マンション管理組合で問題が起きると、役員を引き受ける人がいないことや、理事長だけが忙しいことを、住民一人ひとりの意識の問題として考えてしまうことがあります。
もちろん、高齢化、仕事、育児、介護、病気など、個人の事情が管理組合運営へ影響する場面はあります。しかし、それだけで役員のなり手不足や運営停滞を説明してしまうと、改善できるはずの組織側の問題まで見落とす可能性があります。
役員の仕事内容が見えないまま就任を求められ、理事長になると連絡も判断も集中し、専門的な案件についても短期間で決断しなければならない。その姿を見ている次の候補者が、「自分には難しい」と感じるのも無理はないでしょう。
だからこそ、マンション管理組合のガバナンス改革では、役員不足を人の問題として片づける前に、まず仕組みを点検することが出発点になります。
本稿では、マンション管理士の実務と法的視点を踏まえ、管理組合の組織体制、理事会方式、外部管理者方式、役員制度、利益相反管理、専門委員会、管理規約改正、役員のなり手不足まで20の論点を整理します。
単なる制度解説ではありません。なぜ負担が集中するのか、なぜ会議で質問できなくなるのか、なぜ管理会社へ判断を任せたくなるのかという背景まで振り返りながら、人が替わっても続けられる管理組合を考えていきます。
マンション管理組合のガバナンス改革が必要な背景
分譲マンションを取り巻く環境では、建物の高経年化と居住者の高齢化という「2つの老い」が、マンション政策上の重要な課題になっています。
2025年にはマンション関係法の改正が行われ、区分所有法の改正に関する部分は2026年4月1日に施行されました。また、国土交通省は法改正などを踏まえ、2025年10月にマンション標準管理規約を改正しています。
建物が比較的新しかった時期には、設備更新や大規模修繕について難しい判断を求められる機会も、現在ほど多くなかったマンションがあるでしょう。
しかし、築年数を重ねると事情は変わります。外壁、防水、給排水設備、エレベーター、機械式駐車場などについて、高額な費用を伴う判断が次々と必要になります。
役員になった人が、建築、法律、会計、契約について詳しいとは限りません。それでも理事会では、この工事を実施するのか、この見積金額は妥当なのかといった判断を求められます。
資料を目の前にしながら、「本当に自分たちだけで決めてよいのだろうか」と感じることもあるでしょう。その不安は、責任感が足りないから生まれるものではありません。
専門的な問題が増えているにもかかわらず、毎年交代する役員へ従来と同じ方法で判断を求め続けているなら、組織の仕組みが現在の状況に合わなくなっているという可能性があります。
さらに、賃貸化、外部所有、相続などが進めば、区分所有者と実際の居住者が一致しないケースも増えていきます。
マンションは同じ場所に建ち続けますが、それを所有し、暮らし、支える人々の生活や価値観は少しずつ変化します。
だからこそ、以前から続いているという理由だけで管理方法を維持するのではなく、現在のマンションに合った組織へ整えていく必要があります。
マンション管理組合改革の優先順位
20の論点をすべて同時に考えようとすると、情報量の多さに圧倒され、「結局どこから始めればよいのか」と迷ってしまいます。
実務では、まず日常的な負担を確認し、次に判断と監督の質を高め、その後に制度として定着させる流れで考えると整理しやすくなります。
第一段階 役員の負担集中を解消する
最初に確認したいのは、現在の役員がどれほどの仕事を抱えているかです。
理事長だけに連絡が集まっていないか、理事会が必要以上に長くなっていないか、役員候補者へ仕事内容を十分に説明できているかを確認します。
この段階では、理事会運営、理事長と副理事長の職務、役員選任、任期などを中心に見直します。
役員候補が見つからないときほど、「なぜ引き受けてくれないのか」と考える前に、現在の役員の働き方を見て、自分なら安心して引き受けられるだろうかと振り返ることが大切です。
第二段階 判断と監督の質を高める
負担を整理した後は、重要な意思決定を特定の人だけへ任せない仕組みを整えます。
監事による監査、利益相反管理、専門委員会、修繕委員会などが、この段階に関係します。
詳しい人が管理組合にいることは大きな力です。しかし、その人だけが内容を理解し、その人だけの判断で進む状態では、担当者が替わった瞬間に組織が弱くなります。
専門性を活用しながらも、判断した理由や経過を管理組合として確認できる状態へ変えていくことが重要です。
