行動経済学

負のピア効果が職場で起こる具体例7選 個人の問題と決めつける前に確認したいこと

「最近、チーム全体の動きが鈍い」「以前より情報が上がってこない」「できる人ばかり忙しくなっている」といった変化が続くと、管理職や人事担当者は、どうしても目立つ一人の社員へ原因を求めたくなるかもしれません。しかし、負のピア効果として職場を見るなら、本当に確認したいのはその人自身の問題だけではなく、ある社員の存在や行動を受けて、別の社員の努力、報告、協力、満足度まで変わっているかという点です。

さらに、その波及を評価制度、仕事の割り振り、管理職の対応が強めている場合もあります。同僚から受ける影響は研究でも一方向ではなく、正の効果が確認される場合もあれば、負の効果が推定される場合、平均的には明確な影響が見つからない場合もあるため、「このタイプの社員がいるから職場が悪くなった」と人物像だけで結論づけることはできません。

実務上の焦点は、問題社員を探すことよりも、人 × 制度 × 周囲の反応の組み合わせを見つけることにあります。この記事では、職場で負のピア効果として検証する価値のある七つのパターンを取り上げながら、「本当に周囲へ影響が広がっているのか」「単なる人間関係のトラブルとは何が違うのか」「管理職は何を比較すればよいのか」まで整理します。

TABLE OF CONTENTS
目次

負のピア効果とは

ピア効果とは、同僚や同じ集団に所属する人の行動、能力、属性、働き方などが、本人の行動や成果にも関係する現象です。職場では、生産性の高い同僚と働くことで周囲の努力が高まる場合もあれば、競争、比較、集団内の規範などを通じて努力や協力が弱まる場合もあり、その方向は職場の条件によって変わります。

そのなかで、同僚や集団から受ける影響によって、本人以外の努力、生産性、協力、満足度などが悪い方向へ変わる場合を、負のピア効果として考えます。ただし、この言葉を「周囲を悪くする人」を認定するラベルとして使うのは適切ではなく、同じ人でも、誰と組むか、どのような評価制度で働くか、互いの仕事がどこまで見えるかによって影響は変わり得ます。

教育分野ではありますが、RIETIが「埼玉県学力・学習状況調査」の個票データを用いた研究では、さいたま市を除く埼玉県内の公立小・中学校の全生徒を対象とする2015年と2016年のデータから、平均学力の高いクラスに所属した生徒について、翌年度の本人の学力が低くなる負のピア効果が推定されています。著者らは、自分の相対的な学力を低く認識することで学習意欲が低下する可能性を一つの説明として挙げていますが、これは教育分野の結果であるため、数値や心理経路をそのまま職場へ移すことはできません。

職場で起こる負のピア効果の具体例7選

職場では、周囲の人を見ながら努力の水準を変えたり、発言や報告を控えたり、反対に働き方を改善したりすることがあります。ただし、似た現象に見えても、その原因が同僚からの影響とは限りません。評価制度、業務配分、管理職の対応などが同時に変わっていることもあるため、人物だけを見るのではなく、周囲の行動がどのように変わったかまで確認する必要があります。

以下では、職場研究で実際に確認されている現象に加え、関連する研究から考えられるケースや、自社のデータで確かめる必要があるケースも扱います。研究が直接確かめた範囲を超える部分については、その都度区別して見ていきます。

1 手を抜く社員を見て周囲まで努力を減らす

あるチームで、一人の社員が担当業務を残しても誰かが最後に処理し、期限を守らなくても評価や待遇がほとんど変わらない状態が続いていたとします。当初は責任感のある社員が「今回は忙しかったのだろう」と補っていても、それが何度も繰り返されれば、「きちんと終わらせるほど、自分に追加の仕事が回ってくるのではないか」という感覚が生まれるでしょう。

