自分が時間をかけて考えた企画ほど、「ここまで準備したのだから成功するはずだ」と感じやすくなります。市場を調べ、数字を詰め、周囲を説得し、何度も修正してきた人なら、その確信には経験や努力に裏づけられた理由があるようにも思えるでしょう。
しかし、自分が深く関わっているからこそ、実際以上に結果へ影響できると感じている可能性もあります。
コントロール幻想への対策で目指したいのは、自信をなくすことではありません。自分の経験や情熱から生まれた確信と、外部から確認できる判断材料を切り分け、重要な場面で主観だけに結論を任せないことです。
実務では、次の五つの方向から判断を点検できます。
- 外部視点と類似事例で判断する
- コントロールできることとできないことを分ける
- 判断する前に予測を記録する
- 異なる意見と反証材料を確認する
- 停止・再審査条件を事前に決める
ただし、この五つすべてが「コントロール幻想そのものを直接低減する方法」として、同じ程度に実証されているわけではありません。実際の意思決定では、確証的な情報処理、後知恵、楽観的な予測、サンクコスト、コミットメントのエスカレーションなど、複数の認知的な偏りが重なることがあります。
そのため、以下の方法は原因となるバイアスを一つに診断するためではなく、コントロール幻想を含む判断の偏りに気づき、自分の確信と客観的な材料を分けて確認するための点検方法として使うのが適切です。
コントロール幻想とは
コントロール幻想(Illusion of Control)とは、実際には偶然や外部環境の影響を受ける事象について、自分の能力、努力、選択などによって結果を客観的な水準以上に制御できると感じる認知的な傾向です。
心理学者エレン・ランガーが1975年に発表した研究では、偶然に左右される状況へ、競争、選択、親近性、関与といった技能を連想させる要素を加えたとき、人が客観的な確率以上の自信を示す現象が複数の実験で検討されました。
たとえば、当選確率が変わらないくじであっても、誰かから渡された一枚より、自分で選んだ一枚のほうに期待を感じる人がいます。「自分がこれを選んだ」という経験が加わることで、自分の判断が結果へ少し触れているように感じられるからです。
ただし、この古典的な説明をそのまま普遍的な法則として扱うことには注意が必要でしょう。
Klusowski、Small、Simmonsが2021年に報告した17実験、計10,825人の研究では、機能的には同じ選択肢から自分で選ぶこと自体が、望ましい結果の主観的確率を高めるのかが検証されました。その結果、選択によって現実の成功可能性が変化する場合などを除けば、選択そのものがコントロール幻想を生じさせるという証拠はほとんど確認されませんでした。
つまり、「自分で選べれば必ずコントロール幻想が強くなる」と単純化するのは適切ではありません。
2013年のメタ分析でも、コントロール幻想に関連する効果が確認された一方、研究ごとの測定方法には大きな異質性があり、同じ名称の下で性質の異なる現象が扱われている可能性が指摘されています。
現在は、人間がいつでも自分の影響力を過大評価するという単純な説明より、本人の信念、行動頻度、課題の構造、結果の現れ方などが組み合わさり、特定の条件で制御可能性の評価がずれる現象として捉えるほうがよいでしょう。
※コントロール幻想の理論的背景や認知メカニズムについては、[「コントロール幻想の基礎理論と認知メカニズムの全体像」](内部リンク)を参照してください。
仕事で特に注意したいのは、「私は関係者だから詳しい」という事実が、いつの間にか「私は関係者だから結果も動かせる」という感覚へ変わる場面です。
知識があることと、結果を制御できることは同じではありません。この二つを分けることが、判断を点検する出発点になります。
コントロール幻想はなぜ自分では気づきにくいのか
コントロール幻想が厄介なのは、本人が「私は根拠もなく楽観している」と感じているわけではないところです。
むしろ、「顧客のことを理解している」「市場調査を十分に行った」「以前も似た案件を成功させた」「外部の人より現場を知っている」と、自分の判断を支える理由がいくつも思い浮かぶでしょう。
しかも、それらの理由がすべて間違っているわけではありません。
