行動経済学

単純接触効果は何回で効く? 「10回説」を研究から検証し逆効果になる回数も解説

単純接触効果を知ったあと、「では実際に何回接触すればいいのだろう」と考える人は少なくありません。営業なら、まだ諦めるのは早いのか、それともすでに連絡しすぎているのか迷いますし、恋愛や対人関係でも「もう少し会えば印象が変わるかもしれない」という期待が生まれるでしょう。

先に結論を示すと、万人に共通する最適回数は確認されておらず、「10回が上限」という科学的な共通ルールもなく、Bornsteinの研究に関連して紹介される「20.95回」も好意が最大になる最適回数ではありません。数字そのものが無意味なのではなく、「何を」「どのように」「どれほどの時間」提示した実験なのかを切り離して、営業訪問やデートの回数へ置き換えることが問題なのです。

インターネット上では「7〜10回で効果が最大になる」「10回を超えると頭打ちになる」「20回がピーク」といった説明も見つかります。数字があると判断しやすくなるため、仕事や人間関係で迷っているときほど頼りたくなりますが、心理学研究を確認すると、接触回数と好意の関係は一つの数字だけで説明できるほど単純ではありません。

この記事では、Robert B. Zajoncの原典研究、Robert F. Bornsteinのメタ分析、MorelandとBeachの対人研究、日本で行われた提示回数研究、さらに近年のメタ分析を手がかりに、「何回から効くのか」「10回説はどこまで正しいのか」「20回を超えると逆効果なのか」を整理します。そのうえで、研究結果そのものと、営業や恋愛などで必要になる実務的な判断を分けながら、現実では何を目安にすればよいのかまで考えていきます。

TABLE OF CONTENTS
目次

単純接触効果は何回で起こる?

単純接触効果とは、ある刺激へ反復して接触することで、その刺激に対する好意的な評価が高まりやすくなる現象です。

Robert B. Zajoncは1968年の代表的論文で、刺激への反復接触と態度変化との関係を体系的に扱いました。その後、文字、図形、顔、音楽、商品など多様な対象で研究が重ねられ、単純接触効果は社会心理学だけでなく認知心理学などでも検討されてきました。

そこで気になるのが、「では何回目から効果が始まるのか」という点でしょう。

研究から確認できる範囲では、「3回目」「5回目」のような万人共通の発動回数は確立されていません。接触が一定回数へ達するまで何も起こらず、そこを境に好意が急に生まれるという仕組みとして捉えるのは適切ではないのです。

一回の先行接触でも、未接触条件との間に評価差が確認された研究があります。

たとえばRuggieriとBocaが2013年に発表した商品配置の研究では、高校生を対象として映画内のブランド露出とブランド態度との関係が検討されました。高関与条件では、一回のブランド露出後でも未接触条件との間に肯定的な態度差が確認されています。

ただし、ここでいう「一回」を日常的な「一度会う」と同じ意味にしてはいけません。

実験では、参加者は15〜20分程度の映画抜粋を3本視聴し、そのうち商品配置を含む対象の抜粋内で、各ブランドが約1〜2分表示されていました。測定されたのも人物への信頼関係ではなく、映画内に登場したブランドへの態度です。

したがって、この研究が直接示しているのは、一回のブランド露出でも特定条件では評価差が生じたというところまでです。「初対面で一度会えば単純接触効果によって好かれる」「一回の面談で信頼が形成される」といった話へ広げることはできません。

この違いは小さく見えて、かなり重要です。

「一回から効く」と聞けば、ある営業担当者は「初回訪問だけでも心理効果を期待できる」と考えるかもしれません。しかし研究でいう一回とは、何をどれほどの時間提示したのかまで含めた実験条件であり、「1」という数字だけを取り出すことはできないのです。

また、単純接触効果には、本人が刺激への接触を明確に意識していない状況を扱う研究もあります。

日本心理学会の解説では、この現象を説明する有力な考え方の一つとして「知覚的流暢性の誤帰属」が紹介されています。繰り返し接した刺激は知覚的に処理しやすくなり、その処理のしやすさから生じた感覚を、対象そのものへの好ましさとして受け取るという説明です。

とはいえ、知覚的流暢性だけですべての単純接触効果を説明できると確定しているわけではありません。日本心理学会の同じ解説でも、接触経験を明確に意識している場合にも好意が生じることなど、知覚的流暢性の誤帰属だけでは整理しきれない現象が紹介されています。