第三段階 制度として定着させる
実際の運営で効果が確認できた仕組みは、必要に応じて役員資格、報酬制度、欠員対応、行動規範、管理規約などへ反映します。
内部の体制だけで継続が難しい場合には、マンション管理士などの専門家活用や外部管理者方式も検討対象になるでしょう。
なお、以下の20項目は論点別に整理したものであり、章番号がそのまま改革の実施順を示しているわけではありません。
実際には、この三段階と各マンションが抱えている問題を照らし合わせながら、優先順位を決めることが大切です。
1 管理組合組織体制の設計
意思決定と業務執行と監督を整理する
管理組合の組織体制を考えるとき、総会、理事会、理事長、監事といった名称が存在するだけでは十分ではありません。
重要なのは、どの機関が何を判断し、決定された内容をどのように実行し、その結果を誰が確認するかという関係です。
実務では、本来なら十分な検討が必要な案件について、理事長と管理会社の打合せで事実上方向性が決まり、理事会では報告を聞いて承認するだけになっていることがあります。
反対に、ごく軽微な日常業務まで理事会で話し合い、重要な課題へ十分な時間を使えなくなっているケースもあるでしょう。
理事長本人は、「自分がやらなければ進まない」と思っているのかもしれません。ほかの理事も「理事長が一番詳しいから任せた方が早い」と考え、結果として仕事も情報も一人へ集まります。
そこで理事長本人だけを問題にしても、次の理事長で同じことが起きる可能性があります。
まず組織として、役割の境界を確認する必要があります。
小規模マンションでは、複雑な制度を増やし過ぎることが新たな負担になります。一方、大規模マンションや団地型マンションでは、複数の立場や棟ごとの事情を把握できる仕組みが必要になるでしょう。
実務では、現在行っている管理組合業務を一覧にし、総会、理事会、理事長、監事、管理会社などの担当を確認することから始めます。
半年後にもう一度確認し、特定の人への集中や、誰も担当していない仕事が減っていれば、組織設計の改善が進んでいると判断できます。
2 理事会方式の見直し
理事会を説明を聞くだけの場にしない
理事会方式には、区分所有者自身がマンション管理へ参加できるという利点があります。
ところが、管理会社の担当者が資料を説明し、最後に役員が承認するだけの会議になっている場合があります。
役員も、本当は質問したいのでしょう。しかし、専門用語の多い資料を直前に受け取り、周囲が黙っている状況では、「こんなことを聞いてよいのだろうか」とためらう人もいます。
そのまま説明が進めば、理解できていない部分を残したまま決議の時間を迎えることになります。
これは役員個人の能力だけの問題ではありません。
資料の作り方、配布時期、会議の進め方を変えるだけでも、判断しやすさは変わります。
長期修繕計画、大規模修繕、予算、重要契約、管理規約改正など、理事会で時間を使うべき事項を整理します。
一方、日常的で軽微な業務については、管理規約や細則との整合を確認しながら、執行方法を明確にするとよいでしょう。
オンライン会議や電子資料も参加負担を軽減する方法になります。
仕事、育児、介護を抱える人にとって、毎回同じ時間に集会室へ出席しなければならない仕組みは、それだけで役員就任の心理的な壁になる可能性があります。
実務では、次回の理事会資料から、今回判断する内容、主な選択肢、費用、懸念事項が一目で分かる形へ変えてみます。
数か月後に会議時間や欠席率、議案の持ち越し件数を比較すれば、理事会運営が改善しているかを確認できるでしょう。
3 管理者方式と外部管理者方式の検討
外部へ任せても管理組合の主体性を残す
役員のなり手不足が深刻になると、「住民の中から理事長を出し続けることは難しい」と感じる管理組合があります。
長年役員を経験した人ほど、次に誰が引き受けるのかという不安を抱えているかもしれません。
そこで検討対象になるのが、マンション管理士などの外部専門家やマンション管理業者が管理者を担う外部管理者方式です。
国土交通省は「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を2024年6月に策定し、2026年4月1日に改訂しています。ガイドラインでは、導入や運営の手続、利益相反への対応、財産管理、情報開示などについて留意事項が示されています。
さらに、2026年4月1日には改正マンション管理適正化法等も施行され、マンション管理業者が管理者となる管理業者管理者方式について、管理者受託契約、財産の分別管理、利益相反のおそれがある取引に関する事前説明などの制度が整備されています。
