というわけではありません。
Nickersonのレビューでは、確証バイアスのさまざまな現れ方だけでなく、その可能な説明やutility、disutilityについても検討されています。
一方、偶然への意味づけは確証バイアスそのものではありませんが、人生の中で個人的な意味を持つことがあります。
長く疎遠だった友人との偶然の再会を「縁だった」と感じたことで、もう一度関係を大切にしようと思う人もいるでしょう。
苦しい時期に偶然出会った言葉を、自分にとって意味のあるものとして受け取り、「もう少し続けてみよう」と行動を変える場合もあります。
そうした個人的な意味まで、確率だけを理由に否定する必要はありません。
問題になりやすいのは、「自分にとって意味がある」ということから、「客観的にもこの原因で起きた」「だからこの選択が正しい」という結論へ一気に進む場合です。
高額な契約では偶然と契約条件を区別する
初対面の営業担当者と出身地や誕生日が近いと分かれば、急に親近感が湧くことがあります。
さらに「今日お会いできたのも何かの縁ですね」と言われれば、商品の中身とは関係がないと分かっていても、相手を少し信用したくなるかもしれません。
それでも、高額な契約を結ぶかどうかは、価格、契約条件、必要性、解約方法、代替案などで判断する問題です。
偶然の共通点は、商品の価値や契約相手の信頼性を直接示しません。
恋愛では偶然と関係の質を同一視しない
恋愛では、連絡のタイミング、好きな音楽、誕生日、過去に訪れた場所などが重なると、関係を特別なものとして感じることがあります。
特に「この人とは特別な関係であってほしい」という期待がある場合、その期待に有利な出来事を証拠として解釈する可能性があります。
その気持ちが二人の距離を縮めることもあるでしょう。
ただし、長期的な関係について考えるときには、偶然の一致とは別に、約束を守るか、互いの境界を尊重できるか、意見が違うときに話し合えるかといった継続的な行動を見る必要があります。
偶然が多いことと、安心できる関係であることは同一ではありません。
投資では偶然と将来予測を区別する
気になっている企業の名前を短期間に何度も見たり、偶然目にした数字が株価と重なったりすると、「これは買うべきサインでは」と感じる場合があります。
そこから企業について詳しく調べ始めることはできます。
しかし、偶然が重なったこと自体は、その企業の将来価格や収益性を示す根拠ではありません。
事業内容、業績、価格水準、リスクなど、偶然とは異なる情報が必要です。
医療では偶然と医学的判断を分ける
健康について不安を抱えているとき、ある治療法の名称を短期間に何度も目にすると、「今の自分に必要だから現れているのかもしれない」と感じることがあります。
それをきっかけに医療専門職へ質問したり、情報を調べたりすることはできます。
一方、偶然だけを理由に必要な診療を中断したり、治療方針を変更したりすることは別の判断です。
症状、検査結果、期待できる利益、考えられるリスクなど、偶然とは異なる根拠を確認する必要があります。
偶然は調べ始めるきっかけにはなっても、重大な意思決定を確定する証拠にはしない。この線引きが実生活では重要です。
よくある質問
- 共時性バイアスは正式な心理学用語ですか
-
本記事では、確証バイアスのような標準化された認知バイアス名として扱っていません。
偶然の一致へ特別な意味を読み込みやすくなる部分を説明するため、「共時性バイアス」という呼称を本記事内で限定して使用しています。
そのため、「心理学ではこの現象を正式に共時性バイアスと呼ぶ」と理解するのではなく、本記事で用いる分析上のラベルとして読む必要があります。
- シンクロニシティと共時性バイアスは同じですか
-
同じものとして扱うべきではありません。
シンクロニシティは、ユングが意味のある偶然と非因果的な連関について論じた分析心理学上の概念です。
本記事でいう共時性バイアスは、それとは異なり、偶然を経験した人がその一致へ特別な意味を読み込む部分だけを整理するために使用しています。
- 偶然が何度も続けば特別な原因があると考えてよいですか
-
回数だけから特別な原因が確認されたとは判断できません。
一致が何度起きたかに加えて、同じ一致が生じ得た機会が全部でどの程度あったのか、一致の条件を結果の後から広げていないか、共通する原因がないかといった点も考える必要があります。
数回続いたという事実は「さらに調べてみよう」と思うきっかけにはなりますが、原因を特定する証拠とは別に考えたほうがよいでしょう。
- 恋愛でも共時性バイアスは起こりますか
-
本記事の定義で考えるなら、恋愛でも起こり得ます。
連絡のタイミング、趣味、過去の経験などが一致したとき、「この人とは運命で結ばれているから一致した」と特別な意味を読み込む部分が該当します。
さらに、「特別な関係であってほしい」という期待がある状態で、その期待を支持する証拠を有利に解釈するなら、確証バイアスという別の視点も必要です。
ただし、相手への感情の強さと一致の記憶の強さが、そのまま比例するとまで断定することはできません。
- 共時性バイアスを防ぐ方法はありますか
-
偶然へ何の意味も感じないようにする必要はありません。
判断を確かめたい場合には、偶然への意味づけと、その後の証拠評価を区別して考えます。
さらに、比較に必要な分母、一致とみなす時間や内容の範囲、共通原因、自分の信念に反する証拠まで確認すると、自分がどこから解釈を加えているのか見えやすくなるでしょう。
一定期間の事前記録も一つの方法ですが、一週間という期間自体が科学的な判定基準になっているわけではありません。
まとめ
本記事でいう共時性バイアスと確証バイアスは、一つの体験の中で連続して見えることがありますが、同じ概念ではありません。
共時性バイアスは、因果関係が確認されていない偶然の一致へ「運命」「特別な縁」「虫の知らせ」といった意味を強く読み込む部分だけを示す、本記事内の説明上の呼称です。
一方、確証バイアスは、既存の信念や期待、手元の仮説へ有利になる形で証拠を探したり解釈したりする認知傾向として研究されています。
さらに、不思議な一致を考えるときには、この二つだけですべてを説明しようとしないことも重要です。
一致が起きる機会をどう数えるのか、出来事へ共通する原因がないか、結果を知った後で一致条件を広げていないかといった論点は、それぞれ個別に検討したほうが分かりやすくなります。
偶然へ意味を感じること自体を否定する必要はありません。
久しぶりの友人から絶妙なタイミングで連絡が来れば、「何かの縁だったのかもしれない」と思ってもよいでしょう。好きな人との偶然の一致も、自分にとって大切な思い出になり得ます。
その一方で、「自分にとって意味があった」ということと、「この原因によって起きたと確認できる」ということは同じではありません。
重大な契約、恋愛上の重要な決断、投資、医療などへ進むときには、偶然とは異なる根拠へ戻ります。
不思議さは不思議さとして残し、原因については慎重に考え、重要な判断には別の証拠を使う。その区別ができれば、偶然を人生の彩りとして楽しみながら、自分の判断も自分で守っていけるのではないでしょうか。
参考資料
Raymond S. Nickerson「Confirmation Bias: A Ubiquitous Phenomenon in Many Guises」
P. C. Wason「On the Failure to Eliminate Hypotheses in a Conceptual Task」
Persi Diaconis and Frederick Mosteller「Methods for Studying Coincidences」
Stanford University Department of Statisticsで確認する
Joe Cambray「Synchronicity: An Acausal Connecting Principle」