単純接触効果は、階段の10段目を踏んだ瞬間にスイッチが入る現象ではありません。

初期の接触から評価差が生じる可能性はあるものの、その現れ方は対象や提示方法によって異なります。この前提を持っておくと、「まだ3回だから意味がない」「10回まで行けば必ず効く」という数字中心の見方から離れやすくなるでしょう。

「10回で効果が頭打ち」は本当なのか

ビジネスや恋愛について単純接触効果を説明する記事では、「ザイアンス効果は10回程度で頭打ちになる」と語られることがあります。

さらに説明が簡略化されると、「10回までは会うほど好かれる」「11回目以降は意味がない」といった具体的なルールへ変わります。

しかし、研究を確認すると、10回をすべての刺激や人間関係に共通する上限とする科学的なルールは確認できません

ザイアンスの初期研究では、刺激への提示頻度を変えながら態度評価が調べられており、後続研究でも0回、1回、2回、5回、10回、25回など複数の提示条件が使われています。つまり、10回は研究で用いられてきた条件の一つではあっても、「10回を超えたら単純接触効果が終了する」と定義された境界ではありません。

さらに、Bornsteinが1989年に発表したメタ分析では、1968年から1987年までに蓄積された単純接触研究が統合され、効果量に影響するさまざまな条件が検討されました。刺激の種類や複雑性、提示時間、提示順序、評価までの時間、最大提示回数などによって効果が変化するため、一つの回数だけを切り出して一般則にすることはできません。

ここで、「では10回説は完全な間違いなのか」と反対方向へ断定する必要もありません。

単純接触研究の中には、比較的少ない提示回数で評価上昇が大きく現れ、その後の追加的な変化が小さくなる結果もあります。反復を増やせば、最初の一回と同じ幅で永遠に好意が上がるわけではないという考え方自体には研究上の背景があります。

ただし、それと「10回が普遍的な上限」は別の主張です。

研究室で同じ刺激を繰り返し見ることと、営業担当者と10回会うことでは、一回の中に含まれる情報が違います。ある顧客との10回目の面談で初めて具体的な課題が分かる場合もあれば、同じ営業メールを10回受け取った時点ですでに「また同じ内容だ」と感じている場合もあるでしょう。

数字が広まりやすい背景には、人の迷いもあります。

「条件によるので一概にはいえない」と説明されるより、「10回まで」と言われたほうが、次に何をすればよいか決めやすくなります。営業で断られた人なら、「まだ4回だから続けよう」と思えれば不安が減りますし、恋愛でも「あと数回会えば変わるかもしれない」という希望を持ちやすいでしょう。

それでも、分かりやすさと研究上の確かさは同じではありません。

「10回」は研究で使われることのある回数ですが、人間の好意がそこで止まる共通上限ではないのです。

この違いを押さえておけば、「10回説を信じるか否定するか」という二択ではなく、その数字がどの条件から出てきたのかを見ることができます。

研究では20回付近でピークになった例もある

「10回が絶対ではないなら、20回が正解なのか」と考える人もいるでしょう。

実際、単純接触効果について調べると「20回」や、さらに細かな「20.95回」という数字が登場します。ただし、この二つも同じ意味ではありません。

まず、Bornsteinの1989年のレビューについて、JakeschとCarbonが2012年に発表したPLOS ONEの論文では、Bornsteinが扱った研究の「mean ceiling」が20.95 exposuresであり、最大提示回数は10回から50回の範囲だったと紹介されています。

ここで最も注意したいのが、「mean ceiling」という数字の意味です。

20.95回は、好意が平均して最大になる最適回数として算出された数字ではありません。後続論文で紹介されているのは、Bornsteinのレビューに含まれた研究で設定された最大提示回数側の平均であり、「人は20.95回接触すると最も好きになる」という意味ではないのです。

20.95という細かな数字を見ると、いかにも精密な心理法則のように感じるかもしれません。

「20回より20.95回のほうが研究らしい」と受け取ってしまうのも無理はありませんが、数字が細かいほど重要なのは、その数字が何を測ったものなのかを確認することです。

一方、日本には、実際に20回付近で好意的評価が高くなった研究があります。

長田美穂・小林茂雄による2007年の研究では、衣服画像を使い、提示回数を最大40回まで増やして単純接触効果がどのように変化するかが検討されました。実験1と実験3では20回条件で単純接触効果が最も明確に現れ、30回以上では好意的評価が低下しています。

