貯金額なら分かるのに、「わが家には結局いくらの財産があるのだろう」と聞かれると、すぐには答えられないことがあります。
銀行口座には預金があり、証券口座には投資信託があります。持ち家なら自宅も大きな財産でしょう。その一方で、住宅ローンが何千万円も残っている家庭もあります。
それぞれの数字は知っていても、一つの家計として並べたことがなければ、全体像を捉えようとした瞬間に分からなくなるのです。
預金残高が増えた月には「少し安心できそうだ」と感じる一方、住宅ローン残高を見ると「まだこれだけ返すのか」と気持ちが重くなることもあるでしょう。
どちらの感覚も不自然ではありません。ただ、一つの数字だけを見ていると、その日の気分によって家計の見え方まで変わってしまいます。
そこで役立つのが家計のバランスシートです。
預貯金や投資、自宅などの資産と、住宅ローンなどの負債を一枚にまとめれば、貯金額だけでは見えなかった家計の現在地を確認できます。
一枚目で分かるのは、今どれくらいの資産と負債があり、純資産がいくらなのかという「現在の姿」です。さらに翌年も同じ方法で作れば、純資産がどのように変化したのか、その理由まで振り返れるようになります。
「何となく不安」という状態から、「今はこうなっている」「次はここを確認しよう」と考えられる状態へ変えていくことが、家計のバランスシートを作る大きな意味ではないでしょうか。
この記事では、家計のバランスシートを初めて作る人が実際に数字を集めて一枚の表を完成させ、その数字をどう見ればよいのかまで順番に解説します。
家計のバランスシートとは
家計のバランスシートとは、ある基準日時点で家庭が持っている資産と負債を一覧にまとめた表です。
会社が作成する貸借対照表を、家庭のお金に置き換えたものだと考えるとイメージしやすくなります。
資産には、預貯金、株式、投資信託、iDeCoや企業型DCなどで積み立てている資産、保険の解約返戻金、自宅や土地などがあります。
一方の負債には、住宅ローン、自動車ローン、教育ローン、貸与型奨学金の返済残高、カードローンなど、返済や支払いの義務が残っているお金があります。
そして、資産の合計から負債の合計を差し引いた金額が純資産です。
純資産 = 資産合計 − 負債合計
たとえば資産が4,000万円あり、住宅ローンなどの負債が2,500万円なら、純資産は1,500万円になります。
日本FP協会でも、現在の資産と負債を書き出し、資産から負債を差し引くことで純資産を確認する家計のバランスシートが案内されています。
ここで大切なのは、純資産を家計の点数として扱わないことです。
資産だけを見れば「4,000万円もある」と安心するかもしれませんが、負債だけを見れば「2,500万円も返さなければならない」と不安になるでしょう。
どちらか一方だけでは、現在の家計を十分には説明できません。
だからこそ、資産と負債を同じ場所へ置いて考えます。
家計のバランスシートは、良い家計か悪い家計かを決めるための成績表ではありません。散らばっている数字を一度集め、「今の自分たちはどこにいるのだろう」と確認するための地図です。
家計のバランスシートの作り方3ステップ
初めて作るときは、「銀行口座を全部確認して、不動産の価格も調べて、保険や年金資産まで見るのか」と少し面倒に感じるかもしれません。
しかし、基本的な作業は三つです。
基準日と対象範囲を決め、その日時点の資産と負債を集め、最後に純資産を計算します。
難しい会計知識は必要ありません。
ステップ1 基準日と対象範囲を決める
最初に「いつ時点の家計を作るのか」を決めます。
たとえば12月31日、1月1日、誕生日など、毎年忘れにくい日を一つ選ぶと続けやすいでしょう。
基準日を決める理由は、資産と負債の時点をそろえるためです。
預金は今日の残高なのに、株式は先月の評価額、自宅は購入した当時の価格という状態では、現在の家計を一枚にまとめたことになりません。
家族で作る場合は、基準日とあわせて誰の資産と負債を対象にするかも決めておきます。
本人だけのバランスシートなのか、夫婦二人を対象にするのか、家計として管理している世帯全体を対象にするのかを最初に決め、その範囲に属する資産と負債を同じ基準で集めます。
たとえば夫婦の家計を確認するなら、夫の預金だけを入れて妻のNISAは除くというように、資産ごとに都合よく選ぶのではなく、夫婦二人の預金、投資、年金資産、ローンなどを同じ範囲で確認したほうが全体像をつかみやすくなります。
これは法的な財産分与を考えるための表ではなく、あくまで「どの家計を確認するのか」をそろえるためのルールです。
