はじめに
ファイナンシャルプランナー(FP)として、知識や技術がどれほど優れていても、クライアントの信頼を得ることができなければ、その仕事は成功したとは言えません。
多くのクライアントは、財務の専門知識を持っていないため、FPに依頼しますが、最も重要なのは、「この人なら自分の大切なお金について信頼して相談できる」という確信をクライアントに持ってもらうことです。
そのために必要不可欠なスキルの一つが「共感力」です。
共感力とは、相手の感情や考えを正確に理解し、それに寄り添って行動する能力を指します。
FPとして共感力を発揮することは、クライアントが自身の希望や不安を正直に話せる環境を作ることにつながります。
クライアントがどのようなライフプランを思い描いているのか、その背景にある感情や願望を引き出すことができれば、より具体的で有益なアドバイスを提供できるでしょう。
ここで役立つのが、「コーチングスキル」です。
コーチングスキルを用いることで、クライアントが自己認識を深め、問題解決の糸口を自分で見つけられるように導くことができます。
この記事では、FPが共感力を高め、クライアントとの信頼関係を強化するために活用できる3つの具体的なコーチングスキルを紹介します。
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1. クライアントの本音を引き出す「オープンクエスチョン」
クローズドクエスチョンとの違い
オープンクエスチョンは、クライアントの考えや感情を引き出すための効果的な手法です。
クローズドクエスチョン、つまり「はい」か「いいえ」で答えられる質問は、クライアントに自由に話す機会を与えません。
一方で、「どのような目標を持っていますか?」や「どのように感じていますか?」といったオープンクエスチョンは、クライアントが自分の内面に向き合い、考えを整理するきっかけを作ります。
例えば、「老後に不安がありますか?」というクローズドクエスチョンでは、クライアントの具体的な不安が何かは明らかになりません。
しかし、「どのような点で老後が不安ですか?」というオープンクエスチョンなら、クライアントが自身の考えを深く掘り下げる機会を提供でき、より具体的な情報を引き出すことが可能です。
FPとしての役割は、クライアントに単に「質問する」のではなく、彼らが自分自身の問題に向き合えるような質問を投げかけることです。
クライアントの心を開かせるプロセス
オープンクエスチョンを使うことで、クライアントは自分の考えを自由に表現し始めます。
FPが慎重に質問を投げかけると、クライアントは徐々に心を開き、自分が本当に考えていることを話し始めます。
たとえば、将来の家計に対する漠然とした不安を抱えているクライアントが、「どうして今、家計について心配されていますか?」という質問を受けた場合、自分の不安の背景にある具体的な問題に気づくことができます。
彼らは自分の言葉を通じて、「子供の教育費が急増している」「老後の資金が足りないかもしれない」といった具体的な課題を発見し、解決に向けて一歩を踏み出せるのです。
クライアントにとって、このプロセスは非常に安心感をもたらします。
自分の抱える問題が、FPと一緒に解決できるという感覚を持つことで、彼らはより積極的に未来について考え始めるのです。
質問の質が成功を左右する
クライアントが心を開くためには、質問の質が非常に重要です。
適切な質問を投げかけることで、クライアントは自分の中にある答えに気づきます。
たとえば、「どのようなキャリアパスを歩みたいですか?」というオープンクエスチョンは、クライアントに未来の自分をイメージさせます。
このように、クライアントが自分の未来像を描き、行動するための指針を得る手助けをすることが、FPの重要な役割です。
2. クライアントに寄り添う「積極的傾聴」
単なる「聞き手」ではなく「共感者」に
積極的傾聴は、クライアントとの信頼関係を築くための最も重要なスキルの一つです。
ただ相手の話を「聞く」だけではなく、クライアントの言葉の裏に隠れている感情や背景を読み取り、共感を示す姿勢が求められます。
たとえば、クライアントが「老後の生活が不安です」と話すとき、それは単なる財政的な問題だけではなく、将来への不安や孤独感、家族との関係など、複数の感情が交錯していることがあります。
FPとしては、これらの感情を見逃さずに受け止め、適切な反応を返すことで、クライアントに安心感を提供することができます。
クライアントの感情を「受け止める」力
積極的傾聴を実践する際、クライアントが伝えている感情や願望を、しっかりと「受け止める」ことが重要です。