ここだけを読むと、「やはり20回が最適ではないか」と思いたくなるでしょう。

実際、この研究では衣服を対象とした条件について20回前後がピークになったと論じられています。しかし、刺激は衣服の画像であり、閾下条件など実験固有の提示方法が使われています。

そのため、「衣服画像ではこの条件で20回付近のピークが確認された」と「人間への接触も20回が最適」は分けなければなりません。

さらに、より極端な提示回数を扱った研究を見ると、単純な「20回上限説」では説明できない結果があります。

Zajonc、Crandall、Kail、Swapが1974年に発表した研究では、GOOD-BAD尺度において、243回という非常に高い提示頻度まで刺激への肯定的評価と接触回数との正の単調関係が確認されました。一方、別の評価尺度では異なる変化が見られており、何を「好ましさ」として測るかによって結果が変わることも示されています。

つまり、20回という数字にも研究上の根拠はありますが、「人間共通の最適回数」という根拠ではありません。

研究ごとの違いを整理すると、次のようになります。

ネット上で言われる回数 研究条件では何が確認されているか 営業や恋愛へそのまま使えるか
1回から効く Ruggieri & Bocaでは、高関与条件の高校生を対象とした映画内ブランド露出で、一回の露出後にも未接触条件との態度差が確認されています そのまま一般化できません。ブランドへの一回の露出を扱った研究であり、一度会うことや対人信頼を測ったものではありません
10回で頭打ち 10回を提示条件として使う研究はありますが、10回を普遍的な上限とする共通ルールは確認されていません 直接転用できません。実験刺激の提示回数と訪問・電話・デートの回数では一回の内容が異なります
15回まで伸びる Moreland & Beachでは、人物が教室へ0回、5回、10回、15回出席し、接触回数の増加に伴って対人評価が高くなりました 限定的です。研究協力者は学生と交流せず、同じ空間で見かける低負荷な接触でした
20回付近がピーク 長田・小林の衣服画像研究では、実験1と実験3で20回条件が最も明確となり、30回以上で評価が低下しました 直接転用できません。衣服画像と双方向の人間関係では刺激も負担も異なります
20.95回が最適 後続研究では、Bornsteinのレビューにおける最大提示回数側のmean ceilingが20.95回と紹介されています 「20.95回で好意が最大」という数字ではないため、実務の最適接触回数には使えません
20回を超えると逆効果 逆U字型と整合する研究がある一方、GOOD-BAD尺度で243回まで正の関係が確認された研究もあります 一律の境界は設定できません。対象や測定尺度、接触方法を確認する必要があります

この表で重要なのは、「1回」「10回」「15回」「20回」のどれが正しいのかを決めることではありません。

それぞれの数字は、異なる研究質問に対する答えです。

条件を取り除いて数字だけを並べれば矛盾して見えますが、何を対象に、どのくらいの時間、どんな状況で接触させたのかまで見ると、研究によって数字が違う理由が見えてきます。

なぜ研究によって回数が違うのか

単純接触効果の研究を読み比べると、少ない提示回数でも評価差が生じる研究がある一方、20回前後まで好意が高まり、その後に低下する研究もあります。

これは、片方だけが正しく、もう片方が間違っているという話ではありません。

Montoyaらが2017年に発表したメタ分析では、81論文から268の曲線推定を分析し、反復接触と好意との関係には正の一次効果と負の二次効果があり、全体として逆U字型と整合する結果が確認されました。同時に、その形は視覚刺激では確認されたものの聴覚刺激では同じように現れないなど、条件による違いも報告されています。

要するに、「何回か」という数字を理解するには、その数字を動かす条件を見る必要があります。

人・顔・音楽・商品など対象が違う

第一に、研究によって刺激そのものが違います。

無意味な文字、漢字、図形、顔写真、衣服、音楽、実際の人物では、一回の接触で受け取る情報量や性質が同じではありません。

単純な図形なら、数回見ることで形状をかなり把握できるかもしれません。一方、人の場合には、同じ人物であっても表情、声、服装、振る舞い、その日に交わす言葉が変化するため、接触のたびに新しい情報が加わります。

ただし、「複雑な刺激なら必ず20回以上効果が続く」と断定することもできません。

Bornsteinのメタ分析やその後の研究では、刺激の種類や複雑性が単純接触効果へ関係することが検討されていますが、刺激が複雑であるという一点だけから最適回数を決めることはできないからです。