一度決めた基準日と対象範囲を翌年もそろえることで、初めて前年との比較に意味が生まれます。
ステップ2 資産と負債を集める
次に、基準日時点で持っている資産と、返済義務が残っている負債を集めます。
銀行口座、証券口座、iDeCoや企業型DCの残高、住宅ローン残高、保険の解約返戻金などを確認してください。
一円単位まで合わせる必要はありません。
家庭で家計全体を把握する目的なら、最初は万円単位でも十分です。
「全部調べなければ」と考えると、まだ一つも数字を書いていないのに疲れてしまうことがあります。そんなときは、預貯金、自宅、住宅ローンなど金額の大きいものから確認すると進めやすいでしょう。
分からない金額は無理に埋めず、「未確認」として先へ進みます。
ここで一度手を止めて完璧を求めるより、まず家計の大きな輪郭を作ることを優先してください。
ステップ3 純資産を計算する
資産と負債が集まったら、それぞれを合計します。
その差額が純資産です。
計算そのものは簡単ですが、大切なのは数字を一枚に並べることにあります。
それまで頭の中で別々だった預金、投資、自宅、住宅ローンがつながると、「わが家はこういう形で財産を持っているのか」と見え方が変わってきます。
家計バランスシートのテンプレートと記入表
基本的な作り方が分かったら、細かなルールをすべて覚える前に一度数字を入れてみましょう。
自宅の現在価値が分からなかったり、保険の解約返戻金を一度も確認したことがなかったりすると、「自分の家計なのに知らない数字がこんなにあるのか」と戸惑うかもしれません。
しかし、それもバランスシートを作る意味の一つです。
分からない数字を見つけることで、初めて次に何を確認すればよいかが分かります。
| 資産の項目 | 金額 | 負債の項目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | __万円 | 住宅ローン残高 | __万円 |
| 普通預金 | __万円 | 自動車ローン残高 | __万円 |
| 定期預金 | __万円 | 教育ローン残高 | __万円 |
| 財形貯蓄 | __万円 | 貸与型奨学金の返済残高 | __万円 |
| 株式 | __万円 | カードローン残高 | __万円 |
| 投資信託 | __万円 | リボ払い残高 | __万円 |
| 債券 | __万円 | クレジットカード未払額 | __万円 |
| iDeCo・企業型DCなど | __万円 | その他借入金 | __万円 |
| その他金融資産 | __万円 | ||
| 保険の解約返戻金 | __万円 | ||
| 自宅 | __万円 | ||
| その他不動産 | __万円 | ||
| 自動車など | __万円 | ||
| その他資産 | __万円 | ||
| 資産合計 A | __万円 | 負債合計 B | __万円 |
純資産 A − B = __万円
NISA口座で保有している株式や投資信託は、「NISA」という別項目を作るのではなく、上の「株式」「投資信託」に含めます。
たとえば課税口座に株式200万円、NISA口座に株式100万円を保有しているなら、株式は合計300万円です。NISA口座の残高を別に加え、その中身の金融商品まで足すと二重計上になるため注意してください。
最初は預貯金、投資資産、自宅、住宅ローンなど、家計への影響が大きい項目から記入すれば十分です。
完成を急いで分からない金額を適当に入れるより、「未確認」と残したほうが現在地を正しく理解できます。
家計のバランスシートに入れる資産と負債
実際に記入を始めると、「これは資産なのか」「負債として書く必要があるのか」と迷う項目が出てきます。
基本的には、基準日時点で自分が持っていて金銭的な価値があるものを資産、基準日時点で返済や支払いの義務が残っているものを負債として考えます。
代表的な項目は次の通りです。
| 項目 | 基本的な扱い | 記入する金額 |
|---|---|---|
| 現金 | 資産 | 基準日時点の金額 |
| 普通預金 | 資産 | 基準日時点の残高 |
| 定期預金 | 資産 | 基準日時点の残高 |
| 株式 | 資産 | 課税口座・NISA口座を含む現在の評価額 |
| 投資信託 | 資産 | 課税口座・NISA口座を含む現在の評価額 |
| 債券 | 資産 | 現在の評価額 |
| iDeCo・企業型DC | 資産 | 基準日時点の残高 |
| 貯蓄型保険 | 資産 | 現在の解約返戻金 |
| 自宅 | 資産 | 現在価値の概算 |