すると、以前なら早めに仕事を終えて周囲を助けていた人が、あえて余裕を見せないようにしたり、担当外の仕事へ関わる範囲を狭めたりする可能性があります。管理職には「最近はチーム全体の主体性が落ちている」と映っていても、本人からすれば、周囲の扱われ方を見た結果として「余分に頑張るほど自分が不利になる」と判断し、自分の負担を守るために働き方を調整しているのかもしれません。

MasとMorettiが大規模スーパーマーケットチェーンのレジ担当者を分析した研究では、高生産性の同僚がシフトへ入ることで、同じシフトのほかの従業員にも正の生産性スピルオーバーが推定されています。また、その反応は自分の働きぶりを見ることのできる同僚や、日常的に一緒に働く頻度の高い同僚との間で強く、著者らは社会的圧力による説明と整合的だとしています。

ただし、この研究が直接確認したのは高生産性の同僚による正の波及です。「手を抜く社員を見ると周囲も手を抜く」という逆方向の現象まで確認したわけではありません。そのため、自社では「Aさんが仕事をしない」と評価するより、同じ社員Bについて、Aさんと頻繁に働く期間とそうでない期間で、処理量、支援行動、担当外業務への参加などが変わっているかを確かめる必要があります。

2 エース社員との比較環境で周囲の努力が落ちる

成果の高い社員をチームへ入れれば、周囲が刺激を受けて成長すると期待するのは自然です。実際、高生産性の同僚によって周囲の努力が高まる研究もあるため、優秀な社員がいること自体を負のピア効果の原因とみなすことはできません。

一方、ある営業チームで、経験年数も顧客基盤も違うトップ社員と若手社員が毎月同じランキングで比較され、面談でも「トップのようにもっと数字を出してほしい」と求められ続けていたら、比較が本人にとって励みになるとは限りません。努力しても差がほとんど縮まらない経験が続けば、「この目標は自分には届かない」と感じ、挑戦する意味そのものを見失うことも考えられます。

TanとNetessineがレストランのウェイターを対象に行った研究では、同僚全体の販売能力が比較的低い領域では、その能力が高くなるほど本人のアップセルやクロスセルの努力も増えましたが、同僚全体の販売能力がすでに高い領域では、さらに能力が高まると本人の販売努力が減るという非線形の関係が報告されています。

この研究から確認できるのは、高い同僚能力の環境と本人の販売努力に非線形な関係があることです。「周囲との差を見て諦めた」という心理状態そのものが測定されたわけではありません。

そのため、職場ではエース社員を配置した前後で、中位層の提案件数、営業活動、難しい案件への立候補などが変化しているかを確認し、そのうえで面談などから「目標が遠すぎる」「どうせ自分には任されない」といった認識が実際にあるかを確かめる方がよいでしょう。

3 個人競争が強くなり情報共有が減る

競争そのものが職場を悪くするわけではなく、互いの成果を見て「自分も工夫してみよう」と感じられる環境なら、努力を高める方向へ働くこともあります。ただし、同僚の成功が自分の不利益へ直結する制度では、同じ人間関係でも意味が変わります。

ある会社で、限られた昇進枠を個人ランキングで争う状況が強まり、それまで共有していた営業ノウハウについて「これを教えて相手の成果が上がれば、自分の順位が下がる」と感じるようになれば、情報を抱えることが本人にとって合理的な防衛行動になるかもしれません。

日本の製造業企業1社の360度評価データを用いたRIETI研究では、評価者と被評価者の昇進確率の差が小さい場合や、両者が同じ部に所属する場合に、同僚評価へ負のバイアスが生じる傾向が確認されています。対象企業では360度評価を報酬や昇進の決定へ直接使わないことが明記されていましたが、それでもライバルに近い関係と下方評価バイアスが関連していました。

この研究が直接示しているのは同僚評価のバイアスです。「競争を強めると情報共有が減る」という変化そのものを測定したわけではありません。そのため、情報共有については自社で確かめる必要があり、相対評価やランキングの導入時期と、ナレッジ投稿、相談、引き継ぎ、成功事例の共有が減った時期が重なっていないかを見る必要があります。