したがって、現在の外部管理者方式を考える際には、ガイドラインで推奨される運営方法と、法令によって求められる事項を分けて確認することが重要です。
外部管理者方式には、区分所有者の負担を軽くし、専門的な業務を継続して処理しやすくする利点があります。
それでも、「専門家へ任せれば安心」と考えるだけでは十分ではありません。
特にマンション管理業者が管理者も担う場合には、管理組合のために管理者として行動する立場と、管理業務を受託して報酬を得る立場が近くなります。
そのため、関連する契約や工事について利益相反が生じないよう、管理組合側が内容を確認できる仕組みを持つ必要があります。
役員不足が長く続いている管理組合では、「すべて外へ任せられたら少し楽になれる」と感じることもあるでしょう。その気持ちは、これまで重い負担を背負ってきたからこそ生まれるものです。
しかし、負担から解放されたいという思いだけで制度を選ぶと、導入後に誰が管理者を監督するのかという課題が残ります。
実務では、まず現在の負担を分析します。
事務作業が多過ぎるのであれば委託内容の見直しで改善する可能性があり、専門知識への不安が大きいのであれば、マンション管理士などから継続的な助言を受ける方法もあります。
それでも外部管理者方式が必要なら、選任方法、権限、報酬、契約期間、財産管理、情報開示、利益相反管理、監督方法、解任などを具体的に検討します。
外部へ任せることと、管理組合自身が状況を把握しなくなることは別です。
専門家へ大きな権限を委ねるときほど、その活動を区分所有者側から確認できる仕組みが重要になるでしょう。
4 理事と監事の役割整理
業務執行と監査を混同しない
理事と監事はどちらも管理組合の役員ですが、担う機能は異なります。
理事は管理組合の業務執行に関わり、監事は業務や財産の状況を確認する役割を担います。
| 理事と監事 | 担う機能 |
|---|---|
| 理事 | 管理組合の業務執行に関わり |
| 監事 | 業務や財産の状況を確認する役割を担います |
ところが、小規模マンションなどでは、「人数が少ないから全員で手伝おう」という善意から、監事まで日常業務へ深く関わることがあります。
助けようとする気持ちは大切です。一方、自分自身が処理した仕事を後から自分で監査する状態になれば、本来期待されるチェック機能が弱くなる可能性があります。
監事の仕事が年度末に会計書類を確認するだけになっている場合にも注意が必要でしょう。
預金残高、支払内容、契約、予算執行、未収金、修繕積立金、理事会決議との整合などを年間で確認できるようにすると、監査はより実質的になります。
実務では、年度末だけではなく半年程度の時点でも確認する方法があります。
小さな問題の段階で気づけるようになれば、監事は形式的な役職ではなく、管理組合を支える監督機能として働くようになります。
5 理事長と副理事長の職務整理
理事長が頑張り続けなければ動かない状態を変える
管理会社からの電話も住民からの相談も、すべて理事長へ届く管理組合があります。
責任感が強い人ほど、「自分で処理した方が早い」と感じて仕事を引き受けます。すると周囲も理事長へ確認するようになり、いつの間にか判断も情報も一人へ集まります。
本人は疲れていても、「大変だと言ったら責任を放棄していると思われるのではないか」と考え、周囲へ言えなくなることもあるでしょう。
しかし、この状態を見ている次の役員候補者は、「自分には理事長はできない」と感じます。
理事長への負担集中は、現在の運営問題であるだけでなく、将来の役員のなり手不足にもつながる課題です。
副理事長を理事長不在時だけの代役にせず、設備、修繕、総務などについて日常から業務を分担する方法があります。
重要な情報についても、理事長だけが把握している状態を減らします。
実務では、理事長が一か月に処理している仕事を書き出し、その中から二つ程度を副理事長や担当理事へ移してみます。
三か月後に理事長の作業時間や連絡件数が減っていれば、小さくても組織としての改善が始まっています。
6 役員選任方法の設計
役員になる前の不安を減らす
総会直前になって突然、「今年はあなたの順番です」と伝えられる管理組合があります。
本人は仕事内容を考える前に、「断ってもよいのだろうか」と悩むでしょう。近所付き合いを考えれば、「協力的ではないと思われるかもしれない」という不安も生まれます。