| その他不動産 | 資産 | 現在価値の概算 |
| 自動車 | 資産 | 現在の売却価値の概算 |
| 住宅ローン | 負債 | 現在の元本残高 |
| 自動車ローン | 負債 | 現在の元本残高 |
| 教育ローン | 負債 | 現在の元本残高 |
| 貸与型奨学金 | 負債 | 現在の返済残高 |
| カードローン | 負債 | 現在の借入残高 |
| リボ払い | 負債 | 現在の未返済残高 |
| カードの利用済み未払額 | より正確に見るなら負債 | 基準日時点の未払額 |
| 家具や家電 | 資産になり得るが簡易版では省略可 | 必要なら売却価値を概算 |
日本FP協会の家計バランスシートでも、預貯金などだけではなく家族が持つ資産を確認し、住宅ローンや奨学金返済などの負債も忘れないことが案内されています。
一覧にすると項目が多く感じますが、新しい数字を作るわけではありません。
普段は銀行、証券会社、勤務先、保険会社、ローンの返済予定表など別々の場所にある数字を、一つの家計として集め直しているだけです。
一枚目は手間がかかっても、一度「どこを見れば残高が分かるか」が判明すれば、翌年からはかなり確認しやすくなります。
資産と負債はいくらで計上するのか
何を入れるかが分かると、次に迷うのが「いくらと書けばよいのか」です。
株を100万円で買ったなら100万円なのか、4,000万円で購入した自宅なら4,000万円なのかと考えるでしょう。
家計の現在地を見る目的なら、資産は基本的に基準日時点の現在価値で考えます。
ただし、すべての資産に一つの正確な価格が付いているわけではありません。
株式のように評価額を確認しやすいものもあれば、自宅のように複数の情報から概算するものもあります。
ここで目指すのは、一円まで確定した財産額を作ることではありません。
合理的な方法で現在価値を見積もり、家計全体を把握できる状態にすることです。
預貯金は基準日時点の残高を使う
現金や普通預金、定期預金などは、基準日時点の残高をそのまま記入します。
複数の銀行を使っている場合は、それぞれ確認してください。
家族で作る場合は、ステップ1で決めた対象範囲に合わせます。
夫婦のバランスシートを作ると決めたなら、夫婦それぞれの対象となる預金を確認し、翌年も同じ範囲で集計すると比較しやすくなります。
株式と投資信託は現在の評価額で考える
株式や投資信託は、証券会社や金融機関の口座に表示されている現在の評価額を利用します。
100万円で購入した株式が現在120万円なら120万円として記入し、80万円に下落していれば80万円です。
投資信託も同じで、これまで200万円を積み立てていても現在の評価額が230万円なら230万円として扱います。
購入時の金額には「自分がこれだけ積み立ててきた」という実感があります。そのため、値下がりしていると元本の数字を書きたくなることもあるでしょう。
それでも、バランスシートで確認したいのは過去に投入した金額ではなく、今どの程度の価値になっているかです。
NISAは中身の金融商品として計上する
NISA口座で保有している株式や投資信託も資産です。
NISAは一定の投資による利益を非課税とする制度であり、NISAそのものが株式や投資信託とは別の金融商品になるわけではありません。
そのため、NISA口座で保有している投資信託なら投資信託として、株式なら株式として現在の評価額を記入します。
たとえば課税口座に投資信託150万円、NISA口座に投資信託250万円があるなら、バランスシート上の投資信託は合計400万円です。
ここで「NISA 250万円」という資産をさらに加えてしまうと、同じ250万円を二度数えることになります。
NISAを利用していると、「NISAの資産」と「それ以外の投資」を別物のように感じることもあるでしょう。
証券会社の画面でも口座区分が分かれているため、その感覚は自然です。
しかし、バランスシートで確認したいのは税制上どの口座に入っているかではなく、現在どの金融商品をいくら持っているかです。
iDeCoと企業型DCも資産として確認する
iDeCoや企業型DCで積み立てている資産も、家計全体の純資産を把握する目的なら確認しておきたい項目です。
勤務先や運営管理機関などで基準日時点の残高を確認し、家計バランスシートの資産として整理します。
厚生労働省は、企業型DCでは事業主が掛金を拠出することを基本とし、企業型年金規約に定めがある場合は、加入者が上乗せして掛金を拠出するマッチング拠出も可能と案内しています。iDeCoは加入者本人が掛金を拠出することを基本とし、iDeCo+を利用する場合は事業主も拠出できます。受給や途中引き出しには制度上の条件があります。