音楽を考えると、この違いを実感しやすいでしょう。

最初は何とも思わなかった曲でも、何度か聞くうちにサビの流れが分かり、細かな音に気づいて好きになることがあります。しかし同じ営業メールを何度も読む場面では、理解が深まるより先に「また同じ話か」という負担を感じるかもしれません。

同じ10回でも、何に10回接触したのかによって心理的な経験は変わります。

したがって、研究の回数を見るときは、刺激の種類を数字と同じくらい重視する必要があります。

接触時間や認識の程度が違う

第二に、一回あたりの接触時間や、刺激をどの程度認識しているかが違います。

一瞬だけ画像が表示される実験と、対象を数秒間観察する実験では、どちらも一回と数えられていても、一回に含まれる処理量は異なります。

Bornsteinのレビューでも、提示時間や刺激の認識などは単純接触効果の大きさと関係する条件として扱われています。後続研究においても、刺激の種類だけでなく提示変数や測定変数によって、効果の強さや飽和の仕方が変化すると考えられています。

ここで関係するのが、先ほど触れた知覚的流暢性です。

初めて見る対象は処理に少し時間がかかりますが、以前にも接した対象なら、脳は比較的スムーズに処理できます。この処理しやすさが対象への親しみや好ましさとして受け取られるというのが、知覚的流暢性の誤帰属による説明です。

ある会社の名前を初めて聞いたときには、「どこの会社だろう」と少し身構えるかもしれません。

ところが広告や記事などで何度か目にすると、「知っている名前だ」という感覚が生まれます。会社の品質を詳しく調べていなくても、未知の対象ではなくなったことで、以前ほど警戒しなくなるという可能性があります。

とはいえ、この説明だけで単純接触効果のすべてが決まるわけではありません。

重要なのは、「10回」という数字の裏側には、一回が0.05秒なのか数秒なのか、意識的に見ているのか、ほとんど認識していないのかという条件まで含まれていることです。

研究でいう接触回数とは、単なる正の字の本数ではありません。

そのため、SNSでアイコンを10回見たことと、顧客へ10回電話したことを同じ量の接触として扱うことはできないのです。

初期印象が違う

第三に、接触前の印象も結果を左右する可能性があります。

ここでは、「嫌われている人でも会い続ければ好きになってもらえる」という単純化に注意が必要です。

Brickmanらが1972年に行った研究では、初期の評価や態度が反復接触後の評価へ関係することが検討され、少なくとも一部の条件では、当初から中立または肯定的な刺激で評価改善が生じることが示唆されました。

一方、Zajonc、Markus、Wilsonが1974年に行った研究では、初期評価が否定的な刺激でも、単純な反復接触によって評価がより肯定的になる条件が確認されています。例外となったのは、刺激が提示されるたびに否定的な感情が関連づけられる条件でした。

この二つを踏まえると、「最初に少し嫌われたら必ず悪化する」とも、「どれほど嫌われていても会い続ければ改善する」とも断定できません。

研究結果は一方向ではないのです。

そして、実生活ではさらに事情が複雑になります。

ある営業担当者に対して顧客が「知らない人だから少し警戒している」と感じている状態と、「断ったのに連絡を続けてくるので不快だ」と感じている状態は同じではありません。

前者なら、丁寧な接触によって未知性が減るという可能性があります。後者では、接触そのものが新しい不快体験となっているため、回数を増やすことを単純接触効果の研究から正当化することはできません。

恋愛でも、「まだよく知らない」と「もう連絡してほしくない」は別の状態です。

単純接触効果は、相手から示された拒否を無効にする心理法則ではありません。

初期印象の研究を読むときには、実験刺激への評価と、意思を持つ相手との双方向関係を分ける必要があります。

接触回数を増やしすぎると逆効果になる?

単純接触効果が反復によって生じるなら、「できるだけ多く接触したほうがよい」と考えたくなるかもしれません。

しかし研究では、接触回数が増えれば好意が際限なく上昇し続けるとは確認されていません。

Montoyaらの2017年のメタ分析では、反復接触と好意の関係について、全体として正の一次効果と負の二次効果が確認され、逆U字型と整合する結果が示されました。つまり、接触初期には好意が上昇しても、ある程度を超えると伸びが弱まり、条件によっては低下へ向かるというパターンです。

ただし、ここにも共通の「反転回数」はありません。

同じメタ分析では刺激の種類による違いがあり、すべての条件でまったく同じ逆U字型になるわけではないことも示されています。したがって、「20回目が頂点で21回目から低下する」といった読み方はできません。