経験が増えれば実際に判断の精度が高まることもありますし、自分の努力によって成功可能性を変えられる仕事もあります。そのため、本当に存在する技能や知識と、「自分なら何とかできる」という主観的なコントロール感が混ざると、本人には両者の境界線が見えにくくなります。
さらに、自分の行動と、その後に起きる望ましい結果が近いタイミングで何度も現れると、両者の関係を実際以上に強く感じることがあります。
Yarritu、Matute、Vadilloの研究では、本人が能動的に参加する条件と、同じ原因と結果の組み合わせを観察する条件が比較されました。その結果、主要な影響として支持されたのは個人的関与そのものより、原因候補となる行動や事象が高頻度で生じることでした。
つまり、「自分が当事者だったから」という理由だけでは説明できません。
ある営業担当者が何度も新しい提案方法を使い、その近くで契約が繰り返し成立すれば、「この方法によって受注できている」という感覚は強くなるでしょう。
しかし実際には、顧客企業の予算事情、競合の撤退、市場全体の需要、以前から進んでいた社内検討など、別の要因が結果へ影響している可能性もあります。
それでも、自分が働きかけた直後に成果が出れば、「自分のやり方が効いた」という印象は心に残ります。
失敗したときには「今回は顧客側の事情が特殊だった」と説明し、成功したときには「自分の判断が正しかった」と受け止める状態が続けば、自分の影響力に対する評価だけが修正されないこともあるでしょう。
だからこそ、自分の頭の中だけで「私は客観的だろうか」と考えるだけでは限界があります。
必要なのは、判断をいったん外へ取り出し、自分とは異なる基準から確認する仕組みです。
対策1 外部視点と類似事例で判断する
プロジェクト、新規事業、投資などへ深く関わるほど、人は現在の計画や自分たちのシナリオを中心に将来を考えやすくなります。
半年かけて企画を作った人にとって、その計画には数字だけでなく、何度もやり直した会議、協力してくれた同僚、上司への説明、自分が費やしてきた時間まで含まれています。
その状態で「客観的に考えよう」と思っても、簡単には切り替えられません。
計画を否定することが、自分の努力そのものを否定するように感じられる場合もあります。責任者なら、「ここで中止すれば、自分の判断が間違っていたと思われるかもしれない」という不安まで加わるでしょう。
そこで、自分の案件だけを特別なものとして見る状態から一度離れます。
KahnemanとLovalloは、現在の計画やシナリオを中心に予測するinside viewでは、過去の統計が軽視され、楽観的な予測につながることがあると論じています。
ここでいうoutside viewでは、単に「他人だったらどう思うか」と想像するだけではなく、自分たちと似た条件を持つ過去の案件を参照クラスとして調べます。
類似案件の実績を確認する
ある会社が新しいサービスについて「一年以内に黒字化できる」と考えているとします。
このとき、自社の事業計画だけを詳しく読むのではなく、似た市場、企業規模、価格帯、販売方法を持つ過去の事業を調べ、「実際にはどの程度の割合が一年以内に黒字化したのか」「撤退した事業は何カ月ほどで判断されたのか」を確認します。
自社の計画がどれほど説得力を持っていても、似た条件の案件の多くが黒字化に二年以上かかっているのであれば、その基準率を無視するには相応の理由が必要です。
もちろん、過去と今回では条件が違うこともあります。
だからこそ、「今回はなぜ参照クラスよりよい結果になるのか」を説明できる形にします。「自分たちならできるから」ではなく、すでに契約済みの顧客がいる、販売チャネルが確保されている、原価構造が大きく異なるなど、確認可能な違いへ置き換えることが大切です。
自分を案件から外して考える
十分な比較データが集まらない場合には、心理的な距離を作る問いも利用できます。
「もし競合企業が、自社と同じ人員、資金、販売網でこの事業を始めたら、成功確率を何%と見るだろうか」
自社については「営業部が頑張れば何とかなる」と感じていても、競合の計画として眺めると、「市場規模が小さすぎる」「顧客獲得単価が高い」と弱点へ目が向くかもしれません。
