「店舗は住宅用エレベーターを使っていないのに、なぜその費用まで負担するのだろう」「店舗への来客や搬入によって清掃や設備管理の負担が増えているのだから、住宅と同じ考え方では不公平ではないか」。店舗と住宅が一つの建物に入る複合用途型マンションでは、同じ管理費を見ていても住宅側と店舗側で受け止め方が大きく異なることがあります。
住宅側には「店舗営業によって建物の管理負担が増えているのではないか」という思いがあり、店舗側には「使っていない設備や場所の費用まで負担しているのではないか」という疑問があります。どちらか一方だけが身勝手なのではなく、自分の側から見えている費用や利用状況が違うため、それぞれが「こちらの負担の方が重い」と感じやすいのです。
そのため、最初から「住宅と店舗のどちらが多く負担すべきか」を決めようとすると、話し合いは数字の綱引きになりやすくなります。必要なのは、共用部分を確認し、実際の支出を洗い出し、費用が発生している原因を調べ、現行規約や契約内容と照らし合わせたうえで、現在の負担にどのような根拠があるのかを整理することです。
この記事では、日常的な維持管理に使われる「管理費」の負担整理を中心に扱います。国土交通省のマンション標準管理規約では、全体管理費と全体修繕積立金を含めて「全体管理費等」と表現し、住宅一部管理費や住宅一部修繕積立金なども「一部管理費等」の体系として扱っています。そのため制度を説明する場面では修繕積立金にも触れますが、主題はあくまで日常の管理費負担です。
複合用途型マンション管理費を整理する5つの基本手順
複合用途型マンションの管理費について疑問が生じたとき、いきなり住宅と店舗の負担割合を計算する必要はありません。
まず、次の順番で確認します。
| 確認する内容 | 主な確認資料 |
|---|---|
| 手順 1 | |
| 全体共用部分と住宅一部共用部分と店舗一部共用部分を確認する | 管理規約 別表 図面 |
| 手順 2 | |
| 実際に発生している管理費用を洗い出す | 決算書 勘定元帳 請求書 |
| 手順 3 | |
| 費用発生の原因と管理業務の中身を確認する | 管理委託契約 仕様書 点検報告書 |
| 手順 4 | |
| 規約上の分類と実際の利用状況を分けて記録する | 規約 図面 現地確認 |
| 手順 5 | |
| 根拠を整理したうえで現在の負担方法を検討する | 費用負担整理シート |
この順番には意味があります。
店舗側から「使っていない」という意見が出ても、それだけで負担不要とは決めません。一方で住宅側から「全体共用部分なのだから共有持分だけで負担すればよい」という意見が出ても、そこで検討を終えるとは限りません。
国土交通省の令和7年改正マンション標準管理規約の複合用途型では、全体管理費等について、住戸部分のために必要となる費用と店舗部分のために必要となる費用をあらかじめ按分し、その後、それぞれの区分所有者について全体共用部分の共有持分に応じて算出する考え方が示されています。
したがって、最初に見るべきなのは最終的な金額差ではありません。
「どの共用部分に関係する費用なのか」「なぜその費用が発生しているのか」「現在の規約と会計処理はどうなっているのか」という順序で事実を確認することが、負担整理の出発点です。
複合用途型マンションで管理費トラブルが起きやすい理由
住宅と店舗では建物を見る視点が違う
複合用途型マンションの管理費問題が難しくなる背景には、住宅と店舗で建物に求める役割が異なることがあります。
住宅の区分所有者にとってマンションは日常生活の場所です。静かな環境、防犯、共用部分の清潔さ、設備の安定稼働、長期的な資産価値などが気になるでしょう。
一方、店舗側にとっては事業活動の場所でもあります。来店客の動線、商品の搬入出、営業時間、店舗前の視認性、設備容量、毎月の固定費などが経営に直接関係します。
同じ通路や設備を見ていても、気になるものが違います。
たとえば住宅側から見ると、店舗への来客が増えるほど建物周辺が汚れ、清掃回数も増えているように感じるかもしれません。
「これだけ多くの人が出入りしているのだから、店舗側にもう少し費用を負担してもらうべきではないか」という気持ちが生まれることもあります。
ところが店舗側では、事業系ごみを自費で処理し、店舗前の清掃についても独自に業者と契約している可能性があります。その店舗からすれば、「こちらでも相当な費用を払っているのに、さらに住宅側と同じ費用まで負担しているのではないか」という不満が残るでしょう。
