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金利と投資の関係を完全解説 株式・為替・債券・不動産はなぜ動くのか

好決算だったのに株価が下がり、反対に業績が冴えない企業の株価が意外なほど底堅い。投資を続けていると、企業の売上や利益だけを見ていては説明しきれない値動きに出会い、自分は何を見落としているのだろうと戸惑う瞬間があります。

その背景を読み解く重要な手掛かりが金利です。金利は経済全体における資金の価格であり、株式、為替、債券、不動産だけでなく、企業の借入れや家計の住宅ローン、雇用、物価にも影響します。金利を知る目的は相場を百発百中で当てることではなく、複雑に見える経済ニュースをつなぎ、自分の投資がどのような環境に置かれているのかを判断するための地図を持つことです。

この記事では、金利が上がれば株価が下がる、日米金利差が広がれば円安になる、といった単純な公式を覚えることだけを目指しません。一般的にはどのような力が働くのか、その関係がどの条件で成立し、どの条件によって弱まり、ときにはなぜ反対方向へ動くのかまで確認したうえで、最終的には自分が保有する企業の利益やキャッシュフローへどう届くのかを追っていきます。

TABLE OF CONTENTS
目次

金利と投資の関係を理解すると何が見えるのか

個別企業の財務諸表や事業モデルをどれほど丁寧に調べても、それだけでは株価のすべてを説明できません。企業そのものに大きな変化がなくても、市場全体の資金調達コストや投資家が求める収益率が変われば、その会社につけられる価格まで動くためです。

投資を始めた頃は、売上高、営業利益、PER、配当利回りといった企業自身の数字へ意識が向きやすいでしょう。もちろん必要な分析ですが、会社という木を熱心に見ているうちに、金融環境という森の潮目が変わっていることへ気づけない場合があります。

たとえば金利が上昇すると、多額の有利子負債を抱える企業では支払利息が増える可能性があります。また、遠い将来の大きな成長を期待され、高い株価評価を受けている企業では、金利上昇によって将来利益の現在価値が下がり、それまでの評価を維持しにくくなることもあるでしょう。

一方で、同じ金利上昇でも銀行には収益改善の材料となる場合があります。さらに国家間の金利差が変化すれば為替へ波及し、円高や円安を通じて輸出企業と輸入企業の損益条件まで変わります。

つまり、金利は一つの市場だけを動かす数字ではありません。資金をどこへ置けばどの程度の収益を期待できるのかという基準そのものを変えるため、株式、債券、為替、不動産の相対的な魅力まで動かします。

数兆円、数十兆円という規模の資金を運用する機関投資家にとっては、わずかな期待収益率の差でも資産配分を変更する理由になり得ます。その資金移動が積み重なれば、個別企業に特別なニュースがなくても株価や為替が動くという状況が生まれます。

だからこそ、金利を学ぶ価値は次に上がる銘柄を見つけることだけにはありません。ある会社へ強く魅力を感じているときでも、事業は良いけれど近いうちに大量の借換えがありそうだ、今の金利環境では顧客側のローン負担が重すぎるかもしれない、と気づければ一度立ち止まれます。

勢いに任せて買わず、見送る理由を持てることも投資判断の一部です。バスケットボールでは華やかなシュートだけでなく、相手の攻撃機会を消すリバウンドが試合を左右するように、投資でも利益を取りに行く力と同じくらい、大きな逆風を避ける力が重要になります。

金利は投資のアクセルであると同時に、必要な場面で足を止めるストッパーでもあるのです。

ただし、いつでも金利が市場の主役になるわけではありません。AIや半導体の技術革新が相場の中心なら企業の成長力が金利以上に注目されるでしょうし、地政学的な緊張が強まれば、原油価格や供給網の変化が企業業績を大きく左右するという可能性があります。

重要なのは金利だけを見れば市場が分かると考えることではなく、いま市場が何を最も重視しているのかを確認したうえで、その中で金利がどの程度大きな力を持っているのかを見ることです。

金利とは何か 政策金利と長期金利の違い

金利が投資へ与える影響を理解する前に、政策金利と長期金利を明確に分けて考える必要があります。この二つを同じものとして扱うと、その後に出てくる株式、為替、債券の関係まで混乱しやすくなるからです。

政策金利は中央銀行が調整する短期金利

政策金利とは、日本銀行や米国の連邦準備制度などが金融政策を運営する際の中心となる短期金利です。

日本では、日本銀行の政策委員会が金融政策決定会合で金融政策の基本方針を決定し、その方針に沿って金融市場調節を行います。日本銀行は物価の安定を目的として金融政策を運営しており、消費者物価の前年比上昇率2%を物価安定の目標としています。

米国では、連邦準備制度の中にあるFOMCが全国的な金融政策を決定し、フェデラルファンド金利の目標レンジを設定します。そのため一般的な報道ではFRBが利上げしたと表現されることが多いものの、政策金利の目標レンジを決定する主体を厳密にいえばFOMCです。

また、FOMCが長期的な物価安定と整合的だと位置づけている2%のインフレ率は、CPIではなくPCE価格指数の年間変化率を基準にしています。米国のインフレニュースではCPIとPCEの両方が登場するため、この違いを理解しておけば、CPIが2%にならなければFOMCの目標達成ではない、といった混同を避けやすくなるでしょう。

ただし、現在の政策金利だけを見ても金融市場全体を理解するには十分ではありません。市場参加者は今日の金利だけでなく、その先に政策当局が何をするのかまで先回りして考えているからです。

長期金利は市場で決まる

長期金利の代表的な指標として10年国債利回りがあります。

10年国債の利回りは、中央銀行が政策会合で直接決める数字ではありません。国債市場で投資家が売買する過程を通じて価格が形成され、その価格と将来受け取る利息や元本の関係から利回りが変動します。

長期金利には、今後の政策金利がどう推移するかという市場予想に加え、将来のインフレ、景気、国債需給、財政への見方などが含まれています。

中央銀行が政策金利を据え置いていても、会見で追加利上げを強く示唆すれば、市場参加者は将来の短期金利が想定より高くなると考えるでしょう。その結果として国債が売られ、政策金利が変わっていなくても長期金利だけが上昇するという可能性があります。

反対に、現在の政策金利が高くても景気後退への不安が急速に強まり、いずれ大幅な利下げが必要になると考える投資家が増えれば、政策金利より先に長期金利が低下する場合もあります。

政策金利が中央銀行の現在の判断を示すなら、長期金利には市場参加者が描いている未来まで映り込んでいると考えると理解しやすいでしょう。

政策金利が据え置きでも長期金利が動く理由

金融理論では、長期金利を大きく二つの要素へ分けて考えることがあります。

長期金利 ≒ 将来の短期金利の平均予想 + タームプレミアム

第一の要素は、市場が予想している将来の短期金利の平均的な水準です。第二のタームプレミアムは、長期債を保有することで負う金利変動や期間に関するリスクなどを反映した上乗せ・調整部分として捉えられます。

ニューヨーク連邦準備銀行のACMモデルでも、米国債利回りを将来の短期金利に関する期待部分とタームプレミアムへ分解しています。また、タームプレミアムは市場で直接観測できる数値ではなく、金融市場のデータなどからモデルを使って推計されます。

ここで重要なのは、タームプレミアムを必ずプラスになる固定的な追加報酬と考えないことです。投資家の長期債需要、市場環境、リスク認識などによって推計値は変化し、モデル上では非常に低い水準やマイナスになる局面もあります。

したがって、長期債には常に一定のプラス幅が上乗せされると覚えるのではなく、将来の短期金利予想だけでは説明できない長期債固有のリスクや需給などを反映した調整部分と理解する方が正確です。

長期間にはインフレ率が変化するかもしれません。財政赤字が拡大して国債発行量が増えたり、投資家が長期国債を持ちたがらなくなったりすれば、長期債へ求められる条件も変化します。

そのため、将来の政策金利予想がほとんど変わっていなくても、国債需給や財政への見方を通じてタームプレミアムが上昇すれば、長期金利が上昇するという可能性があります。

長期なら必ず短期より高い金利になると暗記するのではなく、将来の短期金利予想とタームプレミアムの双方から長期金利が形成されると理解する方が、実際の市場を読みやすくなります。

実質金利には事前と事後がある

もう一つ分けて考えたいのが、名目金利と実質金利です。

基本的な関係は、

実質金利 ≒ 名目金利 - インフレ率

と説明されることが多いのですが、ここで使うインフレ率が将来について予想されたものなのか、実際に起きた物価上昇率なのかによって意味が変わります。

将来の期待インフレ率を名目金利から差し引いて考えるものが事前的実質金利です。

事前的実質金利 ≒ 名目金利 - 期待インフレ率

一方、実際に起きたインフレ率を後から差し引いて計算するものは事後的実質金利と呼ばれます。

事後的実質金利 ≒ 名目金利 - 実現インフレ率

セントルイス連邦準備銀行のFREDでも、予想インフレ率を使って求める実質金利をex ante、実現したインフレ率を使うものをex postとして区別しています。

本稿で投資判断や金融政策との関係を考える際に中心となるのは、事前的な実質金利です。

企業や家庭は、数年後の実際のインフレ率を知ったうえで今日の設備投資や住宅購入を決めることはできません。将来の物価がどの程度上がると予想しているかを踏まえ、現在の名目金利が実質的に高いのか低いのかを判断します。