さらに、「明日、自分がこの案件から完全に外れ、別の担当者が引き継ぐとしても、同じ条件で継続すべきだと思うか」と考えてみてもよいでしょう。
担当者が自分でなくなっただけで評価が変わるなら、自分自身の関与が判断へ影響している可能性があります。
外部視点とは、自分の経験を捨てることではありません。
「自分ならどう見るか」に加えて、「他者の案件ならどう見るか」「似た案件は実際にどうなったか」を並べ、なぜ自分たちだけが過去の傾向から外れると考えるのかまで確認することです。
対策2 コントロールできることとできないことを分ける
コントロール幻想による判断のずれが生じやすいのは、「自分が実行できる行動」と「その結果として起きてほしい成果」が混ざったときです。
営業担当者は顧客へ連絡する件数を決められますが、顧客に契約を命令することはできません。経営者は商品開発へ投資できますが、市場全体の需要を自由に増やすことは難しいでしょう。
それでも仕事では、「売上を作る」「契約を取る」「プロジェクトを成功させる」という言葉が日常的に使われます。
言葉としては自然ですが、繰り返しているうちに、結果そのものまで自分たちの意思で管理できるような感覚が生まれることがあります。
そこで、仕事の要素を「コントロール可能」「一部影響可能」「コントロール不能」の三つへ分けます。
コントロール可能 一部影響可能 コントロール不能の3分類
| 業務シナリオ | コントロール可能 | 一部影響可能 | コントロール不能 | 判断するときの注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 新規事業開発 | 市場調査の設計と実施件数、仮説検証の回数、試作品の開発速度、週次ミーティングの実施 | 見込み顧客の商談合意率、パイロット検証の継続率、業務提携先との契約条件 | 市場全体の需要変動、競合他社の新規参入、法規制の改定、為替動向 | 売上だけでなく、仮説検証数など自社で管理できる指標もKPIに置く |
| 営業目標の達成 | 新規架電件数、顧客訪問件数、提案書の提出速度、製品知識を学ぶ時間 | 顧客の社内決裁、提案への合意度、最終的な取引単価 | 顧客側の予算凍結、経営陣交代、競合の価格戦略 | 成約結果だけでなく、再現可能な営業プロセスも管理する |
| 年度予算の策定 | 固定費の配分、削減項目の選定、投資案件の優先順位 | 部門生産性、外注先との価格交渉、社内リソースの稼働率 | 原材料価格、政策金利、インフレ、景気変動 | 外部変数を織り込み、最悪、基準、最善など複数シナリオで考える |
| プロジェクト管理 | タスク整理、工数見積もり、進捗確認、リスク対応計画 | メンバーの作業効率、他部門の協力度、成果物の品質安定性 | 重要人材の突然の離職、主要ベンダーの障害、災害 | バッファを確保し、気合いだけで遅延を取り戻す計画を避ける |
この分類で特に重要なのは、真ん中に「一部影響可能」を残すことです。
売上は自由に決められませんが、営業件数、商品改善、価格設定、広告、顧客対応によって、売上が伸びる可能性には影響できます。
つまり、「売上を完全にはコントロールできない」と「売上に対して何もできない」は、まったく違います。
ある会社が「今年は必ず売上20%増を達成する」と掲げたとしましょう。
目標を持つことには意味がありますが、結果まで担当者の意思で制御できるものとして扱うと、未達の理由がすべて「努力不足」に置き換わる可能性があります。
市場そのものが縮小しているのに、「もっと訪問しろ」「もっと粘れ」と指示を続ければ、本来必要だった商品戦略や価格設定の見直しが遅れるでしょう。
反対に、市場環境を理由にして、自分たちで改善できる営業方法まで放置するのも適切ではありません。
三分類の目的は、責任を減らすことではなく、責任を置く場所を正確にすることです。
「これは自分で決められる」「ここは努力で確率を動かせる」「ここから先は外部要因が大きい」と分けられれば、結果を無理に支配しようとする消耗を減らしながら、必要な行動には集中できます。
対策3 判断する前に予測を記録する
結果が分かったあと、人は過去の判断を現在の情報に合わせて解釈し直すことがあります。