こうした対立は、どちらか一方が間違っているから生まれるとは限りません。
それぞれに見えている費用や管理業務が違うため、自分の側から見える事実が建物全体の実態だと思いやすいのです。
管理費の金額だけを見ると不公平感が強くなる
管理費が感情的な問題になりやすいもう一つの理由は、毎月の負担額が数字として目に見えることです。
仮に同程度の専有面積で住宅が月額1万円、店舗が月額2万円なら、店舗側が「なぜ自分たちは2倍なのか」と疑問を抱くのは自然です。
一方、住宅側が長い営業時間や多くの来客を見れば、「店舗の方が建物へ大きな負荷をかけているのだから、負担額が違っても不思議ではない」と感じるかもしれません。
しかし、「2倍だから不公平」「店舗だから高くて当然」という話だけでは、負担の妥当性は判断できません。
確認したいのは、その差が生じている理由です。
管理費の設定根拠を説明できる資料があるのか。
現在もその根拠が実態と合っているのか。
この二つが確認できれば、感覚の話から事実の話へ進めます。
昔からの負担割合でも根拠が見えなくなることがある
「分譲当初からこの金額です」という説明も、管理組合の現場では珍しくありません。
長年同じ仕組みで徴収してきたのであれば、理事長や役員としては「今さら触らない方がよいのではないか」と感じることもあるでしょう。
管理費体系を見直すとなれば資料を集めなければならず、住宅と店舗の利害調整も必要になるためです。
ところが、役員や管理会社の担当者が入れ替わるうちに、当初なぜ店舗側に別の単価が設定されたのかを説明できる人がいなくなる場合があります。
店舗側から「なぜこの金額なのですか」と聞かれても、「昔からこうです」としか答えられなくなれば、金額の問題は次第に信頼の問題へ変わるでしょう。
過去の設定を直ちに否定する必要はありません。
まず、現在残っている資料からその負担を説明できる状態になっているかを確認します。
手順1 全体共用部分と住宅一部共用部分と店舗一部共用部分を確認する
費用より先に共用部分を見る
管理費を調べようとすると、最初に決算書を開きたくなるかもしれません。
しかし、その前に確認するのが共用部分の分類です。
令和7年改正マンション標準管理規約の複合用途型では、共用部分を全体共用部分、住宅一部共用部分、店舗一部共用部分に分けています。
住宅一部共用部分は住戸部分の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな部分、店舗一部共用部分は店舗部分の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな部分として整理されています。
ここで注意したいのは、「実際によく使っている人」と「規約上どの共用部分になっているか」は別の情報だということです。
エレベーターは利用しているかだけでは判断できない
分かりやすい例がエレベーターです。
1階の道路側から直接入店できる店舗があり、店舗関係者も来客も住宅用エレベーターを利用していないとします。
店舗側からすれば、「一度も利用しないエレベーターの保守費をなぜ負担するのか」という疑問が生まれるでしょう。
もっともな疑問ではありますが、それだけで負担の有無を決めることはできません。
まず現行の管理規約と別表を確認し、そのエレベーターがどの共用部分に位置付けられているのかを調べます。
国土交通省の標準管理規約の別表例では、共用エレベーター設備が全体共用部分の例として挙げられる一方、住宅用エレベーター設備は住宅一部共用部分の例として示されています。
つまり「エレベーター」という名称だけでは判断できません。
停止階、オートロックの位置、地下駐車場との接続、店舗側からのアクセスなど、実際の建物構造も確認します。
外壁と消防設備と電気設備も名称だけで決めない
外壁について「店舗の前にあるから店舗側の費用」、消防設備について「店舗にも付いているから店舗側の費用」と考えたくなることがあります。
しかし、建物の構造や防災システムは一部分だけを切り離して考えられない場合があります。
外壁が建物全体を守る構造部分であれば、店舗前に位置しているという理由だけで店舗専用になるわけではありません。
消防設備でも、建物全体で連動する自動火災報知設備と、店舗の業種や内装に伴って追加された設備では性質が異なる可能性があります。