そのため、iDeCoや企業型DCの残高は家計全体の資産として把握しつつ、普通預金と同じように必要なとき自由に使えるお金とは分けて考えることが大切です。
「老後まで自由に使えないのなら、今の資産に入れてよいのだろうか」と迷う人もいるでしょう。
確かに、今日の生活費や来月の教育費としてそのまま使える資産ではありません。
しかし、自分のために積み上がっている資産を家計全体から除けば、純資産を必要以上に少なく捉えることになります。
だからこそ、純資産には含める一方、すぐ使える資産とは分けるという整理が役立ちます。
なお、iDeCoや企業型DCを残高全体で一つの項目として記入した場合、その中で運用している投資信託などを通常の「投資信託」へもう一度足さないようにしましょう。
生命保険は現在の解約返戻金を見る
終身保険や養老保険などで解約返戻金がある場合は、現在解約したときに受け取れる金額を確認します。
死亡保険金が1,000万円でも、現在の解約返戻金が150万円なら、バランスシートでは150万円として考えます。
生命保険文化センターは、解約返戻金の有無や金額が保険種類、契約時の年齢、保険期間、経過年数などによって異なると案内しています。
「長く保険料を払ってきたから、かなりの資産になっているはず」と思うこともあるかもしれません。
しかし、これまで支払った保険料と現在の解約返戻金は同じではありません。
実際の金額は、保険会社の契約者向けWebサービスや契約内容のお知らせなどで確認してください。
自宅は合理的な現在価値を概算する
自宅は株式ほど簡単には評価できません。
証券口座のように「今日の価格」が一つ表示されるわけではないからです。
購入時に4,000万円だった住宅でも、現在同じ価格で取引できるとは限りません。
建物の築年数や状態、土地の面積や形状、道路条件、周辺環境、不動産市場などによって価値は変わります。
現在価値を考える際には、不動産会社の査定や周辺にある似た物件の取引事例などを参考にするとよいでしょう。
国土交通省の不動産情報ライブラリでは、不動産の取引価格や成約価格などを確認できます。
ただし、同じ不動産でも個別条件や取引事情によって価格が異なる場合があるため、掲載価格をそのまま自宅の売却価格と考えることはできません。
そこで、「現在はおおむね3,000万円程度として見ておこう」という概算値として扱います。
「正確な値段が分からないなら、書いても意味がないのでは」と感じるかもしれません。
しかし、家庭のバランスシートで必要なのは売却価格を予言することではなく、自宅という大きな資産を無視せず、合理的な方法で現在の家計へ反映することです。
車は現在の売却価値で考える
車にも中古車として一定の売却価値があるなら、資産として考えられます。
300万円で購入した車でも、現在の売却価値が180万円程度なら、資産として見る金額はおおむね180万円です。
特に自動車ローンが残っている場合は、車とローンをセットで確認します。
たとえば車の現在価値が200万円、自動車ローン残高が150万円なら、車に関連する正味の価値は単純計算で50万円です。
車200万円を省略し、ローン150万円だけを負債に残すと、本来プラス50万円だった状態がマイナス150万円として表れます。その結果、両方を計上した場合より純資産が200万円少なく表示されることになります。
ローンが残る高額資産では、片方だけを省略しないことが大切です。
負債は現在の返済残高を使う
住宅ローンや自動車ローンなどは、借りた当初の金額ではなく、基準日時点で残っている元本残高を記入します。
住宅ローンを4,000万円借りていても、現在の元本残高が2,800万円なら、負債として記入する金額は2,800万円です。
ローン残高を久しぶりに開くと、「これだけ返してきたのに、まだこんなに残っているのか」と気持ちが重くなることもあるでしょう。
それでも、負債を確認するのは過去の選択を責めるためではありません。
住宅を購入したり、進学したり、生活に必要な車を買ったりと、借入にはそれぞれ背景があります。
今知りたいのは、その選択が正しかったかどうかではなく、現在いくら返済義務が残っているかです。
貸与型奨学金、教育ローン、カードローン、リボ払いなどについても、毎月の返済額ではなく現在の残高を確認します。
クレジットカードの未払額は金額への影響で判断する
基準日時点の純資産をより正確に把握するなら、一括払いを含め、すでに利用したもののまだ支払われていないカード利用額も未払額として負債に含めます。