クライアントは、自分の話を理解してもらえたと感じた瞬間に、心の負担が軽くなり、次のステップへ進むためのエネルギーを得ることができます。
たとえば、クライアントが「子供の将来が不安です」と言ったとき、その背景には教育費の負担や、自分が期待している教育の方向性に関する迷いがあるかもしれません。
FPは、このような場合に「どの点が一番気になりますか?」と尋ねることで、クライアントの不安を具体化し、それに対応することができます。
このような対応は、クライアントにとって非常に安心感を与え、信頼関係を強化する要因となります。
言葉の裏にある「非言語的なメッセージ」を読む
積極的傾聴は、言葉だけでなく、非言語的なコミュニケーションにも目を向ける必要があります。
クライアントが言葉に出さなくても、表情やジェスチャー、話し方のトーンなど、さまざまなサインからその感情を読み取ることが求められます。
例えば、クライアントが家計について話しているときに、腕を組んでいたり、視線を避けるような仕草を見せた場合、それは話している内容に対して不安や恐れを感じていることを示唆しているかもしれません。
FPはこうしたサインを見逃さず、適切なフィードバックを返すことで、クライアントが安心して話せる環境を作ることができるのです。
3. クライアントの考えを整理する「リフレクション」
リフレクションで得られる効果
リフレクションを通じて、クライアントは自身の考えが整理され、迷いが少なくなります。
たとえば、クライアントが「老後の生活が不安だ」と話した際、FPが「老後の生活費に不安を感じているのですね」と返すことで、クライアントは自分の不安を明確に認識できます。
このように、FPがクライアントの言葉を反映させることで、彼らは問題を客観視しやすくなり、解決策に向けた意識が高まります。
さらに、リフレクションはクライアントに「自分の話をしっかり理解してもらっている」と感じさせます。
この感覚は、クライアントがFPに対して信頼を寄せる大きな要因となり、今後の相談がスムーズに進む基盤となります。
FPとしては、リフレクションを繰り返し行うことで、クライアントの感情や考えをさらに深く理解できるようになります。
リフレクションを使ったコミュニケーションの深化
リフレクションは一度で終わらせるものではなく、繰り返し行うことで、クライアントとの対話がより深化します。
例えば、クライアントが「家を買う決断ができない」と言った場合、FPは「家を買うことに対して不安があるのですね」とリフレクションします。
それに対してクライアントが「返済が心配です」と答えた場合、再度「返済計画が不安な点ですね」とリフレクションすることで、さらに深い感情や具体的な懸念を引き出すことができます。
リフレクションを繰り返すことで、クライアントは自分の考えを掘り下げ、明確な方向性を見つけやすくなります。
FPとしては、リフレクションを通じてクライアントの意思を尊重しながら、解決策へと導いていくことができるのです。
クライアントとの信頼関係の強化
リフレクションの効果は、単にクライアントの思考を整理するだけではありません。
リフレクションを通じてFPがクライアントの話を真剣に聞いている姿勢を示すことで、彼らは安心感を得ることができます。
クライアントは「自分の話が理解され、価値を持っている」と感じるため、FPとの関係がより深まり、長期的なパートナーシップが築かれやすくなります。
たとえば、クライアントが「家計を見直したい」と話す場合、FPが「家計の管理に不安を感じているのですね」と応じることで、クライアントは自分の不安を認識し、具体的な改善策を求める心の準備が整います。
このように、リフレクションは単なる質問の応答を超えたコミュニケーションのツールであり、FPがクライアントに信頼される存在になるための重要な要素です。
FPとしてリフレクションを活用することで、クライアントの心を開かせ、より深い相談へと発展させることが可能となるのです。
まとめ
コーチングスキルを活用することで、ファイナンシャルプランナーはクライアントとの信頼関係をより強固なものにできます。
オープンクエスチョンを使ってクライアントの本音を引き出し、積極的傾聴でその感情に寄り添い、リフレクションで考えを整理させることで、クライアントは自らの答えを見つけやすくなります。
これらのスキルを駆使することで、FPは単なるアドバイザーではなく、クライアントの人生に寄り添うパートナーとしての役割を果たすことができるでしょう。
これらの技法を身につけることで、クライアントとのコミュニケーションがスムーズになり、質の高いアドバイスが提供できるようになります。
共感力を高め、クライアントと真の信頼関係を築き上げるために、ぜひこれらのコーチングスキルを実践してみてください。