長田・小林の衣服画像研究では、実験1と実験3で20回条件が最も明確となり、30回以上では好意的評価が下がりました。これに対して、Zajoncらの1974年研究ではGOOD-BAD尺度で243回まで正の単調関係が確認されているため、提示過多による変化は対象や尺度によって異なります。

なぜ増やしすぎると評価が低下する場合があるのでしょうか。

接触初期では、知らない刺激が見慣れた刺激へ変わるため、未知性や処理の負担が小さくなります。一方、すでに十分見慣れたあとも同じ刺激が繰り返されれば、新しさが失われ、退屈や飽きが目立つという可能性があります。

好きな音楽でも、数回聞くうちに「この曲いいな」と感じることがありますが、一日中同じ曲だけを強制的に聞かされたなら疲れてしまうでしょう。

実生活の対人接触では、さらに「相手が支払うコスト」が加わります。

広告画像なら数秒で通り過ぎますが、電話が来れば仕事を止めなければならず、訪問を受ければ応対時間が必要です。メッセージも、読むだけで済むものと、丁寧な返信を考えなければならないものでは負担が違います。

この部分は、単純接触実験そのものが「何分の負担で逆効果になる」と測定した結果ではありません。

そのため、ここから先は研究結果をそのまま言い換えるのではなく、研究の回数を実生活へ直接転用できないことを踏まえた実務的な判断として考える必要があります。

ある見込み客が最初の情報提供を「参考になる」と感じても、翌日も翌々日も同じ催促が続けば、「自分の都合を考えていない」と感じるかもしれません。

この場合には単なる刺激への飽きだけでなく、連絡によって新たな不快感が発生しています。

したがって実生活では、逆効果の分岐点を「20回」と固定するのではなく、接触後の反応が改善しているのか、それとも負担や拒否の兆候が強くなっているのかを見るほうが現実的でしょう。

これは「接触後の反応のほうが回数より科学的に重要だ」という比較実験の結論ではありません。

研究室の刺激提示とは異なる双方向関係を扱うために、回数だけでは足りない情報を補う実務的な視点です。

営業や恋愛に「10回」「20回」をそのまま使えない理由

単純接触効果の回数が最も誤解されやすいのは、営業や恋愛などの対人関係でしょう。

数字があれば行動を決めやすいため、「10回までは営業してよい」「15回会えば親しみが生まれる」「20回まで連絡したほうがよい」と考えたくなります。

ところが、単純接触研究で扱われる「提示」と、現実のコミュニケーションには大きな違いがあります。

この違いを理解するうえで分かりやすいのが、MorelandとBeachによる1992年の研究です。

この研究では、4人の女性が大学の大規模な授業へ、それぞれ0回、5回、10回、15回出席しました。単純接触の条件を保つため、女性たちは他の学生と交流せず、単に授業へ出席しています。学期末には学生が女性たちを評価し、反復的な接触によって人物へのattractionやsimilarityが高くなる結果が確認されました。

報告されているattraction indexは、0回条件から順に3.62、3.88、4.25、4.38と上昇しています。

報告されているattraction indexは、 0回条件から順に3.62、3.88、4.25、4.38と 上昇しています。 3.62 3.88 4.25 4.38 0回 5回 10回 15回
報告されているattraction indexは、0回条件から順に3.62、3.88、4.25、4.38と上昇しています。

この数字を見ると、「15回会えば好意が高くなる」と読みたくなるかもしれません。

しかし、15回はその研究で設定された最大条件です。20回や30回の条件と比較していないため、「15回が最適」「16回から効果が下がる」とは分かりません。

さらに重要なのは、女性たちが受講生へ15回話しかけたわけではない点です。

学生は同じ教室で姿を見るだけで、営業電話に応じたり、食事の誘いを断ったり、メッセージへ返信したりする必要はありませんでした。つまり、接触回数だけでなく、接触によって相手へ要求するものが現実の営業や恋愛とは異なります。