その状態で就任すれば、最初から前向きな気持ちで活動することは難しいかもしれません。
役員選任では、最終的な選任だけではなく、候補者が決まるまでの過程を見える形にすることが重要です。
募集時期、立候補、推薦、輪番、候補者が多い場合の対応などを事前に整理します。
募集案内には、年間の会議回数、主な仕事、任期、管理会社や専門家から受けられる支援なども記載するとよいでしょう。
役員になることそのものより、「何を任されるか分からない」ことに不安を感じる人もいます。
実務では役員募集案内から見直し、翌年度の問い合わせや候補者の反応を確認します。
質問が増えたとしても、それは仕事内容を理解したうえで判断しようとする人が増えたという可能性があります。
7 輪番制役員制度の見直し
形式的な公平と実際の負担を分けて考える
輪番制には、役員負担を広く分担できるという利点があります。
一方、順番はそれぞれの生活事情を考慮してくれません。
病気、育児、介護、仕事、海外赴任などによって、その年度に活動することが難しい人もいるでしょう。
無理に就任しても理事会へ出席できなければ、実際の業務はほかの役員へ集中します。
表面上は全員が順番に役員を務めていても、実際の負担という点では公平ではない状態が起こります。
そこで、辞退、延期、免除、次回への繰越などについて基準を整理します。
辞退者へ協力金などを求める制度については、規約上の根拠、合理性、公平性などを含めて慎重に検討する必要があります。
経済的な負担を支払えば役員をしなくてもよい制度に見えれば、新たな不公平感を生む可能性もあるでしょう。
まず過去数年間の辞退理由や欠席状況を確認します。
役員業務そのものが過大であるなら、輪番制を厳しくする前に仕事を減らすことが先です。
8 立候補制度と推薦制度の設計
参加したい人が入れる入口を作る
管理組合には、建築、会計、法律、IT、防災などの経験を持つ区分所有者がいることがあります。
本人も「自分の経験なら少し役に立てるかもしれない」と考えているでしょう。
ところが輪番制だけで役員を決めていれば、その意欲が管理組合へ届かないことがあります。
立候補制度は、こうした人が自ら参加できる入口になります。
推薦制度も一つの方法ですが、本人が望んでいないにもかかわらず周囲から名前を挙げられ、「断りにくい」と感じる状況は避ける必要があります。
推薦する場合にも本人の意思確認を前提とします。
立候補制度では、受付期間、候補者に関する情報、利益相反の可能性、定員を超えた場合の選任方法などを整理します。
輪番枠と立候補枠を組み合わせる方法も考えられるでしょう。
大切なのは、全員を立候補者にすることではありません。
管理組合へ関わってみたい人が、必要以上の心理的な壁を感じずに参加できる入口を残すことです。
9 役員資格要件の見直し
現在の所有状況に合う資格を考える
マンションが完成した当初には、多くの区分所有者が自ら居住していたかもしれません。
年月が経てば、賃貸化、相続、転居などによって外部所有者が増えることがあります。
所有の形が変わっているにもかかわらず、役員資格だけが以前の居住実態を前提としていれば、候補者の範囲は少しずつ狭くなります。
役員資格については、自分たちの管理規約と現在の所有者構成を踏まえて検討します。
非居住の区分所有者を対象とする方法や、一定の場合に外部専門家を活用する方法も考えられます。
ただし、候補者の範囲を広げればすべて解決するわけではありません。
遠方からどのように会議へ参加するのか、情報をどう共有するのか、外部専門家の場合は報酬や利益相反をどう扱うのかも整理する必要があります。
実務では、過去数回の役員改選を振り返ります。
現在の資格要件によって候補になれなかった人が実際にいるなら、見直しを検討する具体的な理由になります。
10 役員任期の見直し
管理組合の経験を毎年ゼロへ戻さない
一年任期で全役員が交代する方法は、負担する期間が分かりやすいという利点があります。
しかし、大規模修繕や長期修繕計画、管理規約改正などは、一年間では終わらない場合があります。
新任役員がようやく過去の経緯を理解した頃に退任し、次年度には再び同じ説明が最初から行われる。この状態が続けば、管理組合内で経験や知識が蓄積されにくくなります。
「去年は、なぜこの方針になったのですか」と尋ねても誰も分からず、管理会社の担当者しか事情を知らない状態になる可能性もあるでしょう。
複数年任期や一部改選によって経験者を残す方法があります。
とはいえ、役員業務が重い状態で任期だけ延ばせば、「長期間は引き受けられない」という新しい問題を生みます。