4 成果を出す社員へ仕事が集中し周囲の挑戦が減る

「この案件は○○さんに任せた方が早い」という判断は、緊急時には合理的です。処理が速く、顧客対応にも慣れ、問題が起きても解決できる社員がいれば、管理職として頼りたくなるでしょう。

ただし、仕事が一人へ集中しているだけなら、第一義的には業務配分の問題であり、それだけで負のピア効果とは言えません。ここで確認したいのは、その状態を見続けた周囲が「自分が手を挙げても結局あの人へ任される」「難しい案件は最初から自分の役割ではない」と考えるようになり、新しい仕事への挑戦や学習機会を自ら避け始めていないかという点です。

一方、エース社員の側でも、通常業務に加えてレビュー、質問対応、トラブル処理まで集まり続ければ、最初は「頼られているなら応えたい」と感じていても、次第に「助けるほど自分の仕事が終わらなくなる」と考えるようになるかもしれません。その結果、以前より相談への反応が遅くなれば、周囲はさらに質問しにくくなり、依存と遠慮が同時に強まる可能性があります。

このケースでは、エース社員の残業時間だけを見ても十分ではありません。案件配分率、新規業務を経験した人数、立候補件数、質問先の集中などを時系列で確認し、仕事が一人へ集中しているだけなのか、その状態を見た周囲まで行動を変えているのかを分けて考える必要があります。

5 ミスを報告した人が責められ周囲まで報告しなくなる

ある社員がミスを発見し、問題が大きくなる前に上司へ報告したところ、会議の場で強く叱責されたとします。上司には「同じ失敗を繰り返してほしくない」という意図があったとしても、その場を見ている社員が学ぶ内容は「ミスに注意しよう」だけとは限りません。

「早く報告した人ほど強く責められる」と受け取れば、次に異常を見つけた社員は、まず自分だけで処理できないか考えるかもしれません。さらに、問題を提起した人ほど説明業務を背負い、周囲から面倒な人のように扱われる状態が続けば、「黙っていた方が安全」という判断が一人の性格ではなく、職場の共有された規範へ変わっていく可能性があります。

Edmondsonが製造企業の51チームを対象に行った研究では、チームの心理的安全性と学習行動との関連が確認され、学習行動が心理的安全性とチーム成果をつなぐ媒介関係も示されています。ここでいう心理的安全性とは、対人関係上のリスクを取っても安全だというチーム内の共有認識であり、質問、助けを求めること、問題提起などと関係する概念です。

ただし、この研究は「同僚が叱責される場面を見た人が、その後ミス報告を減らす」という特定の経路そのものを検証した研究ではありません。したがって、自社では強い叱責などの出来事の前後で、ヒヤリハット報告、相談、質問、問題発生から報告までの時間がどう変わったかを確認し、その変化が実際に周囲へ広がっているかを確かめる必要があります。

6 ハラスメントを見聞きした周囲の満足度やストレスが悪化する

ハラスメントは、被害を受けた本人だけの問題として捉えられがちですが、その出来事を見聞きした周囲にも悪い変化が表れる場合があります。

リクルートワークス研究所が「全国就業実態パネル調査」の2018年と2019年のデータを用いて行った分析では、2018年に職場でハラスメントを見聞きした人は、見聞きしていない人と比べ、翌2019年に仕事へ満足する確率が1.7ポイント低く、高ストレス者になる確率が4.9ポイント高い結果となりました。また、2018年時点ですでに仕事へ満足していた人では、翌年も満足する確率がさらに4.5ポイント低い結果が報告されています。

ここでは、職場でハラスメントを見聞きしたことと、その後の満足度やストレスとの関係が、当事者以外についても分析されています。ただし、個々のハラスメント行為が周囲の具体的な行動変化を引き起こしたことまで、この分析だけで確定するわけではありません。

ある社員が人格を否定するような叱責を受けている場面を見た人が、「次は自分かもしれない」と感じれば、反対意見を言わない、新しい仕事へ手を挙げないといった防衛行動につながる可能性がありますが、そこまでの心理経路や行動については自社でも別に確認する必要があります。