事業が成功すれば、「最初からいけると思っていた」と感じるかもしれません。失敗した場合には、「当時から難しいとは思っていた」「予想外の出来事さえなければ成功していた」と説明することもできるでしょう。
こうした事後的な解釈が続くと、自分の予測が実際にはどの程度正しかったのかを確認できません。
そこで、重要な意思決定ほど、結果が分かる前に予測を書いておきます。
「この事業は成功すると思う」だけでは曖昧です。
たとえば、「12カ月以内に単月黒字化する確率は65%」「6カ月後の有料顧客数は150社から200社」「顧客獲得単価は3万円以下」といった形で、後から照合できる数値へ変えます。
さらに、その予測が成立する前提も記録します。
「競合企業が半年以内に同等サービスを投入しない」「平均契約単価が現在水準から10%以上下落しない」「月間問い合わせ数が100件前後を維持する」と残しておけば、予測が外れた理由を後から検証しやすくなります。
レビュー日まで先に決める
予測は書くだけでは足りません。
三カ月後、半年後、年度末など、当初の予測と実績を比較する日も決めておきます。
ある事業責任者が「半年後には月商3000万円」と予測し、実際には1800万円だったとしましょう。
その時点で問い合わせ数や顧客満足度が伸びていれば、「別の面では成功している」と考えたくなるかもしれません。その成果に価値がある場合もありますが、「月商3000万円」という当初予測が外れた事実とは分けて扱う必要があります。
予測を記録する目的は、自分を責めることではありません。
「自分は新規事業の初期売上を高く見積もりやすい」「営業計画では成約率を楽観的に置きやすい」といった傾向が分かれば、次の判断で修正できます。
当て続けることより、外したときに何を見誤ったのかを確認できることのほうが、長期的な意思決定には役立つでしょう。
対策4 異なる意見と反証材料を確認する
強い確信を持っている計画ほど、自分の期待と一致する情報が目につきやすくなります。
「市場は伸びている」「顧客の反応が良かった」「競合より機能が多い」といった情報は受け入れやすい一方、「対象顧客が少なすぎる」「競合の商品で十分ではないか」と指摘されると、反射的に反論したくなることがあります。
自分の評価や昇進、社内での立場が計画の成否と結びついているなら、その反応はさらに強くなるでしょう。
「この企画には問題がある」という指摘が、「自分の能力に問題がある」という批判のように感じられることさえあります。
だからこそ、反対意見は偶然に任せません。
本当に違う意見を持つ人へ聞く
第一に探したいのは、「反対役を演じてくれる人」ではなく、本当に異なる見方をしている人です。
Charlan Nemethらの研究では、真正の異論と、役割として反論する悪魔の代弁者が比較され、真正の異論のほうが発散的な思考や新しい解決策につながりやすい結果が報告されています。
つまり、本当は賛成している人へ「今回は反対してください」と頼むだけでは、実際の異論と同じものにはなりません。
同じプロジェクトへ長く関わってきた五人が集まっても、五つの独立した視点が得られるとは限らないでしょう。全員が時間や評判を投じ、「この計画には成功してほしい」と感じていれば、心理的には同じ側に立っています。
そこで、案件の成功によって評価が上がりにくく、失敗しても直接的な責任を負いにくい人へ意見を求めます。
別部門の経験者、案件へ参加していない管理職、独立した専門家などが候補になります。
ただし、「社外だから中立」とは限りません。
プロジェクトが続くほど契約期間も延びる外部支援会社であれば、別の利害が存在するでしょう。見るべきなのは所属ではなく、その人がどの結論から利益を得るのかという点です。
質問の仕方も変えます。
「この計画に賛成ですか」と聞くだけではなく、「この計画が失敗するとしたら最もありそうな原因は何ですか」「あなたが投資を断る立場なら、どこを問題視しますか」と問いかけます。
Lordらが1984年に報告したconsider the oppositeの研究では、現在の信念と反対になる可能性を意識的に検討することで、特定の社会的判断における偏りが減少した結果が示されています。
ここでの目的は、反対意見を採用することではありません。