たとえば名目金利が4%で、期待インフレ率が5%なら、単純化した事前的実質金利はマイナス1%です。反対に名目金利4%のまま期待インフレ率が1%へ低下すれば、事前的実質金利はプラス3%へ上昇します。

このとき、すべての企業や家庭が実際に支払う利息が自動的に増えるわけではありません。固定金利なのか変動金利なのか、所得や売上がどう変化しているのかによって、個別の返済負担は異なります。

より正確には、名目金利が変わらないまま期待インフレ率が低下して実質金利が上昇すると、実質的な金融環境は引き締まる方向へ働くと考えられます。実質金利は、個々のローン返済額そのものではなく、インフレ調整後の資金調達条件や投資収益率を考えるための指標です。

期待インフレ率にも一つだけの正解があるわけではない

ここまで理解すると、次に気になるのは期待インフレ率をどこから持ってくるのかという点です。

実際には、期待インフレ率にも一つだけの観測値があるわけではありません。家計へ将来の物価について尋ねる調査、企業や専門家の予測を集計する方法、債券などの市場価格から推計する方法などがあり、それぞれ見ている経済主体や期間が異なります。

ニューヨーク連邦準備銀行のSurvey of Consumer Expectationsでは、家計に対して将来のインフレ率に関する期待を継続的に調査しています。一方、専門家の予想を用いる指標もあり、家計と専門家では持っている情報や予測方法が異なるため、同じ時点でも期待値が一致するとは限りません。

市場ベースの指標としては、名目国債とインフレ連動国債の利回り差から得られるブレークイーブン・インフレ率があります。ただし、これも純粋な期待インフレ率だけを表す数字ではありません。

FRBは、名目国債とTIPSから得られるインフレ補償には、期待インフレだけでなくインフレリスクプレミアムや流動性などの影響が含まれ得ると説明しています。

そのため、ニュースで期待インフレ率が上昇したと聞いたときには、家計調査なのか専門家調査なのか、市場価格から得られた指標なのかを確認する必要があります。

実質金利という数字を実際の投資判断へ使うなら、名目金利から何を差し引いたのかまで見ることが大切です。

実質政策金利と市場の実質利回りは同じではない

ここからは、実際の金融市場で実質金利という言葉を見たときに混乱しないための一段深い話です。

政策金利から期待インフレ率を差し引けば、金融政策の引き締め度合いを考える際に使われる実質政策金利を考えられます。一方、10年国債などの名目利回りから長期の期待インフレを考慮すれば、より長い期間に対応した実質金利を考えることができます。

米国では、インフレ連動国債であるTIPSの利回りが市場で観察できる実質利回りの代表として使われます。ただし、前述したように、名目国債利回りとTIPS利回りの差をそのまま純粋な期待インフレ率と考えることはできません。

したがって、ニュースで実質金利が上昇したと聞いたときには、政策金利から期待インフレを引いたものなのか、長期市場金利を基準にしたものなのか、TIPSの実質利回りなのかを確認した方がよいでしょう。

同じ実質金利という名前でも、期間や算出方法が異なれば、示している金融環境まで同じではありません。

金利が上がると株価はどうなるのか

ここまでは、どの金利について話しているのかを整理してきました。ここからは、その金利変化が実際の資産価格へどのように伝わるのかを見ていきます。

金利が上がると株価が下がる、と説明されることがありますが、実際の市場では金利が上昇しながら株価も上がる局面があります。違いを理解するには、金利が株式へ届く経路を一つずつ分けて考える必要があります。

金利上昇で企業の借入コストが増える

企業は工場建設、新店舗の出店、設備更新、M&A、新規事業などをすべて自己資金だけで行うとは限りません。銀行借入れや社債発行によって資金を調達する企業では、金利上昇が支払利息の増加へつながります。

特に変動金利で多額の負債を抱える企業では、市場金利上昇の影響が比較的早く現れるでしょう。固定金利で借りている会社でも、低金利時代に発行した社債や長期借入金が満期を迎えれば、その時点の高い金利で借り換える必要が生じる可能性があります。

営業利益が変わらなくても、支払利息が増えれば経常利益や当期純利益は減ります。最終利益の減少によって1株当たり利益であるEPSまで低下すれば、株価評価の重荷になるでしょう。

金利上昇の影響を見るときは、有利子負債の金額だけでなく、その借金が固定金利なのか変動金利なのか、いつ借換えを迎えるのかまで確認する必要があります。

金利上昇は株式の割引率へどう影響するのか

金利は、企業が実際に支払う利息だけでなく、株式をいくらで評価するのかにも関係します。

DCFでは、企業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値へ割り引いて企業価値を考えます。

現在価値 = 将来キャッシュフロー ÷ (1+割引率)の経過期間

割引率が高くなるほど分母が大きくなるため、将来キャッシュフローが同じなら現在価値は低下します。

ただし、ここで注意したいのは、長期国債利回りが1%上がったからDCFの割引率も必ず1%上がる、という単純な関係ではないことです。

企業価値をFCFFで評価するときには、負債と株主資本の両方の資金コストを反映するWACCが使われます。概念的には、

WACC = 株主資本コスト × 株主資本の構成比 + 税引後負債コスト × 負債の構成比

と考えます。

株主資本コストをCAPMで考える場合には、

株主資本コスト = リスクフリーレート + β × 株式リスクプレミアム

という構造が使われます。

そのため国債利回りなどのリスクフリーレートが上昇すれば、ほかの条件が同じなら株主資本コストを押し上げる方向へ働きます。企業の借入金利や社債利回りが上昇すれば、負債コストも上昇する可能性があります。

一方で、株式リスクプレミアムや企業固有の信用スプレッド、資本構成まで同じとは限らないため、金利上昇とWACC上昇が常に一対一になるわけではありません。

それでも、リスクフリーレートと負債コストの双方が高くなる局面では、ほかの条件が変わらなければDCFで用いる割引率には上昇圧力がかかります。

金利は分母だけでなく分子にも影響する

金利と株価の関係をDCFで考えるときには、もう一つ重要な点があります。

金利上昇は割引率という分母だけを変えるのではなく、企業が将来生み出すFCFという分子まで変える可能性があります。

金利が上昇すれば支払利息や資金調達費が増え、設備投資や需要が弱まり、将来の売上や利益が下がる場合があります。そうなれば、割引率上昇とFCF減少の両方が株式価値へ下押し圧力をかけることになります。

反対に、金利が上昇していても、その背景が非常に強い景気や企業利益の拡大なら、FCFの増加が割引率上昇の悪影響を上回る場合があります。

これが、金利上昇局面でも株価が上昇することがある重要な理由の一つです。

金利から株価を考えるなら、

金利上昇 割引率はどうなるか

だけではなく、

金利上昇 売上・利益・FCFは どうなるか

という両側を確認する必要があります。

遠い将来の利益ほど割引率の影響を受けやすい

現在の利益はまだ小さいものの、5年後や10年後には大きく稼ぐはずだという期待で高い株価がついている企業では、価値の多くが遠い将来にあります。

遠い将来のキャッシュフローほど割引率上昇の影響を強く受けるため、金利上昇局面では高成長企業の評価倍率が大きく低下する場合があります。

一方、現在すでに安定した利益や配当を生み出している企業では、投資家が比較的早い時期にキャッシュフローを受け取れるため、同じ金利上昇でも評価への影響が異なる可能性があります。

ただし、グロース株なら必ず下がり、バリュー株なら必ず上がるという意味ではありません。将来利益の成長率、財務構造、業種、景気への感応度などを併せて考える必要があります。

金融政策は心理だけでなく複数の経路で企業と家計へ伝わる

住宅ローン負担が増えた家庭が旅行や外食を減らすという説明は、金融政策が消費へ伝わる分かりやすい例です。ただし、金融政策の波及を人々の心理変化だけで捉えると、全体像を狭く理解してしまいます。

金融政策は、まず短期市場金利へ影響し、そこから銀行貸出金利、社債利回り、住宅ローン金利などへ波及します。金利が上昇すれば、借入可能額が小さくなったり、これまで採算が取れていた設備投資案件のNPVが悪化したりするため、感情とは別に数値上の採算条件そのものが変化します。

また、借り手が資金を借りたいかどうかだけでなく、貸し手である銀行がどの条件で資金を供給できるかも変わります。

銀行の資金調達環境が悪化したり、自己資本への余裕が小さくなったり、景気悪化によって融資先の信用リスクが高まったりすれば、銀行が貸出基準を厳しくする場合があります。ただし、政策金利が上昇したからすべての銀行が機械的に貸出しを減らすわけではなく、銀行自身の財務状態、預金動向、貸出需要、借り手の信用力などによって影響は異なります。