電気設備についても、建物全体の受変電設備と店舗固有設備では確認すべき内容が違います。
設置場所や名称だけで負担を決めず、規約、図面、設備系統を確認します。
標準管理規約は個別マンションへそのまま当てはめない
国土交通省の複合用途型マンション標準管理規約は、主として低層階に店舗があり、上階に住宅があるような住宅主体の複合用途型マンションを想定しています。
そのため、大規模再開発型の建物や、店舗、事務所、ホテルなど複数用途が複雑に組み合わされた物件では、そのまま当てはめられない可能性があります。
標準管理規約を個別マンションの答えそのものとして使うのではなく、自分たちの規約や建物を確認するときの重要な基準として利用します。
手順2 実際に発生している管理費用を洗い出す
決算書から年間支出を並べる
共用部分の区分を確認したら、次に実際に何へお金が使われているのかを調べます。
収支決算書や勘定元帳から、管理委託費、清掃費、エレベーター保守費、消防設備点検費、電気設備保守費、水道光熱費、小修繕費などを抜き出します。
この段階では、まだ住宅用と店舗用を決めません。
まず「一年間にどのような管理費用が発生しているのか」を事実として並べます。
可能であれば一年度だけでなく、過去数年分を確認すると傾向が分かりやすくなります。
特殊な点検や一時的な修繕が発生した年度だけを見てしまうと、通常とは異なる支出を基準に判断するおそれがあるからです。
管理委託費という大きな数字だけでは判断しない
決算書に「管理委託費600万円」と書かれていても、その600万円が何のために使われているかまでは分かりません。
管理員業務、日常清掃、定期清掃、設備管理、事務管理など、複数の業務が一つの委託費へまとめられていることがあります。
さらに清掃業務一つを見ても、住宅エントランス、住宅廊下、店舗前通路、建物外周など、対象場所は複数あるでしょう。
この状態で600万円という一つの数字を住宅と店舗へ割り振ろうとすると、「どの費用を負担しているのか」がますます分かりにくくなります。
そこで、「そもそもこの600万円には何が入っているのだろう」というところまで戻ります。
手順3 契約と仕様から費用発生の原因を確認する
数字を分ける前に仕事の中身を分ける
決算書で支出項目を確認したら、管理委託契約書や業務仕様書を見ます。
たとえば年間200万円の清掃費があっても、その数字だけでは住宅部分と店舗部分のどこへどのような清掃が行われているか分かりません。
清掃場所、作業内容、頻度などを確認すると、「何を維持するために発生している費用なのか」が見え始めます。
エレベーターなら保守対象設備、消防設備なら点検対象、電気設備なら保守範囲を確認します。
この作業では、数字を先に分けません。
仕事の内容を分け、その仕事がなぜ必要なのかを確認します。
全体管理費等は必要費用を先に按分する考え方
令和7年改正マンション標準管理規約第25条第2項では、全体管理費等について、住戸部分のために必要となる費用と店舗部分のために必要となる費用をあらかじめ按分し、その後に各区分所有者の全体共用部分の共有持分に応じて算出する仕組みが示されています。
また、同条関係のコメントでは、費用項目を分け、その項目ごとに費用発生の原因を勘案して振り分けることが適当とされています。
そのため、全体共用部分に関係する費用だからといって、何も確認せず全体総額を一つの基準だけで割るという考え方ではありません。
まず費用の中身を確認します。
面積や作業時間は国交省所定の計算式ではない
ここは誤解しやすいため、明確に分けて考える必要があります。
国土交通省の標準管理規約が、「清掃面積で按分する」「作業時間を使う」「利用回数で決める」といった特定の計算式を定めているわけではありません。
第25条第2項が示しているのは、住戸部分と店舗部分のために必要となる費用をあらかじめ按分する考え方です。
具体的な算定方法までは一律に規定していません。
そのため、清掃対象の面積、作業頻度、作業時間、設備容量、契約内容などは、国交省所定の算定式ではなく、管理組合が「なぜその費用負担になるのか」を説明するために使える実務上の判断材料です。
清掃費では作業範囲や作業量が参考になるかもしれません。
一方、建物全体を保全する設備で同じ基準が適切とは限らず、設備系統や容量、保守内容などを重視する場合もあるでしょう。