なお、現にハラスメントが疑われる場合には、ピア効果の分析が終わるまで対応を待つべきではありません。安全確保や事実確認と、周囲への波及の分析は別の作業として進める必要があります。

7 仲の良い同僚に合わせて努力水準が変わる

職場に仲の良い同僚がいることは、一般には悪いことではありません。相談しやすくなり、困ったときには助け合え、仕事の方法も共有しやすくなるため、良好な関係が努力や生産性を高める場合があります。

それでも、人は金銭的な報酬だけで努力を決めるわけではなく、親しい人との関係によって自分の働き方を変えることがあります。

Bandiera、Barankay、Rasulの職場研究では、友人と一緒に働く場合、その友人が本人より能力の高い人であれば本人の生産性が高くなり、本人より能力の低い友人と働く場合には生産性が低くなる結果が確認されています。能力の高い労働者は能力の低い友人と働くときに努力を抑えて約10%の所得を手放す一方、自分より能力の高い友人と働く側では努力と生産性を約10%高める結果が報告されています。

したがって、「仲の良い人と働くと怠ける」と解釈するのは適切ではありません。重要なのは、親しい同僚の存在が、本人の努力を上にも下にも動かし得るという点です。

ある職場で「一人だけ早く終わらせると全員の目標が引き上げられる」「一人だけ頑張りすぎると周囲が困る」といった認識が共有されているなら、高い能力を持つ人でも関係を守るために突出を避ける可能性があります。この場合も、友情そのものを問題にするのではなく、友人と働く日とそうでない日で努力指標が違うか、制度やチーム内規範によって違いが強まっていないかを見る必要があります。

負のピア効果か見分ける方法

七つの具体例に似た出来事があったとしても、それだけで負のピア効果が起きているとは判断できません。もっとも避けたいのは、「Aさんが来てから雰囲気が悪くなった」という印象だけを証拠にし、あとから見つけた事実をすべてAさんのせいだと解釈してしまうことです。

実務では、時間、接触、比較対象という三つの軸を置くと、個人の問題、ピア効果、制度や業務環境の問題を切り分けやすくなります。

人間関係トラブルとの違いを見る

AさんとBさんの折り合いが悪いからといって、それだけで負のピア効果とは言えません。判断するときに重要なのは、その人と接触した別の人まで、以前とは違う行動を取り始めているかです。

AさんとBさんの会話だけが減り、ほかの社員の報告、努力、情報共有に変化がないなら、まずは二者間の関係として考えられるでしょう。一方、Aさんとの共同勤務が増えた後に、BさんだけでなくCさんやDさんまで発言、報告、協力を減らしているなら、周囲への波及を検討する意味が出てきます。

ただし、同じ時期に複数人が変化していても、Aさんが原因とは限りません。評価制度が変わった、人員が減った、管理職が交代した、繁忙期へ入ったといった共通要因によって、全員が同じ方向へ動いた可能性もあります。

実務では、本人だけが変わった場合、特定人物との接触者が変わった場合、接触に関係なく全体が同時に変わった場合を分けると整理しやすくなります。本人だけなら個人要因、接触者に集中していればピア効果、全体が同時なら制度、管理、人員不足、需要変化などの共通要因を先に確認します。

時間と接触と比較対象を置く

まず、いつ変わったのかを具体化します。生産性が落ちた時期、情報共有が減った時期、残業や欠勤が増えた時期、満足度が変わった時期を同じ時間軸へ置き、その前後に人員異動、管理職交代、評価制度変更、目標変更などがなかったかを確認します。

次に、誰と接触すると変化が強くなるのかを見ます。同じ部署という組織図上の関係だけでなく、同じシフトで働く、同じ案件を担当する、レビューを受ける、日常的に質問するといった実際の接触関係を見る方が有効な場合があります。

さらに、比較対象を置きます。同じ仕事をしている別チーム、特定社員とほとんど接触しない人、制度変更を受けていない部署などと比べれば、「Aさんの影響に見えていたものが、実は全社的な繁忙だった」という誤認を減らせます。