たとえば12月31日を基準日にしており、12月中に50万円をカードで利用したものの引き落としが翌年1月なら、12月31日時点では50万円の支払い義務が残っています。
簡易版でどこまで集計するかを決める際は、「一括払いだから省略する」と考えるのではなく、省略したことで家計の見え方が大きく変わるかを判断基準にします。
通常の一括払いの未払額が家計全体と比べて小さく、集計を省いても純資産の把握にほとんど影響しないなら、簡易版では省略する方法もあります。
一方、旅行や家電購入などが重なり、基準日時点で50万円や100万円といったまとまった未払額がある場合は、負債へ含めたほうが現在の状態をつかみやすくなるでしょう。
家計バランスシートの原則と簡易版の違い
ここまで確認すると、「結局すべて書かなければならないのか」と負担に感じる人もいるでしょう。
まず、一般的な考え方としては、基準日時点の資産と負債を整理し、その差額から純資産を確認します。
そのうえで、以下では厳密な会計処理を示すのではなく、家庭で現在地を把握し、毎年続けるための実用的な簡易ルールとして整理します。
家計の純資産をより正確に把握するなら、基準日時点で価値のある資産と、支払い義務のある負債をできるだけ漏れなく反映するのが基本です。
しかし、一枚目から家具や家電の中古価値まで細かく調べ、疲れて翌年やめてしまうなら、本来の目的から離れてしまいます。
そこで家庭で使う簡易版では、家計への影響が小さい項目を省略しても構いません。
判断の軸は「項目の種類」や「細かいかどうか」ではなく、省略したことで純資産や家計の見え方が大きく変わらないかです。
中古価値がほとんどない家具を省略しても、家計全体への影響は限られるでしょう。
通常のカード一括払いの未払額も、基準日時点で少額なら省略する選択肢があります。
一方、自宅、まとまったiDeCoや企業型DCの残高、一定額のカード未払金、ローンが残っている車などを省略すると、家計の姿そのものが変わる可能性があります。
簡易化するなら影響の小さいところから省き、大きな資産と負債は残す。
この一本の基準で考えると、項目ごとに別々のルールを覚えなくても判断しやすくなります。
さらに前年との比較では、基準日、対象とする人の範囲、省略する項目、資産の評価方法などをできるだけそろえてください。
今年は夫婦二人の資産を集計したのに翌年は本人だけへ変えたり、今年は車を含めず翌年だけ加えたりすれば、本当の変化ではないものまで前年差に表れてしまいます。
完璧さより継続を優先しながら、比較の意味を壊さない程度の一貫性を保つことが大切です。
具体例で家庭版バランスシートを作ってみる
ここでは、30代の夫婦と子ども1人が暮らす持ち家世帯を例に考えてみます。
この家庭では夫婦を対象範囲として、住宅ローンを返済しながら預貯金を持ち、株式や投資信託でも資産形成をしています。さらに老後へ向けてiDeCoにも積み立てています。
銀行口座だけを見ると、確認できる預貯金はそれなりにあります。
それでも住宅ローン残高を開けば、「これだけ借入が残っているなら、わが家には結局どれくらい財産があるのだろう」と分からなくなることがありました。
ここで知りたいのは、家計が前年より前進したかどうかではありません。
まず、現在どのような資産と負債を持っているのかを一枚にしてみます。
以下は説明用の架空例で、単位は万円です。
| 資産の項目 | 金額 | 負債の項目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 100 | 住宅ローン残高 | 2,000 |
| 普通預金 | 300 | 自動車ローン残高 | 200 |
| 定期預金 | 200 | 貸与型奨学金の返済残高 | 0 |
| 貯蓄型保険の解約返戻金 | 50 | カードローン残高 | 0 |
| 株式 | 500 | その他借入金 | 100 |
| 投資信託 | 400 | ||
| iDeCo | 300 | ||
| その他金融資産 | 50 | ||
| 自宅の概算現在価値 | 3,000 | ||
| 自動車の概算現在価値 | 250 | ||
| 資産合計 | 5,150 | 負債合計 | 2,300 |
この家庭の純資産は次のようになります。
5,150万円 − 2,300万円 = 2,850万円
現金と預貯金だけなら600万円です。
ところが、株式、投資信託、iDeCo、保険、自宅、自動車まで含めると資産合計は5,150万円あり、住宅ローンなどの負債2,300万円を差し引いた純資産は2,850万円だと分かりました。