重要なのは、一つの計算方法をすべての費用へ機械的に当てはめることではありません。
「この費用については、どの資料とどの発生原因を確認してこの判断に至ったのか」を説明できる状態にします。
手順4 規約上の分類と実際の利用状況を分けて記録する
使っていない事実と規約の分類を混同しない
複合用途型マンションの管理費を整理するとき、最も混乱しやすいのが規約上の分類と利用実態の関係です。
規約では全体共用部分になっているものの、実際には住宅側しか利用していない設備があるかもしれません。
反対に、店舗側の近くに設置されていても、建物全体の安全や機能維持に関係する設備もあります。
ここで「店舗が使っていないから住宅一部共用部分」としてしまうと、利用実態から規約上の分類まで一気に結論づけることになります。
逆に「規約では全体共用部分だから、誰が使っているかはまったく関係ない」と考えてしまえば、費用発生原因を確認する機会を失います。
そこで、二つの情報を別々に残します。
規約ではどうなっているのか。
実際には誰がどのように利用しているのか。
この二つを並べたうえで、現在の規約と実態に齟齬があるのか、用途別の必要費用を整理することで対応できるのか、それとも規約自体の見直しを検討する必要があるのかを考えます。
手順5 費用負担整理シートで根拠を見える化する
費用負担整理シートは結論を先に書く表ではない
理事会で実際に整理を始めるなら、費用負担整理シートを作ると分かりやすくなります。
この表の目的は、「住宅が何%で店舗が何%」という答えを先に書くことではありません。
規約、利用状況、費用発生原因、現在の会計処理、確認資料を一か所へ並べることです。
| エレベーター保守費 | |
|---|---|
| 対象設備と場所 | 住宅用エレベーター |
| 規約上の分類 | 住宅一部か確認 |
| 実際の利用状況 | 店舗側から利用可能か確認 |
| 費用発生の原因 | 保守点検と遠隔監視 |
| 現在の会計 | 全体管理費 |
| 確認資料 | 規約 別表 保守契約 図面 |
| 店舗前清掃費 | |
| 対象設備と場所 | 店舗前通路 |
| 規約上の分類 | 全体または店舗一部を確認 |
| 実際の利用状況 | 住宅と店舗双方の動線を確認 |
| 費用発生の原因 | 通常清掃と追加清掃 |
| 現在の会計 | 全体管理費 |
| 確認資料 | 清掃仕様書 作業報告 |
| 消防設備点検費 | |
| 対象設備と場所 | 自動火災報知設備など |
| 規約上の分類 | 全体共用か確認 |
| 実際の利用状況 | 建物全体との連動を確認 |
| 費用発生の原因 | 法定点検と設備保守 |
| 現在の会計 | 全体管理費 |
| 確認資料 | 点検報告書 設備図面 |
| 電気設備保守費 | |
| 対象設備と場所 | 受変電設備など |
| 規約上の分類 | 全体共用か確認 |
| 実際の利用状況 | 住宅店舗の系統を確認 |
| 費用発生の原因 | 受電設備の維持管理 |
| 現在の会計 | 全体管理費 |
| 確認資料 | 電気図面 保守契約 |
| 外壁点検費 | |
| 対象設備と場所 | 建物外壁 |
| 規約上の分類 | 全体共用か確認 |
| 実際の利用状況 | 建物全体の保全 |
| 費用発生の原因 | 劣化確認と補修 |
| 現在の会計 | 全体関係会計 |
| 確認資料 | 規約 図面 修繕資料 |
表へ並べると、「この設備を誰が使うのか」という話と、「規約ではどのように分類されているのか」という話を分けて確認できます。
それまで頭の中で絡まっていた問題が、ふっとほどけることもあるでしょう。
最初から全部調べようとしない
大規模なマンションでは、管理費の支出項目や設備の数も多くなります。
すべてを一度に調べようとすると、「とても任期中には終わらない」と役員が感じ、作業そのものが止まってしまう可能性があります。
最初は三つ程度でも構いません。
エレベーター保守費、清掃費、消防設備点検費など、比較的資料を追いやすい項目から始めます。
一つの費用を整理すると、「この設備図面が必要だった」「管理会社へ仕様書の確認が必要だ」という次の作業が見えてきます。
小さく試してから範囲を広げる方が、理事会では続けやすいでしょう。
規約と利用実態を混同しない確認ポイント
費用負担整理シートを作るときは、次の点を確認します。