さらに、株価や不動産価格が下落すると、企業や家庭が保有する資産や担保の価値が低下し、借入能力へ影響する場合があります。これは、単なる借入金利の変化とは別のバランスシートを通じた経路です。

日本銀行も、金融政策が資金調達コストだけでなく、金融機関の貸出し、資産価格、為替など複数の経路を通じて経済活動と物価へ影響すると説明しています。

したがって、金融政策の伝播は一つの一本道ではありません。

金利そのものが借入コストを変える経路、銀行の貸出姿勢を通じて信用供給が変わる経路、資産価格と担保価値を通じて借入能力が変わる経路、為替を通じて輸出入価格が変わる経路、将来の政策への期待を通じて長期金利や投資判断が変化する経路が同時に存在します。

ある家庭が今は使いすぎない方が安心だと感じる心理も重要ですが、それは複数ある経路の一つです。金融政策は気持ちだけを変えるのではなく、企業や家庭が直面する金利、予算、担保、信用供給といった選択肢そのものを変え、その結果として消費や投資へ届きます。

銀行には金利上昇が追い風になる場合がある

金利上昇で借り手の負担が増えるなら、利息を受け取る銀行には逆方向の作用があります。

銀行は預金や市場調達などで集めた資金を、企業や個人への貸出し、有価証券などで運用しています。金利が上昇したとき、貸出金や有価証券など資産側の利回りが上昇し、それに対して預金や市場調達へ支払う費用の上昇が緩やかなら、純金利収益は改善する可能性があります。

ここでNIMという指標が登場しますが、NIMは単純な貸出金利から預金金利を差し引いた預貸金利差そのものではありません。一般には、利息収入から利息費用を差し引いた純金利収益を、平均利息収益資産などで割った比率として考えられます。

したがって、貸出金利が上がれば銀行は儲かるとだけ考えるのでは不十分です。貸出しや有価証券から得る利息収入、預金や市場調達へ支払う費用、運用資産の規模や構成まで含めて収益性を見る必要があります。

それでも銀行株が必ず上がるわけではない

銀行自身も債券を保有しています。市場金利が急上昇すれば、以前に低い利回りで購入した固定利付債券の市場価格が下がり、保有資産に大きな評価損が発生する場合があります。

2023年に破綻したシリコンバレー銀行では、経営陣による金利リスクや流動性リスクの管理不足、集中した事業構造、無保険預金への依存など複数の脆弱性が重なりました。FRBの公式レビューでも、一つの原因だけではなく複数の弱点が破綻へつながったことが示されています。

もう一つのリスクが信用コストです。高い金利によって融資先企業の経営が悪化し、倒産や返済遅延が増えれば、銀行は貸倒れへ備える費用を増やさなければなりません。

純金利収益が増えても、債券損失や信用コスト、資金調達費の増加がそれ以上に大きければ、最終的な利益は伸びない可能性があります。

銀行を見るなら利上げかどうかだけでは足りません。NIM、資産と負債の金利感応度、保有債券、預金構成、信用コスト、貸出先の質まで確認して初めて、その銀行が金利上昇から本当に恩恵を受けられるのかを考えられます。

金利上昇でも株価が上がるケース

金利上昇と株価上昇が同時に起こることもあります。

代表的なのは、景気が強く、企業利益が急速に拡大している局面です。金利上昇によって割引率へ上昇圧力がかかっていても、それ以上の速度で将来FCFが増えているなら、企業価値は上昇する可能性があります。

そのため、金利が上がったという結果だけを見て株安を予想するのではなく、なぜ金利が上がっているのか、その背景にある景気、インフレ、企業利益まで確認することが重要です。

金利と為替はどうつながるのか

株式では、金利が企業利益と割引率の双方へ影響することを見てきました。為替ではさらに、二つの国の金利を相対的に比較する必要があります。

金利の高い通貨へ資金が向かいやすい理由

同程度のリスクを持つ二つの運用先があり、一方の利回りが1%、もう一方が4%なら、4%の方へ資金を移したいと感じる投資家は多いでしょう。

機関投資家も、期待収益とリスクを比較しながら巨額の資金を配分しています。為替変動や信用リスクなどをいったん脇に置いて考えるなら、低い名目金利しか得られない通貨から、高い名目金利を得られる通貨建て資産へ資金を移そうとする動機が生まれます。

ただし、実際の外国通貨投資では為替変動を無視できません。高い利息を受け取っても、その通貨が大幅に下落すれば、円へ戻したときの為替差損が金利収入を上回る可能性があります。

日米金利差と円安円高の関係

日本より米国の金利が大幅に高い場合、円資産から米ドル建て資産へ資金を移す動機が強まりやすくなります。その過程では円を売ってドルを買う必要があるため、日米金利差の拡大は円安ドル高方向への材料になる場合があります。

反対に米国でFOMCが利下げへ向かい、日本の金利が上昇すれば日米金利差は縮小します。するとドルで運用する相対的な魅力が小さくなり、円高ドル安への圧力が強まるという可能性があります。

とはいえ、日本が利上げした日に必ず円高になるわけではありません。市場がその利上げを何か月も前から織り込んでいたり、同時に米国の金利見通しが引き上げられたりすれば、為替は反対方向へ動くことがあります。

為替では日本で何が起きたかだけでなく、相手国と比べて何が変化したかを見る必要があります。

無ヘッジ投資と為替ヘッジでは金利差の意味が違う

米国金利が5%、日本金利が1%なら、単純に見れば4%の差があります。その数字だけを見て、ドル資産を買えば4%分有利になると考えたくなるかもしれません。

しかし、円からドルへ投資し、為替リスクをそのまま負う無ヘッジ投資では、最終的な円ベース収益が将来のドル円レートに左右されます。ドル建てで高い利息を得ても、その間にドルが円に対して大きく下落すれば、為替差損が利息収入を上回る場合があります。

一方、為替リスクを抑えるために先物やFXフォワードなどでヘッジすれば、今度はヘッジコストが発生します。

つまり、高金利通貨へ投資するときには、高い名目金利を受け取れる代わりに為替変動を引き受けるのか、為替変動を抑える代わりにヘッジコストを負担するのかという違いがあります。

カバード金利平価が示すこと

為替ヘッジまで含めて金利差を理解する際に重要なのが、カバード金利平価です。

理論上、為替リスクをフォワード取引でヘッジした二つの通貨間では、金利差とスポットレートからフォワードレートが無裁定条件によって結び付けられます。

言い換えると、高金利通貨の債券を買い、為替リスクまで完全に消せば、その高い金利差を何の調整もなく追加収益として丸ごと受け取れるわけではありません。

FRBの研究でも、カバード金利平価はスポット為替、フォワード為替、二通貨の金利を結ぶ関係として扱われており、現実には金融機関のバランスシート制約や市場の需給などによって、この理論関係から乖離するクロスカレンシー・ベーシスが生じることが示されています。

そのため、米国債の表面利回りが日本国債より大幅に高い場合でも、円投資家が為替ヘッジを付けた後の収益差は、表面上の金利差そのものにはなりません。

キャリートレードとは

為替リスクを消すのではなく、金利差と為替変動を含めて収益を狙う代表的な取引がキャリートレードです。

たとえば低金利の円で資金を調達し、その円を売って高金利通貨へ換え、高い利回りを持つ債券などへ投資します。為替レートが大きく変化しなければ、二つの通貨の金利差が収益源になります。

しかし、この取引には巻き戻しリスクがあります。金利差が縮小したり、市場のボラティリティが急上昇したりすると、このままでは金利差より為替差損の方が大きくなると考える投資家が増えるでしょう。

すると高金利資産を売却し、調達していた円を買い戻して返済する動きが集中します。

2024年8月初旬の市場変動について、FRBの金融安定報告書は、日銀の利上げや米国の弱い労働市場指標などを受け、円キャリートレードの解消が市場のボラティリティ上昇へ寄与した可能性を指摘しています。

金利差による取引は、積み上がるときには比較的ゆっくりでも、解消されるときには短期間へ集中する場合があります。為替が突然大きく動いたときに、昨日までの金利差の説明と違うと戸惑わないためには、この巻き戻しまで理解しておくことが役立ちます。

機関投資家の資金移動が為替へ与える影響

為替市場では、生命保険会社や年金基金など長期投資家の動向も重要です。

海外債券へ投資するとき、為替変動による損失を避けるために為替ヘッジを付ける場合があります。ところが、外国債券そのものの利回りが高くても、ヘッジコストを差し引いた後の収益が国内債券より低ければ、為替リスクを取ってまで海外へ投資する魅力は低下します。