自分が見ていなかった説明を一度テーブルへ載せ、その反論を踏まえてもなお計画が成立するかを確かめることです。
悪魔の代弁者は補助策として使う
本当に異なる意見を持つ人が見つからない場合には、悪魔の代弁者として反対論を検討してもらう方法も使えます。
ただし、「反対役を置いたから十分に検討した」と安心しないほうがよいでしょう。
本心から出る異論と、役割として作った反論は同じではありません。
成功させたい計画ほど、耳の痛い意見に早く触れる意味があります。資金や時間を大量に投じた後より、まだ方向を変えられる段階で弱点を知ったほうが、選択肢を多く残せるからです。
対策5 停止・再審査条件を事前に決める
計画が予定どおり進まなくなったとき、「自分ならまだ立て直せる」と考え続けることで、時間や資金を追加し続ける場合があります。
「もう少し資金を入れれば変わる」「次の営業方法なら成功する」「自分が直接指揮すれば改善できる」と感じている本人にとって、継続にはそれなりの理由があります。
しかも、ここでは一つの心理だけが働いているとは限りません。
自分の影響力を高く見積もる感覚に加え、これまで使った費用を無駄にしたくない気持ち、過去の判断を正当化したい心理、コミットメントのエスカレーションなどが重なるという可能性があります。
ある事業責任者が、自分の提案によって一億円を投じた新サービスを担当しているとしましょう。
半年後、売上は計画の半分しかありません。
第三者なら「いったん拡大を止め、事業モデルを見直したほうがよい」と感じるかもしれません。しかし本人には、「ここで止めれば一億円を無駄にしたことになる」「自分の判断ミスだと思われる」という痛みがあります。
その状態では、「あと3000万円あれば変えられる」と思いたくなるでしょう。
さらに追加投資をした後で改善しなければ、「ここまで使ったのだから、あと少し続けなければ損だ」と感じる可能性もあります。
このような場面で重要なのは、「これはコントロール幻想なのか、サンクコストなのか」と心理を一つに決めることではありません。
現在の判断が、過去の投資や自分の立場によって歪んでいないかを点検することです。
そこで、計画を始める前に「どの状態になったら、自動継続せずに再審査するか」を決めておきます。
プレモーテムで破綻要因を洗い出す
停止・再審査条件を考えるときには、プレモーテムと呼ばれる方法を利用することがあります。
事業開始前に、「一年後、この計画は大きな失敗に終わった」と仮定し、その理由を考えます。
顧客が想定ほど継続しなかった、競合参入によって価格を維持できなかった、開発費が大幅に膨らんだ、現場運用が複雑すぎて普及しなかった、といった原因を挙げていきます。
普段の会議では「どうすれば成功できるか」に意識が向きやすいため、失敗を前提とする問いによって、通常は議題に上がりにくい破綻要因を検討できます。
ただし、この方法についても効果を広く言いすぎないほうがよいでしょう。
Mitchell、Russo、Penningtonが1989年に扱ったprospective hindsightでは、将来の出来事を既に起きたものとして扱う時間的視点と、結果が確実なのか不確実なのかという要因が検討されました。
第1実験では、時間的視点そのものの影響は小さく、説明の性質へより強く影響したのは、結果を確実なものとして扱うかどうかでした。
そのため、「未来の失敗を既に起きたものとして考えれば、それだけで新しいリスクを発見しやすくなる」と断定することはできません。
プレモーテムは、成功する前提だけでは検討しにくい破綻要因を意図的に議題へ載せるための問いとして使うのが適切です。
停止条件そのものも疑う
破綻要因を洗い出したら、「ローンチ三カ月後の有料顧客継続率が40%未満なら拡大投資を止めて再審査する」「累計追加投資が5000万円に達したら、別の経営会議で再承認する」といった条件を決められます。
しかし、停止条件を設定すれば、必ず継続投資を抑えられるわけではありません。
新製品の継続判断を扱った研究では、悪い実績が停止基準の近くにある場合、「あと少しで届く」と感じることで、失敗している新製品を継続しやすくなった結果も報告されています。
停止基準そのものが、新しい追跡目標へ変わる場合があるわけです。