症状から確認方法までつなげる

症状 考えられる構造 確認方法
一部社員の手抜き後に周囲の努力も落ちた 低い努力水準への同調や相互観察の変化 同じ社員について、問題視される社員と働く時期とそうでない時期の処理量や支援行動を比較する
エース配置後に中位層の行動量が落ちた 高能力者との比較や役割固定 配置前後の提案件数、営業活動、難しい案件への立候補を確認する
情報共有が減った 相対評価や個人成果重視によって共有のメリットが弱い 評価制度変更前後のナレッジ投稿、相談、引き継ぎ件数を比較する
高成果者だけ仕事量が増えた 管理職の配分による依存と周囲の挑戦減少 エースの負荷だけでなく、他社員への案件配分率、新規業務経験者数、立候補件数を見る
ミスや相談の報告が減った 発言すると不利益を受けるという共有認識 強い叱責などの前後で、報告件数と問題発生から報告までの時間を比較する
ハラスメント後に周囲の状態も悪化した 当事者以外への心理的な波及 見聞きした人とそうでない人の満足度、ストレス、異動希望などを比較する
仲の良い集団で努力水準がそろって変わった 友人関係を通じた同調 同じ社員について友人と働く場合と別の人と働く場合で成果や努力指標を比較する
一部チームだけ発言が減った 管理方法やチーム内規範の影響 同じ職種の別チームと会議発言者数、質問数、提案件数を比較する

この表の一項目が当てはまっただけで、負のピア効果と判断することはできません。重要なのは、いつ変わり、誰が変わり、誰との接触時に強く表れ、同じ条件でも変化しなかった人やチームがあるかという重なりを見ることです。

たとえば相対評価制度を4月に導入し、5月から情報共有が減ったとしても、それだけでは制度が原因とは言えません。しかし、制度を導入した部署だけで共有量が落ち、同じ職種でも別制度のチームには変化がなく、さらに評価へ直結しやすい情報ほど共有されなくなったなら、制度による行動変化という説明は強くなります。

管理職が最初に確認する順番

実務では、確認項目を何度も別々に並べるより、変化した時点 → 変化した人 → 変化した行動 → 接触していた相手 → 同時期の制度変更 → 変化しなかった比較対象という順番で一枚に整理すると、原因候補を追いやすくなります。

変化した時点 変化した人 変化した行動 接触していた相手 同時期の制度変更 変化しなかった比較対象

たとえば「情報共有が減った」という問題なら、いつから減ったのか、誰が共有しなくなったのか、その人たちは誰と頻繁に働いているのか、その時期に評価方法が変わったのか、同じ条件でも共有を続けているチームがあるのかを確認します。そこまで整理してから面談や配置変更へ進めば、「協調性の低い社員が増えた」という印象だけで対応するより、実際に変えるべき場所を見つけやすくなるでしょう。

なぜ負のピア効果が周囲へ波及するのか

負のピア効果は、一つの心理メカニズムだけですべて説明できるものではありません。社会的比較、周囲から学ぶ職場の規範、公平性、評価制度、能力構成などが重なり、本人が「ここではどう行動するのが合理的なのか」を学ぶ過程で波及していくと考えると整理しやすくなります。

なぜ負のピア効果が周囲へ波及するのか 社会的比較によって 自分の見え方が変わる 周囲を見ながら 職場の本当のルールを学ぶ 不公平感と評価制度が 努力の意味を変える 能力差そのものではなく 差の使われ方を見る
負のピア効果は、一つの心理メカニズムだけですべて説明できるものではありません。

社会的比較によって自分の見え方が変わる

人は自分の能力を、過去の自分や絶対的な成果だけで判断しているわけではなく、周囲との比較によっても評価します。少し先を行く相手であれば「自分も近づけそうだ」と努力につながる一方、比較対象があまりに遠く見えれば、「この競争では勝てない」と感じ、努力を抑える可能性があります。