その結果、外国債券への投資を減らしたり、国内債券へ資金を戻したりするという可能性があります。

個人の売買なら市場全体への影響は限られていても、巨額の資金を運用する投資家が同じ方向へ動けば、為替需給へ無視できない影響を与えます。

名目金利差だけでなく実質金利を見る

為替を考える際には、名目金利差だけでなく実質金利も重要な補助材料になります。

たとえば米国の名目金利が5%、日本が1%であれば、名目金利差は4%です。一方、仮に米国の期待インフレ率が4%、日本が0%なら、単純化した事前的実質金利は両国とも1%になります。

ここで注意したいのは、実質金利が同じだから円からドルへ投資した場合の収益条件まで同じになる、という意味ではないことです。

外国通貨建て資産へ投資した場合の円ベース収益は、外貨建て資産そのものの名目利回りに加えて、投資期間中の為替変動から影響を受けます。為替ヘッジを行うなら、金利差などを反映するヘッジコストも収益を左右します。

したがって、名目金利差から得られるキャリーと、各国の期待インフレを考慮した実質金利は同じ概念ではありません。

実質金利は、その国の金融環境が実体経済に対してどの程度引き締め的なのか、インフレ調整後の収益率がどうなっているのかを考えるための重要な補助指標です。一方、異なる通貨間の実際の投資収益を考えるなら、名目金利差、為替変動、ヘッジの有無、ヘッジコストを併せて見る必要があります。

円安円高は企業業績へどう影響するのか

為替章では、金利差だけで通貨が動くわけではなく、無ヘッジかヘッジ付きかによって投資家が向き合う条件も違うことを確認しました。その為替変化が起きたあと、個別企業の損益へどう伝わるのかが次の段階です。

円安で海外売上の円換算額が増える仕組み

米国で1万ドルの商品を販売する日本企業を考えます。

為替が1ドル100円なら、1万ドルの売上を日本円へ換算すると100万円です。ところが1ドル150円まで円安になれば、商品価格も販売数量も変わっていないのに、円換算売上は150万円になります。

海外現地法人が稼いだ利益を日本円へ換算するときにも似た換算効果が生まれるため、海外売上比率が高い企業では円安が業績の押し上げ要因になる場合があります。

円高で輸入コストが下がる仕組み

海外から1万ドル分の原材料を購入している会社では、為替の影響が反対方向になります。

1ドル150円なら仕入れに150万円必要ですが、1ドル120円へ円高になれば120万円で済みます。原材料のドル価格が変わっていなくても、円で支払う費用は30万円減ります。

燃料、食料、金属、海外製品などを大量に輸入する企業では、円高によって売上原価が下がり、利益率が改善する可能性があります。

輸出企業だから円安メリットとは限らない

現在のグローバル企業では、生産拠点も海外へ広がっています。

米国で販売する自動車を米国工場で生産していれば、売上だけでなく人件費や部品代もドルで発生します。その場合、国内ですべてを作って輸出していた時代ほど単純な円安メリットは生まれません。

さらに国内で生産して海外へ輸出する企業でも、部品、原油、金属、電力関連コストなどを海外へ依存していることがあります。円安によって海外売上の円換算額が増えても、それ以上に輸入コストが上昇すれば利益率が悪化するという可能性があります。

輸出企業という分類だけで、円安が必ず追い風になると判断するのは危険です。

海外生産と輸入原料と為替ヘッジを見る

企業の為替耐性を調べるなら、まず海外生産比率を確認します。

現地で生産し、現地で販売している企業では、売上と費用が同じ通貨で発生するため、為替リスクの一部が自然に相殺されます。

次に輸入原材料の割合と価格転嫁力を見ます。原材料費が上昇しても販売価格へ転嫁できるブランド力や市場支配力を持っていれば、円安によるコスト増を吸収しやすいでしょう。

さらに為替予約や通貨オプションなどによるヘッジも確認します。為替を一定期間固定している会社では、急激な円高や円安が起きても当期利益へすぐ全額反映されるわけではなく、好都合な為替変化による増益効果も遅れて現れる場合があります。

企業の想定為替レートを確認する

企業分析では、経営計画で使用している想定為替レートを見ると役立ちます。

大切なのは想定レートそのものを企業の為替予想として当て物に使うことではありません。企業がどの為替水準を前提として利益計画を作り、実勢レートとの差が現在の業績へどちら向きに働いているのかを確認するために使います。

企業によっては、1円の為替変動が営業利益へどの程度影響するかという為替感応度も説明されています。

ただし、為替感応度は一定不変の係数ではありません。海外生産、商品価格、販売価格、仕入れ価格、ヘッジ、取引通貨などが変われば感応度も変化するため、広い為替変動へ機械的に掛け算するのではなく、企業がどの程度為替へ反応する事業構造なのかを理解するために使う方が適切です。

金利と債券価格が逆に動くのはなぜか

ここまで株式と為替を見てきましたが、金利との関係が最も直接的に価格へ現れやすい金融商品の一つが債券です。

金利が上がるなら、債券でもらえる利息も増えて良いのではないかと感じる人は少なくありません。その直感は新しく発行される債券について考えるなら間違いではありませんが、問題になるのは、すでに発行されている古い債券の価値です。

債券とはお金を貸す権利

債券とは、国や企業などがお金を借りるために発行する金融商品です。

投資家は資金を貸す代わりに決められた利息を受け取り、満期になれば原則として額面金額の返済を受けます。株式では企業へ出資する立場になりますが、債券では貸し手になるため、収益の生まれ方もリスクの性質も異なります。

国債と社債の違い

国が発行する債券が国債であり、企業が発行するものが社債です。

社債には発行企業が倒産し、利息や元本を約束どおり支払えなくなる信用リスクがあります。そのため一般には、同程度の満期を持つ信用力の高い国債より高い利回りが要求されます。

企業の業績や財務状態への不安が高まれば、投資家はより大きな信用スプレッドを要求するため、社債価格が下落し、利回りが上昇する場合があります。

市場金利が上がると既存債券が下がる理由

市場金利と固定利付債券価格は、一般に逆方向へ動きます。

理由は、新しく発行される債券と競争しなければならないからです。過去に低い金利で発行された債券を持っているとき、世の中でそれより高い金利の新しい債券を買えるようになれば、古い債券を同じ価格で買いたい人は減ります。

そこで既存債券の価格が下がり、買い手が得られる満期までの利回りが新しい市場金利へ近づきます。

3%と4%の債券で考える

額面100万円で、年3%の利息を支払う債券があるとします。毎年受け取る利息は3万円です。

その後、市場金利が上昇し、新しく発行される同程度の債券が年4%になったとしましょう。新しい債券なら100万円で年間4万円を受け取れるため、古い3%債券を同じ100万円で買う魅力は小さくなります。

年3% 年4%
額面100万円で、年3%の利息を支払う債券があるとします。毎年受け取る利息は3万円です。 新しい債券なら100万円で年間4万円を受け取れるため、古い3%債券を同じ100万円で買う魅力は小さくなります。

そのため古い債券は、買い手が得る利回りが新しい市場金利へ近づくまで価格を下げる必要があります。

ただし、どの程度価格が下がるかは残存期間によって大きく異なります。

たとえば利払いを単純化し、額面100万円、年間利息3万円で、残存期間が約1年の債券なら、満期までに受け取る金額を市場利回り4%で割り引くと、価格はおおむね99万円程度になります。

一方、残存期間が長ければ価格調整はより大きくなります。Investor.govの例では、クーポン3%、市場金利4%、残存9年の1000ドル債券について925ドルという価格例が示されています。

同じ1%ポイントの金利上昇でも、残存期間やクーポンによって価格への影響は異なります。

長期債ほど金利変化の影響を受けやすい

債券価格が金利変化へどの程度反応するかを見る概念の一つがデュレーションです。

近似的には、

債券価格の変化率 ≒ -修正デュレーション × 金利変化幅

という関係で考えます。

修正デュレーションが5なら、金利が1%ポイント上昇した場合、ほかの条件が同じなら価格にはおおむね5%の下落圧力がかかります。デュレーション20なら、同じ1%ポイントでも約20%の下落方向となる計算です。

実際にはコンベクシティなどの影響もあるため完全な直線関係ではありませんが、国債だから価格もほとんど動かないだろうと考えて長期債を買うと、金利急上昇時の大きな評価損に驚く可能性があります。

利下げなのに債券価格が下がることがある理由

ここからは、教科書的な因果関係が実際の市場ではそのまま現れない代表例を見ていきます。

債券と金利の基本を理解すると、利下げなら債券価格が上がると考えたくなります。ところが、FOMCが利下げを決定した直後でも長期金利が上昇し、債券価格が下がることがあります。

市場は実際の利下げより先に動く

金融市場では、FOMCが正式に利下げするまで全員が何もせず待っているわけではありません。

物価指標が弱くなり、雇用も悪化してきた段階で、数か月後には利下げになるだろうと予想する投資家が国債を買い始めます。

国債が買われれば債券価格は上昇し、長期金利は低下します。つまり、実際の利下げが発表された時点では、期待されていた値上がりのかなりの部分がすでに起こっている可能性があります。