この研究が直接示しているのは、交流を伴わない人物への反復接触でも、人物評価が変化し得るというところまでです。

「相手から返信があることのほうが接触回数より科学的に重要だ」という比較を行った研究ではありません。

したがって、実生活について「相互性が接触回数より重要」と研究結果として順位づけるのも避ける必要があります。

そのうえで現実の人間関係を考えるなら、回数だけでなく、相互性や拒否のサインも判断材料に含める必要があるでしょう。

これはMorelandとBeachの研究から直接導かれた結論ではなく、意思を持つ相手との双方向関係へ研究を応用するときに必要となる実務上の判断です。

営業なら、相手がこちらからの連絡をどう受け取っているのかを確認します。

以前は形式的な返信だけだったのに、相手から具体的な質問が増えているなら、関係に何らかの変化が起きています。一方、明確に断られているのに「研究では15回まで効果が上がったから」と訪問を続けることは、MorelandとBeachの実験から支持されません。

恋愛でも同様です。

相手からも連絡が来る関係と、自分から送らなければ何も返ってこない関係を、同じ「接触10回」と数えることはできます。しかし、その数字だけでは二つの関係の違いを表現できません。

ここで大切なのは、回数を捨てることではなく、回数に過剰な意味を持たせないことです。

研究で数えられる「提示回数」と、現実の「コミュニケーション回数」は同じ単位ではありません。

この区別ができれば、「研究で15回だから15回会う」「20回が平均だから20回連絡する」といった機械的な応用を避けられるでしょう。

実生活では回数より何を目安にするべきか

ここからは、単純接触研究が直接示した結論ではなく、研究で確認された回数を営業や対人関係へそのまま転用できないことを踏まえた実務上の判断基準として整理します。

研究外の提案を混ぜる理由は、「回数は一般化できません」で終わると、実際に行動する人が次の判断をできないからです。

ある営業担当者が「10回という科学的上限はない」と理解しても、「では明日また連絡してよいのか」という迷いは残ります。恋愛でも、「15回が最適ではない」と分かっただけでは、今の接触を続けるべきか判断できないでしょう。

そこで実生活では、接触回数そのものを記録しながら、別の情報も一緒に見ます。

まず確認したいのが、接触後に何が変わったのかです。

営業なら、返信が以前より具体的になったか、相手から質問が出るようになったか、面談へ進んだか、相手側から新しい相談が来たかなどを確認します。

ある会社へ数回情報提供を行い、最初は「ありがとうございます」だけだった返信が、やがて「この部分は当社でも使えそうなので詳しく教えてください」に変わったなら、単なる回数以外の変化が起きています。

反対に、以前は返事があったのに返信がなくなり、さらに明確な断りが出ているのであれば、「まだ7回しか接触していない」という数字を優先する理由はありません。

恋愛や友人関係でも、同じように反応を観察できます。

こちらから話しかけなくても相手から話題が出るようになったのか、返信が形式的な一言だけなのか、それとも相手から質問が返ってくるのかを見ると、単純な回数では表現できない関係の動きを捉えやすくなります。

ただし、ここでも「相互性こそ科学的な最重要指標」と言っているわけではありません。

単純接触研究の回数と相互性を直接競わせた結果ではなく、双方向の関係を現実的に判断するために利用する追加情報です。

次に見るのが、一回あたりの負担でしょう。

SNSの投稿を数秒見ることと、30分の営業電話へ応対することでは、同じ一回でも相手が使う時間や注意が違います。

そのため、接触回数を考えるなら、「何回」という数字だけでなく、一回ごとにどの程度の応答を要求しているかまで考えます。

毎回長い面談を求めるより、必要に応じて短い情報提供へ切り替える方法もあるでしょう。

さらに、長期間にわたって接点を保つ場合には、内容が単調になっていないかも確認します。

これは「毎回内容を変えれば単純接触効果が科学的に強まる」と証明されているという意味ではありません。

ただ、同じ催促だけを繰り返せば、相手にとって毎回の接触が新しい価値を持たなくなります。実務上は、根底の目的を変えずに、あるときは事例、別の機会には業界情報というように、相手に意味のある内容があるかを点検する余地があります。

そして、もっとも明確に扱うべきなのが拒否です。

「今は必要ありません」「連絡を控えてください」と伝えられている場合、それを「まだ単純接触効果の回数が足りない」と解釈するべきではありません。

単純接触研究が示しているのは反復提示と評価の関係であり、相手の意思を無視して接触を継続することの有効性ではないからです。

そこで実生活では、接触回数そのものを記録しながら、 別の情報も一緒に見ます。 まず確認したいのが、接触後に何が変わったのかです。 次に見るのが、一回あたりの負担でしょう。 さらに、長期間にわたって接点を保つ場合には、 内容が単調になっていないかも確認します。 そして、もっとも明確に扱うべきなのが拒否です。
実生活で見るべきなのは「あと何回できるか」だけではなく、「次の一回に合理的な理由があるか」です。

実生活で見るべきなのは「あと何回できるか」だけではなく、「次の一回に合理的な理由があるか」です。

回数は経過を把握するデータにはなります。しかし、相手の反応や状況を無視して接触し続けるための許可証にはなりません。

よくある質問

単純接触効果は何回目から起こりますか?