TanとNetessineの研究で、同僚全体の販売能力と本人の努力に非線形の関係が報告されていることや、埼玉県の公立小中学校を対象としたRIETI研究で、高学力クラスへの所属について翌年度の本人学力への負の効果が推定されていることは、高い能力の周囲が常に同じ方向へ作用するわけではないことを考える材料になります。

ただし、「追いつけないという諦め」がそれぞれの研究で共通して直接測定されたわけではありません。職場で心理メカニズムを判断するなら、行動データだけでなく、本人が比較をどう受け止めているかも別に確認する必要があります。

周囲を見ながら職場の本当のルールを学ぶ

社員は就業規則だけを見て、「この会社でどう行動すればよいか」を理解しているわけではありません。ミスを早く報告した人が感謝されたのか責められたのか、困っている人を助けた社員が評価されたのか、それともさらに仕事を増やされたのかを見ながら、実際の職場で安全な行動を学んでいます。

そのため、「助け合いを大切にする会社です」と掲げていても、助けた社員だけが残業し、仕事を残した側には変化がなければ、社員は掲げられた価値観より実際の出来事を信じるでしょう。「助けるほど自分が損をする」と感じれば、協力を減らすことにも本人なりの理由があります。

不公平感と評価制度が努力の意味を変える

自分は期限を守り、周囲を助け、他人の未完了業務まで処理している一方で、その負担が評価されず、仕事を残している社員と待遇もほとんど変わらない状態が続けば、「なぜ自分だけ多く背負うのだろう」という感覚が生まれます。

そこで本人が支援を減らしたとしても、それは仕事への関心そのものを失ったとは限りません。本人からすれば、過剰に引き受けていた負担を通常の範囲へ戻し、自分だけが損をする状態を止めようとしているのかもしれません。

また、制度によっては、周囲に協力しないこと自体が合理的になる場合があります。RIETIの360度評価研究で、昇進上のライバルに近い相手への評価に下方バイアスが見られたことも、同僚関係と評価制度を切り離して考えにくいことを示す材料になります。

能力差そのものではなく差の使われ方を見る

能力の高い人がいるから負のピア効果が起きるとも言えません。MasとMorettiの研究では、高生産性の同僚が加わることで周囲の努力が高まり、とくに低生産性の社員で反応が大きい結果が報告されています。

また、国内メーカー1社を対象に、高年齢社員との接触が同僚の仕事満足度などへ与える影響を分析したRIETI研究では、平均的には一方向の正負の効果が確認されず、高年齢社員本人の能力や、影響を受ける側の年齢、仕事内容、管理職かどうかによって結果が異なりました。

したがって、能力差そのものを問題にするより、その差が「学べる手本」になっているのか、「結果だけを比較する材料」になっているのか、「できる人だけへ仕事を集める理由」になっているのかを見る必要があります。

正のピア効果へ変わる条件

ここまで負の例を見てくると、「社員同士をあまり影響させない方が安全なのではないか」と感じるかもしれません。しかし、同僚から影響を受けること自体は、なくすべき現象ではありません。

MasとMorettiの研究では、高生産性の同僚が同じシフトへ入ることで周囲の努力が高まりました。また、互いの働きぶりが見える関係や、日常的な交流が多い関係で反応が強いことから、職場内の観察や接触は、低い努力を広げる可能性だけではなく、高い努力を広げる経路にもなり得ます。

Bandieraらの研究でも、自分より能力の高い友人と働く場合には本人の努力と生産性が高まり、能力の低い友人と働く場合には反対方向の変化が確認されています。人間関係そのものを「良い」「悪い」と分類するより、誰と誰を組み合わせ、その関係のなかでどのような努力が促されているのかを見る必要があります。

また、リモートワークでもピア効果が消えるとは言えません。van der LippeとLippényiが欧州9カ国の259事業所、869チーム、11,011人を含むデータを分析した研究では、同僚の在宅勤務割合が高いことと、本人およびチームのパフォーマンスが低いこととの関係が報告されています。観察データに基づく研究であるため、在宅勤務が低下を引き起こしたと一律に断定するのではなく、同僚の勤務形態と周囲のパフォーマンスに関連が見られた結果として捉える必要があります。