市場の織り込みとは何か

将来起こると予想される出来事を、正式な発表より前に現在の価格へ反映させることを織り込みと呼びます。

たとえば市場が、年内に0.25%ポイントの利下げを4回行うと強く期待している状況を考えてみましょう。

その期待を前提として長期国債が十分に買われていれば、長期金利は正式な利下げ前から低下しています。実際に最初の利下げが行われても、それ自体が予想どおりなら新しい情報にはなりません。

さらに価格を動かすのは、その先の利下げが予想より多いのか少ないのかという情報です。

予想された利下げ回数と現実の差

利下げ発表と同時にFOMCが、その後の利下げは市場が考えていたほど多くなさそうだと示せば、市場参加者の前提が変わります。

4回を想定していたのに2回しかなさそうだと分かれば、それまで買われていた長期債が売られる可能性があります。その結果、政策金利の目標レンジは引き下げられたのに、長期金利が上昇するという現象が起こります。

2024年9月18日には、FOMCがフェデラルファンド金利の目標レンジを0.50%ポイント引き下げ、4.75~5.00%としました。

しかし、利下げが実施されたからといって、その後の長期金利が機械的に下がり続けるわけではありません。米国経済の底堅さ、インフレや将来の政策金利への見通し、財政などに対する市場評価が変化すれば、長期金利は政策金利とは別の動きを示します。

金融商品の説明を自分で検証する

金融機関から、これから利下げが始まるので長期債が有利だと説明されたとします。

その説明には理論的な根拠がありますが、投資家には、現在の市場価格がすでに何回の利下げを想定しているのか、利下げの理由が深刻な景気後退なのか予防的な調整なのか、購入しようとしている債券のデュレーションがどの程度なのかを確認する余地が残っています。

金利を勉強する本当の価値は、営業担当者より未来を正確に予測できるようになることではありません。その説明が成立するためには何が起こる必要があり、何が起きたら崩れるのかを、自分で確認できるようになることです。

金利と不動産価格の関係

金融市場の仕組みを株式、為替、債券まで見たところで、次は実物資産へ広げます。不動産は金融資産とは性質が異なるものの、多くの取引で借入れが使われるため、金利との結び付きは強くなります。

低金利で住宅を買いやすくなる理由

住宅を購入するとき、多くの家庭には毎月いくらまでなら無理なく返せるかという上限があります。

同じ月15万円の返済でも、住宅ローン金利が低いほど元本へ多く回せるため、借りられる金額は大きくなります。

ある家庭が、この価格では手が届かないと諦めていた住宅でも、低金利によって月々の返済額が許容範囲へ収まれば、今なら買えるかもしれないと感じるでしょう。

こうした判断が多くの家庭で起これば住宅需要が強まり、価格を支える力になります。

金利上昇で住宅需要が弱まりやすい理由

反対に住宅ローン金利が上昇すると、同じ月額返済で借りられる元本は減ります。

それまで6000万円の住宅を検討していた家庭が、この金利では返済が怖いと感じ、5000万円程度まで予算を下げる可能性があります。購入そのものを半年や一年先へ延期する人も出てくるでしょう。

ここでも心理だけが原因ではありません。金融機関の審査上の借入可能額が小さくなったり、返済比率が高くなったりすることで、数値上購入できないケースも増えます。

不動産価格へ影響するのは金利という一つの数字ではなく、借入可能額、返済負担、買い手の心理が組み合わさった住宅需要そのものです。

投資不動産とキャップレート

投資用不動産では、NOIとキャップレートを使って価格を考えることがあります。

不動産価格 = NOI ÷ キャップレート

NOIは賃料収入などから運営費用を差し引いた純収益です。

安全性の高い国債でも高い利回りを得られるようになれば、投資家は流動性が低く管理も必要な不動産へ投資する以上、それより高い収益率を求めるでしょう。

その結果としてキャップレートが上昇し、NOIが変わらなければ不動産評価額には下押し圧力がかかります。

金利が上がっても不動産価格が下がらない理由

現実には、金利上昇中でも不動産価格が上がる場合があります。

景気が強く賃料を引き上げられるならNOIが増え、キャップレート上昇による価格下押しを上回る可能性があります。また、建築資材や人件費の高騰、土地不足などによって供給が制約されていれば、金利上昇だけでは価格が下がらないこともあります。

金利が上がったのに不動産が下がらないという場面で、理論が間違っているとは限りません。価格を押し上げる別の力が、金利による下押しより強く働いているという可能性があります。

なぜ中央銀行は利上げ利下げをするのか

ここまでは、金利変化を起点として各資産や企業へ何が起こるのかを見てきました。ここからは視点を逆向きにし、中央銀行がそもそもなぜ金利を変えるのか、その判断が再び景気と物価へどう戻っていくのかを整理します。

金融政策には複数の伝播経路がある

中央銀行が政策金利を変更しても、翌日にすべての企業の売上や物価が同じ割合で変わるわけではありません。

まず短期市場金利へ影響し、それが銀行貸出金利、社債利回り、住宅ローン金利などへ波及します。同時に、長期金利、株価、為替、不動産価格などの金融・資本市場も反応します。

ここで、金融政策の伝播経路を少し細かく分けると理解しやすくなります。

金融政策には複数の伝播経路がある 借入コストを通じる経路 銀行貸出を通じる経路 バランスシートを通じる経路 為替を通じる経路 期待を通じる経路

借入コストを通じる経路では、企業や家庭が直面する金利そのものが変わり、設備投資や住宅購入などの採算条件へ影響します。

銀行貸出を通じる経路では、銀行の資金調達条件、自己資本、預金動向、借り手の信用リスクなどが変わることで、貸出基準や信用供給が変化する場合があります。

バランスシートを通じる経路では、株価や不動産価格の変化によって企業や家庭の純資産や担保価値が変わり、借入能力へ影響します。

為替を通じる経路では、通貨高や通貨安が輸出入価格、企業利益、国内物価へ波及します。

さらに期待を通じる経路では、中央銀行が将来の政策方針をどう伝えるかによって市場参加者の見通しが変わり、政策変更を待たずに長期金利や資産価格が動きます。

日本銀行も、金融政策が金利だけでなく、金融機関の貸出行動、資産価格、為替などを通じて経済活動や物価へ影響すると説明しています。

重要なのは、政策金利上昇が必ず銀行の貸出基準厳格化へ直結するわけではないという点です。

景気が強く企業の財務も良好なら、多少金利が高くても融資需要や銀行の貸出意欲が保たれる場合があります。反対に政策金利がそれほど高くなくても、銀行の自己資本が傷んでいたり、預金流出が進んでいたり、貸倒れへの不安が強まったりすれば、信用供給は厳しくなる可能性があります。

金融政策を見るときは、借り手が借りたいかどうかだけでなく、貸し手がどの条件なら貸せるのかまで考える必要があります。

景気が悪くなると利下げが検討される理由

景気が悪化すると企業の商品が売れにくくなり、設備投資や採用も慎重になります。雇用への不安が広がれば、家庭も支出を減らすでしょう。

そこで中央銀行は金利を引き下げ、企業や家庭が資金を調達しやすい金融環境を作ろうとします。

以前の金利では採算が合わなかった設備投資でも、借入コストが下がればNPVが改善し、実行可能になる場合があります。住宅購入でもローン金利が下がれば、同じ所得で借りられる金額が増えるでしょう。

利下げによって家計や企業の気持ちが前向きになることもありますが、その前段階には、実際の借入条件や投資採算が改善するという機械的な変化があります。

景気過熱からインフレが起きる仕組み

反対に需要が経済の供給能力を超えるほど強くなれば、人手や原材料が不足し、賃金や仕入価格へ上昇圧力がかかります。

企業が増加したコストを販売価格へ転嫁し、それでも需要が強ければ物価上昇は続きやすくなります。

さらに、人々が将来も高いインフレが続くと考えるようになれば、賃金交渉や価格設定へその期待が反映され、インフレが定着する可能性があります。

インフレを抑えるために利上げする理由

中央銀行が政策金利を引き上げると、借入れや投資の採算条件が厳しくなります。

住宅ローン金利が上昇すれば住宅需要が弱まり、企業の資金調達費用が上昇すれば設備投資が減りやすくなります。株価や不動産価格が下落すれば、資産価値や担保価値を通じて消費や投資へ影響する場合もあります。

需要が供給能力に近づけば、企業が簡単に値上げできる環境も弱くなり、物価上昇圧力を抑える方向へ作用します。

利上げが景気と雇用へ与える副作用

利上げはインフレだけを狙って消すことのできる薬ではありません。

金利を高くすれば、本来なら成長につながった設備投資まで延期される可能性があります。借入負担へ耐えられない企業が倒産すれば雇用も失われ、住宅ローンや自動車ローンの負担が増えれば家庭も大きな買い物を控えるでしょう。