- 店舗が使っていないという理由だけで住宅一部共用部分と決めていないか
- 住宅側の利用が多いという事実と規約上の分類を分けているか
- 設備名や設置場所だけで結論を出していないか
- 決算書だけでなく管理委託契約や仕様書を確認しているか
- 面積や作業時間などを国交省所定の按分式として扱っていないか
- 費用が発生する原因を確認しているか
- 現行規約と実際の会計処理が対応しているか
その場で答えが出ない項目があっても問題ありません。
「未確認」と記録しておけば、推測と確認済みの事実を分けられます。
住宅一部管理費と店舗一部管理費の違い
一部共用部分に対応する管理費を分けて考える
全体管理費と混同しないようにしたいのが、住宅一部管理費と店舗一部管理費です。
令和7年改正マンション標準管理規約第26条では、一部共用部分の管理に必要な経費に充てるため、住宅側について住宅一部管理費等、店舗側について店舗一部管理費等を設けています。
日常管理について考えるのであれば、住宅一部共用部分の通常管理に必要となる費用と、店舗一部共用部分の通常管理に必要となる費用を分けて確認することになります。
たとえば管理規約上も住宅一部共用部分となっている住宅用エレベーターであれば、その通常管理費が現在どの会計から支出されているのかを確認します。
店舗用通路や店舗専用設備でも同様です。
ただし、「住宅だけが使うから住宅一部管理費」「店舗の近くにあるから店舗一部管理費」と利用状況だけで決めるのではなく、先に規約上の分類を確認します。
一括の管理委託費に一部共用部分の費用が混ざることがある
実務では、会計上の費目と実際の管理業務がきれいに分かれていない場合があります。
たとえば住宅用エレベーターの保守、全体共用部分の清掃、店舗周辺の清掃などが、管理会社との一括契約へまとめられているケースです。
決算書ではすべて「管理委託費」と表示されていても、仕様書を確認すると対象となる場所や設備が分かれる可能性があります。
そのとき最初に「住宅と店舗の負担率を変更しよう」と考える必要はありません。
現在の費用分類や会計処理と規約上の区分が対応しているかを先に確認します。
費用の整理だけでも、問題の所在が明確になることがあるからです。
店舗の負担が高いだけでは不公平とは限らない
金額差より差が生じる理由を確認する
店舗の管理費単価が住宅より高ければ、「自分たちだけ不公平な負担を求められているのではないか」と感じるでしょう。
毎月支払う費用だからこそ、その理由を知りたいと思うのは自然です。
しかし、管理費に差があるという事実だけで、直ちに不公平とは判断できません。
店舗営業に伴って追加の清掃や設備管理などが実際に必要となっていれば、店舗部分のために必要な費用が大きくなる可能性があります。
反対に、店舗だけ高い負担になっているものの、その増加分を説明できる費用や設定根拠が確認できない場合も考えられます。
したがって、「店舗は必ず住宅より多く負担する」「共有持分どおりなら問題ない」「管理費単価に差があるから不公平」といった結論を先に置かないことが重要です。
規約、建物構造、設備、実際の管理業務、費用発生原因、負担設定の経緯などを確認したうえで判断します。
住宅側と店舗側の主張を事実確認へ変えるケーススタディ
相手の主張を否定する前に確認事項へ置き換える
たとえば住宅側から、「店舗への来客が多いため共用部分の清掃負担が増えている」という意見が出たとします。
店舗側からは、「店舗前は独自に清掃しており、事業系ごみも自分たちで処理している」という反論がありました。
ここで、どちらが正しいかを会議で即座に決めようとすると、話は感情的になりやすくなります。
そこで、双方の主張を同じ表へ入れます。
| エレベーター | |
|---|---|
| 住宅側の主張 | 建物設備なので店舗も負担すべき |
| 店舗側の主張 | 店舗からは利用できない |
| 実際に確認する事項 | 規約分類 停止階 動線 保守契約 |
| 日常清掃 | |
| 住宅側の主張 | 店舗来客による汚れが多い |
| 店舗側の主張 | 店舗前は自費清掃している |
| 実際に確認する事項 | 清掃仕様 作業範囲 個別契約 |
| 消防設備 | |
| 住宅側の主張 | 店舗にも必要な設備である |
| 店舗側の主張 | 建物全体の防災設備でもある |
| 実際に確認する事項 | 設備系統 点検対象 規約 |
| 電気設備 | |