そのため、任期と業務負担は一緒に考える必要があります。
実務では、任期を変える前に引継書を整えることも有効です。
主要案件の経緯、未解決事項、契約更新時期、翌年度の課題を残し、新任役員が過去の判断を追えるようにします。
11 役員報酬制度の検討
善意だけに依存しない仕組みを考える
役員報酬については、管理組合の中でも意見が分かれます。
自分たちのマンションなのだから無償で担うべきだと考える人もいるでしょう。一方、休日や夜間まで活動している役員を見て、「そこまで善意だけに頼ってよいのだろうか」と感じる人もいます。
| 役員報酬について | 意見が分かれます |
|---|---|
| 自分たちのマンションなのだから | 無償で担うべきだと考える人もいるでしょう。 |
| 休日や夜間まで活動している役員を見て | 「そこまで善意だけに頼ってよいのだろうか」と感じる人もいます。 |
過去に無償で役員を務めた人からすれば、「自分たちのときには報酬がなかった」という思いが生まれることもあります。
この気持ちを無視して制度だけを変えれば、管理組合内で十分な納得を得にくくなるでしょう。
報酬制度を検討する際には、最初に役員の活動量を把握します。
役職ごとに年間どれほどの時間を使っているのか、緊急対応がどれだけ発生しているのかを確認します。
そのうえで、必要に応じて報酬の有無や支給方法を検討します。
報酬を支給すれば、役員のなり手不足が必ず解決するわけではありません。
逆に、「報酬を受けているのだから何でも対応してほしい」という期待を生む可能性もあります。
実際に導入する場合には、予算や税務上の取扱いも含めて確認することが重要です。
12 役員欠員時の対応ルール整備
一人欠けても運営を止めない
役員が任期途中で転居したり、病気になったりすることはあります。
そのたびに「以前はどうしたのだろう」と過去の議事録を探しているなら、対応が人の記憶に依存しています。
欠員が出た場合に誰が補うのか、どの手続で選任するのかを事前に整理します。
特に理事長が職務を続けられなくなった場合は、管理組合全体への影響が大きくなります。
副理事長が代行できる制度があっても、理事長しか現在の契約や課題を把握していなければ、実際には対応できません。
したがって、欠員対応と日常的な情報共有は一緒に考える必要があります。
実務では、「明日理事長が長期間不在になったら何をするか」を現在の役員で確認してみます。
人によって答えが違うのであれば、その部分が優先して整えるべき課題です。
13 役員辞任と解任手続の整理
辞める人の背景まで見る
役員から任期途中で辞任したいと言われれば、残った役員は困るでしょう。
「最後までやってほしい」と思うのも自然です。
しかし、辞任の原因を本人の責任感だけで説明すると、本当に改善すべき問題を見落とすことがあります。
仕事、病気、家庭事情に加え、長時間の会議、住民からの苦情、人間関係、専門的判断への不安などが重なっていた可能性があります。
本人も最初から辞めるつもりだったとは限りません。頑張っているうちに、負担が限界を超えたのかもしれません。
辞任が繰り返されている場合には、役員個人ではなく、管理組合の仕事の設計にも問題がないかを確認する必要があります。
一方、役員の解任は、人間関係上の不満だけで進めるべきではありません。
規約上の手続や事実関係を確認し、深刻な紛争の場合には弁護士などの法律専門家へ相談することが適切です。
辞任や解任のルールは、人を組織へ縛ったり排除したりするためではありません。
役員本人と管理組合の双方が、混乱なく関係を整理できる出口を作るための仕組みです。
14 利益相反管理制度の整備
不正だけでなく疑念も防ぐ
役員の親族が経営する会社が工事候補に入っているとします。
価格も適正で施工品質に問題がなかったとしても、その関係が後から分かれば、「最初からその会社へ決めるつもりだったのではないか」と疑われる可能性があります。
利益相反管理が重要なのは、不正そのものだけを防ぐためではありません。
適正に判断していたとしても、その過程が見えなければ、区分所有者の間に疑念が残ることがあります。
役員本人や関係者が取引へ関わる場合には、その関係を事前に明らかにします。
必要に応じて、複数見積り、評価基準、審議への関与方法、議事録への記録なども組み合わせます。
特に外部管理者方式では、利益相反管理が重要です。
透明性を高める制度は役員を疑うための仕組みではありません。