一方、2026年3月17日に公表された日本の完全リモート企業を対象とする研究では、チームメートの平均生産性が高いこと自体による統計的に明確な効果は確認されなかったものの、チームメンバーの平均勤続期間が長い上位25%のチームでは、本人の生産性が約12.2%高いと推定されました。さらに、本人の勤続期間が最も短い層では約26.2%高く、経験の浅い社員ほど経験豊富なチームメートから大きな恩恵を受けている可能性が示されています。

この結果は、「経験者の多いチームならどの会社でも12.2%生産性が上がる」という一般法則ではありません。特定の完全リモート企業のパネルデータを使い、チーム平均勤続期間が上位四分位に入る場合を用いて推定された結果だからこそ、その条件とともに理解する必要があります。

正のピア効果へ向かいやすい職場を考えるなら、良い仕事の方法を観察できることに加え、自分でも実際に担当する機会があり、質問や失敗報告をしても不利益を受けず、教える人だけへ支援負担が集中しない状態をつくることが重要です。同僚からの影響を遮断するのではなく、学習へつながる影響は広げ、諦めや防衛行動へつながる条件を減らすという考え方の方が現実的でしょう。

負のピア効果に関するよくある質問

負のピア効果とフリーライダーは同じですか

負のピア効果とフリーライダーは同じではなく、見る対象が異なります。フリーライダーは主として、自分の負担を抑えながら周囲や集団の成果へ依存する本人の行動を指しますが、負のピア効果では、その人の行動や存在を受けて別の社員まで努力や協力の仕方を変える波及に注目します。

そのため、フリーライダーとみられる社員が一人いるだけでは負のピア効果とは限りませんが、その状態を見た周囲まで「自分もそこまで頑張らなくていい」と行動を変えているなら、二つの問題がつながっている可能性があります。

優秀な社員を配置すると負のピア効果が起きますか

優秀な社員がいるだけで負のピア効果が起きるとは言えません。高生産性の同僚によって周囲の努力が高まる正のピア効果も確認される一方、TanとNetessineの研究では、同僚全体の能力が高い領域でさらに能力が上がると本人の販売努力が減る非線形の関係も報告されています。

したがって、能力の高い人を置くかどうかだけでなく、その人の仕事の方法を周囲が学べるか、結果だけを比較されていないか、ほかの社員にも挑戦できる仕事が残されているかを見る必要があります。

負のピア効果はどうやって測れますか

負のピア効果を測るときには、原因と思っている人の成果だけではなく、影響を受ける側の指標を先に決めます。処理量、営業活動、質問、提案、情報共有、肩代わり、ミス報告などについて、異動前後、配置前後、制度変更前後を比較し、さらに影響が疑われる人と頻繁に働く社員とそうでない社員、同じ仕事をする別チームとの差を見ます。

一つの前後比較だけで因果関係を証明することはできませんが、時間、接触、比較対象を重ねることで、「本人の性格」「全社的な繁忙」「特定の同僚との接触に伴う変化」を切り分けやすくなります。

テレワークでもピア効果は起こりますか

テレワークでもピア効果は起こり得ますが、その方向は一律ではありません。欧州9カ国を対象とした研究では、同僚の在宅勤務割合と本人・チームのパフォーマンスに負の関連が報告された一方、日本の完全リモート企業を分析した2026年の研究では、チーム平均勤続期間が長い上位25%のチームで本人の生産性が約12.2%高く、本人の勤続期間が最も短い層では約26.2%高い結果となりました。

そのため、「出社すれば正のピア効果が起きる」「テレワークなら同僚の影響が消える」と単純には考えられません。オンライン環境でも、誰から仕事の方法を学べるのか、質問先が明確か、経験者だけへ支援負担が集中していないかまで確認する必要があります。