中央銀行が難しい判断を迫られるのは、物価を抑えるブレーキを強く踏みすぎれば景気まで大きく悪化させる可能性があるからです。

デフレも問題になる理由

インフレが苦しいからといって、物価が下がり続ければ安心というわけでもありません。

来年にはもっと安くなると多くの人が考えれば、買い物を先送りします。商品が売れなくなった企業は値下げを行い、利益が減れば人件費や設備投資を削るでしょう。

給料や雇用への不安が増えた家庭はさらに消費を減らし、物価下落、企業収益悪化、賃金低下、消費減少が連鎖する可能性があります。

さらに物価や所得が下がっても、過去に借りた借金の額面は同じままです。返済に使える所得だけが減れば、債務の実質的な負担は重くなります。

なぜ2%のインフレ目標が使われるのか

2%前後の物価目標が使われる背景には、デフレへ陥る余地を小さくし、景気後退時に名目金利を引き下げる余白を確保するといった考え方があります。

また、名目賃金には下方硬直性があるため、緩やかなインフレが存在する方が、名目賃金を大きく減額せずに実質的な賃金調整を行いやすいという議論もあります。

ただし、2%という数字だけを達成すれば家庭が豊かになるわけではありません。物価だけが上昇し、賃金が増えなければ購買力は低下します。

見るべきなのは物価だけではなく、賃金、雇用、生産性、企業利益を伴った持続可能な経済になっているかどうかです。

利上げ利下げをしない据え置きにも意味がある

中央銀行が金利を変更しないと、今回は何も起きなかったと読み飛ばしたくなります。しかし、据え置きは不作為とは限らず、動かした場合と動かさなかった場合のリスクを比較し、現在の金利を維持する方が適切だと判断した結果でもあります。

景気が弱くても利下げできない場合

景気が減速しているのにインフレ率が高ければ、景気だけを見れば利下げしたい一方、物価を考えれば簡単には下げられません。

利下げによって需要を刺激すれば、インフレを再加速させる可能性があるからです。さらに自国通貨が下落し、輸入物価が上がれば、生活費をもう一段押し上げるかもしれません。

景気を守るためには金利を下げたいのに、物価を安定させるためには下げにくいという状況では、据え置きそのものが政策判断になります。

物価が高くても利上げできない場合

反対にインフレ率が高くても、金融システムへの不安が強ければ追加利上げをためらうことがあります。

急激な金利上昇によって銀行の保有債券に大きな評価損が発生したり、不動産向け融資の焦げ付きが金融機関へ波及したりする場面です。

インフレを抑えるには金利を上げたい一方、利上げによる金融不安が経済へ与える損失まで考慮する必要があります。

景気とインフレが両方中途半端な場合

現実の経済では、すべての指標が同じ方向を向くとは限りません。

雇用は弱くなり始めているのにサービス価格は高いままという場合もあれば、企業景況感が悪化している一方で個人消費は底堅いという状況もあります。

利上げを支持するデータと利下げを支持するデータが同時に存在するなら、中央銀行は追加の情報を待つために金利を据え置く可能性があります。

金利据え置きでも実質的な引き締めが強まる理由

名目金利が5%、期待インフレ率が4%なら、単純化した事前的実質金利は1%です。

その後、中央銀行が名目金利を5%のまま維持している間に期待インフレ率が2%まで低下すれば、事前的実質金利は3%へ上昇します。

中央銀行は名目金利を一度も上げていません。それでも実質金利が上昇するため、実質的な金融環境は引き締まる方向へ変化します。

ここでも、すべての企業や家庭の実際の返済負担が同じ割合で増えるわけではありません。個々の負担は契約金利、借入期間、所得や売上などから影響を受けます。

据え置きだから金融環境も変わらない、と考えないことが重要です。

金利ニュースを投資判断へどうつなげるか

ここまでは、金利が経済や資産価格へ伝わる仕組みを見てきました。ここからは、その知識を実際のニュースへどう当てはめるのかという実践段階へ進みます。

目的は経済指標をすべて暗記することではありません。中央銀行から市場を経由し、最終的に自分が保有する企業まで一本の因果関係でたどれるようになることです。

まず中央銀行と政策金利を見る

日本なら日本銀行の金融政策決定会合、米国ならFOMCについて、利上げ、利下げ、据え置きのどれだったのかを確認します。

ただし、結果だけでは足りません。

市場予想と比べてどうだったのか、声明文や会見で次の政策について何を示唆したのかを見る必要があります。予想どおりの利上げなら、その事実自体はすでに市場価格へ反映されている可能性があるからです。

中立金利は一つの確定値ではない

政策金利が中立金利より高いのか低いのかを見ると、金融政策が経済を抑制しているのか刺激しているのかを考える補助材料になります。

ただし、中立金利は市場で直接観測できる数字ではありません。

経済モデルや統計から推計する概念であり、推計方法や前提によって結果は異なります。したがって、政策金利が推計中立金利を上回ったから必ず強い引き締めだと機械的に判断するのではなく、実質金利、景気、雇用、信用環境などと組み合わせて見る必要があります。

次にインフレ景気雇用を見る

次の段階では、政策当局がなぜその判断をしたのかを確認します。

CPIやPCE価格指数、GDP、企業景況感、失業率、雇用者数、賃金などが主な材料になります。

ここで大切なのは数字の絶対値だけではありません。市場が事前に予想していた数字と比べて、強かったのか弱かったのかを見る必要があります。

インフレ率が前月より低下していても、市場予想よりかなり高ければ、投資家は思ったほど物価が下がっていないと受け止めます。その結果、利下げ期待が後退し、長期金利が上昇するという可能性があります。

さらに期待インフレを見る場合には、家計調査なのか専門家予想なのか、市場ベースの指標なのかまで区別すると、数字の意味を読み違えにくくなります。

長期金利と債券と為替を一つの市場反応として見る

政策判断の背景を理解したら、長期金利、債券、為替を別々の数字として見るのではなく、市場が新しい情報をどう解釈したのかという一つの反応として考えます。

インフレ指標が予想以上に強く、長期金利が上昇すると同時に長期債が売られ、その国の通貨まで買われたなら、市場は金融引き締めが長引くと受け止めた可能性があります。

反対に景気指標が強いにもかかわらず長期金利が低下したなら、投資家が追加引き締めの先にある景気後退を先回りしているという可能性もあります。

ここでは政策金利だけでなく、期待短期金利とタームプレミアムのどちらが長期金利を動かしているのかという視点も役立ちます。

確認したいのは数字を暗記することではなく、市場参加者がどの未来を価格へ織り込み始めたのかです。

金利差から為替への影響を考える

為替を見るときには、日本の金利だけで判断しません。

米国でFOMCが利下げへ向かう一方、日本の金利が上昇しているなら、日米金利差は縮小方向へ進みます。それまで金利差を目的としてドル資産へ向かっていた資金の一部が戻れば、円高方向へ働く可能性があります。

逆に日本の金利が上昇していても、それ以上に米国金利が上がれば、日米金利差は広がるかもしれません。

さらに機関投資家の動きを考えるなら、無ヘッジ資産の名目利回りだけではなく、為替ヘッジ後の収益まで見る必要があります。

最後に自分の保有企業へ戻る

マクロ経済の分析は、最後に自分の保有企業へ戻らなければ投資判断にはなりません。

金利上昇なら、その会社の借金は多いのか、固定金利なのか変動金利なのか、近いうちに大規模な借換えがあるのかを確認します。

円高や円安が進んだなら、海外売上、輸入原材料、想定為替レート、ヘッジ状況を見るでしょう。

会社自身に借金が少なくても、顧客が住宅ローンや自動車ローンへ依存する事業なら、金利上昇によって需要が落ちる可能性があります。

最後に考えたいのは、現在の金融環境の変化によって、この企業が将来生み出すキャッシュフローは増えるのか減るのかという問いです。

まず中央銀行と政策金利を見る 次にインフレ景気雇用を見る 長期金利と債券と為替を 一つの市場反応として見る 金利差から為替への影響を考える 最後に自分の保有企業へ戻る

個別株で金利の影響を調べるチェックポイント

ここでは、マクロ情報を読む段階から企業分析へ移ります。同じ金利上昇でも企業ごとに影響が違う理由を、決算資料で確認できる項目へ落とし込んでいきます。

有利子負債はいくらあるか

まず貸借対照表で有利子負債を確認します。

短期借入金、長期借入金、社債など、利息を支払う必要がある負債がどの程度存在するのかを見ます。同時に現預金も確認しましょう。

有利子負債が1000億円あっても、現預金を2000億円持っている企業と、現金がほとんどない会社では金利上昇への耐性が違います。

有利子負債から現預金を差し引いたネット有利子負債を見ると、外部借入れへの依存度を把握しやすくなります。

固定金利と変動金利の割合

借金が多いからといって、翌月からすべての支払利息が増えるわけではありません。

固定金利で長期間借りている企業では、市場金利が急上昇しても既存借入れの利率はすぐには変わりません。一方、変動金利借入れが多ければ、短期金利上昇が比較的早く支払利息へ反映されます。