万人共通の「○回目から」という閾値は確立されていません。

一回の先行露出後でも未接触条件との評価差が確認された研究はあります。RuggieriとBocaの2013年研究では、高関与条件の映画内ブランド露出において、一回の露出後にブランド態度の差が確認されました。

ただし、これはブランド露出についての限定された研究であり、「一度会えば人から好かれる」という結果ではありません。

したがって、「3回までは何も起こらず、4回目から効く」というような共通の発動回数を設定することはできないでしょう。

ザイアンス効果は10回までというのは本当ですか?

10回をすべての対象に共通する上限とする科学的なルールは確認されていません。

単純接触研究では10回を提示条件として使用する実験もありますが、より多い提示回数を扱った研究も存在します。効果量は刺激の種類、提示時間、複雑性など複数の条件によって変化するため、「10回を超えれば意味がなくなる」と一律にはいえません。

10回という数字を見るときには、「何を10回提示したのか」をセットで確認する必要があります。

20.95回が単純接触効果の最適回数ですか?

最適回数を意味する数字ではありません。

JakeschとCarbonの2012年論文では、Bornsteinの1989年レビューについて、mean ceilingが20.95 exposuresで、最大提示回数の範囲が10回から50回だったと紹介されています。

したがって、20.95を「人間の好意が最大になる平均回数」と解釈するのは適切ではありません。

細かな数字だからこそ、何の平均なのかまで確認する必要があります。

20回以上会うと逆効果になりますか?

20回を超えた瞬間に逆効果になるという共通の境界はありません。

長田・小林の衣服画像研究では、実験1と実験3で20回条件が最も明確となり、30回以上で好意的評価が低下しました。一方、Zajoncらの1974年研究では、GOOD-BAD尺度について243回まで正の単調関係が確認されています。

対象や評価尺度が異なるため、20回という数字だけから実生活の逆効果を予測することはできません。

嫌われている相手にも単純接触効果はありますか?

「嫌われていても接触し続ければ好きになる」とは言えません。

初期評価の影響を示唆する研究がある一方、Zajonc、Markus、Wilsonの1974年研究では、初期評価が否定的な刺激でも、毎回否定的感情と関連づけられる条件を除き、反復接触によって評価がより肯定的になる結果が報告されています。

したがって、研究結果は一方向ではありません。

また、現実の人間関係で明確な拒否が示されている場合は別です。「接触を望まない」という意思を、単純接触効果を理由に無視することは研究から正当化できません。

営業では何回連絡するのがよいですか?

科学的に共通する「営業は○回が最適」という回数は確認されていません。

研究室で画像を10回見ることと、顧客へ電話を10回かけることでは、一回に伴う時間、注意、感情的な負担が異なります。

実務では、接触回数を記録しつつ、返信内容、質問、面談への移行、明確な断りなど、相手側の反応も併せて判断する方法が現実的でしょう。

これは単純接触研究が「反応のほうが回数より重要」と直接証明したという意味ではなく、実験の提示回数を営業へそのまま移せないために必要となる実務上の判断です。

LINEやSNSで見るだけでも単純接触効果は起こりますか?

視覚的な反復接触だけでも、人物評価が変化する可能性はあります。

MorelandとBeachの研究では、研究協力者が学生と交流せず、単に同じ授業へ繰り返し出席する条件でも、接触回数に伴う人物評価の変化が確認されました。

そのため、SNS上で同じ人物やブランドを繰り返し見ることにも、単純接触効果が関係するという可能性があります。

ただし、タイムラインで自然に姿を見ることと、DMを何通も送ることは同じ接触ではありません。後者では返信の負担や相手の意思が加わるため、MorelandとBeachの非交流的な接触条件をそのまま当てはめることはできないでしょう。

まとめ

単純接触効果について、「結局何回が正解なのか」という問いに、万人共通の数字を答えることはできません。

一回のブランド露出でも評価差が生じた研究があり、MorelandとBeachの対人研究では15回条件まで人物評価が高まりました。また、長田・小林の衣服画像研究では20回条件で単純接触効果が最も明確になり、30回以上で評価が低下しています。さらに、Zajoncらの1974年研究ではGOOD-BAD尺度で243回まで正の関係が確認されており、回数と評価の関係は研究条件によって異なります。