そのため、条件に達したときは、同じ責任者が「まだ続けられるか」と考えるだけでは不十分でしょう。
継続することをいったん前提から外し、数字、当初の予測、外部環境、代替案、追加投資によって実際に変えられる要素を改めて確認します。
停止・再審査条件とは、未来の自分を自動的に正しい判断へ導く装置ではありません。
熱くなった未来の自分へ、「この地点では一度、最初から判断し直してほしい」と伝えるための印です。
5つの点検方法を実際の仕事で使う流れ
五つの方法は、順番に並べると一つの判断プロセスとして使いやすくなります。
ある会社が新規事業を検討しているなら、最初に類似事業の成功率や黒字化までの期間を調べ、自社の計画を参照クラスと比較します。
その後、仕事を「コントロール可能」「一部影響可能」「コントロール不能」へ分け、どこに自社の力を集中させるかを整理します。
実行前には、半年後の顧客数、売上、黒字化確率、顧客獲得単価などを記録し、その予測を支える前提条件も残しておきます。
次に、計画へ心理的な利害を持たない人や、実際に異なる見解を持つ人へ見せ、成立しない理由や反証材料を確認します。
最後に、特定の数値や期間へ達したら自動継続せず、改めて継続の可否を判断する条件を決めます。
この流れの目的は、完璧に合理的な人になることではありません。
自分の確信だけではなく、過去の実績、現在の数値、異なる意見、外部要因を同じ机の上へ置いてから判断できる状態を作ることです。
コントロール幻想を完全になくす必要はない
コントロール幻想を知ると、「自分には状況を変えられる」という感覚そのものを疑ったほうがよいように感じるかもしれません。
しかし、主観的なコントロール感と、実際以上に結果を制御できると考えるコントロール幻想は同じではありません。
「自分が行動すれば少しは状況を変えられる」と思えなければ、新しいことへ挑戦したり、うまくいかなかった方法を改善したりする動機は弱くなります。
一方で、「努力すれば結果まで必ず支配できる」と考えれば、現実の不確実性を見落とすでしょう。
客観性と心理状態の関係も単純ではありません。
1979年のAlloyとAbramsonの研究では、特定の随伴性判断課題で抑うつ傾向群の判断が比較的正確だった結果が報告され、後に抑うつリアリズムと呼ばれる議論につながりました。しかし、2012年の75研究・7,305人のメタ分析では全体効果は小さく、2026年の130論文・151サンプル・33,043人のメタ分析でも、全体として抑うつ傾向が判断精度を高めるという単純な結論は支持されていません。
つまり、「楽観的であるほど非現実的」「悲観的であるほど客観的」と整理することもできません。
実務で必要なのは、希望を捨てることではなく、希望と予測を分けることです。
「成功させたい」「まだ改善できる」という気持ちは行動のために残しながら、「現時点で成功確率をどの程度と見るか」「どこから先は自分では動かせないか」は別の判断材料で確認します。
自信は前へ進む力として使い、成功可能性の評価には別の物差しを使う。その区別があれば、コントロール感そのものを敵にする必要はありません。
よくある質問 FAQ
- コントロール幻想と自信過剰は同じですか?
-
両者は関連しますが、同じ概念ではありません。
自信過剰は、自分の能力や成果を実際以上に高く見積もること、他者より自分が優れていると考えること、自分の判断の正確さへ過度な確信を持つことなど、複数の形を含む広い概念です。
一方、コントロール幻想では、自分の行動と結果の因果関係や、状況を制御できる程度を実際以上に評価する点が中心になります。
「私は平均的な営業担当者より能力が高い」と考えることと、「この顧客は自分が本気で説得すれば必ず契約する」と考えることには、重なる部分があっても焦点に違いがあります。
実際の仕事では複数のバイアスが同時に働くという可能性があるため、「何というバイアスか」だけではなく、「何を過大評価しているのか」を確認するとよいでしょう。
※詳しい比較については、[「自信過剰バイアスとコントロール幻想の違いとは?意思決定エラーの比較分析」](内部リンク)を参照してください。
- コントロール幻想は誰にでもありますか?