| 住宅側の主張 | 店舗営業による負荷が大きい |
| 店舗側の主張 | 店舗電力は個別契約している |
| 実際に確認する事項 | 受電系統 メーター 契約 |
| 管理員業務 | |
| 住宅側の主張 | 店舗周辺も管理対象である |
| 店舗側の主張 | 住宅対応が業務の中心である |
| 実際に確認する事項 | 仕様書 業務日報 作業内容 |
こうすると、「住宅側と店舗側のどちらが正しいのか」という争いが、「どの事実がまだ確認できていないのか」という作業へ変わります。
感情を無理に消す必要はありません。
「納得できない」という思いがあるからこそ、説明できていない費用に気づく場合もあります。
ただし、その気持ちを結論として使うのではなく、確認するべき事実へ置き換えていくことが重要です。
費用負担を見直す前に確認する資料
会議を始める前に資料を揃える
管理費の問題が表面化すると、すぐに話し合いを開きたくなるかもしれません。
しかし資料のない状態で集まると、「昔からこうだった」「店舗は使っているはずだ」「住宅側ばかり得をしている」といった記憶や印象が中心になりやすくなります。
先に資料を揃えることで、会議の内容を事実確認へ変えられます。
| 資料 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 現行管理規約と別表 | 共用部分の分類と管理費等の算出方法 |
| 収支決算書と勘定元帳 | 実際に発生している支出 |
| 請求書 | 支出内容と取引先 |
| 管理委託契約書と仕様書 | 管理業務の対象と内容 |
| 設備図面と竣工図 | 設備系統と利用動線 |
| 点検報告書 | 実際の点検対象設備 |
| 過去の総会議事録 | 負担方法を決めた経緯 |
| 長期修繕計画と工事履歴 | 管理費と修繕関係費用の区分確認 |
長期修繕計画は、日常管理費の按分を直接決める資料ではありません。
ただし、日常管理費と修繕積立金に関係する費用が混在していないか、住宅一部と店舗一部の会計構造が将来の修繕計画と対応しているかを確認する補助資料として役立ちます。
この記事で修繕積立金そのものを主題にしていないのは、このためです。
住宅部会と店舗部会で整理すべき事項
部会は相手を説得する場ではなく事情を整理する場
複合用途型マンションでは、住宅側が店舗営業の実態を詳しく知らず、店舗側も住宅部分の管理内容を十分に知らないことがあります。
双方が未整理のまま全体総会で話そうとすると、「店舗側は住宅の事情を理解していない」「住宅側は多数派だから何でも決められると思っている」といった不満へつながる可能性があります。
令和7年改正マンション標準管理規約第60条では、住宅部会と店舗部会を置き、その組織や運営について部会運営細則に定める構成になっています。
部会は、相手側へ要求を突きつけるためだけの場所ではありません。
まず自分たちの側で、設備、管理業務、費用、利用状況を整理する場として使うことが重要です。
住宅部会では住宅側だけの費用も確認する
住宅部会では、住宅用エントランス、住宅用廊下、住宅用エレベーターなどに関係する費用を確認します。
店舗側の負担について議論する前に、「住宅だけのために必要となっている費用が全体管理費へ含まれていないか」を住宅側自身も確認します。
住宅側が自分たちの費用も同じ基準で点検すれば、店舗側との話し合いの土台が変わるでしょう。
相手に負担を求めるだけの議論ではなくなるからです。
店舗部会では店舗営業に伴う費用も確認する
店舗部会では、店舗前清掃、搬入動線、店舗専用設備、ごみ処理などを確認します。
店舗が独自に清掃業者やごみ収集業者と契約しているのであれば、その事実や費用を整理します。
一方で、店舗営業によって管理組合側へ追加の業務が発生しているのであれば、その点も同じように確認します。
自分たちに有利な情報だけを集めると、後から別の事実が分かったときに話し合いへの信頼が損なわれます。
住宅側と店舗側が同じ方法で整理することが重要です。
部会運営細則まで確認する
住宅部会や店舗部会を設けていても、何年も開催されていないマンションがあります。
また、部会で話し合った内容を誰が理事会へ報告するのか、議事録をどのように残すのか、必要な資料をどこまで共有できるのかが決まっていない場合もあるでしょう。
標準管理規約では、部会の具体的な組織と運営を部会運営細則に委ねています。