負のピア効果を減らすには何から始めればよいですか

最初から研修や配置転換を答えにするのではなく、「いつから」「誰が」「どの行動を」「誰と働くときに」変えたのかを確認するところから始めます。そこへ同じ時期の評価制度、報酬、業務配分、管理職交代などを重ね、さらに同じ変化が起きていない人やチームを比較すると、特定社員の問題なのか、同僚からの波及なのか、制度による共通の変化なのかを判断しやすくなります。

原因が分からない段階で人だけを動かすより、変化の時点、接触関係、制度を整理してから介入した方が、同じ問題が別の場所で繰り返される可能性を抑えやすくなるでしょう。

まとめ

負のピア効果が職場で問題になるのは、一人の社員に望ましくない行動があるからだけではありません。その人の働き方、能力、扱われ方を見た周囲まで、自分の努力、報告、協力の仕方を変えていく可能性があるからです。

手を抜く社員を見た周囲が努力を調整する可能性もあれば、高能力の同僚が多い環境で本人の努力が変わることもあります。競争関係によって同僚評価が歪んだり、仕事のできる人への集中を見た周囲が挑戦を控えたり、報告者への扱いを見て別の社員まで問題を言いにくくなったりすることも考えられます。

ただし、七つの例を同じように受け取るべきではありません。ハラスメントを見聞きした周囲の満足度やストレス、友人と一緒に働く場合の生産性など、職場データから周囲への影響が分析されている現象もあります。一方で、「仕事のできる人への集中を見て周囲が挑戦を控える」といったケースは、自社の行動データや接触関係を確認しなければ判断できません。

だからこそ、具体例へ自分の職場を当てはめて終わるのではなく、いつ変わったのか、誰が変わったのか、誰との接触時に変わるのか、同じ時期に制度が変わっていないか、変化しなかった比較対象はあるかまで確認することが重要です。

管理職が最初に探すべきなのは、「問題のある一人」とは限りません。人と人の関係だけではなく、その間にある評価制度、仕事の配分、管理職の反応まで見ていくことで、個人への注意だけでは解決しにくい構造が見えてきます。

管理職が最初に探すべきなのは、 「問題のある一人」とは限りません。 人と人の関係 評価制度 仕事の配分 管理職の反応 個人への注意だけでは 解決しにくい構造

同僚から影響を受ける力そのものは、なくす必要がありません。高生産性の同僚から良い影響を受ける研究や、経験豊富な同僚のいるリモートチームで生産性が高まる研究もあり、観察、学習、支援が機能する条件を整えれば、同じピア効果が職場を良い方向へ動かすこともあります。

負のピア効果への対策で目指したいのは、周囲の影響を遮断することではなく、「あの人から学びたい」「自分も少し挑戦してみよう」と思える関係をつくりながら、誰か一人の努力や善意だけに職場を依存させない状態を整えることではないでしょうか。

参考資料

外山理沙子ほか 2017年「負のピア効果―クラスメイトの学力が高くなると生徒の学力は下がるのか?―」RIETI

Alexandre Mas and Enrico Moretti 2009 “Peers at Work” American Economic Review UC Berkeley公開論文

Tom Fangyun Tan and Serguei Netessine “When You Work with a Superman, Will You Also Fly?” INSEAD Working Paper

髙橋拓也 2022年「ライバルに対する評価バイアス―360度評価結果を用いた検証」RIETI

リクルートワークス研究所「職場のハラスメントを解析する」JPSED分析報告書2020

Amy Edmondson 1999 “Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams” Harvard DASH

Oriana Bandiera Iwan Barankay Imran Rasul 2010 “Social Incentives in the Workplace” Institute for Fiscal Studies

川太悠史 大湾秀雄 2020年「高年齢労働者との接触が仕事満足度に与えるピア効果」RIETI

Tanja van der Lippe and Zoltán Lippényi 2020 “Co-workers working from home and individual and team performance” Utrecht University

Hideaki Ishikura 2026 “Experienced teammates increase productivity in remote work” PLOS ONE

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