つまり、預貯金だけを見ていたときには把握できていなかった資産も含め、現在の家計全体の姿が見えるようになったということです。
ここで「2,850万円あるなら順調だ」と判断することはまだできません。
一枚のバランスシートが教えてくれるのは、あくまで現在地だからです。
さらに表を見ると、別のことも分かります。
5,150万円ある資産のうち3,000万円は自宅で、300万円はiDeCo、250万円は自動車です。
いずれも資産ではありますが、明日の生活費として普通預金と同じように使えるものではありません。
「財産があること」と「今すぐ使えるお金があること」は同じではないのです。
バランスシートを作る意味は、純資産の金額を一つ出すことだけではありません。
どのような形で資産を持ち、どこに負債が残っているのかまで見えるようになることにあります。
作ったバランスシートで確認したい3つのポイント
バランスシートは、純資産の数字を出したところで終わりではありません。
むしろ、本当に役立つのはここからでしょう。
確認したいのは、純資産の増減とその理由、すぐ使える資産、負債の中身です。
ただし、最初の一枚で確認できるのは主に後ろの二つです。
純資産が増えたか減ったかを判断できるのは、同じ基準で作った前年のバランスシートがあってからだと考えてください。
純資産の増減と理由を見る
前年のバランスシートが残っているなら、今年の数字と比べます。
前年の純資産が2,000万円で今年が2,200万円なら、200万円増えています。
しかし、「200万円増えたから順調」と判断する前に、何が変化したのかを確認してみましょう。
預貯金が増えたのかもしれませんし、株式や投資信託が値上がりしたことで、自分で新たに貯めた金額以上に純資産が増えている可能性もあります。
住宅ローン残高が減っていれば、前年とのバランスシート比較では純資産を押し上げる方向に働きます。ただし、手元の預貯金を使って元本を返済しただけなら、資産と負債が同額減るため、その返済だけで純資産が増えるわけではありません。
ここは家計の数字を見るときに、意外と誤解しやすい部分です。
「住宅ローンが100万円減ったのだから、純資産も100万円増えたはず」と思いたくなるかもしれません。
しかし、その100万円を貯めていた預金から返したのであれば、預金が100万円減る一方で住宅ローンも100万円減ります。この返済だけを取り出して考えれば、純資産は変わりません。
だからこそ、住宅ローン残高だけを見るのではなく、預貯金や投資資産などを含めてバランスシート全体を比べる必要があります。
反対に純資産が減っていても、それだけで家計管理に失敗したとはいえません。
子どもの進学に伴って予定していた教育費を支払った年や、生活に必要な車を買い替えた年、育児休業などによって一時的に世帯収入が減少した年であれば、純資産が前年より少なくなることもあります。
そこで確認したいのは、「減ったこと」そのものより「なぜ減ったのか」です。
予定していた支出による減少なのか、それとも毎月の生活費が収入を上回り、気づかないうちに預金を取り崩しているのかでは意味が違います。
家計診断は反省会ではありません。
数字と暮らしの変化を照らし合わせ、何が起きたのかを理解する時間です。
純資産とすぐ使えるお金を分けて見る
これは一枚目のバランスシートからでも確認できます。
純資産が3,000万円あったとしても、その大半が自宅やiDeCo、企業型DCなどであれば、急な支払いに使える預貯金はそれほど多くない可能性があります。
これらも資産であることに変わりはありません。
しかし、自宅は必要な金額だけ切り分けてすぐ現金化できませんし、iDeCoや企業型DCも普通預金と同じように自由に使える資産ではありません。
つまり、資産にはそれぞれ「使いやすさ」の違いがあります。
「財産はあるはずなのに、どうしてお金の不安が消えないのだろう」と感じていた人は、純資産が少ないことより、必要なときすぐ使える資産が少ないことを不安に感じていた可能性もあります。
純資産を確認したあとには、現金や預貯金など、急な支払いへ回しやすいお金がいくらあるのかも分けて見てみましょう。
数字の総額だけでは分からなかった不安の理由が、少し具体的になるかもしれません。
負債は合計ではなく中身を見る
負債についても、最初の一枚から確認できます。
同じ300万円の負債でも、住宅ローン、自動車ローン、カードローンでは金利や返済期間、借入目的が異なります。