そのため、招集方法、議題の提出方法、資料共有、議事録、理事会への報告方法などを整えることが重要です。
部会が機能していないと感じる場合には、「部会が存在するか」だけでなく、その運営方法まで確認します。
合意形成が難しい場合にマンション管理士が支援できること
長期化すると数字より過去の不満が前に出る
管理費をめぐる話し合いが長く続くと、最初は費用の話だったはずなのに、過去の総会や役員への不満まで持ち出されることがあります。
「以前も店舗側は反対した」「結局は住宅側が多数決で決める」。
こうした言葉が増えると、同じ資料を見ても「相手が用意した資料だから信用できない」と感じるようになるかもしれません。
ここまで来ると、問題は単なる計算ではありません。
双方が同じ事実を確認できる場を作る必要があります。
費用負担整理シートの作成を支援する
マンション管理士が支援する場合、最初から「住宅何%」「店舗何%」という結論を示すことだけが役割ではありません。
現行管理規約と別表を確認し、共用部分を整理します。
続いて管理委託契約、仕様書、決算書、請求書、図面などを照合し、費用負担整理シートへ落とし込みます。
そうすると、「店舗の管理費が高すぎる」という大きな主張が、「この清掃費は何のために発生しているのか」「この設備は規約上どの共用部分なのか」という確認可能な論点へ変わります。
第三者が入る意味は、住宅側か店舗側のどちらかの味方になることではありません。
話し合える大きさまで問題を分けることです。
住宅部会と店舗部会の運営も支援対象になる
部会を機能させるには、会議を開催するだけでは足りません。
どの資料を事前に揃えるのか、双方の主張をどの形式で記録するのか、理事会へどう報告するのかという会議設計が必要です。
マンション管理士による住宅部会や店舗部会の運営支援では、部会運営細則の確認、議題整理、資料作成、会議進行、議事内容の整理、理事会への報告などを支援することが考えられます。
単なる会議への同席ではありません。
異なる立場から出てくる情報を同じ基準で整理し、次の意思決定へつなげるところに専門性があります。
法的判断が必要なら適切な専門家と連携する
管理費の負担差について具体的な法的紛争が生じている場合、管理実務の整理だけでは判断できない問題があります。
管理規約の効力、総会決議、特定の区分所有者への影響、過去の徴収額などが争点となれば、区分所有法などを踏まえた法的検討が必要でしょう。
その場合は、必要に応じて弁護士など適切な専門家との連携を検討します。
争いが深刻になるまで待つ必要はありません。
「今の負担理由を説明できない」と気づいた時点で整理を始める方が、住宅側にも店舗側にも負担を抑えやすくなります。
複合用途型マンション管理費のよくある質問
- 店舗が使わないエレベーター費用も店舗が負担するのでしょうか
-
店舗が利用していないという事実だけでは、負担の有無を決められません。
まず現行管理規約と別表を確認し、そのエレベーターが全体共用部分なのか住宅一部共用部分なのかを確認します。
さらに停止階、店舗側からのアクセス、設備の役割、保守契約の内容などを調べます。
そのうえで、全体管理費等の用途別必要費用として整理する問題なのか、住宅一部管理費との関係を検討する問題なのかを考えます。
「使っていないから負担しない」「全体共用部分だから利用状況は一切関係しない」という両極端な判断を避けることが大切です。
- 住宅側だけが使う設備は住宅一部管理費にできますか
-
実際に住宅側だけが利用しているという事実だけで、自動的に住宅一部管理費になるわけではありません。
現行管理規約と別表で、その設備がどの共用部分として定められているのかを確認します。
規約上の分類と建物構造や利用実態に齟齬がある場合には、現在の費用分類や会計処理を整理すれば対応できるのか、それとも規約の見直しが必要なのかを個別に検討します。
- 店舗部分の管理費だけ高く設定してもよいのでしょうか
-
店舗の管理費が住宅より高いという事実だけで、適切とも不適切とも判断できません。
店舗部分のために必要となる費用、管理業務の内容、設備や清掃の実態、現行規約、負担額を設定した経緯などを確認します。
「店舗だから住宅より高くて当然」という説明だけでは十分ではなく、「住宅より高いから不公平」というだけでも結論にはなりません。
負担差があるのであれば、その差を説明できる根拠があるかを確認する必要があります。