-
コントロール幻想は、心理学で長く研究されてきた認知現象です。
ただし、すべての人が、あらゆる状況で同じ程度に示すとは考えられていません。
原因候補となる行動の頻度、望ましい結果が生じる頻度、課題の構造、本人が持つ信念などによって、現れ方が変わるという可能性があります。
そのため、「自分は慎重な性格だから関係ない」と考えるのも、「人間なら必ず強いコントロール幻想に陥る」と考えるのも適切ではありません。
自分や組織が、どのような条件で強い確信を持ちやすいのかを把握し、その場面で確認手順を増やすほうが実用的です。
- コントロール幻想をなくすことはできますか?
-
完全にゼロにできるとは言い切れません。
そもそも、人間が自分の行動と結果の関係を推測する働きは、日常生活や仕事に必要です。
問題になるのは、関係の薄い結果まで「自分が起こした」と判断したり、自分が影響できる範囲を実際以上に広く見積もったりする場合でしょう。
そのため、目指すのは「コントロール幻想を持たない人」になることではなく、自分の確信だけで重要な判断を終わらせない仕組みを持つことです。
- 仕事ではどんな場面で起こりますか?
-
不確実性が高く、自分の関与も大きい仕事で注意が必要です。
新規事業では、長期間にわたって市場調査や事業計画へ関わることで、「ここまで分析したのだから成功可能性も高い」と感じる場合があります。
営業では提案や顧客対応によって受注可能性へ影響できますが、顧客側の予算削減や経営方針までは決められません。
予算策定では自社の支出を管理できても、為替や金利、原材料価格まで完全には制御できないでしょう。
投資判断でも、企業や市場について詳しくなることと、未来の値動きを正確に予測・制御できることは別です。
「詳しくなった」という事実が、「結果まで読める」という感覚へ変わっていないかを確認することが重要になります。
- コントロール幻想には良い面もありますか?
-
コントロール幻想そのものを単純に「良いもの」と評価するのは適切ではありません。
一方、「自分にはできることがある」という主観的なコントロール感まで否定する必要もないでしょう。
ある個人事業主が新しいサービスへ挑戦するとき、市場の結果を自由に決めることはできません。それでも、商品を改善する、顧客の話を聞く、営業件数を増やすといった行動は選べます。
大切なのは、「自分にはできることがある」と「自分なら結果まで必ず変えられる」を区別することです。
詳しくは「コントロール幻想を完全になくす必要はない」で整理したように、行動のための自信を残しつつ、結果の予測には別の判断材料を使うことが現実的でしょう。
まとめ
コントロール幻想への対策で重要なのは、自信を消すことではなく、自信だけで判断を完結させないことです。
自分が深く関わった案件ほど、「自分たちなら何とかできる」という感覚には、経験、責任、努力、過去の成功が重なります。その気持ち自体を否定する必要はありませんが、成功可能性を評価するときには、別の材料も同じ場所へ並べる必要があります。
類似案件では何が起きてきたのか。
自分たちが直接決められることは何か。
当初はどの程度の成功確率を見積もっていたのか。
自分とは異なる立場の人は、どこに弱点を見るのか。
どの状態になったら、一度継続前提を外して判断し直すのか。
こうした問いを通すことで、「成功させたい」という気持ちと、「成功する可能性が高い」という判断を分けやすくなります。
市場がどう動くか、競合が何をするか、顧客が最終的に契約するかまで、自分の思いどおりに決めることはできません。
一方、何を調べるか、どこまで検証するか、どの数字を記録するか、誰の意見を聞くか、いつ判断を見直すかは、自分たちで決められます。
結果を支配しようとするのではなく、自分が実際に影響できる行動へ焦点を戻す。
そのうえで、「自分ならできる」という自信は前へ進む力として残し、「実際にはどこまでできるのか」は客観的な判断材料から確認する。この二つを分けて持てる状態が、コントロール幻想に振り回されにくい意思決定の土台になるでしょう。
参考資料
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