むしろ誠実に活動している役員が、後から不必要に疑われないための仕組みにもなります。
実務では、次の工事や契約更新から利害関係を確認し、その経過を記録する方法が考えられます。
15 役員行動規範の策定支援
迷ったときに戻れる基準を持つ
役員になると、管理費等の滞納、騒音問題、家族事情、緊急連絡先など、一般の住民が知らない情報へ触れることがあります。
悪意がなくても、何気ない会話から情報が広がることはあります。
そこで、秘密保持、公平な対応、利益相反、金品や接待、個人情報、説明責任などについて基本的な行動規範を整えます。
ただし、禁止事項を大量に並べるだけでは、役員が「信用されていない」と感じる可能性があります。
例えば秘密保持についても、単に口外を禁止するのではなく、住民が安心して管理組合へ相談できる環境を守るためだと理由まで示します。
行動規範は、罰則を並べた文書ではありません。
判断に迷った役員が立ち戻るための共通基準です。
実務では一枚程度の基本方針から始め、実際に迷った事例を参考に、少しずつ見直していく方法が現実的でしょう。
16 専門委員会制度の設計
詳しく検討する役割と決定する役割を分ける
大規模修繕、防災、管理規約改正などは、一回の理事会だけでは十分に検討できない場合があります。
そこで専門委員会を設け、特定の課題について時間をかけて調査や検討を行う方法があります。
一方、長期間熱心に活動した委員ほど、「ここまで検討したのだから、この案を採用してほしい」と思うでしょう。
その気持ちは自然です。
しかし、専門委員会が調査や検討を行うことと、理事会や総会が正式に意思決定することは分ける必要があります。
設置するときには、目的、期間、委員構成、予算、検討範囲、報告方法などを明確にします。
同時に、委員会だけでは決定できない事項も整理しておくと、後の対立を防ぎやすくなります。
実務では、最初から常設委員会にせず、期限を定めて設置する方法もあります。
活動後に理事会の負担が減ったか、判断材料が増えたかを確認することで、委員会の効果を評価できます。
17 修繕委員会設置支援
大きなお金が動くからこそ判断過程を残す
大規模修繕では、管理組合が長年積み立ててきた大きな資金を使います。
役員が仕様書や見積書を前に、「この金額は本当に妥当なのだろうか」と不安になるのは当然でしょう。
何千万円という数字を見れば、「自分たちの判断が間違っていたらどうしよう」と感じる人もいます。
修繕委員会では、建物の状況、工事内容、設計、施工会社選定、資金計画などを継続的に検討できます。
重要なのは、詳しい一人だけへすべての判断を任せないことです。
施工会社を選ぶ際には、金額だけではなく、施工体制、実績、保証、提案内容などの評価基準を事前に整理します。
誰が候補会社を選び、何を比較し、なぜ最終的な案になったのかについても記録します。
マンション管理士が関与する場合には、管理組合側の意思決定、契約、合意形成、利益相反などを整理し、建築技術については必要に応じて建築士などと連携する方法があります。
数年後の役員が資料を見ても当時の判断理由を理解できる状態が、健全なガバナンスにつながります。
18 防災委員会設置支援
災害への不安を平時の準備へ変える
大きな地震や豪雨が報道されると、「自分たちのマンションは大丈夫だろうか」と考える人が増えます。
停電したらエレベーターはどうなるのか、断水したらトイレをどうするのか、高齢の住民を誰が確認するのかという不安も生まれるでしょう。
ところが時間が経過すると日常生活へ戻り、防災の話は後回しになりがちです。
防災委員会などを設けて平時から継続的に準備することで、この繰り返しを減らせます。
防災マニュアル、安否確認、備蓄、停電、断水、避難などを具体的に検討します。
支援が必要な住民の情報を扱う場合には、個人情報の管理方法も重要です。
名簿を作るだけでは十分ではありません。誰が保管し、平時と災害時にどのように使うのかまで決めて初めて、実際に機能する防災体制になります。
実務では、大規模な避難訓練から始める必要はありません。
安否確認だけを試し、連絡できなかった住戸や運用上の問題を確認します。
訓練で弱点が見つかれば、本当の災害が来る前に改善できるという意味で成果でしょう。
19 規約改正委員会と改正区分所有法への対応
法律上の変更と標準管理規約を分けて理解する
管理規約は、一度作成すれば永久に使える文書ではありません。
法律、区分所有者の構成、社会状況などが変われば、現在の内容が実態に合っているかを確認する必要があります。