- 全体管理費と店舗一部管理費の違いは何ですか
-
全体管理費は、敷地、全体共用部分、附属施設などの通常管理に必要となる費用へ充てるものです。
一方、店舗一部管理費は、店舗一部共用部分の通常管理に必要となる費用との関係で整理されます。
したがって、「店舗に関係する費用だから店舗一部管理費」と決めるのではありません。
その費用がどの共用部分の管理に対応しているのかを先に確認します。
- 費用負担を変更するには管理規約の改正が必要ですか
-
管理費等の算定方法や負担方法が管理規約や別表に定められており、そのルール自体を変更するのであれば、管理規約の変更手続との関係を確認する必要があります。
一方で、現在の規約に定められた考え方の範囲内で予算や費用項目を整理する場合など、具体的な変更内容によって必要な手続は異なる可能性があります。
また、2026年4月1日から改正区分所有法が施行されています。
国土交通省は、2026年4月1日以降に規約変更を決議する総会の招集手続を開始する場合について、改正法に対応した定足数や決議要件を確認するよう案内しています。
同日以降に招集手続を開始する場合、規約変更の総会については区分所有者総数と議決権総数の各過半数の出席を定足数とし、出席した区分所有者と議決権の各4分の3以上による決議という改正法対応の確認が必要です。
過去の規約や以前の解説だけを見て手続を進めるのではなく、現在施行されている区分所有法と当該マンションの現行規約を確認します。
具体的な権利関係や特定の区分所有者への影響について法的判断が必要となる場合には、専門家への確認も検討した方がよいでしょう。
- 住宅部会と店舗部会だけで負担割合を決められますか
-
住宅部会と店舗部会は、それぞれの用途に関する費用や事情を整理するための重要な場です。
一方、標準管理規約上の部会は、管理組合全体として最終的な意思決定を行う総会とは役割が異なります。
部会で費用負担案や根拠資料を整理し、それを理事会へつなげ、必要な事項について当該マンションの規約と区分所有法に沿った手続へ進むことが重要です。
費用負担を整理した後に確認したい変化
費用負担整理シートを作っても、翌月から管理費の金額が変わるとは限りません。
むしろ最初に変わるのは、会議で使われる言葉かもしれません。
以前なら「店舗ばかり得をしている」「住宅の設備なのに負担させられている」という話で終わっていたものが、「この設備は別表ではどこに分類されていますか」「この清掃費にはどの場所が含まれていますか」という確認へ変わります。
さらに整理が進めば、「この負担率は何を根拠に決めたのでしょう」という具体的な問いになるでしょう。
これは小さな変化に見えますが、合意形成にとって重要です。
不満を感じること自体が問題なのではありません。
なぜ不満なのかを、確認できる事実へ置き換えられるかどうかが大切です。
最初はエレベーター保守費一つでも構いません。
規約、別表、保守契約、図面、実際の利用状況を一枚のシートへ並べてみます。
次の理事会では、「結論が出たか」だけではなく、「何が確認できて、何がまだ未確認なのか」を見てください。
住宅側と店舗側が同じ資料を見ながら話せるようになったなら、管理費負担の整理はすでに一歩進んでいます。
まとめ
複合用途型マンションの管理費は、住宅と店舗の月額や平米単価を比較するだけでは公平性を判断できません。
まず共用部分を全体、住宅一部、店舗一部に整理し、実際の支出を洗い出したうえで、契約や仕様から費用発生の原因を確認します。その後、規約上の分類と利用実態を分けて記録し、根拠を整理して現在の負担方法を検討することが基本です。
国土交通省の標準管理規約も、全体管理費等について住戸部分と店舗部分に必要となる費用をあらかじめ按分する考え方を示していますが、面積や作業時間といった特定の算定式まで定めているわけではありません。
だからこそ、それぞれのマンションで「なぜこの費用が発生し、なぜこの負担になっているのか」を説明できる資料を揃える必要があります。
住宅側にも店舗側にも、納得できないと感じる理由はあるでしょう。
その感情を無理に抑えるのではなく、「では何を確認すれば答えに近づけるのか」へ変えていくことが、長く続く対立を整理し、説明できる管理費体系へ近づく第一歩です。
参考資料
国土交通省 令和7年改正マンション標準管理規約 複合用途型コメント