金利スワップによって実質的に固定化している場合もあるため、表面上の借入額だけでなく金融商品に関する注記まで確認できれば分析の精度が上がります。

借換え時期はいつか

低金利時代に発行した固定金利社債でも、満期になれば借り換える必要があります。

今後1年から2年に大量の債務償還が集中している企業では、現在の支払利息が小さくても、借換え後に費用が急増するリスクがあります。

反対に返済期限が長期間へ分散していれば、高金利環境の影響が徐々に表れるため、企業側にも対応する時間があります。

現在の平均借入金利だけではなく、いつその低金利が終わるのかを見る必要があります。

海外売上と想定為替レート

為替の影響を見るなら、海外売上比率と企業の想定為替レートを確認します。

ただし、海外売上が大きいだけでは判断できません。海外生産比率、輸入原材料、為替ヘッジなども同時に見ます。

企業が為替感応度を説明している場合には、1円の変化が利益へどの程度影響するのかを確認できますが、その数字を長期へ機械的に延長するのではなく、事業構造を理解する手掛かりとして使う方が適切です。

輸入原材料と価格転嫁力

原材料価格が10%上昇しても販売価格を引き上げられる企業と、競争が激しく値上げできない会社では利益への影響が異なります。

過去のインフレ局面で売上総利益率を維持できていたかを見ると、価格転嫁力の手掛かりになります。

ブランド力や市場シェアが高く、顧客が値上げを受け入れてくれる会社であれば、円安や資源高によるコスト上昇を吸収しやすい可能性があります。

顧客がローンを利用する事業か

金利への耐性を調べる際、自社の借金だけを見ると重要な影響を見落とします。

住宅、自動車、不動産、設備機械など、顧客側がローンや借入れを利用して購入する商品では、企業自身が無借金でも金利上昇による需要減少を受ける可能性があります。

ある人が欲しい自動車を見つけても、月々のローン返済額が予想以上に高ければ、購入を半年先へ延期するかもしれません。その判断が多くの顧客で起これば、企業の受注や販売台数へ表れます。

インタレストカバレッジレシオと営業キャッシュフロー

企業が利息をどの程度余裕を持って支払えるかを見る指標として、インタレストカバレッジレシオがあります。

実務では複数の計算方法がありますが、営業利益と支払利息の比率などを使い、本業の利益で利息をどの程度カバーできているかを確認します。

ただし、倍率だけで安全性を決めるのではなく、営業キャッシュフロー、設備投資、返済期限などと組み合わせて見る必要があります。

会計上の利益が出ていても現金が十分に残らない企業なら、元本や利息の支払いへ余裕がないという可能性があります。

金利の影響を逆転させる条件

ここまでの企業分析で重要なのは、一般的な作用をそのまま売買ルールへ変えないことです。

起点 一般的な作用 作用が弱まるまたは逆転する条件 最後に確認する情報
金利上昇 借入負担が増え利益を圧迫しやすい 現金が豊富で固定金利中心 有利子負債 現預金 借換え
長期金利上昇 株式の割引率へ上昇圧力 FCF成長が割引率上昇を上回る WACC FCF 利益成長
円安 海外売上の円換算額が増えやすい 輸入原料増や海外生産が効果を相殺 海外売上 原価 ヘッジ
金利上昇 銀行の純金利収益が改善する場合がある 債券損失 信用コスト 調達費増 NIM 保有債券 貸出先
利下げ 固定利付債券価格へ上昇圧力 利下げが織り込み済み 市場予想 デュレーション
金利上昇 不動産価格へ下押し圧力 NOI増加 供給不足 建築費高騰 NOI キャップレート 稼働率
高金利通貨投資 名目金利収入が高い 為替下落や高いヘッジコスト 為替 フォワード ヘッジ後利回り

一般的な因果関係を知るだけなら教科書で足ります。

実際の投資では、今回はその因果関係を打ち消す別の力が存在していないか、と考える必要があります。

金利を知っても未来を正確に予測できるわけではない

ここまで理解すると、金利の仕組みを知れば将来の相場もかなり予測できるのではないかと感じるかもしれません。

しかし、金利の理論を深く理解しても、市場の天井や底を正確に当て続けることはできません。市場価格は金利以外の多数の変数によって形成されているためです。

金利以外にも市場を動かす要因がある

株価には企業業績、財政政策、技術革新、地政学、商品価格、機関投資家の需給、市場心理などが影響します。

金利上昇が株式への逆風でも、企業利益が急拡大すれば利益成長の方が強く評価される可能性があります。

反対に利下げが行われても、その理由が深刻な景気後退なら、投資家が企業利益の急減を警戒して株式を売るでしょう。

一つの理論が正しくても、それ以上に強い別の材料が存在すれば価格は違う方向へ動きます。

市場は予想を事前に織り込む

市場の難しさは、現在の事実より未来の予想を取引しているところにあります。

中央銀行が利上げした日に銀行株が下落しても、利上げは銀行に悪いという意味とは限りません。数か月前から利上げ期待で銀行株が上昇し、発表時点では好材料がほとんど株価へ織り込まれていた可能性があります。

好決算なのに株価が下がる現象も同じです。前年より良かったかどうかだけでなく、市場が期待していたほど良かったのかが価格を左右します。

理論と現実が違ったときに確認すること

円安なのに輸出企業の株が下がった、利下げなのに債券価格が下落した、といった場面に出会ったときは、理論をすぐ捨てる必要はありません。

自分が置いていた前提を分解します。

名目金利だけを見ていなかったか、期待インフレはどう変化したか、どの期待インフレ指標を見ていたのか、タームプレミアムは動いていないか、市場は何を織り込んでいたのか、企業のFCF成長が割引率上昇を上回っていないか、為替ヘッジ需要が変化していないかを確認します。

答えがすぐ見つからないこともあるでしょう。

それでも市場がおかしいと結論づけるより、自分の説明モデルへ何が足りなかったのかを探す方が、次の判断につながります。理論と現実がずれたときこそ、見落としていた要因を発見できる場面です。

投資で重要なのは予測より前提を修正する力

利下げが続くと考えて長期債を買ったものの、インフレが再加速したなら、当初の前提は変化しています。

円安が続くと考えて輸出企業へ投資していても、日米の金融政策や為替ヘッジ需要が変化すれば、シナリオを見直す必要があります。

DCFで割安だと判断した企業でも、成長率や利益率、資本コストの前提が崩れれば評価をやり直さなければなりません。

自分の予想が外れたことを認めるのは気持ちのよいものではありません。それでも過去の予想を守ることより、現在の資産を守る方が重要です。

金利の知識は未来を当てるための予言書ではなく、自分の前提が現実とずれ始めたことを発見する基準線として使う方が役立ちます。

金利を軸にすると経済ニュースが一本につながる

ここまで登場した株式、債券、為替、不動産、インフレ、雇用は、それぞれ独立した話題に見えるかもしれません。

しかし、中心に金利を置くと一つの循環が見えてきます。

中央銀行が政策金利を引き下げれば、市場金利や貸出条件へ影響し、企業や家庭が資金を使いやすくなる方向へ働きます。設備投資、住宅購入、消費が増えれば企業活動や雇用を支え、需要が強くなります。

需要が供給能力を超えるほど強くなればインフレが進み、そのインフレを抑えるために中央銀行が今度は利上げします。

その間には、銀行信用、長期金利、株価、債券価格、為替、不動産価格、期待形成など複数の経路が存在します。

つまり、

中央銀行とFOMCなどの 政策決定機関 政策金利 市場金利・信用供給・資産価格 為替・期待 投資と消費 景気と雇用 インフレ 次の金融政策

という循環です。

さらに、

長期金利 株式の割引率・債券価格 不動産の要求利回り

という線があり、

国家間の金利差 為替 輸出入価格・企業利益

という線も存在します。

外国債券への投資では、

無ヘッジ 為替変動を引き受ける

という経路と、

ヘッジ付き フォワードレートや ヘッジコストの影響を受ける

という経路に分かれます。

実質金利を見るときにも、

名目金利 どの期待インフレ率を 差し引くのか

という条件が加わります。

株式評価では、

金利 WACCなど割引率

だけではなく、

金利 景気・需要・企業利益 FCF

という経路まで存在します。

金利から始めたのに話が次々と別分野へ広がるのは、脱線しているからではありません。もともと一つの経済の中ですべてがつながっているからです。

次に金利が上がったというニュースを見たときには、だから株安だと一つの矢印だけで考えず、その金利がなぜ動き、市場は将来をどう織り込み、資金がどこへ動き、その結果として自分の会社へ何が起こるのかまでたどってみてください。