2025年のマンション関係法改正では、区分所有法の改正に関する部分が2026年4月1日に施行されています。
また、国土交通省は2025年10月17日にマンション標準管理規約を改正しました。
ここで重要なのは、法律そのものによって変更された事項と、マンション標準管理規約で示される規定例や考え方を区別することです。
標準管理規約に規定例が示されているからといって、すべてのマンションが機械的に同じ文章へ変更しなければならないという意味ではありません。
まず法改正によって何が変わったのかを確認し、次にマンション標準管理規約ではどのような対応例が示されているのかを見ます。
そのうえで、自分たちの管理規約と現在の運営を比較します。
さらに現在は、どのような内容へ規約を変更するかだけでなく、どのような手続で規約を変更するかにも注意が必要です。
2026年4月1日以降に管理規約改正のための総会招集手続を行う場合には、改正区分所有法を踏まえた総会の定足数や決議要件を確認し、適切な手続で進める必要があります。
つまり、「改正案の文章が正しいから、それだけで総会へ出せる」とは限りません。
内容と手続の両方を確認することが、現在の規約改正実務では重要になります。
規約改正委員会を設置する場合にも、最新のひな形へ全文を置き換えるところから始める必要はありません。
法改正への対応が必要な事項、現在すでに問題が生じている事項、将来に備えて整えたい事項に分けて検討します。
素案を作った後には、区分所有者へ変更理由を説明します。
「法律が変わったので賛成してください」と言われても、自分の暮らしとどう関係するのか分からなければ、関心を持つことは難しいでしょう。
どの規定がなぜ変わり、それによって管理組合の運営がどのように変わるのかまで伝えることで、合意形成が進みやすくなります。
規約改正の目的は、文書を新しく見せることではありません。
これからも管理組合が適切に意思決定できるよう、現在の法制度とマンションの実情へルールを合わせ直すことです。
20 役員のなり手不足対策
住民の無関心と決めつける前に負担構造を見る
役員候補者が見つからないと、「最近の住民は管理組合に関心がない」と考えたくなることがあります。
しかし、本当に無関心だけが原因でしょうか。
現在の理事長が休日まで電話へ対応し、夜遅くまで会議を行い、大量の資料を読んでいる姿を見ていれば、次の候補者が就任をためらうことは不思議ではありません。
役員になりたくないというより、「今の役員の働き方では自分にはできない」と感じている可能性があります。
もちろん、高齢化、仕事、介護、育児などの個人的事情も関係します。
だからこそ、一つの原因だけに決めつけないことが重要です。
実務では、まず現在の役員業務を洗い出します。
管理会社へ委託できる作業、専門家へ任せる方がよい仕事、理事会自身が判断しなければならない事項を分けます。
会議時間や資料量も確認します。
この段階だけで、役員の負担が大きく減るマンションもあるでしょう。
次に、輪番制、立候補、推薦、任期、資格要件などを見直します。
それでも難しい場合には、役員報酬やマンション管理士などの外部専門家活用を検討します。
内部から管理者を確保することが継続的に難しい場合には、外部管理者方式も選択肢になります。
重要なのは、最初から「役員がいないから外部へ全部任せる」と結論を出さないことです。
現在の業務を軽くすれば内部運営を続けられるのか、それとも組織構造そのものを変更する必要があるのかを順番に確認します。
目標は役員をなくすことではありません。
誰かが無理をしなくても、必要な管理と意思決定を継続できる状態をつくることです。
マンション管理士がガバナンス改革で果たす役割
管理組合の問題には、制度だけでは説明できない感情があります。
理事長への負担集中を指摘された本人は、「これまで頑張ってきたことを否定された」と感じるかもしれません。
役員報酬を導入しようとすれば、過去に無償で役員を務めた人は「自分たちの努力は何だったのだろう」と思うことがあります。
管理会社との関係を見直せば、「長年付き合ってきた会社を信用していないのか」という声が出る場合もあるでしょう。
制度として合理的であっても、人の気持ちを置き去りにすると改革が進まないことがあります。
マンション管理士には、人への評価と仕組みの問題を切り分ける役割があります。
理事長へ仕事が集中しているなら、本人の性格だけを見るのではなく職務分担を確認します。
理事会への欠席が多い場合にも、意欲だけではなく開催時間、資料、役員業務の量などを見ます。