したがって、「10回で頭打ち」「20回が最適」「21回目から逆効果」という説明はいずれも一般化しすぎています。

とくに、Bornsteinの研究に関連して紹介される20.95回については注意が必要です。これは後続研究でmean ceilingとして紹介されている数字であり、人間の好意が最大になる平均回数ではありません。

研究から確実に持ち帰りたいのは、「回数が無関係」という結論ではなく、回数の意味は対象や提示条件から切り離せないという点でしょう。

営業や恋愛について考える場合には、そこから一段、研究と実務を分ける必要があります。

相手からも会話が生まれているか、連絡が負担になっていないか、拒否が示されていないかを確認することは、単純接触研究が「接触回数より重要」と順位づけた科学的結論ではありません。実験室の刺激提示を意思のある相手との双方向関係へそのまま移せないからこそ、現実で追加して見るべき判断材料です。

「10回まで頑張ればよい」と決めれば、迷いは少なくなるかもしれません。

それでも、本当に役立つのは数字へ安心を預けることではなく、「この10回は、研究でいう10回と同じなのか」「次の一回は相手にとってどのような経験になるのか」と考えることではないでしょうか。

単純接触効果を数字だけの心理テクニックとして扱わず、研究条件まで理解して使えば、「何回なら人を動かせるか」という発想から、「人はどのような接触によって親しみを感じ、どこから負担を感じるのか」という、より現実的な問いへ進むことができます。

参考資料

Robert B. Zajonc(1968)「Attitudinal Effects of Mere Exposure」
単純接触効果研究の出発点となった代表的論文です。反復接触によって刺激への態度がどのように変化するのかを体系的に扱っています。
Zajoncの研究情報を確認する

Robert F. Bornstein(1989)「Exposure and Affect: Overview and Meta-Analysis of Research, 1968–1987」
単純接触効果研究を統合し、刺激の種類、複雑性、提示時間などの条件と効果との関係を検討した代表的なメタ分析です。
Bornsteinの論文情報を確認する

Martina Jakesch & Claus-Christian Carbon(2012)「The Mere Exposure Effect in the Domain of Haptics」
Bornsteinのレビューにおけるmean ceilingの20.95 exposuresと、最大提示回数が10〜50回だったことを確認できる後続論文です。
PLOS ONEで全文を読む

Richard L. Moreland & Scott R. Beach(1992)「Exposure Effects in the Classroom: The Development of Affinity Among Students」
大学の授業で0回、5回、10回、15回という人物への非交流的な接触条件を設定した対人単純接触研究です。
INIST-CNRSで論文情報を確認する

長田美穂・小林茂雄(2007)「呈示回数増加による閾下呈示における単純接触効果」
衣服画像について最大40回まで提示し、20回条件と30回以上の条件で好意的評価がどのように変化したかを検討した研究です。
J-STAGEで全文を読む

R. Matthew Montoyaほか(2017)「A Re-examination of the Mere Exposure Effect: The Influence of Repeated Exposure on Recognition, Familiarity, and Liking」
81論文から268の曲線推定を分析し、単純接触効果の逆U字型関係や刺激条件による違いを再検討したメタ分析です。
DOIから論文情報を確認する

R. B. Zajonc・Hazel Markus・William Raft Wilson(1974)「Exposure Effects and Associative Learning」
初期評価が否定的な刺激を含め、反復接触と感情評価、否定的感情との関連づけを検討した研究です。
公開PDFで全文を読む

R. B. Zajoncほか(1974)「Effect of Extreme Exposure Frequencies on Different Affective Ratings of Stimuli」
最大243回という高頻度の提示を扱い、評価尺度によって異なる反復接触のパターンを確認した研究です。
SAGE Journalsで論文情報を確認する

Stefano Ruggieri & Stefano Boca(2013)「At the Roots of Product Placement: The Mere Exposure Effect」
映画内のブランド露出を扱い、高関与条件では一回の露出でもブランド態度に差が生じたことを報告した研究です。
Europe's Journal of Psychologyで全文を読む

日本心理学会「繰り返し接しているうちにどんどん好きになるのはなぜ?」
単純接触効果の基本と、知覚的流暢性の誤帰属、既知性などの説明を一般向けに確認できます。
日本心理学会の解説を読む

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