最初は時間がかかるでしょう。それでも一つのニュースから二つ先、三つ先まで考え、後から自分の予想と実際の動きを比べていけば、少しずつ経済ニュースが線で見えるようになります。

金利と投資でよくある疑問

金利が上がると株は必ず下がる

必ず下がるわけではありません。金利上昇は企業の借入コストや株式評価の割引率を押し上げる方向へ働きますが、景気や企業のFCF成長がそれ以上に強ければ、金利上昇と株高が同時に起こる場合があります。

政策金利と長期金利は何が違う

政策金利は中央銀行やFOMCなどの政策決定を通じて誘導される短期金利です。一方の長期金利は国債市場で形成され、将来の短期金利予想、景気、インフレ、タームプレミアムなどを反映します。

実質金利は一つだけですか

一つの観測可能な数字ではありません。

期待インフレ率を差し引いた事前的実質金利と、実現したインフレ率を差し引く事後的実質金利があります。また、政策金利を基準にした実質金利と長期国債やTIPS市場で見る実質利回りでは、期間も意味も異なります。

さらに期待インフレ率についても、家計調査、専門家調査、市場価格から得られる指標などがあり、同じ数字になるとは限りません。

ブレークイーブン・インフレ率は市場の期待インフレ率そのものですか

完全に同じではありません。

名目国債とTIPSの利回り差は市場のインフレ見通しを考える重要な材料ですが、インフレリスクへの補償や流動性などの影響も含む可能性があります。そのため、純粋な期待インフレ率と機械的に同一視するのは避けた方がよいでしょう。

金利上昇で銀行が有利になるのはなぜ

銀行の貸出金や有価証券などの利回りが上昇し、それに比べて預金などの調達コストの上昇が緩やかなら、純金利収益が改善する可能性があります。

ただし、NIMは単純な預貸金利差ではなく、純金利収益を平均利息収益資産などで割った収益性指標です。

債券損失、預金流出、信用コスト、資金調達費の増加まで考える必要があります。

日米金利差が広がるとなぜ円安になりやすい

他の条件が同じなら、より高い名目利回りを得られる通貨建て資産へ資金が向かいやすくなることが一因です。

ただし、無ヘッジ投資では為替変動があり、ヘッジ付き投資では金利差などを反映したヘッジコストが生じます。そのため、4%の金利差があれば円投資家が必ず4%多く稼げる、という意味ではありません。

為替ヘッジすれば高金利通貨の金利差をそのまま受け取れますか

一般にはそうなりません。

カバード金利平価の考え方では、二国間の金利差とスポット為替、フォワード為替が結び付いているため、為替リスクをヘッジすれば高金利通貨の金利差のかなりの部分がフォワードレートへ反映されます。

さらに現実にはクロスカレンシー・ベーシスなどの影響もあります。

円安なら輸出企業は必ず得をする

必ずしも利益が増えるわけではありません。

海外生産、輸入原材料、為替ヘッジ、価格転嫁力などによって、同じ円安でも企業ごとの損益への影響は変わります。

金利が上がるとなぜ債券価格が下がる

新しく高い利率の債券を購入できるようになるため、以前に低い利率で発行された債券の魅力が相対的に下がるからです。

ただし価格変化の大きさは、残存期間、クーポン、デュレーションなどによって異なります。

利下げなら債券を買えばよい

利下げは既存債券価格へ上昇圧力をかけやすい材料ですが、市場がすでに利下げを十分に織り込んでいれば、実際の利下げが行われても価格が上がらない場合があります。

重要なのは、利下げそのものより市場が何を事前に期待していたのかです。

景気が悪いのに利下げしないのはなぜ

インフレが高い状態で利下げすると、需要や物価を再加速させる可能性があるためです。

中央銀行は景気だけではなく、物価、雇用、金融システムなど複数の条件を見ながら判断する必要があります。

金利ニュースでは何を確認すればよい

政策変更の結果だけでなく、その理由と市場予想との差を確認します。

その後にインフレ、景気、雇用を見て、長期金利を動かしたのが政策金利予想なのかタームプレミアムなのかを考え、債券、為替、株式へどのように波及したのかを確認します。

最後に、自分の保有企業の借入れ、為替感応度、顧客需要、利益とFCFへ落とし込めば、金利ニュースを個別投資の判断材料へ変えやすくなります。

まとめ

金利と投資の関係は、金利が上がれば株が下がるという一行では説明できません。

金利が変化すると企業と家庭の資金調達条件が変わり、投資や消費へ影響します。その変化は心理だけでなく、貸出金利、信用供給、投資案件の採算、株価や不動産などの資産価格、為替、期待形成といった複数の経路を通じて広がります。

金利が変化すると企業と家庭の 資金調達条件が変わり、投資や消費へ影響します。 貸出金利 信用供給 投資案件の採算 株価や不動産などの 資産価格 為替 期待形成
金利が変化すると企業と家庭の資金調達条件が変わり、投資や消費へ影響します。

長期金利も現在の政策金利だけでは決まりません。市場が予想する将来の短期金利とタームプレミアムから影響を受け、そのタームプレミアムも直接観測できる固定的なプラスの数字ではなく、モデルによって推計され、市場環境とともに変化します。

実質金利についても、期待インフレ率を用いる事前的実質金利と、実現インフレ率を使う事後的実質金利を区別する必要があります。

さらに、その期待インフレ率にも家計調査、専門家調査、市場価格から得られる指標など複数の測り方があり、TIPSから得られるブレークイーブン・インフレ率にもインフレリスクプレミアムや流動性などの影響が含まれる可能性があります。

株式では、金利上昇が企業の借入費用だけでなく、DCFで使われるWACCなどの割引率へ上昇圧力をかけます。しかし金利は分母だけを動かすわけではなく、景気や需要を通じて将来FCFという分子も変えるため、利益成長が強ければ金利上昇と株高が同時に起こる場合があります。

為替では、名目金利差が資金移動を生む一因になりますが、高金利通貨へ投資すれば金利差をそのまま追加収益として得られるわけではありません。無ヘッジなら為替変動を負い、ヘッジ付きなら金利差や市場需給を反映するヘッジコストが生じます。

同じ金利上昇でも、借金の多い会社には逆風となる一方、銀行には純金利収益改善の機会になる場合があります。円安も海外売上の大きい企業へ必ず利益をもたらすわけではなく、利下げも債券価格上昇を保証する材料ではありません。

だからこそ、次に金利ニュースを見たときには数字だけを確認して終わらせないことが大切です。

政策当局がなぜその判断をしたのかを考え、その背景にある景気、物価、雇用を確認します。そのうえで長期金利、債券、為替、株式がどのように反応したのかを一つの流れとして捉え、最後に自分の保有企業へ戻ります。

そこで借入負担、固定金利と変動金利、借換え時期、想定為替レート、輸入原材料、価格転嫁力、顧客のローン依存度、将来FCFまで調べれば、マクロ経済のニュースは個別企業の利益や企業価値へつながります。

最初から正確な未来予測をする必要はありません。

重要なのは、自分がどの前提に基づいて投資しているのかを理解し、実際の市場が違う方向へ動いたときに、その前提を修正できることではないでしょうか。

金利を理解することは、未来を言い当てるためではなく、変化した世界の中で自分の判断を更新するために役立ちます。

一つのニュースから二つ先、三つ先まで考える習慣が身についたとき、株式、為替、債券、不動産、景気、インフレというばらばらだった情報は、少しずつ一枚の地図として見えるようになるでしょう。

参考資料

日本銀行「金融政策の概要」 日本銀行 金融政策の概要

日本銀行「金融政策は景気や物価にどのように影響を及ぼすのですか」 日本銀行 金融政策の波及経路

Federal Reserve「What is the Federal Open Market Committee?」 Federal Reserve FOMCの説明

Federal Reserve Bank of New York「Treasury Term Premia」 ニューヨーク連銀 タームプレミアム

Federal Reserve Bank of St. Louis「Constructing ex ante real interest rates on FRED」 FRED 事前的実質金利の説明

Federal Reserve「TIPS Yield Curve and Inflation Compensation」 Federal Reserve TIPSとインフレ補償

Federal Reserve Bank of New York「Survey of Consumer Expectations」 ニューヨーク連銀 消費者期待調査

Federal Reserve「Understanding survey based inflation expectations」 Federal Reserve 調査ベースのインフレ期待

Federal Reserve「Quantities and Covered-Interest Parity」 Federal Reserve カバード金利平価

Investor.gov「Fixed Income Investments — When Interest Rates Go Up, Prices of Fixed-Rate Bonds Fall」 Investor.gov 金利と債券価格

Federal Reserve「Review of the Federal Reserve’s Supervision and Regulation of Silicon Valley Bank」 Federal Reserve SVB検証報告

Federal Reserve「Financial Stability Report November 2024」 Federal Reserve 円キャリートレードに関する記述

Federal Reserve「FOMC Statement September 18 2024」 Federal Reserve 2024年9月18日FOMC声明

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