管理会社への依存が強ければ、管理会社を批判する前に、管理組合側へ判断材料が十分に渡っているかを確認します。
こうした視点によって、「誰が悪いのか」という議論から、「何を変えれば運営しやすくなるのか」という議論へ移りやすくなるでしょう。
マンション管理士がすべての答えを決めることが理想ではありません。
専門家がいなくなった後でも、管理組合自身が状況を理解し、必要な判断を行える状態をつくることが重要です。
マンション管理組合改革を実行する順番
ここまで20の論点を見て、「自分たちのマンションでは結局どこから始めればよいのか」と感じる人もいるでしょう。
その場合、大きな制度変更から始める必要はありません。
まず現在の状態を把握します。
理事長が一か月に使っている時間、理事会の平均時間、欠席者数、持ち越している議題、役員候補者が決まるまでの期間などを確認します。
数字だけではなく、役員が何を負担に感じているかを聞くことも重要です。
同じ二時間の理事会でも、必要な議論ができた二時間と、理解できない説明を聞き続けた二時間では疲労感が違います。
次に、なぜその状態になっているのかを考えます。
役割分担なのか、会議方法なのか、専門知識の不足なのか、役員選任なのかによって対策は変わります。
原因が見えたら、一度に一つか二つだけ変えます。
理事会資料を分かりやすくするだけでも構いませんし、理事長の仕事を二つだけ副理事長へ移す方法もあります。
そして三か月後や半年後に変化を確認します。
会議時間が減ったか、役員の作業時間が軽くなったか、持ち越し議案が減ったかを見ます。
効果があれば続け、十分でなければ別の改善を加えます。
この繰り返しなら、何を変えたことが効果につながったのかを把握しやすくなります。
これからのマンション管理組合に必要なガバナンス
これからのマンション管理を、区分所有者だけですべて行う方法と、専門家へすべて任せる方法の二択で考える必要はありません。
管理会社へ委託した方が効率的な仕事があります。
建築士、弁護士、マンション管理士、税理士などへ相談した方が適切な問題もあります。
その一方で、マンションをどのように維持し、何に資金を使い、どのようなルールで共同生活を続けるのかという根本的な問題は、管理組合の意思と切り離すことができません。
これからの強い管理組合は、すべてを自分たちだけで処理できる組織ではないでしょう。
| 自分たちで判断すべきこと | 専門家へ任せる方がよいこと |
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| マンションをどのように維持し、何に資金を使い、どのようなルールで共同生活を続けるのかという根本的な問題 | 管理会社へ委託した方が効率的な仕事があります。建築士、弁護士、マンション管理士、税理士などへ相談した方が適切な問題もあります。 |
自分たちで判断すべきことと、専門家へ任せる方がよいことを区別できる組織です。
さらに、専門家へ任せた仕事についても、何を依頼し、どのような結果になったのかを確認できます。
役員全員が法律や建築の専門家になる必要はありません。
分からない問題が出たときに、どの資料を確認し、誰へ相談し、どの手続で判断するのかが分かる状態であればよいのです。
その仕組みが整えば、新しく役員になった人も「全部自分で背負わなければならない」と感じにくくなります。
人を責める前に仕組みを確認し、人の事情と組織上の問題を切り分けながら改善していくことが、持続可能なガバナンスにつながるのではないでしょうか。
まとめ
マンション管理組合のガバナンス改革では、役員のなり手不足を住民の意識だけで説明せず、まず現在の仕事や意思決定の仕組みを確認することが重要です。
理事長への負担を減らし、理事会で判断しやすい環境を整え、監督機能を高めたうえで、必要な内容を役員制度や管理規約へ定着させます。
外部管理者方式や管理規約改正についても、現在施行されている法制度とガイドラインや標準管理規約の位置付けを分けて理解し、自分たちのマンションへ適切に当てはめる必要があります。
20の論点を一度に変える必要はありません。
現在の問題を確認し、小さく改善し、その変化を確かめながら次へ進むことが、「誰かが我慢して続ける管理」から「人が替わっても続けられる管理」への転換につながります。
参考資料
法務省 老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための区分所有法等の改正