日本FP協会でも、純資産がマイナスの場合には金利の高い負債から減らすなどの対策を検討する考え方が示されています。
ただし、住宅ローンが何千万円残っているという理由だけで、危険な家計だと一律に判断することもできません。
収入、毎月の返済額、金利、返済期間、手元資金などによって状況は変わります。
バランスシートは自動的に答えを出してくれる表ではなく、「次はどこを詳しく確認したらよいのか」を見つける入口として使うものです。
年1回更新して純資産の推移を見る
家計のバランスシートは、一度作るだけでも現在地を確認できます。
ただ、変化が見えてくるのは二回目からです。
前年の数字が残っていれば、一年間で資産がどう変わり、負債がどの程度動いたのかを比較できます。
家庭で無理なく続けるなら、本記事では年1回程度を一つの目安にします。
年末や年初、誕生日など、自分が忘れにくい時期を決めておくと続けやすくなります。
比較するときは純資産だけではなく、主な内訳も残しておくと変化の理由を見つけやすくなります。
| 確認項目 | 前年 | 今年 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 資産合計 | __万円 | __万円 | __万円 |
| 負債合計 | __万円 | __万円 | __万円 |
| 純資産 | __万円 | __万円 | __万円 |
| 預貯金 | __万円 | __万円 | __万円 |
| 株式・投資信託 | __万円 | __万円 | __万円 |
| iDeCo・企業型DCなど | __万円 | __万円 | __万円 |
| 住宅ローン残高 | __万円 | __万円 | __万円 |
| その他主なローン | __万円 | __万円 | __万円 |
純資産が一年で200万円増えていても、その200万円すべてが新たに貯めたお金とは限りません。
預貯金の増加、市場価格の変化、不動産の評価変化、資産と負債それぞれの動きが重なっている可能性があります。
反対に純資産が減っていた場合も、理由が分かれば次の行動を考えられます。
予定していた教育費などによる減少なら、それ自体を失敗と考える必要はないでしょう。
一方、大きな支出をした覚えがないのに預貯金が減り、負債も増えているのであれば、バランスシートだけではなく毎月の収入と支出を確認したほうがよい可能性があります。
同じ100万円の減少でも、その背景によって意味は変わります。
最初の年は、分からない項目があっても構いません。次回確認する場所だけメモしておけば、翌年はその分だけ作業が軽くなります。
一年に一度同じ基準で数字を並べ、その理由まで振り返るようになると、バランスシートは単なる資産一覧ではなく、暮らしの変化を記録するものになっていきます。
家計のバランスシートでよくある質問
- 自宅は資産に入れますか
-
持ち家は資産として扱います。
購入価格をそのまま使うのではなく、現在の市場価値を参考にした概算値を記入します。
不動産情報ライブラリの取引価格なども参考にできますが、実際の売却価格は個別条件によって変わります。
- 住宅ローンは残りの元本を記入しますか
-
住宅ローンは、基準日時点で残っている元本残高を負債として記入します。
なお、預貯金から元本を返済した場合は資産と負債が同額減るため、その返済だけで純資産が増えるわけではありません。
- NISAの投資信託も資産に含めますか
-
NISA口座で保有している投資信託や株式も資産に含めます。
ただし、NISAという項目を別に足すのではありません。
NISA口座内の投資信託なら「投資信託」、株式なら「株式」として現在の評価額へ含めます。
同じ商品を「NISA」と「投資信託」の両方で数えると二重計上になるため注意してください。
- iDeCoや企業型DCも資産に含めますか
-
家計全体の純資産を確認するなら、iDeCoや企業型DCの残高も把握しておくとよいでしょう。
ただし、預貯金のように自由に使える資産ではないため、純資産には含めても「すぐ使えるお金」とは分けて確認します。
企業型DCでは事業主による掛金拠出が基本ですが、企業型年金規約に定めがある場合は加入者によるマッチング拠出も可能です。iDeCoは本人による掛金拠出が基本で、iDeCo+では事業主による拠出もあります。
- 生命保険は資産になりますか
-
解約返戻金がある保険なら、現在の解約返戻金を資産として確認します。
死亡保険金や将来の満期保険金を、そのまま現在の資産額として計上するわけではありません。
解約返戻金は契約条件や経過年数などによって異なります。
- 車は資産として計算しますか
-
売却価値がある車は資産として考えられます。
特に自動車ローンが残っている場合は、車だけ、またはローンだけを省略すると純資産の見え方が変わるため、両方をセットで記入するほうが分かりやすいでしょう。
- クレジットカードの一括払いも負債ですか
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基準日時点で利用済みなのにまだ支払っていない金額は、より正確に現在の状態を見るなら未払額として負債に含めます。
簡易版では、未払額が家計全体に与える影響が小さい場合に省略する方法もありますが、まとまった未払額があるなら記入したほうが実態をつかみやすくなります。
- 純資産がマイナスでも問題ありませんか
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純資産がマイナスだからといって、その数字だけで家計の状態を断定することはできません。
ただし、資産より負債が多い状態ではあるため、住宅ローンが主な理由なのか、高金利の借入が積み上がっているのかなど、中身を確認することが大切です。
- 純資産が多ければ安心ですか
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純資産が多いことは一つの情報ですが、それだけで安心とは判断できません。
自宅やiDeCo、企業型DCなどが大部分を占め、預貯金が少なければ、急な支払いへの対応力は別に考える必要があります。
- 家計のバランスシートは何年ごとに作ればよいですか
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家庭で継続するなら、本記事では年1回程度を目安にしています。
毎年同じ時期、同じ対象範囲、できるだけ同じ評価方法で作れば、純資産の変化を比較しやすくなります。
まとめ 家計のバランスシートで現在地と変化を分けて見る
家計のバランスシートを作ると、預貯金だけでは見えなかった家庭のお金を一枚にまとめられます。
まず基準日を決めるとともに、本人だけ、夫婦、世帯全体など、誰の家計を確認するのか対象範囲をそろえます。
そのうえで預貯金、株式、投資信託、iDeCoや企業型DC、保険、自宅などを資産として整理し、住宅ローンや貸与型奨学金、カードローンなどを負債として確認します。
そして、資産から負債を差し引けば現在の純資産が分かります。
ここで覚えておきたいのは、最初の一枚で分かるのは現在地であり、家計が前進したかどうかではないことです。
純資産が前年より増えたのか減ったのか、その理由は何だったのかという変化は、翌年も同じ基準で作って初めて確認できます。
また、本記事で紹介した省略方法は、厳密な会計処理を示すものではなく、家庭で現在地を把握しながら継続するための実用的な簡易ルールです。
小さな項目は省いても、大きな資産や負債は残す。省略すると家計の見え方が大きく変わるかどうかを基準にすると、作業量を抑えながら純資産の意味も保ちやすくなります。
それでも、純資産という一つの数字を出すことだけが目的ではありません。
どの資産がすぐ使えるのか、どの負債が残っているのかを確認し、翌年からはなぜ純資産が増えたのか、なぜ減ったのかまで見ていきます。
住宅ローン残高を見て不安になることもあれば、iDeCoや企業型DCまで確認したことで、「思っていたより将来のための資産があった」と気づくこともあるでしょう。
一方、純資産が多くても、そのほとんどが自宅や老後資産なら、「今すぐ使えるお金は少ない」という別の不安が残るかもしれません。
その感情を無理に打ち消す必要はありません。
安心したから数字を見るのをやめるのでもなく、不安になったから画面を閉じるのでもなく、「どうしてこの数字になっているのだろう」ともう一段だけ確認してみてください。
家計診断は、暮らしを責めるための反省会ではありません。
今の数字と実際の生活をつなぎ、これから何に備え、何にお金を使っていきたいのかを考えるためのものです。
まずは対象とする家計と基準日を決め、預貯金や住宅ローンなど分かる数字からテンプレートへ記入してみましょう。
最初の一枚が完成すれば、家計の現在地が見えます。
そして一年後にもう一度同じ表を作れば、今度は「一年間で何が変わったのか」まで見えるようになるでしょう。
家計のバランスシートは未来を保証する表ではありません。
それでも、今いる場所と歩いてきた方向が分かれば、次に進む道は選びやすくなります。